弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原決定を取り消す。
     相手方の異議申立を却下する。
         理    由
 抗告代理人は、「原決定を取り消す。相手方の本件異議申立を却下する。」との
裁判を求め、その理由として別紙抗告理由書記載のとおり主張した。
 本件競売申立事件(東京地方裁判所昭和三十一年(ケ)第七九三号)の記録及び
同記録編綴の登記簿謄本(同記録第三〇丁から第三八丁まで)、仮処分決定(同記
録第六二丁)によると、申請外Aは、昭和二十八年五月十二日競売事件債務者Bの
抗告人に対して負担する金三十万円の債務の担保のため、本件競売物件について抵
当権を設定し、翌十三日その旨の登記手続を経たこと、相手方CはA外四名を債務
者として昭和二十九年四月五日本件競売物件について、占有移転禁止及び処分禁止
の仮処分命令を得て、同月八日処分禁止の仮処分について登記手続を経たことが認
められる。不動産について処分禁止の仮処分がなされたときは、債務者がその後に
仮処分命令に反して所有権の移転その他の処分行為をなしても、当該仮処分債権者
に対抗し得ない効力を生ずるに過ぎず、右仮処分命令前になされた法律行為の効力
までも、左右するものではない。本件についてこれをみると、上記認定のように、
抗告人の取得した抵当権は相手方の仮処分命令よりも以前に設定、登記されている
のであるから、本件抵当権設定が仮処分債権者である相手方に対抗できないものと
は解することはできない。抵当権を実行する任意競売手続は、担保物件を処分して
金銭に換価するための手続であり、したがつて、それは処分行為に該当することは
もちろんであるが、抵当権は元来物件の交換価値を把握して、本来の債務の履行を
担保するものであるから、抵当権の設定行為には任意競売手続によつて、抵当物件
を処分換価されることを当然包含されているものであるから、抵当権が仮処分債権
者に対抗し得る以上、その換価処分もまた当然仮処分債権者に対抗し得るものとい
わなければならない。
 <要旨>原決定によれば、相手方の得た上記仮処分命令は、相手方が本件建物の敷
地の賃貸人として、その賃借人で本件建物の所有者であるAに対して賃貸借
契約を解除し、それを原因としての建物収去土地明渡請求権を被保全権利とするも
のであつて、右被保全権利は抵当権者である抗告人に対抗し得るものであるから、
その範囲では本件競売手続の競買から先の競売手続を停止せしむべきであるとして
いる。右のように賃貸地上の建物について抵当権が設定されたからといつて、その
土地の賃貸人が賃貸借契約を解除し得ないことになるわけではないから、その解除
が適法な場合には、賃貸人は賃借人に対しその建物を収去して其の土地の明渡しを
請求し得るのはもちろんである。しかしながら、そうだからといつて、原決定のい
うように、右仮処分債権者に対抗し得る抵当権者の抵当権の実行の一部でもこれを
停止または阻止し得る権利を有するものではない。右のような場合には、抵当権者
の申立による抵当権実行の手続と土地の賃貸人の建物収去土地明渡の請求とはそれ
ぞれ相排斥して両立し得ないものではなく、建物の競買人は、賃貸人のなした契約
解除が適法である場合には、その建物を収去しなければならない義務を承継しなけ
ればならないだけであるから、競売手続が停止されずに進行されたからといつて、
その敷地の賃貸人の権利をなにも害するものではない。従つて、相手方には抗告人
の申し立てた抵当権実行による競売手続をどんな段階でもこれを阻止して停止を求
める権利はなにも有しないといわなければならない。原決定は、右見解と異り相手
方に本件競売手続の停止を求める権利を有するとの解釈に立つて、相手方の執行方
法に対する異議を相当と認め、本件競売手続の停止を命じたものであるから失当で
あるといわなければならない。
 よつて、本件抗告は理由があるから、原決定を取消し、相手方の異議申立を却下
すべきものとし、主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 村松俊夫 裁判官 伊藤顕信 裁判官 小河八十次)

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