弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人Aに関する部分を破棄する。
     被告人に対しては刑を免除する。
         理    由
 本件控訴の趣意は被告人並びに弁護人小林信夫各提出の控訴趣意書に記載された
とおりであるからここにこれを引用し、これに対し次のように判断する。
 各論旨第二点について。
 所論は、被告人は窃盗本犯で同居の実兄であるBから依頼されて判示自動車を運
搬したのであるから、たとえ被告人が該自動車の賍物であることを知つていたとし
ても、被告人に対しては、刑法第二百五十七条第一項を適用して刑を免除すべきで
あるにかかわらず、原審が同法条項の適用を看過して刑の言渡しをしたのは、基本
たる事実に対する審理不尽か或いは法令の適用を誤つたものであると主張する。そ
こで記録を精査し、且つ当審における事実の取調の結果に徴し、この点につき審按
するに、B、C、D、Eが共謀の上判示自動車を窃取したものであること、被告人
が右共犯者の一人である実兄Bの依頼により右自動車を運搬するに至つたことは証
拠上明白であり、被告人の知情の点については、叙上論旨第一点に対する説示のと
おり、これを認め得るのであるから、判示日頃被告人がBと同居していたとすれ
ば、所論のように、前記法条項を適用するのか当然であり(昭和二三年五月六日最
高裁判所第一小法廷判決参照)、その当時被告人とBとが同居の関係にあつたか否
かが、所論の当否を決する唯一の問題点となるのである。
 ところで刑法第二百五十七条第一項の法意は、これに規定するような身分関係の
ある者の間で行われる賍物に関する行為でも本来その犯罪の成立を阻却するいわれ
はないが、しかし、これらの者の間に同条項所定の行為が行われることは、人情上
あながち無理からぬ一面もあるので、その情義を無視してこれを処罰するのは、<要
旨>いささか酷であるとしてその刑を免除するのを適当としたものと解せられるので
あつて、右の如き法意に照せば、同条項にいわゆる同居とは、同一家計の下
に居を定めて日常生活を共にしている場合を指称するものと解するを相当とすると
ころ、本件記録及び当審における事実の取調の結果によれば、被告人は、本件犯行
当時、その内妻Fと共に、大阪市a区b町c番地の父G母Hの住居たる同一家屋
に、父母の主宰する家計に服して、右父母、兄B及びその妻子、妹I、弟J等と日
常生活を共にしていたものと認められるから、被告人とBとは同居の親族の関係に
あつたものというべきである。すなわち当審における検証調書、証人B、同G、同
K、同L、同Mの各尋問調書を総合考察すれば、本件犯行当時、被告人及びその実
兄Bが共に居を定めていた大阪市a区b町c番地の家屋は、大韓民国居留民団大阪
府総本部附属の瓦葺レンガ造り建物の一部を仕切つたもので、間口(南北)約六間
奥行(束西)約四間半の旧食堂の部分と間口(南北)約二間奥行(東西)約二間半
の旧ボイラー室の部分とよりなり、右旧食堂の北側に旧ボイラー室かレンガにコン
クリートをかぶせた厚さ約一尺の障壁を境として相接し、旧食堂の西側北端寄りの
幅一間の部分及び旧ボイラー室の西側南端寄りの幅半間の部分が各室の表出入口と
なり、別に旧食堂の部分の東南隅に東西半間の裏出入口がある外、旧食堂の西南の
両面及び旧ボイラー室の東西北の三面が前記同様の厚さ約一尺の障壁により、又旧
食堂の東面か板仕切りによつて囲繞され、又本件当時には、両室の境にある前記障
壁の中間よりやや東寄りに幅三尺高さ六尺八寸の通路が存したこと(当審検証当時
はベニヤ仮をもつて閉鎖していた)、更に両室の内部は、それそれコンクリート土
間の上に、旧食堂の部分には、本件当時、木造バラツク式の八畳二室が南北に並ん
で造作され、北側八畳室の東側に同式の四畳室が設けられ、右三室はいわゆる鍵の
手に接続し、各室の境は襖によつて区切られ(当審検証当時は多少の造作替がなさ
れていた)、他面旧ボイラー室には北寄りに同式の八畳一室が造作され、旧食堂の
北側及び西側はいわゆる鍵の手に細長くコンクリート土間のまま、又旧ボイラー室
南側も東西に細長く同様の土間のまま残り、旧食堂の西側障壁に浴うて細長く流し
及び炊事台が設置され、又旧ボイラ室南側障壁の中央よりやや西寄りに水槽が存す
ること、本件当時、被告人はその内妻と共に旧ボイラー室の八畳室に起居し、旧食
堂の南側八畳室には被告人の両親G夫婦か、同四畳室には被告人の弟妹が、同北側
八畳室には被告人の兄B夫婦及びその子供二人が、それぞれ起居していたこと前記
の者等はGを世帯主として一世帯を構成し、その家計は被告人の母Hが握り、炊事
食事は全員共同であつたこと、主要食糧の配給も一世帯として一括して受けていた
ことを認め得るのであつて、これら一連の事実に照せば、本件犯行当時被告人と兄
Bとは、前記の如く、同一の家計の下に居を定めて日常生活を共にしていたもの、
すなわち、同居していたものであると認めるのが相当である。被告人夫婦の居室と
B夫婦の居室との間に前記の如き障壁の存在した事実は、右障壁に前記の如き通路
があり、又表出入口も相接し、右両者を通じて被告人等が互に容易に往来し得た事
蹟に徴すると、前記認定の妨げとなるものではない。
 もつとも、記録によれは、昭和三十一年八月二日附Bに対する保釈許可決定によ
