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平成28年12月7日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成27年(ワ)第7051号不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結日平成28年9月26日
判決
原告株式会社サンワード
同訴訟代理人弁護士下山和也
同岡井将洋
同福井春菜
被告株式会社サンワード
同訴訟代理人弁護士笠原克美
主文
1被告は,洗剤,洗濯活性剤その他の洗濯用品の販売事業に係るウェブペ
ージ,チラシ,ニュースレターその他の広告物に,別紙被告商品等表示目
録記載の表示その他「ハイ・ベック」という文字を含む営業表示を掲載し
てはならない。
2被告は,別紙被告商品等表示目録記載の表示その他「ハイ・ベック」と
いう文字を含む営業表示を付した洗剤,洗濯活性剤その他の洗濯用品を販
売してはならない。
3被告は,別紙被告商品等表示目録記載の表示その他「ハイ・ベック」と
いう文字を含む営業表示を付した洗剤,洗濯活性剤その他の洗濯用品を製
造し又は第三者をして製造させてはならない。
4被告は,被告による洗剤,洗濯活性剤その他の洗濯用品の販売に係るウ
ェブページ,チラシ,ニュースレターその他の広告物から,別紙被告商品
等表示目録記載の表示を抹消せよ。
5被告は,別紙被告商品等表示目録記載の表示を付した洗剤及び洗濯活性
剤から,同表示を抹消せよ。
6被告は,原告に対し,803万4148円及びこれに対する平成28年
4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7原告のその余の請求をいずれも棄却する。
8訴訟費用はこれを5分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負
担とする。
9この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1(1)被告は,ウェブページ,チラシ,ニュースレターその他の広告物に,別紙
被告商品等表示目録記載の表示その他「ハイ・ベック」という文字を含む営業表示
を掲載してはならない。
(2)被告は,ウェブページ,チラシ,ニュースレターその他の広告物に,別紙被
告商品等表示目録記載の表示を掲載してはならない。
2(1)主文第2項と同旨
(2)被告は,別紙被告商品等表示目録記載の表示を付した洗剤,洗濯活性剤その
他の洗濯用品を販売してはならない。
3(1)主文第3項と同旨
(2)被告は,別紙被告商品等表示目録記載の表示を付した洗剤,洗濯活性剤その
他の洗濯用品を第三者をして製造させてはならない。
4被告は,ウェブページ,チラシ,ニュースレターその他の広告物から,別紙
被告商品等表示目録記載の表示を抹消せよ。
5被告は,別紙被告商品等表示目録記載の表示を付した洗剤及び洗濯活性剤を
廃棄せよ。
6被告は,原告に対し,3300万円及びこれに対する平成28年4月1日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,(1)株式会社である被告は,株式会社である原告
に,洗剤,洗濯活性剤その他の洗濯用品(以下「洗剤等」という。)の販売事業
を譲渡したにもかかわらず,不正の競争の目的をもって上記事業と同一の事業を行
っているとして,会社法21条3項に基づき,①別紙被告商品等表示目録記載の表
示(以下,個別には同目録の番号に従って「被告表示1」などといい,これらを
総称して「被告表示」という。)その他「ハイ・ベック」という文字を含む営業
表示(なお,原告の主張に鑑みると,原告は,前記第1の1(1),2(1)及び3(1)
において,「営業表示」という用語を,商品又は営業を表示するもの〔以下「商
品等表示」という。〕の趣旨で用いているものと解される。)をウェブページ,
チラシ,ニュースレターその他の広告物に掲載すること,②被告表示その他「ハ
イ・ベック」という文字を含む営業表示を付した洗剤等を販売すること,及び③被
告表示その他「ハイ・ベック」という文字を含む営業表示を付した洗剤等を製造し
又は第三者をして製造させることの各差止めを求め(前記第1の1(1),2(1)及び
3(1)),(2)別紙原告商品等表示目録記載の各表示(以下,個別には同目録の番
号に従って「原告表示1」などといい,これらを総称して「原告表示」という。)
は,原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されているところ,被告表示1
及び同3ないし同7は原告表示1と類似し,被告表示2は原告表示2と類似すると
して,不正競争防止法(以下「不競法」という。)3条1項に基づき,①被告表
示をウェブページ,チラシ,ニュースレターその他の広告物に掲載すること,②被
告表示を付した洗剤等を販売すること,及び③被告表示を付した洗剤等を第三者を
して製造させることの各差止めを求める(前記第1の1(2),2(2)及び3(2))と
ともに,同条2項に基づき,④ウェブページ,チラシ,ニュースレターその他の広
告物から被告表示を抹消すること,及び⑤被告表示を付した洗剤及び洗濯活性剤の
廃棄を求め(前記第1の4及び5),さらに,(3)不競法4条に基づき,不法行為
(平成26年10月から平成28年3月までの間の上記(2)①ないし③の不正競争
行為)による損害賠償金3300万円(同法5条2項による損害額1億5556万
6197円の一部である3000万円と弁護士費用300万円の合計)及びこれに
対する不法行為後である平成28年4月1日から支払済みまでの民法所定年5分の
割合による遅延損害金の支払を求めた事案である(なお,不競法3条1項に基づく
上記1(2),2(2)及び3(2)の各請求は,それぞれ,会社法21条3項に基づく上
記1(1),2(1)及び3(1)の各請求と,重複する部分につき選択的併合の関係にあ
る。)。
2前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠等により容易に認められる
事実。なお,書証番号は,特記しない限り枝番の記載を省略する。)
(1)当事者
ア原告は,平成19年4月3日に設立された熊本市に本店を有する株式会社で
あり,「洗剤の製造・販売およびその輸出入業」等を目的としている(甲1)。
イ被告は,昭和49年4月10日に設立された東京都日野市に本店を有する株
式会社であり,「家庭用,業務用洗剤の製造および販売」等を目的としている(甲
3)。
(2)被告から原告への事業譲渡
ア被告は,ドライマークが付されたカシミヤやニット等の衣類(以下「ドラ
イマーク衣類」という。)を家庭で洗濯するためのドライクリーニング溶剤配合
の洗剤を開発し,昭和56年1月頃,「ハイ・ソープ」の商品名により販売を開始
した。被告は,昭和60年8月頃,同洗剤の商品名を「ハイ・ベック」に変更し,
それ以降,「ハイ・ベック」シリーズと称して,「ハイ・ベックS」,「ハイ・ベ
ックE」,「ハイ・ベックW」,「ハイ・ベックトリートメントドライ」,「ハ
イ・ベックパーフェクトドライ」などの商品名によりドライクリーニング溶剤配
合の洗剤,仕上剤その他の洗濯用品(以下,これらを総称して「譲渡前被告商品」
という。)の販売事業を営んできた(甲27,28)。
イ原告と被告は,平成19年8月31日,譲渡前被告商品の販売事業を含む被
告の営業全部を原告に譲渡する旨の契約(以下「本件営業譲渡契約」という。ま
た,同契約に係る営業譲渡を「本件営業譲渡」と,同契約に係る契約書〔甲4〕
を「本件営業譲渡契約書」とそれぞれいう。)を締結した(なお,被告の主張中
には,本件営業譲渡契約の成立を争うようにみえる部分もあるが,被告は,平成2
7年5月11日の第1回弁論準備手続期日において「本件営業譲渡契約については
追認する」旨述べ,平成28年7月27日の第11回弁論準備手続期日においても
「本件営業譲渡契約については追認する」旨の主張を「維持する」旨述べており,
本件営業譲渡契約が有効に成立したこと自体は,当事者間に争いがない。)。
本件営業譲渡契約書には,被告は,被告の平成19年9月1日現在における貸借
対照表,財産目録及びその他の財務諸表に基づく被告の営業全部を営業譲渡実行日
に原告に譲渡し,原告はこれを譲受すること(第1条),上記営業譲渡実行日は,
平成19年9月1日とし,本件営業譲渡契約により譲渡する営業内容及び対価は,
別紙営業譲渡目録のとおりとすること(第2条)などが定められている(甲4)。
ウ原告は,本件営業譲渡を受けた後,自己の商品として,別紙原告商品一覧記
載の商品名及びパッケージによりドライマーク衣類を家庭で洗濯するための洗剤等
(以下,これらを総称して「原告商品」という。)を販売している。
(3)被告の行為
被告は,本件営業譲渡から6年が経過した後,化粧品原料を主成分としたドライ
マーク衣類を家庭で洗濯するための洗剤等を開発したなどとして,「ハイ・ベック
S(スペシャル)」,「ハイ・ベックE(エマルジョン)」,「ハイ・ベック洗剤
の素」,「ハイ・ベックドライS」,「ハイ・ベックドライE」などの商品名によ
り同洗剤等を販売するようになり,その後,上記各商品の詰替用商品の販売も開始
した(甲17ないし19,弁論の全趣旨。なお,販売開始の具体的な時期について
は,争いがある。)。
別紙被告商品目録記載の各商品(以下,これらを総称して「被告商品」とい
う。)は,上述した各商品をまとめたものである。
3争点
(1)会社法21条3項に基づく請求が認められるか(争点1)
ア本件営業譲渡契約は有効に解除されたか(争点1-ア)
