弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
処分行政庁が原告に対し平成22年9月16日付けでした平成○年度(判)
第○号金融商品取引法違反審判事件の事件記録の謄写を許可しない旨の決定を
取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,処分行政庁に対し,被審人Aに係る平成○年度(判)第○
号金融商品取引法違反審判事件(以下「本件審判事件」という。)につき,金
融商品取引法(以下「法」という。)185条の13に基づき,事件記録の謄
写を申請したところ,処分行政庁からこれを許可しない旨の決定(以下「本件
不許可決定」という。)を受けたため,その取消しを求める事案である。
1法の定め
(1)審判手続開始の決定
法178条1項は,内閣総理大臣は,同項各号に掲げる事実のいずれかが
あると認めるときは,当該事実に係る事件について審判手続開始の決定をし
なければならない旨規定し,同項2号は,法172条の2第1項(同条第4
項において準用する場合を含む。),第2項(同条5項において準用する場
合を含む。)又は第6項に該当する事実を掲げる(なお,平成20年法律第
65号による改正前の金融商品取引法(以下「旧法」という。)178条1
項1号は,172条1項(同条第4項において準用する場合を含む。)又は
第2項(同条5項において準用する場合を含む。)に該当する事実を掲げて
いた。)。
(2)虚偽記載のある目論見書を使用した発行者の役員等に対する課徴金納付
命令
旧法172条2項は,重要な事項につき虚偽の記載がある発行開示書類を
提出した発行者の役員等であって,当該発行開示書類に虚偽の記載があるこ
とを知りながら当該発行開示書類の提出に関与した者が,当該発行開示書類
に基づく売出しにより当該役員等が所有する有価証券を売り付けたときは,
内閣総理大臣は,当該役員等に対し,当該売り付けた有価証券の売出価額の
総額の100分の1(当該有価証券が株券等である場合にあっては,100
分の2)に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならな
い旨規定し,同条5項は,重要な事項につき虚偽の記載がある目論見書を使
用した発行者の役員等であって,当該目論見書に虚偽の記載があることを知
りながら当該目論見書の作成に関与した者が,当該目論見書に係る売出しに
より当該役員等が所有する有価証券を売り付けた場合に同条2項の規定を準
用している。
(3)事件記録の閲覧等
法185条の13は,利害関係人は,内閣総理大臣に対し,審判手続開始
の決定後,事件記録の閲覧若しくは謄写又は法185条の7第17項に規定
する決定に係る決定書の謄本若しくは抄本の交付を求めることができる旨規
定するとともに,この場合において,内閣総理大臣は,第三者の利益を害す
るおそれがあるときその他正当な理由があるときでなければ,これを拒むこ
とができない旨規定する。
(4)処分行政庁への権限の委任
法194条の7は,内閣総理大臣は,この法律による権限(政令で定める
ものを除く。)を処分行政庁に委任する旨規定しており,法185条の閲覧
謄写請求に応答する権限も処分行政庁に委任している。
2前提事実(争いがないか,各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認
められる事実等)
(1)当事者等
ア原告は,株式会社B(以下「B社」という。)の株主である。
イB社は,被審人Aが昭和55年11月に設立した株式会社であり,被審
人Aは,平成6年1月19日から平成21年2月20日まで,同社の代表
取締役の地位にあった(甲1,9,弁論の全趣旨)。
(2)別件審判事件の経過(甲11,乙1,2)
ア処分行政庁は,平成21年6月26日,法178条1項に基づき,B社
に対する審判手続を開始する旨決定した(平成○年度(判)第○号。以下
「別件審判事件」という。)。同決定において,課徴金に係る同項各号に
掲げる事実(同項2号及び4号に該当)は要旨下記のとおりであり,納付
すべき課徴金の額は2億5353万円とされている(以下,(ア)から(エ)
