弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人松本晶行、同阪本政敬、同千本忠一、同川崎裕子、同吉川実、同桂充
弘、同竹下義樹の上告理由について
 一 原審の適法に確定したところによれば、本件の事実関係は次のとおりである。
 上告人は、昭和九年六月二五日大阪市で出生し、幼少のころ罹患したはしかによ
つて失明し、昭和三四年一一月一日において昭和五六年法律第八六号による改正前
の国民年金法(以下「法」という。)別表に定める一級に該当する程度の廃疾の状
態にあつた。上告人は、昭和三四年一一月一日においては大韓民国籍であつたとこ
ろ、昭和四五年一二月一六日帰化によつて日本国籍を取得した。上告人は、法八一
条一項の障害福祉年金の受給権者であるとして、被上告人に対し右受給権の裁定を
請求したところ、被上告人は、昭和四七年八月二一日同請求を棄却する旨の処分(
以下「本件処分」という。)をした。本件処分の理由は、上告人は昭和三四年一一
月一日において日本国民でなかつたから法八一条一項の障害福祉年金の受給権を有
しないというものであつた。
 二 法八一条一項は、昭和一四年一一月一日以前に生まれた者が、昭和三四年一
一月一日以前になおつた傷病により、昭和三四年一一月一日において法別表に定め
る一級に該当する程度の廃疾の状態にあるときは、法五六条一項本文の規定にかか
わらず、その者に同条の障害福祉年金を支給する旨規定しているが、法五六条一項
ただし書は廃疾認定日において日本国民でない者に対しては同条の障害福祉年金を
支給しない旨規定しており、法八一条一項の障害福祉年金の支給に関しても当然に
法五六条一項ただし書の規定の適用があるから、法八一条一項の障害福祉年金は、
廃疾の認定日である昭和三四年一一月一日において日本国民でない者に対しては支
給されないものと解すべきである。
 三 そこで、まず、法八一条一項が受ける法五六条一項ただし書の規定(以下「
国籍条項」という。)及び昭和三四年一一月一日より後に帰化によつて日本国籍を
取得した者に対し法八一条一項の障害福祉年金の支給をしないことが、憲法二五条
の規定に違反するかどうかについて判断する。
 憲法二五条は、いわゆる福祉国家の理念に基づき、すべての国民が健康で文化的
な最低限度の生活を営みうるよう国政を運営すべきこと(一項)並びに社会的立法
及び社会的施設の創造拡充に努力すべきこと(二項)を国の責務として宣言したも
のであるが、同条一項は、国が個々の国民に対して具体的・現実的に右のような義
務を有することを規定したものではなく、同条二項によつて国の責務であるとされ
ている社会的立法及び社会的施設の創造拡充により個々の国民の具体的・現実的な
生活権が設定充実されてゆくものであると解すべきこと、そして、同条にいう「健
康で文化的な最低限度の生活」なるものは、きわめて抽象的・相対的な概念であつ
て、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、
一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであると
ともに、同条の規定の趣旨を現実の立法として具体化するに当たつては、国の財政
事情を無視することができず、また、多方面にわたる複雑多様な考察とそれに基づ
いた政策的判断を必要とするから、同条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのよう
な立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それ
が著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除
き、裁判所が審査判断するに適しない事柄であるというべきことは、当裁判所大法
廷判決(昭和二三年(れ)第二〇五号同年九月二九日判決・刑集二巻一〇号一二三
五頁、昭和五一年(行ツ)第三〇号同五七年七月七日判決・民集三六巻七号一二三
五頁)の判示するところである。
 そこで、本件で問題とされている国籍条項が憲法二五条の規定に違反するかどう
かについて考えるに、国民年金制度は、憲法二五条二項の規定の趣旨を実現するた
め、老齢、障害又は死亡によつて国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連
帯によつて防止することを目的とし、保険方式により被保険者の拠出した保険料を
基として年金給付を行うことを基本として創設されたものであるが、制度発足当時
において既に老齢又は一定程度の障害の状態にある者、あるいは保険料を必要期間
納付することができない見込みの者等、保険原則によるときは給付を受けられない
者についても同制度の保障する利益を享受させることとし、経過的又は補完的な制
度として、無拠出制の福祉年金を設けている。法八一条一項の障害福祉年金も、制
度発足時の経過的な救済措置の一環として設けられた全額国庫負担の無拠出制の年
金であつて、立法府は、その支給対象者の決定について、もともと広範な裁量権を
有しているものというべきである。加うるに、社会保障上の施策において在留外国
人をどのように処遇するかについては、国は、特別の条約の存しない限り、当該外
国人の属する国との外交関係、変動する国際情勢、国内の政治・経済・社会的諸事
情等に照らしながら、その政治的判断によりこれを決定することができるのであり、
その限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり、自国民を在留外国人より優先
的に扱うことも、許されるべきことと解される。したがつて、法八一条一項の障害
福祉年金の支給対象者から在留外国人を除外することは、立法府の裁量の範囲に属
