弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人ら敗訴部分を破棄し、第一審判決中上告人ら敗訴部分を
取り消す。
     上告人A1と被上告人との間において、同上告人が第一審判決別紙第一
目録(二)記載の土地につき建物の所有を目的とする地上権を有することを確認する。
     被上告人は、上告人らの右土地に対する占有使用を妨害してはならない。
     被上告人の上告人らに対する反訴請求を棄却する。
     訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人窪田澈の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 Dは、隣接する清瀬市a町b丁目c番一及びe番の二筆の土地にまたがる木
造平家建の本件建物をe番の土地とともに所有していたが、右建物は、未登記で大
部分がc番一の土地上に存在し、上告人A1の父であるE(以下「E」という。)
のため抵当権が設定されていた。
 2 Eは、右抵当権の実行により、昭和八年一二月一六日、本件建物を競落し、
e番の土地につき法定地上権(以下「本件地上権」という。)を取得したところ、
昭和九年三月七日、競売裁判所の嘱託に基づき、右建物についてE名義に所有権移
転登記(以下「本件旧登記」という。)が経由されたが、建物の所在地番はg番と
して表示されており、右地番と同一地番の土地が本件建物の所在地から道路を隔て
てかなり離れたところに存在していた。
 3 e番の土地は、その後同番f及び同番hに分筆され、同番fの土地のうち、
本件建物の敷地を成している第一審判決別紙第一目録(二)記載の部分(以下「本件
土地」という。)は、昭和九年八月四日DからFに、次いで昭和一一年一二月二二
日Gに順次譲渡され、それぞれ所有権移転登記が経由された。
 4 上告人A2は、昭和一六年にEから本件建物を賃借したのち、二階部分を増
築し、これに居住して現在に至つているが、この間、上告人A1において、昭和二
一年一二月二四日、家督相続により本件建物の所有権を取得して賃貸人の地位を承
継し、その後敷地のうちe番hの土地も取得した。
 5 本件建物については、前記のように所在地番の異なる登記がされているとこ
ろから、上告人A1は、右建物が登記済みであることを知らないで、昭和三三年七
月一一日、自己名義の所有権保存登記(以下「本件新登記」という。)を経由した
が、その際、建物の所在地番はc番イ、構造は木造平家建として表示された。
 6 被上告人は、昭和四二年四月二一日、Gの相続人であるHから本件土地を含
むe番fの土地を買い受け、その旨所有権移転登記を経由した。
 二 原審は、右事実関係のもとにおいて、本件旧登記は、建物の所在地番及び構
造の表示が本件建物の実際と相違し、それが建物の同一性を認識しうる程度に軽微
な相違であるとはいえず、また、本件新登記は、本件旧登記がその更正が可能であ
つて登記自体としては有効であるため、同一建物についてされた二重の保存登記と
してその効力を有しないばかりでなく、右新登記により被上告人が本件土地上に登
記された建物があることを当然に知りうべきであつたともいえないから、上告人A
1は、本件旧登記及び本件新登記のいずれをもつても本件土地上に昭和四一年法律
第九三号による改正前の建物保護に関する法律(以下「建物保護法」という。)一
条にいう登記した建物を有するものとはいえないとしたうえ、(1) 上告人A1に
おいて被上告人に対し本件土地につき建物所有を目的とする地上権を有することの
確認を求め、上告人らにおいて被上告人に対し右土地の占有使用の妨害禁止を求め
る本訴請求をいずれも棄却し、(2) 被上告人において上告人A1に対し建物収去
土地明渡及び損害金の支払を求め、上告人A2に対し建物退去土地明渡を求める反
訴請求のうち、各明渡請求の全部と損害金請求の一部を認容している。
 三 しかしながら、原審の右判断はたやすく是認することができない。その理由
は、次のとおりである。
 1 隣接する甲乙両土地上に存在する建物について抵当権が実行され、甲土地に
ついて建物競落人のため法定地上権が成立したときは、建物の登記上は乙土地の地
番だけが所在地番として表示されていても、右地上権は、建物保護法一条による対
抗力を有するところ(最高裁昭和四二年(オ)第六三〇号同四四年一一月一三日第
一小法廷判決・裁判集民事九七号二三七頁参照)、右建物の登記上、所在地番とし
て一筆の土地の地番が表示され、その所在地番及び構造が実際と相違している場合
であつても、右地番が建物の大部分の敷地である乙土地の地番と多少相違するにと
どまり、登記の表示全体において建物の同一性を認識できる程度の軽微な相違でた
やすく更正登記が可能であるときは、右と同様に解するのが相当である。けだし、
その対抗力を否定するとすれば、建物の一部取壊しという結果を招き、地上権者の
土地利用の保護に欠けるばかりでなく、土地を取得しようとする第三者は、現地を
