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平成30年4月19日判決言渡
平成26年(行ウ)第649号所得税更正処分等取消請求事件
主文
1処分行政庁が原告の平成21年分の所得税について平成25年3月1
1日付けでした更正のうち総所得金額2億8672万8691円及び納5
付すべき税額1億0264万8000円を超える部分並びに過少申告加
算税賦課決定のうち162万4500円を超える部分を取り消す。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを20分し,その9を原告の負担とし,その余を被
告の負担とする。10
事実及び理由
第1請求
処分行政庁が原告の平成21年分の所得税について平成25年3月11日付け
でした更正のうち総所得金額2億5932万7909円及び納付すべき税額91
81万2600円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定を取り消す。15
第2事案の概要
本件は,農業等を営んでいた原告が,E農業協同組合(以下「E農協」という。)
に対する借入金債務について債務免除(以下「本件債務免除」という。)を受け,
その債務免除益(以下「本件債務免除益」という。)を一時所得として,平成2
1年分の所得税の修正申告をしたところ,処分行政庁から,本件債務免除益は,20
借入金の目的に応じて事業所得,不動産所得及び一時所得に該当するとして更正
(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦
課決定処分」といい,本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)を受
けたため,処分行政庁が属する国を被告として,本件更正処分のうち総所得金額
2億5932万7909円及び納付すべき税額9181万2600円を超える部25
分並びに本件賦課決定処分の取消しを求める事案である。
1関係法令等の定め
本件に関係する法令等の定めは,別紙2「関係法令等の定め」記載のとおり
である。
2前提事実
(1)当事者等5
ア原告は,米麦の作付けを中心とした農業や不動産賃貸業を営むほか,農
産食料品の販売等を目的とするF株式会社(昭和59年11月16日に原
告が設立。)の代表取締役,農業用畜舎の設計施工及び管理等を目的とす
る株式会社G(昭和60年5月23日設立。現在の商号はH株式会社。)
の取締役等を務めるなどしてきた者である。(乙7~乙13(枝番号を含10
む。))
なお,原告は,昭和57年7月8日,E農協の正組合員としての資格を
取得した。(乙4)
イE農協は,昭和23年度にI農業協同組合として設立され,昭和36年
度にJ農業協同組合との合併を経た後,平成22年3月1日にK農業協同15
組合(以下「δ農協」という。)と合併するまで存続した農業協同組合で
ある。(乙2)
(2)E農協からの借入れ等
ア原告は,昭和58年3月1日にE農協との間で金銭の借入れに係る取引
を開始し,以後,E農協から継続的に金銭の借入れ等をするようになり,20
原告のE農協に対する借入金債務は,平成11年9月30日時点で6億0
430万8195円(34件)となっていた。
なお,F株式会社及び株式会社Gも赤堀農協から金銭の借入れを行って
おり,同各社のE農協に対する借入金債務は,F株式会社につき5716
万9314円(2件。同年10月29日時点),株式会社Gにつき30625
5万7862円(1件。同年6月18日時点)となっていた。(乙14,
乙15)
イ原告及びF株式会社の赤堀農協に対する借入金債務については,平成1
1年10月29日,債務の借換え及び組替え(以下「本件借換え等」とい
う。)がされ,その結果,原告のE農協に対する借入金債務は,①借入年
月日を平成9年12月12日,借入金額を1100万円とするもの(ただ5
し,本件借換え等の後の残債務は600万2519円。以下「借入金A」
という。),②借入年月日を平成11年10月29日,借入金額を1億7
170万円とするもの(以下「借入金B」という。),③借入年月日を同
日,借入金額を1億4300万円とするもの(以下「借入金C」という。),
④借入年月日を同日,借入金額を2000万円とするもの(以下「借入金10
D」という。)と整理されることになった(以下,借入金Aから借入金D
までを併せて「本件借入金」といい,本件借換え等が行われる前の原告の
E農協に対する債務を「本件旧借入金」という。)。
なお,借入金Bは,別表1「本件旧借入金一覧」(以下「旧借入金一覧」
という。)のうち「延滞元金」及び「延滞利息及び遅延損害金」に係る債15
務の借換えを目的としたもの,借入金Cは,旧借入金一覧のうち「担保区
分」欄が「不動産担保(根抵当)」とされているものにつき,その「約定
残高(期日未到来元本)」及び「未収約定利息」に係る債務の組替えを目
的としたもの,借入金Dは,原告のE農協に対する購買未収金を返済する
ための借入れを目的としたものである。(乙18~乙23,乙94,乙120
25)
ウ本件債務免除等
(ア)E農協は,平成20年12月24日にL弁護士に対し,原告,F株
式会社及び株式会社G(以下「原告外2社」という。)に対する債権の
回収を委任したほか,M弁護士及びN弁護士(以下L弁護士及びM弁護25
士と併せて「L弁護士ら」という。)にも同様の委任をした(甲8,乙
42,乙43)。
(イ)L弁護士らは,平成21年2月17日付けで,原告外2社が一括し
てE農協に1億3000万円を弁済することを条件として,E農協が抵
当権者となっている抵当権を原告外2社が指定する金融機関に譲渡する
とともに,原告外2社に対する「残債権の一切を免除することに異存あ5
りません」などと記載した通知書を送付した。(乙42,乙43)
(ウ)原告外2社は,平成21年3月27日,E農協に対して,弁済金と
して一括して1億3000万円(内訳は,原告分が4300万円,F株
式会社分が5700万円,株式会社G分が3000万円である。)を支
払い(以下,この支払に係る金銭を「本件弁済金」という。),E農協10
は,同月30日付けで原告外2社に対して,「証書貸付金の残債務につ
いて,一切を放棄致します」と記載した通知書を送付した。(甲8,乙
44~乙49)
(エ)なお,上記(ウ)の弁済前の時点における原告のE農協に対する債務
の額は,別表2「平成21年3月27日の本件弁済金の支払前の時点に15
おける原告の債務の額」記載のとおりであり,本件弁済金は,別表3「原
告の債務への充当額の本件借入金ごとの内訳」記載のとおり充当された。
⑶本件訴え提起に至る経緯
ア処分行政庁は,本件債務免除益の額は,上記(2)ウ(エ)の原告のE農協に
対する債務の総額4億7410万8897円から同(ウ)の原告の債務に係20
る弁済額である4300万円を控除した4億3110万8897円である
とした上で,平成24年11月,原告に対して,平成21年分の所得税の
修正申告のしょうようをした。
イ原告は,平成25年2月13日,本件債務免除益の全額を一時所得とし
て計算し,別表4「所得税の課税処分等の経緯」(以下「別表4」という。)25
の同日付け「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書(以下「本件修正
申告書」という。)を処分行政庁に提出した。(甲1)
ウ処分行政庁は,平成25年2月22日付けで,本件修正申告書に対する
過少申告加算税の賦課決定をした。(乙50)
エ処分行政庁は,平成25年3月11日付けで,本件債務免除益の額とし
て認定した4億3110万8897円のうち,6817万5112円は事5
業所得の総収入金額,5539万8013円は不動産所得の総収入金額,
3億0753万5772円は一時所得の総収入金額にそれぞれ算入される
として,別表4の「本件更正処分等」欄のとおり本件更正処分等を行った。
(甲2)
オ原告は,本件更正処分等を不服として,平成25年5月8日,処分行政10
庁に対し,異議申立てをしたが,処分行政庁は,同年7月4日付けで,上
記原告の異議申立てを棄却する旨の決定をした。(甲3)
カ原告は,平成25年8月5日,国税不服審判所長に対し,審査請求をし
たが,同所長は,平成26年7月1日付けで,原告の審査請求を棄却する
旨の裁決をした。(甲4)15
キ原告は,平成26年12月22日,本件訴えを提起した。
3争点
(1)本件債務免除益の所得区分
(2)理由の差し替えの可否
(3)国税通則法65条4項所定の正当な理由の有無20
4争点に対する当事者の主張
(1)争点(1)(本件債務免除益の所得区分)について
(被告の主張)
ア債務免除益に係る所得区分の判断方法
所得税法は,所得をその源泉又は性質によって10種類に区分している25
が,これは,所得がその性質や発生の態様によって担税力が異なるという
前提に立って,公平負担の観点から各種所得の金額の計算においてそれぞ
れの担税力の相違を加味しようという考慮に基づいたものと考えられる。
したがって,所得区分の判断に当たっては,その所得の性質や態様等とい
った担税力を基礎付ける事情を踏まえた検討を欠かすことはできないとい
うべきである。これを債務免除益について見ると,その直接の発生原因(債5
務免除行為)自体は全ての債務免除益に共通している事情であるから,債
務免除行為それ自体から所得(債務免除益)の性質等が決定されるとはい
い難く,債務免除益が債務を免れたという消極的な形で経済的利益を得る
ものであることからすれば,その所得の性質は当該債務と密接に関連する
というべきである。10
そして,このことを借入金に係る債務免除益について見ると,所得税法
は,期中における消費額と純資産増加額の合計を所得と捉えているが,借
入金それ自体は所得ではないと解されている。これは,借主が借入金を取
得する一方で同額の債務を負うことから,両者を差し引くと経済的に見て
何ら純資産が変動しないことを前提にしたものと考えられる。そうすると,15
借入金債務の全部又は一部を免れた場合には,上記の前提が覆り,当初の
借入金との関係で純資産の増加としての所得(債務免除益)の発生を観念
できる。
このように,借入金に係る債務免除益が所得とされる実質的な根拠(実
質的な担税力)は,消極財産を減少させた債務免除行為ではなく,当該債20
務の発生時にその対価として受領した経済的対価にあるというべきである
から,その所得の性質は,当該借入金債務の性質等を踏まえて検討すべき
と考えられる。
このことは,所得税基本通達36-17(平成26年課個2-9による
削除前のもの)の取扱いを法令上明確化した所得税法44条の2(平成225
6年法律第10号による改正後のもの)が,同条2項各号に規定された各
所得を生ずべき業務等に係る債務の免除を受けた場合の債務免除益につい
ては,その元となる債務の発生原因に応じて所得区分を判断するという考
え方を定めていることからも明らかである。
したがって,債務免除益の所得区分を判断するに当たっては,当該免除
益の直接の発生原因よりも,それを生み出す元となった債務の発生原因を5
重視すべきものと解される。
イ本件債務免除益のうち事業所得に該当するもの
(ア)事業所得該当性の判断基準
所得税法27条1項に規定する「事業」とは,自己の計算と危険にお
いて独立して営まれ,営利性,有償性を有し,かつ反覆継続して遂行す10
る意思と社会的地位とが客観的に認められる業務をいい,ある経済活動
が事業に該当するか否かは,活動の規模と態様,相手方の範囲等,種々
のファクターを参考として判断すべきであるところ,一般的に事業の遂
行上生じた付随収入は事業所得に該当すると解されている。そして,こ
うした付随収入が事業所得に該当するか否かは,当該事業の本体をなす15
業務の遂行と当該付随収入の関連性の強さを考慮して判断すべきである
ところ,前記のとおり,債務免除益の所得区分を判断するに当たっては,
