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平成26年(行ウ)第15号信書発信禁止処分取消等請求事件
平成27年4月21日千葉地方裁判所民事第3部判決
口頭弁論終結日平成27年1月27日
主文
1千葉刑務所長が原告に対し平成25年11月21日付けでなしたDへの信
書の発信を禁止する処分を取り消す。
2被告は,原告に対し,5000円及びこれに対する平成25年11月21
日以降支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3原告のその余の請求を棄却する。
4訴訟費用はこれを4分し,その3を被告の負担とし,その余は原告の負担
とする。
事実及び理由
第1請求
1主文第1項と同旨
2被告は,原告に対し,50万円及びこれに対する平成25年11月21日以
降支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,千葉刑務所に収容中の受刑者である原告が,特定非営利活動法人Dに
対する信書の発信を処分行政庁である千葉刑務所長が禁止したこと(以下「本件
処分」という。)は違法であると主張して,本件処分の取消しを求めるととも
に,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料50万円の支払を求めた
事案である。
1前提事実等
(1)関係法令の定め
ア刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「法」とい
う。)126条
刑事施設の長は,受刑者(未決拘禁者としての地位を有するものを除く。
以下この目において同じ。)に対し,この目,第148条第3項又は次節
の規定により禁止される場合を除き,他の者との間で信書を発受すること
を許すものとする。
イ法127条
(ア)同条1項
刑事施設の長は,刑事施設の規律及び秩序の維持,受刑者の矯正処遇
の適切な実施その他の理由により必要があると認める場合には,その指
名する職員に,受刑者が発受する信書について,検査を行わせることが
できる。
(イ)同条2項
次に掲げる信書については,前項の検査は,これらの信書に該当する
ことを確認するために必要な限度において行うものとする。ただし,第
3号に掲げる信書について,刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生
ずるおそれがあると認めるべき特別の事情がある場合は,この限りでな
い。
一受刑者が国又は地方公共団体の機関から受ける信書
二受刑者が自己に対する刑事施設の長の措置その他自己が受けた処
遇に関し調査を行う国又は地方公共団体の機関に対して発する信書
三受刑者が自己に対する刑事施設の長の措置その他自己が受けた処
遇に関し弁護士法第三条第一項に規定する職務を遂行する弁護士(弁護
士法人を含む。以下この款において同じ。)との間で発受する信書
ウ法128条
刑事施設の長は,犯罪性のある者その他受刑者が信書を発受することに
より,刑事施設の規律及び秩序を害し,又は受刑者の矯正処遇の適切な実
施に支障を生ずるおそれがある者(受刑者の親族を除く。)については,
受刑者がその者との間で信書を発受することを禁止することができる。た
だし,婚姻関係の調整,訴訟の遂行,事業の維持その他の受刑者の身分上,
法律上又は業務上の重大な利害に係る用務の処理のため信書を発受する場
合は,この限りでない。
エ法129条
(ア)同条1項
刑事施設の長は,第127条の規定による検査の結果,受刑者が発受
する信書について,その全部又は一部が次の各号のいずれかに該当する
場合には,その発受を差し止め,又はその該当箇所を削除し,若しくは
抹消することができる。同条第2項各号に掲げる信書について,これら
の信書に該当することを確認する過程においてその全部又は一部が次の
各号のいずれかに該当することが判明した場合も,同様とする。
一暗号の使用その他の理由によって,刑事施設の職員が理解できな
い内容のものであるとき。
二発受によって,刑罰法令に触れることとなり,又は刑罰法令に触
