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       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金五〇九万六七三七円及びこれに対する昭和四五年三月
二九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 1項につき、仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
 主文同旨
第二 請求の原因
一 一手商品供給権侵害による損害賠償請求
1 原告は、雑貨品の輸出入を業とする会社であるところ、昭和三七年一一月二五
日、西ドイツ国ハンブルグ市<以下略>フエドラ合資会社ルドルフ・バウエル商会
(以下「フエドラ社」という。)との間において、マーキング・ペン等の取引に関
し、次のとおりの期間の定めのない継続的一手商品供給契約(以下、「本件契約」
といい、本件契約に基づく原告のフエドラ社に対する債権を「本件一手商品供給
権」という。)を締結した。
(一) フエドラ社は、原告から、本件マーキング・ペン(F22型捺染用インキ
及びその改造品)を、一回の船積み分として最低一二個入りのもの一万箱、年間最
低一〇万箱を購入する。
(二) フエドラ社は、日本から本件マーキング・ペンを輸入する場合は、原告の
みから購入すべく、他から購入してはならない義務を負う。
(三) 製造業者である訴外同和化学株式会社は、その製品である本件マーキン
グ・ペンにつき、原告に対して一手輸出権を与え、原告は、右訴外会社以外の者に
対して、本件マーキング・ペン及びその同種の製品の発注をしない。
(四) 原告は、本件契約の有効期間中は、西ドイツほか一三か国につき、フエド
ラ社以外の者に本件マーキング・ペンを輸出しない。
2 原告は、本件契約に基づき、フエドラ社に対して、本件マーキング・ペンを輸
出した。その昭和四一年度から昭和四三年度までの実績(ただし、昭和四三年度に
ついては、同年六月一八日受注分まで)は、別紙原告実績表記載のとおりである。
3 被告は、マーキング・ペンの製造販売を業とする会社であるところ、フエドラ
社と共謀のうえ、フエドラ社に本件マーキング・ペンを販売することが原告のフエ
ドラ社に対する本件契約に基づく本件一手商品供給権を侵害するものであることを
知りながら、フエドラ社に対して、昭和四三年八月一日から翌四四年一月三一日ま
での間に、本件マーキング・ペンを別紙被告販売表記載のとおり販売し、原告のフ
エドラ社に対する債権である本件一手商品供給権を侵害した。したがつて、被告
は、原告に対して、右侵害行為によつて原告が被つた損害を賠償すべき義務があ
る。
 原告が被つた損害は、次のとおりである。
(一) 逸失利益金六〇万三〇三七・五円
 原告がフエドラ社に本件マーキング・ペンを販売した場合の一ダース当りの純利
益は、別紙原告販売利益表記載のとおりであるから、原告が昭和四一年度及び昭和
四三年度に挙げた利益額は、別紙原告利益額計算表記載のとおりである。同計算表
記載の昭和四一年度の利益額金一〇七万八九一二・五円から昭和四三年度の利益額
金四七万五八七五円を控除した金六〇万三〇三七・五円は、被告が前述のとおりフ
エドラ社に対し本件マーキング・ペンを販売したため、原告がフエドラ社に同商品
を販売することができなくなつた結果、喪失した得べかりし利益である。
(二) 逸失利益金二一五万七八二五円
 原告は、フエドラ社から、昭和四三年六月ころ本件契約に基づく取引を中止され
たが、この取引中止は被告の前述の侵害行為によるものであるところ、それによ
り、昭和四四年及び昭和四五年に昭和四一年と同じ額である各金一〇七万八九一
二・五円の利益を挙げえたはずであるのに、これを喪失した。
(三) 手持商品及び仕掛品の価額金二六二万六七三七円
 原告は、フエドラ社との間の本件契約に基づき、訴外同和化学株式会社に対し、
本件マーキング・ペンの製造を発注してきたところ、前述の被告の侵害行為によ
り、手持商品及び仕掛品であるF22型金一〇四万五三三五円相当、F11型金二
六万〇六四三円相当、F11A型金一六万七七〇〇円相当及びF33型金一一五万
三〇五九円相当合計金二六二万六七三七円相当の本件マーキング・ペンが販売不可
能となり、同額の損害を被つた。これらの商品は、フエドラ社の仕様指図に基づく
ものであるから、フエドラ社において買取らない限り、他に販売して処分すること
が不可能なものである。
二 商標権侵害による損害賠償請求
1 原告は、次の商標権(以下、「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登
録商標」という。)の商標権者である。
出願日 昭和四一年四月二〇日
公告日 昭和四二年一〇月五日
登録日 昭和四三年四月二日
登録番号 第七七六八七二号
指定商品 第二五類 文房具類
商標 別添商標公報記載のとおり
2 被告は、その行為が本件商標権を侵害するものであることを知りながら、昭和
四三年八月一日から翌四四年一月三一日までの間に、文房具である本件マーキン
