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裁判例


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       主   文
1 原判決主文3ないし6項を取り消す。
2 上記取消しにかかる被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
 主文と同旨
2 被控訴人
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人の負担とする。
(以下,控訴人を「被告」,被控訴人を「原告」という。また,略称については原
判決のそれによる。)
第2 事案の概要
1 前提となる事実(証拠の掲記のない事実は,当事者間に争いがないか,当裁判
所に顕著な事実である。)。
(1) 原告は,銀行業を営む法人であるが,平成13年4月1日,旧商号の「株
式会社住友銀行」を現在の商号に変更するとともに,本店を「大阪市α6番5号」
から現在の本店所在地に移転した。
(2) 本件で問題となった取引その1(ペプシコ事案)
 原告(ニューヨーク支店)は,平成3年6月,アメリカ合衆国法人 Pepsi
co,Inc.(ペプシコ社)及びペプシコ社の子会社であるメキシコ国法人 S
abritas,S.A.de C.V.(サブリタス社)との間で,ペプシコ社
からサブリタス社への手形貸付に伴い,サブリタス社が振り出していた約束手形2
通を原告が買い取る旨の PURCHASE AND ASSIGNMENT A
GREEMENT(本件手形買取契約。甲1)及びLETTER AGREEME
NT(本件覚書。甲2)を締結した。
 その取引の経緯及び具体的内容については,原判決「事実及び理由」中の「第2
の4 取引の外形的事実」1に記載のとおりであるから,これを引用する。
 ただし,原判決16頁20行目の「稟議書等」の前に「本件取引に関する」を,
同末行の「外国税額控除」の次に「の余裕枠」を各加え,同19頁7行目,9行
目,11行目,22行目,同20頁13行目,同22頁19行目の各「本件約束手
形買取契約」をいずれも「本件手形買取契約」と,同19頁18行目の「本件約束
手形買取契約書」を「本件手形買取契約書」と,同20頁9行目の「期日前返済
日」を「期限前返済日」と各改める。
(3) 本件で問題となった取引その2(ロシコ事案)
 原告(ロンドン支店)は,平成3年9月,オランダ国法人 Rosyco B.
V.(ロシコ社)との間で,ロシコ社がその子会社であるオーストラリア国法人 
Cadella Investments Pty Ltd.(カデラ社)に対し
て有する貸付金債権の一部を原告が譲り受け,ロシコ社が原告に同額の預金をする
旨の AGREEMENT(本件債権譲受・預金契約。甲3)を締結した。
 その取引の経緯及び具体的内容については,原判決「事実及び理由」中の「第2
の4 取引の外形的事実」2に記載のとおりであるから,これを引用する。
 ただし,原判決24頁22~23行目の「貸付金としたものである」を「貸付金
とし,残金を出資金としたものである」と,同25頁1行目の「オーストラリアに
おける源泉税」を「オーストラリア国源泉税」と各改め,同3行目の「適用」の次
に「を受けることが」を,同5行目の「稟議書等」の前に「本件取引に関する」を
各加え,同9行目の「対等額」を「対当額」と改め,同22~23行目の「オース
トラリア」の次に「国」を,同末行の「外国税額控除」の次に「の余裕枠」を各加
え,同26頁1行目の「オーストラリア」の次に「国」を,同14行目の「外国税
額控除」の次に「の余裕枠」を各加え,同22行目の「2丁右下部分」を「2丁表
返済資金欄及び担保欄」と,同29頁18行目及び同23行目の各「債権譲受・預
金契約」をいずれも「本件債権譲受・預金契約」と各改める。
(4) 原告の確定申告
 原告は,平成4年3月期(平成3年4月1日から同4年3月31日までの事業年
度)及び平成5年3月期(平成4年4月1日から同5年3月31日までの事業年
度)の法人税につき,青色の確定申告書に,原判決別紙1(平成4年3月期の課税
状況表)及び同別紙2(平成5年3月期の課税状況表)の「①確定申告」欄記載の
とおり記載して,各法定申告期限までに被告に確定申告をしたが,その際,次のこ
とを根拠として申告をした。
ア 本件手形買取契約及び本件覚書に基づいて平成4年3月期にサブリタス社から
受領した貸付金利息に対して,メキシコ国において15パーセントの源泉税(3億
4813万2871円)を課された(甲4の1)。
イ また,本件債権譲受・預金契約に基づいて平成4年3月期と同5年3月期にカ
デラ社から受領した貸付金利息に対し,オーストラリア国においてそれぞれ10パ
ーセントの源泉税(3771万9016円と2637万6576円)を課された
(甲4の2・3)。
ウ 平成4年6月,同年3月期分の法人税の確定申告にあたり,法69条,施行令
141条2項3号に従い,前記メキシコ国源泉税のうち税率10パーセント分に相
当する2億3208万8580円とオーストラリア国源泉税3771万9016円
の合計2億6980万7596円の外国税額を控除して,所得金額を2327億7
932万2970円,納付すべき税額を610億6019万7000円とした。
エ また,平成5年6月,同年3月期分の法人税の確定申告にあたり,同様にオー
ストラリア国源泉税2637万6576円の外国税額を控除して,所得金額を11
19億4825万1152円,納付すべき税額を150億7927万1000円と
した。
(5) 平成7年3月31日付け更正処分までの経緯
 その後,本件各事業年度の法人税については,更正や更正の請求などがあり,平
成7年3月31日付けの更正時において,所得金額,納付すべき税額及び過少申告
加算税は,原判決別表1及び2記載のとおり,平成4年3月期がそれぞれ2335
億2128万6197円,613億5206万0700円及び22万6000円,
平成5年3月期がそれぞれ1116億0876万7628円,148億0652万
5400円及び676万4000円とされた。
(6) 本件各原更正処分
 これに対し,被告は,いずれも平成7年6月22日付けで,平成4年3月期の法
人税については原判決別紙1「⑤本件原処分」欄記載のとおり,平成5年3月期の
法人税については同別紙2「⑧本件原処分」欄記載のとおり,本件各原更正処分
(本件平成4年3月期原更正処分と本件平成5年3月期原更正処分)及び過少申告
加算税の各賦課決定処分を行った。
(7) 本件各原更正処分に対する審査請求
 原告は,平成7年8月21日,前項の各処分のうち,本件各原更正処分及び過少
申告加算税の各賦課決定処分の取消しを求める審査請求を国税不服審判所長に対し
行ったが,同所長は平成9年3月25日付けで,同審査請求をいずれも棄却する旨
の裁決をし,同裁決は同年4月4日ころに原告に送達された。
(8) 本件各再更正処分
 被告は,いずれも平成9年3月31日付けで,平成4年3月期の法人税につい
て,所得金額を2336億7007万6510円,法人税額を876億2627万
8500円(控除所得税額等259億4861万3937円,差引所得に対する法
人税額616億7766万4500円)とする更正処分(本件平成4年3月期再更
正処分)及びこれに係る重加算税を金2459万1000円とする加算税賦課決定
処分を行い,平成5年3月期の法人税について,所得金額を1120億3337万
4262円,法人税額を420億1251万5250円(控除所得税額等257億
8294万9033円,差引所得に対する法人税額162億2956万6200
円)とする更正処分(本件平成5年3月期再更正処分)及びこれに係る重加算税を
5724万2500円とする加算税賦課決定処分を行った。
 本件各再更正処分の新たな処分理由は,主位的請求として原告が取消しを求める
本件各原更正処分の処分理由と異なるもので,原告は当該処分理由には異議がなか
ったので,異議申立てあるいは審査請求等の不服申立てをしていない。
(9) なお,平成4年3月期の課税の経緯の詳細は,原判決「事実及び理由」中
の「第2の3の1 平成4年3月期」に記載のとおりであり(原判決別紙1参
照),平成5年3月期の課税の経緯の詳細は,同「第2の3の2 平成5年3月
期」に記載のとおりである(原判決別紙2参照)から,これらを引用する。
 ただし,原判決8頁3行目の「本件約束手形買取契約」を「本件手形買取契約」
と,同11行目の「メキシコ国」を「メキシコ国源泉税」と,同15頁10行目の
「⑨」を「⑪」と各改める。
2 原告の請求
 原告は,主位的に,
(1) 被告が原告に対して,平成7年6月22日付けでした原告の平成4年3月
期の法人税の更正のうち,納付すべき税額613億5206万0700円を超える
部分の取消し(原判決第1の1(1)に相当)
(2) 被告が原告に対して,平成7年6月22日付けでした原告の平成4年3月
期の法人税の過少申告加算税の賦課決定のうち22万6000円を超える部分の取
消し(同第1の1(2)に相当)
(3) 被告が原告に対して,平成7年6月22日付けでした原告の平成5年3月
期の法人税の更正のうち,納付すべき税額160億4396万2000円を超える
部分の取消し(同第1の2の(1)に相当)
(4) 被告が原告に対して,平成7年6月22日付けでした原告の平成5年3月
期の法人税の過少申告加算税の賦課決定のうち1億3050万9000円を超える
部分の取消し(同第1の2の(2)に相当)
を求め,上記(1),(3)が認容されなかった場合に備えて,予備的に,
(1) 被告が原告に対して,平成9年3月31日付けでした原告の平成4年3月
期の法人税の更正のうち,納付すべき税額614億2232万3300円を超える
部分の取消し(同第1の1(1)’に相当)
(3) 被告が原告に対して,平成9年3月31日付けでした原告の平成5年3月
期の法人税の更正のうち,納付すべき税額162億0751万9800円を超える
部分の取消し(同第1の2(2)’に相当)
を求めた。
3 原判決の結論と控訴の提起
 原判決は,本件各原更正処分は,その後になされた本件各再更正処分に吸収され
て独立の処分としての存在を失い,本件各原更正処分を独立の対象としてその取消
しを求める利益はないとして,原告の主位的請求(1),(3)を不適法であると
して却下し,本件各再更正処分の一部取消しを求めた予備的請求(1),(3)及
び過少申告加算税の賦課決定の一部取消しを求めた主位的請求(2),(4)をす
べて認めた。
 被告は,これを不服として,控訴を提起し,前記第1の1記載のとおりの裁判を
求めた。
4 本件の争点
(1) 本案前の争点
ア 本件各原更正処分の取消しを求める訴え(主位的請求)が,後に増額更正処分
となる本件各再更正処分を経たことにより訴えの利益を欠くに至ったか否か。
イ 本件各再更正処分の取消しを求める訴え(予備的請求)が,不服申立手続を経
ておらず,国税通則法115条1項に反するか否か。
(2) 本案の争点
 平成4年3月期の確定申告において原告が支払ったメキシコ国源泉税(ただし,
税率10パーセントの部分)並びに平成4年3月期及び平成5年3月期の確定申告
において原告が支払ったオーストラリア国源泉税につき,原告が法69条に基づき
税額控除したことについて,被告がこれを否認し,本件各原更正処分,本件各再更
正処分(それぞれ賦課決定処分を含む。)を行ったことが違法か否か。