イ被告に「不正の競争の目的」が認められるか(争点1-イ)
ウ原告に差止請求権が認められるか(争点1-ウ)
(2)不正競争防止法に基づく請求が認められるか(争点2)
ア原告表示は原告の商品等表示として周知か(争点2-ア)
イ被告表示は原告表示と類似し,混同を生ずるか(争点2-イ)
ウ原告に差止等請求権が認められるか(争点2-ウ)
(3)原告の損害及びその額(争点3)
第3争点に対する当事者の主張
1争点1(会社法21条3項に基づく請求が認められるか)について
(1)本件営業譲渡契約は有効に解除されたか(争点1-ア)について
【被告の主張】
ア本件営業譲渡契約において,被告の平成19年8月31日現在のさわやか信
用金庫に対する3口分(うち1口分は,株式会社トーヨー〔以下「トーヨー」と
いう。〕の借入名義)及び三菱東京UFJ銀行に対する2口分の合計8307万
3476円の負債(以下,これらを総称して「本件金融負債」という。)は,営
業譲渡の対象から除外されておらず,原告は,被告との関係では,本件金融負債を
引き受けたものである。それゆえ,本件金融負債は,本件営業譲渡契約の締結直後
から,原告の資金負担により弁済されていた。具体的には,本件金融負債の弁済資
金は,原告及び被告の経理・税務処理を担当していた原告代表者の母であるAⅰに
より,原告においては,原告と被告との間で締結された平成20年3月1日付け,
平成21年3月1日付け及び平成22年3月1日付け各コンサルタント業務契約
(以下,これらを総称して「本件コンサルタント業務契約」といい,同契約に係
る3通の契約書〔乙20の1,21の1,22の1〕を個別にはその締結日によ
り「平成20年3月1日付本件コンサルタント業務契約」などといい,これらを
総称して「本件コンサルタント業務契約書」という。)に基づく顧問料(以下
「本件コンサルタント料」という。)の支払として,被告においては,雑収入と
して,それぞれ経理処理されていた。
ところが,被告代表者Aⅱが,原告に対し,被告には,譲渡前被告商品に類する
新規商品を開発・提案し,譲渡前被告商品の販売事業に復帰する計画があることを
打ち明けたところ,原告は,本件コンサルタント業務契約に抵触・違反すると主張
して,平成23年12月21日付け内容証明郵便により,被告に対し,本件コンサ
ルタント業務契約を解除する旨通知し(乙23),本件コンサルタント料の支払を
停止した。
被告は,平成24年3月23日に原告に到達した内容証明郵便により,原告によ
る本件コンサルタント料の不払は,実質的に本件金融負債の支払停止を意味するか
ら,本件営業譲渡契約の重大な債務不履行になるとして,原告に対し,同契約を解
除する旨の通知をした(乙26)。
したがって,本件営業譲渡契約は,有効に解除されたものであって,原告の会社
法21条3項に基づく請求は,その前提を欠き,理由がない。
イ原告は,本件金融負債は,平成19年9月25日付け覚書(以下「本件覚
書」という。乙9)により,本件営業譲渡契約の対象から除外された旨主張する。
しかし,本件覚書は,被告代表者Aⅱの意思に基づくことなく,Aⅰが作成(偽
造)したものであり,本件コンサルタント業務契約も,上記アのとおり,あくまで
も経理・税務処理の便法として,Aⅰが作出したものにすぎない。このことは,原
告の被告に対する本件金融負債の返済資金の支払が本件コンサルタント業務契約締
結前から開始されていたことや,本件コンサルタント業務契約の終了後である平成
23年12月末まで続けられていたことからも,明らかである。
【原告の主張】
被告の主張は,否認し又は争う。
本件金融負債は,真正に成立した本件覚書(乙9)によって本件営業譲渡契約の
対象から除外されており,原告が負担すべき債務ではないから,被告の解除は,そ
の前提を欠くものであって,効力を有しない。
なお,本件覚書が真正に成立したことについては,熊本地方裁判所平成24年
(ワ)第430号事件及び福岡高等裁判所平成25年(ネ)第998号・平成26
年(ネ)第293号事件(以下,第一,二審を通じ,「別件訴訟」という。)に
おいて審理判断されており,これを再び争うことは,実質的に別件訴訟の蒸し返し
であって,訴訟上の信義則に反し,許されない。
(2)被告に「不正の競争の目的」が認められるか(争点1-イ)について
【原告の主張】
本件営業譲渡は,会社法467条の事業譲渡に該当するところ,譲渡会社である
被告は,譲受会社である原告が行っている譲渡の対象となった事業と同一の事業を
行っている。
会社法21条3項は,不正の競争の目的をもって同一の事業を行うことを禁止し
ているところ,「不正の競争の目的」とは,譲渡会社が譲受人の事業に係る顧客を
奪おうとするなど,事業譲渡の趣旨に反する目的で同一の事業をするような場合を
意味する。会社法は,不競法と異なり,一般人をして誤信させることを要件として
いないから,譲渡会社が譲受会社の事業に重大な影響を及ぼすことを知りながらあ
えて同一の事業を行っていると認められれば足りる。
被告は,原告が,本件営業譲渡後,現在まで使用し続けてきた「ハイ・ベック」
という文字を含む営業表示について,原告による使用の事実を十分に認識しつつ,
これを利用して,平成26年10月以降,原告商品と並び得る「新製品」として,
被告商品を販売しており,原告の顧客を奪う意図を有することが明らかである。ま
た,被告が原告の重要な取引先であるジュピターショップチャンネルに対して営業
妨害行為に及んでいることや,被告代表者Aⅱの親族名義で原告商品に関連する商
標権を取得していることなどに鑑みれば,被告が原告の事業に重大な影響を及ぼす
ことを知りながらあえて上記販売行為に及んでいることも明らかである。
したがって,被告は,「不正の競争の目的」で原告と同一の事業を行っているも
のというべきである。
【被告の主張】
原告の主張は,否認し又は争う。
被告が行っているのは,被告の関係者が有する登録商標を使用した商品を販売す
るという合法的な事業であり,「ハイ・ベック」という文字を含む営業表示の使用
を根拠として,「不正の競争の目的」を肯定することはできない。また,被告の事
業目的は,広く一般消費者に有益な洗剤を提供しようとするものであって,狭く原
告の顧客を奪おうとするものではない。被告がジュピターショップチャンネルに指
摘したのは,原告による原告商品の宣伝が一般消費者に誤った情報や知識をもたら
す不当性にすぎず,かかる指摘は,営業妨害行為に当たらない。
(3)原告に差止請求権が認められるか(争点1-ウ)について
【原告の主張】
会社法21条3項は,譲渡会社という地位ないし譲渡会社と譲受会社との関係に
着目し,譲渡会社が自ら譲渡した事業について譲受会社の利益を不正に害してはな
らないことを定めるものである。すなわち,事業譲渡は,暖簾を利用して事業を承
継させることを目的とするから,譲渡会社は,譲受会社に対し,事業に属する各種
の財産を移転し,客観的意義の事業の中核となる得意先・仕入れ関係・経営のノウ
ハウなどの事実関係をそのまま継続させるようにしなければならないのはもちろん,
事業譲渡後も,同一の事業を行って従前の得意先を奪うなど譲受会社の暖簾の利用
を妨害してはならないというべきである。そして,このような事業譲渡の目的を達
成するため,会社法21条は,譲渡会社に対し,個々の商品等表示を問わず,広く
同一の事業の競業を禁止している。
このような立法趣旨からすれば,本件において,会社法21条3項により禁止さ
れるのは,洗剤等の販売事業である。
そうとすれば,洗剤等の販売事業における商品等表示である以上,被告表示のみ
ならず,広く「『ハイ・ベック』という文字を含む営業表示」の使用の差止めが認
められるというべきである。
【被告の主張】
原告の主張は,争う。
2争点2(不正競争防止法に基づく請求が認められるか)について
(1)原告表示は原告の商品等表示として周知か(争点2-ア)について
【原告の主張】
ア原告は,原告表示を洗剤等の販売,広告その他の営業活動に使用し,原告商
品に付して販売しているから,原告表示は,原告の商品等表示に該当する。
イ原告表示は,遅くとも,被告が被告表示を洗剤等の販売,広告その他の営業
活動に使用し,被告商品に付して販売し始めた平成26年10月頃には,ドライマ
ーク衣類を家庭で洗濯する一般消費者の間で,原告の営業又は商品を表示するもの
として周知となっていた。
原告は,現在,原告表示を付した洗剤等を20種類以上販売しており,その年間
売上数は,東日本大震災のあった平成23年度を除いて,増大し続けており,平成
25年度における売上額は4億円に迫るものであった。また,原告商品を取り扱う
加盟店及び販売代理店(以下,これらの区別が必要ない場合は単に「販売代理店
等」という。)は,原告設立以降現在まで約320店舗あり,各販売代理店等を
通じて,原告商品は多数販売されている。
したがって,原告表示は,原告の営業又は商品を表示するものとして,需要者の
間に広く知られているといえる。
【被告の主張】
原告の主張は,否認し又は争う。
原告は,商品等表示として,「ハイ・ベック」との文字を単独では使用しておら
ず,原告表示は,原告の商品等表示とはいえない。
また,原告表示の周知性の有無の判断に際しては,本件営業譲渡前(同表示が被
告の商品等表示であった際)の周知性を考慮すべきでない。
(2)被告表示は原告表示と類似し,混同を生ずるか(争点2-イ)について
【原告の主張】
ア(ア)原告表示と被告表示の類否は,表示の要部(識別性を有する部分)を認定
し,要部を対比して判断されるべきであるところ,以下のとおり,被告表示1及び
同3ないし同7は原告表示1と類似し,被告表示2は原告表示2と類似する。
