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平成12年(ワ)第2530号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成13年6月5日
             判      決
原      告  ローツェ株式会社
訴訟代理人弁護士    山  下  英  樹
同                遠  山  信一郎
同                梶  原  則  子
補佐人弁理士忰  熊  弘  稔
  被      告 株式会社安川電機
訴訟代理人弁護士        松  尾  和  子
同                吉  田  和  彦
同                渡  辺     光
補佐人弁理士大  塚  文  昭
        主      文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
1 被告は,別紙物件目録記載のロボットを製造,販売してはならない。
2 被告は,原告に対し,1億1200万円及びこれに対する平成12年2月2
2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,基板搬送用スカラ型ロボットに関する特許権を有する原告が,別紙
物件目録記載のロボット(以下「被告製品」という。)を製造,販売している被告
に対して,被告の同行為が原告の上記特許権を侵害するとして,被告製品の製造,
販売の差止めと損害賠償の支払を求めている事案である。
1 争いのない事実
(1) 原告は,下記のとおりの特許権(以下「本件特許権」といい,その発明を
「本件発明」という。)を有している。

特許登録番号        特許第2739413号
発明の名称         基板搬送用スカラ型ロボット
出願日           平成5年5月26日
登録日           平成10年1月23日
特許請求の範囲       別紙特許公報写しの該当欄記載のとおり
(2) 本件発明の構成要件を分説すると,以下のとおりとなる。
A 減速機付きでモータ13を中心部へ内蔵した基台上に該モータ13の駆動に
より回動されるよう胴体5を取付け,
B 該胴体5内には1対の減速機付きモータ7,7’を対称となる関係に取
付け,
C 各出力軸にはモータ7,7’の駆動で回動されるものとなる第1アーム
4,4’の片側端部を取付け,
D 且つ該第1アーム4,4’の他端部には各アーム4,4’の回動と共
に,各アーム体内でプーリ及びタイミングベルトを介し一定比で回動されるものと
なる支軸3a,3a’を該アーム4,4’の回動とは無関係の状態に突出させ,
E 該支軸3a,3a’には第2アーム3,3’の片側端部を取付け,且つ
該第2アーム3,3’の他端には各アーム3,3’の回動と共に各アーム体内でプ
ーリ及びタイミングベルトを介して一定比で回動されるものとなる支軸2a,2
a’を該アーム体3,3’の回動とは無関係の状態に突出させ,
F 且つ該支軸2a,2a’にはそれぞれ基板15,15’を吸引止着するため
の1つがコ字形をなし,他の1つは上記コ字形内を干渉しないように作動する第3
アーム2,2’を取付けしめ,
G 該アーム2,2’により処理前基板を取り出し,処理箇所への搬送及び
処理済み基板の返送を同一水平線上で互い違いの対称関係で同時進行するように構
成したこと
 を特徴とする基板搬送用スカラロボット
(3) 被告は,遅くとも本件特許権の登録日以降,業として,被告製品を製造,
販売している。
(4) 被告製品の構成を分説すると,以下のとおりとなる。
   A′ 底部8の内部にあって基板15,15’の取り出し,搬送及び返送箇所の
高さに応じて上下に昇降するフレーム29の側壁内面に取り付けたモータ13の出力軸
を,プーリ23b,23c及びタイミングベルト23dからなるベルト・プーリ機構を介
して,モータ側部でフレーム29の中心から偏心した位置に配置した減速機21に連結
し,減速機21の出力軸をプーリ22b,22c及びタイミングベルト22dからなるベル
ト・プーリ機構を介して,フレーム29上面中央に設けた中空の出力軸24に連結し,
該出力軸24上方には,該出力軸24に固定され,その回転によって回動される胴体5
を取り付け,
   B′ 該胴体5内には,1対のモータ7,7’を対称となる関係に取り付
け,該モータ7,7’の各出力軸を,該モータ7,7’及び減速機6,6’の下部
に設けたプーリ17b,17c,17b’,17c’及びタイミングベルト17d,17d’か
らなるベルト・プーリ機構を介して,1対の減速機6,6’にそれぞれ連結し,該
減速機6,6’の各出力軸を,該減速機6,6’の上方に設けたプーリ18b,18
c,18b’,18c’及びタイミングベルト18d,18d’からなるベルト・プーリ機
構を介して,胴体5上面に設けた中空の支軸4a,4a’にそれぞれ連結し,
   C′ 中空の支軸4a,4a’にはモータ7,7’の駆動で回動されるもの
となる第1アーム4,4’の片側端部を取り付け,
   D′ 且つ該第1アーム4,4’の他端部には各アーム4,4’の回動と共
に,各アーム体内でプーリ及びタイミングベルトを介し一定比で回動されるものと
なる中空の支軸3a,3a’を該アーム4,4’の回動とは無関係の状態に突出さ
せ, 
   E′ 該支軸3a,3a’には第2アーム3,3’の片側端部を取り付け,
且つ第2アーム3,3’の他端には各アーム3,3’の回動と共に各アーム体内で
プーリ及びタイミングベルトを介して一定比で回動されるものとなる中空の支軸2
a,2a’を該アーム3,3’の回動とは無関係の状態に突出させ,
   F′ 且つ該支軸2a,2a’には,それぞれアーム上面において基板
15,15’を吸引止着するための吸引口を有し,1つがコ字形をなし,他の1つは上
記コ字形内を干渉しないように作動する第3アーム2,2’を取り付け,