までの各報告書及び(オ)の有価証券届出書を併せて「本件有価証券報告書
等」といい,また,下記のB社による法違反の各行為を併せて「別件違反
行為」という。)。

B社は,特別目的会社を活用した不動産流動化(以下「本件不動産流動
化」という。)の終了に伴い,B社とともに当該特別目的会社が組成した
匿名組合への出資を行った株式会社C(以下「C」という。)がB社の子
会社に該当し,B社のリスク負担割合は約31パーセントとなるため匿名
組合清算配当金49億2000万円がB社に発生することはなく,これを
B社の特別利益として計上することはできないにもかかわらず,Cの出資
者をB社とは無関係の第三者に仮装することにより,上記の配当金が発生
し,これを特別利益として計上することができる場合に該当するとして,
(ア)平成19年11月20日,関東財務局長に対し,重要な事項につき
虚偽の記載がある臨時報告書を提出し,
(イ)平成19年11月29日,関東財務局長に対し,重要な事項につき
虚偽の記載がある第27期事業年度連結会計期間に係る有価証券報告書
(以下「第27期有価証券報告書」という。)を提出し,
(ウ)平成20年5月2日,関東財務局長に対し,重要な事項につき虚偽
の記載がある第28期事業年度中間連結会計期間に係る半期報告書(以
下「第28期半期報告書」という。)を提出し,
(エ)平成20年11月27日,関東財務局長に対し,重要な事項につき
虚偽の記載がある第28期事業年度連結会計期間に係る有価証券報告書
を提出し,
(オ)平成20年5月16日,関東財務局長に対し,第27期有価証券報
告書及び第28期半期報告書を参照書類とする有価証券届出書を提出し,
同有価証券届出書に基づく募集により,同年6月9日,16万3500
株の株券を123億3771万円で取得させ,もって,重要な事項につ
き虚偽の記載がある発行開示書類に基づく募集により有価証券を取得さ
せた。
イB社は,平成21年7月10日付けで,別件違反行為及び納付すべき課
徴金の額を認める旨の答弁書を提出した。
ウ処分行政庁は,平成21年7月30日,B社に対し,2億5353万円
の課徴金を国庫に納付することを命じる旨の決定をし,B社は,その頃,
同額の課徴金を国庫に納付した。
(3)本件審判事件の経過(甲1)
ア処分行政庁は,平成21年6月26日,法178条1項に基づき,被審
人Aに対する審判手続を開始する旨決定した(本件審判事件)。同決定に
おいて,課徴金に係る同項各号に掲げる事実(同項2号に該当。以下「本
件違反行為」という。)は要旨下記のとおりであり,納付すべき課徴金の
額は1億2073万円とされている。

B社が行った本件不動産流動化においては,匿名組合清算配当金は発生
しないにもかかわらず,B社の第27期有価証券報告書及び第28期半期
報告書にはこれが発生している旨の虚偽の記載があり,B社はこれら記載
のある報告書を参照書類とする目論見書(以下「本件目論見書」とい
う。)を使用したところ,代表取締役であった被審人Aは,本件目論見書
に虚偽の記載があることを知りながらその作成に関与し,本件目論見書に
係る売出しにより,平成20年6月10日,被審人Aが所有するB社の株
式8万株を60億3680万円で売りつけた。
イ処分行政庁は,平成22年6月25日,本件審判事件について,被審人
Aに本件違反行為(法178条1項2号に該当する事実)を認めることは
できない旨決定した。
(4)株主代表訴訟の提起
原告は,平成22年2月2日,被審人Aを含むB社の役員等ないし役員等
であった者に対し,①B社が本件不動産流動化の終了に伴い匿名組合清算
金が発生している旨の虚偽の記載がされた本件有価証券報告書等を漫然と提
出するなどしたこと,また,②B社が平成20年8月期に匿名組合清算配
当金49億2000万円を特別利益として過大に計上して法人税等の確定申
告をしたことにつき,同人らに任務懈怠行為等があり,会社法423条等に
基づきB社に対する損害賠償責任を負うと主張して,会社法847条に基づ
き,連帯してB社に対して損害賠償金22億5353万円(課徴金相当額2
億5353万円,過大納付法人税等相当額20億円)及び遅延損害金を支払
うことを求める株主代表訴訟を提起した(甲9,以下「本件株主代表訴訟」