(イ)原告表示1と被告表示1は,全く同じ表示であり,両者の類似性は明らかで
ある。
(ウ)原告表示2と被告表示2は,色が異なること以外は,文字及びゴシック様の
太字の字体がほぼ一致するものであり,両者の類似性は明らかである。
(エ)原告表示1と被告表示3ないし同7は,次のとおり,類似性がある。
原告表示1の要部は「ハイ・ベック」であり,被告表示3ないし同7は,原告表
示1と同一の「ハイ・ベック」という文字列に,それぞれ,「S」,「E」,「ド
ライS」,「ドライE」,「洗剤の素」との文字列を付加したものであるところ,
これら付加された文字列は,被告商品と他の商品とを識別させる部分ではないから,
被告表示3ないし同7の要部は,「ハイ・ベック」という文字部分である。
需要者は,「いつも使っているハイベック」などとして,被告表示のうち,「ハ
イ・ベック」という部分で識別しているほか,被告もその広告において「ハイ・ベ
ックのあゆみ」と表記しており,「ハイ・ベック」が被告表示の要部であることを
示しているものといえる。
したがって,被告表示3ないし同7は,「ハイ・ベック」という文字列に別の文
字列が付加されているとしても,同各表示の要部は,原告表示1の要部は一致する
から,原告表示1と被告表示3ないし同7は,類似性がある。
イ原告表示が付された原告商品も,被告表示が付された被告商品も,ドライマ
ーク衣類を家庭で洗濯するための洗剤等であり,その需要者は共通する。
また,インターネット上のアマゾンや楽天市場などのサイトにおいて,「ハイベ
ック」と入力して検索すると,原告商品と被告商品が入り混じって表示され,ウェ
ブサイト上の購入者のレビューをみても,原告商品と被告商品が同一の営業主体の
商品であると誤認して購入したと思われる記載などもみられる。
さらに,被告は,原告にその営業を譲渡したにもかかわらず,被告の広告に「1
985年ハイ・ベック創業」,「歴史ある信頼と実績」などと掲載している上,被
告商品にも「サンワード」という法人名を記載しており,原告と住所は異なるもの
の,商品名と法人名が全く同一であれば,需要者において,原告商品と被告商品が
同一の営業主体から販売され,あるいは,同一の出所を有しているとの誤認を生じ
させることは明らかである。
【被告の主張】
ア原告の主張は,否認し又は争う。
イ需要者は,単に「ハイ・ベック」という文字部分のみによって出所を識別す
るのではなく,「ハイ・ベックドライ」や「ハイ・ベックゼロ」などの文字の組合
せ全体と商品の容器に係る意匠を併せみることにより,出所を判別しており,原告
商品と被告商品との混同は生じない。
また,被告商品は,植物系化粧品を原料とする洗剤等であり,石油系界面活性剤
を原料とする原告商品とは全く異なることから,被告は,これを「新商品」と表示
しているのであり,同表示は,むしろ原告商品と被告商品の混同を避けるための表
示である。
(3)原告に差止等請求権が認められるか(争点2-ウ)について
【原告の主張】
被告は,原告の商品等表示である原告表示と類似する被告表示を使用し,商品・
営業の出所を混同させるという不正競争行為により,原告のシェアを奪い,原告に
営業上重大な損害を与えているから,原告は,被告に対し,不正競争防止法3条1
項に基づき被告表示の使用の差止めを求め,同条2項に基づき被告表示の抹消及び
被告表示の付された洗剤等の廃棄を求めることができる。
なお,被告は,原告が商標登録を受けていない表示については,不競法に基づく
差止請求が許されない旨主張するようであるが,不競法は,商標法とは異なり,不
正競争に該当する行為を規制することにより広く知的財産の保護を図ろうとするも
のであるから,被告の上記主張は理由がない。
【被告の主張】
原告の主張は,争う。
原告商品の商品名とされる「ハイ・ベックゼロ」,「ハイ・ベックドライ」など
は,別個独立に商標登録が可能なものであり,原告が「ハイ・ベック」という商標
について登録出願中であるからといって,被告による「ハイ・ベック」との文字を
含む表示の全ての使用を原告が排他独占的に否定することは許されない。
また,被告は,「ハイ・ベックドライ」,「トリートメントドライ」との登録商
標を合法的に有しており,これらの登録が取り消されるものではないし,「ハイ・
ベックSスペシャル」,「ハイ・ベックEエマルジョン」,「ハイ・ベックドライ
Sスペシャル」,「ハイ・ベックドライEエマルジョン」についても商標登録出願
中である。
要するに,原告が被告表示中の「ハイ・ベック」との文字部分だけを独立させて,
原告表示と類似する旨の主張をしたいのであれば,その点は,商標登録の場面にお
いて争うべきであり,原告の不競法に基づく権利行使は許されない。
3争点3(原告の損害及びその額)について
【原告の主張】
(1)原告商品の販売数量に基づく推計
ア被告の販売数量
原告は,被告による不正競争行為がされた平成26年9月ないし10月頃まで,
販売代理店等であるトーヨー,株式会社グッドライフ(以下「グッドライフ」と
いう。),株式会社東北ハイベック(以下「東北ハイベック」という。),洋装
のにしざわ(以下「にしざわ」という。)の4名に対し,原告商品を販売してい
た。被告商品に対応する原告商品の上記4名に対する販売実績は,別紙「四社合計」
に記載のとおりである(被告商品を同別紙中の<<小滝商品>>の欄に,これに対応す
る原告商品を同別紙中の<<熊本商品>>の欄に記載した。)。
原告は,上記4名に対して原告商品を販売していたが,被告による被告商品の販
売行為等により,上記4名に対する原告商品の販売が打ち切られ,上記4名におけ
る取扱商品は,原告商品から被告商品へと切り替えられた。上記4名は,それぞれ
顧客名簿を有しており,原告商品が被告商品に切り替えられれば,従前原告が上記
4名に販売していた数量とほぼ同じ数量を被告が上記4名に販売することになるは
ずである。
そこで,原告の上記4名に対する従前の販売数量から,被告の上記4名に対する
販売数量を推計すると,被告商品の平成26年10月から平成28年3月までの約
1年半の間の販売数量は,次のとおりとなる。
①ハイ・ベックS(詰替用含む)1万3875個
②ハイ・ベックE(詰替用含む)4020個
③ハイ・ベック洗剤の素1386個
④ハイ・ベックドライS1万2012個
⑤ハイ・ベックドライS詰替用2万2722個
⑥ハイ・ベックドライE5310個
⑦ハイ・ベックドライE詰替用4932個
合計6万4257個
イ被告による侵害品の販売による単位数量当たりの利益
被告商品1個当たりの価額は,6000円のものと3685円のものの2種類が
あるので,各売上数の平均をとって単位数量当たりの販売価額を4842.5円と
する。そして,被告の利益率が50%程度と推定されるので,被告商品の1個当た
りの被告の利益額は,2421円(小数点以下切捨て)となる。
ウ被告の不正競争行為による損害額
以上より,被告商品の販売数量に被告商品の1個当たりの利益額を乗じると,被
告が得た利益額は,1億5556万6197円となる。
そうすると,平成26年10月から平成28年3月までに原告が受けた損害は,
1億5556万6197円と推定される(不競法5条2項)。
なお,上記金額は,原告商品から被告商品へ切り替えたことが明白な前記4名に
に対する販売数量を見積もって推計したものであるところ,被告は,実際には,前
記4名以外の原告の販売代理店等に対する販売も行っていると考えられるから,仮
に,被告の利益率が50%より低いとしても,被告の得た利益が3000万円を下
ることはない。
エ小括
以上から,原告は,被告に対し,不競法5条2項による損害額(逸失利益)1億
5556万6197円の一部である3000万円に弁護士費用300万円を加えた
損害賠償金合計3300万円及びこれに対する不正競争行為の後である平成28年
4月1日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求め
ることができる。
オ被告の主張に対する反論
被告は,有限会社ハートフル(以下「ハートフル」という。),グッドライフ
及びAⅲの3名に対する売上しか開示しないが,被告がトーヨー,東北ハイベック,
にしざわに対しても被告商品を販売していることは,明らかである。また,被告の
売上数が最も多くなっているハートフルに対する販売単価は,極めて低額となって
いるが,ハートフルの代表者は,被告代表者Aⅱの息子である小滝哲也であって,
被告と親族関係にあるために低額となっているハートフルの単価を損害算出の根拠
とすることはできない。
(2)被告の開示等に基づく推計
仮に,上記(1)の推計が認められないとしても,被告の開示等に基づき推計する
と以下のとおりとなる。
ア販売単価
被告商品のうち,被告が販売単価を開示した「ハイ・ベックS(2600円)」,
「ハイ・ベックドライS(2200円)」,「ハイ・ベックドライS詰替用(19
80円)」,「ハイ・ベックドライE(2000円)」については,開示に係る単
価とし(ただし,前記(1)で指摘したとおり,ハートフルに対する販売単価は,特
に低額となっているため,前提としない。),その余の被告商品については,販売
代理店等から一般消費者に対する販売金額に基づいて推計すると,被告商品の販売
単価は,次のとおりとなる。
①ハイ・ベックS2600円(被告開示)
②ハイ・ベックS詰替用2340円(推計)
③ハイ・ベックE2600円(推計)
④ハイ・ベックE詰替用2340円(推計)
⑤ハイ・ベック洗剤の素2600円(推計)
⑥ハイ・ベック洗剤の素詰替用2340円(推計)
⑦ハイ・ベックドライS2200円(被告開示)
⑧ハイ・ベックドライS詰替用1980円(被告開示)
⑨ハイ・ベックドライE2000円(被告開示)