   G′ 該アーム2,2’は,前記フレーム29の昇降及びモータ7,7’の駆
動により処理前基板を基板収納箇所から取り出し,処理箇所へ搬送及び処理済基板
を返送し,基板15,15’が16ないし20ミリメートルの上下方向の間隔をもって
水平に,互いに反対方向に同時進行するように構成した
基板搬送用スカラ型ロボット
2 争点
(1) 構成要件Aの充足性について
(原告の主張)
   ア 本件発明に係る明細書(平成9年3月24日付け手続補正書による補正
後のもの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の構成要件Aに関する
部分(以下「構成要件Aの部分」という,以下同様である。)の「中心部へ」と
は,基台の「内側へ」という意味である。理由は以下のとおりである。
    (ア) 本件明細書の図2(従来技術による装置)によると,従来技術にお
けるモータ13は基台8の外側に位置している。これに対して,本件発明は,これを
基台の内側へ取り込んだものであるから,構成要件Aの「中心部」も,「基台の内
側」を指すものと解すべきである。仮に,「中心部」を「中心部内側」と指すもの
と解しても,「中心部」の範囲は緩やかに解釈すべきである。
    (イ) 本件明細書の「発明の詳細な説明」欄には,従来技術に関しては,
「基台8上に設置したモータ13」(3欄6ないし7行)と記載されているのに対
し,本件発明に関しては,モータ13の位置について,「基台8内に設けたモータ
13」(5欄3ないし4行)と記載され,モータ13が基台の単に内側にあることが示
されている。このことから,本件発明におけるモータ13の位置に関しては,基台の
上ではなく内にあることのみが示されていると解すべきである。
    (ウ) 平成9年1月21日付けの拒絶理由通知は,いずれも胴体を回動さ
せるモータの位置を問題としていない。確かに,出願人(原告)は同年3月24日
付けで本件特許に係る補正(以下「本件補正」という。)をしたが,拒絶理由通知
がモータの位置を問題にしていない以上,本件補正において,モータ13の位置を基
台の内側のさらに一定の範囲内に限定しなければならない必然性はない。
   イ 一方,被告製品におけるモータ13は基台の内側に設置されている。した
がって,被告製品の構成A′は,構成要件Aを充足する。
(被告の反論)
   ア 構成要件Aの部分は,胴体を回動させるモータを,基台の「中心部へ」
内蔵することを指すと解すべきである。理由は以下のとおりである。
    (ア) 本件明細書において,単に「内側」であることを意味する記載とし
て,「該胴体5内には」(1欄4行),「胴体5内部に」(5欄7行)等があるの
に対し,「中心部」という位置を明らかにする記載として,「3cはプーリ軸3a
を中心部で貫挿状態にして」(3欄22ないし23行)等があり,「中心部」と
「内側」又は「内部」とは,文言の上で区別して使用されている。
    (イ) 本件明細書中の図1には,モータを「中心部へ内蔵」したもののみ
が記載されている。
    (ウ) 出願人(原告)は,本件補正によって,特許請求の範囲を「減速機
付きでモータ13を中心部へ内蔵した基台上に該モータ13の駆動により回動されるよ
う胴体5を取り付け」と補正しており,これによりモータ13の位置関係を明確にし
たものと理解できる。
   イ 一方,被告製品におけるモータは基台の中心部内側ではなく,フレーム
側壁内面に取り付けられている。したがって,被告製品の構成A′は構成要件Aを
充足しない。
  (2) 構成要件Bの充足性について
  (原告の主張)
   ア 構成要件Bの部分の「減速機付きモータ」は,減速機がモータに付属
し,両者が一体となっているものに限定されない。理由は以下のとおりである。
    (ア) 「減速機付モータ」という語は,一般的用語又は機械分野の用語の
解釈として,「減速機が付属し,これと一体となっているモータ」と理解すること
はできない。
    (イ) 本件明細書の特許請求の範囲は,「減速機付きでモータ13を中心部
へ内蔵した」(構成要件A)と記載され,これを受けて,構成要件B以後では単に
「減速機付きモータ」という記載がされているのであり,後者を前者と異なる意味
に理解するのは妥当でない。
    (ウ) 本件明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載中に,構成要件Bの
部分の「減速機付きモータ」を減速機とモータとが一体となったものに限定すべき
であるとするような記載は一切ない。
    (エ) 本件明細書において,減速機について,モータ6及び6’と区別し
た番号7及び7’が付されていること,また,「胴体5内に配置される減速機6,
モータ7に接続される。」(5欄36行ないし37行)とされ,減速機とモータと
が書き分けられていることからも,減速機とモータは,一体となったものに限定さ
れていないことは明らかである。
   イ 一方,被告製品における構成B′では,胴体の内部に1対の減速機及び
モータが対称となる関係で取り付けられている。したがって,被告製品の構成B′
は,構成要件Bを充足する。
  (被告の反論)
   ア 構成要件Bの部分の「減速機付きモータ」とは,減速機が付属してこれ
と一体となったモータを意味すると解すべきである。理由は以下のとおりである。
    (ア) 「減速機付きモータ」は,一般的用語及び機械分野の用語の解釈と
して,減速機が付属しこれと一体となったモータを指すと理解される。
    (イ) 原告は,本件明細書において,「減速機」についてモータ6,6’
と区別して番号7,7’を付していることや,「胴体5内に配置される減速機6,
モータ7に接続される」と記載があることなどから,減速機付きモータは一体型に
限定されないと主張する。しかし,本件明細書において,モータと減速機とを区別