5 争点に関する被告の主張
 争点に関する被告の主張は,後記「当審における被告の主張」を付加するほか,
原判決「事実及び理由」中の「第3 被告の主張」に記載のとおりであるから,こ
れを引用する。
 ただし,原判決37頁5行目の「外国税余裕枠」を「外国税額控除の余裕枠」
と,同23行目の「本件約束手形買取契約」を「本件手形買取契約書」と,同頁末
行~38頁1行目の「2億7266万6725.73米ドル」を「2億7266万
6725.11米ドル」と,同頁12行目の「約束手形買取契約上,」を「本件手
形買取契約上,」と,同25行目及び同末行の各「手形買取契約」をいずれも「本
件手形買取契約」と,同47頁末行,同50頁9行目,同68頁14行目,同74
頁24~25行目及び同77頁1行目の各「債権譲受・預金契約」をいずれも「本
件債権譲受・預金契約」と各改める。
(当審における被告の主張)
(1) 租税回避行為に関し司法に期待される役割
ア 急速な国際化の進展とともに,国際的取引における租税回避行為はますます巧
妙化してきており,その形態は,タックス・ヘイブンの利用,租税条約の濫用によ
る方法など様々であるが,実際の国際的租税回避戦略においては,各国の国内法,
租税条約,外国為替管理法,金融事情,会社設立手続,地理的政治的経済的環境等
を徹底的に研究し,各種の方法を組み合わせ,企業全体の全世界的租税負担を極少
とするように複雑な秘密性のあるスキームを作成する高度な戦略が採られる。
 このような国際的租税回避戦略は,各国の税制や税率の差異,タックス・ヘイブ
ンの存在等を不自然な形態で,かつ,経済的合理性がないにもかかわらず,極限ま
で巧みに利用するものであり,これらの国際的租税回避行為は,1987年のOE
CD租税委員会報告書「国際的租税回避行為と脱税」に沿って述べれば,①租税負
担の公平の原則に反し,②国家財政に深刻な影響を与え,③適正な国際競争や国際
資本の流れをゆがめることになり,④特定の企業が国際的租税回避の利益を享受
し,他の者はこれを享受できないという不公平をもたらすことになる。さらに,国
民に対する法律の権威を失墜させ,納税道義あるいは申告水準の低下をもたらすと
いう弊害をも生じるものであって,到底放置できないものである。
 このような国際的租税回避行為による課税逃れに対し,各国はそれを阻止する立
法的措置を講じているだけでなく,各国の裁判所もこれを許さないという姿勢を明
確にしてきている。
 これに対し,我が国においては,租税法律主義を比較的厳格に適用すること,ま
た,明文の租税回避否認規定がなければ否認をし得ないと解されていることなどか
ら,ともすれば,租税法の解釈・適用が,硬直的,形式的な判断に流れやすく,そ
のため,もともと外国のアレンジャーにねらわれやすい面がある。また,事後的に
新たな立法を行うことにより租税回避防止を図ることにも限界がある。
 したがって,このような租税回避行為の濫用事案においてこそ,具体的妥当性を
確保するための司法の役割が存するのであり,具体的妥当性確保の見地から事実認
定,法律解釈を展開する裁判所の活動により,一定の範囲内において正義が確保さ
れることにこそ司法権の存在意義があるのであり,これがされないことは,正に司
法の役割の自己放棄にほかならない(P1鑑定意見書:乙20の2)。
イ しかも,租税回避行為は,本質的に,課税逃れであることを知って制度を濫用
するものであり,特に,本件各取引においては,原告が確定申告をする前に本件各
取引に係る外国税額控除の適用を受けられないことが明らかになった場合には,そ
の受けられない部分についてはペプシコ社及びロシコ社が負担することとなってお
り(甲2の7項,甲3の9項),原告自身も,本件各取引において法69条の適用
が否定される可能性があることを認識しつつ,あえて本件各取引を実行したものと
認められるのであり,そこに租税回避行為の濫用事案であることの本質が見えてい
るのである。したがって,このような本件各取引に同条の適用を否定したからとい
って,原告は基本的にそのような事態をも予定しているのであるから,租税法律主
義が要請する法的安定性,予測可能性を害することにはならないのである。
ウ 本件の外国税額控除制度の濫用行為によって,我が国が受けた損失並びに原告
及び外国企業の収益は,別紙表1「本件取引による被控訴人の損益等」に記載した
とおりである。すなわち,別紙表1ないし3記載のとおり,外国税額控除を適用す
ることにより,合計で2億6000万円余りの租税収入が失われることになる。と
ころが,原告は,合計で5500万円程度の収益を上げたにすぎず,租税回避の利
益の大半である2億円余りは,外国企業に流れているのである。
 この事実は,本件各取引における外国のアレンジャー(外国企業)による提案
が,いかに外国企業に都合のいいスキームであるかを端的に表すものである。
(2) 私法上の法律構成による否認(主位的主張)
 原判決は,本件各取引における原告の経済的目的について,「ペプシコ社又はロ
シコ社がメキシコ国源泉税又はオーストラリア国源泉税を軽減する目的で原告の外
国税額控除の余裕枠を利用するために,本件手形買取契約・本件覚書又は本件債権
譲受・預金契約を締結したことを理解し,そのための対価を得ることを目的とし
て,本件手形買取契約・本件覚書及び本件債権譲受・預金契約を締結した。」と正
当に認定し,また,「当事者が外形上取引を仮装し,同外形に応じた経済的効果は
発生していない場合には,これをもって課税要件を充足したものと解することがで
きない。」と判示した上で,「当事者間の契約等において,当事者の選択した法形
式と当事者間における合意の実質が異なる場合には,取引の経済実体を考慮した実
質的な合意内容に従って解釈し,その真に意図している私法上の事実関係を前提と
して法律構成をして課税要件への当てはめを行うべきであり,複数の当事者間で行
われた個々の契約が存在するとしても,全体があらかじめ計画された一連のスキー
ムであるならば,全体を一体のものとして判断すべきであり,そのような一連の取
引は,個々の契約がそのとおり実行されていたとしても,そのことゆえに各契約が
各契約所定の内容のものとして当然有効となるものではない。」と正当に判断し
た。
 それにもかかわらず,原判決は,ペプシコ事案及びロシコ事案のいずれについて
も,①契約当事者らが,所期の目的を達成するために,本件各取引の形式を選択
し,それに応じた法的効果を意図して本件各取引を締結したこと,②ペプシコ事案
においては,本件手形買取契約・本件覚書に応じた現実の資金移動が行われてお
り,ロシコ事案においては,現実の資金移動は省略されているものの,本件債権譲
受・預金契約に基づく履行が現実にされていることを理由に,それらの契約が仮装
行為であると解することはできないと判示した上,その真実の法律関係について
も,③契約当事者の経済的目的を法律関係として端的に構成すると,原告からペプ
シコ社又はロシコ社への役務の提供契約ということができるが,原告は,この役務
を実現するための法律関係として,本件各取引及びその結果として生ずる原告によ
るメキシコ国源泉税及びオーストラリア国源泉税の納付を選択したものであるか
ら,原告の選択した法律関係が契約当事者の真実の法律関係ではないとすることは
相当でないと判示した。
 原判決の上記判断は,事実関係の総合的把握が不十分であるために判断を基本的
に誤ったというほかない。
 原告は外国税額控除の余裕枠の提供のための契約を結んだのであり,原判決は,
日本における納税額の圧縮の意思があったことを認めながら,それを正当なもので
あると結論している。これは,結局,原判決が,名義貸しによる外国税額控除の余
裕枠のペプシコ社及びロシコ社への売却行為を,アプリオリに正当な事業行為と決
めてかかっているからにほかならない。しかし,原告は,わざわざ名義貸しまでし
て,ペプシコ社及びロシコ社に対して,日本における納税額の圧縮部分を手数料を
取って販売するということを行っているのである。このような場合においては,事
実関係を全体として考察するならば,メキシコ国源泉税及びオーストラリア国源泉
税を納付したのは原告ではなくペプシコ社及びロシコ社であり,したがって,原告
に対して外国税額控除の適用は認められないというべきである。
(3) 法69条の限定解釈による否認(予備的主張)
 原判決は,「およそ正当な事業目的がなく,税額控除の利用のみを目的とするよ
うな取引により外国法人税を納付することとなるような場合に,納付自体が真正な
ものであったとしても,法69条が適用されないとの解釈が許容される余地があ
る。」と判示して,法69条の限定解釈による否認の可能性について認めた上,そ
の限定解釈判断の具体的基準として,「税額控除の枠を利用すること以外におよそ
事業目的がない場合や,それ以外の事業目的が極めて限局されたものである場合に
は,『納付することとなる場合』には当たらない。」と判示する。
 他方で,原判決は,原告の主張する限定解釈判断の具体的基準に対しては,これ
を採用することはできないとしただけでなく,本件各取引の経済的目的を,外国税
額控除の余裕枠を提供し利得を得ることであると,正しく認定していながら,本件
各取引への当てはめにおいて,外国企業の事業目的について判断し,「ペプシコ社
にはサブリタス社を通じてメキシコ国の企業の株式を取得するという事業目的があ
り,原告の有する控除枠を利用するのは,あくまでも,メキシコ国への投資の総合
的コストを低下させるための手段と位置づけることが可能であり,同様に,ロシコ
社もカデラ社を通じてオーストラリア国の企業の株式を取得するという事業目的が
あり,原告の有する控除枠を利用するのは,あくまでも,オーストラリア国への投
資の総合的コストを低下させるための手段と位置づけることが可能である」などと
判示し,原告の事業目的については,「金融機関として,ペプシコ社及びロシコ社
の意図を認識した上で,自らの外国税額控除枠を利用して,よりコストの低い金融
を提供し,その対価として,ペプシコ事案では0.65パーセント(当裁判所の
注:LIBOR〔ロンドン銀行間貸出金利〕+0.65パーセント)の,ロシコ事
案では0.35パーセントの利ざやを得る取引を行ったと解することができる。」
などと判示して,本件各事案については,いずれも事業目的を有するものであるか
ら,法69条の限定解釈による否認はできないと判断した。
 しかしながら,原判決の上記判断は,明らかに「事業目的」の評価と当てはめを
誤った不当なものである。
 すなわち,
ア 本件各取引は,故意に二重課税を生じさせて,これにより利益を得ることを意
図してなされた取引である。
 また,本件各取引において,原告は逆ざやとなる取引をしているが,原告は,当
初から損失が生じ,所得が生じない取引をそれと知って行った。
 しかも,本件各取引は,本来何ら関係のなかった原告が,外国税額控除の余裕枠
の提供をし,その対価を得ることのみを目的として,わざわざ外国企業間の取引に
介在したものである。
 このような取引は,法69条が予定している,国外所得が生じ,それに外国税額
が課されてこれを「納付」したために二重課税の排除の配慮から我が国の課税権を
譲歩するという状態が予定されているものとはいえず,外国税額控除を定めた法6
9条の制度を濫用するものである。
イ 昭和63年の法改正は,「同一法人内の彼此流用」について,法69条が国際
的二重課税の排除という制度本来の趣旨に沿って適用されるよう,できる限りの措
置を講じる方向で改正し,一応の解決を図ったものと評価すべきであって,それ以