⑩ハイ・ベックドライE詰替用1799円(推計)
イ利益率
前記(1)のとおり,被告は被告商品の販売により販売額の50パーセント以上の
利益を上げている。
被告商品の単位数量当たりの利益額は,被告商品の各販売価額に利益率50パー
セントを乗じた金額であり,別表1の「商品1個あたりの利益額」の欄に記載のと
おりとなる。
なお,仮に,被告が主張する20パーセントという利益率に基づいて,被告商品
の単位数量当たりの利益を算出すると,別表2の「商品1個当たりの利益額」の欄
に記載のとおりとなる。
ウ販売数量
被告が開示したハートフル,グッドライフ,Aⅲに対する販売数量については,
開示された数量を基に損害額を算出する。被告の上記3名に対する各販売数量は,
別表1ないし別表2の「各社(者)に対する被告販売数量」の欄に記載のとおりで
ある。
一方,被告が開示した売上にはトーヨーに対する販売数量が一切含まれていない
が,トーヨーは,平成26年9月頃まで原告から商品を仕入れた上で一般消費者に
原告商品を販売しており,同年10月以降,原告からの仕入れを中止し,その頃か
ら被告商品を取り扱うようになっている。そして,トーヨーは,従前の原告商品の
販売と同様に,被告商品をインターネット上で広く一般消費者に販売するほか,ト
ーヨーの販売代理店に対して販売していたもので,このようなトーヨーの販売態様
からすれば,被告のトーヨーに対する被告商品の販売数量は,原告のトーヨーに対
する従前の原告商品の原告販売数量と同程度であったと推認されるべきである。原
告のトーヨーに対する平成23年度から平成26年度までの原告商品の販売実数は,
別表3のとおりであり,各月の原告商品販売数量の実数平均を算出すると,別表3
の実数平均の欄に記載のとおりとなる。
被告の侵害行為が平成26年10月から平成28年3月までとすると,上記の各
月の実数平均欄をすべて合計したもの(1年間の合計)と10月から3月までの各
月の実数平均欄を合計したもの(半年間の合計)を合算したものが被告の販売数量
となり,別表1ないし2の「各社(者)に対する被告販売数量」の「㈱トーヨーに
対する販売数量」の欄に記載のとおりとなる。
エ不正競争行為による損害額
以上から,被告商品1個当たりの利益額にハートフル,グッドライフ,Aⅲ及び
トーヨーの4名に対する被告商品の販売数量を乗じて,被告の得た利益額の総額を
計算すると,別表1の被告の得た利益額合計欄に記載のとおり,4143万562
5円となる。
なお,仮に,被告の主張する20パーセントという利益率を基に算定するとして
も,別表2の被告の得た利益額合計欄に記載のとおり,1657万4250円とな
る。
オ小括
以上から,原告は,被告に対し,不競法5条2項による損害額(逸失利益)41
43万5625円の一部である3000万円に弁護士費用300万円を加えた損害
賠償金合計3300万円及びこれに対する不正競争行為の後である平成28年4月
1日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるこ
とができる。
【被告の主張】
(1)原告の主張のうち,被告の下記主張に反する部分は否認し又は争う。
(2)原告は,平成26年10月以降,トーヨーに対する原告商品の納品をストッ
プしたことから,被告において新商品をトーヨーに納品する必要があったところ,
新商品の立ち上げには相当日数が必要である上,トーヨーによる販売先や販売数量
も減っており,従前の原告の販売実績に基づいて損害額を計算する原告主張は,妥
当でない。
なお,被告の平成26年10月以降の被告商品の販売先と販売個数は,別紙「被
告(株)サンワード売上集計表」に記載のとおりであり,その利益率は平均20パ
ーセント程度にすぎない。
第4当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が
認められる。
(1)被告の事業
被告は,ドライマーク衣類のためのドライクリーニング溶剤配合の家庭用洗剤を
開発し,昭和60年8月頃から譲渡前被告商品(の一部)を販売するようになった。
そして,譲渡前被告商品の利用者(一般消費者)に向けて「お洗濯講習会」,「お
洗濯教室」などを開いて,譲渡前被告商品を紹介し,また,「ハイ・ベック通信」
や「ハイ・ベックせんたくくらぶ通信」と題するニュースレターを配布しながら,
その事業規模を拡大していった。洗濯教室は,500人規模の大きな会場で行うこ
ともあり,NHKの放送でもたびたび紹介された。
被告は,その創業以来,キイワ産業株式会社(以下「キイワ」という。)に対
し,商品全ての製造を委託し,キイワ産業から納入された商品を販売していた。
(以上につき,甲7,27,28,乙29の1,弁論の全趣旨)
(2)本件営業譲渡契約の締結に至る経緯
被告は,平成8年頃から債務超過の状態に陥っていたことから,昭和63年から
熊本市内において被告の加盟店として営業活動をしていたAⅰが,平成9年頃から
被告の専務取締役に就任して被告の経営に携わり,被告の経理を担当することにな
った。その後,しばらく被告の事業は継続していたものの,平成18年2月には,
被告代表者であるAⅱが2度目となる脳梗塞を発症したことなどもあり,被告の事
業継続は困難となった。そこで,AⅰとAⅱは,被告の事業について協議し,新会
社を設立して同社に被告の営業を譲渡し,譲渡前被告商品に関する事業を再建する
こととした(甲34の14,弁論の全趣旨)。
(3)本件営業譲渡契約の締結及び本件覚書の作成について
上記(2)の協議に基づき,平成19年4月3日,Aⅰの息子を代表者として原告
が設立され,同年8月31日,原告と被告との間で本件営業譲渡契約が締結された。
ただし,同日には,本件営業譲渡契約書は作成されなかった。
Aⅰは,同年9月末頃,Aⅱに対し,本件営業譲渡につき契約書を作成するよう
を求め,本件営業譲渡契約書が取り交わされた。また,そのころ,被告及びAⅱは,
後日の紛争を避けるため,かねてからの合意に基づいて,本件金融負債について,
被告が負担すること,連帯保証人であるAⅱが本件金融負債の債権者と協議し,責
任をもって支払うことを約する旨の本件覚書を作成した。
(以上につき,甲4,32,33,34の14,46,47,乙9,28の2)
(4)本件コンサルタント業務契約の締結
アAⅰは,本件営業譲渡後,被告には代表者であるAⅱ以外の従業員はおらず,
残債務等のために形式的に存続していた被告会社の経理処理のため,Aⅱに依頼さ
れて,本件営業譲渡後も被告の経理処理を担当した。
もともと本件金融負債については,Aⅱが自宅を処分するなどして弁済すること
になっていたものの,当面の間,被告の本件金融負債の返済原資及びAⅱの生活費
等が必要と思われたことから,これらの費用を捻出するため,原告と被告は,平成
20年3月1日,被告が,原告と加盟店とのコミュニケーション等について助言,
指導を行い,これに対して,原告が被告に報酬を支払う旨の本件コンサルタント業
務契約を締結し,同日付け本件コンサルタント業務契約書及び同日付けコンサルタ
ント業務契約に関する覚書を取り交した。
平成20年3月1日付け本件コンサルタント業務契約書第1条には,原告が被告
から譲渡を受けた「ハイベックの製造・販売」事業の加盟店制という特殊販売形態
に鑑み,原告の発展に寄与するため,被告は,原告の加盟店とのコミュニケーショ
ン・相談・連絡についての助言・指導を行うサービスを提供する(本件コンサルタ
ント業務)ものとする旨が記載されていた。また,本件コンサルタント業務契約の
期間は,平成20年4月1日から1年間と定められていたが,その後も,平成21
年3月1日に同趣旨の同日付け本件コンサルタント業務契約書及び同日付けコンサ
ルタント業務契約に関する覚書が取り交わされ,さらに,平成22年3月1日にも
同趣旨の同日付け本件コンサルタント業務契約及び同日付けコンサルタント業務契
約に関する覚書が取り交わされた。特に,原告と被告との間で最後に取り交わされ
た平成22年3月1日付けコンサルタント業務契約に関する覚書第3条においては,
被告が原告の業務(洗剤及び関連製品の製造,既存加盟店との取引,サンワード・
ハイベックを始めとする全ての商標の使用等)に支障をきたす行為を一切してはな
らない旨明記されていた。
(以上につき,甲34の10の1及び2[乙20の1及び2と同じ],甲34の
11の1及び2[乙21の1及び2と同じ],甲34の12の1及び2[乙22の
1及び2と同じ],乙28の2〔9,10,28ないし30頁〕)
イAⅰは,本件コンサルタント業務契約にしたがい,原告から被告に対し,コ
ンサルタント料として定められた金額を振り込む一方,被告の経理担当者として,
被告の口座に入金された金員から本件金融負債など被告の負債の返済処理を行った
ほか,Aⅱ個人の債務の返済処理まで行っていた(乙14ないし19,28の2
〔9,24,25頁〕)。
(5)原告の営業
ア原告は,本件営業譲渡後,それまで被告の製造委託会社であったキイワに対
し,原告商品の製造を委託し,原告表示を容器等に付した原告商品を販売した(乙
28の2〔19頁〕,弁論の全趣旨)。
イ原告は,被告がそれまで行っていた販売代理店等による販売を続け,被告が
行っていた「ハイ・ベック通信」というニュースレターも引き継ぎ,平成20年3
月に原告商品をリニューアルした際に,「ハイ・ベックタイムズ」と名を変え,
現在まで発行している。これらのニュースレターは,年に2回ほど,発行され,販
売代理店等を通じ,多数の一般消費者に愛読され,原告表示が付された冊子やチラ
シの発行部数は,平成25年度においては26万部にのぼる。また,原告は,被告
