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平成15年(行ケ)第304号 審決取消請求事件
平成16年4月14日口頭弁論終結
     判    決
 原      告      株式会社オシキリ
 訴訟代理人弁護士      鈴木修,下田憲雅,弁理士 伊藤茂
 被      告      株式会社大生機械
 訴訟代理人弁理士      石川新
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が無効2001-35381号事件について平成15年6月3日にした
審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 被告が特許権者である本件特許第3106194号の請求項3及び4に係る発明
の特許は,平成5年3月26日に特許出願(平成5年特許願第105850号)さ
れ,平成12年9月8日に特許権の設定の登録がされた。原告は,平成13年8月
29日に,上記請求項3及び4に係る発明の特許を無効にすることについての審判
請求をした。その審判手続において,平成13年11月19日に訂正請求があった
ところ,平成14年3月26日,「訂正を認める。上記請求項3及び4に係る特許
を無効とする。」旨の審決(第1次審決,甲第13号証)があった。この審決取消
訴訟である当庁平成14年(行ケ)第215号事件の係属中である平成14年7月
5日,被告により明細書の訂正に関する審判請求があり(訂正2002-3915
3号,甲第14号証。この訂正により,請求項4は削除された。なお,平成13年
11月19日の訂正請求は,平成15年4月28日に取り下げられた。),平成1
4年10月30日,この訂正を認める旨の審決があったので(甲第1号証),上記
審決取消訴訟において,平成14年12月25日,この訂正により本件発明(請求
項3記載の発明)の要旨の認定を結果として誤ったことになるとして,第1次審決
を取り消す旨の判決があり,確定した。
 そこで,上記無効審判請求事件について再度審理された結果,平成15年6月3
日,本件審判請求は成り立たないとの審決があり(甲第8号証),その謄本は同月
13日原告に送達された。
 2 本件発明の要旨(訂正審判請求によるもの)
 互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上にスライスされた
食パンを載置しスライス食パンの上部を上部押さえで保持した後,相隣る前記受け
板の間と,前記上部押さえの間にそれぞれ複数個の隙間を形成させることによって
前記受け板の上に載置された食パンの所定枚数毎の間に複数個の隙間を形成させ,
前記受け板の上に載置された食パンの前記複数個の隙間に下方から上方へ仕切り板
を挿入して所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出することを特徴とする
スライスされた食パンの分割供給方法。
 3 審判で主張された無効理由
 本件発明は,下記審判甲第2号証ないし審判甲第4号証に記載された発明に基づ
き当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定
に違反して特許されたものである。
  審判甲第2号証:米国特許第2,247,696号明細書(本訴甲第2号証)
  審判甲第3号証:特開平1-271322号公報(本訴甲第3号証)
  審判甲第4号証:特開平2-265815号公報(本訴甲第4号証)
 原告は,そのほかに,下記証拠も無効審判請求手続において提出した。
  審判甲第5号証:特開平4-8499号公報(本訴甲第5号証)
  審判甲第6号証:米国特許第2,211,433号明細書(本訴甲第6号証)
  審判甲第7号証:特開平4-223925号公報
 4 審決の理由の要点
 (1) 審判甲第号各証に記載された発明
 (1)-1 審判甲第2号証:米国特許第2,247,696号明細書
 (1)-1-1  審判甲第2号証には,次のような事項が記載されている。
  ア.「この発明は,スライスされた食パンの分割の方法及び手段に関し,私の
1938年11月25日出願で継続中の・・・米国出願第242,432号・・・の主題
に関係する。」(1頁左欄1~6行目)
  イ.「これから,より詳細に,また,参照番号を使って,私の発明の具体的実
施例が示されている図面を参照するが,Aは,好ましくは垂直方向で往復動するナ
イフタイプの食パンスライス装置を示しており,その食パン排出側部分は搬送コン
ベアBを構成しており,このコンベアは,好ましくは,複数のクロスバーb,b′
と,横断方向で調節可能な斜めに曲げられたサイドガイドs,s′を備えるチェー
ン駆動フライトタイプのものとされる。」(1頁左欄54行目~同頁右欄8行目)
  ウ.「搬送コンベアBの食パン排出端部には,包装機械コンベアCが設けられ
ており,このコンベアは,好ましくは,一般的に用いられている移動ポケットタイ
プのものとされ,分割された食パンを間欠的に受け入れて動き,包装機械D内に間
欠的に進むようにされている。」(1頁右欄11~16行目)
  エ.「スライス装置Aは,その食パン排出端部に,横断方向に延びる分割プレ
ート1が設けられ,該分割プレートは,その長手方向において,2つの食パン支持
スライド2,3に分けられ,それらスライドは,お互いに離れる方向で斜め下方に
延び,かつ,スライス機械Aの食パン排出端部から離れる方向であってかつ搬送コ
ンベアBの側部縁に向かう横断方向において,傾斜が増大するようになっている。
その結果,それらスライド及びスライス機械グリッドプレートgとによって,図
3,4,5,6に最もよく示されるように,実質的に同一平面にある交差線4,5
が形成されている。
 スライス装置Aのフレームに形成されたスリーブ6に調整可能にL型のブラケッ
ト7が取り付けられており,このブラケットは前方に延びる水平に設定された脚部
8を有し,ホールドダウンプレート9を変位可能に支持している。このホールドダ
ウンプレートは,図2及び5に最もよく示されているように,食パン分割プレート
1の上を横断方向に延び,かつ,下方にある同プレートの部分に形状が一致するよ
うに曲げられ若しくは湾曲されている。