当該債務免除益の直接の発生原因よりも,それを生み出す元となる債務
の発生原因を重視すべきであるから,本件債務免除益のような借入金に
係る債務免除益が事業所得に該当するか否かは,当該事業の遂行と借入20
金の使途との関連性の強さを考慮して判断することになる。
(イ)本件旧借入金の使途について
a旧借入金一覧順号(以下「順号」という。)11の借入金について
原告は,平成8年1月30日,E農協から2300万円を借り入れ,
当該借入金を,同月22日に購入した群馬県α郡β町(以下「β町」25
という。)γ761番(現在の群馬県δ市(以下「δ市」という。)
γ761番)の農地の対価の支払に充てた。
なお,上記農地については,平成8年1月30日,原告を債務者,
E農協を根抵当権者とする根抵当権(極度額3800万円)が設定さ
れた。
b順号20の借入金について5
原告は,平成9年4月25日,E農協から1600万円を借り入れ,
当該借入金を,同月1日に購入したβ町ε490番4(現在のδ市ε
490番4)の農地の対価の支払に充てた。
なお,原告は,平成24年7月3日,上記農地を原告が代表取締役
を務めるO株式会社に売却した。10
c順号24の借入金について
原告は,平成9年11月20日,E農協から2000万円を借り入
れ,当該借入金を,同月21日に購入した群馬県α郡ζ440番及び
441番(現在のδ市ζ1丁目440番及び441番)の各農地の対
価の支払に充てた。15
なお,原告は,平成13年10月2日,上記各農地をβ町η145
7番3(現在のδ市η1587番)の農地と交換し,平成16年4月
27日,上記交換により取得した農地をF株式会社に売却した。
d借入金A及び順号25の借入金について
原告は,平成9年12月12日,E農協から農地購入資金として120
100万円を借り入れ,同日に購入したβ町γ730番4(現在のδ
市γ730番4)の農地の対価の支払に充てた。
なお,原告は,平成11年2月17日,当該農地をβ町η1450
番4及び5(現在のδ市η1410番及び1411番)の各農地と交
換し,平成22年7月27日,上記交換により取得した各農地をF株25
式会社に売却した。
e順号27の借入金について
原告は,平成10年2月2日,E農協から4400万円を借り入れ,
当該借入金を,平成9年11月28日にE農協から借り入れた490
0万円の借入金の返済に充てているところ,上記4900万円の借入
金は,別の9件の借入金の返済に充てられたものであり,当該9件の5
借入金のうち6件の借入金(返済当時の残債務は843万3182円)
は,農業用機械であるコンバイン,トラクター乾燥機及びホイールロ
ーダーの購入に充てられたものである。
(ウ)小括
a原告は,現在まで,米麦等の作付けを中心とした農業を営んでいる10
者であり,前記(イ)の農地及び農業用機械の取得は,原告の農業の遂
行と密接な関連性を有すると認められる。したがって,本件債務免除
益のうち,前記(イ)の借入金(以下「本件農地取得借入金」という。)
に係る部分(順号27については前記843万3182円の返済に係
る部分に限る。)は,原告が従事する事業(農業)と関連する付随収15
入であるから,所得税法27条1項所定の事業所得に該当する。
なお,原告は,農地を取得した理由につき,農業を行うためではな
く,当初から農地転用を図り,原告が主宰する会社へ売却する目的で
取得したものと考えられるなどと主張するが,借入れから大きく遅れ
た時期にF株式会社等に売却した合理的な理由はないし,本件借入金20
に係る平成20年分の約定利息及び遅延利息については,原告の平成
20年分の事業所得の総勘定元帳において,その全額が必要経費に算
入されていることと整合しないというべきである。
bそして,本件債務免除益は,本件借換え等の前の使途を表す本件旧
借入金と直接の対応関係は存在しないことから,資金使途に応じて本25
件旧借入金ごとに按分して考えるのが合理的であり,本件債務免除益
のうち,本件農地取得借入金に係るものとして按分された部分の金額
である8109万7613円が原告の平成21年分の事業所得として
総収入金額に算入されるべきである。
ウ本件債務免除益のうち不動産所得に該当するもの
(ア)所得税法26条1項は,「不動産所得とは,不動産,不動産の上に5
存する権利,船舶又は航空機(括弧内略)の貸付け(括弧内略)による
所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。」と規
定し,同条2項は,「不動産所得の金額は,その年中の不動産所得に係
る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。」と規定しており,
不動産所得の金額について「総収入金額」という文言を用いている。そ10
の趣旨としては,利子所得,配当所得,給与所得及び退職所得について
は,その収益の内容が比較的単純であるので「収入金額」の文言を用い,
これに対し,不動産所得,事業所得,山林所得,譲渡所得,一時所得及
び雑所得については,副収入や付随収入等も加わってその収益の内容が
複雑になる場合が多いことから,「総収入金額」という文言を用いるこ15
とによって,その所得に係る収入金額の総額を計算し,これに総体とし
て対応する必要経費をそれから控除して,それらの所得の金額を計算す
るという所得税法上の所得計算の態度を示したものと解されている。な
お,同条1項の「による」という文言は,単に因果関係を示すものにす
ぎず,貸付けによる所得は,貸付けと因果関係のある所得であれば足り,20
貸付けの経済的対価等に限定されるものではない。
そうすると,不動産所得には,事業所得と同様,不動産等の貸付けの
対価たる性質を有するものに限らず,不動産等の貸付けに伴う副収入や
付随収入等も含まれ,不動産等の貸付業務の遂行により生ずべき収入は
不動産所得に該当すると解するのが相当である。そして,こうした付随25
的な業務から生じる所得が不動産所得に該当するか否かは,当該所得と
本体をなす業務の遂行との関連性の強さを考慮して判断すべきであると
ころ,借入金に係る債務免除益が不動産等の貸付業務の遂行により生ず
べき所得か否かを判断する際には,当該不動産等の貸付業務の遂行と借
入金の使途との関連性の強さを考慮して判断すべきである。
(イ)本件旧借入金の使途について5
a順号4の借入金について
原告は,平成6年11月29日,E農協から1200万円を借り入
れ,当該借入金を,同月21日に購入したβ町θ613番4(現在の
δ市θ613番4)の農地の対価の支払に充てた。
なお,上記農地は,平成12年2月29日に地目が宅地に変更され,10
原告が所有する賃貸用マンションであるPの敷地の用に供されてきた。
b順号12の借入金について
原告は,平成8年2月7日,E農協から300万円を借り入れ,当
該借入金を,同日に農地法3条の許可を受けることを条件として購入
したβ町θ613番1(現在のδ市θ613番1)の農地の対価の支15
払に充てた。
なお,上記農地は,平成8年2月7日,原告を債務者,E農協を根
抵当権者とする根抵当権(極度額2000万円)が設定されたほか,
平成12年2月29日に地目が宅地に変更され,前記aのPの敷地の
用に供されてきた。20
c順号26の借入金について
原告は,平成10年1月14日,E農協から3600万円を借り入
れ,当該借入金を賃貸用の共同住宅Qの建設資金の一部の支払に充て
た。
(ウ)小括25
一般に不動産等の貸付業務の遂行には,その賃貸の用に供する不動産
等を所有していることが不可欠であるから,不動産等を購入して賃貸の
用に供したのであれば,当該不動産等の購入は,賃貸業務の遂行と密接
な関連性を有していると認められる。そして,前記(イ)の各借入金(以
下「本件賃貸不動産取得借入金」という。)は,いずれも賃貸用不動産
の取得に充てられており,これらは不動産等の賃貸業務の遂行と密接な5
関連性を有する。
したがって,本件債務免除益のうち,本件賃貸不動産取得借入金に係
るものとして按分された金額である6799万1954円は不動産所得
の総収入金額に算入されるべきである。
エ本件債務免除益のうち雑所得に該当するもの10
(ア)はじめに
本件債務免除益のうち,本件農地取得借入金及び本件賃貸不動産取得
借入金以外に係る部分は,原告の何らかの経済活動に費消されたと考え
られるものの,その使途が明らかではないから,これらが所得税法34
条1項の掲げる利子所得ないし譲渡所得のいずれかに区分することは困15
難であり,一時所得に該当するか否かを検討することになる。
そして,所得税法34条1項は,「一時所得とは,利子所得,配当所
得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所
得以外の所得のうち,営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外
の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を20
有しないものをいう。」と規定しており,一時所得に当たるというため
には,当該所得が,上記利子所得ないし譲渡所得以外の所得であること
を前提として,①営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一
時の所得であること(非継続性要件),②労務その他の役務又は資産の
譲渡の対価としての性質を有しないものであること(非対価性要件)が25
必要である。
(イ)非継続性要件について
a営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは,文理
に照らし,行為の期間,回数,頻度その他の態様,利益発生の規模,
期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当であると
ころ,前記のとおり,債務免除益の所得区分の判断に当たっては,当5
該免除益の直接の発生原因よりもその元となる債務の発生原因を重視
すべきであることからすれば,債務免除益に係る一時所得の非継続性
要件の判断においても,債務の発生原因を重視しつつ,その債務の発
生から免除に至るまでの諸事情を総合考慮して,その債務免除益が継
続的行為から生じた所得に該当するか否かを判断すべきである。10
b本件においては,原告は,昭和58年3月1日にE農協と金融取引
を開始し,それ以降,継続的にE農協から融資を受けていたところ,
平成10年に実施された群馬県常例検査で指摘されたとおり,当該融
資の中には本来行われるべき理事会への付議が行われないまま実施さ
れるなどしたものも含まれており,特に,平成7年4月以降には,原15
告外2社,R株式会社及びS(以下,これらの者のうち原告以外の者
の全部又は一部を指して「関連会社等」という。)への融資が急増し
ているが,当該融資にはE農協のTが中心的立場として関与していた。
また,原告は,上記群馬県常例検査後の本件借換え等において,そ
の後の期限内償還を約束していたにもかかわらず,1回目の返済日か20
ら滞納し,その後,平成20年3月26日まで一切返済しなかったば
かりか,通常,債務が完済されるまで解除が認められるはずのない根
抵当権の一部解除を申し出て,E農協に根抵当権を解除させ,その結
果,根抵当権の対象となる不動産は,根抵当権極度額に見合う価値を
有しないこととなった。25
そして,原告は,E農協が,δ農協との合併に当たって,δ農協か
ら合併に向けた期日までに原告及び関連会社等に対する債権を含む不
良債権の処理を求められていることを知りながら,自身の債務につい
ては返済の引き延ばし工作とも思える提案を繰り返し,本件借入金が
平成20年3月26日まで全く返済されないままとなっていた。
その後,原告は,E農協が原告及び関連会社等に対する債権をU機5