れる結果を生ずるおそれがあるとき。
三発受によって,刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるお
それがあるとき。
四威迫にわたる記述又は明らかな虚偽の記述があるため,受信者を
著しく不安にさせ,又は受信者に損害を被らせるおそれがあるとき。
五受信者を著しく侮辱する記述があるとき。
六発受によって,受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるお
それがあるとき。
(イ)同条2項
前項の規定にかかわらず,受刑者が国又は地方公共団体の機関との間
で発受する信書であってその機関の権限に属する事項を含むもの及び受
刑者が弁護士との間で発受する信書であってその受刑者に係る弁護士法
第三条第一項に規定する弁護士の職務に属する事項を含むものについて
は,その発受の差止め又はその事項に係る部分の削除若しくは抹消は,
その部分の全部又は一部が前項第1号から第3号までのいずれかに該当
する場合に限り,これを行うことができる。
(2)当事者等
ア原告は,千葉刑務所に収容されている受刑者である。
イ被告は,千葉刑務所の運営主体である。
ウ本件処分に係る信書の相手方であるDは,平成24年4月にEが設立し,
本件処分当時は受刑者等の更生及び社会復帰支援等を目的とする任意団体
として活動しており,その後,平成26年5月23日に,刑事収容施設等
に収容されている人たちの更生改善・社会復帰に関する支援等を目的とし
て掲げた特定非営利活動法人として法人格を取得した。
Eは,設立当初からDの代表を務め,現在は理事長として活動をしてい
る。Dの理事には,Eへ協力する弁護士などが就任し,顧問や相談役とし
て司教,シスター,大学教授らもサポートをしている。Dには,現在,刑
事施設に収容されている被収容者の会員(以下「被収容者会員」とい
う。)が約400人程度と,被収容者でない会員がおり,文通支援者は1
50人余りいる。
Eは,実刑前科三犯を有し,直近では,わいせつ誘拐等の罪により懲役
9年の判決を受け,平成16年2月24日から平成23年12月30日ま
での間,岐阜刑務所において受刑し,同日出所した。
Dの主な活動は,被収容者との文通,被収容者の社会復帰後の支援など
であり,文通支援者は,Dを通して被収容者と文通している。文通におい
ては,更生に反することと個人情報に関する事項については書かないなど
のルールがあり,Dは,文通を希望する被収容者会員に対し,それに従う
ことの同意書の提出を求めている。
(3)原告の収容状況及び処遇要領等
ア収容に至る経過
原告は,平成5年7月26日,東京地方裁判所において,公務執行妨害
及び傷害の罪により,懲役2年,執行猶予4年の判決を受け,同判決は,
同年8月10日に確定した。その後,原告は,平成8年2月29日,仙台
地方裁判所において,現住建造物等放火及び殺人の罪により,無期懲役の
判決を受け,同判決は,同年9月20日に確定した。この判決の確定に伴
い,前者の確定判決の執行猶予が取り消された。
原告は,上記の各確定判決の懲役刑執行のため,平成8年12月11日
以降,現在に至るまで千葉刑務所に収容されている。
イ処遇要領
千葉刑務所長は,原告に対する矯正処遇の目標として,①本件に至った
自らの性格や性格上の問題点を考える,②人の尊い命を奪った罪の重さを
自覚し,日々真しに受刑し,しょく罪に努める,③自制的に振舞い,周囲
から是認される生活を送る,と定め,この目標を達成するために,被害者
の視点を取り入れた教育を行っている。
(4)本件処分に係る信書の発信に至るまでの経過
ア平成24年10月18日,Fの事務局Gから,原告でない千葉刑務所収
容中受刑者A宛の信書が千葉刑務所に到達した。
この信書には「刑務所の受刑者A(削除されているが,受刑者Aである
ことは争いがないため,以下この表記とする。)さんがきびしい中で続け
られるように皆でお祈りしていきます。Hさんのペンネーム運営委員○○
(削除されている)でいいのでしょうか。10月末で原稿を〆切ります。
受刑者Aさんの案がありましたらお知らせください。」と記載されていた。
また,この信書には,東京拘置所の検印が押印され,「私へのHさんから