が継続してきた「ハイ・ベックお洗濯教室」を,本件営業譲渡契約後も引き続き,
1年間に複数回,全国で開催し,平成22年度から平成26年度までの5年間に2
27か所で実施してきた(甲8,9,12,弁論の全趣旨)。
そして,本件営業譲渡前も,「ハイ・ベック」との表示が付された譲渡前被告商
品が,「主婦の友」,「ViVi」等の雑誌や,読売新聞,産経新聞,朝日新聞等
の全国紙及び地方紙,テレビやラジオにおいて広く取り上げられてきていたが,本
件営業譲渡後においても,原告表示が付された原告商品は,雑誌,新聞においてた
びたび掲載され,本件営業譲渡後の平成22年9月7日及び平成23年3月24日
には,ABCテレビで,平成24年2月24日に関西テレビで,平成26年3月1
7日に毎日放送で,それぞれ原告商品が紹介された(甲10,11)。
特に,テレビの通販番組であるジュピターショップチャンネルにおいて,度々原
告商品の紹介があり,大きな売上げを上げてきた。ショップチャンネルでは,1日
に6回,合計6時間放送され,その放送回数は,平成22年4月から平成27年3
月までの5年間で合計64日に及び,時間にして108時間も放送され,平成25
年度4月期や平成26年度3月期には,1日の売上個数が3万個を超えたこともあ
った(甲16,弁論の全趣旨)。
また,もともと被告は,譲渡前被告商品を販売代理店等を通じて販売していたほ
か,インターネット上でも販売しており,平成15年頃には,楽天市場やヤフーシ
ョッピングなどのショップページにおいても販売されていたところ,遅くとも本件
営業譲渡後の平成20年頃には,原告商品のうち「ハイ・ベックトリートメント
ドライ」,「ハイ・ベックコーティングソフト仕上げ剤」,「ハイ・ベックコー
ティングハード仕上げ剤」,「ハイ・ベック洗濯助剤」が次々と上記ショップペー
ジ等インターネット上で販売されるようになり,「ハイ・ベックゼロドライ」及び
「ハイ・ベックゼロドライ仕上げ剤」や同詰替用商品,「ハイ・ベックDX5(ド
ライエックスファイブ)」等については,アマゾンのショップページにおいても販
売が開始され,インターネット上での販売も増加していった。
なお,インターネット上で,平成27年2月から同年3月の時点での洗濯用洗剤
のジャンルで「おしゃれ着」,「洗剤」等を入力して検索すると,「ハイ・ベック
トリートメントドライ」や「ハイ・ベックゼロドライ」などが高順位で表示されて
いる(甲14,15)。そのほか,原告商品は,全国に店舗を展開している東急ハ
ンズの店舗において取り扱われるようになり,全国のドラッグストアでも販売され
た。
(6)本件コンサルタント業務契約の解除
アAⅱは,平成23年2月頃から,本件営業譲渡後,原告商品を製造していた
キイワに対しては,原告との契約を破棄するように求め,原告の販売代理店等に対
しては,Aⅱ又は被告自身が洗剤等の販売事業を始めるなどと吹聴するようになっ
た。そこで,原告の取締役でもあったAⅰは,Aⅱと何度か話し合い,平成23年
12月8日にも話合いの機会をもったが,これ以上,原告と被告のこれまでの関係
を続けていくことはできないと判断し,AⅰとAⅱは,Aⅱないし被告が原告の業
務と抵触する洗剤の販売を独自に行うこと,Aⅰないし原告が本件コンサルタント
業務契約に基づく支払を年内に停止することを確認しあった。
そして,Aⅰから上記報告を受けた原告代表者は,被告の上記行為が,本件コン
サルタント業務契約の解除事由に当たるとして,被告に対し,本件コンサルタント
業務契約を解除する旨の通知(以下,同解除通知を「本件解除通知」という。乙
23)を送付した。(以上につき,乙28の2〔13,14頁〕)
イこれに対し,被告は,平成24年2月12日付けで,原告に対し,本件解除
通知に記載された本件コンサルタント業務契約解除についての説明,証拠の提示を
求めたが,原告からは,何ら返答がなく,被告が本件解除通知を受けた後2か月間,
本件コンサルタント料の支払がないとして,同月22日付け「意匠及び商標の使用
中止を求める通告書」と題する書面(以下「商標等の使用中止を求める通告書」
という。)を,原告に送付した。被告は,商標等の使用中止を求める通告書にお
いて,原告に対し,本件コンサルタント料の支払停止により,原告又は原告代表者
の親族が意匠権を有する意匠及び商標権を有する商標の使用を停止するよう求めた
(乙24)。
ウそこで,原告は,同年3月8日,代理人弁護士を通じ,「通知書」と題する
書面を被告に送付し,本件コンサルタント業務契約は,平成22年3月31日に終
了していること(ただし,平成23年3月31日の誤記と思われる。),仮に本件
コンサルタント業務契約が存続しているとしても,本件解除通知をもって被告の本
件コンサルタント業務契約違反行為に基づき,本件コンサルタント業務契約は解除
された旨通知した(乙25)。
エこれに対し,被告は,代理人弁護士を通じ,原告に対し,平成24年3月2
3日到達の「回答書」と題する書面を送付した。同書面には,本件営業譲渡の対象
に,本件金融負債が含まれていること,本件営業譲渡の対価として,Aⅱの月額報
酬として約85万円を原告が保証することを前提におよそ年額2000万円の原告
から被告に対する支払が約束されたが,経理ないし税務処理上,コンサルタント料
とする旨の本件コンサルタント業務契約が締結されたものであって,同契約締結前
から本件コンサルタント料が支払われていること,本件コンサルタント業務契約の
契約書上は期間満了の1か月前までに翌年度の取り決めをするものと規定されてお
り,実質的には自動更新に近い約定であったもので,本件コンサルタント料の支払
を一方的に打ち切ることは許されないこと,本件コンサルタント料の不払は,実質
的には本件金融債務の支払停止を意味するため,本件営業譲渡契約書第6条(1)
に記載された「義務の履行を怠ったとき」に該当するものであるとして,被告の原
告に対する商標等の使用中止を求める通告書は,原告の上記支払義務の不履行を理
由とする本件営業譲渡契約の破棄(解除)の意思表示を含む被告の正当な要求であ
ること,本件営業譲渡契約の成立とその存続を前提とする原告とキイワ間のハイベ
ックブランド製品を対象とする平成20年2月13日付け製造委託契約書は失効し
たことになる旨記載されていた(乙26)。
(7)被告商品の販売
ア被告は,被告のホームページにおいて,「新しいハイ・ベックは化粧品製造
許可工場にて,化粧品に用いられる原料で作られています。」,「ドライマークの
洗剤を製造している「サンワード」という会社は複数社ございます。当社は創業者
Aⅱが,昭和49年に設立した会社です。」と紹介し,本件営業譲渡前に使用して
いた「ハイ・ベックのあゆみ」とする被告の社歴を紹介する部分では従前使用して
いたものを一部を修正し,「平成26年9月ドライクリーニング溶剤から脱却。
化粧品原料を主成分にした日本で初めての洗剤。復刻版『ハイ・ベックS』,『ハ
イ・ベックドライS』登場」として被告商品を販売することを紹介した。
そして,被告は,平成26年10月頃には,トーヨーに対し,被告商品を販売し,
トーヨーは,同年11月には,インターネット上で「新商品」,「ハイ・ベック
S」,「ハイ・ベックE」,「ハイ・ベック専門店」などと表示して販売するよう
になった。
トーヨーを通じてインターネット上で販売された被告商品を紹介するウェブサイ
トにおいては,被告商品をチェックした人はこんな商品もチェックしていますとし
て,被告商品と関連する商品として,原告商品である「ハイ・ベックゼロドライ」
及び「ハイ・ベックDX5」,被告商品である「ハイ・ベックドライS」が混在し
て掲げられることがあった。また,被告商品に関するウェブサイト上の書き込みで
は,「今までハイベックエースを買っていましたが,新商品になっていました。」,
「いつも使っているハイベックがなくなったので,購入しようと思ったら新しくな
っていてビックリ!」,「ハイベックエースが無くなったので再購入しようと思っ
たら新商品のハイベックSを見て今回,購入しました。」,「ハイベックエースを
愛用しています。・・・今回新商品が出たということで購入してみることにしまし
た」などのコメントが寄せられていた(なお,「ハイ・ベックエース」は,原告商
品であり,「ハイ・ベックS」は,被告が本件営業譲渡後に新たに販売した被告商
品である。)。(以上につき,甲18,19,29,弁論の全趣旨)
イまた,被告が平成27年2月に作成した被告商品を紹介した小冊子(甲51)
には,「私は4年ほど前から電波を通して汚れ落ちを強調した販売に違和感を感じ
ていました。・・・その上我慢できなかったのは,偽装実演や過剰トークだとしか
思えぬ販売方法でした。過剰トークのひとつにハイベックに配合しているドライク
リーニング溶剤についての不安がありました。溶剤分植物系100%と謳っていま
すが普通の牛肉を松阪牛と言って売るのと同等の過剰説明だと感じました(成分分
析結果の資料を同封いたしましたので数値はご覧ください。)。加盟店や販売店様
は一人ひとりのお客様にコツコツと正しいお洗濯方法や,情報を添えて販売してい
るのにテレビ通販が売れるから,もう加盟店や販売店様はどうでもいいと云わんば
かりの熊本サンワード(判決注:本件原告を示すものと思われる。)の営業姿勢に
ついて,多くの加盟店様から何とかならないのかと忠告をいただきました。・・・
こんな時期ではありますが,数年あたためていた新発想の『スキンケア発想』の洗
剤が完成しましたのでご案内させていただきます・・・」などと被告商品を販売す
ることになった経緯や被告商品の説明を紹介している。
ウ被告は,少なくとも原告の販売代理店等であったトーヨー,グッドライフの
ほか,Aⅲ,ハートフルに対して被告商品を販売した(乙33,34,弁論の全趣