外は彼此流用が一般的に可能であるとの解釈基準を示したものではなく,まして,
本件各取引のような,いわば「外国法人に余裕枠を利用させる意図的な彼此流用」
の場面については,そもそも想定されていなかったのであるから,昭和63年の法
改正において彼此流用が解決されたとして,本件各取引に対する法69条適用の有
無を判断することは誤りである。
ウ 事業目的による法69条の限定解釈に際し,①事業目的の有無は,納税者であ
る原告を主体として検討されるべきであるのに,原判決が,取引の相手方の事業目
的の有無を問題にしている点,②原告が本件各取引に参加することについての事業
目的を検討すべきであるのに,原判決が,原告の参加前の本来的取引についての事
業目的を検討している点,③原告に,外国税額控除枠を有償で利用させたこと以外
に事業目的があるかどうかを問題にすべきであるのに,原判決が,当該枠の利用の
対価としての実質を有する利益を原告が得たことのみをもって,事業目的があると
判示している点は,いずれも明らかに誤りである。事業目的についてこのようなと
らえ方をすれば,租税回避行為には,常に事業目的があるということになってしま
う。
 原告の事業目的が,外国税額控除の余裕枠を利用してその対価を得ること以外に
ないか,それ以外の事業目的が極めて限局されたものであることは明白であり,こ
のような場合には法69条の適用がないというべきである。
6 争点に関する原告の主張
 争点に関する原告の主張は,後記「当審における原告の主張」を付加するほか,
原判決「事実及び理由」中の「第4 原告の主張」に記載のとおりであるから,こ
れを引用する。
 ただし,原判決87頁15行目の「効果のある。」を「効果がある。」と改め
る。
(当審における原告の主張)
(1) 被告の主張の変転
ア 本件各原更正処分にかかる通知書(甲5の1・2)に附記された理由は,要す
るに,ペプシコ事案,ロシコ事案における本件各取引は仮装行為であって,無効で
あるというものであった。
 しかし,原告が,上記各処分に対する審査請求を行ったところ,国税不服審判所
は,上記各処分の理由とは全く異なる理由で,原告の審査請求を棄却した(甲6の
2)。
 そこで,原告が,本件各原更正処分の取消しを求めて本訴を提起すると(主位的
請求),被告は,上記裁決と異なり,本件各取引は仮装行為であるとの当初の理由
に戻った。
 ところが,被告は,本訴提起後の平成11年1月22日に至り,初めて,事業目
的の原理に基づく否認という新たな主張を始め,さらに,平成12年6月30日に
至り,私法上の法律構成による否認という新しい主張を加えた。
 このように,被告の主張が次々と変転することは,本件各更正処分が事前に十分
な法律的検討を経たものではなく,慎重さ,合理性を欠く処分であることの証左で
ある。
イ 仮装主張(附記理由)以外の主張の不許
 行政上の不服申立てにおいては,附記された更正理由にはあまりとらわれない
で,ある程度自由に見直しを行うことを認める代わりに,訴訟においては,行政上
の不服申立て,とりわけ審査請求において最終的に示された処分理由の当否を審査
の対象とし,それ以外の処分理由の主張は認めないという考え方があり,原告は,
この考え方に立脚して,仮装主張の不許を主張し,附記理由以外の主張の不許の主
張はしなかった。
 しかし,原判決は,原告の仮装主張の不許の主張を排斥したので,原告として
は,当審において,上記仮装主張が許されるのであれば,逆に附記理由である仮装
主張以外の処分理由を本件取消訴訟において主張することは許されるべきではない
ことを主張する。
(2) 被告の当審主張(1)(租税回避行為に関し司法に期待される役割)に対
する反論
ア 合理的な思考の支配する私的経済取引の世界において,人が税負担の最も少な
い取引形式を選択することはごく自然なことであり,租税回避行為(租税法規が予
定しない異常な法形式を用いて税負担の減少を図る行為)といえども,法律の根拠
がない限り税法上否認することは許されない。
 その意味において,租税回避行為は税法上許された一種の租税節約であるという
ことができ,これを禁圧することが司法裁判所の役割などであり得る道理がない。
 別言すれば,ある種の租税回避行為が容認できないというのであれば,その類型
ごとに速やかに個別の否認規定を設けて立法的に問題の解決を図るべきであり,そ
の責任は司法裁判所にではなく立法府にある。
イ 被告は,甲2の7項,甲3の9項の存在を根拠に,原告が,税額控除の適用が
否定される可能性があることを認識しながら,あえて本件各取引を実行したと論難
するが,上記各条項は,税額控除については頻繁に法改正が行われているところか
ら,限度額の圧縮等により税額控除を行い得なくなった場合に備えた約定であっ
て,本件各更正処分のごとき税務否認を予想した約定ではない。
ウ 本件において,原告が控除を求めている外国税額が,本件各取引により原告が
得た利益と対比し,比較的高額となっているのは,現行法がいわゆる所有期間案分
の制度を設けていないことから生ずる当然の結果であって,上記の事実をもって制
度の濫用ということはできない。
 すなわち,法68条1項所定の所得税額の控除に関しては,法人が利払期直前に
経過利子込みの価額で公社債を買い取り,利払期間全体に見合う所得税額の控除を
受けて税負担の軽減を図ることを防止するため,施行令140条の2第1項1号
が,いわゆる所有期間案分制度を設け,元本の所有期間に応ずる部分の所得税額の
みを控除の対象にする旨を定めている。
 これに対し,法69条1項所定の外国税額の控除の場合には,所得税額の控除と
は違って,もともと控除限度額の枠内における控除しか認められない上,別途いわ
ゆる高率負担部分の除外計算の定めもあるところから,所有期間案分制度の導入は
意識的に見送られた。
 したがって,現行法が,それらの限度額の枠内において利払期間全体に見合う外
国税額の控除を認めていることは明白であり,被告が主張する逆ざやの問題は,結
局,上述の前有期間案分制度を採用するか否かの立法政策如何にかかわっていると
いうことができる。
(3) 被告の当審主張(2)(私法上の法律構成による否認)に対する反論
 原判決は,原告がペプシコ社又はロシコ社がメキシコ国源泉税又はオーストリア
国源泉税を軽減する目的で原告の外国税額控除の余裕枠を利用するために本件各契
約を締結したと認定し,そのための対価を得ることを目的として本件各契約を締結
したものと認められると認定しているが,本件各取引により原告が得ようとし,ま
た,現実に得た利益は,手形買取又は債権譲受けという方法で融通した資金の額と
期間に見合う金利,換言すれば,金融機関本来の業務による適正かつ標準的な利ざ
やであって,原判決のいうような役務提供の対価ではなかった。
 すなわち,
ア 役務提供の対価は,所期の目的が達成できた場合に,役務の提供を受ける者が
その役務の提供によって得られる利益のうちの一定割合と定められるのが通例であ
るが,本件各取引において原告に約束された利益は,そのようなものとは異質のも
のである。
イ ペプシコ事案において原告に約束された利益は,手形元本の合計額,すなわ
ち,原告の出捐額につき,LIBOR+0.65パーセントの利率で計算された利
息(原告の出捐日である平成3年6月6日から返済日である同年7月15日まで)
と比較的少額の取引手数料であり,しかも,その利息は外国税額控除の適用が認め
られるか否かとは関係なしに支払われることになっている。
ウ ロシコ事案において原告に約束された利益は,債権の譲受額につき0.35パ
ーセントの割合で計算される利ざや(債権の譲渡日である平成3年9月1日からそ
の中途解約日である同4年7月31日まで)であり,これも外国税額控除の成否と
は無関係に支払われることになっている。
(4) 被告の当審主張(3)(法69条の限定解釈による否認)に対する反論
 原告の主張する法69条の限定解釈による否認の実体は,法の解釈に名を借り
た,法律によらない租税回避行為の一般的な否認類型の創設を目指した租税法律主
義に反する主張であって,採用に値しない。
 仮に百歩譲って,そのような限定解釈の余地を認めるとしても,その具体的運用
基準と範囲は明確でごく限定されたものでなければならないことは,租税法律主義
の要請上,当然のことである。
 被告の主張に対する個別的反論は次のとおりである。
ア 被告の当審主張(3)アについて
(ア)被告は,故意に二重課税を生じさせて,これにより利益を得ることを意図し
た場合には,法69条は適用されないと主張するが,そこにいう利益が,本件各取
引における利ざやのような利益をも包含するものであり,しかも,そこにいう故意
が単に二重課税が生ずることを事実として認識していることを意味するのであれ
ば,今日では税を意識せずに取引を行う者は皆無に等しく,ほとんどすべての取引
がこれに該当することになるから,被告の上記主張は不当である。
(イ)債務者所在国であるメキシコ国及びオーストラリア国には原告の支店はない
から,原告が,債務者の所在国外にある支店を作為的に選択したこともない。銀行
が何れの支店において取引を行うかは,顧客の属性や海外への進出形態(例えば,
外資系企業であるか,日本企業の現地法人であるかなど),銀行の拠点の所在など
を勘案して総合的に決めるものであり,たとえどの支店を選択したとしても,その
ことを理由に外国税額控除の適否を左右するのは失当である。
(ウ)被告は,本件各取引が逆ざや取引であると主張するが,外国税額の控除が認
められている場合に,各企業がそれを前提に採算の有無・程度を判断し取引の可否
を決めるのは,至極当然のことであって,非難されるいわれは全くない。
 本件各取引について,経費を控除すれば,利息による取得がほとんどなく,これ
について多額の納税義務が生じるとしても,債務者所在国の税制上,グロスの支払
利息金額に対して源泉税が課税された結果であって,原告には何の責任もない。
(エ)被告は,原告は本来外国企業同士の取引に何ら関係がなかったと主張する
が,貸付等の条件が合致さえすれば,金融機関が誰に融資等を行うかは全く自由で
あって,その相手方があらかじめ何らかの関係があるものに限られる理由は全くな
い。
 また,親会社等(ペプシコ社,ロシコ社)が,子会社等の資金需要を満たすため
に,いったん貸付を行ったとしても,親会社等には,その資金を返済期までそのま
ま維持しなければならない義務はなく,貸付金を維持するか,その全部又は一部を
他に譲渡して資金の早期回収を図るかは,親会社等が自己の都合で自由に決定しう
る事柄であり,たとえ,ペプシコ社やロシコ社が,メキシコ国及びオーストラリア
国における源泉税課税の有無・程度を考慮して手形や債権を譲渡する取引形式を選
択したとしても,上述の結論には何の変わりもない。
イ 被告の当審主張(3)イについて
 昭和63年の法改正は,特に問題の多い事例についての部分的改正にとどまり,
彼此流用を全面的に排除するものではなかった。
 また,外国税額控除制度を利用したのは原告であって,原告が外国企業(ペプシ
コ社,ロシコ社)に外国税額控除枠を利用させたわけではない。
ウ 被告の当審主張(3)ウについて
 被告は,事業目的の有無について判断するにあたり,取引の相手方(ペプシコ社
やロシコ社)の事業目的の有無を問題にすることは誤りであると主張するが,本件
各取引は両契約当事者の意思の合致により成立した法律行為(契約)としてなされ
たものであるから,本件各取引の事業目的の有無は両契約当事者のそれについて検