して記号を付することは,構成をより具体的に明らかにする程度の意味があるのみ
で,一体型以外の技術を含むことの根拠にはなり得ない。かえって,本件明細書の
特許請求の範囲には,「減速機付きモータ7,7’を」と記載され,モータと減速
機は区別されていない。
    (ウ) 乙27ないし32のように,減速機とモータとが一体となったもの
を「減速機付きモータ」と表現している特許明細書が多数存在する。
   イ 一方,被告製品における構成B′では,モータと減速機が別個に設けら
れており,その間をベルト及びプーリを介して動力を伝えている。したがって,被
告製品の構成B′は構成要件Bを充足しない。
     なお,被告製品がこのような構成を採用したのは,支軸を中空にし,そ
こにチューブ等を通すことで,アームの回動に伴うチューブ等のねじれを少なく
し,チューブ等の耐久性の向上,パーティクルの発生などを防止し,また,モータ
と減速機を横方向に並列して並べることで,両者を上下方向に重ねた一体型の減速
機付きモータの場合と比べて,胴体の上下方向の高さを低くするためであり,本件
発明とは技術的思想が異なる。
  (3) 構成要件Cの充足性について
  (原告の主張)
   ア 構成要件Cの部分の「各出力軸」は,モータによる駆動力を胴体の外部
へ出力する出力軸を広く指すと解すべきであり,モータ又は減速機の出力軸に限定
されず,外部へ出力するまでにプーリやベルトなどを介していても差し支えない。
     すなわち,構成要件Cの部分は,胴体と第1アームとの連結,連動につ
いて,胴体内のモータの駆動で胴体外の第1アームが回動されるような関係にある
ことを規定している。したがって,「各出力軸」とは,胴体内にあるモータの駆動
力を,胴体外の第1アーム内に伝えるための出力軸を広く指すものであり,直接的
に伝える場合に限定されないことは明らかである。
   イ 一方,被告製品における構成C′では,各第1アームの片側端部が,プ
ーリ及びベルトを介してモータの各出力軸に取り付けられている。したがって,被
告製品の構成C′は構成要件Cを充足する。
  (被告の反論)
   ア 構成要件Cの部分の「各出力軸」とは,「減速機付きモータ」の出力軸
を指すものと解すべきである。理由は以下のとおりである。
    (ア) 原告は,本件補正により,本件特許の出願時の特許請求の範囲を
「該胴体5内には1対の減速機付きモータ7,7’を対称となる関係に取り付け,
各出力軸にはモータ7,7’の駆動で回動」と訂正し,平成9年8月11日付け意
見書において,「上記モータ7,7’の各出力軸にはモータ7,7’の駆動で回動さ
れるものとなる第1アーム4,4’の片側端部を取り付け」と述べ,「各出力軸」
がモータの出力軸であることを認めている。
    (イ) 本件明細書の「発明の詳細な説明」欄には,従来技術についての説
明として,「アーム4は胴体5内部に配置されるモータ7,減速機6およびその出
力軸4aを介し回動される。」とし,出力軸がモータ及び減速機からの出力軸であ
ることを明示している(3欄12ないし21行)。これに対して,本件発明におけ
る「出力軸」がモータによる駆動力を胴体の外部へ出力する出力軸を指していると
の記載は全くない。
    (ウ) 平成9年3月24日付け及び同年8月11日付けの原告の意見書に
よれば,本件発明は,径方向におけるコンパクト性の追求が強調されているが,径
方向におけるコンパクト性を実現するためには,胴体内のモータの出力軸にアーム
を取り付けるという構成を採らざるを得ない。
   イ 一方,被告製品における構成C′では,モータの出力軸は,第1アーム
ではなく,ベルト及びプーリを介して減速機に接続され,モータ及び減速機の出力
軸に取り付けられていない。したがって,被告製品の構成C′は構成要件Cを充足
しない。
  (4) 構成要件D及びEの充足性について
  (原告の主張)
    構成要件D及びEにおいて,支軸2a,2a’,3a,3a’の内部状態
について何らの限定もない。したがって,被告製品の構成D′及びE′は,それぞ
れ構成要件D及びEを充足する。
  (被告の反論)
    構成要件D及びEでは,支軸2,2’,3,3’が単なる支軸の機能にと
どまるのに対し,被告製品における構成D′及びE′では,支軸は中空であるか
ら,当該支軸の中に配線及び配管を通すことを可能にする効果を有する。したがっ
て,被告製品の構成D′及びE′は構成要件D及びEを充足しない。
  (5) 構成要件Fの充足性の有無について
  (原告の主張)
    構成要件Fの部分において,コ字形第3アーム2が保持する基板15の位置
はアームの上面,下面かを限定していない。したがって,被告製品の構成F′は構
成要件Fを充足する。
  (被告の反論)
    構成要件Fの部分において,アーム2の先端のチャックは,アームの下側
で,基板をつり下げるような位置に取り付けられるものに限定されると解すべきで
ある。構成要件Fが,構成要件Gを前提とする以上,図1Bの位置関係を採ることは
必然である。一方,被告製品は,チャックはアームの上側に取り付け,下側からの
みチャックで吸着する構成が採用されている。したがって,被告製品の構成F′は
構成要件Fを充足しない。
  (6) 構成要件Gの充足性について
  (原告の主張)
   ア 構成要件Gの部分の「同一水平線上」とは,完全に同一の高さに限られ
るのではなく,ある程度の幅(厚み)を持った位置関係を指すと解すべきである。
理由は以下のとおりである。
    (ア) 本件明細書の図1Bにおいては,基板15及び15’は高さの異なった
位置関係で,また,図1Aにおいては,基板15,15’は上下方向に重なった位置関
係で,それぞれ記載されている。
    (イ) 本件発明は,第3アームの一方をコ字形の形状とし,他方のアーム
又はそれによって運ばれる基板がコ字形アームのコの字の空間を通過できるような
構成を採用している。仮に,「同一水平線上」について,同一の高さであると解す