検分して建物の所在を知り、ひいては建物の登記等によつて借地権の存在を推知し
うるのが通例であるから、地上権者が乙土地だけでなく甲土地上にも登記した建物
を有するものとされても、取引の安全を害することにはならず、建物保護法一条の
法意にもそうこととなるからである。
 これを本件についてみるに、前示の事実関係によれば、上告人A1は、被上告人
が本件土地を取得した昭和四二年四月当時、本件建物につきE名義の本件旧登記と
自己名義の本件新登記を経由していたことになるが、右建物は、本件土地を含むe
番fと同番h及びc番一の三筆の土地にまたがり、かつ、その大部分がc番一の土
地上に存在していたのに、本件旧登記上の所在地番はg番と表示され、しかもg番
と同一地番の土地が道路を隔ててかなり離れたところに存在し、上告人A1におい
ても、右登記の存在を認識していなかつたため本件新登記を経由したところ、これ
に表示された建物の所在地番及び構造も実際と相違していたが、c番イなる所在地
番の表示は本件建物の大部分の敷地の地番と元番を共通にしていた、というのであ
る(なお、本件記録中の本件新登記に係る登記簿謄本(乙第五号証)によれば、そ
の表題部の建物所在欄には地番として「c番壱」と記載された後に右「壱」が「イ」
と訂正され、かつ、表題部左上の所在地番欄には「c―一」と表示されていること
が明らかである。)。右事実関係のもとにおいては、本件新登記は、建物の所在地
番として一筆の土地の地番が表示され、その所在地番及び構造が実際と相違してい
ても、右地番が本件建物の大部分の敷地の地番と多少相違するにとどまり、登記の
表示全体において建物の同一性を認識できる程度の軽微な相違でたやすく更正登記
が可能であるといえるのに対し、本件旧登記にあつては、その表示と実際の相違が
本件建物の同一性を認識し得る程度に軽微であつて更正登記が可能であるとはいえ
ない上、右登記が経由された後の利害関係人が存在しないことは原審の確定すると
ころであるから、本件旧登記は本件建物を公示する効力を有しないものというべき
である。もつとも、原審の確定事実によれば、被上告人は、本件土地を含むe番f
の土地を買い受けたのち本件土地上に本件建物の一部が存在することをはじめて知
つたというのであるが、他方において、被上告人は、その買受に先立ち一四年間右
土地を賃借して同地上に引き続き居住しており、本件建物の敷地に関する実際の状
況を知つていたというのであつて、右事実に照らせば、本件土地上に本件新登記を
もつて登記された建物が存在することにつき被上告人の認識可能性があつたとはい
えないとする原審の判断は、にわかに首肯することはできない。
 2 そうすると、本件土地につき法定地上権を取得したEがその対抗要件を具備
しない間に、右土地の所有権が転々譲渡されその登記も経由されたが、被上告人が
右所有権を取得する前に、Eの相続人である上告人A1において本件建物につき所
有権保存登記を経由したことに帰するところ、このような場合には、上告人A1は、
本件地上権をもつて被上告人に対抗することができるものと解するのが相当である。
けだし、法定地上権は建物所有を目的とする地上権の一種であるから、Eは、その
取得した本件地上権をもつて右所有権保存登記前に本件土地の所有権を取得しその
登記を経由した者には対抗することができない関係にあつたが、地上権及びその対
抗要件の性質にかんがみると、そのことから当然に本件地上権が確定的に覆滅され
るとの効果を生ずるものではなく、その後更に右土地所有権を取得した者との関係
において右地上権の対抗要件を具備することも許容されるものというべきであつて、
上告人A1は、本件建物につき本件新登記を経由したのちの本件土地取得者である
被上告人に対する関係においては、右地上権を対抗しうるものといわざるをえない
からである。最高裁昭和三三年(オ)第八五八号同三六年一一月二四日第二小法廷
判決・民集一五巻一〇号二五五四頁は、具体的事案を異にし、本件に適切でない。
 四 以上の説示によれば、原審は、法令の解釈適用を誤つたものというべきであ
り、右違法が原判決中上告人ら敗訴部分に影響を及ぼすことは明らかであるから、
論旨は理由があり、右部分は破棄を免れない。そして、原審が確定した前示の事実
関係に照らすと、上告人らの本訴予備的請求はいずれも正当として認容し、被上告
人の反訴請求はいずれも失当として棄却すべきであるから、これと異なる第一審判
決中上告人ら敗訴部分(なお、上告人らの本訴主位的請求は原審において取り下げ
られた。)を取り消し、右のとおり各請求を認容又は棄却すべきものである。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長   島       敦
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    坂   上   壽   夫

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