 搬送コンベアBの両側から上方に延びる一対のアーム10の間には,水平にクロ
スバー11が延び,その両端がこれらアームに取り付けられており,該クロスバー
は,下方へ吊り下げられたハンガーアーム13の設けられているスリーブ12を変
位可能に支持している。
 ハンガーアーム13の両側面には,一対の湾曲デバイダーガイド(divider 
guide)14,15が,稜線4の後方端部近くで,同稜線の両側に等間隔だけ離して
位置決めされており,それぞれが,対応する食パンスライド2,3に対するすべて
の地点において,同スライドに対して実質的に直角となるような形状とされてい
る。同様に,サイドガイドs,s′は,それらの後端すなわち食パン受入れ端1
6,16′において,それぞれ,ガイド14,15に対して実質的に平行で均一な
間隔をあけた関係になるように曲げられる。ガイド14,15は,搬送コンベアB
上を前方に延びる。図3に示され,最も良く分かるように,ガイド14,15は相
互に収束するように形成されて,それらの前端において統合されて,単一となって
連続してコンベアB上を延びる中間ガイド17となっている。」(1頁右欄19行
目~2頁左欄7行目)
  オ.「各スライスされた食パンLは,スライス装置Aを通って進められると,
分割プレート1上に出て移送されるが,この分割プレートの稜線4は,その食パン
が分割されるべき,選択されたスライス切り口(slice cut)と一致するように位
置決めされる。従って,食パンLが当該分割プレート1を通って前方へ動くに従
い,選択されたスライス切り口の両側の食パンの部分は,スライド2,3の傾斜角
度に倣い,その結果,当該食パンは稜線4の周りで,本のように分け拡げられすな
わち分割され,2つの分断ローフl,l′とされる。それぞれの分断ローフは,サ
イドガイド部分16,16′によって落下するのを防止される。分断ローフl,l
′が分割プレート1を通って進められるにつれて,それらの間の角度は増大し,同
分断ローフl,l′の内向きの,すなわち,対向する面の間の隙間が増大される。
そのようになった地点で,食パン分断ローフl,l′の内向き面は,図5に最もよ
く示されるように,曲げられたホールドダウンプレート9の下で,デバイダーガイ
ド14,15の前方の端部を越えて進められる。
 最終的には,食パン分断ローフl,l′は分割プレート1の後方縁を越えて,搬
送コンベアB上に落とされ,図1及び6において最もよく分かるように,フライト
b,b′によって一個ごと,包装機械コンベアCに進められる。」(2頁左欄14
~43行)
  カ.「加えて,私は,私のこの機械が,スライスされた食パンのスライス片の
どれにも損傷を与えること無しに,スライスされた食パンを分割すること,並び
に,食パンが分割されるべき特定のスライス切り口に対する特定の若しくは慎重な
判断を要する,どのような調整も必要でないことが分かった。」(2頁右欄27~
32行目)
  キ.図3,4,5,6の表示及び上記記載事項エ,オからみて,同図3,4,
5,6から,「分割プレート1上の食パンの隙間に一対のデバイダーガイド14,
15を挿入して食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l′に分割された食
パンを押し出して排出すること」が看取できる。
 (1)-1-2  これらの記載事項によると,審判甲第2号証には,次のとおりの
発明が記載されていると認めることができる。
 「食パンが分割されるべきスライス切り口と一致するように位置決めされた稜線
4のお互いに離れる方向で斜め下方に延び,前方に進むに従って傾斜が増大する食
パン支持スライド2,3からなる分割プレート1上をスライスされた食パンLを前
方に動かし,食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l′の対向する面の間
に1個の隙間を増大して形成させ,前記分割プレート1上の食パンの前記1個の隙
間に側方から一対のデバイダーガイド14,15を挿入して食パンの複数枚からな
る2つの分断ローフl,l′に分割された食パンを押し出して排出するスライスさ
れた食パンを分割して次の工程のために供給する方法。」
 (1)-2 審判甲第3号証:特開平1-271322号公報
     
 審判甲第3号証には,全体の記載からみて,次のような発明が記載されていると
認めることができる。
 「分割コンベア(5)のコンベア(6)(7)が本体部に対して近接・離間可能
に並列に支持された分割コンベア(5)の上に積載品(2)を載置した後,相隣る
前記本体部とコンベア(6)(7)の間に1個の隙間を形成させ,さらに,相隣る
前記コンベア(6)(7)の間に1個の隙間を形成することによって前記コンベア
(6)(7)の上に載置された積載品(2)の積載品山(21)と(22)の間に
隙間を形成させて積載品山(21)と(22)に分割し,分割された積載品山(2
1)(22)を1山ずつロボット等によりつかみ取り次工程へと移す積載品の分割
方法。」
 (1)-3 審判甲第4号証:特開平2-265815号公報
 審判甲第4号証には,全体の記載からみて,次のような発明が記載されていると
認めることができる。
 「互いに近接・離間可能に並列に支持された2個の移動台12を筺体10に対し
て近接・離間可能に並列に支持してそれらの上に多数のICデバイス2を載置した
後,相隣る前記移動台12及び筺体10の間に2個の隙間を形成させることによっ
て前記移動台12及び筺体10の上に載置された1個のICデバイス2,他の1個
のICデバイス2及び残りのICデバイス2の間に2個の隙間を形成させ,分離さ
れた1個のICデバイス2と他の1個のICデバイス2を同時に次工程に移送する
ICデバイス2を所定ピッチ間隔に分離配置する方法。」
 (1)-4 審判甲第5号証:特開平4-8499号公報
 (1)-4-1 審判甲第5号証には,次のような事項が記載されている。
  ア.「第1図から第3図において,1は・・・細長い食パンBを横にしてスライサ
ー2へ供給するトレイである。
 スライサー2においてスライスされた食パンBは,仕切板5によって所定枚数毎
区分された状態(図示の場合は3分割)でエンドレスのインフィードコンベア3上
へ供給される。」(3頁右上欄15行目~同頁左下欄4行目)