グ・ペンに「本件登録商標と全く同一の文字及び図形の結合からなる標章」(以
下、「被告標章」という。)を付して、別紙被告販売表記載のとおりフエドラ社に
販売(輸出)し、本件商標権を侵害した(なお、被告が、フエドラ社をして、本件
マーキング・ペンに被告標章を使用させるため、無商標包装の本件マーキング・ペ
ンと被告標章を表示したラベル及び化粧箱とを、各別にフエドラ社に販売するよう
になつたのは、昭和四四年六月以降のことである。)。したがつて、被告は、原告
に対して、右侵害行為によつて原告が被つた損害を賠償すべき義務がある。
 原告は、右損害の額として、被告が右侵害行為により得た利益の額を主張するも
のであるところ、右利益の額は、別紙原告販売利益表記載の利益額と同額の一ダー
ス当り利益額に、別紙被告販売表記載の販売個数を乗じた別紙被告利益額計算表記
載の額、すなわち総額金二八五万二六〇〇円である。
三 よつて、原告は、被告に対して、本件一手商品供給権侵害による損害金五三八
万七五九九・五円及び本件商標権侵害による損害金二八五万二六〇〇円の合計金八
二四万〇一九九・五円の内金五〇九万六七三七円(この内金額は、次の金額を選択
的に請求するものである。(一)本件一手商品供給権侵害による損害金の内金。
(二)右損害金の認容額が請求内金額に満たない場合、右認容額に本件商標権侵害
による損害金を請求内金額に満つるまで加算した額。(三)本件商標権侵害による
損害金に本件一手商品供給権侵害による損害金を請求内金額に満つるまで加算した
額。)及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四五年三月二九日から
支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第三 請求の原因に対する認否
一1 請求の原因一1のうち、原告が雑貨品の輸出入業者であることは認めるが、
その余の事実は知らない。
2 同一2は知らない。
3 同一3のうち、被告がマーキング・ペンの製造販売を業とする者であること、
被告とフエドラ社との間に取引があつたことは認めるが、その余の事実は否認す
る。
 被告とフエドラ社との間には、一般的かつ継続的な販売店契約ないしは代理店契
約が締結されたことはない。被告とフエドラ社との間の取引は、(一)フエドラ社
から被告に個々的な注文があり、(二)これに対し、被告からフエドラ社に見積書
を発し、(三)そのうえでフエドラ社から具体的な注文(輸出依頼)があるという
方法によるものである。被告は、原告とフエドラ社との関係をフエドラ社関係者そ
の他から知らされたことはなく、両者の関係を認識のうえ、フエドラ社と取引をし
たという事実はない。
二1 同二1は認める。
2 同二2は否認する。被告は、自社商品に被告標章を付して商品を販売したこと
はない。被告は、フエドラ社の指示により、指示どおりの標章をマーキング・ペン
に付して使用するため、同標章をラベルに印刷し、マーキング・ペンの輸出手続と
して財団法人日本輸出雑貨センターの認定を申請したことはあるが、その手続過程
で原告から異議が提起され、初めて本件商標権の存在及び右フエドラ社の指示にか
かる標章すなわち被告標章が本件登録商標と同一性を有することを知り、やむなく
右フエドラ社の指示にかかる標章の使用を中止し、無商標包装の商品と右フエドラ
社の指示にかかる標章を印刷したラベルとを各別にフエドラ社に輸出したことがあ
るにすぎない。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
一 一手商品供給権侵害による損害賠償請求について
 成立に争いのない甲第二三号証の一、二及び原告代表者【A】尋問の結果によれ
ば、昭和三七年一一月二五日、原告とフエドラ社との間に、本件契約(ただし、そ
の内容についてはしばらく措く。)が成立したことが認められ、これに反する証拠
はない。
 しかして、原告は、本件契約において、フエドラ社は、日本から本件マーキン
グ・ペンを輸入する場合は、原告のみから購入すべく他から購入してはならない義
務を負い、原告はこれに対応する債権すなわち本件一手商品供給権を取得した旨主
張し、原告代表者【A】尋問の結果中には、これに添う供述部分がある。
 しかしながら、前掲各証拠(ただし、原告代表者【A】尋問の結果については、
後記信用しない部分を除く。)によれば、同時に、本件契約書(甲第二三号証の
二)には、次の約定、すなわち
1 本件マーキング・ペンの製造業者である訴外同和化学株式会社は、昭和三七年
一〇月二三日付文書により、原告に対して、本件マーキング・ペンの一手輸出権を
与え、原告は、本件マーキング・ペン及びその同種の製品につき、他社に発注しな
いことに同意し、かつ、保証したこと、しかして、右製造業者は、昭和三七年一二
月一日から翌三八年一一月三〇日までの間、西ドイツほか一三か国の買付人に対し
ては、直接であると間接であるとを問わず、本件マーキング・ペン及びその同種の
製品を提供しないことにより、原告及びフエドラ社の利益を守ることに同意し、か
つ、保証したこと
2 以上の事実を考慮して、原告は、本件マーキング・ペンにつき、フエドラ社を