ると,第3アーム同士が衝突するのを避けるために,その間の距離を離隔すること
が必要となるが,そうすると,第3アームの一方をコ字形にした技術的意味がなく
なるから,ある程度の幅を持った位置関係を指すと解すべきことになる。
    (ウ) 本件補正により,「同様水平線上」との記載を「同一水平線上」と
の記載に変更しているが,これは,当初明細書における「同様水平線上」はアーム
を主体とした表現をしたため,搬送される基板そのものの厳密な位置が問題となっ
たので「同一」という語を避けたにすぎず,基板を主体として表現した「同一水平
線上」と意味は異ならない。
      また,原告が本件補正と同時に提出した意見書は,「実開2-278
28(引用例2)は単体としてのスカラロボットを単に背中合わせに背置して共通
動作させるというものでしかなく,且つこのさいの作業ユニットは同一箇所ではな
く別々の箇所で行われるものである。従って,本願発明の如く(中略)ものとは構
成及び作用効果を顕著に相違するものである。」と記載しているが,この記載から
は,搬送される基板それ自体の厳密な位置(高さ)に関する引用例との技術的相違
が強調されたと理解されるべきではない。
    (エ) なお,被告は,仮に,2枚の基板を上下に16又は20ミリメート
ル程度の間隔を開けて搬送することも「同一水平線上」での搬送,返送との要件を
充たすというのであれば,本件特許自体が本件特許の出願日以前の特許出願に係る
発明(乙2,以下「先願発明」という。)と同一ということになり,その特許性が
否定されることになると主張する。
      しかし,①先願発明は,「両ピンセット30の上面を異なる高さに設定
する」ことを構成要件としていること,②先願発明は基板を真空処理室へ搬入し搬
出するための装置についての発明であるが,チャックは真空吸着により基板を保持
するものであって真空処理室では使用できないから,先願発明においては基板保持
部にチャックを用いることはあり得ず,先願発明には基板の吸引止着という技術思
想は含まれていないことから,本件発明は先願発明と同一でないことは明らかであ
る。したがって,被告の上記主張は理由がない。
   イ 一方,被告製品における構成G′では,各第3アームによって保持され
る2枚の基板が16又は20ミリメートル程度の間隔をもって搬送及び返送される
ようになっており,同構成は構成要件Gの「搬送及び(中略)返送を同一水平線上
で(中略)進行する」という構成に該当する。したがって,被告製品の構成G′
は,構成要件Gを充足する。
  (被告の反論)
   ア 構成要件Gの部分の「同一水平線上」は,処理箇所への搬送及び処理済
み基板の返送を同一の高さで行うことであると解すべきである。理由は以下のとお
りである。
    (ア) 「同一水平線上」という字義からして,同一の高さであることは明
らかである。
    (イ) 本件特許の出願時の特許請求の範囲は,「半導体ウエハーやガラ
ス,セラミックス等の基板を1チャックに付き1枚ずつ搬送する基板搬送用スカラ
型ロボットに於いて,回転する胴体上方へ左右対称にチャックを2個取り付け,基
板を同様水平線上で搬送できるよう片側のアームをコ字形に構成したことを特徴と
する基板搬送用スカラ型ロボット」と記載されていたが,平成9年1月21日付け
で拒絶理由通知書が出されたため,原告は,本件補正により,「処理前基板を取り
出し,処理箇所への搬送及び処理済み基板の返送を同一水平線上で互い違いの対称
関係で同時進行」と限定し,さらに,本件補正書と同日付けの意見書において,
「拒絶理由通知書での引用例は,本願発明の如く処理前基板の取り出し,該基板の
同一処理箇所への搬送及び該箇所における処理済み基板の返送を同一水平線上で互
い違いの対称箇所で進行されるようになすものとは構成及び作用効果を顕著に相違
する」と述べた。このような出願経過からすると,同一水平線上とは,同一の高さ
であることは明らかである。
    (ウ) 仮に,2枚の基板を上下に16又は20ミリメートル程度の間隔を
開けて搬送することも「同一水平線上」での搬送,返送との要件を充たすというの
であれば,本件特許自体が先願発明と同一ということになり,その特許性が否定さ
れることになる。
 なお,本件特許に対する特許異議申立てに対する決定は,本件発明
は,搬送される基板の位置は上下に離れた構成を採用している先願発明と異なると
して,先願発明との同一性を否定している。
   イ 一方,被告製品における構成G′では,2本のアームで保持する各基板
が上下方向に重なっており,両基板の間には,16又は20ミリメートル程度の間
隔が存する。仮に,「同一水平線上」の意味を,ある程度幅のあるものと解したと
しても,被告製品は,少なくとも16ミリメートルの間隔があり,このような間隔
がある場合を「同一水平線上」と解することはできない。したがって,被告製品の
構成G′は構成要件Gを充足しない。
  (7) 本件特許の明白な無効理由の存否
  (被告の主張)
    本件特許には,以下のとおりの明白な無効理由が存するから,原告の請求
は権利の濫用に当たる。
   ア 本件発明には,本件発明の課題及びその解決方法(基板保持部に本件発
明におけると同様の動きをさせるアーム機構を備えること)は,特開平4-304
77号公報(乙5)に示されているので,新規性がない。
   イ 本件発明には,以下のとおり進歩性がない。
(ア) 実開平3-126583号公報(乙13)に記載された発明によ
り,1アームロボットについて,本件発明と同様の構成が開示されている。 ま
た,特開平4-30477号公報(乙5)は,本件発明と同様の課題を解決するた
め,①それぞれが3つのアームからなり,第3アームに直線状の往復運動を生じさ
せるようになったアーム機構を2組並列に配置する構成,②この並列配置によりそ
れぞれの第3アームが平面視で同一の直線上を往復運動するようにした構成,③2