る制限住居か東京都品川区de丁目f番地D方となり、同年十月十一日附をもつて
同人が右住居を同都葛飾区g町h番地N方に変更する旨の届が裁判所宛に提出され
ており、又Bに対する同年十二月十四日附勾留状、同日附起訴状、同月十三日附検
察官面前調書では、同人の住居が同都大田区ij丁目L方となつているが、前記保
釈関係の制限住居は、それぞれ窃盗仲間であるD、Cの住居であつて、Bが右場所
で生活した形跡のないことから考え、保釈請求の便宜のため裁判所に届けられた形
式上のものと認むる外なく、又前記勾留状、起訴状並びに調書による東京の住居に
ついて検討するに、同様記録に現われたBに対する同年十二月八日附及び同月二十
六日附各勾留状、同年七月十六日附、同年九月十三日附、同年十二月二十六日附、
昭和三十二年一月十日附、同月二十一日附、同月二十三日附及び同年二月二十日附
各起訴状、昭和三十一年十二月六日附、同月十四日附、同月二十日附、同月二十四
日附、同三十二年一月十六日附及び同月二十九日附各司法警察員面前調書、同三十
一年八月三十日附検察官面前調書並びに原審判決書等には、大阪の前記場所がその
住居として記載されているばかりでなく、記録に現われた各般の証拠並びに当審に
おけるB、G、K、O、Pの各証人尋問調書、Qの公判廷の供述を総合考察すれ
ば、Bは、昭和三十一年一月二十三日(五月十四日保釈)、同年六月二十五日(八
月二日保釈)、同年十二月五日の三回に亘り、賍物故買、窃盗等の被疑事実により
東京都内で検挙、次いでそれぞれ起訴され、本件は同人の第二回検挙後の保釈中発
生したものであるが、同人は、昭和三十年秋頃からC、D、E等と共に集団的常習
的に、東京附近で自動車を窃取し又は買入れて大阪に運搬し、修理又は改装の上売
却して前記家計費の資としていた関係から月の半位は東京に滞在し、これがため初
めは旅館を利用し、後には一戸を借り受け、本件の数日前から東京都大田区ij丁
目k番地Q方の三室を賃借していたもので、その後昭和三十一年十月末或いは十一
月初めから同年十二月五日第三回検挙に至るまで約一カ月間妻K及び小学校在学中
の子供二人が上京して右借室に同居したことかあるが、もとより外国人登録、主要
食糧配給及び子供の転校に関する諸手続ばなされた形跡もなく、世帯道具の如き
も、仮住居に相応わしい最少限度のものが搬入使用されたに過ぎす、B夫妻として
東京に生活の本拠を移す意思もなく、旅館宿泊の場合に比し経費か安い等の配慮か
ら、右場所を賃借使用していたことを認め得るのであつて、以上の経緯に徴すれ
ば、Bが生活の中心を東京に置き、前記父母兄弟又は妻子と日常生活を別にしてい
たとは認め難いから、前記勾留状等に記載された東京の住居は前記同居に関する認
定を左右するものではなく、又前記の如く、Bが月の半位東京に滞在し、特にQ方
に或る期間借間し妻子と共に生活していた事実も右認定の妨げとなるものではな
い。
 叙上説明により認め得る如く、被告人は判示のとおり、窃盗本犯の一人である同
居の親族Bから依頼され判示自動車をその賍物であることの情を知りながら運搬し
たというのであるから、本件は正に刑法第二百五十七条第一項の場合に該当するも
のというべきである。しかるに原判決は右同居関係の有無につき審理を尽さず、ひ
いてこの点に関する法令の適用を看過したものであり、この過誤は判決に影響を及
ぼすこと明らかであるから、論旨は理由かあり、原判決中被告人Aに関する部分は
この点において破棄を免れない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十七条第四百条但書に則り原判決を破棄した上当裁判
所において自判することとする。
 (罪となるべき事実)
 被告人は、昭和三十一年九月十七日頃東京都大田区所在R附近道路上において、
同居の親族たるBより同人外三名が窃取した一九五四年フオード普通乗用自動車一
台の運搬方を依頼され、その賍物であることを知りながらこれを承諾し、同所より
大阪市a区b町c番地まで運転輸送し、もつて賍物の運搬をなしたものである。
 (証拠の標目)
 一、 原判決が原判示第七の(一)及び第十二についての対応証拠として挙示し
た証拠全部
 一、 当審証人Qの供述
 一、 当審におけるO、P、B、G、K、L、Mの各証人尋問調書
 一、 当審受命判事による検証調書
 を総合して認める。
 (確定裁判の存在)
 原判決の該当部分を引用する。
 (法令の適用)
 被告人の判示所為は刑法第二百五十六条第二項罰金等臨時措置法第二条第三条に
該当するところ、右は前示確定裁判のあつた罪と刑法第四十五条後段の併合罪の関
係にあるので、同法第五十条に従い未だ裁判を経ない判示の罪につき処断すべきで
あるが、判示の如く、被告人は窃盗本犯であり且つ賍物運搬依頼者であるBと同居
の親族であるから、同法第二百五十七条第一項刑事訴訟法第三百三十四条に則り、
被告人に対してはその刑を免除することとし、主文のとおり判決する。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 谷中董 判事 坂間孝司 判事 司波実)

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