の手紙です。」と付記された便せん1枚が同封されていた。同便せんには,
「受刑者Aさんの和解への表記名を私たちで決めましょう。私の案として
は,(運営委員○○)。Eさんの案ありますか。」,「受刑者Aさんの提
案は,運委就任決定をしてから,受刑者Aさんにこのプロジェクトリーダ
ーをやってもらおうと思います。」という記載があった。
上記の信書に記載されたHとは,強盗致死等の罪により死刑判決を受け,
東京拘置所に収容されているHであり,この当時は上告中であった。千葉
刑務所は,発信者であるGを介し,受刑者Aとの意思疎通を図るものであ
ると認めたことから,千葉刑務所の書信係は,Fの実情を調査したところ,
Fとは,昭和55年にIとして結成され,現在は,Jが事務局とされてお
り,刑事施設に収容されている被収容者が被収容者会員として加入してい
ることが判明した。
イEは,平成24年9月7日以降,Hと面会や信書の発受を行っていたと
ころ,同年11月12日,Hと面会し,Eが「法務副大臣の写真を載せて,
全国の受刑者に送って現状報告をするので,送りたいと考えていて」
「『F』とか『D』という名を出してきて」「代表の名前だけだと,岐阜
刑は入らないので先生の名前で入れるので,写真は抹消しないように言っ
てあります」などと話し,Hが「そうですか」と応じる会話があった。
ウ同年12月11日,F事務局から原告宛の信書が千葉刑務所に到達した。
この信書には,「幼子イエスさまのお誕生日おめでとうございます」な
どと記載したカードと,D代表Eから収容者の皆様へというパンフレット
1部が同封されていた。
千葉刑務所長は,上記アの事情から,Fと原告との信書の発受を認める
ことは,Fの代表であるHや他の刑事施設の被収容者である被収容者会員
との交流を認めることとなり,原告の矯正処遇の目標に反することとなり,
矯正処遇の適切な実施に支障が生じるおそれがあると認められる上,本件
各信書の内容が,法128条ただし書にも該当しないというほか,D代表
Eが受刑を繰り返している者であることが判明したことなどから,同月1
8日,法128条に基づき,この信書について原告及びF事務局間の信書
発受禁止処分をした。
なお,同様のパンフレットが千葉刑務所収容中の他の受刑者14名にも
届いている。
(5)本件処分
原告は,平成25年11月18日,D宛てに本件信書の発信を申請した。
ア本件信書には,「自分の犯した過ちにより無期懲役刑となり千葉刑務所
に入所してから約16年となりましたが,社会時代の不徳から人との繋が
りが薄く,また父との不仲,数年前の母の他界と社会との繋がりが無くな
り孤独と無気力な日々の中,貴会様のご活動のことを知りまして,どの様
なご支援活動等ご活躍されておられますのかご教示願いたくお手紙いたし
た次第です。」などの記載があった。
イ千葉刑務所副看守長は,DとはEが代表を務める団体であって,Eは平
成23年12月30日に刑務所を出所した,過去に受刑を繰り返している
者であることから「犯罪性のある者」に該当し,また,Hが代表を務める
団体であるF事務局から原告に宛てた信書にEから収容者の皆様へという
パンフレットが同封されていたり,Hの面会表及び書信表によれば,Eを
含むD関係者がHと積極的に面会及び信書の発受を行っていることを踏ま
えると,「犯罪性のある者」であるE及び同人が代表を務めるDは,「犯
罪性のある者」であるH及び同人が代表を務めるFとつながりを有してい
ると認めた。
そこで,副看守長は,E及び同人が代表を務めるDが,法128条に規
定する者に該当するものと認めたことから,平成25年11月19日,
「『被収容者外部交通規程』を定めることについて」(平成24年千葉刑
務所達示第8号)29条の規定に基づき,原告に対し,本件信書の発信に
ついて再考するよう指導したが,原告は,同指導に応じることなく,原状
どおりでの発信を希望した。
ウそこで,千葉刑務所長は,平成25年11月21日,法128条に基づ
き,本件信書について原告のDに対する信書の発信禁止処分をした。
その理由は,Dの代表がEであり,同人は,平成8年2月2日から平成
13年11月9日までの間,府中刑務所(満期釈放)で受刑し,平成16