  イ.「インフィードコンベア3は仕切バー4の間隔だけ間欠的に駆動され,ス
ライサー2から出る食パンBの後端を仕切バー4に係合させて間欠的に後述のアウ
トフィードコンベアへと送る。」(3頁左下欄7~12行目)
  ウ.第1~4図の記載及び技術常識を参酌すると,同第1~4図から,「スラ
イスされた食パンの所定枚数毎の複数個の間に側方から仕切板5を挿入すること」
が看取できる。
 (1)-4-2 これらの記載事項によると,審判甲第5号証には,次のとおりの発
明が記載されていると認めることができる。
 「スライスされた食パンの所定枚数毎の3つの群の間に側方から2つの仕切板5
をそれぞれ挿入して所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出するスライス
された食パンの分割供給方法。」
 (1)-5 審判甲第6号証:米国特許第2,211,433号明細書
 審判甲第6号証には,全体の記載からみて,次のような発明が記載されていると
認めることができる。
 「スライス食パンを1個の楔状のブレード24に向けて進行させ,食パンの複数
枚からなる2つの分断ローフl,l′に分割し,一対のガイド部材20,22及び
21,23により仕切られたスライス食パンを並列に搬送して包装コンベアに供給
する方法。」
 (1)-6 審判甲第7号証:特開平4-223925号公報
 審判甲第7号証には,全体の記載からみて,次のような発明が記載されていると
認めることができる。
 「成形された容器を成形機の口板(4)からコンベヤ(6)へ取り出すための押
出し装置において,プシャフィンガ(20,22,24)が容器のラインの方向に
相対的に移動できるように設けられており,押出し装置は,コンベヤ(6)上の容
器の間隔が口板(4)上の容器の間隔から変えられるように,プシャフィンガを,
口板(4)上の容器に接触する位置と,コンベヤ(6)上に容器を解放する位置と
の間で移動させるための手段を備えている取出し装置。」
 (2) 本件発明と審判甲第2号証記載の発明ないし審判甲第4号証記載の発明との
対比
 (2)-1 本件発明と審判甲第2号証記載の発明との対比
 (2)-1-1 本件発明と審判甲第2号証記載の発明とを対比すると,審判甲第2
号証記載の発明の「食パンの複数枚からなる分断ローフl,l′の対向する面の間
に隙間を増大して形成させ」は,その技術的意義において,本件発明の「食パンの
所定枚数毎の間に隙間を形成させ」に相当し,以下同様に,「食パンの複数枚から
なる2つの分断ローフl,l′に分割された食パン」は「所定枚数毎に分割された
食パン」に,「スライスされた食パンを分割して次の工程のために供給する方法」
は「食パンの分割供給方法」に,それぞれ相当する。
 また,本件発明の「互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板」
と審判甲第2号証記載の発明の「その上をスライスされた食パンLを前方に動か
し,食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l′の対向する面の間に1個の
隙間を増大して形成させる,食パンが分割されるべきスライス切り口と一致するよ
うに位置決めされた稜線4のお互いに離れる方向で斜め下方に延び,前方に進むに
従って傾斜が増大する食パン支持スライド2,3からなる分割プレート1」とは,
「食パンの所定枚数毎の間に隙間を形成することに寄与する底部支持板」の限度に
おいて一致し,本件発明の「食パンの複数個の隙間に下方から上方に挿入される仕
切り板」と審判甲第2号証記載の発明の「食パンの1個の隙間に側方から挿入され
る一対のデバイダーガイド14,15」とは,共に少なくとも食パンの分割状態を
維持する機能を有するから「介在物」の限度において一致していると認めることが
できる。
 (2)-1-2 してみると,本件発明と審判甲第2号証記載の発明との一致点及び
相違点は,次のとおりである。
 <一致点>
 食パンの所定枚数毎の間に隙間を形成することに寄与する底部支持板の上の食パ
ンの所定枚数毎の間に隙間を形成させ,前記底部支持板上の食パンの前記隙間に介
在物を挿入して所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出する食パンの分割
供給方法。
 <相違点>
  ア.本件発明では,「互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け
板の上にスライスされた食パンを載置しスライス食パンの上部を上部押さえで保持
した後,相隣る前記受け板の間と,前記上部押さえの間にそれぞれ複数個の隙間を
形成させ」及び「前記受け板の上に載置された食パンの前記複数個の隙間に下方よ
り上方に仕切り板を挿入し」となっているのに対し,審判甲第2号証記載の発明で
は,「食パンが分割されるべきスライス切り口と一致するように位置決めされた稜
線4のお互いに離れる方向で斜め下方に延び,前方に進むに従って傾斜が増大する
食パン支持スライド2,3からなる分割プレート1上をスライスされた食パンLを
前方に動かし,食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l′の対向する面の
間に1個の隙間を増大して形成させ」及び「前記分割プレート1上の食パンの前記
1個の隙間に側方から一対のデバイダーガイド14,15を挿入して」となってい
る点。
 (2)-2 本件発明と審判甲第3号証記載の発明との対比
 (2)-2-1 本件発明と審判甲第3号証記載の発明とを対比すると,審判甲第3
号証記載の発明の「相隣る前記コンベア(6)(7)」は,その技術的意義におい
て,「相隣る受け板」に相当し,以下同様に,「次工程へと移す」は「排出する」
に,それぞれ相当する。
 また,本件発明の「スライスされた食パン」と審判甲第3号証記載の発明の「積
載品(2)」とは,「被供給物」の限度において一致し,本件発明の「食パンの所
定枚数毎」と審判甲第3号証記載の発明の「積載品山(21)(22)」とは,
「供給単位の被供給物」の限度において一致し,本件発明の「スライスされた食パ
ンの分割供給方法」と審判甲第3号証記載の発明の「積載品の分割方法」とは,
「被供給物の分割供給方法」の限度において一致していると認めることができる。