という。)。
(5)本件不許可決定及び本件訴えの提起
ア原告は,平成22年8月16日,処分行政庁に対し,本件審判事件につ
き,法185条の13に基づき,事件記録の謄写を申請した(甲3)。
イ処分行政庁は,平成22年9月16日,上記アの申請を許可しない旨の
決定をした(本件不許可決定)。
ウ原告は,平成23年3月11日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
3本件の争点及び当事者の主張
本件の争点は,本件不許可決定の違法性であり,具体的には,原告が本件審
判事件につき法185条の13にいう利害関係人に当たるか否かである。
(1)原告の主張
ア(ア)法185条の13に基づき事件記録の閲覧謄写を求めることができ
る利害関係人には,審判事件の対象をなす違反行為によって被害を被っ
た者を含み,さらに,同違反行為と実質的に同一の行為によって被害を
被った者も含まれると解される。
そして,株主が,会社法847条に基づき,審判事件の対象をなす違
反行為と実質的に同一の行為により被害を被った株式会社を代表して株
主代表訴訟を提起し,上記の被害者に準ずる地位を取得した場合には,
当該株主も,法185条の13にいう利害関係人に当たると解すべきで
ある。
(イ)B社は,被審人Aが虚偽の記載がある本件有価証券報告書等の作成
に関与したことによって,課徴金等の支払を余儀なくされるという被害
を被ったところ,本件目論見書は第27期有価証券報告書及び第28期
半期報告書を参照書類としているし,本件目論見書の作成行為と本件有
価証券報告書等の作成行為はいずれも本件不動産流動化の終了に当たり
なされた一連の行為の一部であるから,被審人Aが虚偽の記載がある本
件有価証券報告書等の作成に関与したことは,被審人Aが本件目論見書
に虚偽の記載があることを知りながらその作成に関与したという本件違
反行為と実質的に同一の行為といえる。
そして,原告は,被害者であるB社を代表して,被審人Aを含むB社
の役員等ないし役員等であった者に対し,本件株主代表訴訟を提起し,
本件違反行為と実質的に同一の行為により被害を被った者に準ずる地位
を取得したものであるから,法185条の13にいう利害関係人に当た
る。
イ(ア)被告は,法185条の13にいう利害関係人に当たる被害者は,
審判事件の対象をなす違反行為の被害者に限られると主張する。しか
し,このように解すると,処分行政庁の違反行為の捉え方等によって
は,当該違反行為と実質的に同一の行為によって被害を受けた者であ
っても,適切に損害賠償請求権を行使するために必要な審判記録の閲
覧謄写ができないことになりかねないが,かかる結果は,被害者に適
切に損害賠償請求権を行使させ,もって「国民経済の健全な発展及び
投資者の保護」(法1条)を図るという法185条の13の趣旨に反
することとなる。
本件について具体的に検討しても,本件株主代表訴訟の当事者等の
中では,原告のみが,本件審判事件に係る審判記録を閲覧謄写できな
い状態にある。そうである以上,情報の偏在を是正し,もって当事者
間の対等,公平な裁判を実現するためには,原告が審判記録の開示を
受けることが必要不可欠である。他方で,審判記録の閲覧謄写を許す
ことにより生じる弊害等については,原告は開示された審判記録を目
的外使用することは絶対にないし,他の当事者等は本件審判記録を容
易に閲覧謄写できる立場にある。そうすると,原告が審判記録の開示
を受けることによって,関係者らの名誉やプライバシー等が侵害され
ることはなく,少なくともこれを強調すべきではない。
(イ)被告は,当該審判事件の被審人とは異なる者がした別個の行為によ
って被害を受けた者に対し,当該審判記録の閲覧謄写を認めるべき理由
は存しないと主張する。
しかしながら,本件審判事件の対象たる本件違反行為と「実質的に同
一の行為」である本件有価証券報告書等の作成行為は,いずれも本件不
動産流動化の終了に当たりされた一連の行為であるとともに,B社の代
表取締役であった被審人Aが行ったものであるから,被告の主張は当た
らない。
(ウ)被告は,自己が株式を保有する会社の役員等が任務懈怠を行って会
社に損害を与えた場合に,会社に対する関係では内部者ないしは当事者