年2月24日から平成23年12月30日までの間,岐阜刑務所(満期釈
放)で受刑するなどし,過去に受刑を繰り返している者であり,「信書の
発受により,受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある
者」と認められ,現段階においては,Eが代表を務めるDと原告との信書
の発受を認めることは,原告の矯正処遇の適切な実施に支障を生じるおそ
れがあると認められる上,本件信書の内容は法128条ただし書にも該当
しない,というものであった。
3争点及びこれに対する当事者の主張
本件の主たる争点は,本件処分の適法性であり,具体的には,法128条の
要件該当性である。
(1)被告の主張
本件処分は,以下のとおり,法128条に基づく適法な処分である。
アEは法128条に規定する「犯罪性のある者」に該当し,本件信書はD
ことEに発信されたものと評価できること
(ア)Eは,性犯罪による実刑前科3犯を有し,直近では,わいせつ目
的誘拐等の罪により懲役9年の判決を受け,岐阜刑務所において,平成
16年2月24日から平成23年12月30日まで受刑した者である。
これらの事件の内容等に加え,Eが,岐阜刑務所において上記の罪に
よる受刑中,合計14回もの懲罰を科せられていることにも照らすと,
Eは,犯罪傾向が極めて顕著で,改善更生の意欲が希薄であるといえ,
また,NPO法人役員等の欠格事由等(禁固以上の刑の執行を終わった
日から2年を経過しない者)の趣旨をも併せ考慮すると,本件処分時に
おいて,Eは法128条に規定する「犯罪性のある者」に該当する。
なお,原告は,Eに科せられた懲罰は,専らEの正義感から正当な要
求を行ったためである旨主張する。しかし,懲罰は14件であり,うち
11件は,工場での作業拒否によるもので,その他の懲罰も他の被収容
者と口論を行ったことなどによるものであって,専ら正義感から正当な
要求を行ったとは到底いえず,かえって,Eの改善更生への意欲が希薄
であったことを裏付けるものというべきである。
(イ)本件処分時において,Dを設立したEが代表を務めていたこと,
D代表E名義に係るパンフレットがF事務局から原告宛の信書に同封さ
れていたこと,受刑者(未決者)の出所時は代表であるEが現地に出向
き面談を行い今後の方向性について話合いをすることを活動内容の一つ
として掲げていたこと,本件信書の内容はDの活動内容を問い合わせる
ものであったこと,法人格取得前に作成されたDの定款によれば,設立
当初からEが理事長とされ,理事長はDを代表し,その業務を総理し,
事務局長及び職員の任免を行うなどとされていることなどからすれば,
本件処分時において,Eが理事長と同程度以上の権限を有し,実質的な
影響力は大きかったといえるから,実質的にみて,本件信書は,Dこと
Eに発信されたものと評価できる。
(ウ)以上のとおり,Eが法128条に規定する「犯罪性のある者」に
該当し,原告とEとの交流を遮断する必要が認められるところ,本件信
書はDことEに発信されたものと評価できる。
イ上記アの点をおくとしても,E及びDは,法128条に規定する「信書
を発受することにより,受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるお
それがある者」に該当すること
(ア)FのHは,死刑確定者であり,法128条に規定する「犯罪性の
ある者」に該当するところ,F事務局が,Gを介し,受刑者A宛の信書
にHからの便せん1枚を同封していたことや,その信書の内容,GがH
と面会した際に「犯罪性のある者」であるKについて話していること,
F事務局は熊本刑務所受刑中の受刑者B及び岐阜刑務所収容中の受刑者
Cからの信書をHに転送していることなどから,Fの活動の実体は,通
常,外部交通が認められないHをはじめとする刑事施設に収容されてい
る受刑者同士の意思疎通を図る脱法的手段となっている。
(イ)そして,EがHと積極的に面会及び信書の発受を行っていたこと,
Hが代表を務めるFから原告宛の信書にEから収容者(被拘禁者)の皆
様へというパンフレットが同封されていたこと,Dの理事及び相談役で
あるL及びMがGとともにHと積極的に面会や信書の発受を行っていた