つの第3アームの干渉を避けるために,該第3アームの一方をコ字形とし,他方が
そのコ字形内を通るようにした構成が開示されている。さらに,原告作成のパンフ
レット(乙17,以下「本件パンフレット」という。)及び「電子材料」と題する
雑誌の平成5年1月ないし5月号(乙44ないし48の各1ないし4,以下これら
を総称して「本件雑誌A」という。)には,本件発明と同一の課題を解決するため
に,従来の1アームロボットを2アームとする構成が開示されている。
      上記の特開平4-30477号公報(乙5),本件パンフレット及び
本件雑誌Aに記載された発明に基づいて,実開平3-126583号公報(乙1
3)に記載された1アームロボットロボットを2組並列に配置することは,当業者
が容易に想到できる。
    (イ) ところで,実開平3-126583号公報(乙13)記載の1アー
ムロボットを2組並列に配置する発明と本件発明を比較すると,①基台内に減速機
付きで配置されるモータ6が中心部に内蔵されていない点,②胴体内に配置される
べき1対のモータ7が減速機付きでない点,③胴体内に配置されるべき1対のモー
タ7が対称となる関係に位置していない点が相違するが,その余の点はすべて同一
である。
 上記相違点①については,設計上の選択事項にすぎず,相違点②につ
いては,産業用ロボットの技術分野において,駆動モータとして減速機付きのいわ
ゆるギヤーモータを使用することは,極く常識的なことであり,相違点③について
は,特開平4-30477号公報(乙5)に明瞭に記載されており,いずれも,当
業者が容易に想到できる。
  (原告の反論)
    特許異議の申し立てに対する決定(乙1)においては,本件発明の構成
が,特開平4-30477号公報(乙5)及び実開平3-126583号公報(乙
13)の記載に基づいて,当業者が容易に想到できるとはいえないとの判断が示さ
れており,本件パンフレット及び本件雑誌Aの記載も,本件発明の具体的技術内容
を何ら開示するものではない。また,実開平3-126583号公報(乙13)記
載のロボットの配列に関する被告の前記主張は明らかに誤りである。
    したがって,本件特許には,被告が主張するような明らかな無効理由は存
しない。
  (8) 被告製品は公知技術のみの集積か。
  (被告の主張)
    本件特許の出願日前である平成4年12月2日から開催された展覧会「セ
ミコン・ジャパン92」(以下「セミコン・ジャパン92」という。)に,本件発
明の実施品が出展されたことにより,本件発明は,外部から認識可能な構成につい
ては公知となった。
 被告製品は,同出展により公知となった構成と本件特許出願前の公知技術
の寄せ集めから成り立つから,原告の請求は,権利の濫用に当たり許されない。
   ア 被告構成A′について
     モータ,プーリ及びベルト機構による減速機構が基台内にある構成は,
実開平3-126583号公報(乙13)などに開示されており,被告製造に係る
ロボット「CH4C」にも採用されていた。したがって,被告構成A′は,公知技
術からなる。
   イ 被告構成B′について
     モータと別体の減速機構を有する構成は,古くからある技術であり,基
板搬送用ロボットに限っても,本件特許出願前の文献である特開平2-83182
号公報(乙3),特開平5-109866号公報(乙4),特開昭62-2229
06号公報(乙6)及び実開平3-126583号公報(乙13)に開示されてお
り,被告製造に係るロボット「RR302」にも採用されていた。また,1対のモ
ータ及び減速機を対称となる関係に取り付けるという構成も,特開平2-8318
2号公報(乙3),特開平4-30477号公報(乙5),特開昭62-2229
06号公報(乙6)に開示され,これらによって当業者であれば当然に想到でき
る。したがって,被告構成B′は公知技術ないし当然用いられる技術を採用したに
すぎない。
   ウ 被告構成C′について
     胴体内にアーム駆動用モータを設けた以上,モータによる駆動力を胴体
の外部へ出力する出力軸に第1アームの片側端部を取り付けることは当然であり,
その他の構成を採用することはあり得ない。そして,胴体の外部にモータによる駆
動力を出力する出力軸については,特開平2-83182号公報(乙3),特開平
5-109866号公報(乙4),特開平4-30477号公報(乙5),特開昭
62-222906号公報(乙6),実開平3-126583号公報(乙13),
実開昭64-56983号公報(乙14),「電子材料」という題名の雑誌の平成
3年8月号(乙8,以下「本件雑誌B」という。)などに開示されており,被告
も,昭和62年以降,同様の構成を採用している。したがって,被告構成C′は公
知技術ないし当然用いられる技術を採用したにすぎない。
   エ 被告構成D′について
     第3アームを直線的に駆動するための機構としてベルトプーリ機構を採
用することは広く行われており,特開平2-83182号公報(乙3),特開平5
-109866号公報(乙4),実開平3-126583号公報(乙13),本件
雑誌Bなどにも開示されており,被告が昭和63年に製造販売を開始したロボット
「ダイレクトドライブ水平多関節形クリーンロボット」にも採用されている。した
がって,被告構成D′及びE′は公知技術からなる。
   オ 被告構成F′について
     基板を吸引止着するために,アーム先端に吸引口を設ける構成は,特開
昭62-222906号公報(乙6),実開平3-126583号公報(乙1
3),本件雑誌B,本件パンフレットに開示されている。また,第3アームの一方
をコ字形にして第3アーム相互の干渉を防止する構成は,特開平6-69315号
公報(乙2),特開平4-30477号公報(乙5)に開示されている。したがっ
て,被告構成F′は公知技術からなる。
   カ 被告構成G′について
     第3アームにより処理前基板を処理箇所への搬送することと処理済み基