である株主を保護することを法は予定していないことは明らかであると
主張するが,このような解釈は独自の解釈であって失当である。
(2)被告の主張
ア法は,「国民経済の健全な発展及び投資家の保護」を目的とし,民事賠
償責任に関する規定を置いて,金融資本市場における同法に違反する行為
によって被害を被った者の救済を通じて,これにより金融資本市場の透明
性・公正性の確保を図っている。このような法の目的や保護対象,審判記
録の閲覧謄写を無限定に許すことにより生じる弊害等に照らすと,法18
5条の13は,審判記録の閲覧謄写について,審判手続に参加する関係人
の手続保障等の観点や,法に違反する行為によって被害を受けた者を救済
し,かかる被害者が適切に損害賠償請求権を行使することなどの便宜を図
るという観点を考慮して,審判手続に参加する関係人や,法に違反する行
為によって被害を受けた者に対し,その利益を擁護する機会を与えるため
に,審判記録の閲覧等を許すこととしたものと解されるから,同条にいう
利害関係人は,審判手続に参加する関係人に加え,審判事件の対象とされ
た違反行為によって被害を受け,当該違反行為を行った者等に対し損害賠
償請求権を行使することができる者をいうと解される。
そして,法の目的等や,旧法17条本文が,重要な事項につき虚偽の記
載がある目論見書を信頼して有価証券を取得した者に損害賠償請求権を認
めていることに照らすと,旧法172条5項に該当する違反行為によって
被害を被った者とは,重要な事項につき虚偽の記載がある目論見書を信頼
して,同目論見書を使用した発行者の役員等が所有する有価証券を取得し
た者をいうものと解される。
B社は,本件違反行為である被審人AによるB社の株式の売付け行為に
関し,当該株式を取得した事実は何らうかがえないから,本件審判事件に
つき,法185条の13にいう利害関係人にあたるということはできない。
したがって,原告が,B社を代表して,その役員等ないし役員等であった
者に対し本件株主代表訴訟を提起したとしても,法185条の13にいう
利害関係人に当たると解する余地はない。
イ原告は,法185条の13にいう利害関係人に当たる被害者が審判事件
の対象をなす違反行為の被害者に限られるとすると,処分行政庁の違反行
為の捉え方等によっては,審判事件の対象をなす違反行為と実質的に同一
の行為によって被害を受けた者であっても,適切に損害賠償請求権を行使
するために必要な審判記録の閲覧謄写ができないことになりかねないが,
かかる結果は,法185条の13の趣旨に反すると主張する。
しかしながら,ここでいう実質的に同一の行為なるものが,当該審判事
件の被審人とは異なる者が行った別個の行為を指すのであれば,かかる行
為によって被害を受けた者は,当該審判事件の対象をなす違反行為に関し,
何ら損害賠償請求権を行使できる立場にない。したがって,このような者
に対し,当該審判記録の閲覧謄写を認めるべき理由は存しないというべき
である。そして,審判記録の閲覧謄写を許すことにより生じる弊害等に照
らせば,法185条の13にいう利害関係人に含まれる被害者の範囲は,
同条の趣旨に照らし,審判記録の閲覧謄写を認めるべき利害関係を有する
か否かによって決せられるべきところ,実質的に同一の行為なる曖昧かつ
不明確な概念によっては,利害関係人の範囲を決することができないばか
りか,法の予定する保護対象とならない者が,関連事実に対して損害賠償
請求訴訟を提起しさえすれば無制限にこれに該当するおそれも招来しかね
ないものというべきである。
また,法が保護の対象としているのは,金融資本市場における取引対象
である金融商品に対し,募集等に応じて投資を行った者であって,違反行
為も当該金融商品の募集等についての行為を予定しているから,自己が株
式を保有する会社の役員等が任務懈怠行為を行って会社に損害を与えた場
合に,会社に対する関係では内部者ないしは当事者である株主を保護する
ことを予定していないことは明らかである。そうすると,本件株主代表訴
訟を提起した原告は,法185条の13が予定する当該違反行為による被
害者には含まれていないのであって,原告が適切に損害賠償請求権を行使
できないのでは投資者の保護に欠けることになるなどとする原告の主張は
