弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2裁決行政庁が平成22年1月15日付けで控訴人に対してした家屋課税台帳
に登録された原判決別紙物件目録記載の専有部分の建物(本件専有部分)の平
成21年度の価格についての審査の申出を却下する旨の決定を取り消す。
第2事案の概要
1(1)本件専有部分は,原判決別紙物件目録記載の1棟の建物(本件区分所有
家屋)の駐車場であり,登記簿に登記されている。
(2)控訴人(原告)は,平成19年8月29日付けで,株式会社Aから本件
専有部分及びその敷地の賃借権を売買代金550万円で買い受け,同月31
日,本件専有部分について所有権移転登記を経由した。
(3)東京都知事は,本件区分所有家屋の平成21年度の価格を決定し,文京
都税事務所長は,平成21年3月31日付けで,本件区分所有家屋の同年度
家屋課税台帳の付表に本件専有部分の同年度のあん分価格4373万240
0円を登録した。
(4)文京都税事務所長は,平成21年6月1日付けで,控訴人に対し,本件
専有部分の平成21年度の固定資産税及び都市計画税の納税通知書及び課税
明細書を交付した。
(5)控訴人は,家屋課税台帳に登録された本件専有部分の平成21年度のあ
ん分価格について不服があるとして,平成21年8月3日,地方税法432
条1項に基づき,裁決行政庁に審査の申出(本件申出)をした。
(6)裁決行政庁は,区分所有に係る家屋の専有部分のあん分価格は地方税法
432条1項にいう「固定資産課税台帳に登録された価格」に該当せず,裁
決行政庁に対する審査申出事項に当たらないことを理由として,平成22年
1月15日付けで,本件申出を却下する旨の決定(本件決定)をした。
2本件は,控訴人が,被控訴人(被告)に対し,本件決定の取消しを求めた事
案である。
控訴人は,①区分所有に係る家屋の専有部分のあん分価格も「固定資産課
税台帳に登録された価格」に該当し,裁決行政庁に対する審査申出事項に当た
る,②そうでないとしても,裁決行政庁が控訴人に対し本件申出の対象を本
件専有部分のあん分価格から本件区分所有家屋の価格に変更することを検討さ
せなかったことが裁決行政庁の釈明義務に違反するから,本件決定は違法なも
のであるなどと主張した。
3原審は,
(1)地方税法は,①固定資産税は,固定資産に対し(固定資産を課税客体
として)課するものであるとし(342条1項),固定資産である「家屋」
とは,住家,店舗,工場,倉庫その他の建物をいうとした上(341条3
号),家屋に対して課する固定資産税の課税標準は,当該家屋の価格で家屋
課税台帳等に登録されたものとするとし(349条),②固定資産税の納
税者は,その納付すべき当該年度の固定資産税に係る家屋について固定資産
課税台帳(家屋については,家屋課税台帳,家屋補充課税台帳)に登録され
た価格について不服がある場合においては,固定資産評価審査委員会に審査
の申出をすることができるとし(432条1項),③家屋課税台帳とは,
登記簿に登記されている家屋について所定の事項を登録した帳簿をいうが
(341条12号),登記簿に登記されている家屋というのは,区分所有に
係る家屋の専有部分が登記簿に登記されている場合においては,当該区分所
有に係る家屋をいうものとしている(同号括弧書)ことから,本件専有部分
のあん分価格に関する不服については,裁決行政庁に審査の申出をすること
はできず(固定資産税額のあん分割合についての不服としてであれば,東京
都知事に対する固定資産税の賦課決定についての審査請求において不服の理
由とすることができるにとどまる。),本件申出は裁決行政庁に対する審査
申出事項についてされていない不適法なものである,
(2)①控訴人は,家屋課税台帳に登録された本件専有部分の平成20年度
のあん分価格について不服があるとして,平成20年7月28日,地方税法
432条1項に基づき,裁決行政庁に審査の申出をしたところ,裁決行政庁
は,同年9月16日付けで,本件決定と同趣旨の決定をし,その決定書に,
区分所有家屋の評価は1棟を単位として評価するものとされており,裁決行
政庁において審査する価格についても,1棟の建物になる旨の記載をしてい
るのに,控訴人は,あえて同内容の不服を理由として本件申出をしており,
このような状況の下で,裁決行政庁が,控訴人に対し,本件申出の対象を本
件専有部分のあん分価格から本件区分所有家屋の価格に変更することを検討
させることは,相当でないし,②それまでの経過からすると,控訴人が真
摯に本件申出の対象を変更することを検討することは期待できないから,裁
決行政庁が,控訴人に対し,本件申出の対象を本件専有部分のあん分価格か
ら本件区分所有家屋の価格に変更することを検討させることをしなかったこ
とは,裁決行政庁の釈明義務に違反するものではない
などと判示して,控訴人の請求を棄却した。
これに対し,控訴人が控訴した。
4前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張の要旨は,当審における控訴
人の主張を後記5のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第2
の2~4に記載のとおりであるから,これを引用する。
5当審における控訴人の主張
原審は,地方税法432条1項にいう「固定資産課税台帳に登録された価