特約販売業者に指定し、フエドラ社はこれに同意したこと
3 前記約定期間は、フエドラ社をいかなる競争からも保護し、そうすることによ
つて、同社に対し、一船積みにつき少なくとも一二個入り一万箱、年間最低一〇万
箱の本件マーキング・ペンを売り捌くための市場を確保するのに必要であり、同期
間経過後は、そうすることにより、右製造業者に対して、ヨーロッパ市場への特定
の年間量を保証することができること
4 フエドラ社が、前記期間経過後、一二個入り一万箱、年間最低一〇万箱を保証
できない場合は、本契約は当然に効力を失い、それによつて、右製造業者及びもし
くは原告は、他の輸出業者及び他の買付人を通じて、本件マーキング・ペンの販売
を促進することができること、しかしながら、原告は、その時の状況により、一年
以上二年以下の期間本件契約を更新することができ、かかる更新の通告は、昭和三
八年一一月三〇日から四五日前に文書で行なうものとすること
5 原告が、昭和三八年一一月三〇日後最低一二個入り一万箱の船積みを保証し、
年間最低一〇万箱を購入するという義務を履行する場合には、本件契約は、いかな
る時期においても、原告及びもしくは右製造業者によつて破棄されえないこと
とする約定が記載されていることを認め得るところ、この約定に明らかなように、
製造業者たる同和化学株式会社の原告に対する一手商品供給権については明定され
ているにもかかわらず、原告のフエドラ社に対する本件一手商品供給権には全くふ
れるところがないことに鑑み、かつ、原告代表者【A】尋問における供述中には、
フエドラ社が本件マーキング・ペンを輸入する場合には原告のみから購入するもの
であつて、原告以外からは購入しないとの文言は本件契約書(前記甲第二三号証の
二)に記載されていない旨の供述部分があることをも斟酌すれば、原告代表者
【A】尋問の結果中原告の前記主張に添う部分は、にわかに信用できず、他に右主
張を認めるに足りる証拠はない。 そうすると、本件一手商品供給権の存在を前提
とする原告の請求は、進んでその余の点につき判断するまでもなく、理由がないも
のといわなければならない。
二 商標権侵害による損害賠償請求について
 原告が本件商標権の権利者であることは、当事者間に争いがない。
 しかしながら、本件全証拠によるも、被告が、原告の主張する昭和四三年八月一
日から翌四四年一月三一日までの間、本件マーキング・ペンに被告標章を付してフ
エドラ社に販売した事実を認めることはできない。もつとも、原告代表者【A】尋
問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二五号証、証人【B】の証言
及び被告代表者【C】尋問の結果並びにこれらにより真正に成立したものと認めら
れる乙第一ないし第二三号証によれば、被告は、前記期間中フエドラ社をして西ド
イツ国内において本件マーキング・ペンに被告標章を使用させるため、無商標包装
の本件マーキング・ペンと、被告標章を印刷したラベル及び化粧箱とを、各別にフ
エドラ社に輸出したことが認められるので、被告の右行為が原告の本件商標権を侵
害するか否かにつき検討するに、商標権者は、一般に、指定商品について登録商標
を使用する権利を専有するが、かかる商標権の効力はわが商標法の施行地域内に限
られるべきものであるから(いわゆる属地主義)、被告のわが国内における右行為
が、標章の「使用」に関する商標法第二条第三項掲記のいずれの行為態様にも該当
しない(ちなみに、同項第一号中「商品の包装に標章を附する行為」にいわゆる
「包装」とは、現に商品を包むことに使用されているものをいい、右認定のように
末だ実際に商品を包装するのに用いられていない包装(本件化粧箱、ラベルは右の
「包装」には含まれないと解するのが相当である。)以上、本件商標権を侵害する
ものといえない。
 次に、被告の前記行為が、商標法第三七条第四号中「指定商品について登録商標
の使用をさせるために登録商標を表示する物を譲渡し引き渡し又は譲渡若しくは引
渡のために所持する行為」又は同条第五号中「指定商品について登録商標の使用を
させるために登録商標を表示する物を製造する行為」として、商標権を侵害するも
のとみなされるべきか否かについても、前記属地主義の理念に照らせば、使用させ
ようとする他人がわが商標法施行地域外にある場合には、右各号の行為はいずれも
本件商標権を侵害する行為もしくはその予備的な行為ということはできず、これに
右各号の規定を適用すべきではないと解するのが相当であるから、被告の前記行為
は、本件商標権を侵害するものとみなされるものでもない。
 そうすると、本件商標権侵害を原因とする原告の損害賠償請求も、さらに判断を
進めるまでもなく、理由がないものといわなければならない。
三 よつて、原告の本訴請求は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟
法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 秋吉稔弘 佐久間重吉 安倉孝弘)

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