討するのが相当である。
 また,仮に,原告の事業目的だけを問題にするとしても,本件各取引は金融機関
の本来的な業務である融資取引で適正かつ標準的な利ざやを確保しているのである
から,それが正当な事業目的を有することは明白である。
第3 当裁判所の判断
1 本案前の争点について
 当裁判所も,原告の主位的請求(2),(4),予備的請求(1),(3)は適
法であると判断する(原判決が主位的請求(1),(3)に係る訴えを不適法とし
て却下したことについては,当事者双方から不服申立てはない。)。
 その理由は,原判決「事実及び理由」中の「第5の1 本案前の主張について」
1に記載のとおりであるから,これを引用する。
 以下,主位的請求(2),(4)と予備的請求(1),(3)について判断す
る。
2 ペプシコ事案
 前記第2の1(2)によると,次の事実を認めることができる。
(1) 米国を納税地とするペプシコ社は,メキシコ国に設立した子会社であるサ
ブリタス社を通じて,メキシコ国に所在する会社を買収する際,その資金として,
平成2年10月1日に2億4479万6946.71米ドル,同月5日に2786
万9778.40米ドルの合計2億7266万6725.11米ドルをサブリタス
社に融資した。
 サブリタス社は,上記各融資額を額面金額とした約束手形2通をペプシコ社あて
に振り出し,その返済に充てることとした。
(2) ペプシコ社がサブリタス社から受け取る貸付金利息に対して,メキシコ国
の税制上,源泉税35パーセントが課されることとなっていたが,外国銀行を含む
銀行が融資した場合の貸付金利息に対しては源泉税が軽減され,35パーセントが
15パーセントとなることになっていた。そして,源泉税の税率は,貸付時ではな
く金利支払時を基準とするため,金利支払時点までに金融機関が手形を買い取れ
ば,金融機関による貸付とみなされて,税率15パーセントが適用された。
 ペプシコ社は,メキシコ国源泉税の負担軽減を図るため,原告に対して本件手形
買取契約及び本件覚書に係る本件取引を申し出たところ,原告は,社内で検討の結
果,これに応じることとし,平成3年6月6日付けで,原告,ペプシコ社及びサブ
リタス社3者間において本件手形買取契約及び本件覚書が締結された。
(3) そして,本件取引に関しては,本件手形買取契約書(甲1)及び本件覚書
(甲2)の合意内容に従って,次のとおり資金移動が行われた。
ア 原告は,平成3年6月6日,本件手形買取契約に基づき,ペプシコ社に対し,
額面合計金額である買取代金2億7266万6725.11米ドルを支払った。
イ ペプシコ社は,平成3年7月11日,本件覚書に基づき,原告に対し,契約発
効日である同年6月6日から同年7月1日までの間の手形金額合計の利息相当額1
28万1676米ドルを支払った。
ウ サブリタス社は,各約束手形の支払期日の前である平成3年7月15日,本件
手形買取契約に基づき,原告に対し,元本相当額2億7266万6725.11米
ドルを支払い,同時に,各手形発行日である平成2年10月1日及び同月5日から
それぞれ平成3年7月15日まで年利8.16パーセントの割合で計算した利息相
当額の合計額1746万9972.22米ドルからメキシコ国に納付することとな
る源泉税(利息に対して15パーセント)相当額262万0495.83米ドルを
控除した,源泉税控除後の残金額1484万9476.39米ドルを支払った。
エ 原告は,平成3年7月15日,本件覚書に基づき,ペプシコ社に対し,155
7万8637.73米ドルを送金した(その内訳は,サブリタス社から受領した前
記ウの1484万9476.39米ドルに,サブリタス社から原告に支払われるこ
ととなる利息相当額1746万9972.22米ドル〔源泉税控除前〕に対する1
0パーセント相当の金額174万6997.22米ドル〔原告の外国税額控除適用
額〕を加算した金額1659万6473.61米ドルから,① 同加算した金額で
ある174万6997.22米ドルに対して平成3年7月15日から同4年6月3
0日までの間年利6.8125パーセントの割合で計算した割引金額〔資金の持ち
出しによる資金コスト相当額〕10万7132.33米ドル,② 平成3年7月1
日から同月15日までの間LIBOR+0.65パーセントの金利で計算した手形
金額の利息相当額70万4899.51米ドル及び③ 取引実行手数料20万58
04.04米ドルの合計額101万7835.88米ドルを控除した金額であ
る。)。
(4) さらに,本件覚書6項によると,利息額の10パーセント相当額,すなわ
ちコミット金額(本件覚書5項bにおける金額を指す。)は,その全額につき原告
が外国税額控除の適用を受けられない場合には,外国税額控除の適用を受けられる
金額を限度として原告が負担することとなる旨取り決められている。
3 ロシコ事案
 前記第2の1(3)によると,次の事実を認めることができる。
(1) スイス国のセメントメーカーであるホルダーバンク社は,オーストラリア
国の会社を買収するにあたり,オランダ国にロシコ社を,オーストラリア国にカデ
ラ社をそれぞれ設立した上,平成2年10月,買収資金として,ロシコ社を経由し
てカデラ社に1億6400万AUドルを送金し,ホルダーバンク社からロシコ社に
対してはその全額を貸付金とし,ロシコ社からカデラ社に対しては,そのうちの1
億2337万9000AUドルを貸付金とした。
(2) ロシコ社がカデラ社から受け取るべき貸付金利息に対して,オーストラリ
ア国源泉税10パーセントが課されることとなっていたが,ホルダーバンク社は,
外国税額の控除を利用することのできる外国銀行を利用して,オーストラリア国源
泉税を回収しようと意図し,日本において外国税額控除の適用を受けることができ
る原告に,ロシコ社がカデラ社に対して有する貸付金債権を譲渡する旨を申し出た
ところ,原告は,社内で検討の結果,これに応じることとし,平成3年9月1日付
けで,原告とロシコ社間において本件債権譲受・預金契約が締結された。
(3) そして,本件取引に関しては,本件債権譲受・預金契約書(甲3)の合意
内容に従って,次のとおり資金移動が行われた。
ア 本件債権譲受・預金契約の締結日,すなわち譲受代金の決済日である平成3年
9月1日当日には,原告とロシコ社との間に現実の資金の動きは全くないが,それ
に関する会計処理として,原告は,同月3日に借方をカデラ社に対する貸付金80
00万AUドル,貸方をANZ BANK8000万AUドルとし,同月5日に借
方をANZ MELBOURNE8000万AUドル,貸方をロシコ社からの定期
預金8000万AUドルとして,それぞれ同月1日に日付をさかのぼって起票し
た。
イ カデラ社は,平成4年2月1日,原告に対し,平成3年9月1日から同4年1
月31日まで年利11.75パーセント(LIBOR)の割合で計算した利息額3
94万0273.97AUドルからオーストラリア国源泉税(利息に対して10パ
ーセント)相当額39万4027.40AUドルを控除した金額354万624
6.57AUドルを送金し,一方,原告は,平成4年2月1日,上記の送金を受け
た後,本件債権譲受・預金契約に基づき,ロシコ社に対し,平成3年9月1日から
同4年1月31日まで年利11.40パーセント(LIBORから0.35パーセ
ントを引いた利率)の割合で計算した預金利息額382万2904.11AUドル
を支払った。
ウ カデラ社は,平成4年8月1日,本件債権譲受・預金契約に基づき,原告に対
し,同年2月1日から同年7月31日まで年利7.995パーセント(LIBO
R)の割合で計算した利息額318万9238.36AUドルからオーストラリア
国源泉税(利息に対して10パーセント)相当額31万8923.84AUドルを
控除した金額287万0314.52AUドルを送金し,一方,原告は,平成4年
8月1日,上記の送金を受けた後,本件債権譲受・預金契約に基づき,ロシコ社に
対し,同年2月1日から同年7月31日まで年利7.645パーセント(LIBO
Rから0.35パーセントを引いた利率)の割合で計算した預金利息額304万9
621.92AUドルを支払った。
エ 平成4年7月31日付けで,本件債権譲受・預金契約は中途解約され,上記預
金の払戻請求権と本件貸付金債権の返還に伴う,譲受代金の返還債権が相殺され,
本件貸付金はロシコ社に移管された。
(4) 本件債権譲受・預金契約9項aには,原告が外国税額控除の適用を受けら
れないときは,中途解約を行うことができる旨取り決められている。
4 私法上の法律構成による否認(被告の主位的主張)について
(1) 被告の主張の許容性
ア 原告は,被告が私法上の法律構成による否認を主張することは,時機に後れた
攻撃防御方法であるとともに,国税通則法102条に反すると主張するが,いずれ
も理由がないと判断する。
 その理由は,原判決「事実及び理由」中の「第5(当裁判所の判断)の2の1の
1 総論」1に記載のとおりであるから,これを引用する。
イ 原告は,被告の主張が次々と変転しており,本件各更正処分が十分な法律的検
討を経たものでないとして批判するとともに,本件各原更正処分に附記された仮装
行為の主張が許されるのであれば,それ以外の理由を主張することは許されないと
主張する。
 確かに,証拠(甲5の1・2,甲6の2)によると,本件各原更正処分にかかる
通知書に附記された理由は,本件各取引が仮装行為であるから無効であるというも
のであり,国税不服審判所の裁決は,これと異なる理由で審査請求をいずれも棄却
したことが認められる。
 しかし,青色申告書に係る更正の場合,その通知書に理由を附記しなければなら
ないとした法130条2項の趣旨(処分の慎重性の担保と不服申立ての便宜)など
から,被告課税庁側が,その後の更正処分の取消訴訟において,附記された理由と
異なる理由の主張をすることが許されないと解することは困難である。したがっ
て,被告が,本件取消訴訟において,裁決で認められなかった更正通知書附記の理
由を改めて主張することや,その予備的主張として,更正通知書附記の理由と異な
る理由を新たに追加して主張することは何ら妨げないというべきである。
 また,被告は,本件取消訴訟において,上記仮装行為の主張に加え,法69条の
限定解釈による否認を予備的に主張しているが,これらの主張は,いずれも,原告
が,それぞれ,ペプシコ社又はロシコ社に,メキシコ国源泉税又はオーストラリア
国源泉税の負担軽減を図るために原告の外国税額控除の余裕枠を利用させ,同各社
からその対価を得る目的で,ペプシコ社との間で本件手形買取契約・本件覚書,ロ
シコ社との間で本件債権譲受・預金契約を締結したことを基礎としているというべ
きであり,その主張の基本的な事実関係について変更はない上,原告に格別の不利
益を与えるものとはいえず,また,このことをもって,被告の本件各更正処分が慎
重さ,合理性を欠く処分であるということもできないと解する。
 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(2) 本件における規範構造及び準拠法
 本件の争点においては,原告がサブリタス社及びカデラ社から得たとされる貸付
金利息が利子所得に当たるか否かが問題となるが,所得に対する課税は,所得自体
に担税力を認めて課税するものであって,その原因行為の私法上の効力は原則とし
て問題とはならない。利子所得に当たるか否かは事実認定の問題であり,事実認定
の問題は法廷地法によるべきであるから,本件においては,準拠法を問題にする余