格」というのは,本件区分所有家屋1棟の価格であって,本件専有部分のあん
分価格ではない旨判示するが,誤りである。
(1)原審は,区分所有に係る家屋の専有部分が登記簿に登記されている場合
においては,当該区分所有に係る家屋の価格で家屋課税台帳に登録されたも
のが地方税法432条1項にいう「固定資産税に係る固定資産について固定
資産課税台帳に登録された価格」に該当し,区分所有に係る家屋に対して課
される固定資産税の納税者である各区分所有者は,上記の価格に不服がある
ときは,固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができるが,あん
分価格を含め上記の価格以外の事項に不服があるときは,固定資産評価審査
委員会に審査の申出をすることはできず,固定資産税の賦課についての不服
申立てにおいて不服の理由とすることができるにとどまることとなると判示
するが,なぜこのような結論に至るのか,納得ができない。
(2)原審は,被控訴人における固定資産税及び都市計画税の課税事務では,
まず当該家屋の価格を各区分所有者の有する専有部分の床面積の割合によっ
てあん分することにより各専有部分ごとの価格相当額(あん分価格)を算出
し,このあん分価格から各区分所有者が納付すべき固定資産税の額を計算す
るという取扱いが行われていること,そのため,被控訴人は,通常の家屋用
の課税台帳様式に加えて区分所有に係る家屋用の課税台帳様式を定め,その
家屋課税台帳には区分所有に係る家屋の価格を,家屋課税台帳の付表には各
区分所有者の専有部分のあん分価格をそれぞれ記載していることが認められ
ると認定している。
そうであれば,被控訴人において,長年にわたり実際に行われてきた区分
所有に係る家屋の価格や固定資産税の算定とその記載の各方法や取扱いの慣
行をみるときは,区分所有に係る家屋の全体の価格だけでなく,その専有部
分のあん分価格も,地方税法432条1項にいう「固定資産税に係る固定資
産について固定資産課税台帳に登録された価格」に該当すると判断すべきで
あった。ところが,原審は,家屋課税台帳の付表にあん分価格が記載され,
控訴人がこの付表のみを交付されたからといって,区分所有に係る家屋の専
有部分のあん分価格が地方税法432条1項にいう「固定資産課税台帳に登
録された価格」に該当することとなるものではないと判示するが,実質的な
理由の説明がなく,不当である。原審は,「区分所有に係る家屋の各部分を
個別に評価することは著しく困難である」というが,マンション出現後数十
年を経た今日では,各部分の評価の困難さはなくなった。
(3)原審は,地方税法341条12号の「区分所有に係る家屋」につき,区
分所有に係る家屋1棟全体のみを指すと解しているが,誤りである。
被控訴人の上記実務の慣行からすれば,「区分所有に係る家屋」とは,区
分所有に係る家屋の全部又は一部を指すものと解すべきである。
(4)原審は,控訴人が平成21年度家屋課税台帳として提出する甲第3号証
には,本件専有部分のあん分価格の記載はあるものの本件区分所有家屋の価
格の記載はないが,乙第3号証,第4号証の2によれば,甲第3号証は本件
区分所有家屋の家屋課税台帳の付表にすぎないと認めることができるし,甲
第4号証によれば,文京都税事務所長が控訴人に対して交付した同年度の固
定資産税及び都市計画税の課税明細書には,「価格」欄に本件区分所有家屋
の価格が記載されるとともに,同欄に記載された区分所有に係る家屋の価格
並びに「固定課税標準額」欄及び「都計課税標準額」欄に記載された専有部
分のあん分価格についての説明が記載されていると判示するが,甲第4号証
の「価格」欄に全体価格の記載があると判示した点は意味不明であるし,こ
の判示は不当である。
固定資産税は,固定資産の価格を課税標準として課されるものであるか
ら,甲第4号証の記載のうち,納税者にとって重要なのは,「固定課税標準
額」欄の金額であり,これに不満がある場合には,審査の申出が許されなけ
ればならない。原審は,地方税法が専有部分の価格を課税標準としていない
以上,これについて直接不服申立てができないとしてもやむを得ないといわ
ざるを得ないと判示するが,不当であり,文京都税事務所長が,控訴人に対
し,公文書である甲第4号証をもって,本件専有部分の価格が「固定課税標
準額」であると通告しているのであるから,これにつき,裁決行政庁に対
し,直接の不服申立てができて当然である。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の請求は,理由がないものと判断する。その理由は,後
記2のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第3の1及び2に
記載のとおりであるから,これを引用する。
2当審における控訴人の主張に対する判断
(1)控訴人は,区分所有に係る家屋の価格に不服があるときは,固定資産評
価審査委員会に審査の申出をすることができるが,あん分価格を含め上記の
価格以外の事項に不服があるときは,固定資産評価審査委員会に審査の申出
をすることはできず,固定資産税の賦課についての不服申立てにおいて不服
の理由とすることができるにとどまることとなるとする原審の判示が,納得
できないと主張する。