失当である。
第3争点に対する判断
1法185条の13にいう利害関係人の範囲について
(1)法は,有価証券の発行及び金融商品等の取引等を公正にし,有価証券の
流通を円滑にするほか,資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公
正な価格形成等を図り,もって国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資
するという1条に規定する目的に資するため,違反行為者は,一定の要件の
下に,法違反行為を原因として損害を受けた有価証券の取得者に対し損害賠
償義務を負う旨の規定を置き,また,そのうち一定の場合については損害額
の推定規定を置く(16条から19条まで,21条,21条の2,22条
等)。このような法の規定やその趣旨,目的等に照らせば,法185条の1
3所定の事件記録の閲覧謄写請求権は,審判手続における当事者の防御権行
使等のためだけに認められたものではなく,法違反行為を原因として損害を
被った有価証券の取得者が違反行為者に対し損害賠償請求権を行使するため
の便宜を図る趣旨をも含むものと解される。そうすると,法185条の13
にいう利害関係人とは,当該審判事件の被審人のほか,当該審判事件の対象
とされる法違反行為を原因として損害を被った有価証券の取得者をいうと解
するのが相当である。
ところで,株式会社の株主が,会社法847条に基づき,法違反行為を原
因として損害を被った有価証券の取得者である株式会社に代位してその法違
反行為に係る審判事件の被審人に対し損害賠償を請求する株主代表訴訟を提
起した場合,当該訴訟において審判の対象とされるのは,被審人に対する株
式会社の損害賠償請求権の存否であり,審判事件の事件記録を利用すること
の必要性,有用性については,株式会社が自ら被審人に対し損害賠償請求を
している場合と異ならない。このことに,上記のような法の規定やその趣旨,
目的等を併せ考慮すると,株式会社の株主が,会社法847条に基づき,法
違反行為を原因として損害を被った有価証券の取得者である株式会社を代表
して被審人に対し損害賠償を請求する株主代表訴訟を提起し,当該株式会社
に準ずる地位を取得した場合には,当該株主は,法185条の13にいう利
害関係人に当たると解するのが相当である。(私的独占の禁止及び公正取引
の確保に関する法律における事件記録の閲覧謄写に関する最高裁昭和46年
(行ツ)第82号同50年7月10日第一小法廷判決・民集29巻6号88
8頁,最高裁平成14年(行ヒ)第242号同15年9月9日第三小法廷判
決・裁判集民事210号595頁参照)
(2)原告の主張について
ア原告は,法違反行為を理由に課徴金の納付命令を受けるなどの被害を被
った株式会社は,その原因となった役員等の任務懈怠行為の「被害者」で
あるから,当該任務懈怠行為と実質的に同一の法違反行為が審判対象とな
っている当該役員等を被審人とする審判事件につき,当該株式会社が被審
人となっていない場合であっても,法185条の13にいう利害関係人に
該当するとの解釈を前提に,被審人Aが虚偽の記載がある本件有価証券報
告書等の作成に関与したことによって,B社が課徴金の支払等を余儀なく
されるという被害を被ったところ,B社を代表して,被審人Aらに対し,
本件株主代表訴訟を提起した原告は,被審人Aが本件目論見書上虚偽の記
載があることを知りながらその作成に関与したという本件違反行為に係る
本件審判事件において,法185条の13にいう利害関係人に当たると主
張する。
イしかしながら,法をみても,法違反行為を理由に課徴金を課された株式
会社が,任務懈怠のあるその役員等に対して課徴金相当額の損害賠償を請
求することを容易にする規定は存在しない上,課徴金の目的には,法違反
行為に及んだ者に対し,行政上の制裁措置を課すことによって,規制の実
効性を確保し,市場に対する信頼の向上を図ることが含まれることも併せ
考慮すると,課徴金を課された者が,それによって被った課徴金相当額の
損害を回復するために必要な損害賠償請求権を行使するための便宜を図る
ことまでが,法の趣旨に含まれると解することはできない。