する事柄と見るべきである。
 また、経過的な性格を有する右障害福祉年金の給付に関し、廃疾の認定日である
制度発足時の昭和三四年一一月一日において日本国民であることを要するものと定
めることは、合理性を欠くものとはいえない。昭和三四年一一月一日より後に帰化
により日本国籍を取得した者に対し法八一条一項の障害福祉年金を支給するための
措置として、右の者が昭和三四年一一月一日に遡り日本国民であつたものとして扱
うとか、あるいは国籍条項を削除した昭和五六年法律第八六号による国民年金法の
改正の効果を遡及させるというような特別の救済措置を講ずるかどうかは、もとよ
り立法府の裁量事項に属することである。
 そうすると、国籍条項及び昭和三四年一一月一日より後に帰化によつて日本国籍
を取得した者に対し法八一条一項の障害福祉年金の支給をしないことは、憲法二五
条の規定に違反するものではないというべく、以上は当裁判所大法廷判決(昭和五
一年(行ツ)第三〇号同五七年七月七日判決・民集三六巻七号一二三五頁、昭和五
〇年(行ツ)第一二〇号同五三年一〇月四日判決・民集三二巻七号一二二三頁)の
趣旨に徴して明らかというべきである。
 四 次に、国籍条項及び昭和三四年一一月一日より後に帰化によつて日本国籍を
取得した者に対し法八一条一項の障害福祉年金の支給をしないことが、憲法一四条
一項の規定に違反するかどうかについて考えるに、憲法一四条一項は法の下の平等
の原則を定めているが、右規定は合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであ
つて、各人に存する経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてそ
の法的取扱いに区別を設けることは、その区別が合理性を有する限り、何ら右規定
に違反するものではないのである(最高裁昭和三七年(あ)第九二七号同三九年一
一月一八日大法廷判決・刑集一八巻九号五七九頁、同昭和三七年(オ)第一四七二
号同三九年五月二七日大法廷判決・民集一八巻四号六七六頁参照)。ところで、法
八一条一項の障害福祉年金の給付に関しては、廃疾の認定日に日本国籍がある者と
そうでない者との間に区別が設けられているが、前示のとおり、右障害福祉年金の
給付に関し、自国民を在留外国人に優先させることとして在留外国人を支給対象者
から除くこと、また廃疾の認定日である制度発足時の昭和三四年一一月一日におい
て日本国民であることを受給資格要件とすることは立法府の裁量の範囲に属する事
柄というべきであるから、右取扱いの区別については、その合理性を否定すること
ができず、これを憲法一四条一項に違反するものということはできない。
 五 さらに、国籍条項が憲法九八条二項に違反するかどうかについて判断する。
 所論の社会保障の最低基準に関する条約(昭和五一年条約第四号。いわゆるIL
O第一〇二号条約)六八条1の本文は「外国人居住者は、自国民居住者と同一の権
利を有する。」と規定しているが、そのただし書は「専ら又は主として公の資金を
財源とする給付又は給付の部分及び過渡的な制度については、外国人及び自国の領
域外で生まれた自国民に関する特別な規則を国内の法令で定めることができる。」
と規定しており、全額国庫負担の法八一条一項の障害福祉年金に係る国籍条項が同
条約に違反しないことは明らかである。また、経済的、社会的及び文化的権利に関
する国際規約(昭和五四年条約第六号)九条は「この規約の締約国は、社会保険そ
の他の社会保障についてのすべての者の権利を認める。」と規定しているが、これ
は、締約国において、社会保障についての権利が国の社会政策により保護されるに
値するものであることを確認し、右権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推
進すべき政治的責任を負うことを宣明したものであつて、個人に対し即時に具体的
権利を付与すべきことを定めたものではない。このことは、同規約二条1が締約国
において「立法措置その他のすべての適当な方法によりこの規約において認められ
る権利の完全な実現を漸進的に達成する」ことを求めていることからも明らかであ
る。したがつて、同規約は国籍条項を直ちに排斥する趣旨のものとはいえない。さ
らに、社会保障における内国民及び非内国民の均等待遇に関する条約(いわゆるI
LO第一一八号条約)は、わが国はいまだ批准しておらず、国際連合第三回総会の
世界人権宣言、同第二六回総会の精神薄弱者の権利宣言、同第三〇回総会の障害者
の権利宣言及び国際連合経済社会理事会の一九七五年五月六日の障害防止及び障害
者のリハビリテーシヨンに関する決議は、国際連合ないしその機関の考え方を表明
したものであつて、加盟国に対して法的拘束力を有するものではない。以上のよう
に、所論の条約、宣言等は、わが国に対して法的拘束力を有しないか、法的拘束力
を有していても国籍条項を直ちに排斥する趣旨のものではないから、国籍条項がこ
れらに抵触することを前提とする憲法九八条二項違反の主張は、その前提を欠くと
いうべきである。
 六 以上と同旨の見解に立つて本件処分を適法とした原審の判断は、正当として
是認することができる。論旨は、採用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    佐   藤   哲   郎
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    四 ツ 谷       巖
            裁判官    大   堀   誠   一

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