引用に係る原審の判断は明瞭であって間然するところがないが,念のた
め,説明を付加する。地方税法341条は,固定資産税に関する用語の意義
について定めており,「固定資産課税台帳」とは「土地課税台帳,土地補充
課税台帳,家屋課税台帳,家屋補充課税台帳及び償却資産課税台帳を総称す
る。」とされ(9号),そこでいう「家屋課税台帳」とは「登記簿に登記さ
れている家屋・・・について第381条第3項に規定する事項を登録した帳
簿をいう。」とされ(12号),そこでいう「登記簿に登記されている家
屋」は,区分所有に係る家屋の専有部分が登記簿に登記されている場合にお
いては,当該専有部分ではなく,「当該区分所有に係る家屋とする。」とさ
れている(同号括弧書)。同法の固定資産税に関する他の規定における用語
は,これらの定義によっているものであり,上記の意義どおりに解釈すべき
ものである。そうすると,同法432条1項が固定資産の納税者に固定資産
評価審査委員会に審査の申出をすることができるとしている「固定資産課税
台帳に登録された価格」というのも,区分所有に係る家屋の専有部分が登記
簿に登記されている場合においては,「当該区分所有に係る家屋について同
法381条3項に規定する事項を登録した帳簿に登録された価格」をいうこ
とになる。そして,同項は,「登記簿に登記されている家屋」について,
「当該家屋」の基準年度の価格又は比準価格を登録することとしているか
ら,「区分所有に係る家屋」の価格が,上記の「固定資産課税台帳に登録さ
れた価格」に当たるものであって,それ以外の解釈は上記定義規定に反する
ことになる。したがって,「区分所有に係る家屋の専有部分のあん分価格」
は,固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる「固定資産課
税台帳に登録された価格」には当たらない。そのことは,同法の規定上明ら
かであり,取扱いの慣行等を理由に別異に解することはできない。
(2)控訴人は,被控訴人の課税事務では,当該家屋の価格を各区分所有者の
有する専有部分の床面積の割合によってあん分することにより各専有部分ご
との価格相当額(あん分価格)を算出し,このあん分価格から各区分所有者
が納付すべき固定資産税の額を計算するという取扱いが行われてきたのであ
るから,区分所有に係る家屋の全体の価格だけでなく,その専有部分のあん
分価格も,地方税法432条1項にいう「固定資産税に係る固定資産につい
て固定資産課税台帳に登録された価格」に該当すると判断すべきであり,こ
れを否定した原審の判断には実質的な理由の説明がないと主張する。
しかし,地方税法の規定を原審の判示したとおりに解釈すべきであり,取
扱いの慣行等を理由に別異に解すべきでないことは,上記のとおりである。
また,原審は,同法が,区分所有に係る家屋の登録価格を課税標準として
算出された固定資産税額を所定の割合によってあん分した額を区分所有者の
当該家屋に係る固定資産税として納付する義務を負うとしているのは,区分
所有に係る家屋の各部分を個別に評価することは著しく困難である一方,区
分所有に係る家屋を全体としてみれば同法10条の2第1項の共有物に当た
るが,同項の規定により当該家屋に係る固定資産税額全額を各区分所有者が
連帯して納付する義務を負うことになるのは区分所有に係る家屋の実体にそ
ぐわないためであると解されるなどと,実質的な理由を説明をしているもの
である。なお,控訴人は,マンション出現後数十年を経た今日では,各部分
の評価の困難さはなくなったと主張するが,多数存在する区分所有建物の各
部分を,個別事情を考慮しつつ個々に評価することが困難であることは,明
らかである。
(3)控訴人は,原審は,地方税法341条12号の「区分所有に係る家屋」
につき,区分所有に係る家屋1棟全体のみを指すと解しているが,被控訴人
の実務の慣行からすれば,区分所有に係る家屋の全部又は一部を指すものと
解すべきであると主張する。
しかし,控訴人の主張は同号の文理に反するものであって,採用できな
い。
(4)控訴人は,文京都税事務所長が,控訴人に対し,公文書である甲第4号
証をもって,本件専有部分の価格が「固定課税標準額」であると通告してい
ることなどから,これにつき,裁決行政庁に対し,直接の不服申立てができ
て当然であると主張する。
しかし,甲第4号証のうち平成21年度固定資産税・都市計画税課税明細
書の「価格」欄には本件区分所有家屋の価格が,「固定課税標準額」欄には
本件専有部分のあん分価格が記載されており,誤解を招きやすいものという
べきではあるが,その意味については欄外に説明が記載されているものであ
るから,文京都税事務所長が,控訴人に対し,公文書である甲第4号証をも
って,本件専有部分の価格が固定資産税の課税標準額であると通告している
とはいえない。
(5)控訴人は,その他るる主張するが,原審の判断を左右するものとはいえ
ない。
3よって,原審の判断は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却
することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第2民事部
裁判長裁判官大橋寛明
裁判官川口代志子
裁判官佐久間政和

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