構へ売却することを決定した直後に,根抵当権が設定されている土地
の一部について,E農協に対して200万円の弁済を条件に根抵当権
の解除を申し入れているところ,かかる申入れに対して,TがE農協
の正規の決裁を待たずに,上記土地に第2順位の根抵当権の設定を受
けていたV協会に対して根抵当権の一部解除を申請することで承諾を10
得たものである。また,原告は,原告及び関連会社等に対する債権を
U機構へ売却するとのE農協の方針について,E農協に民事訴訟を提
起するなどと発言する一方で,E農協の担保評価額である8800万
円を返済するので残債務を免除して欲しいと申し出るなど,硬軟織り
交ぜてE農協と交渉し,U機構へ売却することに対して抵抗した。15
その結果,E農協から債権回収の委任を受けていたN弁護士を通じ
て,原告外2社が合計1億3000万円を返済することを条件に本件
債務免除の合意に至ったものである。
このように,原告は,Tと通謀した上で,少なくとも平成7年4月
以降から平成21年3月30日の本件債務免除までの14年近くの期20
間,多くの不正の借入れを繰り返し,本件借換え等以降平成20年ま
で一度たりとも返済することなく,かえって,融資の担保であった根
抵当権を解除するなどの行為を繰り返し,E農協がU機構に売却して
原告及び関連会社等に対する債権を処理しようとするや,民事訴訟を
提起すると発言するなどして抵抗する一方で,E農協の担保評価額と25
同額である8800万円を返済するから残債務を免除してもらいたい
旨申し出るなど交渉し,その結果として4億3110万8897円も
の債務免除を受けたことからすれば,本件債務免除益の元となる債務
は,原告とTとの通謀関係に基づいてE農協から長期間にわたり繰り
返し受けた多額の不正融資によるものというべきである。そして,原
告は,かかる債務について,E農協への償還を滞らせ続けた末に,本5
件債務免除をさせたものであり,本件旧借入金の借入れから本件債務
免除に至るまでの上記個々の行為は全体として本件債務免除に向けて
行われたものであり,本件債務免除益は,一連の継続的行為から生じ
たものといえる。
したがって,本件債務免除益は,非継続性要件を満たさない。10
(ウ)非対価性要件について
a所得税法34条1項所定の労務その他の役務の対価としての性質は,
直接的な対価関係より相対的に広い概念であり,具体的には,ある給
付が人の地位及び職務に関連してなされる場合も,偶発的とはいえな
いものについては,非対価性要件を充足しないと解され,また,役務15
の対価には,給付が具体的・特定的な役務行為に対応・等価の関係に
ある場合に限らず,広く給付が抽象的,一般的な役務行為に密接・関
連してなされる場合も含まれるものと解するのが相当であり,必ずし
も関連性が明確でなかったとしても,ある種のいわば見返りのような
性質を有するものも広く包摂されると解すべきである。20
b本件においては,E農協が,小規模な農業協同組合であったのに対
し,原告は,多数の田畑及び施設を所有する大規模農家であり,E農
協に頼まれて土地を購入していたほか,平成10年当時でE農協の貸
付金の22.1%を,平成20年当時では不良債権の約4割を,それ
ぞれ原告及び関連会社等に対する貸付けが占めるなど,原告は,E農25
協内において一組合員を超えた特別な立場にあった。
そして,E農協は,δ農協との合併に向けて,δ農協から不良債権
の処理を求められ,E農協の不良債権のうち4割を占める原告及び関
連会社等に対する債権の処理を進める必要があるという状況にあり,
原告は,かかるE農協の状況を認識し,不良債権処理に協力するか否
かに関していかなる態度を示すかによって,E農協とδ農協の合併を5
左右し得る立場にあったということができるところ,E農協が原告及
び関連会社等に対する債権をU機構に売却する方針を決定すると,民
事訴訟を提起してE農協の役員の責任問題にするなどと発言する一方
で,E農協の担保評価額8800万円を支払うから残債務を免除する
よう申し出るなどした。10
したがって,E農協とδ農協の合併を左右し得るような立場にあっ
た原告は,E農協が原告及び関連会社等に対する債権をU機構に売却
した場合には民事訴訟を提起して役員の責任を追及すると発言し,ま
た,E農協の担保評価額である8800万円を支払うと発言するなど
して,E農協によるU機構への債権の売却を断念させて,本件債務免15
除を受けたものと認められる。
c以上のとおり,本件債務免除益は,E農協とδ農協の合併に必要で
あった原告及び関連会社等に係る不良債権処理と同義であったという
ことができるところ,原告は,小規模農協であるE農協がその不良債
権の4割を占めていた原告自身及び関連会社等に対する債権を処理す20
るに当たり,Tをして根抵当権の解除等をさせることで債権評価額を
減少させ,その一方で,E農協と硬軟織り交ぜた交渉を行い,U機構
への売却ではなく本件債務免除を成立させたというのであって,E農
協とδ農協との合併の成否を左右し得る特別な立場にあった原告の債
務につき上記のとおり行われた本件債務免除に基づく本件債務免除益25
を偶発的なものであるということはできない。また,原告が,本件債
務免除によって,1億3000万円を支払うことにより4億円もの債
務を返済しない利益を得たことが,E農協における不良債権の処理,
すなわち,E農協とδ農協の合併に協力する見返りとして受けたもの
であると評価することもできる。
したがって,本件債務免除益は,非対価性要件を満たさない。5
(エ)小括
以上によれば,本件債務免除益のうち本件農地取得借入金及び本件賃
貸不動産取得借入金以外に係る部分については,利子所得ないし譲渡所
得のいずれの所得にも該当しない上,一時所得にも該当しないから,所
得税法35条1項の雑所得に該当する。10
(原告の主張)
ア本件債務免除益の所得区分について
(ア)本件債務免除の発端は,E農協とδ農協との合併の際の足かせとな
る可能性が高い不良債権について,E農協側から一方的にU機構に売却
する旨を申し出てきたことにあり,この申出に対し,返済意思を有して15
いた原告は,E農協の財産を不当に減少させる行為であるとして異議を
唱え,その後の原告とE農協との話合いにより,原告外2社がE農協に
対して一部を一括で弁済するとともに,その残額を放棄する旨を双方で
合意したものであり,本件債務免除は,和解に基づくものにほかならな
い。20
(イ)そして,和解は,当事者双方が互いに譲歩してその間に存する争い
を止める義務を負う契約であり,あらゆる事情の相関関係から偶発的に
合意に至るものであるし,その効果は,将来に向かう創設的なものであ
って,新たな法律関係を形成するものである。そのような和解により生
じた本件債務免除益は,一時的かつ偶発的な所得であり,一時所得とい25
うほかないのであって,本件債務免除益の所得区分を判断するに当たっ
て,本件債務免除益を生み出す元となる債務の発生原因を重視すべきで
はない。
イ被告の主張について
(ア)順号20,24及び25の借入金並びに借入金Aについて
原告は,順号20,24及び25の借入金並びに借入金Aにより農地5
を購入しているが,当該農地あるいは当該農地との交換により取得した
農地は,いずれも農地転用の上,F株式会社やO株式会社に売却されて
いるのであって,原告は,当初から農地転用等を図り,原告が主宰する
会社へ売却等する目的で上記各農地を取得したものである。
特に,上記各借入金のうち,順号20を除く借入金により購入した農10
地につき,農地取得後,間もない時期に農地交換が行われているが,原
告としては,F株式会社に隣接する農地を取得するために当該隣接地の
所有者の希望に沿う農地を取得した上で農地交換を行ったものである。
したがって,原告は,原告の農業の用に供するために上記各借入金で
農地を購入したものではない。15
(イ)雑所得に該当するとされるものについて
a原告は,E農協が抱える不良債権の処理のためにE農協から本件旧
借入金を借り入れて農地を購入し,当該農地の転用等を行って,土地
の有効利用を図っていたのであり,いわばE農協の協力者であった。
その後,バブル崩壊後の金融不安から経営体力のない中小農協の合併20
が進められることになったが,E農協においては,原告への貸付金額
が多額であり,かつ返済が進んでいなかったことが合併の障壁になり,
それを契機として本件債務免除に至ったものである。かかる本件債務
免除に至る契機は,原告がコントロールできない偶発的な事情による
ものであり,本件債務免除に当たり,原告が特別な立場を利用したと25
いうことはない。
bまた,原告は,単なるE農協の一組合員として,E農協から一般の
経済活動に必要な融資を受け,生業として農業を営み,地域の農民の
生活向上,経済生活の安定等の産業振興に貢献してきたにすぎないこ
とに加え,N弁護士は,より多額の債権回収に向けてあらゆる手練手
管を駆使し,残余の債務免除という甘い蜜を与えるのと引き換えに多5
額の債権回収をすることに最大の努力を傾注し,通例では考えること
のできない1億3000万円という債権回収の成果を上げて,本件債
務免除に至ったのであって,本件債務免除は,E農協主導の下に行わ
れた和解の成果にすぎず,見返りのような対価としての性質を持つも
のではない。10
cさらに,本件において,E農協とδ農協の合併により見返りを受け
たのは,800万円で原告に対する債権を売却することを撤回して,
1億3000万円の支払を受けたE農協,あるいは,原告が様々な農
協スキャンダルに現在も口をつぐんでいるために失脚を免れているE
農協の幹部であり,しかも,U機構への売却価額を知っている原告と15
しては,U機構に売却された債権を1000万円余りで買い戻すこと
も可能であったのであるから,1億3000万円もの大金を支払うこ
とによる経済的見返りはあり得ない。
(2)争点(2)(理由の差し替えの可否)について
(被告の主張)20
ア理由の差し替えについては,一般に,取消訴訟においては,別異に解す
べき特別の理由のない限り,行政庁は当該処分の効力を維持するための一
切の法律上及び事実上の根拠を主張することが許されるものと解すべきで
ある。そして,ここにいう特別の理由とは,処分の理由の差し替えを制限
する実定法上の根拠がある場合が挙げられ,具体的には,青色申告書に係25
る更正について理由付記を義務付けた所得税法155条2項が考えられる
ところ,同項の趣旨としては,理由付記の一般的な趣旨である恣意抑制機
能,争点明確化機能に加えて,帳簿記載保障機能が認められるところ,理
由の差し替えの可否の判断においては,帳簿記載保障機能を定めた所得税
法の趣旨が没却されるか否かという点が主たる判断基準になると考えられ
る。5
本件において,被告は,本件債務免除益の所得区分について,本件更正
処分により,事業所得,不動産所得及び一時所得に区分されるとしていた
ものを,本件訴訟において,正しくは,事業所得,不動産所得,雑所得に
区分される(一時所得には当たらない。)旨主張したものであり,当該主
張は,帳簿記載の事実を否認することなく,法的評価である所得区分を変10
更したにすぎないものであって,所得税法155条2項の趣旨である帳簿
記載保障機能を害するおそれはないから,同項の規定によって理由の差し
替えが違法となることはない。
イ原告は,課税処分の取消訴訟について争点主義(すなわち処分理由の同
一性)を前提に処分の同一性を欠くと主張するようであるが,課税処分の15
取消訴訟においては,いわゆる総額主義が採用されていることからすれば,
上記原告の主張は失当である。なお,原告が主張する国税不服審判所にお
ける争点主義的運営は,総額主義を採用し,争点主義を運営の問題として
把握するという考え方であり,課税処分の取消訴訟において総額主義が採
られていることと矛盾するものではない。20
また,原告は,理由付記一般に当てはまる争点明確化機能等を理由とし
て,理由の差し替えについては,差し替え前後の理由に実質的な同一性が