 (2)-2-2 してみると,本件発明と審判甲第3号証記載の発明との一致点及び
相違点は,次のとおりである。
 <一致点>
 近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上に被供給物を載置した
後,相隣る前記受け板の間に隙間を形成させることによって前記受け板の上に載置
された被供給物を供給単位の間に隙間を形成させ,供給単位の分割された被供給物
を次の工程のために排出する被供給物の分割供給方法。
 <相違点>
  イ.被供給物の種類及び載置される態様について,本件発明では,「スライス
された食パンの所定枚数毎の間に隙間を形成させ,所定枚数毎に分割された食パン
を押し出して排出するスライスされた食パンの分割供給方法」となっているのに対
し,審判甲第3号証記載の発明では,「積載品(2)の積載品山(21)と(2
2)の間に隙間を形成させて積載品山(21)と(22)に分割し,分割された積
載品山(21)(22)を取り次工程へと移す積載品の分割方法」となっている
点。
  ウ.受け板の構成,隙間の数及び分割の態様について,本件発明では,「互い
に近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上にスライスされた食パン
を載置しスライス食パンの上部を上部押さえで保持した後,相隣る前記受け板の間
と,前記上部押さえの間にそれぞれ複数個の隙間を形成させることによって前記受
け板の上に載置された食パンの所定枚数毎の間に複数個の隙間を形成させ,前記受
け板の上に載置された食パンの前記複数個の隙間に下方から上方へ仕切り板を挿入
して所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出する」となっているのに対
し,審判甲第3号証記載の発明では,「分割コンベア(5)のコンベア(6)
(7)が本体部に対して近接・離間可能に並列に支持された分割コンベア(5)の
上に積載品(2)を載置した後,相隣る前記本体部とコンベア(6)(7)の間に
1個の隙間を形成させ,さらに,相隣る前記コンベア(6)(7)の間に1個の隙
間を形成することによって前記コンベア(6)(7)の上に載置された積載品
(2)の積載品山(21)と(22)の間に隙間を形成させて積載品山(21)と
(22)に分割し,分割された積載品山(21)(22)を1山ずつロボット等
によりつかみ取り次工程へと移す」となっている点。
 (2)-3 本件発明と審判甲第4号証記載の発明との対比
 (2)-3-1 本件発明と審判甲第4号証記載の発明とを対比すると,審判甲第4
号証記載の発明の「2個の移動台12及び筺体10」は,その技術的意義におい
て,本件発明の「受け板」に相当し,以下同様に,「所定ピッチ間隔に分離配置す
る方法」は「分割供給方法」に相当する。
 また,本件発明の「スライスされた食パン」と審判甲第4号証記載の発明の「I
Cデバイス2」とは,「被供給物」の限度において一致し,本件発明の「食パンの
所定枚数毎」と審判甲第4号証記載の発明の「1個のICデバイス2,他の1個の
ICデバイス2」とは,「供給単位の被供給物」の限度において一致していると認
めることができる。
 (2)-3-2 してみると,本件発明と審判甲第4号証記載の発明との一致点及び
相違点は,次のとおりである。
 <一致点>
 近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上に被供給物を載置した
後,相隣る前記受け板の間に複数個の隙間を形成させることによって前記受け板の
上に載置された2個の供給単位の被供給物と所定の被供給物の間に複数個の隙間を
形成させ,分割された被供給物を排出する被供給物の分割供給方法。
 <相違点>
  エ.被供給物の種類及び載置される態様について,本件発明では,「スライス
された食パンの所定枚数毎の間に隙間を形成させ,所定枚数毎に分割された食パン
を押し出して排出するスライスされた食パンの分割供給方法」となっているのに対
し,審判甲第4号証記載の発明では,「多数のICデバイス2のうちの,1個のI
Cデバイス2,他の1個のICデバイス2及び残りのICデバイス2の間に2個の
隙間を形成させ,分離された1個のICデバイス2と他の1個のICデバイス2を
同時に次工程に移送するICデバイス2を所定ピッチ間隔に分離配置する方法」と
なっている点。
  オ.受け板の構成,隙間の数及び分割の態様について,本件発明では,「互い
に近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上にスライスされた食パン
を載置しスライス食パンの上部を上部押さえで保持した後,相隣る前記受け板の間
と,前記上部押さえの間にそれぞれ複数個の隙間を形成させることによって前記受
け板の上に載置された食パンの所定枚数毎の間に複数個の隙間を形成させ,前記受
け板の上に載置された食パンの前記複数個の隙間に下方から上方へ仕切り板を挿入
して所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出する」となっているのに対
し,審判甲第3号証記載の発明では,「互いに近接・離間可能に並列に支持された
2個の移動台12を筺体10に対して近接・離間可能に並列に支持してそれらの上
に多数のICデバイス2を載置した後,相隣る前記移動台12及び筺体10の間に
2個の隙間を形成させることによって前記移動台12及び筺体10の上に載置され
た1個のICデバイス2,他の1個のICデバイス2及び残りのICデバイス2の
間に2個の隙間を形成させ,分離された1個のICデバイス2と他の1個のICデ
バイス2を同時に次工程に移送する」となっている点。
 (2)-4 審判甲第2号証記載の発明に審判甲第3号証記載の発明を適用すること
について
 請求人(原告)は,「本件発明は,審判甲第2号証記載の発明に審判甲第3号証
記載の発明を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたもので
ある。」旨主張しているので,これについて検討する。
 (2)-4-1 本件発明と審判甲第2号証記載の発明との対比における相違点アの
検討及び判断