そして,法185条の13により閲覧謄写の対象とされる審判記録は,
課徴金の納付命令の要件に該当する事実の存否等を判断するために行われ
る審判手続において収集,作成された資料によって構成されており,被審
人及び第三者の事業上の秘密,名誉,プライバシー等に関する情報も含ま
れ得るものである。しかるところ,法185条の13後段は,利害関係人
から事件記録の閲覧謄写等の申請があった場合,処分行政庁は,第三者の
利益を害するおそれがあるときその他正当な理由があるときでなければ,
これを拒むことができない旨規定しているから,審判記録に被審人の事業
上の秘密や,名誉,プライバシー等に関する情報が含まれている場合でも,
そのことを理由に閲覧謄写を拒むことは,原則として認められないものと
解される。このように,法185条の13が,被審人の事業上の秘密や,
名誉,プライバシー等に関する情報の保護よりも,同条にいう利害関係人
が審判記録の閲覧謄写により得られる利益を優先していることに鑑みると,
当該審判記録の閲覧謄写によって何らかの利益を得られる者は全て利害関
係人に当たるということはできず,当該利益の確保が法の趣旨,目的等に
適うことを要すると解するべきである(この点,原告は,本件においては
原告が審判記録を目的外使用することは絶対にないなどと主張するが,法
185条の13にいう利害関係人の範囲を検討する際に,原告の主観的な
事情を考慮することは相当ではない。また,原告は,審判は原則として公
開して行うこととされていること(法182条)をも指摘するが,審判手
続の傍聴者が審判記録の情報を当然に知り得る訳ではないから,審判が公
開されていることをもって審判記録の閲覧謄写の根拠とすることもできな
い。)。
以上からすれば,法185条の13にいう利害関係人として,当該審判
事件の対象とされる法違反行為を原因として損害を被った有価証券の取得
者にとどまらず,当該法違反行為と実質的に同一の法違反行為の被害者に
ついてまでこれに含まれるものと解することはできず,被審人Aが本件目
論見書に虚偽の記載があることを知りながらその作成に関与したという本
件違反行為に係る本件審判事件において,虚偽の記載がされた本件有価証
券報告書等を漫然と提出するなどの被審人Aの任務懈怠行為を原因として
被害を被った被害者(B社)を本件株主代表訴訟の形で代表する原告が,
被害者として本件審判事件における法181条の13にいう利害関係人に
当たるものと解することはできない。
したがって,原告の主張は採用できない。
2本件の検討
本件について,原告は,虚偽の記載がされた本件有価証券報告書等を漫然と
提出するなどの被審人Aの任務懈怠行為を原因としてB社が課徴金相当額等の
損害を被ったことにつき,本件株主代表訴訟を提起したことを根拠に,被審人
Aが本件目論見書に虚偽の記載があることを知りながらその作成に関与したと
いう本件違反行為に係る本件審判事件において法185条の13にいう利害関
係人に当たると主張するものであるが,これを採用できないことは前記1(2)
で説示したとおりである。そして,原告又はB社が,被審人Aによる本件違反
行為を契機としてB社の株式を取得したことによって損害を被ったとの事情は
うかがえず,また,原告及びB社は本件審判事件の被審人でもないから,原告
が法185条の13にいう利害関係人に当たるということはできない。
よって,原告に対し,本件審判事件につき,事件記録の謄写を許可しなかっ
た本件不許可決定は適法である。
3以上によれば,原告の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の
負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとお
り判決する。
大阪地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官田中健治
裁判官尾河吉久
裁判官五十部隆

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71期修習生 72期修習生 求人
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