認められる必要があるとするが,かかる一般的な趣旨のみを根拠として理
由の差し替えが許されないと解することはできない。
(原告の主張)25
ア青色申告の理由付記制度の争点明確化機能や不服申立前置主義のスクリ
ーニング機能からすれば,処分理由の差し替えは,課税要件事実の同一性
が担保されている場合でなければ許されないと解すべきである。
本件では,不服申立ての段階から,課税処分の内容として,本件債務免
除益を区分できるのかということが争点となっていたが,被告は,本件訴
訟において,原告とTとが通謀することにより不正に資金提供を受けただ5
けではなく,E農協に対する脅迫等により本件債務免除を勝ち取るという
見返りを得ていることから非対価性要件を充足せず,本件債務免除益のう
ち明確な所得区分ができない部分は,一時所得ではなく,雑所得であると
いう理由の差し替えを行っているところ,これは,本件訴訟提起後に突如
として主張されるに至った理由の差し替えに当たる行為であり,その立証10
する証拠は本件訴訟提起後の追加的調査によるものであって,許される範
囲を逸脱していると言わざるを得ない。
イまた,本件更正処分において一切主張することのなかった配当所得の存
在を主張することは,争点主義的運営を無視した暴挙である。
(3)争点(3)(国税通則法65条4項所定の正当な理由の有無)について15
(原告の主張)
本件更正処分は,顧問税理士であるX税理士が税務調査段階において,所
得区分についての税務指導を再三要請していたにもかかわらず,修正申告の
しょうようが行われた平成24年11月はおろか,修正申告を行った平成2
5年2月の時点で適切な税務指導がなされることがなかったために,やむな20
く行った修正申告に対するものである。
したがって,本件更正処分は,適切な行政指導を意図的に怠った行政不作
為に基づく課税処分であり,本件において過少申告加算税を課すのは不当か
つ酷であり,加算税を課さない正当な理由があるといえる。
(被告の主張)25
ア過少申告加算税は,過少申告による納税義務違反の事実があれば,原則
としてその違反者に対し課されるものであり,これによって,当初から適
法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図ると
ともに,過少申告による納税義務違反の発生を防止し,適正な申告納税の
実現を図り,もって納税の実を挙げようとする行政上の措置であり,過少
申告加算税の上記の趣旨に照らせば,国税通則法65条4項にいう正当な5
理由があると認められる場合とは,真に納税者の責めに帰することのでき
ない客観的な事情があり,上記のような過少申告加算税の趣旨に照らして
も,なお,納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場
合をいうものと解するのが相当である。
イ本件においては,適正な修正申告のしょうようがされている上,当初申10
告時に真に原告の責めに帰することができない客観的事情は認められない。
また,仮に,修正申告のしょうようにおいて,所得区分についてまで具体
的に教示されていなかったとしても,そもそもかかる期限後の事後的な行
為により当初申告に正当な理由が生じるものではない上,修正申告につい
て見ても,かかる教示がされなくとも,自らの判断で適正な所得区分に基15
づく修正申告ができるのであるから,真に原告の責めに帰することができ
ない客観的な事情があって修正申告において適正な所得区分による申告が
できなかったということもできない。
したがって,国税通則法65条4項の「正当な理由があると認められる
ものがある場合」に該当する余地はない。20
第3当裁判所の判断
1認定事実
(1)当事者等
ア原告の事業活動等
(ア)原告は,昭和57年7月8日にE農協の正組合員としての資格を取25
得し,現在まで米麦の作付けを中心として農業を営んでいるほか,平成
4年5月にオムツ工場,平成5年9月に倉庫・事務所,同年12月に倉
庫,平成8年6月に倉庫・事務所,平成9年9月に共同住宅(Q),平
成12年3月に賃貸用マンション(P),平成16年12月に倉庫,平
成20年11月に共同住宅をそれぞれ取得した上で,賃貸の用に供する
などして,事業の拡大を図ってきた。(乙4,乙6,乙41)5
また,原告は,昭和59年11月16日にF株式会社を設立し,F株
式会社の代表取締役を務めてきたほか,平成2年5月31日には,株式
会社Gの取締役に就任するなどして,事業の拡大を図ってきた。(乙7
~乙13(枝番号を含む。))
(イ)なお,原告は,長年にわたる大口顧客としてE農協の内情にも精通10
していた。(弁論の全趣旨)
イE農協について
(ア)E農協は,支店を有しない農業協同組合(いわゆる単協)であり,
平成21年頃の正組合員数は637名,役員は12名,職員は56名,
貸付金残高は約40億0737万9000円であった。(乙2,乙3)15
(イ)E農協は,平成2年頃から平成4年頃まで及び平成13年頃から平
成14年頃までにかけて,δ農協との間で2回にわたり合併交渉を行っ
たが,いずれもE農協の合併臨時総会において否決されたことにより合
併には至らず,平成18年4月には,3回目となるδ農協との合併交渉
に向けて準備を進めていたが,E農協における不良債権の比率がδ農協20
の同比率よりも高かったため,δ農協から,不良債権処理が進まなけれ
ば,合併に向けての進展はない旨を指摘されていた。(乙2,乙51,
乙121,乙122,Y4頁~5頁,原告6頁~7頁)
ウTについて
(ア)Tは,昭和59年4月にE農協の金融課に配置され,大口融資や制25
度融資,一般貸付けを担当し,平成3年6月1日に融資係長に,平成1
7年4月1日に金融課長にそれぞれ昇進し,平成18年9月8日まで,
E農協における融資業務に従事していた。
なお,Tは,平成7年4月1日にZが金融課長に就任して以降,原告
への融資を含め,E農協の融資関係事務のほとんどを任されていた。(乙
59,乙78,T1頁~3頁,15頁,20頁~21頁)5
(イ)その後,Tは,平成18年9月8日から平成20年12月1日まで
リスク管理課長(リスク管理課は,平成18年9月8日にE農協に貸付
債権の回収を専門に担当する部署として新設されたものである。)を務
め,平成20年12月1日に農燃係長に降格となった後,平成22年2
月にE農協を退職し,同年6月24日に原告が代表取締役を務めるf株10
式会社の取締役に就任するなど,原告が主宰する複数の法人の役員に就
任した。(乙9の1,乙10~乙12,乙51,乙59,T35頁~3
7頁)
(2)原告及び関連会社等の借入れの開始等
ア原告は,昭和58年3月1日,E農協との間で,β町ι1094番(現15
在のδ市ι1011番)の農地等にE農協を根抵当権者とする根抵当権を
設定する旨の契約を締結して,金銭の借入れに係る取引を開始した。(乙
75)
なお,原告は,E農協が抱える不良債権の処理のために,E農協の依頼
に応じて,E農協から金銭を借り入れて農地を購入することも行っていた。20
(甲9・2頁,甲21・2頁,原告1頁~2頁,20頁)
イその後,原告は,平成元年6月12日に田植え機の購入費用に充てるた
めE農協から400万円を借り入れるなど,継続的にE農協との取引を行
っていたほか,原告及び関連会社等もE農協と取引を行い,その結果,E
農協の原告及び関連会社等に対する貸付金額は,平成7年1月31日時点25
で2億8845万3000円,平成8年1月31日時点で4億5944万
2000円,平成9年1月31日時点で7億5321万8000円,平成
10年1月31日時点で12億6348万5000円,同年3月31日時
点で12億9152万2202円となり,同日時点でのE農協の原告及び
関連会社等に対する貸付金額は,E農協の貸付金額全体の22.1%を占
めていた。(乙60の1)5
ウなお,E農協は,昭和58年3月1日から平成11年2月19日までの
間,原告及び関連会社等に対する債権を担保するため複数の根抵当権の設
定を受けているところ,当該根抵当権については,平成7年11月14日
に極度額2500万円の根抵当権が設定されて以降,本件借換え等までの
間,既に設定されていた根抵当権を含めて,その設定及び解除が繰り返さ10
れている。
他方,E農協は,上記根抵当権について,逐次E農協の電算システムに
入力し,根抵当権極度額を管理していたが,原告に対する債権に係る上記
システム上の根抵当権極度額の管理額は,平成8年9月30日及び平成9
年9月30日時点ではいずれも3億5800万円,平成11年9月30日15
時点では4億0300万円であったのに対し,実際の根抵当権極度額は,
順に2億8800万円,2億5000万円,2億4000万円となってお
り,平成9年9月30日の時点で,本件旧借入金のうち根抵当権に係る被
担保債権額が,実際の根抵当権極度額を上回る状態となっていた。(乙7
5,乙76,T18頁,28頁)20
エまた,E農協は,平成10年に実施された群馬県常例検査(検査基準日
は同年3月31日)において,原告及び関連会社等に対する貸付けに関し
て,法令・定款等に違反する貸付けの存在,貸付審査や債権管理が杜撰で
あることが指摘されている。(乙60の1及び2)。
⑶本件借換え等25
ア原告及びF株式会社は,平成11年10月15日,E農協に対して,複
数口の融資を申し込み,同月21日に開催されたE農協の理事会において,
一部の借入金(長期譲渡税修正申告分及び市町村税修正申告分の各名目の
借入金合計1000万円)を除き,償還を滞りなく履行するために償還準
備金として毎月口座に償還に見合う金額を振り込むことなどの条件付きで
上記融資が承認され,原告がE農協に対して同条件を約する旨の念書を差5
し入れたため,同月29日,上記融資が行われた(本件借換え等)。その
結果,原告のE農協に対する借入金債務は,借入金Aないし借入金Dに整
理されることとなった。(乙14,乙18,乙20,乙22,乙24)
イしかし,本件借換え等の後,原告は,借入金Aないし借入金Dに係る借
入金債務の返済をせず,平成12年に実施された群馬県常例検査(検査基10
準日は同年7月31日)において,今後経営破綻に陥る可能性が大きいと
される「破綻懸念先」に区分され,平成15年に実施された群馬県常例検
査(検査基準日は同年10月31日)において,延滞期間6か月以上の者
等が該当する実質的な経営破綻とされる「実質破綻先」に区分され,E農
協においては,原告及び関連会社等に対する債権につき,順次,個別貸倒15
引当金に繰り入れるという会計処理が行われた。(乙63,乙64,乙6
6~乙68,原告33頁)
ウまた,本件借換え等の後も平成20年3月19日までの間,原告に対す
る債権を担保するために設定されていた根抵当権の一部が解除されている。
(乙75)20
(4)本件債務免除等
アYは,平成18年4月19日,E農協とδ農協との合併に向けた準備の
ためE農協の信用専任担当常務理事に就任した。なお,この頃,E農協の
原告及び関連会社等に対する債権は,E農協の不良債権全体の約4割を占
めていた。(乙51,乙59,乙69,乙123,Y4頁)25
イ原告は,平成19年5月頃,同年10月31日までにE農協に
対して,1億円を償還する旨の約束をしたが,その後,E農協に対して,
不動産売買の進展が買受人(g)の都合で遅れており,もうしばらくの間,
配慮願いたいなどと記載された同月26日付けの確約書,及び,原告が所
有する土地につき,条件が整い次第1億5000万円で買い受ける旨が記
載された同月27日付けg名義の不動産買付証明書を提出した。5
平成19年10月30日に開催されたE農協の理事会において,同年1
2月上旬までに原告からの入金の見通しがない場合には,原告にE農協に
来てもらい話をすることを前提として,上記償還を猶予する旨が承認され
た。(乙69)
ウ平成19年12月26日に開催されたE農協の理事会において,Tから,10