 相違点アに係る本件発明の構成要件の技術的意義は,訂正後の願書に添付された
明細書の記載「【従来の技術】 焼き上がった長い食パンをスライスしたのち,1
斤,1斤半・・・毎に包装するため分割する必要がある。従来は,スライスした食パン
を搬送する通路に,分割する厚さに対応する間隔で,スライス刃に続く薄い仕切り
板を設け,スライス後の食パンを分割された状態で包装装置に送っていた(特願平
2-109817号など)。
 この仕切り板で搬送通路を仕切るやり方だと仕切り板と食パンの間の抵抗のため
食パンが歪んだり,抜け出してしまったりする不具合があった。また,分割量を変
更する度に仕切り板の位置を変える必要があり,そのときは装置の稼働を停めて作
業をやるが,その作業が煩わしい上に,相当の装置稼働停止時間を必要とするとい
う欠点があった。」(段落【0002】),「本発明によって食パン上部押さえを
設けた装置としたものでは,底部における受け板による前記作用に加え,受け板上
のスライス食パンを食パン上部押さえで保持した状態で分割動作が行われるので,
軟らかい食パンでも分割動作中に倒れたりすることなく確実に分割される。また,
本発明のスライス食パンの分割供給方法によれば,スライス食パンが載置された受
け板と上部押さえを,それぞれ互いに離間させることによって,受け板上に載せら
れた状態のままでスライス食パンを歪ませたり脱落させることなく分割させること
ができる。」(段落【0007】),「本発明の分割装置によれば,スライス後の
食パンを仕切りなしの通路を搬送してきて,それをその場で確実に分割できるの
で,従来のもののようにスライス食パンが搬送中に歪んだり脱落したりすることが
ない。・・・また本発明により,スライス食パンを上下で保持して分割できるものとし
て構成すれば,軟らかい食パンも確実に分割できる。また,本発明のスライス食パ
ンの分割供給方法によれば,スライス食パンを受け板上に載せた状態のまま,その
受け板を互いに離間させることで,歪ませたり脱落させることなく,そのスライス
食パンを所定枚数毎に確実に分割させることができる。」(段落【0019】)及
び技術常識からみて,該構成要件を具備することにより,「仕切りなしの通路を搬
送してきたスライス後のスライス食パンを受け板上に載せた状態のまま,受け板と
協動する上部押さえで保持した状態で,スライス食パンを所定枚数毎に複数の隙間
ができるように,その受け板を互いに離間させるので,分割動作中に仕切り板と食
パンの間の抵抗がなく,それ故,軟らかい食パンでも分割動作中に倒れたり,食パ
ンを歪ませたり脱落させることなく,スライス食パンを所定枚数毎の3つ以上の群
に確実に分割させることができる。」といったものと解することができる。
 これに対し,上記相違点アに係る審判甲第2号証記載の発明の構成要件では,ス
ライスされた食パンLを食パン支持スライド2,3からなる分割プレート1上を動
かすことにより,2つの分断ローフl,l′の対向する面の間に1個の隙間を増大
して形成させることを必須とするものであることから,スライス食パンを所定枚数
毎の2つの群に分割させるものであって,しかも,分割動作中に食パンと周囲の間
の抵抗が不可避なものである。
 そして,審判甲第2号証記載の発明は,その構成要件「食パンが分割されるべき
スライス切り口と一致するように位置決めされた稜線4のお互いに離れる方向で斜
め下方に延び,前方に進むに従って傾斜が増大する食パン支持スライド2,3から
なる分割プレート1上をスライスされた食パンLを前方に動かし,食パンの複数枚
からなる2つの分断ローフl,l′の対向する面の間に1個の隙間を増大して形成
させること」及びそれを実施するための具体的な構成からみて,スライスされた食
パンLに複数の隙間を形成して,食パンの複数枚からなる3つ以上の分断ローフと
することが可能ではないので,このように複数の隙間を形成することを妨げる特段
の事情があると解することができる。
 また,審判甲第3号証記載の発明をみると,「積載品(2)から積載品山(2
1)(22)の群を分割すること」及び「積載品山(21)(22)の群を2つの
積載品山(21)(22)に分割すること」は,いずれも1個の隙間を形成するこ
とにより,2つの群に分割するものであって,この点において審判甲第2号証記載
の発明と共通するものの,「互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受
け板の上にスライスされた食パンを載置した後,相隣る前記受け板の間に複数個の
隙間を形成させることによって前記受け板の上に載置された食パンの所定枚数毎の
間に複数個の隙間を形成させること」を構成要件とする本件発明と相違する。
 加えて,審判甲第3号証記載の発明は,分割された2つの積載品山(21)と
(22)を同時に押し出すような工程を含むものでないことから,2つの積載品山
(21)と(22)の隙間に仕切板を挿入する必然性もない。
 そうすると,この限りでは,審判甲第3号証記載の発明を審判甲第2号証記載の
発明に適用しても,直ちに本件発明の構成要件に至るわけではないし,むしろ,審
判甲第3号証記載の発明及び審判甲第2号証記載の発明には,審判甲第3号証記載
の発明を審判甲第2号証記載の発明に適用し,さらに,それを上記相違点アに係る
本件発明の構成要件のように変更することを妨げる特段の事情があるというべきで
ある。
 してみると,上記相違点アは,格別なものであるというほかない。
 (2)-4-2 審判甲第2号証記載の発明に審判甲第3号証記載の発明を適用する
ことについてのむすび
 したがって,上記請求人(原告)の「本件発明は,審判甲第2号証記載の発明に
審判甲第3号証記載の発明を適用することにより,当業者が容易に発明をすること
ができたものである。」旨の主張は,合理性のないものであって,採用することが
できない。
 (2)-5 審判甲第2号証記載の発明に審判甲第4号証記載の発明を適用すること
について
 請求人(原告)は,「本件発明は,審判甲第2号証記載の発明に審判甲第4号証
記載の発明を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたもので
ある。」旨主張しているので,これについて検討する。
 (2)-5-1 本件発明と審判甲第2号証記載の発明との対比における相違点アの