旨)。
(8)被告の事業停止
被告は,平成28年3月1日,さわやか信用金庫高幡不動支店及び三菱東京UF
J銀行八王子支店との各当座勘定取引について,それぞれ取引停止処分を受け,現
在,事実上その事業は停止している(乙37,38)。
2争点1(会社法21条3項に基づく請求が認められるか)について
(1)本件営業譲渡契約は有効に解除されたか(争点1-ア)について
ア被告は,本件コンサルタント料の不払が実質的に本件営業譲渡契約の対価の
不払に当たるとして,本件営業譲渡契約の解除を主張しているものと解されるが,
同主張は,本件金融負債が本件営業譲渡契約の対象から除外されていないことを前
提とするところ,本件金融負債が本件覚書により本件営業譲渡契約の対象から除外
されていることは,前記1において認定したとおりである。
この点,被告は,本件覚書が偽造されたものであると主張し,その体裁が本件契
約書と異なることや被告の住所が誤って記載されていることなどを指摘する。
しかし,証拠(乙28の2〔別件訴訟におけるAⅰの尋問調書。特に,7,8,
16,20,21頁参照〕)によれば,本件覚書は,平成19年9月下旬頃,本件
営業譲渡契約とは同時期ではあるが,別の日に作成されたものであり,AⅱとAⅰ
との間で,以前からAⅱが本件金融負債の責任を持つと約束していたものの,Aⅰ
が不安に思ってAⅱに書面化を持ちかけたことにより,作成されたものと認められ,
本件営業譲渡契約と本件覚書の体裁が異なっていても不自然とまではいえない。ま
た,営業譲渡の対象は,譲渡当事者間の合意によって定められるものであるところ,
証拠(乙29の2〔別件訴訟におけるAⅱの尋問調書。特に,35,36頁参照〕)
によれば,Aⅱは,別件訴訟の尋問において,本件営業譲渡後の被告の資産につい
て尋ねられた際,「資産は残っているようなもの何もないと思います。資産的に,
金額的には。ただ,返済,負債があったわけですから,その負債を残してあるんで
す。日野サンワード(判決注:本件被告)の方に,金融負債を。それを支払う窓口
が日野サンワードですから,・・・」と供述したこと,また,「残った製造部門の
負債というのは,さわやか信用金庫と三菱東京UFJ銀行に対する負債だけです
か。」との質問に対し,「そうです。」と明確に述べたことが認められる。そして,
証拠(乙14ないし19,29の1)及び弁論の全趣旨によれば,本件金融負債は,
実際に,本件営業譲渡後も被告名義で弁済され,本件金融負債以外の他の被告の負
債については,本件営業譲渡後は,原告名義で弁済が行われていたこと,Aⅱ自身,
本件金融負債のうち,さわやか信用金庫に対する債務は,被告の運転資金の累積赤
字ではなく,Aⅱの「放漫というか浪費によるもの」であり,三菱東京UFJ銀行
に対する債務は,「洗濯機の製造に手を出して失敗したもの」で,被告の「本業で
ある洗剤事業の不振によるものではありません。」と説明し,本件金融負債とその
余の被告の負債とは,性質が異なることを認めていたことが認められる。以上の事
実関係によれば,原告と被告との間において,その余の被告の負債とは別に,本件
金融負債のみを本件営業譲渡の対象としない旨合意したとみることには,十分な合
理性があるというべきである。そうすると,原告と被告との間では,本件金融負債
については本件営業譲渡により原告に移転させず,被告の負債として残すことに合
意していたものと認められるから,上記合意に符合した本件覚書は,Aⅱの意思に
基づいて作成されたものと認められる。
本件覚書に記載された被告の住所地は,東京都武蔵村山市であって,本店所在地
である東京都日野市と異なっているものの,証拠(乙28の2〔特に,8頁参照〕,
29の1〔Aⅱの陳述書。特に,添付書類(3)参照〕)によれば,東京都武蔵村
山市は,被告が譲渡前被告商品の製造の委託先であり,被告の支店登記がしてあっ
たキイワの住所地であり,被告から販売代理店等に宛てた平成19年8月吉日付け
「新生サンワードの御案内」と題する書面に記載された被告の住所地でもあること
が認められるから,本件覚書の成立の真正を左右するほどの事情ではないというべ
きである。
別件訴訟におけるAⅰの証言には,営業譲渡の対価等の重要な書類について,本
件営業譲渡契約書と同時期に作成したにもかかわらず,本件営業譲渡契約書には記
載されなかったことについて,「思い付かなかった」(乙28の2〔16頁〕)な
どと一見不自然と思われる部分も見受けられるものの,そもそも,本件営業譲渡契
約書に添付された営業譲渡目録には,本件金融負債だけでなく,被告の資産及び負
債についても全く記載されていないのであって,本件営業譲渡日における被告の貸
借対照表(甲34の9。ただし,「営業譲渡分の旧会社貸借対照表平成9年9月1
日」のうち,「平成9年」は「平成19年」の誤記である〔乙28の2(6
頁)〕。)については,本件で争いになった後に,Aⅰによって原告の元にある資
料に基づき作成されたというのであって(乙28の2〔16,17頁〕),資産・
負債の関係についてはそもそも本件営業譲渡時に明確な資料を作成していなかった
ものであったが,原告と被告との間には,本件金融負債だけを別に扱う旨の明確な
合意があったことから,このことをはっきりさせておくために,Aⅰが別途覚書の
作成をAⅱに持ち掛けたとしても(乙28の2〔7頁〕),不自然,不合理とはい
えず,ほかにAⅰの証言の信用性を覆す客観的な証拠も認められない。
したがって,本件覚書が偽造されたものであるとの被告主張は,採用することが
できない(なお,証拠〔甲33〕によれば,本件覚書の真正が主要な争点の一つと
された別件訴訟の控訴審判決(確定判決)において,概ね上記と同様の認定判断が
されたものと認められるところであり,被告の主張は,訴訟上の信義則に照らして
も,許されない。)。
イ被告は,原告から被告への本件コンサルタント料の支払が本件コンサルタン
ト業務契約締結前にもされ,また,同契約の終了後にも支払われていたことから,
本件コンサルタント料は,本件営業譲渡の対価として支払われていたことが明らか
である旨の主張もする。
しかし,証拠(乙20ないし22)及び弁論の全趣旨によれば,本件コンサルタ
ント料の額は,本件金融負債の返済額とは関係なく,毎年,適宜,定められていた
ことが認められるから,原告は,本件コンサルタント料の支払につき,本件金融負
債の弁済についての目途がつくまでの間,被告代表者Aⅱの生活を援助するために,
これを支払っていたとみるのが自然であり,本件営業譲渡の対価として支払われて
いたと認めることは困難である。
ウ以上より,本件営業譲渡契約が有効に解除されたとする被告の主張は,その
前提を欠くものであって,採用することができない。
(2)被告に「不正の競争の目的」が認められるか(争点1-イ)について
ア会社法は,会社が事業の譲渡をした場合の競業の禁止等に関する規定を第1
編第4章に置き,同法21条3項において,同条1項及び2項の規定にかかわらず,
譲渡会社は「不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならない」旨を規定
しているが,同法8条2項のような規定は置かれておらず,同法21条3項に違反
する譲渡会社の行為につき,譲受会社が差止請求権を有することを明文で規定する
ものではない。しかしながら,会社法が新たに立法されるに際し,同法21条3項
は,平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)2
5条3項において,譲渡人は「不正ノ競争ノ目的ヲ以テ同一ノ営業ヲ為スコトヲ得
ズ」と規定していたところを,会社及び外国会社につき,引き継いだものであり
(会社法は,旧商法で用いられていた「営業」という用語ではなく,「事業」とい
う用語を用いているが,これは,用語を整理し,会社が行うべきものの総体を個々
の営業と区別して事業と表記したものにすぎない。),旧商法のもとにおける従来
の解釈に変更を及ぼすものではないと解されるところ,旧商法のもとでは,譲受人
は,同法25条3項に違反する譲渡人の行為につき,差止請求権を有すると解され
ていたところであるから(東京高裁昭和48年10月9日判決・無体例集5巻2号
381頁),会社法21条3項に違反する譲渡会社の行為につき,譲受会社は,同
項に基づく差止請求権を有すると解するのが相当である(なお,同項に基づく差止
請求権を肯定した裁判例として,東京地裁平成27年(ワ)第2617号同28年
11月11日判決がある。)。
ところで,事業譲渡は,譲受会社に譲渡会社の暖簾等を利用して事業を承継させ
ることを目的とするものであるから,譲渡会社が事業譲渡後も同一の事業を行って
当該事業に関する譲受会社の得意先(暖簾を構成する当該事業に関する譲渡会社の
従前の得意先を含む。)を奪うなど,譲受会社による暖簾等の利用を妨害すること
は,事業譲渡の目的に反するものとして許されないというべきところ,会社法21
条3項が,同条1項及び2項の規定にかかわらず,「不正の競争の目的をもって同
一の事業を行ってはならない」としているのは,上記のように,譲受会社の当該事
業に係る顧客を奪おうとするなど,譲受会社の事業に重大な影響を及ぼすことを知
りながらあえて同一の事業を行うなど,事業譲渡の趣旨に反する目的で同一の事業
をすることを禁止する趣旨と解される。
イ前記1の認定事実によれば,本件営業譲渡契約は,平成18年頃から債務超
過にあった被告の事業の全部(当然,譲渡前被告商品など洗剤等に関する事業を含
む。)を譲渡してその事業の維持,再生を図るという趣旨に基づいて原告が設立さ
れた上,原告と被告との間で締結された契約であり,被告は,被告の販売する全商