原告が所有する土地をgへ売買することが困難となり,他の銀行に対する
借換えを進めているなどの説明がされ,同月末までの償還を猶予するとと
もに,平成20年1月末までには原告から1億円の償還を実行させるとい
う方針が承認された。(乙69)
エE農協の当時の代表理事組合長であったhらは,平成20年1月21日,15
原告と面談したが,原告からの1億円の償還については何ら進展がなく,
また,同月25日,原告及びgと面談したところ,同人らは,前記イの不
動産買付証明書に記載の条件である住所移転が終了したため,原告が所有
する土地の売買の話を進める旨を説明した。
平成20年1月30日に開催されたE農協の理事会において,上記原告20
やgとの面談の内容が説明された上で,原告に対する債権回収については,
法的手段によるという方針が承認された。(乙69)
オE農協は,平成20年3月26日,原告から1463万2910円の弁
済を受けた。(乙51,乙70)
カ平成20年5月27日に開催されたE農協の理事会において,E農協の25
原告及び関連会社等に対する債権については,V協会からの弁済後の残債
権をU機構へ売却することを前提とし,U機構にその買取評価額を依頼す
るという方針が決定された。
E農協は,U機構に対して,上記評価を依頼したが,U機構から,買取
評価額は1217万0197円(原告に対する債権は787万1393円。
評価基準日は平成20年6月16日)である旨の回答を得た。(乙51,5
乙69)
キ上記カの理事会による方針が決定された後,原告は,E農協に対して,
原告が所有し,E農協が第1順位,V協会が第2順位の根抵当権者となっ
ている一部の土地につき,E農協及びV協会に各200万円を弁済するた
め根抵当権を抹消してもらいたい旨の申出をした。10
これを受けて,Tの部下であったiは,上記申出のとおりに対応したい
旨の平成20年6月16日付け「根抵当権一部抹消について」と題する文
書を起案し,Tはこれを了とする旨の決裁をしたほか,Yも,平成20年
10月1日,上記文書の内容について,上記カの方針と異なるがj協会の
了解も得ている以上やむを得ないと判断して了とする旨の決裁をした。15
E農協は,原告から200万円の支払を受けたことから,平成20年1
0月3日,原告が所有する一部の土地に係る根抵当権を解除した。(乙6
9,乙71,乙75,Y7頁~8頁)
ク平成20年8月1日に開催されたE農協の理事会において,原告及び関
連会社等に対する債権をU機構に売却する旨が決定され,この点に関して,20
E農協の当時の専務理事であったmは,同年9月22日,原告と面談した
が,原告は,E農協の担保評価額である8800万円を入金するので,担
保を抹消し,残債務については免除でどうか,4億2000万円の債務を
800万円でU機構に売却する気が知れず,役員の責任問題であるなどと
述べた。(乙51,乙123,原告25頁)25
ケE農協は,U機構から回答された買取評価額で原告及び関連会社等に対
する債権を売却した場合,売却額が極めて少額であることから,E農協の
負担も大きくなり,組合員からの批判も大きくなるため,平成20年11
月27日,U機構に売却するのではなく,弁護士に依頼して債権を回収す
ることを理事会で決定し,同年12月24日にL弁護士に原告及び関連会
社等に対する債権の回収を委任するなどした。(乙42,乙51,Y9頁,5
23頁~24頁)
コE農協は,N弁護士を通じて,原告との間で,E農協の原告外2社に対
する債権の回収のための交渉を行ったところ,原告から毎月100万円の
分割払を提案された。
E農協は,原告が様々な理由を付けて貸付金を返済してこなかったとい10
うこれまでの経緯のほか,原告から民事訴訟を提起される可能性があり,
仮に,訴訟となると解決までに長期間を要すること,E農協が抱える諸問
題が表面化すれば,役員の責任問題が生じたり,組合員から強く批判され
たりし,その結果,δ農協との合併に支障が生じることが懸念されたこと
から,これ以上時間と費用をかけても原告外2社に対する債権の回収を図15
ることは難しいと判断し,一括払及び債務免除により問題解決を図ること
とした。
上記の方針の下,N弁護士が,原告と協議を行った結果,E農協が,原
告外2社から1億3000万円の支払を受け,残債務を免除する方法によ
り解決することとなった。(甲8,乙51,Y9頁~10頁,原告27頁20
~28頁)
サL弁護士らは,平成21年2月17日付けで,原告外2社に対して,原
告外2社が一括してE農協に1億3000万円を弁済することを条件とし
て原告外2社のE農協に対する残債務を免除することに異存はない旨の通
知書を送付した。(乙43)25
シ原告外2社は,平成21年3月27日,E農協に対して,弁済金として
一括して1億3000万円(内訳は,原告分が4300万円,F株式会社
分が5700万円,株式会社G分が3000万円である。)を支払ったた
め,E農協は,同月30日付けで,原告外2社に対して,残債権を放棄す
る旨の通知書を送付した。(乙44~乙49)
(5)本件旧借入金の使途について5
ア順号4の借入金について
原告は,平成6年11月29日,E農協から1200万円を借り入れ,
当該借入金を,同月21日に購入したβ町θ613番4(現在のδ市θ6
13番4)の農地(地目は畑)の対価の支払に充てているところ,上記農
地は,平成12年2月29日に地目が宅地に変更され,原告が所有する賃10
貸用マンションであるP(同日新築)の敷地の用に供されてきた。
なお,原告は,平成22年12月1日,上記土地及び上記マンションを
F株式会社に売却した。(乙75,乙88の1~乙89)
イ順号11の借入金について
原告は,平成8年1月30日,E農協から2300万円を借り入れ,当15
該借入金を,同月22日に購入したβ町γ761番(現在のδ市γ761
番)の農地(地目は畑)の対価の支払に充てているところ,同農地は現在
も原告が所有している。(乙75,乙90の1及び2)
ウ順号12の借入金について
原告は,平成8年2月7日,E農協から300万円を借り入れ,当該借20
入金を,同日に農地法3条の許可を受けることを条件として購入した(売
買契約の効力発生日は同年4月16日)β町θ613番1(現在のδ市θ
613番1)の農地(地目は畑)の対価の支払に充てているところ,上記
農地は,平成12年2月29日に地目が宅地に変更され,前記アのPの敷
地の用に供されてきた。25
なお,原告は,平成22年12月1日,上記土地及び上記マンションを
F株式会社に売却した。(乙89,乙91の1及び2)
エ順号20の借入金について
原告は,平成9年4月25日,E農協から1600万円を借り入れ,当
該借入金を,同月1日に購入したβ町ε490番4(現在のδ市ε490
番4)の農地(地目は畑)の対価の支払に充てているところ,上記農地は,5
同年(登記は平成23年7月4日付け)に地目が雑種地に変更されている。
なお,原告は,平成24年7月3日,上記土地をO株式会社に売却し,
同土地は,同年10月1日に地目が宅地に変更されている。(乙14,乙
32,乙33)
オ順号24の借入金について10
原告は,平成9年11月20日,E農協から2000万円を借り入れ,
当該借入金を同月21日に農地法3条の許可を受けることを条件として購
入した(売買契約の効力発生日は平成10年1月21日)群馬県α郡ζ4
40番及び441番(現在のδ市ζ1丁目440番及び441番)の各
農地(地目はいずれも田)の対価の支払に充てた。15
原告は,平成13年10月2日,上記各農地をβ町η1457番3(現
在のδ市η1587番)の農地(地目は畑)と交換し,平成16年4月2
7日,上記交換により取得した農地をF株式会社に売却し,当該交換後の
農地は,同年8月27日,地目が宅地に変更されている。(乙14,乙3
4~乙38)20
カ順号25の借入金及び借入金Aについて
原告は,平成9年12月12日,E農協から農地購入資金として110
0万円を借り入れ,当該借入金を同日に購入したβ町γ730番4(現在
のδ市γ730番4)の農地(地目は畑)の対価の支払に充てた。
原告は,平成11年2月17日,当該農地をβ町η1450番4及び525
(現在のδ市η1410番及び1411番)の各農地(地目はいずれも畑)
と交換したが,当該交換後の農地は,平成16年8月27日,地目が雑種
地に変更され,平成22年7月27日,F株式会社に売却された。(乙1
7,乙28~乙31)
キ順号26の借入金について
原告は,平成10年1月14日,E農協から3600万円を借り入れ,5
当該借入金を賃貸用の共同住宅であるQの建設資金の一部の支払に充てた。
なお,原告は,平成22年12月1日,上記共同住宅をF株式会社に売
却した。(乙39,乙40)
ク順号27の借入金について
原告は,平成10年2月2日,E農協から4400万円を借り入れ,当10
該借入金のうち4200万円及びこれとは別の1000万円の合計520
0万円を口座番号「(番号省略)」の口座に振り込み,これを原告が平成
9年11月28日に借り入れた4900万円の借入金(貸出番号(番号省
略)。返済時点の残債務は4922万9058円)の返済に充てた。
なお,上記4900万円の借入金については,平成9年11月28日,15
口座番号「(番号省略)」から同「(番号省略)」の口座に振り替えられ,
これに振替時点で同口座に存在していた228万5118円を加えた合計
5128万5118円が,農業用機械の購入資金に充てられた6本の借入
金債務(返済当時の残債務は合計841万3182円。被告は843万3
182円と主張するが,841万3182円の誤りと解される。)の返済20
に充てられるなどしている。(乙58,乙75,乙87)
2争点(1)(本件債務免除益の所得区分)について
(1)所得区分の判断の在り方等について
ア所得税法は,公平負担の観点から,納税者の所得を,その源泉又は性質
によって10種類に区分し,担税力に応じた計算方法等を定めているとこ25
ろ,かかる所得区分の判断に当たっては,当該所得に係る利益の内容及び
性質,当該利益が生み出される具体的態様を考慮して実質的に判断される
べきものと解され,借入金の債務免除益の所得区分の判断においては,当
該借入れの目的や当該債務免除に至った経緯等を総合的に考慮して判断す
るのが相当である。
イ(ア)原告は,本件債務免除益は,和解に基づき発生したものにほかなら5
ないところ,和解は,あらゆる事情の相関関係から偶発的に合意に至る
ものであることなどからすれば,和解から生じた本件債務免除益は,一
時的かつ偶発的な所得であり,一時所得にほかならないなどと主張する。
しかしながら,所得税法において,借入金が借主の所得とされていな
いのは,借入金を取得すると同時に,当該借入金を弁済する債務を負い,10
借主の純資産が増加しないことによるものと解されるところ,上記債務
が免除された場合には,借入金額とそれまでの弁済額の差額について純
資産が増加することになり,当該差額が所得として観念されることにな
るのであるから,借入金の債務免除益の所得区分の判断に当たっては,
当該借入れの目的や当該借入金の取得に係る経済的利益の性質をおよそ15
考慮する必要がないとするのは相当ではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(イ)また,原告は,一の所得の中に複数の所得区分が混在する所得は,
いずれか一つの所得区分に該当することになるとし,本件債務免除益に
ついても,その全体として一つの所得区分に該当し,複数の所得区分に20
該当することはない旨を主張するが,所得区分の判断に当たり,上記の
とおり解さなければならない理由は見当たらない。
(2)不動産所得について
ア債務免除益の不動産所得該当性
不動産所得とは,不動産,不動産の上に存する権利,船舶又は航空機の25
貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産を使用させること