板を返送することを,ある程度の幅のある水平線上において,互い違いの対称関係
で同時進行するという構成は,特開平6-69315号公報(乙2),特開平2-
83182号公報(乙3),特開平5-109866号公報(乙4),特開平4-
30477号公報(乙5),特開昭62-222906号公報(乙6),特開平4
-171741号公報(乙7)に開示されている。したがって,被告構成G′は公
知技術からなる。
(原告の認否)
被告の主張は争う。
(9) 損害額について
  (原告の主張)
    被告製品は,本件特許権の登録日である平成10年1月23日から現在ま
での間に,少なくとも350台製造,販売された。
    原告は,被告が被告製品を製造,販売しなければ,原告製の「大気用ウエ
ハ搬送ロボット RR701シリーズ」を販売することができ,これにより1台当
たり少なくとも32万円の純利益を得ることができた。
したがって,被告製品の製造,販売による原告の損害額は,1億1200
万円を下らない。
(被告の認否)
 争う。
第3 当裁判所の判断
 1 本件特許の無効理由について
   本件特許には,明白な無効理由があるので,原告の請求は権利の濫用により
許されないと解される。その理由の詳細は以下のとおりである。
  (1) 出願前における本件発明実施品の展示
 証拠(乙17,44ないし48の各1ないし4)及び弁論の全趣旨によれ
ば,以下の事実が認められ,これに反する証拠はない。
ア 原告は,平成4年12月に開催された「セミコン・ジャパン92」にお
いて,原告が製造した本件発明の実施品であるダブルアームクリーンロボットRR
701シリーズの各ロボット(以下これらを総称して「RR701ロボット」とい
う。)を出展した。また,弁論の全趣旨により,RR701ロボットの実際の作動
状況は,原告により観客に観覧されたものと推認される。
イ 本件発明のうち,RR701ロボットの外観及びその作動を観察するこ
とによって認識できる部分は公知となった。すなわち,基台上に回動可能な胴体5
が取り付けられている点,胴体には,1対の第1アーム4及び4’が,それらの片
側端部を接続部位として回動可能な状態で取り付けられている点,各第1アーム4
及び4’には,それぞれ,同一の形をした第2アーム3及び3’が,それらの片側
端部を接続部位として回動可能な状態で取り付けられている点,基板を吸引止着
し,一方はコ字形をしており,他方はそのコ字形内を干渉しないように作動する第
3アーム2及び2’が第2アームに回動可能な状態で取り付けられている点,アー
ム2,2’により処理前基板を取り出し,処理箇所への搬送及び処理済み基板の返
送を同一水平線上で互い違いの対称関係で同時進行するようにした点が,「セミコ
ン・ジャパン92」の展示により開示され,公知となった。
ウ これに対して,以下の2点は,「セミコン・ジャパン92」の展示によ
っても,開示されず,公知になったとはいえない。
① 胴体5内には1対の減速機付きモータ7,7’を対称となる関係に取
付け,各出力軸にはモータ7,7’の駆動で回動されるものとなる第1アーム4,
4’の片側端部を取付け,第1アーム4及び4’の他端部には各アーム4,4’の
回動と共に,プーリ及びタイミングベルトを介し一定比で回動されるものとなる支
軸3a,3a’を該アーム4,4’の回動とは無関係の状態に突出させ,該支軸3
a,3a’には第2アーム3,3’の片側端部を取付け,且つ該第2アーム3,
3’の他端には各アーム3,3’の回動と共に各アーム体内でプーリ及びタイミン
グベルトを介して一定比で回動されるものとなる支軸2a,2a’に第3アーム
2,2’を取付けた点
② 基台の内側の中心部に減速機付きのモータ13が内蔵され,胴体5はモ
ータ13によって駆動されている点
(2) 非開示部分について
 そこで,非開示部分①,②について検討する。
   ア 本件雑誌B記載の発明(乙8)
 本件特許出願前に発行された本件雑誌Bには,1アーム型(アームが1
本のもの)の基板搬送用スカラ型ロボットの構造について,「クリーンロボットの
内部機構は,図9のようになっている。この図により動作説明をすると,つぎのよ
うになる。(中略)まずR方向ステッピングモータを回転させると,タイミングプ
ーリ2および3が回転して,第1アームを回転させる。このとき,ドラム蓋に取り
付けられたタイミングプーリ4は固定されているので,2:1のプーリ比で作られ
たタイミングプーリ4とタイミングプーリ5を通して,第2アームは第1アームと
反対方向に,しかも第1アームの2倍速で回転する。この第2アームは,第1アー
ムから見ると反対方向回転の2倍速であるが,ロボット本体の固定部から考える
と,(中略)第2アームの回転から第1アームの回転が減算されて,等速の反対方
向回転となる。そして,第1アームに固定されたタイミングプーリ6を通して,タ
イミングプーリ7に回転が1:2のプーリ比で伝達され,それとは反対方向に2倍
の速度で,フィンガは第2アームにより移動される。このため,それに接続された
フィンガは,常にロボットセンターから外側に向かって直線動作することになる。
(中略)θ方向回転運動は,R方向移動を停止した状態でθ方向ステッピングモー
タを回転することにより,タイミングプーリ1を通してドラム蓋が回転される。こ
のドラム蓋に,R方向移動のR方向ステッピングモータ,タイミングプーリ2,軸
受が固定されているため,R方向は移動せず,θ方向のみ移動となる。」(42,
43頁)と記載されている。同記載中の図9は別紙「1アーム型ロボット構造図」
のとおりである。
イ 一致点
 本件雑誌Bの発明と本件発明とは,胴体はモータによって駆動される構
成,胴体の内部にはモータが取り付けられている構成,第1アームは胴体内のモー
タの駆動をプーリ及びタイミングベルトを介して伝えた支軸に取り付けられてお
り,モータの駆動によって回動される構成,第1及び第2アームの各他端部(第1