地はない。
 その詳細は,原判決「第5(当裁判所の判断)の2の1の1 総論」2(1)に
記載のとおりであるから,これを引用する。
(3) 私法上の法律構成による否認の可能性
 所得に対する課税は,私法上の行為によって現実に発生している経済的効果に即
して行われるものであるから,第一義的には私法の適用を受ける経済取引の存在を
前提として行われる。
 しかしながら,その経済取引の意義内容を契約当事者の合意の単なる表面的,形
式的な意味によって判断するのは相当ではなく,裁判所による事実認定の結果とし
て,納税者側の主張と異なる課税要件該当事実を認定し,これに従った課税が行わ
れることは当然のことであるといえる。
 すなわち,次のとおり,通謀虚偽表示(仮装取引)の場合には,契約当事者の表
示に従った課税ではなく,契約当事者の真意に従った課税が行われるべきである
し,たとえ,取引が通謀虚偽表示に当たると認定されなくても,事実認定の結果と
して,課税要件に該当する事実認定がなされれば,当該認定事実に従った課税が行
われるべきである。
ア 仮装取引
 契約当事者が外形上取引を仮装し,同外形に応じた経済的効果が発生していない
場合には,これをもって課税要件を充足したものと解することができないのは明ら
かである(なお,通謀虚偽表示の結果,当該契約が無効とされ,結果として課税要
件を満たさない場合があり得るが,これは,前記(2)のとおり,通謀虚偽表示に
より契約が無効となるか否かが問題となるのではなく,その結果として,契約当事
者間で利得の保有が確保されなくなる場合に問題になるにすぎない。したがって,
私法上の契約の効力自体が直接問題となるものではない。)。
イ 真実の法律関係
 また,契約等において,契約当事者の選択した法形式と契約当事者間における合
意の実質が異なる場合には,取引の経済的実体を考慮した実質的な合意内容に従っ
て解釈し,その真に意図している私法上の事実関係を前提として法律構成をし,課
税要件への当てはめを行うべきである。
 ただし,上記の解釈は,要件事実の認定に必要な法律関係については,表面的に
存在するように見える法律関係に即してではなく,真実に存在する法律関係に即し
て要件事実の認定がなされるべきことを意味するにとどまり,真実に存在する法律
関係から離れて,その経済的成果や目的に即して法律要件の存否を判断することを
許容するものではない。
 この限度で,かかる解釈も,租税法律主義が要請する法的安定性,予測可能性を
充足するものである。
(4) ペプシコ事案への当てはめ
ア 本件取引の動機・目的,資金の流れ等については,前記2のとおりの事実を認
めることができる。
 これによると,原告は,ペプシコ社がメキシコ国源泉税の負担軽減を図るため,
原告の外国税額控除の余裕枠を利用することを理解した上で,ペプシコ社との間で
本件手形買取契約・本件覚書を締結し,同社から上記余裕枠を利用させたことの対
価を得たものと認められる。
イ 原告は,上記の点につき,原告が,本件取引により得ようとし,また,現実に
得た利益は,手形買取という方法で融通した資金の額と期間に見合う金利,換言す
れば,金融機関本来の業務による適正かつ標準的な利ざやであって,上記のような
外国税額控除の余裕枠を利用させることの対価ではなかったと主張する。
 しかし,前記2の認定事実によると,本件取引は,原告主張のとおり,原告がペ
プシコ社から,手形買取という方法で融通した資金の額と期間に見合う金利を得る
取引であることは否定できないものの(したがって,後述のとおり,本件取引を仮
装行為ということはできない。),原告が,ペプシコ社に,メキシコ国源泉税の負
担軽減を図るために原告の外国税額控除の余裕枠を利用させ,同社からその利用に
対する対価を得ることを主たる目的とした取引であるといわざるを得ない。
ウ 一方,被告は,上記のとおり,原告が,本件取引において,ペプシコ社がメキ
シコ国源泉税を軽減する目的で,原告の外国税額控除の余裕枠を利用することを理
解した上で,ペプシコ社との間で本件手形買取契約及び本件覚書を締結し,同社か
ら上記余裕枠を利用させたことの対価を得たものと認められる以上,真実の法律関
係は,原告がペプシコ社に対し外国税額控除の余裕枠を提供し,同社からその役務
提供の対価を得る行為であり,原告は,これを隠ぺいするために,原告があたかも
契約当事者であるかのような外形を作出すべく本件取引を行ったもので,取引を仮
装したものであると主張する。
 しかし,被告が,仮装行為により隠ぺいされたと主張する行為又は真実の法律関
係であると主張する行為は,いうなれば,本件取引の動機・目的ないし経済的側面
を法律的表現を借りて言い表したものにすぎない。また,上記行為は,本件取引の
外形と両立しない行為とはいえず,通謀虚偽表示により隠ぺいされた行為というも
のではない。したがって,本件取引の契約当事者の効果意思と本件取引の外形との
間にそごはなく,本件取引を通謀虚偽表示(仮装行為)ということはできないと考
える。
 また,被告は,本件取引が仮装行為ではないとしても,真実の法律関係に基づく
課税がなされるべきであると主張するが,単なる動機・目的やその経済的側面のみ
に着目して,契約当事者の選択した法律関係を離れて課税することはできないとい
うべきである。
エ この点について,被告は,本件取引において,原告が外国税額控除の適用を受
けられない場合の処理が定められていることや,手形売買として不合理な点がある
と主張するとともに,これらの事情から,本件取引を仮装行為であるなどと主張す
る。
 しかし,被告の主張は,そのことから,本件取引が被告の主張する前記アの目的
を有することを基礎づけることになるとしても,直ちに,本件取引が仮装行為であ
るとか,真実の法律関係が別に存在すると認めることはできない。
 被告の主張について,以下,個別的にその判断を示すこととする。
(ア)被告は,本件取引における手形売買は,利息収入が得られないこともある早
期返済を認める手形の売買であるにもかかわらず,何らのペナルティー条項が付さ
れていないのは不合理であると主張する。
 しかし,本件取引において売買された手形は,満期日以前のいつでも期限前返済
することができるものであるため,手形売買の時点では,譲渡代金を一義的に確定
することをせず,いったん代金を仮払いとし,後日返済期日が決まった段階で精算
をすることになるが,だからといって,そこに,ペナルティー条項を付さなければ
ならない必然性があるとは考えられない。
 また,原告,ペプシコ社及びサブリタス社の3者間で,返済期日を平成3年7月
1日と定め,同日から同年9月30日までの間,返済期日を2週間単位で順次延長
し,その間の金利については,LIBOR+0.65パーセントと定められていた
から,原告としては,ペナルティー条項を付する必要はなかったといえる。
(イ)被告は,原告が外国税額控除の適用を受けられない場合,手形の譲受金額が
変更されることは不自然であると主張するが,貸付時において源泉税の負担をどの
ように定めるかについての取り決めは,許された合意の範囲内にあると考えること
ができ,本件取引が仮装行為であるとする論拠とはならない。
(ウ)被告は,原告が手形譲受け後の金利変動の危険負担を負わないのは不合理で
あると主張する。
 確かに,その後の利息をペプシコ社に交付する一方,ペプシコ社が保証すること
により,原告の手形金回収のリスクが少なくなったことが認められるが,その結
果,リスクの対価が,手形利息からLIBOR+0.65パーセントに変化したと
いえるものの,本件取引が仮装であるという根拠とはならない。
オ 以上,認定説示したとおり,ペプシコ事案における本件取引をもって仮装行為
であるということはできず,また,本件取引と異なる真実の法律関係が別に存在す
ると認めることもできない。
(5) ロシコ事案への当てはめ
ア 本件取引の動機・目的,資金の流れ等については,前記3のとおりの事実を認
めることができる。
 これによると,原告は,ロシコ社がオーストラリア国源泉税の負担軽減を図るた
め,原告の外国税額控除の余裕枠を利用することを理解した上で,ロシコ社との間
で本件債権譲受・預金契約を締結し,同社から上記余裕枠を利用させたことの対価
を得たものと認められる。
イ 原告は,上記の点につき,原告が,本件取引により得ようとし,また,現実に
得た利益は,債権譲受けという方法で融通した資金の額と期間に見合う金利,換言
すれば,金融機関本来の業務による適正かつ標準的な利ざやであって,上記のよう
な役務提供の対価ではなかったと主張する。
 しかし,前記3の認定事実によると,本件取引は,原告主張のとおり,原告がロ
シコ社から,債権譲受けという方法で融通した資金の額と期間に見合う金利を得る
取引であることは否定できないものの(したがって,後述のとおり,本件取引を仮
装行為ということはできない。),原告が,ロシコ社に,オーストラリア国源泉税
の負担軽減を図るために原告の外国税額控除の余裕枠を利用させ,同社からその利
用に対する対価を得ることを目的とした取引であるといわざるを得ない。
ウ 一方,被告は,上記のとおり,原告が,本件取引において,ロシコ社がオース
トテリア国源泉税を軽減する目的で,原告の外国税額控除の余裕枠を利用すること
を理解した上で,ロシコ社との間で本件債権譲受・預金契約を締結し,同社から上
記余裕枠を利用させたことの対価を得たものと認められる以上,これをもって真実
の法律関係というべきであり,原告は,これを隠ぺいするために,原告があたかも
契約当事者であるかのような外形を作出すべく本件取引を行ったもので,取引を仮
装したものであると主張する。
 しかし,ペプシコ事案において述べたとおり,被告が,隠ぺいされたと主張する
行為又は真実の法律関係であると主張する行為は,いうなれば,本件取引の動機・
目的ないし経済的側面を法律的表現を借りて言い表したものにすぎない。したがっ
て,本件取引の契約当事者の効果意思と本件取引の外形との間にそごはなく,本件
取引を通謀虚偽表示(仮装行為)ということはできないと考える。そして,単なる
動機・目的やその経済的側面のみに着目して,契約当事者の選択した法律関係を離
れて課税することはできないというべきである。
エ 被告は,原告がカデラ社に対して有する貸付金の平成4年2月1日以降の金利
を,ロシコ社が原告に通知する旨取り決められていることは不自然であると主張す
るが,そのことによって,被告が主張する前記アの目的を有することを基礎づける
ことになるとしても,直ちに,本件取引が仮装行為であるとか,真実の法律関係が
別に存在すると認めることはできない。
オ 以上,認定説示したとおり,ロシコ事案における本件取引をもって仮装行為で
あるということはできず,また,本件取引と異なる真実の法律関係が別に存在する
と認めることもできない。
5 法69条の限定解釈による否認(被告の予備的主張)について
(1) 被告の主張の許容性
 原告は,被告の主張が次々と変転しており,本件各原更正処分に附記された仮装
の主張が許されるのであれば,それ以外の理由を主張することは許されないと主張
するが,上記主張を採用することができないことについては,前記4(1)で述べ
たところと同様である。
(2) 課税減免規定の限定解釈の許容性
 前記4において認定判断したところによれば,本件各取引から貸付金利息に係る
所得,すなわち利子所得を得て,本件各外国源泉税を納付したのは,原告というこ
とになるが,以下,法69条1項を限定解釈し,原告が同条項にいう本件各外国源
