弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人梨木作次郎の上告趣意は未尾に添付した別紙書面記載の通りである。
 上告論旨第一点について。
 原判決において、証拠として挙示した原審公判における証人Bの供述記載によれ
ば同人が社長Aの指示があつたと誤信して、判示金員を被告人に交付した事実は明
白であり、原審の判示の事実認定については何等法則に違背するところはない。論
旨は独自の見解に基いて原判決の事実誤認を非難するものであるから上告適法の理
由とならないものである。
 第二点について。
 論旨は多岐にわたるものであるから(イ)(ロ)(ハ)の順を追うて説示する。
(イ)仮りに被告人が被害者Aの所為は労働組合法第一一条に違反するとして(原
判決は同条に違反すると認定したものではない)これを地方労働委員会に提訴する
権利を有すると考えたとしても、Aにおいて提訴されることは不利益な害悪である
としてこれを避けようとすることは人情の然らしむるところであるから、其弱点に
乗じて提訴すべき旨を告知して右Aを畏怖せしめ(原判決は畏怖せしめたと認定し
たものである)適法に取得することのできない財物の交付を受けることは恐喝罪を
構成するものと解しなければならない。そして原判決は被告人が右Aに要求した金
額は被告人の当然取得すべき権利のあるものとは認定しないものであり、其認定に
ついては、何等法則に違背したことを認められないから原判決は、所論の如き違法
はない。(ロ)被害者Aが金六万円を被告人に交付したのは不当労働行為の追求か
ら解放されたい為めであつて、被告人の行為により畏怖心を起した為めではないと
の主張は、原審の事実誤認の非難にすぎないから上告適法の理由とならないもので
ある。(ハ)被告人の行為は、労働争議行為でないことは当時被告人は退職後で判
示会社の労働者でないこと及び被告人の判示会社に対する主張は、単に個人的な契
約上の主張であつて、労働組合又は労働者の団体としての争議でない等の点に鑑み
て明白であるから、原審において被告人の行為を労働争議行為と認定しないことは
当然である。従つて論旨は理由がない。
 第三点について
 所論は原審の量刑不当を非難することに帰着するから上告適法の理由とならない。
 よつて刑事訴訟法施行法第二条旧刑事訴訟法第四四六条により主文のとおり判決
する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二四年四月五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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