検討及び判断
 上記(2)-4-1で検討したように,審判甲第2号証記載の発明は,その構成要件
「食パンが分割されるべきスライス切り口と一致するように位置決めされた稜線4
のお互いに離れる方向で斜め下方に延び,前方に進むに従って傾斜が増大する食パ
ン支持スライド2,3からなる分割プレート1上をスライスされた食パンLを前方
に動かし,食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l′の対向する面の間に
1個の隙間を増大して形成させること」及びそれを実施するための具体的な構成か
らみて,スライスされた食パンLに複数の隙間を形成して,食パンの複数枚からな
る3つ以上の分断ローフとすることが可能ではないので,このように複数の隙間を
形成することを妨げる特段の事情があると解することができる。
 また,審判甲第4号証記載の発明をみると,本件発明と一致する点を有するもの
の,相違点エ及びオを有することは,前示のとおりである。
 そして,相違点オを検討すると,審判甲第4号証記載の発明においては,「互い
に近接・離間可能に並列に支持」されているのは,「2個の移動台12」であっ
て,「筺体10」は,不動のものであるから,「2個の移動台12」との関係は,
「互いに近接・離間可能」ではない。また,審判甲第4号証記載の発明において
は,「1個のICデバイス2」及び「他の1個のICデバイス2」は,本件発明の
「食パンの所定枚数毎」に対応するかもしれないが,「残りのICデバイス2」は
分離作業中刻々変化するものであるから,本件発明の「食パンの所定枚数毎」に対
応するとはいえない。さらに,審判甲第4号証記載の発明においては,本件発明の
「前記受け板の上に載置された食パンの前記複数個の隙間に下方から上方へ仕切り
板を挿入して所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出する」ような「隙間
への仕切り板の挿入」を具備していないし,また,審判甲第4号証記載の発明の実
施例をみても,その構造上,「1個のICデバイス2」,「他の1個のICデバイ
ス2」及び「残りのICデバイス2」の間に「下方から上方へ仕切り板を挿入し
て」それらを分割することが直ちに容易といえるものではない。
 そうすると,この限りでは,審判甲第4号証記載の発明を審判甲第2号証記載の
発明に適用しても,直ちに本件発明の構成要件に至るわけではないし,むしろ,審
判甲第4号証記載の発明及び審判甲第2号証記載の発明には,審判甲第4号証記載
の発明を審判甲第2号証記載の発明に適用し,さらに,それを上記相違点アに係る
本件発明の構成要件のように変更することを妨げる特段の事情があるというべきで
ある。
 してみると,上記相違点アは,格別なものであるというほかない。
 (2)-5-2 審判甲第2号証記載の発明に審判甲第4号証記載の発明を適用する
ことについてのむすび
 したがって,請求人(原告)の「本件発明は,審判甲第2号証記載の発明に審判
甲第4号証記載の発明を適用することにより,当業者が容易に発明をすることがで
きたものである。」旨の主張は,合理性のないものであって,採用することができ
ない。
第3 原告主張の審決取消事由
 1 相違点の認定の誤り(審判甲第3号証記載の発明の認定の誤り)
 本件発明に係るスライス食パンの分割供給における「主要な特徴」(すなわち,
技術的解決課題を達成して所要の効果を生じさせるために必要とされる基本的な特
徴)は,「互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上にスライ
スされた食パンを載置した後,相隣る受け板の間に複数個の隙間を形成させること
によって前記受け板の上に載置された食パンの所定枚数毎の間に複数個の隙間を形
成させ,所定枚数毎に分割する」ようにした分割方法にある。
 審判甲第3号証記載の発明は,その目的,構成及び効果において,まさしく,こ
の「主要な特徴」と実質的に同じものを開示している。
 審判甲第3号証記載の発明は,「パレット上の積載品を複数の個別駆動可能な分
割コンベア上に押し出し,各々のコンベアを分離することにより積載品を分割する
ことを特徴とする積載品の分割方法」とするものであり,「分割された積載品山
(21)(22)を1山ずつロボット等によりつかみ取り次工程へと移す」などと
いった排出方法は,発明としては関知するところでなく,開示内容はそのような排
出方法に限定される性質のものではない。
 また,上記請求項1では,「複数の個別駆動可能な分割コンベア・・・,各々のコン
ベアを分離することにより積載品を分割する」ことを特徴とする分割方法を規定す
るものであり,当然に「2以上の隙間」が形成されることをも含んだ内容として規
定されているものであるから,上記<相違点>として規定するように「1個の隙間を
形成することによって前記コンベア(6)(7)の上に載置された積載品(2)の
積載品山(21)と(22)の間に隙間を形成させて積載品山(21)と(22)
に分割し」などという限定を課せられるべきものはない。
 2 相違点の判断の誤り
 (1) 審判甲第3号証3頁上右欄4~8行には,次の記載がある。
「もちろん,この発明は以上の例によって限定されるものではない。プッシャー
(3)の配置,分割コンベア(5)の構造やその分割機構等の細部については,従
来公知のものも含めて種々な態様が可能である。」
 この記載は,分割コンベアを用いた分割機構については,「従来公知」のものだ
けでなく,当業者ならば必要に応じ任意適当に設計できる程度のものであったこと
を示していると解釈される。
 さらに,特許請求の範囲の規定では,分割コンベアについての技術事項を実施例
として説明したものに限定せずに,極めて広い概念的なものとして規定しながら
も,「パレット上の積載品を・・・分割する」方法として,分割対象を極めて狭く限定
したものとしている。このような規定の仕方は,審判甲第3号証の上記3頁上右欄
4~8行の記載を考慮した場合,稚拙なクレームドラフティング(請求項作成)に
よるものではなく,当該出願に係る発明をなるべく広く規定はするが,「パレット
上の積載品を・・・分割する」方法に限定しなければ,従来から知られていた分割技術