アームの場合は胴体内から突出した支軸に取り付けられた端部の他端部,第2アー
ムの場合は第1アームから突出した支軸に取り付けられた端部の他端部)にはアー
ムの回動と共に,プーリ及びタイミングベルトを介し一定比で回動されるものとな
る支軸を該アームの回動とは無関係の状態(すなわち,アームの回動とは反対方向
の回動となる状態)に突出させる構成,第3アームは第2アームから突出された支
軸に取り付けられている構成において一致する。
ウ 本件発明(非開示点①)との相違点及び検討
(ア) 相違点
 本件発明(非開示点①)と本件雑誌Bの発明とは,胴体内に1対の減
速機付きモータが,「対称となる関係」に取付けられている点において相違する
(相違する部分を「 」で示した。)。
(イ) 検討
 上記相違点について検討する。
胴体内に1対の減速機付きモータを対称となる関係に取り付けた点
は,1対の第1アームの位置関係を対称とする以上,これを回動させる1対の減速
機付きモータの位置関係も対称とするのが自然であるから,このような構成を採る
ことは単なる設計的事項であるといえ,当業者であれば容易に想到できたといえ
る。
エ 本件発明(非開示点②)との相違点及び検討
(ア) 相違点
 本件発明(非開示点②)と本件雑誌Bの発明とは,胴体を回動させる
「減速機付きモータ」が基台の内部の「中心部」へ内蔵させる構成において相違す
る(相違する部分を「 」で示した。)。
(イ) 検討
 上記相違点について検討する。
「減速機付きモータ」を採用した点については,特開平1-2402
88号公報(乙26)には,関節を有するアームを自在に回転させる産業用ロボッ
トのアームの駆動用モータについて,減速機を一体として付属させたモータの構成
が開示されていることに照らすならば,本件発明において,「減速機付きモータ」
を採用することは,困難を伴う事項ということはできない。また,モータを「中心
部」へ内蔵させる構成を採用した点については,上記支軸を基台に内蔵されたモー
タの出力軸と一致させると,プーリ及びベルトを省略することができ,有効である
から,基台内のモータの出力軸をそのまま胴体の支軸として,これにより胴体を回
動させようとの考えに至ることは極めて自然なことである。被告製品のように基台
が円柱状の形をしたものであれば(乙17),胴体を回動させる支軸は基台の中心
部から突出することになる以上,モータは基台の内部の中心部に内蔵せざるを得な
くなるので,「中心部」へ内蔵させる構成は,当業者であれば容易に想到できたと
いえる。
(3) 以上のとおり,本件発明は,「セミコン・ジャパン92」への出展により
公知となった発明及び本件雑誌B記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたものということができ,特許法29条2項の無効理由を有することは
明らかである。そうすると,本件特許は無効理由を有することになるので,本件特
許権に基づく本件請求は権利の濫用として許されない。
 2 構成要件の充足性について
   前記1で述べたところによれば,その余の点について判断するまでもなく,
原告の請求は理由がないが,当事者の主張にかんがみ,被告製品が構成要件A及び
Bを充足しないことについても,当裁判所の判断を示すこととする。
  (1) 構成要件Aについて
 ア「中心部」の意義について
 構成要件Aの部分では,「モータを中心部へ内蔵した」と記載されてい
る。ところで,「中心」という語は,一般的に「真ん中,周囲や両端から等距離に
あるような点とそのまわりの部分」を意味すること,本件明細書の詳細な説明欄に
おいて「中心部」を特別な意味で理解すべきとする説明はないこと,実施例図面
(図1B)においては,モータは基台の内部の中心部に設置されていること,及
び,「中心部」としたことにより,自明の効果として,部品点数を減少させ,コン
パクト化に資するという効果を生じること等に照らすならば,構成要件Aにおける
「中心部」とは,基台の真ん中の部分ないし基台の側壁から等距離にある部分とい
う意味であることは明らかである。
 これに対し,原告は,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄には,モー
タ13の位置に関して,単に「基台8内に設けたモータ13」(5欄3ないし4行)と
記載され,モータ13が基台の単に内側にあることのみが示されていること,従来技
術については,「基台8上に設置したモータ13」(3欄6ないし7行)と記載され
ていることから,本件発明におけるモータ13の位置に関しては,基台の上ではなく
内にあることのみが示されていると解すべきであると主張する。
 しかし,「中心部」という語は,本件明細書の従来技術に関する図2に
おけるモータの配置をできる限り避けたことは明らかであること,「中心部」とい
う語を「基台の内側」と理解させるのは,文言からあまりにも乖離して無理がある
ことから,原告の同主張は採用できない。
 イ 対比
 一方,被告製品では,その駆動により胴体を回動するモータ13は,基台
の内部の中心部ではなく,フレーム側壁内面に取り付けられている。したがって,
被告製品の構成A′は,構成要件Aを充足しない。
(2) 構成要件Bについて
   ア 「減速機付きモータ」の意義
 構成要件Bの部分において,「減速機付きモータ7,7’を・・・取り
付け」と記載されている。ところで,「減速機付きモータ」という語は,一般的に
「減速機が付属しこれと一体となったモータ」を指すものと解されること,本件明
細書の詳細な説明欄において「減速機付きモータ」について,特別の意味で理解す
べきとする説明はないこと,実施例図面(図1B)においては,減速機がモータに
付属し,両者は一体となっていること,及び,「減速機付きモータ」としたことに
より,自明の効果として,部品点数を減少させ,コンパクト化に資するという効果
を生じること等に照らすならば,構成要件Bにおける「減速機付きモータ」とは,