ことなどからすれば,EとF関係者には密接な関係が存しており,Fと
Dも密接な関係にある。そうすると,原告とE及びDとの信書の発受を
認めることは,E又はDを介して,「犯罪性のある者」であるHや他の
受刑者との間での交流が行われることとなり,法128条の趣旨を潜脱
する。
(ウ)また,Dが奨励する文通の仲介は,受刑者の相手方となる者につ
き特段の身分確認を要せず,相手方は住所・氏名を偽りつつ文通制度を
利用することが可能であって,適正な外部交通を潜脱するものである。
(エ)以上のとおり,Dの文通制度は,受刑者の適正な処遇にとって多
分に支障を生ずるおそれがあることは明らかであって,かかる文通制度
の利用を受刑者に積極的に働きかけているDや同制度に賛同する文通の
相手方等の関係者は,法128条に規定する「信書を発受することによ
り,受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者」に
該当する。
ウE及びDとの信書の発受により,受刑者の改善,更生の点において放置
することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があり,その制限は
必要かつ合理的な範囲内のものであること
(ア)千葉刑務所長は,前記前提事実(3)イのとおり,原告に対する
矯正処遇の目標を定め,この処遇目標を達成するために,被害者の視点
を取り入れた同教科改善に厳しく取り組んでいる。
原告は,現住建造物等放火,殺人の罪で無期懲役に処された長期受刑
者であるところ,その内容は,交際中であった女性が原告との交際を絶
とうと決意していると思い込んで憎悪し,同女らが居住している家に火
をつけて全焼させた上,同女とその実弟を殺害したというものであって,
その犯行態様や動機等に照らせば,原告の粗暴的性格は相当根深いもの
があるといえ,その矯正処遇には相当の困難を伴うものであり,長期間
にわたる矯正教育を施す必要がある。EないしDとの交流を増やすこと
は,「犯罪性のある者」であるEとの交流を持つことで,同人らに対す
る安易な精神的安寧を期待し,これに傾注するによって,矯正教育から
の逃避を促すもので,矯正教育の実を挙げることが困難となる。
したがって,原告とE及びDとの間の信書の発受を許せば,原告の改
善,更生の点において放置することのできない程度の障害が生ずる相当
の蓋然性が認められるというべきであり,原告の矯正処遇上,好ましく
ない関係として遮断する必要があるから,本件処分は上記障害発生防止
のために必要かつ合理的な範囲内にとどまるものである。
(イ)法128条と法129条は,異なる観点からの規制であって,適
用場面を異にするから,法128条の措置の適法性の判断に先立ち,法
129条の措置によることを検討しなければならないとする論理的必要
性はない。
(ウ)また,千葉刑務所は,重大犯罪を犯した長期受刑者を収容するい
わゆるLA指標施設である。本来禁止されるべき「犯罪性のある者」と
の外部交通が,仲介者を通じて許可されたとの情報が,同刑務所の受刑
者で伝播した場合,原告以外の多数の受刑者も同様の方法で本来禁止さ
れるべき上記の外部交通を試みることが考えられ,その影響は長年にわ
たって継続し,施設全体に波及していくことから,適切な矯正処遇の実
施及び所内の規律及び秩序の維持が非常に困難となるという特殊性があ
る。
(2)原告の主張
Dとの信書の発受は,以下のとおり,法128条の要件を満たさない。
アEが「犯罪性のある者」には該当せず,また,本件信書は,E個人では
なくDに宛てられたものと評価すべきであること
(ア)Eは,直近前科の受刑中にキリスト教の信仰を深め,平成23年
12月30日に岐阜刑務所を出所後,キリスト教の教えに従って受刑者
の更生支援の活動を行うことを決意し,平成24年4月に任意団体とし
てDを立ち上げた。
D設立後,Eは,代表者として,文通等の手配による受刑者の更生支
援,大学等における講演,法務副大臣と面談するなどして受刑者の更生
支援の必要性を訴える活動を行うとともに,キリスト教の洗礼を受ける
などして信仰を深めているほか,震災被害の支援等,種々のボランティ