との差別化ができないとの判断があったものと推測せざるを得ない。
 このような視点で考えるとき,本件発明は,基本的に,審判甲第3号証と同じ分
割技術を「スライス食パン」に用いただけのものである。
 (2) 審決においては,「それを実施するための具体的な構成からみて,スライス
された食パンLに複数の隙間を形成して,食パンの複数枚からなる3つ以上の分断
ローフとすることが可能ではないので,このように複数の隙間を形成することを妨
げる特段の事情があると解することができる」との点を,審判甲第2号証記載の発
明を本件発明に対する進歩性判断の基礎とすることに対する妨げであるとしてい
る。
 しかしながら,審決も指摘するように,「【従来の技術】焼き上がった長い食パ
ンをスライスしたのち,1斤,1斤半‥‥毎に包装するため分割する必要がある」
という,スライス食パン分割包装における技術的背景(これをより具体的にいうな
らば,一般的に3斤の長さのローフとして焼成されたものを大半の場合,1斤に分
割するという技術的背景)があったことを考えるならば,従来,仕切り板をスライ
ス食パンの中に挿入することにより分割していたことにより生じていた「食パンの
ゆがみ等」の問題を,仕切り板を入れる前にまず,同スライス食パンを分割し,そ
の後に仕切り板を入れることにより,解決するという(従来技術からみれば)極めて
斬新なアイデアを示した審判甲第2号証の発明としては,同技術を,スライス食パ
ンを2つの分断ローフにするだけでなく,3以上の分断ローフにすることができる
ように改良することが,強く求められていたと解釈することの方が自然である。
 そもそも,本件発明は,「方法」の発明であり,しかも,出願当初に「装置」の
発明として記載されていたものからみて,極めて観念的な若しくは上位概念的な
「方法」として規定されているのである。審決での審判甲第3号証記載の発明の適
用における認定は,具体例として示された装置としての比較における相違に引きず
られたものである。
 すなわち,本件発明は,出願当初「スライスされた食パンの分割装置」とされ,
いったんは,その装置の発明として特許されたところを,その装置の発明に内在し
ていた「方法」を抽出して発明として概念規定したものである。これに対し,審判
甲第2号証記載の発明はスライスされた食パンの分割装置の発明であるが,本件発
明におけると同様に,同装置発明に内在されている方法を抽出すれば,
 「スライサーから排出された食パンを,まず分割して隙間を形成し,形成された
隙間に搬送用ガイドとしての仕切り部材を挿入し(具体的には,仕切り部材が設定
されているコンベアの上に落とし),その後,その仕切り部材に沿って,同食パン
を押し出して排出する(ことにより,従来技術で問題となっていた「仕切り板と食
パンの間の抵抗のため食パンがゆがんだり,抜け出してしまったりする不具合」を
解消した)食パンの分割供給方法」
 という概念を把握することができ,このような方法発明の概念に上述の審判甲第
3号証に開示のものを適用すれば,本件発明は想到容易であった。
 審判甲第2号証には,仕切り板による食パンの「ねじれ等の問題」を解消するた
めの方法として,食パンにあらかじめ隙間を形成する,という技術思想が開示さ
れ,審判甲第3号証には,同様に,(仕切り板状の)分割器を,搬送されてきた積
載品の中に挿入することにより当該積載品を分割していた従来技術においては「積
載品の損傷等」が生じるという問題を解決するためのものとして「パレット上の積
載品を複数の個別駆動可能な分割コンベア上に押し出し,各々のコンベアを分離す
ることにより積載品を分割することを特徴とする積載品の分割方法」を提示してい
る。分割の対象が,審判甲第2号証記載の発明では搬送過程にある「スライスされ
た食パン」であるのに対し,他方では搬送過程にある「積載品」であり,それらは
完全に同じというものではないが,本件発明では搬送過程において分割されるべき
物品という点では同じであり,いずれの場合も,分割の際の仕切り板状のものを挿
入することにより分割を行うという従来技術において生じていた問題を解消するた
めの技術であるという点でも一致している。
 したがって,このような技術を,(搬送技術に属する)製パン技術分野における
搬送技術の技術者が知ったとき,それらを結びつけて考えることが困難であるとす
るのは不自然である。
第4 当裁判所の判断
 1 取消事由1について
 (1) 審判甲第3号証(本訴甲第3号証)には,必要とされる積載品山の分割を行
うこと,特にかみ込みのある積載品山を分割するに際して,荷くずれや損傷が防止
できる技術であることが記載されているが(特に,発明の詳細な説明の「作用」の
項),積載品として原料,中間製品,製品等についてこれを特定するような記載が
ないことを考えると,積載品としてスライスされた食パンをも含み得るということ
ができる。しかし,積載品の荷くずれを抑止するための上部押さえ部材を配するこ
と,また,同じく荷くずれを抑止するために仕切り部材を配することについては,
審判甲第3号証に記載ないし示唆があると認めることができない。
 また,発明の詳細な説明の「課題を解決するための手段」の項に,分割コンベア
について「複数の」と記載されていて,配設基数が1ないし2基に限られず,必要
な基数を配置することが意図されているということはできるが,具体的にどのよう
な分割態様を採用するかは,審判甲第3号証中に明らかにされているものとは認め
られない。実施例の記載においても,二つの山への分割についてだけであり,複数
の山にあらかじめ分割することを意図するものは開示されていない。
 審判甲第3号証の請求項(1)においては「各々のコンベアを分離することによ
り積載品を分割する」と記載され,準備されたコンベア基数分の分割が原理的に可
能とも考えられるが,同請求項(3)において「押し出し方向に分割した後に横方
向に分割する」と記載されるように,一度全体の山から押し出し方向で分割した後
に,その分割方向とは異なる方向である横方向にコンベアを分割することが下位概
念として明記されていることと対比したときには,請求項(1)において,全体と
しての山を分割するに際して,必要とされる分割山数が2個を超えるものであった
場合に,同時に2個を超える山に分割する具体的作業の態様が特定されているもの
と解することはできない。
