弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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            主     文
 本件上告を棄却する。
       上告費用は上告人の負担とする。
            理     由
 上告代理人金田悦郎の上告理由及び上告受理申立て理由について
 1 記録によれば,本件の概要は,次のとおりである。
 (1) 上告人は,昭和56年12月16日から平成5年4月25日までの間,D
農業協同組合(以下「旧組合」という。)の専務理事の地位にあった。
 (2) 旧組合は,第1審判決別紙「有価証券売却表」記載のとおり,平成元年9
月20日から平成2年2月15日にかけて株式投資信託を購入したが,旧組合にお
いては,同年4月22日に定款が改正されるまでは,投資信託の購入は,定款上,
認められていなかった。
 (3) 旧組合は,平成11年7月28日,上告人に対し,旧組合がした上記投資
信託の購入に関し,上告人に理事としての善管注意義務又は忠実義務に違反する行
為があったなどと主張して,上記投資信託の値下がりにより旧組合が被った損害の
賠償を求める本件訴訟を提起した。
 (4) 旧組合は,平成12年3月1日に他の農業協同組合と合併し,被上告人が
設立された。
 (5) 本件訴訟は,旧組合の代表理事であるEを代表者として提起され,同人か
ら委任された訴訟代理人によって追行されたものであり,上記合併後は,上記合併
により旧組合の訴訟上の地位を承継した被上告人の代表理事であるFから委任され
た訴訟代理人により追行されている。
 (6) 上告人は,退任後の理事である上告人を相手方として提起された本件訴訟
において旧組合及びその地位を承継した被上告人を代表する権限を有するのは,そ
の監事であるから,旧組合及び被上告人の代表理事から委任を受けた訴訟代理人に
よる本件訴訟の提起,追行は,訴訟行為をするのに必要な授権を欠いている旨主張
している。
 2 商法275条ノ4前段の規定(以下,単に「前段の規定」といい,同条後段
の規定を「後段の規定」という。)は,会社が取締役に対し又は取締役が会社に対
し訴えを提起する場合においては,その訴えについては監査役が会社を代表する旨
を定めており,農業協同組合法39条2項は,農業協同組合の監事について,商法
275条ノ4の規定を,その規定中の「取締役」を「理事若ハ経営管理委員」と読
み替えるなどした上で準用している。
 そこで,まず,商法275条ノ4の規定の趣旨等についてみるに,会社の代表取
締役は,特別の法律の定めがない限り,その営業に関する一切の裁判上の行為をす
る権限を有し,会社が当事者となる訴訟において会社を代表する権限を有するもの
である(商法261条3項,78条1項)。前段の規定は,その特則規定として,
会社と取締役との間の訴訟についての会社の代表取締役の代表権を否定し,監査役
が会社を代表する旨を定めているが,その趣旨,目的は,訴訟の相手方が同僚の取
締役である場合には,会社の利益よりもその取締役の利益を優先させ,いわゆるな
れ合い訴訟により会社の利益を害するおそれがあることから,これを防止すること
にあるものと解される(最高裁平成元年(オ)第1006号同5年3月30日第三
小法廷判決・民集47巻4号3439頁,最高裁平成9年(オ)第1218号同年
12月16日第三小法廷判決・裁判集民事186号625頁参照)。
 そして,過去において会社の取締役であったが,訴え提起時においてその地位に
ない者(以下「退任取締役」という。)が前段の規定中の「取締役」に含まれると
解するのは文理上困難であること,これを実質的にみても,訴訟の相手方が退任取
締役である場合には,その相手方が同僚の取締役である場合と同様の,いわゆるな
れ合い訴訟により会社の利益を害するおそれがあるとは一概にいえないことにかん
がみると,前段の規定にいう取締役とは,訴え提起時において取締役の地位にある
者をいうものであって,退任取締役は,これに含まれないと解するのが相当である。
 そうすると,前段の規定は,会社と退任取締役との間の訴訟についての会社の代
表取締役の代表権を否定する特則規定ではないから,会社の代表取締役は,会社が
退任取締役に対して提起する訴えについて会社を代表する権限を有するものと解す
べきである。
 もっとも,後段の規定は,商法267条1項の規定により株主が同項所定の「取
締役ノ責任ヲ追及スル訴」の提起を会社に請求する場合におけるその請求を受ける
こと等について監査役が会社を代表する旨を定めている。その趣旨は,監査役が取
締役の職務の執行を監査する権限を有し(商法274条1項),前段の規定により
会社と取締役との間の訴訟については監査役が会社を代表する旨定められたことか
ら,上記「取締役ノ責任ヲ追及スル訴」の提訴請求を会社が受けること等について
も,上記監査の権限を有する監査役において会社を代表することとされたものであ
る。そして,後段の規定の趣旨及び上記「取締役ノ責任ヲ追及スル訴」には退任取
締役に対するその在職中の行為についての責任を追及する訴訟も含まれ,その提訴
請求等についても監査役が会社を代表して受けることとされていることにかんがみ
ると,後段の規定は,監査役において,このような退任取締役に対する責任追及訴
訟を提起するかどうかを決定し,その提起等について会社を代表する権限を有する
ことを前提とするものであり,その権限の存在を推知させる規定とみるべきである。
そうすると,監査役は,後段の規定の趣旨等により,退任取締役に対するその在職
中の行為についての責任を追及する訴訟について会社を代表する権限を有するもの
と解するのが相当である。
 上記のように解する場合には,代表取締役の上記訴訟における代表権限が否定さ
れることになるのかが問題となるが,退任取締役に対する上記訴訟における監査役
の代表権限が前段の規定を直接的な根拠とするものでないことは,前段の規定に関
して前記説示したところから明らかである。監査役の上記代表権限の根拠は,上記
のとおり,後段の規定の趣旨等によるものであり,前段の規定のような会社の代表
取締役の代表権を否定する特則規定としては定められていないことからすると,監
査役が退任取締役に対する上記訴訟について会社を代表する権限を有することは,
会社と退任取締役との間の訴訟についての会社の代表取締役の代表権を否定するも
のではないと解すべきである。
 3 以上の点は,商法275条ノ4の規定を準用する農業協同組合法39条2項
の解釈においても同様である。すなわち,同項の規定により読み替えられる農業協
同組合(以下「組合」という。)の「理事」には,訴え提起時において退任してい
る理事は含まれないものと解すべきであるから,同項の規定により準用される商法
275条ノ4の規定は,組合と退任した理事との間の訴訟について組合の代表理事
の代表権を否定する特則規定ではないというべきである。そうすると,【要旨】組
合の代表理事は,組合が退任した理事に対して提起する訴えについて組合を代表す
る権限を有するものと解するのが相当である。
 してみると,旧組合の代表理事を代表者として提起され,同人及び訴訟を承継し
た被上告人の代表理事から委任された訴訟代理人により追行された本件訴訟におけ
る被上告人の訴訟行為には,違法とすべき点は認められないというべきである。原
判決は,これと同旨をいうものとして是認することができる。論旨は,いずれも採
用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤田宙靖 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田
豊三)

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