ア活動も行い,平成25年10月に結婚もして健全な社会生活の基盤を
築いている。
このように,Eは,本件処分当時,十分に更生しており,再犯のおそ
れがないことは明らかである。前科の存在のみから,Eの再犯可能性を
強調するのは妥当ではなく,本件処分の時点において,Eと原告との信
書の発受を禁止すべき実質的根拠は認められない。
したがって,Eは,「犯罪性のある者」には該当しない。
なお,Eが岐阜刑務所収容中に懲罰を科されたが,それは専ら正義感
から正当な要求を行ったためであり,更生に反するような行動を取った
わけではない。被告が提出した証拠から明らかになるのは懲罰の内容と
その直接の根拠となった理由のみであり,Eの要求の正当性や改善更生
への意欲について判断することはできない。
(イ)EがDの代表を務めており,中心的な役割を果たしているからと
いって,直ちにEとDを同視するのは短絡的な議論である。
本件処分当時,Dは,少なくとも20名以上の文通ボランティアがお
り,Dとしての住所及び電話番号が公開されていたほか,年会費や寄付
金等を得て,団体としての実質を有しており,Eとは別個の存在であっ
た。
さらに,本件信書の内容は,Dの活動内容を教えてほしいと依頼する
ものであり,E個人に宛てたものでなく,Dという団体に宛てられたも
のである。
(ウ)以上のとおり,Eは法128条に規定する「犯罪性のある者」に
該当しない上,本件信書は,E個人ではなくDに発信されたものである。
イDは「信書を発受することにより,受刑者の矯正処遇の適切な実施に支
障を生ずるおそれがある者」に該当しないこと
(ア)Dの活動内容は,受刑者の更生を支援するものであるから,刑事
施設の規律や秩序の維持に資することはあっても,それらを害するとは
考えられない。
被告は,DとFに密接な関係がある旨主張する。しかし,DとFは,
受刑者の更生支援という同様の目的を有してはいるが,被告が主張する
ような密接な関係はない。
また,Fは,キリスト教の思想に基づき,受刑者の更生支援に真摯に
取り組んでいる団体であり,Fによる受刑者との文通活動も,一定のル
ールの下,受刑者の更生支援のために行われており,被告が主張するよ
うな受刑者同士の意思疎通を図る脱法的手段という側面はない。
(イ)被告が指摘するEとHとの面会でのやりとりは,更生支援活動に
関する内容が中心であり,前提が誤っている。また,Fから原告宛の信
書にDのパンフレットが同封されていたのは,Dの活動を広く受刑者に
知らしめるためであり,特定の受刑者に向けて行われていたわけではな
い。
(ウ)千葉刑務所が信書の発受の相手方に関して受刑者に届出を求めて
いる事項のうち,Dの文通制度で明らかにならないのは,生年月日及び
住所に限られると解されるが,これらについて千葉刑務所がDへ問い合
わせることは可能である。また,文通制度を利用する場合と利用しない
場合とを比べて,受刑者が虚偽の申告をするおそれに違いはないと考え
られる。
被告が主張する文通制度の弊害は抽象的であり,根拠を欠いている。
(エ)以上によれば,Dは法128条に規定する「信書を発受すること
により,受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある
者」に該当しない。
ウDとの信書の発受により,受刑者の改善,更生の点において放置するこ
とのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があるとはいえず,その制
限は必要かつ合理的な範囲を超えたものであること
(ア)上記アのとおり,D自体が「犯罪性のある者」に該当するとはい
えず,その活動内容に照らせば,むしろ,矯正処遇の適切な実施に資す
ることはあっても,それを妨げることはないというべきである。
(イ)仮に,原告とDとの間の信書の発受をすることにより被告が主張
するような障害が生じ得るとしても,その場合には法129条に基づき
信書毎に措置することによって防ぐことが可能であるから,法128条
に基づく本件処分は,目的との関係で行き過ぎた手段である。よって,
本件処分は必要性を欠いている。
第3当裁判所の判断
1法128条の解釈・適用に関する基本的な考え方