減速機がモータに付属し,両者が一体となったものを意味すると解するのが相当で
ある。
 これに対し,原告は,①本件明細書では,減速機とモータとでそれぞれ
独立した別個の番号が付され,また「発明の詳細な説明」欄には「胴体5内に配置
される減速機6,モータ7に接続される」と記載され,減速機とモータとが書き分
けられていること,②構成要件Aの部分で「減速機付きでモータ13を中心部へ内蔵
した」と記載され,これを受けて,構成要件B以降では単に「減速機付きモータ」
という記載がされているのであり,後者は前者と異なる意味に理解すべきでないこ
と等を根拠として,「減速機付きモータ」とは,減速機とモータが一体となってい
るものに限定されない旨主張する。しかし,①については,「減速機付きモータ」
が一体であるか否かにかかわらず,減速機とモータの機能は異なるのであるから,
説明の便宜上,両者に独立した番号を付することは合理性があるから,両者に別個
の独立の番号を付したからといって,「減速機付きモータ」が減速機とモータが別
体のものを指すと解すべきことの根拠とはならず,また,②については,そもそも
構成要件Aの「減速機付きでモータ13」と構成要件Bの「減速機付きモータ7,
7’」とは別の部材であり,これらを同意義に理解すべき必然性はない
のであるから,原告の上記主張はいずれも理由がない。
イ 対比
 一方,被告製品においては,減速機とモータとは一体ではなく,モータ
の出力軸はプーリ及びタイミングベルトを介して,減速機に連結されている。した
がって,被告製品の構成B′は,構成要件Bを充足しない。
3 結語
   以上のとおり,原告の本件請求は,その余の点について判断するまでもなく
理由がない。
    東京地方裁判所民事第29部
        裁判長裁判官 飯   村   敏   明
           裁判官 谷       有   恒
           裁判官 佐   野       信
 物件目録
1 以下の構成を有する基板搬送スカラ型ロボットであって,
 (1) 底部8の内部にあって基板15,15’の取り出し,搬送及び返送箇所の高さに
応じて上下に昇降するフレーム29の側壁内面に取り付けたモータ13の出力軸を,プ
ーリ23b,23c及びタイミングベルト23dからなるベルト・プーリ機構を介して,
モータ側部でフレーム29の中心から偏心した位置に配置した減速機21に連結し,減
速機21の出力軸をプーリ22b,22c及びタイミングベルト22dからなるベルト・プ
ーリ機構を介して,フレーム29上面中央に設けた中空の出力軸24に連結し,該出力
軸24上方には,該出力軸24に固定され,その回転によって回動される胴体5を取り
付け,
 (2) 該胴体5内には,1対のモータ7,7’を対称となる関係に取り付け,該モ
ータ7,7’の各出力軸を,該モータ7,7’及び減速機6,6’の下部に設けた
プーリ17b,17c,17b’,17c’及びタイミングベルト17d,17d’からなるベ
ルト・プーリ機構を介して,1対の減速機6,6’にそれぞれ連結し,該減速機
6,6’の各出力軸を,該減速機6,6’の上方に設けたプーリ18b,18c,18
b’,18c’及びタイミングベルト18d,18d’からなるベルト・プーリ機構を介
して,胴体5上面に設けた中空の支軸4a,4a’にそれぞれ連結し,
 (3) 中空の支軸4a,4a’にはモータ7,7’の駆動で回動されるものとなる
第1アーム4,4’の片側端部を取り付け,
 (4) 且つ該第1アーム4,4’の他端部には各アーム4,4’の回動と共に,各
アーム体内でプーリ及びタイミングベルトを介し一定比で回動されるものとなる中
空の支軸3a,3a’を該アーム4,4’の回動とは無関係の状態に突出させ,
 (5) 該支軸3a,3a’には第2アーム3,3’の片側端部を取り付け,且つ第
2アーム3,3’の他端には各アーム3,3’の回動と共に各アーム体内でプーリ
及びタイミングベルトを介して一定比で回動されるものとなる中空の支軸2a,2
a’を該アーム3,3’の回動とは無関係の状態に突出させ,
 (6) 且つ該支軸2a,2a’には,それぞれアーム上面において基板15,15’を
吸引止着するための吸引口を有し,1つがコ字形をなし,他の1つは上記コ字形内
を干渉しないように作動する第3アーム2,2’を取り付け,
 (7) 該アーム2,2’は,前記フレーム29の昇降及びモータ7,7’の駆動によ
り処理前基板を基板収納箇所から取り出し,処理箇所へ搬送及び処理済基板を返送
し,
 (8) 基板15,15’が16ないし20ミリメートルの上下方向の間隔をもって水平
に,互いに反対方向に同時進行するように構成したもの
2 用語の説明
 1・1’は吸引口,2・2’はアーム,2a・2a’は支軸,2b・2b’はプ
ーリ,3・3’はアーム,3a,3a’は支軸,3b・3b’はプーリ,3c・3
c’はプーリ,3d・3d’はタイミングベルト,4・4’はアーム,4a・4
a’は支軸,4c・4c’はプーリ,4d・4d’はタイミングベルト,5は胴
体,6・6’は減速機,7・7’はモータ,8は底部,13はモータ,15・15’は基
板,17b・17b’はプーリ,17c・17c’はプーリ,17d・17d’はタイミングベ
ルト,18b・18b’はプーリ,18c・18c’はプーリ,18d・18d’はタイミング
ベルト,21は減速機,22bはプーリ,22cはプーリ,22dはタイミングベル
ト,23bはプーリ,23cはプーリ,23dはタイミングベルト,24は出力軸,25は
(昇降用)モータ,26bはプーリ,26cはプーリ,26dはタイミングベルト,27は
ボールネジ,28はナット,29はフレーム,30は直道ガイド,31,31’はチューブ
3 図面の説明
図1はロボットの構造
図2はロボット内にチューブを通したときの概念図
  図1図2
別紙 1アーム型ロボット構造図

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