品の仕入れ・販売に関するすべての有形・無形の権利,すなわち,「被告の取引先
に関するもの,知的所有権に関するもの,什器備品に関するもの,在庫に関するも
の及び情報に関するもの」の全てを原告に譲渡することを内容とするものであった
もので,本件営業譲渡後に,譲渡会社である被告において,譲渡前被告商品など洗
剤等の事業を行うことは,想定されていなかったものと認められる。
しかるに,前記1の認定事実のとおり,被告は,本件営業譲渡後,「ハイ・ベッ
ク」の復刻版,「ハイ・ベックSシリーズ」,「ハイ・ベックドライSシリーズ」
などと称して,譲渡前被告商品や原告商品に代替するところの被告商品の販売を開
始し,洗剤等の販売事業を再開するに至っており,これは,被告が原告に本件営業
譲渡により移転した暖簾に含まれると解される「ハイ・ベック」の文字を含む表示
を付した洗剤等の販売事業と同一の事業というべきであるし,原告の販売方法につ
いて違和感を持っていたことなどを記載した小冊子を加盟店等に配布したり,既に
原告の顧客となっていたトーヨーやグッドライフとの取引も再開したりして,原告
から顧客を奪う活動を開始したものである。
以上からすれば,被告による被告商品の販売事業は,本件営業譲渡の目的に反し,
譲受会社たる原告による暖簾等の利用を妨害するものというべきであって,会社法
21条3項の「不正の競争の目的」によるものと認めるのが相当である。
なお,上記の被告商品の販売開始時期について,被告は,新商品の開発等のため,
平成27年5月7日までは被告商品を販売できなかった旨主張するが,前記認定事
実に加え,証拠(甲17,18,45)及び弁論の全趣旨によれば,トーヨーは,
平成26年10月までに,原告からの原告商品の仕入れを中止し,遅くとも同年1
1月の時点でトーヨーがインターネットを通じて被告商品を販売したことが認めら
れることからすれば,被告が同年10月までに被告商品をトーヨーに販売したこと
は明らかというべきであって,被告の上記主張は採用することができない。
(3)原告に差止請求権が認められるか(争点1-ウ)について
ア以上のとおり,会社法21条3項に違反する譲渡会社の行為につき,譲受会
社は,差止請求権を有すると解されるところ,被告は,不正の競争の目的をもって,
原告に譲渡した事業と同一の事業である被告表示その他「ハイ・ベック」という文
字を含む商品等表示を用いる洗剤等の販売事業を行っているものというべきである。
したがって,原告は,被告に対し,同項に基づき,被告表示その他「ハイ・ベッ
ク」という文字を含む商品等表示を用いる洗剤等の販売事業を営むことの差止めを
求めることができるというべきである。
ところで,原告は,被告が被告表示その他「ハイ・ベック」という文字を含む商
品等表示を用いる洗剤等の販売事業を営むことの差止めではなく,①ウェブページ,
チラシ,ニュースレターその他の広告物に,別紙被告商品等表示目録記載の表示そ
の他「ハイ・ベック」という文字を含む商品等表示を掲載すること,②被告表示そ
の他「ハイ・ベック」という文字を含む商品等表示を付した洗剤等を販売すること,
及び③被告表示その他「ハイ・ベック」という文字を含む商品等表示を付した洗剤
等を製造し又は第三者をして製造させることの差止めを求めているのであるが,上
記①ないし③の行為(ただし,上記①については,洗剤等の販売事業に係るウェブ
ページ,チラシ,ニュースレターその他の広告物に限るべきである。)は,被告が
被告表示その他「ハイ・ベック」という文字を含む商品等表示を用いる洗剤等の販
売事業を営む行為の具体的態様というべきであるから,原告は,同項に基づいて,
これらの行為の差止めを求めることができると解される
なお,前記認定事実によれば,被告は,現在,金融機関から取引停止処分を受け
ていることが認められるが,被告が,繰り返し,本件覚書が偽造であると主張し,
本件営業譲渡契約が有効に解除された旨主張していることを考慮すると,被告は,
なお,原告が原告表示を用いて営んでいる洗剤等の販売事業と同一の事業行うおそ
れがあるというべきであって,差止めの必要性があるというべきである。
イ以上より,原告の会社法21条3項に基づく請求は,主文第1項ないし第3
項のとおり認めるのが相当である。
3争点2(不正競争防止法に基づく請求が認められるか)について
(1)原告表示は原告の商品等表示として周知か(争点2-ア)について
ア商品等表示性について
前記1の認定事実によれば,原告は,本件営業譲渡以降,原告表示を原告商品の
商品名の一部に使用したり,商品名として直接使用しない場合にも,商品名付近に
同表示を付すなど,「ハイ・ベック」シリーズの商品であることを明示して販売し
ていることが認められる。このような原告の販売態様,宣伝態様等を総合すると,
原告表示は,原告商品に付され,あるいは原告の営業に際して使用されているとい
えるから,商品又は営業の出所を表示するものというべきであって,商品等表示に
当たると認められる。
イ周知性について
原告が原告表示を付した原告商品を全国に所在する少なからざる販売代理店に販
売したり,インターネットやテレビによる通信販売を通じて,多数の一般消費者に
販売してきたこと,その他前記1の認定事実からすると,原告表示は,原告の商品
又は営業を表すものとして,需要者(ウールマーク衣料の洗剤等を販売する小売店,
同洗剤等を使用する全国の一般消費者)の間に広く認識されていたといえ,その状
態は現時点においても継続しているものと認められる。
この点,被告は,原告表示が被告の商品等表示であったから,原告の商品等表示
とはいえない旨主張するが,前記1の認定のとおり,原告は,本件営業譲渡契約に
より,被告との関係では,譲渡前被告商品の仕入れ・販売に関する権利を全て正当
に承継したものであって,原告表示についてもこれを当然に使用する権利を承継し
ているものとみるべきである。また,この点を措くとしても,本件営業譲渡後,少
なくとも被告商品の販売が開始された時点において,原告表示は,原告の商品又は
営業を示すものとして広く需要者に認識されていると認めることができるから,被
告の主張は採用することができない。
(2)被告表示は原告表示と類似し,混同を生ずるか(争点2-イ)について
ア原告及び被告がいずれも洗剤等の販売事業をしていること,原告表示が周知
であることは,既に説示したとおりである。
イ被告表示1と被告表示1とは,ほぼ同一の表示であり,少なくとも両者が類
似することは明らかである。
ウ原告表示2と被告表示2とは,色が異なることを除き,ほぼ同一の表示であ
り,両者は,類似している。
エ原告表示1と被告表示3ないし同7について検討する。
まず,被告表示3及び同4については,前記1の認定事実を踏まえると,需要者
が前者のうち「S」の部分,後者のうち「E」の部分に特段注目するとは考えられ
ず,これらの部分に出所識別機能を見いだすことは困難である。そうすると,被告
表示3及び同4については,専ら「ハイ・ベック」の部分に出所識別機能があると
みるべきであるから,同部分を分離抽出して原告表示1と対比することが相当であ
るところ,同部分は原告表示1と同一である。したがって,被告表示3及び同4は,
原告表示1と類似するというべきである。
また,被告表示5及び同6については,前記1の認定事実を踏まえると,需要者
が前者のうち「S」の部分,後者のうち「E」の部分に注目して出所を認識すると
は考えられず,また,両者ともドライマーク衣料に用いる洗剤等に使用されている
ことからすれば,両者のうち「ドライ」の部分,あるいは前者のうち「ドライS」
の部分,後者のうち「ドライE」の部分に注目して出所を認識するとも考えられな
いから,これらの部分に出所識別機能を見いだすことは困難である。そうすると,
被告表示5及び同6についても,専ら「ハイ・ベック」の部分に出所識別機能があ
るとみるべきであるから,同部分を分離抽出して原告表示1と対比することが相当
であるところ,同部分は原告表示1と同一である。したがって,被告表示5及び同
6は,原告表示1と類似するというべきである。
そして,被告表示7については,前記1の認定事実を踏まえると,洗剤活性剤に
使用されていることからして,需要者が同表示のうち「洗剤の素」という部分に注
目して出所を認識するとは考えられないから,この部分に出所識別機能を見いだす
ことは困難である。そうすると,被告表示7についても,専ら「ハイ・ベック」の
部分に出所識別機能があるとみるべきであるから,同部分を分離抽出して原告表示
1と対比することが相当であるところ,同部分は原告表示1と同一である。したが
って,被告表示7は,原告表示1と類似するというべきである。
オ原告と被告は,その商号も同一であること,実際に,原告商品と被告商品は,
「ハイ・ベック」との文字ないし文字部分が共通することで,一般消費者に誤認が
生じていることは,前記1の認定事実のとおりであることからすると,被告の商品
及び営業と,原告の商品及び営業との混同が生じており,また,混同のおそれがあ
るというべきである。
(3)原告に差止等請求権が認められるか(争点2-ウ)について
ア原告は,不競法3条1項に基づき,①被告表示をウェブページ,チラシ,ニ
ュースレターその他の広告物に掲載すること,②被告表示を付した洗剤等を販売す
ること,及び③被告表示を付した洗剤等を第三者をして製造させることの各差止め
を求めているところ(前記第1の1(2),2(2)及び3(2)),上記検討したところ
によれば,上記①及び②(ただし,上記①については,洗剤等の販売事業に係るウ
ェブページ,チラシ,ニュースレターその他の広告物に限るべきである。)は,い