を含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)
をいい,不動産所得を生ずべき業務に関し,当該業務の全部又は一部の休
止,転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得す
る補償金その他これに類するものについて,その業務の遂行により生ずべ
き不動産所得に係る収入金額に代わる性質を有するものも不動産所得に該5
当するものとされている(所得税法26条1項,所得税法施行令94条1
項2号)。
ところで,所得税法36条1項は,「その年分の各種所得の金額の計算
上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額」と規定してい
るほか,同法は,各種所得の金額について,利子所得(同法23条2項),10
配当所得(同法24条2項),給与所得(同法28条2項)及び退職所得
(同法30条2項)については「収入金額」,不動産所得(同法26条2
項),事業所得(同法27条2項),山林所得(32条2項),譲渡所得
(33条3項),一時所得(34条2項)及び雑所得(35条2項2号)
については「総収入金額」と規定し,「収入金額」と「総収入金額」とを15
区別しているが,かかる区別は,利子所得等については,その収益の内容
が比較的単純であるのに対し,不動産所得等については,副収入や付随収
入等も加わってその収益の内容が複雑な場合が多いことによるものと解さ
れる。
そうすると,不動産所得には,不動産を使用収益させる対価として受け20
取る利益又はこれに代わる性質を有する利益にとどまらず,不動産貸付業
務の遂行による副収入や付随収入等も含まれ,かかる付随収入等には,金
銭のみならず金銭以外の物や経済的な利益も含まれると解するのが相当で
ある。
イ本件債務免除益の不動産所得該当性について25
(ア)本件借入金のうち順号4の借入金債務の返済に充てられた部分につ
いて
a認定事実によれば,原告は,平成6年11月29日にE農協から借
り入れた1200万円を同月21日に購入した農地の対価の支払に充
てているが,同農地を宅地に転用し,賃貸用マンション(P)の敷地
として利用し始めたのは,それから約5年後の平成12年2月29日5
であって,農地の購入から宅地への転用までの間に相当程度の期間が
あることが認められる。そして,認定事実によれば,原告は,E農協
の不良債権の処理のためにE農協の依頼に応じて,E農協から金銭を
借り入れて農地を購入することもあったことが認められ,このことも
併せ鑑みると,上記借入金は,原告の不動産貸付業務の遂行に関わり10
なく借り入れられたものであることが否定できない。
したがって,本件借入金のうち順号4の借入金債務の返済に充てら
れた部分に係る債務免除益が原告の不動産貸付業務の遂行と関連性を
有するものとは認められない。
bこれに対し,被告は,順号4の借入金が賃貸用不動産の取得に充て15
られており,不動産賃貸業務の遂行と関連性を有すると主張するが,
上記aに説示したとおり,不動産貸付業務の遂行とは関わりなく借り
入れられた金銭により購入された農地が,結果として不動産貸付業務
に供されたにすぎない可能性があることからすれば,上記借入金をも
って購入された農地が,その後不動産貸付業務に利用されているとい20
う事実のみをもって,上記借入金が不動産貸付業務の遂行と関連性を
有するということはできない。
その他,被告は,X税理士が,本件借入金の利息が原告の事業所得
か不動産所得のいずれかの必要経費となることを前提とする陳述(甲
23)をしている旨を主張するが,X税理士の陳述を前提にしても,25
原告の所得について厳密な所得区分の判断をした上で確定申告が行わ
れていた様子はうかがわれないのであって,上記陳述をもってしても,
上記判断を左右しない。
c以上によれば,本件借入金のうち順号4の借入金債務の返済に充て
られた部分に係る債務免除益が不動産所得に当たると認めることはで
きない。5
(イ)本件借入金のうち順号12の借入金債務の返済に充てられた部分に
ついて
a認定事実によれば,原告は,平成8年2月7日にE農協から借り入
れた300万円を同日に購入した農地の対価の支払に充てているが,
同農地を宅地に転用し,賃貸用マンション(P)の敷地として利用し10
始めたのは,それから約4年後の平成12年2月29日であって,農
地の購入から宅地への転用までの間に相当程度の期間があることが認
められる。そして,認定事実によれば,原告は,E農協の不良債権の
処理のためにE農協の依頼に応じて,E農協から金銭を借り入れて農
地を購入することもあったことが認められ,このことも併せ鑑みると,15
上記借入金は,原告の不動産貸付業務の遂行に関わりなく借り入れら
れたものであることが否定できない。
したがって,本件借入金のうち順号12の借入金債務の返済に充て
られた部分に係る債務免除益が原告の不動産貸付業務の遂行と関連性
を有するものとは認められない。20
bこれに対し,被告は,順号12の借入金が賃貸用不動産の取得に充
てられており,不動産賃貸業務の遂行と関連性を有することなどを主
張するが,これをもって上記借入金が不動産貸付業務の遂行と関連性
を有するということはできないことなどは前記(ア)bと同様である。
c以上によれば,本件借入金のうち順号12の借入金債務の返済に充25
てられた部分に係る債務免除益が不動産所得に当たると認めることは
できない。
(ウ)本件借入金のうち順号26の借入金債務の返済に充てられた部分に
ついて
認定事実及び証拠(乙39)によれば,原告は,平成10年1月14
日にE農協から「運転資金」として借り入れた3600万円を賃貸用の5
共同住宅(Q)の建築費用の支払に充てていることが認められ,原告は,
上記共同住宅の建築資金に充てる目的で上記借入れを行ったと認めるこ
とができる。そうすると,上記借入金については,不動産貸付業務の用
に供される建物の建築資金として同業務の遂行のために借り入れられた
ものであり,同業務のいわば運転資金的性質を有しているものと評価で10
き,本件借入金のうち順号26の借入金債務の返済に充てられた部分に
係る借入金及びその債務免除益も同様の性質を有するものと理解できる
(なお,本件債務免除は,順号26の借入金債務ではなく,本件借入金
債務について行われているものであるが,本件借入金のうち順号26の
借入金債務の返済に充てられた部分の借入れは単なる借換え等であり,15
実質的にはなお上記業務の運転資金的性質を有しているものと評価でき
る。)。
そうすると,本件借入金のうち順号26の借入金債務の返済に充てら
れた部分に係る債務免除益については,原告の不動産貸付業務の遂行に
よる収入ということができ,不動産所得に当たると認めることができる。20
(3)事業所得について
ア所得税法27条1項は,「事業所得とは,農業,漁業,製造業,卸売業,
小売業,サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山
林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。」と規定している
ところ,不動産所得と同様,事業所得についても「総収入金額」と規定さ25
れていることなどに鑑みると,事業所得には,事業の本来的な収入にとど
まらず,事業の遂行による副収入や付随収入等も含まれるものと解される。
イ本件債務免除益の事業所得該当性について
(ア)本件借入金のうち順号11の借入金債務の返済に充てられた部分に
ついて
a認定事実によれば,原告は,平成8年1月30日にE農協から借り5
入れた2300万円を同月22日に購入した農地(畑)の対価の支払
に充て,現在も当該農地(畑)を所有していることが認められるが,
他方で,原告は,E農協の不良債権の処理のためにE農協の依頼に応
じて,E農協から金銭を借り入れて農地を購入することもあったこと
からすると,上記借入金は,原告の事業の遂行に関わりなく借り入れ10
られたものであることが否定できない。
したがって,本件借入金のうち順号11の借入金債務の返済に充て
られた部分に係る債務免除益は原告の事業の遂行と関連性を有するも
のとは認められない。
bこれに対し,被告は,順号11の借入金が農地の取得の対価に充て15
られており,農地の取得は,原告の農業の遂行と関連性を有すると主
張するが,そもそも上記農地が原告の農業の用に供されていることを
示す的確な証拠はなく,その点を措くとしても,当該農地が,事業(農
業)の遂行とは関わりなく借り入れられた金銭により購入されたもの
であり,結果として事業(農業)の用に供されたにすぎない可能性が20
ある以上,上記借入金が事業の遂行と関連性を有するということはで
きない。
また,被告は,本件借入金に係る平成20年分の約定利息及び遅延
利息の合計額の全額が,原告の同年分の事業所得の総勘定元帳に記載
され,事業所得の金額の計算上必要経費の額に算入されているなどと25
主張するが,そもそも約定利息及び遅延損害金が事業所得として総勘
定元帳に記載されていること自体が適切でない可能性が否定できない。
その他,被告は,X税理士が,本件借入金の利息が原告の事業所得
か不動産所得のいずれかの必要経費となることを前提とする陳述(甲
23)をしている旨も主張するが,この点については前記(2)イ(ア)
bに説示したとおりである。5
c以上によれば,本件借入金のうち順号11の借入金債務の返済に充
てられた部分に係る債務免除益が事業所得に当たると認めることはで
きない。
(イ)本件借入金のうち順号20の借入金債務の返済に充てられた部分に
ついて10
a認定事実によれば,原告は,平成9年4月25日にE農協から借り
入れた1600万円を同月1日に購入した農地(畑)の対価の支払に
充てているが,上記農地は,上記購入の頃である同年の地目変更を原
因として,その地目が雑種地に変更されており,上記購入の頃には農
地ではなく,雑種地になっていたことがうかがわれる。そして,認定15
事実によれば,原告は,E農協の不良債権の処理のためにE農協の依
頼に応じて,E農協から金銭を借り入れて農地を購入することもあっ
たことが認められ,このことも併せ鑑みると,上記借入金は,原告の
事業の遂行に関わりなく借り入れられたものであることが否定できな
い。20
したがって,本件借入金のうち順号20の借入金債務の返済に充て
られた部分に係る債務免除益も原告の事業の遂行と関連性を有するも
のとは認められない。
bこれに対し,被告は,順号20の借入金が農地の取得の対価に充て
られており,農地の取得は,原告の農業の遂行と関連性を有するなど25
と主張するが,上記借入金が事業の遂行と関連性を有するということ
はできないことなどは,前記(ア)bと同様である。
c以上によれば,本件借入金のうち順号20の借入金債務の返済に充
てられた部分に係る債務免除益が事業所得に当たると認めることはで
きない。
(ウ)本件借入金のうち順号24の借入金債務の返済に充てられた部分に5
ついて
a認定事実によれば,原告は,平成9年11月20日にE農協から借
り入れた2000万円を同月21日に購入した各農地(いずれも田)
の対価の支払に充てているが,上記各農地は,上記借入れ等から約4
年後の平成13年10月2日に他の農地と交換された上,同交換から10
約2年7か月後の平成16年4月27日に同交換後の農地がF株式会
社に売却されたことが認められ,原告において,交換前及び交換後の
各農地を長期間所有することなく,他に所有権を移転している。そし
て,認定事実によれば,原告は,E農協の不良債権の処理のためにE
農協の依頼に応じて,E農協から金銭を借り入れて農地を購入するこ15
ともあったことが認められ,このことも併せ鑑みると,上記借入金は,
原告の事業の遂行に関わりなく借り入れられたものであることが否定