法126条は,個々の規定により禁止される場合を除き,受刑者が他の者と
の間で信書を発受することを許しているところ,法128条は,この例外の1
つとして,犯罪性のある者その他受刑者が信書を発受することにより,刑事施
設の規律及び秩序を害し,又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずる
おそれがある者との信書の発受を禁止することができる旨規定している。
ここで,表現の自由を保障した憲法21条の規定の趣旨,目的にかんがみる
と,受刑者とその親族でない者との信書の発受は,受刑者の性向,行状,刑務
所内の管理,保安の状況,当該信書の内容その他の具体的状況の下で,これを
許すことにより,刑務所内の規律及び秩序の維持,受刑者の身柄の確保,受刑
者の改善,更生の点において放置することのできない程度の障害が生ずる相当
の蓋然性があると認められる場合に限って,これを制限することが許されるも
のというべきであり,その場合においても,その制限の程度は,上記の障害の
発生防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるものであることを要する。
もっとも,受刑者の改善,更生の点において放置することのできない程度の
障害が生じる相当の蓋然性が存するかどうか,及びこれを防止するためにどの
ような内容,程度の制限措置が必要と認められるかについては,刑事施設内の
諸事情に通暁し,直接その衝にあたる刑事施設の長による個々の場合の具体的
状況の下における裁量的判断にまつべき点が少なくないから,障害発生の相当
の蓋然性があるとした刑事施設の長の認定に合理的根拠があり,その防止のた
めに当該制限措置が必要であるとした判断に合理性が認められる限り,刑事施
設の長の当該措置は適法として是認すべきものと解される(最高裁判所昭和5
8年6月22日大法廷判決・民集37巻5号793頁,最高裁判所平成18年
3月23日第一小法廷判決・集民219号947頁参照)。
したがって,法128条の解釈・適用もこの基本的な考え方を踏まえて行わ
れるべきである。
2判断枠組み
(1)前記前提事実(5)ウのとおり,千葉刑務所長は,本件信書の発信は,
上記の法128条が規定する者との信書の発受に該当すると判断して,同条
に基づき本件処分をした。
ここで,前記1の基本的な考え方を踏まえると,同条にいう「犯罪性のあ
る者その他受刑者が信書を発受することにより,刑事施設の規律及び秩序を
害し,又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者」
とは,犯罪を犯す傾向を有している者など当該受刑者がその者と信書の発受
という方法で交流すること自体により(すなわち,その信書の内容如何にか
かわらず),刑事施設の規律秩序を害し,又は矯正処遇の適切な実施に放置
することのできない程度の支障を生ずる相当の蓋然性がある者をいうと解す
るのが相当である。
そして,千葉刑務所長の上記判断が適法か否かは,原告との関係でEない
しDが上記のような者に該当するとした判断が合理的な根拠に基づくか否か,
そして,Dとの信書の発受を禁止する必要があるとした判断に合理性がある
か否かという観点から判断すべきことになる。
(2)本件処分の適法性の有無
ア本件処分理由は,前記前提事実(5)ウのとおりであり,法128条該
当性に関する主要な争点は,本件信書がE(DことE)に宛てられたもの
で,Eが「犯罪性のある者」といえるか否か,Dとの信書の発受を認める
ことは,その被収容者の会員やFの代表者Hや他の受刑者との交流を認め
ることとなり,原告の矯正処遇に放置することのできない程度の支障を生
じる相当の蓋然性があるか否かという点にある。
イ上記の点を判断する前提として,原告の当時の矯正処遇の状況を見る。
原告に対しては,平成8年12月11日以降,千葉刑務所において,前
記前提事実(3)イのとおりの処遇目標が掲げられ,矯正教育が施されて
きたものである。その後,原告は,平成15年10月24日に物品の不正
使用等を理由として叱責,平成16年8月26日に他の被収容者に対する