ずれも理由があるが(なお,被告が金融機関から取引停止処分を受けていることに
よって差止めの必要性が否定されものでないことは,前記2で説示したとおりであ
る。),上記③については,同法2条1項1号所定の行為には該当しない(同号に
「製造」は掲げられていない。)から,同法3条1項による差止めは認められない
というべきである。
イ原告は,不競法3条2項に基づき,⑤ウェブページ,チラシ,ニュースレタ
ーその他の広告物から被告表示を抹消すること,及び⑥被告表示を付した洗剤及び
洗濯活性剤の廃棄を求めているのであるが(前記第1の4及び5),上記⑤につい
ては,被告以外の第三者の販売に係る広告物や,被告による洗剤等以外の販売事業
についての広告物についてまで,抹消を求めることはできないというべきであるか
ら,被告による洗剤等の販売に係るウェブページ,チラシ,ニュースレターその他
の広告物に限るべきであり,上記⑤については,被告表示を付した洗剤及び洗濯活
性剤から同表示の抹消を求める限度で理由があり,洗剤及び洗濯活性剤自体の廃棄
を求めることは,原告の営業上の利益の保護としては,過剰であり,その必要性を
肯定することができない。
4争点3(原告の損害及びその額)について
(1)被告による被告商品の販売先について
原告は,トーヨー,グッドライフ,東北ハイベック及びにしざわに原告商品を販
売していたところ,被告商品の販売に伴って,上記4名が原告商品の仕入れを打ち
切り,原告商品から被告商品に切り替えた旨主張する。
しかし,原告商品の東北ハイベックに対する販売実績を示すものとして原告が提
出した証拠(甲50)によれば,原告の主張に係る被告商品の販売開始時である平
成26年10月よりも前に,原告の東北ハイベックに対する販売実績がなくなって
いることが認められ,東北ハイベックが原告商品の替わりに被告商品を販売してい
ると認めるに足りる証拠もない。また,原告のにしざわに対する販売実績を認める
に足りる証拠はなく,にしざわが原告商品の替わりに被告商品を販売していると認
めるに足りる証拠もない。したがって,原告の主張するように,原告が上記2名に
対する原告商品の売上を喪失しているとしても,そのことが,被告の東北ハイベッ
ク及びにしざわに対する被告商品の販売に起因するものとは,認め難い。
他方,被告は,グッドライフ,ハートフル及びAⅲに対して被告商品を販売して
いることを認めている(なお,被告は,上記3名に対する販売実績に関する証拠と
して売上伝票〔乙33〕及び売上集計表〔乙34〕を提出している。)。
また,証拠(甲17,20,21,22)によれば,トーヨーは,被告商品を
「新商品」として販売代理店等に紹介し,注文を受け付けたり,インターネット上
のウェブサイトにて被告商品を販売していることが認められ,これに弁論の全趣旨
を総合すれば,被告がトーヨーに被告商品を販売したことは,優に推認することが
できる(上記売上集計表〔乙34〕は,被告の販売先の一部をまとめたものにすぎ
ないとものというべきである。)。
以上からすると,被告が被告商品を販売していたのは,被告が自認するグッドラ
イフ,ハートフル及びAⅲに,トーヨーを加えた4名であると認めるのが相当であ
る。
(2)被告商品の販売数量及び販売単価について
ア証拠(乙33)によれば,被告商品が販売された平成26年10月から平成
28年3月までの間に,グッドライフ,ハートフル及びAⅲに対する被告商品の販
売数量及び販売単価は,別紙「裁判所の認定額」のグッドライフ,ハートフル及び
Aⅲの欄の販売数量及び販売単価のとおりであることが認められる。
なお,原告は,ハートフル(代表者は,被告代表者Aⅱの息子である。)に対す
る被告の販売単価が他の取引先よりも著しく低いことを指摘するが,取引先に応じ
て販売単価が異なることは,通常の取引でもしばしばみられることに加え,証拠
(甲48,49)によれば,原告のトーヨーに対する販売単価は,グッドライフに
対する販売単価の2分の1程度であることが認められることからすれば,上記認定
に係る被告のハートフルに対する販売単価が不合理であるとまではいえず,他に上
記認定を超える販売数量又は販売単価を認めるべき的確な証拠はない。
イ被告は,被告代表者1名で営業を行っていたため事務処理がおろそかになっ
ており,伝票類(乙33)以外にはな
いとして(被告代表者の陳述書〔乙36〕に同旨の記載がある。),被告のトーヨ
ーに対する販売数量及び販売単価を任意開示していない(なお,原告が平成28年
6月15日付けでした計算書類提出命令の申立ては,被告の上記主張を踏まえ,取
下げられた。)。
しかし,前記の認定事実に加え,証拠(甲17,18,45)及び弁論の全趣旨
によれば,トーヨーは,平成26年9月29日に原告に原告商品の一部を注文した
後は,原告から新たな注文をしておらず,原告商品に代わる「新商品」として被告
商品を販売していたことが認められるから,被告がトーヨーに被告商品を販売して
いたことは明らかであるし,トーヨーは,同年10月以降,原告からの仕入れを中
止し,その頃から被告商品を取り扱うようになったものであって,被告商品を扱う
ようになっても,トーヨーは,原告商品を販売していた当時と同様に,販売代理店
等やインターネットを通じた販売活動をしていたことが認められるから,被告から
トーヨーへの被告商品の販売数量は,反証がない限り,従前の原告からトーヨーへ
の原告商品の販売数量と同程度であったと推認するのが相当である。
ここで,原告のトーヨーに対する平成23年度から平成26年度までの原告商品
の販売数量の実数は,別表3に記載のとおりであり,各月の原告商品販売数量の実
数平均を算出すると別表3の実数平均の欄に記載のとおりとなるから,これを前提
に,被告がトーヨーを通じて被告商品を販売していた平成26年10月から平成2
8年3月までの販売数量を推計すると(上記の各月の実数平均欄をすべて合計した
ものを1年間の合計とし,洗剤等の需要が増える10月から3月までの各月の実数
平均欄を合計したものを半年間の販売数量とする。),販売数量については,以下
のとおりとなる(なお,被告商品に対応する原告商品名は,別紙「裁判所の認定額」
の「被告商品に対応する原告商品名」欄に記載のとおりである。)。
原告商品の商品名原告商品の
1年間の販
売実数平均
原告商品の
10~3月の
販売実数平均
合計
①ハイ・ベックエース2684個1579個4263個
②ハイ・ベックプレミアムド
ライ
2595個1332個3927個
③ハイ・ベックコーティング
ソフトプレミアム
993個476個1469個
④ハイ・ベックコーティング
ハードプレミアム
606個260個866個
⑤ハイ・ベック洗濯助剤プレ
ミアム
561個264個825個
⑥ハイ・ベックゼロ3956個1644個5600個
⑦ハイ・ベックゼロ詰替用7636個3618個11254個
⑧ハイ・ベックゼロ仕上げ剤1836個810個2646個
⑨ハイ・ベックゼロ仕上げ剤
詰替用
1656個786個2442個
また,証拠(甲37,48,49)及び弁論の全趣旨によれば,トーヨー(代表
者は,被告代表者Aⅱの妹の長男である。)は,被告の他の取引先とは異なり,キ
イワと直接取引をすることを認められており,原告自身のトーヨーに対する販売単
価は他の取引先の半分程度としていたことが認められることなどからすると,被告
のトーヨーに対する被告商品の販売単価は,ハートフルに対する販売単価と同程度
であると推認するのが合理的というべきである(原告は,被告の任意開示に係るグ
ッドライフやAⅲに対する販売単価に基づく推計を試みるが,被告とトーヨーとの
関係及び取引経過に照らし,原告の主張をそのまま採用することは困難である。)。
(3)利益率
原告は,被告が被告商品の販売により売上額の50パーセント以上の利益を上げ
た旨主張するが,被告が自認する売上額の20パーセントを超える利益を被告が得
ていたと認めるに足りる的確な証拠はない。
(4)まとめ
ア以上からすると,被告が平成26年10月から平成28年3月までの間に,
被告商品を販売した行為により原告が被った損害額(逸失利益)は,別紙「裁判所
の認定額」に記載のとおり,被告が被告商品の販売により得た利益の額と認められ
る723万4148円であると推定される(不競法5条2項)。
イ本件事案の経過その他本件記録に顕れた事情に鑑みると,被告の不正競争行
為と相当因果関係のある弁護士費用は,80万円とするのが相当である。
ウよって,原告の被告に対する不正競争行為(不法行為)に基づく損害賠償請
求は,803万4148円及びこれに対する不法行為後の日である平成28年4月
1日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限
度で理由があり,その余は理由がないというべきである。
第5結論
以上によれば,原告の請求は,主文第1項ないし第6項の限度で理由があるから
これらを認容し,その余は,いずれも理由がないから棄却することとし,主文のと
おり判決する(なお,仮執行の宣言は,主文第5項及び第6項については申立てが
なく,主文第3項及び第4項については相当でないから,これを付さないこととす
る。)。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
嶋末和秀
裁判官
鈴木千帆
裁判官
天野研司
(別紙)
被告商品等表示目録

ハイ・ベック


ハイ・ベックS

ハイ・ベックE

ハイ・ベックドライS

ハイ・ベックドライE

ハイ・ベック洗剤の素
(別紙)
原告商品等表示目録
商品表示1
ハイ・ベック
商品表示2

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