できない。
したがって,本件借入金のうち順号24の借入金債務の返済に充て
られた部分に係る債務免除益が原告の事業の遂行と関連性を有するも20
のとは認められない。
bこれに対し,被告は,順号24の借入金が農地の取得の対価に充て
られており,農地の取得は,原告の農業の遂行と関連性を有するなど
と主張するが,上記借入金が事業の遂行と関連性を有するということ
はできないことなどは,前記(ア)bと同様である。25
c以上によれば,本件借入金のうち順号24の借入金債務の返済に充
てられた部分に係る債務免除益が事業所得に当たると認めることはで
きない。
(エ)借入金A及び本件借入金のうち順号25の借入金債務の返済に充て
られた部分について
a認定事実によれば,原告は,平成9年12月12日にE農協から借5
り入れた1100万円を同日に購入した農地(畑)の対価の支払に充
てているが,上記農地は,上記借入れ等から約1年3か月後の平成1
1年2月17日に他の農地と交換された上,同交換から約5年6か月
後の平成16年8月27日の地目変更を原因として同交換後の農地の
地目が雑種地に変更されたほか,平成22年7月27日に同地目変更10
後の土地がF株式会社に売却されたことが認められ,原告において,
交換前の農地を長期間所有することなく,他に所有権を移転し,交換
後の農地は一定の期間を経て農地としての性質を失っていることがう
かがわれる。そして,認定事実によれば,原告は,E農協の不良債権
の処理のためにE農協の依頼に応じて,E農協から金銭を借り入れて15
農地を購入することもあったことが認められ,このことも併せ鑑みる
と,上記借入金は,原告の事業の遂行に関わりなく借り入れられたも
のであることが否定できない。
したがって,本件借入金のうち借入金A及び順号25の借入金債務
の返済に充てられた部分に係る債務免除益が原告の事業の遂行と関連20
性を有するものとは認められない。
bこれに対し,被告は,借入金A及び順号25の借入金が農地の取得
の対価に充てられており,農地の取得は,原告の農業の遂行と関連性
を有するなどと主張するが,上記借入金が事業の遂行と関連性を有す
るということはできないことなどは,前記(ア)bと同様である。25
c以上によれば,本件借入金のうち借入金A及び順号25の借入金債
務の返済に充てられた部分に係る債務免除益が事業所得に当たると認
めることはできない。
(オ)本件借入金のうち順号27の借入金債務の返済に充てられた部分に
ついて
認定事実によれば,原告は,平成10年2月2日にE農協から借り入5
れた4400万円のうちの4200万円を含む合計5200万円を原告
が平成9年11月28日に借り入れた4900万円(返済時点での残債
務は4922万9058円)の返済に充てたほか,上記4900万円の
借入金を含む合計5128万5118円を農業用機械の購入資金に充て
られた借入金債務(返済当時の残債務は合計841万3182円)等の10
返済に充てたことが認められる。そして,原告が農業を営む者であるこ
とからすれば,上記農業用機械の購入資金に係る借入金は,原告の事業
(農業)の運転資金的性質を有するものであり,上記借換えの経緯等に
照らせば,順号27の借入金のうち652万2835円(4400万×
(4200万円/4400万円)×(4922万9058円/520015
万円)×(841万3182円/5128万5118円)。順号27の
借入金の14.8%)及び本件借入金のうち順号27の借入金(上記6
52万2835円の部分に限る。)の返済に充てられた部分及びその債
務免除益も同様の性質を有するものと評価できる(なお,本件借換え等
などによっても上記借入金等がなお運転資金的性質を有すると評価でき20
ることは前記(2)イ(ウ)と同様である。)
そうすると,本件借入金のうち順号27の借入金(上記652万28
35円の部分に限る。)の返済に充てられた部分に係る債務免除益につ
いては,原告の事業(農業)の遂行による収入ということができ,事業
所得に当たると認めることができる。25
(4)一時所得について
ア所得税法34条1項は,「一時所得とは,利子所得,配当所得,不動産
所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得以外の所得
のうち,営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で
労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをい
う。」と規定しており,一時所得に当たるというためには,当該所得が,5
上記利子所得ないし譲渡所得以外の所得であることを前提として,①営利
を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得であること(非
継続性要件),②労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を
有しないものであること(非対価性要件)が必要である。
イ非継続性要件について10
(ア)前記のとおり,ある所得が一時所得に当たるというためには,非継
続性要件を満たすことが必要であり,営利を目的とする継続的行為から
生じた所得であるか否かは,文理に照らし,行為の期間,回数,頻度そ
の他の態様,利益発生の規模,期間その他の状況等の事情を総合考慮し
て判断するのが相当である(最高裁平成26年(あ)第948号同2715
年3月10日第三小法廷判決・刑集69巻2号434頁)。
(イ)被告は,本件債務免除益のうち不動産所得あるいは事業所得に該当
しない部分(以下,この部分のみを指して「本件債務免除益」というこ
ともある。)は,その元となる債務が,原告とTとの通謀関係に基づい
て,E農協から長期間にわたり繰り返し受けた多額の不正融資であって,20
原告は,かかる債務に関するE農協への償還を滞らせ続けた上,E農協
とδ農協との合併に関する事情を知りながら,自身のE農協に対する債
務について引き延ばし工作とも思える提案を繰り返したり,E農協の原
告に対する債権をU機構に売却するとの方針について,民事訴訟を提起
するなどと発言する一方,借入金の一部を返済することを条件に残債務25
の免除を申し出たりして,本件債務免除を受けたものであることからす
れば,本件旧借入金の借入れから本件債務免除に至るまでの各行為が本
件債務免除に向けられたものであり,一連の継続的行為から本件債務免
除がされたものと評価できるなどとして,非継続性要件を欠くと主張す
る。
aしかしながら,まず,原告がE農協から継続的に借入れを行ってい5
た点について見ると,認定事実及び証拠(原告6頁~7頁)によれば,
本件債務免除がされた背景にあるE農協とδ農協との合併は,平成1
8年頃から計画されるようになっているが,当該合併の計画よりも前
の平成2年頃から平成4年頃まで及び平成13年頃から平成14年頃
までにも,二度にわたってE農協とδ農協との合併が計画されたが,10
いずれもE農協の臨時総会において否決されたことを原因として合併
に至らなかったというのであって,平成18年頃に三度目の合併が計
画され,かつ,当該合併において原告に対する債権が支障になるとい
う事情が発生したこと自体が偶発的なものといわざるを得ず,同計画
がされるより前から,原告においてかかる状況を当然に想定していた15
と認めることもできない。そして,認定事実及び弁論の全趣旨によれ
ば,原告は,平成10年2月2日までには本件旧借入金に係る借入れ
を行った上で,平成11年10月29日に本件借換え等を行い,それ
以降,本件借入金債務の償還を怠っていることが認められるが,これ
らの事情はいずれも上記三度目の合併の計画がされ始める頃より前の20
事情を中心とするものである。そうすると,原告は,将来的にE農協
とδ農協との合併を契機に本件債務免除を受けることまで想定して,
本件旧借入金の借入れあるいは本件借換え等,さらにはE農協に対す
る償還を怠っていたというものともいえないことからすれば,本件債
務免除は,原告による継続的な借入行為等そのものではなく,その結25
果としての多額の借入金債務の存在を背景として行われたものと評価
できるにすぎないというべきであり,被告が主張するように原告によ
るE農協からの借入れ等が本件債務免除に向けられたものであるとは
当然には評価し難い。このことは原告のE農協からの借入れがTと通
謀してされた不正なものであったか否かによって変わるものではない。
bまた,原告が,E農協とδ農協との合併に関する事情を知りながら,5
自身のE農協に対する債務について引き延ばし工作とも思える提案を
繰り返したり,U機構に対して債権を売却することに反対したりする
などしたという被告の主張を前提にしても,原告が上記のような行為
をしたからといって,E農協が本件債務免除をしなければならない必
然性はなく,原告のそれらの行為もE農協における原告に対する不良10
債権の処理方法に係る判断の際の考慮事情の一つになるにすぎないと
いうべきであるところ,認定事実のとおり,E農協としては,δ農協
との合併の早期実現のほか,原告からの債権回収の可否,債権回収の
ための時間及び費用等を総合的に考慮した結果,本件債務免除により
解決を図るとの判断をしたというのであり,本件債務免除は,そのよ15
うなE農協の判断の結果にすぎないというべきである。
cそうすると,被告が主張するような上記事情をもってしても,本件
債務免除益が営利を目的とする継続的な行為から生じたものであると
評価できるものではない。
(ウ)以上によれば,本件債務免除益については,非継続性要件を満たさ20
ないものとはいえない。
ウ非対価性要件について
(ア)前記のとおり,ある所得が一時所得に当たるというためには,非対
価性要件を満たすことが必要であるが,非対価性要件が必要とされたの
は,対価性を有する所得は,確定的な対価を得ようとする稼得意思又は25
行為に起因するものであり,偶発的な所得とはいえず,類型的に担税力
が低いとはいえないことによるものと解される。
(イ)被告は,原告が,E農協とδ農協との合併に向けて,E農協の不良
債権の処理が求められている状況下において,E農協に対して多額の借
入金債務を負い,事実上,上記合併を左右し得る特別な立場にあったこ
とを前提に,硬軟織り交ぜた交渉の末,本件債務免除がされたなどとし5
て,本件債務免除益は,偶発的に生じたものとはいえないし,上記合併
に協力する見返りとしての性質を持つものであって,非対価性要件を満
たさないなどと主張する。
しかしながら,原告がE農協の正組合員としての地位を超えて,上記
合併の可否について影響を及ぼし得る法的な権利を有していたことを認10
めるに足りる的確な証拠はなく,被告の主張する「特別な立場」とは,
それ自体が極めてあいまいなものにとどまるといわざるを得ない。また,
前記イに説示したような原告の言動はE農協における原告に対する不良
債権の処理方法に係る判断の際の考慮事情の一つになるにすぎないので
あって,本件債務免除は,原告のδ農協との合併に対する協力への見返15
りという点ではなく,E農協が,当時の状況に鑑みて,原告に対する不
良債権の処理として,E農協にとって適切と判断した方法を採用した結
果にすぎないというべきである。
(ウ)以上によれば,本件債務免除益については,非対価性要件も満たさ
ないものとはいえない。20
エ小括
したがって,本件債務免除益のうち不動産所得あるいは事業所得に該当
しない部分は一時所得に当たるというのが相当である。
3争点(2)(理由の差し替えの可否)について
原告は,青色申告の理由付記制度の争点明確化機能や不服申立前置主義のス25
クリーニング機能からすれば,処分理由の差し替えは,課税要件事実の同一性
が担保されている場合でなければ許されないと解すべきであるとした上で,原
告とTとが通謀して不正に資金提供を受けたなどの事情を前提として,本件債