 審判甲第3号証記載の発明において同時に2個を超える山に分割を行う場合を想
定する際には,分割された山の間に形成される隙間が複数となること自体は自明で
あるとしても,複数の隙間を同時に形成する態様を具体的に特定しているものと解
することはできない。
 (2) 審決では,審判甲第3号証記載の発明が,分割に際して相隣る本体部とコン
ベア(6)(7)の間,あるいはコンベア(6)(7)の間に隙間を1個形成する
ものであると具体的に認定しているが,審判甲第3号証には,隙間を1個形成する
との明示はないので,審決のこの認定は正確ではない。
 しかし,審決がここで認定したのは,審判甲第3号証において,複数の分割コン
ベアを用いた具体的な分割態様の特定が明確にはなされておらず,実施例記載を参
酌した場合,前記のように一度の分割は基本的に二つの山に分割するものしか明ら
かにされていないことを指摘したものと理解される。複数の隙間を形成する態様の
具体的特定がない以上,これを構成要件として含まないものとした審判甲第3号証
記載の発明に関する審決の認定に,結論に影響のある誤りがあるということはでき
ない。
 2 取消事由2について
 (1) 本件発明は,産業上の利用分野として「スライスされた食パンを半斤,1
斤,1斤半など所要量に分割するスライスされた食パンの分割供給装置及び分割供
給方法に関する」ものとされる(本件明細書(訂正明細書=甲第10号証)段落
【0001】【産業上の利用分野】)。
 そして,本件発明に係る分割供給方法により得られる作用としては,「本発明の
スライス食パンの分割供給方法によれば,スライス食パンが載置された受け板と上
部押さえを,それぞれ互いに離間させることによって,受け板上に載せられた状態
のままでスライス食パンを歪ませたり脱落させることなく分割させることができ
る。本発明のスライス食パンの分割供給方法においては,前記受け板の上に載置さ
れて所定枚数毎の間に形成された複数個の隙間に下方から上方へ仕切り板を挿入す
るので,柔軟に焼き上げられた食パンや薄切りにしたスライス食パンを受け板上で
確実に分割することができる。」とされる(本件明細書段落【0007】)。
 そして,本件発明の構成を分説するに,
 ①「互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上にスライスさ
れた食パンを載置し」
 ②「スライス食パンの上部を上部押さえで保持した後,」
 ③「相隣る前記受け板の間と,前記上部押さえの間にそれぞれ複数個の隙間を形
成させることによって前記受け板の上に載置された食パンの所定枚数毎の間に複数
個の隙間を形成させ,」
 ④「前記受け板の上に載置された食パンの前記複数個の隙間に下方から上方へ仕
切り板を挿入して」
 ⑤「所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出する」
なる①~⑤を特徴として備えるスライスされた食パンの分割供給方法として記載さ
れている。
 よって,本件請求項には,前記作用記載にある「スライス食パンが載置された受
け板と上部押さえを,それぞれ互いに離間させることによって,受け板上に載せら
れた状態のままでスライス食パンを歪ませたり脱落させることなく分割させること
ができる」に相当する構成要件③と,同じく作用記載にある「前記受け板の上に載
置されて所定枚数毎の間に形成された複数個の隙間に下方から上方へ仕切り板を挿
入するので,柔軟に焼き上げられた食パンや薄切りにしたスライス食パンを受け板
上で確実に分割することができる」に相当する構成要件④が明確に特定されたもの
となっている。
 (2) ここで,本件発明は,その構成により,隙間をあらかじめ形成されていない
場合に比較して,分割されるスライス食パンの面に仕切り板が接触しないようにな
し得ることから,
 a スライス食パンが上部押さえ部材と仕切り板の間で押し潰されることがな
い,という作用効果とともに,
 b 同仕切り板が下方から上方へ向かう挿入方向を採用していることで,少なく
ともスライス食パンの水平方向への移動を生じることのない,という作用効果も期
待できるものと理解することができる。
 (3) 審判甲第3号証(本訴甲第3号証)には,「積載品の荷くずれを抑止するた
めの上部押さえ部材を配すること」,「荷くずれを抑止するために仕切り部材を配
すること」に関する記載又は示唆があるものとは認められず,これらを審判甲第3
号証記載の発明に基づいて想到することはできないというべきである。
 また,審判甲第2号証記載の食パン分割供給方法においては,「ホールドダウン
プレート9」が,「食パン支持スライド2,3」と協働してスライスされた食パン
を上下から支持しているので,「ホールドダウンプレート9」を本件発明の「上部
押さえ部材」と対比するに,スライスされた食パンを所要枚数毎に分割する機能
は,近接・離間の駆動なしに固定状態で徐々に傾斜する形状とされた「食パン支持
スライド2,3」により得られているものであって,前記「ホールドダウンプレー
ト9」は,この分割工程中にスライスされた食パンを同一箇所に保持するものでは
なく,食パンが傾斜するにつれて接触する部位が徐々にずれていく以外の構成は,
そこに開示されていない。
 他方,本件発明においては,「相隣る前記受け板の間と,前記上部押さえ部材の
間にそれぞれ複数個の隙間を形成させる」と特定されているように,「上部押さえ
部材」においても分割工程中に「受け板」と同様に複数個の隙間を形成されること
から,食パンの同一箇所を保持しているものということができる。
 したがって,審判甲第2号証における「ホールドダウンプレート9」は,複数個
の隙間を形成されるものでない点で,本件発明の「上部押さえ部材」とは異なるも
のである。
 (4) よって,取消事由2も理由がない。
第5 結論
 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却さ
れるべきである。
  東京高等裁判所知的財産第4部
         裁判長裁判官  塚   原   朋   一
            裁判官  塩   月   秀   平
裁判官 髙   野   輝   久

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