泉税を納付したものではないとの認定判断をすることが可能か否かについて検討す
る。
 租税法律主義の見地からすると,租税法規は,納税者の有利・不利にかかわら
ず,みだりに拡張解釈したり縮小解釈することは許されないと解される。しかし,
税額控除の規定を含む課税減免規定は,通常,政策的判断から設けられた規定であ
り,その趣旨・目的に合致しない場合を除外するとの解釈をとる余地もあり,ま
た,これらの規定については,租税負担公平の原則(租税公平主義)から不公平の
拡大を防止するため,解釈の狭義性が要請されるものということができる。
 したがって,租税法律主義の下でも,かかる場合に課税減免規定を限定解釈する
ことが全く禁止されるものではないと解するのが相当である。
 ところで,具体的にどのような限定解釈が可能であるかは,各課税減免規定を通
じて一般化することはできず,各法規の文言,関連規定の定め方,制度の趣旨・目
的等から,当該課税減免規定から要請される解釈を探るべきである。
 そこで,次に,法69条の制度の趣旨・目的等について検討する。
(3) 法69条(外国税額控除)の制度の趣旨・目的等
ア 外国税額控除制度の趣旨・目的
 日本国の法人税法は,法人の国内所得と国外所得を含めた所得全体(全世界所
得)を課税対象としており,海外支店の事業所得,本店が海外に投資を行うことか
ら生じる利子・配当・使用料等の法人が国外で得た所得(国外所得)についても,
国内で得た所得と同様に課税されることとなる。
 所得の源泉地である外国が課税権を行使することは,国際的に認められているこ
とから,同一の所得(課税物件)に対して,日本国と外国の双方の課税権が重複,
競合する問題が生じるところとなる。
 外国税額控除制度は,このような国際間の二重課税を排除するため昭和28年に
創設されたものであり,日本国法人の海外支店等の所得に対し,外国で日本国の法
人税に相当する課税を受けた場合には,当該外国で課された所得に対して日本国で
法人税を課する際に,その国外所得に対する日本国の法人税額の限度内で,外国で
課税された税額を控除できることとなった。
 ところで,国際的二重課税を排除する方法としては,外国税額控除制度のほか
に,国外所得免除方式があるが,国外所得免除方式は,企業の居住地国において,
国外所得に対する課税権を放棄するというものであり,この方式の下では,外国で
の課税額が少なければ少ない分だけ,企業の税負担は小さくなり,その意味で内外
投資への中立性は確保されない。
 日本国は,内外投資の中立性,すなわち,国内企業が国外進出を選択すること
が,国内活動をするより不利に扱われないということを重視し,外国税額控除制度
を採用した。これは,企業の海外進出に伴う経済のグローバル化と国際的な資本移
動の自由化が進むなかで,日本国企業の海外活動を容易にし,活発な資本交流を維
持,促進し,世界的な経済資源の効率的配分に資するとともに,日本国経済の長期
的発展を支えるという政策を重視していたからにほかならない。
 そして,この外国税額控除制度は,昭和30年代後半には,日本国企業の海外事
業活動の活発化等に即応し,昭和37年及び同38年の改正を通じて,従前の控除
すべき限度額の計算を所得の生じた当該外国ごとに行う国別限度額方式から,国外
所得全体として一括して限度額の計算をする一括限度額方式を採用するなど大幅な
拡充整備が行われてきた。
 しかし,この一括限度額方式は,控除限度額の計算が比較的簡明であるといった
利点がある反面,軽課税国又は非課税国の国外所得から創出される控除限度額を利
用して,日本国の実効税率を超える高率で課された外国法人税についてまで日本国
で控除され得るため,結果として国際的二重課税の排除という制度本来の趣旨・目
的を超えた控除が行われることとなるほか,高税率で課された外国の租税を控除で
きるようにするため,高率課税国に進出している企業が,控除枠を作るだけのため
に軽課税国又は非課税国に投資を行うなど,企業が控除枠の創出を目的とした投資
行動をとる誘因となるといった,制度の趣旨に反する問題が生じた。(乙2,3,
15)
 このような制度の趣旨・目的に反する問題をできる限り除去し,制度本来の趣
旨・目的に沿って所要の措置を講ずるため,昭和63年12月の改正がなされた。
同改正では,①控除限度額の基礎となる国外所得から当該非課税国外源泉所得に係
る所得の2分の1に相当する金額を控除することとし,全所得に占める国外所得の
割合は原則として90パーセントを限度とし(昭和63年政令362号による改正
後の施行令142条3項),また,②外国において50パーセントを超える税率で
課される外国法人税のうち50パーセントを超える部分を控除対象外国法人税額か
ら除くこととし(同施行令142条の2),さらに,金融業等利子収入割合の高い
法人の所得率が10パーセント以下の場合は利子等の収入金額の10パーセントを
超える部分,所得率が10パーセントを超え20パーセント以下の場合は利子等の
収入金額の15パーセントを超える部分を控除対象外国法人税の額から除外するこ
ととし(同施行令142条の3第2項),③これまで5年間の控除繰越しが認めら
れていた控除余裕額及び控除限度超過外国税額について,その繰越期間をいずれも
3年に短縮した(同施行令144条1項)。
イ 外国税額控除制度の内容
(ア)控除限度額
 外国税額控除制度については,法69条1項において,内国法人が各事業年度に
おいて外国法人税(外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定める
ものをいう。)を納付することとなる場合には,当該事業年度の所得の金額につき
66条1項から3項まで(各事業年度の所得に対する法人税の税率)の規定を適用
して計算した金額のうち,当該事業年度の所得でその源泉が国外にあるものに対応
するものとして政令で定めるところにより計算した金額を限度として,その外国法
人税の額(その所得に対する負担が高率な部分として政令で定める金額を除く。)
を当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除する旨規定している。
 このように,外国税額控除制度は,外国に租税を納付したからといって,無制限
にその納付した金額について税額控除が認められるのではなく,下記①の額又は②
の計算式により算出される額のうち,いずれか少ない金額を限度として控除が認め
られている(法69条1項,施行令142条。なお,②の下線部の割合は現行のも
ので,平成4年3月期は,2分の1〔平成4年3月31日政令第85号による改正
前のものが適用される。〕,平成5年3月期は,12分の7〔平成4年改正法施行
令(平成4年3月31日政令第85号)附則5条〕となっている。)。
(額又は計算式)
① 各事業年度において納付することとなる外国法人税の額
② 各事業年度の全世界所得に対する日本の法人税の額×当該事業年度の国外所得
金額(外国で非課税とされる所得の3分の2を除く。)÷当該事業年度の全世界所
得全額
(イ)控除余裕額及び控除限度超過外国税額についての繰越期間
 法69条2項及び3項においては,外国税額控除の限度額が当該事業年度に課さ
れた外国税額よりも大きく,限度額に余裕が生じた場合には,その余裕の範囲内で
当該事業年度前3年以内の事業年度中に課された外国税額で,それらの年度の限度
額を超えるため控除しきれなかった部分の外国税額を当該事業年度に繰り越して控
除することができること,反対に,当該事業年度に課された外国税額がその控除の
限度額を超え十分控除しきれないときは,当該事業年度前3年以内の事業年度にお
ける控除限度額に余裕がある場合に,当該事業年度の限度額に上に述べた余裕額を
加えた範囲内で,その事業年度の外国税額を控除することができることを規定して
いる。
 これは,日本国における所得計算が,発生主義を基調として行われており,外国
における課税は必ずしもその課税原因となった国外源泉所得の発生に対応する日本
国の課税年度中に行われるわけではなく,また,現行の外国税額控除制度が個々の
国外源泉所得とそれに対応する外国法人税額を個別的に対応させて控除するのでは
なく,当該事業年度において納付することとなった外国法人税額を控除限度額の範
囲内で控除することとなっているために,前後3年間の期間を通じて対応させ,国
外源泉所得の発生時期と外国法人税額とのずれを調整するものである。
(ウ)控除対象外国法人税
 法69条1項に規定する「外国の法令により課ざれる法人税に相当する税」と
は,外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により法人の所得を課税標準と
して課される税(以下「外国法人税」という。)であることが要件とされており
(施行令141条1項。この項の施行令は現行のものをいう。),また,法人の所
得を課税標準として課される税と同一の税目に属する税で,法人の特定の所得につ
き,徴税上の便宜のため,所得に代えて収入金額その他これに準ずるものを課税標
準として課されるもの等が外国法人税に含まれることとされている(施行令141
条2項3号)。
 さらに,法69条1項は,その所得に対する負担が高率な部分として政令で定め
る金額を除くとしているが,具体的には,負担が高率な部分として,外国において
50パーセントを超える税率で課される外国法人税のうち50パーセントを超える
部分(施行令142条の2)がこれに当たるとされ,さらに,原告のように金融業
を主として営む内国法人が納付することとなる所得税法23条1項(利子所得)に
規定する利子等の収入金額を課税標準として源泉徴収の方法に類する方法により課
される外国法人税については,所得率が10パーセント以下の場合は利子等の収入
金額の10パーセントを超える部分,所得率が10パーセントを超え20パーセン
ト以下の場合は利子等の収入金額の15パーセントを超える部分を控除対象外国法
人税の額から除外することとされている(施行令142条の3第2項1号)。
(4) 法69条の限定解釈の可能性
ア 被告は,法69条1項の「納付することとなる場合」を限定解釈し,本件各取
引における原告の外国源泉税の納付がこれに当たらないと主張するので,以下,同
文言の限定解釈の可能性について検討する。
 まず,法69条の制度の趣旨・目的の点から検討するに,前記(3)において述
べたところから明らかなように,外国税額控除制度は,結局のところ,同一の所得
に対する国際的二重課税を排除し,かつ,資本輸出の中立性を担保しようとする極
めて合理的な政策目的に基づくものである。
 ところで,昭和63年の抜本的な改正時には,立法者によって,外国税額控除枠
のいわゆる彼此流用の問題(一括限度額方式の下で,日本国の実効税率を超える高
率で課された外国税が,他の軽課税ないし非課税とされた国外所得から生じる控除
枠を利用して控除されてしまうという問題)は認識されていた。かかる彼此流用の
結果,国際的二重課税の制度の趣旨・目的を超えて内国法人に税額控除の利益を与
えることもあり,控除枠を創出するために,軽課税国ないし非課税国に投資すると
いう傾向が強まるという資本移動のゆがみが生ずることも認識されていた。
 ところが,昭和63年12月の法改正は,これを一般的に禁止することはせず,
控除限度額の枠の管理を強化したり,高率部分を控除対象外国法人税に含めないと
することによって対応することを明らかにしたものであると解され,彼此流用につ
いては,その限度で許容するという割り切った立法政策を採ったものと解される。
