弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人等の負担とする。
         理    由
 上告代理人岩田源七の上告理由は別紙記載のとおりである。
 上告理由第一点は、結局原判決の適法な事実認定を非難するに帰し、採用するこ
とはできない。
 上告理由第二点について。
 さきに本件当事者間に、被上告人の所有にかかる本件土地の使用等に関する和解
契約が成立し、その履行確保のため裁判上の和解調書を作成すべき旨の合意がなさ
れたこと、その際上告人等は、右裁判上の和解の手続につき上告人等を代理すべき
弁護士の選任方を被上告人に委託したので、被上告人は右委託に基き弁護士Dを上
告人等の代理人に選任したこと、同弁護士は、右選任に基き上告人等の代理人とな
り、被上告人を相手方として管轄裁判所に裁判上の和解の申立をなし、よつて前記
和解契約どおりの内容をもつ本件和解調書が作成せられるに至つたこと、以上の各
事実はすべて原判決が適法に確定したところである。しかるに一件記録によれば、
上告人等は、右の如き裁判上の和解をなす意思はなく、もとよりD弁護士にその代
理権を与えた事実もないから、右和解調書は無効である旨主張し、被上告人を被告
として本訴をもつて右和解調書の無効確認を求めたところ、被上告人は右弁護士D
を代理人としてこれに応訴し、同弁護士は、原審口頭弁論の終結に至るまで終始被
上告人のため上告人等と相対抗し、本件訴訟の追行に任じて来た事実が明らかであ
る。以上の事実によれば、D弁護士が本件第一審以来被上告人のために行つた訴訟
行為は、すべて弁護士法二五条一号の規定に違反するものと認めざるを得ない。
 ところで、弁護士が同条の禁止に違反して訴訟行為その他の職務を行つたときは、
同法所定の懲戒に服すべきはもちろんであるが(同法五六条参照)、かかる行為の
訴訟法上の効力については、同法又は訴訟法上直接の規定がないので、同条及び訴
訟法の立法目的に照してこれを定めるの外はない。思うに、弁護士が訴訟手続にお
いて同条違反の行為を行おうとするときは、相手方はこれにつき異議を述べ、裁判
所に対しその行為の排除を求めることができるものと解すべきことはむしろ当然で
あるが、同条違反の訴訟行為であつても、相手方がもし何らの異議を述べなかつた
ときは、訴訟法上完全に効力を生じ、相手方は後日に至り当該行為が弁護士法の禁
止規定に違反することを理由としてその無効を主張することは許されないものと解
するのが相当である。けだし、同条の規定は、弁護士の品位の保持と当事者の利益
の保護とを目的とするところ、その立法目的達成のためには、同条違反の訴訟行為
を無効とすることが必ずしも必要とは解せられないばかりでなく、もしこれを無効
とするときは、当該弁護士を信頼してこれに訴訟行為を委任した当事者をして不測
の損害を被らしめ、かえつて同条の立法目的に背馳し、ひいては訴訟法が弁護士に
よる訴訟代理の制度を定めた法意にも副わない結果を招来するおそれがあるからで
ある。しからば、D弁護士が本件第一、二審において被上告人の訴訟代理人として
なした訴訟行為(これにつき上告人等が第一、二審において異議を述べた形跡は全
く認められない)は、すべて有効と認むべく、所論は右と異る独自の見解を主張す
るものであつて、とうてい採用することはできない。
 以上の中上告理由第一点に関する判断は裁判官全員一致の、同第二点に関する判
断は裁判官藤田八郎を除く他の裁判官一致の意見である。
 上告理由第二点に関する裁判官藤田八郎の意見は次のとおりである。
 原判決の確定するところによれば、本件和解契約は、その条項内容すべて上告人
等と被上告人との間において、直接に決定せられ(一応、各自署名捺印ある私署証
書に作成せられ)、ただ、これを裁判上の和解調書に記載するにつき上告人等の代
理人として弁護士Dが関与したにとどまるのであつて、弁護士Dは、右和解契約の
内容決定について上告人等の代理人として関与した事実のないことはあきらかであ
る。そして、上告人等は右和解調書の作成については、弁護士Dにその代理を委任
したことは、また、原判決の確定するところである。しかるに本訴において、上告
人等は右Dに代理権を授与した事実を争い、これを理由として右和解調書の無効を
主張するのであつて、かくの如き案件において、右Dが被上告人の訴訟代理人とし
て訴訟行為をしたとしても、これをもつて、所論のように民法又は弁護士法に違反
する行為であるとすることはできないものである。弁護士法第二五条第一号は、事
件の内容に触れて「協議を受けて賛助し」又は「依頼を承諾した」場合に関する規
定であつて、本件のごとき場合にはその適用を見ないものと解すべきである。論旨
は理由がない。
 よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決す
る。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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