務免除益のうち明確な所得区分ができない部分につき,一時所得ではなく,雑
所得であるとの理由の差し替えを行うことは許されず,また,本件更正処分に
おいて一切主張することのなかった配当所得の存在を主張することは,争点主5
義的運営を無視するものであり,許されないと主張する。
(1)上記主張のうち,本件債務免除益のうち,事業所得又は不動産所得に当た
らない部分について,そもそも雑所得に当たらないことは前記2(4)のとおり
である。
(2)また,証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成21年分の10
原告の配当所得として,n株式会社からの配当金の存在を本件訴訟に至って
初めて主張したことが認められるものの,課税処分の取消訴訟における実体
上の審判の対象は,当該課税処分によって確定された税額の適否であること
(いわゆる総額主義。最高裁平成2年(行ツ)第155号同4年2月18日
第三小法廷判決・民集46巻2号77頁)などに鑑みれば,本件訴訟におい15
て上記配当所得の主張が許されないものとは解されない。
なお,原告は,理由付記制度の争点明確化機能や不服申立前置主義のスク
リーニング機能などをもって,理由の差し替えは,課税要件事実の同一性が
担保されている場合でなければ許されないとも主張するが,上記理由付記制
度の一般的な理解等をもって,直ちに上記のとおりに解されるものではなく,20
原告の主張は採用することができない。
4争点(3)(国税通則法65条4項所定の正当な理由の有無)について
(1)国税通則法65条4項は,修正申告書の提出又は更正に基づき納付すべ
き税額に対して課される過少申告加算税につき,その納付すべき税額の計算
の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎と25
されていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場
合には,その事実に対応する部分についてはこれを課さないこととしている
が,過少申告加算税の上記の趣旨に照らせば,同項にいう「正当な理由があ
ると認められる」場合とは,真に納税者の責めに帰することのできない客観
的な事情があり,上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても,なお,
納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうもの5
と解するのが相当である(最高裁平成17年(行ヒ)第9号同18年4月2
0日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁,最高裁平成16年(行ヒ)
第86号,第87号同18年4月25日第三小法廷判決・民集60巻4号1
728頁参照)。
(2)原告は,X税理士が所得区分に係る税務指導を再三要請していたにもかか10
わらず,適切な税務指導がなされることがなかったことをもって,「正当な
理由があると認められる」場合に当たると主張するが,証拠(甲10)によ
れば,X税理士において所持する資料が不足していたことにより,原告のE
農協からの借入金の使途が判然とせず,その所得区分が判断できなかったた
め,税務指導を要請していたというにすぎず,結局のところ,原告自らの借15
入金に係る事情を自身で適切に把握できていなかったことが主たる原因であ
るというべきである。
したがって,国税通則法65条4項所定の「正当な理由があると認められ
る」場合に当たるとは認められない。
5原告のその余の主張について20
(1)原告は,本件更正処分等が処分行政庁による違法な税務調査(調査不尽)
に基づくものであり,取り消されるべきと主張するが,原告の主張をもって
本件更正処分等が取り消されるべきものになるとは解されない。
(2)また,原告は,被告の主張等につき時機に後れた攻撃防御方法の提出であ
るなどと縷々主張するが,いずれも訴訟の完結を遅延させることになるとは25
認められない。
6本件更正処分等の適法性
(1)本件更正処分について
以上の判断を前提とすると,証拠(甲1,乙1)及び弁論の全趣旨によれ
ば,原告の平成21年分の所得税の総所得金額及び納付すべき税額は,別紙
3「所得税額等計算書」の「1原告の平成21年分の所得税の総所得金額5
及び納付すべき税額」のとおりと認めることができ,本件更正処分のうち総
所得金額2億8672万8691円及び納付すべき税額1億0264万80
00円を超える部分は違法である。
(2)本件賦課決定処分について
原告に課されるべき過少申告加算税の額は,別紙3「所得税額等計算書」10
の「2過少申告加算税の額」のとおりと認めることができ,本件賦課決定
処分のうち162万4500円を超える部分は違法である。
第4結論
以上によれば,本件更正処分のうち,総所得金額2億8672万8691円及
び納付すべき税額1億0264万8000円を超える部分並びに本件賦課決定処15
分のうち162万4500円を超える部分は,違法であり,取り消されるべきも
のである。
よって,原告の請求は,上記の限度で理由があるからこれを認容することとし,
その余の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決す
る。20
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官林俊之
裁判官衣斐瑞穂
裁判官池田好英は,転補につき,署名押印することができない。
裁判長裁判官林俊之
(別紙1省略)
(別表1省略)
(別表2省略)
(別表3省略)10
(別表4省略)
(別紙3)
所得税額等計算書
1原告の平成21年分の所得税の総所得金額及び納付すべき税額
(1)総所得金額(別表4の「当裁判所の認定」欄の順号①)5
2億8672万8691円
上記金額は,原告の平成21年分の総所得金額であり,以下のアの事業所得
の金額,イの不動産所得の金額,ウの配当所得の金額,エの給与所得の金額及
びオの一時所得の金額の合計金額である。
ア事業所得の金額(別表4の「当裁判所の認定」欄の順号②)10
△5453万6025円
上記金額は,原告が本件修正申告書に記載した事業所得の金額△5484
万9340円に係る総収入金額及び必要経費について,本件債務免除のうち,
事業所得に当たる部分の金額32万1665円(別表5「本件債務免除益の所
得区分ごとの総収入金額に算入すべき金額」(以下「別表5」という。)の15
「計」欄の順号⑩)を総収入金額に,当該収入に係る遅延損害金の額(平成2
1年1月1日から同年3月27日までの間に発生したもの。後記イにおいて
同じ。)8350円(別表6「事業所得及び不動産所得の必要経費に算入すべ
き遅延損害金の額」(以下「別表6」という。)の「計」欄の順号⑦)を必要
経費にそれぞれ加算し,それぞれ加算後の総収入金額から必要経費を控除し20
た金額である。
イ不動産所得の金額(別表4の「当裁判所の認定」欄の順号③)
1億4883万8365円
上記金額は,原告が本件修正申告書に記載した不動産所得の金額9718
万0560円に係る総収入金額及び必要経費について,本件債務免除益のう25
ち,不動産所得に当たる部分の金額5303万4529円(別表5の「計」欄
の順号⑪)を総収入金額に,当該収入に係る遅延損害金の額137万6724
円(別表6の「計」欄・順号⑧)を必要経費にそれぞれ加算し,それぞれ加算
後の総収入金額から必要経費を控除した金額である。
ウ配当所得の金額(別表4「当裁判所の認定」欄の順号④)
50万円5
上記金額は,n株式会社の平成20年4月1日から平成21年3月31日
までの事業年度における剰余金の配当金額400万円(乙1)のうち,原告が
支払を受けるべき金額(400万円×12.5%)である。
エ給与所得の金額(別表4「当裁判所の認定」欄の順号⑤)
330万円10
上記金額は,原告が本件修正申告書に記載した金額と同額である。
オ一時所得の金額(別表4の「当裁判所の認定」欄の順号⑦)
1億8862万6351円
上記金額は,本件債務免除益のうち,一時所得に当たる部分の金額3億7
775万2703円(別表5の「計」欄の順号⑫)を総収入金額から,所得税15
法(平成22年法律第6号による改正前のもの)34条3項に規定する特別
控除額50万円を同条2項の規定に基づいて控除した金額の2分の1に相当
する金額(同法22条2項)である。
(2)上場株式等に係る譲渡所得等の金額(別表4の「当裁判所の認定」欄の順号
⑧)20
0円(△558万2078円)
上記括弧書きの金額は,原告の平成21年分の上場株式等に係る譲渡所得等
の金額の計算上生じた損失の金額であり,原告が本件修正申告書に記載した金
額と同額である。
なお,株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上生じた損失の金額については,25
平成22年法律第6号による改正前の租税特別措置法37条の10第1項後段
の規定により生じなかったものとみなされることから,当該金額は0円となる。
(3)所得控除の合計額(別表4の「当裁判所の認定」欄の順号⑨)
187万0226円
上記金額は,医療費控除,社会保険料控除,小規模企業共済等掛金控除,生
命保険料控除,地震保険料控除及び基礎控除の金額の合計額であり,原告が本5
件修正申告書に記載した金額と同額である。
(4)課税総所得金額(別表4の「当裁判所の認定」欄の順号⑩)
2億8485万8000円
上記金額は,前記(1)の総所得金額2億8672万8691円から前記(3)の
所得控除の額の合計額187万0226円を控除した後の金額(ただし,国税通10
則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)
である。
(5)課税総所得金額に対する税額(別表4の「当裁判所の認定」欄の順号⑪)
1億1114万7200円
上記金額は,前記(4)の課税総所得金額2億8485万8000円に,所得税15
法89条1項に規定する税率を乗じて算出した金額である。
(6)納付すべき税額(別表4「当裁判所の認定」欄の順号⑯)
1億0264万8000円
上記金額は,前記(5)の金額から,次のア,イ及びウの各金額を差し引いた後
の金額(ただし,国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切20
り捨てた後のもの)である。
ア配当控除の額(別表4「当裁判所の認定」欄の順号⑫)
2万5000円
上記金額は,所得税法92条に基づき,前記(1)ウの金額に100分の5を
乗じて算出した金額である,25
イ源泉徴収税額(別表4「当裁判所の認定」欄の順号⑬)
72万1600円
上記金額は,原告が本件修正申告書に記載した金額62万1600円に,
所得税法182条2号に基づき,前記(1)ウの金額に100分の20を乗じて
算出した,配当所得に係る源泉徴収税額10万円を加算した額である。
ウ予定納税額(別表4「当裁判所の認定」欄の順号⑮)5
775万2600円
上記金額は,原告が本件修正申告書に記載した金額と同額である。
2過少申告加算税の額
原告に課されるべき過少申告加算税の額は,国税通則法65条1項の規定によ
り新たに納付すべきこととなった税額1083万円(ただし,同法118条3項10
の規定により1万円未満を切り捨てた後のもの)に100分の10の割合を乗じ
て算出した金額108万3000円及び同法65条2項により新たに納付すべき
こととなった税額1083万円(ただし,同法118条3項の規定により1万円
未満を切り捨てた後のもの)に100分の5の割合を乗じて算出した54万15
00円との合計額162万4500円となる。15
以上

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