 このことから,単なる外国税額控除枠の彼此流用については,租税回避の問題が
あると解されたとしても,原則として,上記改正後の税額控除の要件を満たしてい
る限り,租税回避を理由として否認することはできないというべきである。その限
りにおいて,内国法人が控除限度額の枠を自らの事業活動上の能力,資源として利
用することが禁じられているわけではないということができる。
 しかし,本件では,同一法人内の彼此流用の問題ではなく,原告において,ペプ
シコ社やロシコ社が外国源泉税の負担軽減を図るため,原告の外国税額控除の余裕
枠を利用することを理解した上で,これを内容とする本件各取引を行い,ペプシコ
社やロシコ社に上記余裕枠を利用させ,同各社からその対価を得たものと認められ
るのであるから,別途の考察が必要である。
 すなわち,法69条は,国際的二重課税を排除して,日本国企業の国際取引に伴
う課税上の障害を取り除き,事業活動に対する税制の中立性を確保することを目的
とすることにかんがみると,同条は,内国法人が客観的にみて正当な事業目的を有
する通常の経済活動に伴う国際的取引から必然的に外国税を納付することとなる場
合に適用され,かかる場合に外国税額控除が認められ,かつ,その場合に限定され
るというべきである。
 したがって,内国法人が,本来69条の適用の対象者ではない第三者に,外国税
額控除の余裕枠を利用させ,第三者からその利用に対する対価を得ることを目的と
して,そめために故意に日本国との関係で二重課税を生じさせるような取引をする
ことは,前述した法69条の制度の趣旨・目的を著しく逸脱するものというべきで
あり,当該行為にはおよそ正当な事業目的がなく,あるいは極めて限局された事業
目的しかないものであるから,内国法人が同取引に基づく外国法人税を納付したと
しても,法69条の制度を濫用するものとして,同条1項にいう「外国法人税を納
付することとなる場合」には該当せず,同条の適用を受けることができないとの解
釈が許容されてしかるべきである。
イ 原告は,「正当な事業目的」という基準を設けて,法69条の限定解釈を行う
ことは,租税法律主義に反すると主張する。
 しかし,法69条の適用にあたり,同条の制度を濫用する事案において,上記の
ような限定的な解釈をすることが許されるべきであることは前述したとおりであ
る。そして,同条の制度を濫用する事案においては,自らが,正当な事業目的がな
く,あるいは極めて限局された事業日的しかなく,制度を濫用していることを認識
しているような事例において,このような限定解釈を行ったからといって,法的安
定性,予測可能性を害することにはならない。したがって,原告の上記主張は採用
することができない。
ウ また,原告は,非課税規定についてのみ限定解釈を認めることは不合理である
し,一方,外国税額控除制度は,国際的二重課税を排除するための選択の余地のな
い制度であり,課税減免規定にも当たらないと主張する。
 確かに,外国税額控除制度は,必ずしも恩恵的な制度とはいい難いが,選択の余
地のある政策的な制度であり,法69条は特別な課税減免規定に当たるから,租税
負担公平の原則から,不公平の拡大を防止するためにも,限定解釈を行う必要があ
るというべきである。
エ 原告は,外国税額控除制度は,中立性の維持を目的としているわけではなく,
仮に,資本輸出の中立性の立場からは,外国税額について一切制限することなく完
全に控除できる制度が望ましいと主張するが,前記(3)に述べたところに照ら
し,採用することができない。
(5) 正当な事業目的の具体的な判断基準について
ア 前記(3),(4)で述べたところによると,少なくとも,法69条の適用を
受けようとする者において,外国税額控除の余裕枠を利用すること以外におよそ正
当な事業目的が存しない場合や,それ以外の事業目的が極めて限局されたものであ
る場合には,法69条の制度を濫用するものとして,同条1項にいう「外国法人税
を納付することとなる場合」には当たらないと解するのが相当である。
 また,外国税額控除の余裕枠を他人に利用させ,その対価を得ること自体を正当
な事業目的ということはできないと解すべきである。
イ なお,原告は,「租税回避のみを目的としたと認められる場合」のみならず,
「当該取引から得られる利益と外国税額控除から得られる利益とを比較した場合
に,前者が後者に比べて著しく少ない場合」も限定解釈をし,外国税額控除を認め
ないとすることは不当であると主張する。
 しかし,租税回避のみを目的としているにもかかわらず,わずかな事業目的を外
形的に作出して,外国税額控除制度の適用を受けようとするような場合は,専ら,
租税回避を目的とするにもかかわらず,その非難を回避しようとするものにすぎ
ず,これを放置することは,結局,法69条の限定解釈を無意味にすることにつな
がり,相当でない。
ウ また,原告は,上記アの判断基準は不明確であるとか,このような解釈を許す
ことは,法律によらない課税を容認したり,新たな否認類型を創設するもので許さ
れないと主張する。
 しかし,法69条の制度を濫用する事案のみを排除することは,むしろ,制度の
趣旨・目的に沿うものというべきであり,法律によらない課税を容認したり,新た
な否認類型を創設することにはならないと考える。
(6) ペプシコ事案への当てはめ
ア ペプシコ事案における取引の内容は,前記2のとおりであり,原告は,平成3
年6月6日付けで,ペプシコ社との間で,本件手形買取契約を締結するとともに,
本件覚書記載の内容について合意し,これにより,原告は,同日,上記手形を買い
取り,その額面金額合計2億7266万6725.11米ドル(上記貸付金元本合
計であり,手形金に対する利息は別途発生する。)をペプシコ社に支払い,一方,
原告は,同年7月11日,ペプシコ社から,手形金に対する手形売買の日である同
年6月6日から同年7月1日までの利息128万1676米ドルの送金を受けた。
 さらに,原告は,平成3年7月15日,サブリタス社から手形金の支払を受けた
が,その際,貸付金利息1746万9972.22米ドルからメキシコ国源泉税2
62万0495.83米ドルを控除した1484万9476.39米ドルを受領す
る一方,同日,本件覚書に基づき,ペプシコ社に対し,1557万8637.73
米ドルを送金したが,その内訳は,次のとおりであった。
(原告が支出したもの)
① サブリタス社から受領した源泉税控除後の利息である1484万9476.3
9米ドル(原判決「事実及び理由」中の「第2の4 取引の外形的事実」1(4)
イ(エ)①に相当)
② 上記控除された源泉税額(利息の15パーセント)の3分の2(利息の10パ
ーセントに相当)である174万6997.22米ドル(コミット金額)から,平
成3年7月15日から同4年6月30日までの間年利6.8125パーセントの割
合で計算した金利を割引した163万9864.89米ドル(同②に相当)
(原告が受領したもの)
③ 手形金に対する平成3年7月1日から同月15日までの利息70万4899.
51米ドル(同③に相当)
④ 取引実行手数料20万5804.04米ドル(同④に相当)
 本来の手形売買であれば,ペプシコ社としては,通常,上記手形金(貸付金元
本)のほか,原告が受領した利息から,原告が支出した手形代金に対する利息(上
記①から③までの金銭及び平成3年7月11日に受領した128万1676米ド
ル)を控除したものに相当する金銭を受領すると考えられる(もちろん,回収の危
険があり,かつ,早期に元本を回収する必要がある場合などは,元本を割ることも
考えられないではない。)。
 しかし,サブリタス社からの回収に危険が存したことを窺わせるような事情は見
当たらず,また,ペプシコ社において,緊急の資金需要など元本回収の必要性が存
したことを窺わせる事情も見当たらない。
 そうすると,上記②及び④の金銭のやりとりは,通常の手形売買には見られない
ものであり,少なくとも,上記②,④の金銭は,原告の外国税額控除の余裕枠の利
用に対する対価であるといえる。
イ 前記アによると,原告は,ペプシコ社が,サブリタス社に対して融資をするに
あたり,その利息収入に対して課税されるメキシコ国源泉税の負担軽減を図るた
め,原告の外国税額控除の余裕枠を利用しようとして,本件取引を申し出たことを
認識しながら,ペプシコ社から対価を得ることを目的として,これに応じたという
べきである。
 原告は,本件取引により,上記ア②,④の手数料等を受けることと引き換えに,
自らが外国税額控除の余裕枠を行使しながら,その実際は,その経済的効果を外国
企業であるペプシコ社に帰属させている。
 しかも,前述したとおり,原告の利得は,本件取引から生ずる外国法人税の控除
額に比べてわずかであり,本件覚書や本件取引に係る社内での稟議書などからも,
本件取引の目的が,専ら,ペプシコ社に原告の外国税額控除の余裕枠を利用させ,
その対価を得ることにあることは明らかであり,他に正当な事業目的が存したと認
めることはできず,そうでないとしても,極めて限局されたものにすぎないという
べきである。
ウ なお,ペプシコ社がサブリタス社に対して融資をするにあたり,税負担を最小
限とするよう取引の形態を選択することは,むしろ当然のことであるが,そのこと
によって,本件取引における原告の正当な事業日的の存在を認めることはできない
と考える。
 そして,原告自身が,本件取引によって,外国税額控除の余裕枠を利用してコス
トの低い金融を提供することによる対価を得ることをもって,正当な事業目的が存
したといえないことはいうまでもない(これをもって正当な事業目的とすること
は,前述した法69条の限定解釈の可能性を否定することにつながり,相当とはい
えない。)。
エ この点,ペプシコ社が,サブリタス社に対して手形貸付を行った後,資金需要
が生じたため,原告がこれに応じたというのであれば,正当な事業目的の存在を肯
定することもできるが,ペプシコ社が資金需要のため,早期に貸付金の回収を図っ
たという事情は窺えない。原告は,ペプシコ社とサブリタス社間の既存の取引にわ
ざわざ参画したものであり,その目的は,専ら,原告の外国税額控除の余裕枠の利
用によるメキシコ国源泉税の軽減及びこれに対する対価の取得であったが,既存の
取引にわざわざ参画したということは,その目的の存在をより強く認定し得る有力
な事情ということができる。
オ 以上,認定説示したとおり,ペプシコ事案における本件取引は,原告が,原告
以外の第三者であるペプシコ社に,外国源泉税の負担軽減を図るために原告の外国
税額控除の余裕枠を利用させ,同社からその利用に対する対価を得ることを主たる
目的とした不自然な取引であり,外国税額控除を定めた法69条の制度の趣旨・目
的を著しく逸脱するものであって,当該行為におよそ正当な事業目的が存するとは
いえず,そうでないとしても,極めて限局された事業目的が存するとしかいえない
ことからすると,原告がこのような取引に基づきメキシコ国源泉税を納付したとし
ても,法69条の制度を濫用するものとして,同条1項にいう「外国法人税を納付
することとなる場合」に当たると解することはできず,原告において同条による外
国税額控除の適用を受けることはできないというべきである。
(7) ロシコ事案への当てはめ
ア ロシコ事案における取引の内容は,前記3のとおりであり,原告は,平成3年
9月1日付けで,ロシコ社との間で本件債権譲受・預金契約を締結し,これによ
り,原告は,ロシコ社から,カデラ社に対する本件債権を譲り受け,その代金をロ
シコ社の原告に対する預金に充てた。
 さらに,原告は,平成4年2月1日,カデラ社から,平成3年9月1日から同4
年1月31日まで年利11.75パーセント(LIBOR)の割合で計算した利息
額394万0273.97AUドルからオーストラリア国源泉税(利息に対して1
0パーセント)相当額39万4027.40AUドルを控除した金額354万62
46.57AUドルを送金し,一方,原告は,平成4年2月1日,上記の送金を受
けた後,本件債権譲受・預金契約に基づき,ロシコ社に対し,平成3年9月1日か
ら同4年1月31日まで年利11.40パーセント(LIBORから0.35パー
セントを引いた利率)の割合で計算した預金利息額382万2904.11AUド
ルを支払った。
 カデラ社は,平成4年8月1日,本件債権譲受・預金契約に基づき,原告に対
し,同年2月1日から同年7月31日まで年利7.995パーセント(LIBO
R)の割合で計算した利息額318万9238.36AUドルからオーストラリア
国源泉税(利息に対して10パーセント)相当額31万8923.84AUドルを
控除した金額287万0314.52AUドルを送金し,一方,原告は,平成4年
8月1日,上記の送金を受けた後,本件債権譲受・預金契約に基づき,ロシコ社に
対し,同年2月1日から同年7月31日まで年利7.645パーセント(LIBO
Rから0.35パーセントを引いた利率)の割合で計算した預金利息額304万9
621.92AUドルを支払った。
 なお,貸付金債権については,平成4年7月31日,本件債権譲受・預金契約に
基づき,再び,ロシコ社に移転されるとともに,本件預金契約は解除され,この間
についても,実際の8000万AUドルに相当する資金の授受はなされなかった。
 そうすると,原告は,本件取引の結果,ロシコ社から8000万AUドルに対す
る年0.35パーセントの割合による金銭を受け取り,ロシコ社は,原告から,8
000万AUドルに対するLIBORの割合による金銭(オーストラリア国源泉税
の控除のない金額)を受け取るのと同じ経済的効果を生じたことになり,上記80
00万AUドルに対する年0.35パーセントの割合による金銭は,原告の外国税
額控除の余裕枠の利用に対する対価であるといえる。
イ 前記アによると,原告は,ロシコ社が,カデラ社に対して融資をするにあた
り,その利息収入に対して課税されるオーストラリア国源泉税の負担軽減を図るた
め,原告の外国税額控除の余裕枠を利用しようとして,本件取引を申し出たことを
認識しながら,ロシコ社から対価を得ることを目的として,これに応じたというべ
きである。
 しかも,前記アによると,本件取引は,明らかな逆ざやの取引であり,しかも,
資金の現実の授受もなされておらず,本件取引に正当な事業目的の存在を認めるこ
とはできないというべきであり,本件取引は,ロシコ社に原告の外国税額控除の余
裕枠を利用させ,同社からこれに対する対価を得ることだけを目的とした取引とし
か言いようがない。
ウ なお,ロシコ社がカデラ社に対して融資をするにあたり,税負担を最小限とす
るよう取引の形態を選択することは,むしろ当然のことであるが,そのことによっ
て,本件取引における原告の正当な事業目的の存在を認めることはできないし,原
告自身が,本件取引によって,外国税額控除の余裕枠を利用してコストの低い金融
を提供することによる対価を得たとして,正当な事業目的が存したと解することが
できないことは,前記(6)で述べたところと同様である。
エ この点,ロシコ社が,カデラ社に対して貸付を行った後,資金需要が生じたた
め,原告がこれに応じたというのであれば,正当な事業目的の存在を肯定すること
もできるが,前記第2の1(3)のとおり,ロシコ社と原告との間には8000万
AUドルに相当する資金の現実の授受は行われておらず,本件取引に係る契約が中
途解約される場合においても,上記金額に相当する資金の現実の授受は行われない
こととなっていた(実際にも,契約が中途解約され,資金の現実の授受は行われな
かった。)ことが認められ,これらの事実に照らしても,ロシコ社に資金需要が存
したと認めることはできない(もともと,ロシコ社は,オーストラリア国のセメン
ト会社の買収のために設立された会社である。)。
 また,原告は,ロシコ社とカデラ社間の既存の取引にわざわざ参画したものであ
るが,その目的は,もっぱら前記イの目的にあり,既存の取引にわざわざ参画した
ということは,その目的の存在をより強く認定し得る有力な事情ということができ
る。
オ 以上,認定説示したとおり,ロシコ事案における本件取引は,原告が,原告以
外の第三者であるロシコ社に,外国源泉税の負担軽減を図るために原告の外国税額
控除の余裕枠を利用させ,同社からその利用に対する対価を得ることを唯一の目的
とした不自然な取引であり,外国税額控除を定めた法69条の制度の趣旨・目的を
著しく逸脱するものであって,当該行為におよそ正当な事業目的が存するとはいえ
ないことからすると,原告がこのような取引に基づきオーストラリア国源泉税を納
付したとしても,法69条の制度を濫用するものとして,同条1項にいう「外国法
人税を納付することとなる場合」に当たると解することはできず,原告において同
条による外国税額控除の適用を受けることはできないというべきである。
6 損金処理の可否について
 原告は,仮に予備的主張が認められたとしても,本件メキシコ国源泉税及びオー
ストラリア国源泉税は,損金に算入されるべきであると主張する。
 しかし,そもそも,本件各取引においては,前記第2の1(2),(3)のとお
り,原告が外国税額控除の適用を受けられない場合には,外国法人税を負担する義
務を負わず,原告は,ペプシコ事案においては,ペプシコ社に対しその償還を求め
ることができ,ロシコ事案においては,契約を中途解約するなどして,外国税額控
除の適用が受けられない場合のリスクを負わないことになっていることが認められ
る。したがって,外国税額相当額を損金に算入することはできないというべきであ
る。
 この点について,原告は,外国税額控除の適用が否定された結果発生する原告の
損失を,ペプシコ社やロシコ社が補償しなければならないのは,両社に何らかの損
害賠償責任がある場合しか考えられず,また,両社がそのような責任を負うべき事
由もないと主張するが,前記第2の1(2),(3)の事実に照らして,採用する
ことができない。
7 原告の納付すべき税額
(1) 平成4年3月期について
 平成4年3月期の課税の経緯の詳細は,原判決別紙1のとおりであるが,これに
前記5,6を総合すると,次のとおり,同期における処分はいずれも適法というこ
とができる。
ア 平成4年3月期については,受取手数料等のうち3857万6531円を当期
利益から減算する必要がなくなり,原告の同期の所得金額は2337億0865万
3041円となる。所得金額に対する法人税額は,法人税法66条,国税通則法1
18条により上記金額(ただし,1000円未満の端数金額を切り捨てたもの)に
0.375を乗じた876億4074万4875円となり,これから控除すべき税
額259億4861万3937円を控除すると,差引合計法人税額は616億92
13万0900円(国税通則法119条により100円未満の端数金額を切り捨て
たもの)となる。同期の本件再更正処分に基づく納付すべき法人税額616億77
66万4500円は,上記金額の範囲内となり,同処分は適法である。
イ また,平成4年3月期の本件原処分を前提として,上記受取手数料等の減算を
しないでおくと,同処分に基づき納付すべき法人税額は2億6980万7600円
となり,これについての過少申告加算税は,国税通則法65条,118条により上
記金額(ただし,1万円未満の端数金額を切り捨てたもの)に0.1を乗じた26
98万円となるが,同期の本件原処分において行った過少申告加算税の賦課決定額
2553万4000円は,上記金額の範囲内となり,同処分は適法である。
ウ さらに,平成4年3月期の本件再更正処分を前提として,上記受取手数料等の
減算をしないでおくと,同処分に基づき納付すべき法人税額は7026万2600
円となり,これについての重加算税は,国税通則法68条,118条により上記金
額(ただし,1万円未満の端数金額を切り捨てたもの)に0.35を乗じた245
9万1000円となるが,同期の本件再更正処分において行った重加算税の賦課決
定額2459万1000円は,上記金額と同額であり,同処分は適法である(な
お,本件再更正処分の新たな処分理由は,法69条の外国税額控除とは関係がな
く,原告は,これについて不服を申し立てていない。)。
(2) 平成5年3月期について
 平成5年3月期の課税の経緯の詳細は,原判決別紙2のとおりであるが,これに
前記5,6を総合すると,次のとおり,同期における処分はいずれも適法というこ
とができる。
ア 平成5年3月期については,受取利息のうち1154万6978円を当期利益
から減算する必要がなくなり,原告の同期の所得金額は1120億4492万12
40円となる。所得金額に対する法人税額は,法人税法66条,国税通則法118
条により上記金額(ただし,1000円未満の端数金額を切り捨てたもの)に0.
375を乗じた420億1684万5375円となり,これから控除すべき税額2
57億8727万9153円を控除すると,差引合計法人税額は162億2956
万6200円(国税通則法119条により100円未満の端数金額を切り捨てたも
の)となる。同期の本件再更正処分に基づく納付すべき法人税額162億2956
万6200円は,上記金額と同額であり,同処分は適法である
イ また,平成5年3月期の本件原処分を前提として,上記受取利息の減算をしな
いでおくと,同処分に基づき納付すべき法人税額は12億5948万3000円と
なり,これについての過少申告換算税は,国税通則法65条,118条により上記
金額(ただし,1万円未満の端数金額を切り捨てたもの)に0.1を乗じた1億2
594万8000円となるが,同期の本件原処分において行った過少申告加算税の
賦課決定額1億2594万8000円(平成7年6月22日の過少申告加算税の賦
課決定額を,平成10年2月25日変更決定したもの)は,上記金額と同額であ
り,同処分は適法である。
ウ さらに,平成5年3月期の本件再更正処分を前提として,上記受取利息の減算
をしないでおくと,同処分に基づき納付すべき法人税額は1億6355万7800
円となり,これについての重加算税は,国税通則法68条,118条により上記金
額(ただし,1万円未満の端数金額を切り捨てたもの)に0.35を乗じた572
4万2500円となるが,同期の本件再更正処分において行った重加算税の賦課決
定額5724万2500円は,上記金額と同額であり,同処分は適法である(な
お,本件再更正処分の新たな処分理由は,法69条の外国税額控除とは関係がな
く,原告は,これについて不服を申し立てていない。)。
第4 結論
 よって,原告の請求(ただし,原判決主文3ないし6項にかかる請求)はいずれ
も理由がないので,これを棄却すべきところ,これと異なる原判決主文3ないし6
項は不当であるから,これを取り消し,主文のとおり判決する。
(当審口頭弁論終結日 平成14年3月1日)
大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 竹原俊一
裁判官 小野洋一
裁判官 山田陽三

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