暴行を理由として軽屏禁及び文書図画閲覧禁止,平成17年9月20日に
不正洗髪を理由として軽屏禁及び文書図画閲覧禁止の各懲罰を科された。
その後も,平成22年3月23日に正当な理由のない出役拒否を理由とし
て閉居7日,平成23年10月6日に自殺未遂を理由として閉居10日,
平成24年12月17日に他の被収容者に対する粗暴な言動等を理由とし
て閉居20日の各懲罰を科されている。
ウ以上を前提に,千葉刑務所長の本件処分に合理的根拠があるか否かを検
討する。
前提事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,Eは,本件処分当時,Dの
代表として中心的な役割を果たしており,D宛の信書はEに届くようにな
っていたこと,Eは,性犯罪による実刑三犯を有し,直近では,わいせつ
目的誘拐等の罪により懲役9年の判決を受け,岐阜刑務所において,平成
16年2月24日から平成23年12月30日まで受刑していたこと,E
は,岐阜刑務所での受刑中,工場での作業拒否などにより14回の懲罰を
科せられていたこと,Eは,上記各犯罪について,判決の結果を受け入れ
ていないところがあるほか,その被害者から請求を受けていないこともあ
り,被害弁償等,具体的な慰謝の措置を講じていないこと,Eは,死刑判
決を受け上告中であったHと面会や信書の発受を行っており,Eが法務副
大臣と面談した際に撮った写真を載せて,全国の受刑者に送って現状報告
をするための文書について,「代表の名前だけだと,岐阜刑は入らないの
で」などの話をしたことがあったこと,Dの理事であるLと相談役である
Mは,Hと面会等をしており,Mは,平成24年3月22日,Hから「確
定したら,面会と手紙の発信ができなくなるのが心配ですね。だから,今
の内に連絡を取れる人を作っておかないとね」という話に「そうですね。
大変ですね。では事務局で話してみますね。」と話したことがあったこと
(ただし,この時点では,Dは未だ設立されていない。),Fから原告に
対する信書に,D代表Eからのパンフレットが同封されていたことなどが
認められる。
他方で,本件信書の内容は,Dに対し,受刑者に対する支援活動の内容
を教えてほしいと依頼するもので,E個人に対する連絡ではないこと,E
は,受刑中の体験やキリスト教信者との交流などを踏まえて,受刑者の外
部交通を通じた更生改善に関心を持ち,出所後の平成24年4月8日,D
を設立して更生支援活動を始め,平成26年5月にDが特定非営利活動法
人になった後はその理事長になっていること(Dには,弁護士や大学教授
も理事や顧問として参加している。),Dの主な活動は,被収容者への文
通等を通じた被収容者の改善更生や社会復帰支援であり,Eは,大学や教
会での講演活動なども行っていること,Dの上記活動に賛同して文通ボラ
ンティアとして参加している者は平成25年10月時点で少なくとも20
名以上,現在では約90名おり,それらの者に犯罪性はないこと(犯罪性
があることを窺わせる証拠はない。),Dの文通は,更生に反することや
個人情報に関する事項は文通の内容としない,相手方の住所などの連絡先
を尋ねることはできない,金銭や物品の要求は禁じるなどのルールの下行
われていること,Eは,岐阜刑務所出所後,何らの犯罪を犯していないこ
と,EがHと面会等をしていたのは平成25年1月頃までであり,Hとは
考え方が違う(Eはキリスト教を通じた更生支援を中心に考えているのに
対し,Hは死刑廃止を中心に考えていることが窺われる。)として,その
後は面会をしていないことなども認められる。
エ(ア)以上を踏まえて判断するに,まず,本件信書は,Dに対する依頼
文書ではあるが,EはDの中心として活動しており,被収容者からDに
送られた文書はEの下に届くことになっていたことからすれば,少なく
とも法128条の適用を検討する上では,本件信書をDことE宛のもの
と解するのが相当である。
(イ)そこで,Eが「犯罪性のある者」,すなわち犯罪を犯す傾向が
ある者といえるか否かを検討する。
前記のとおり,Eには,長期の受刑歴や受刑中の懲罰歴がある。し
かし,Eが,キリスト教の教えに触れたことを契機に被収容者の更生
支援活動に関心を持ち,岐阜刑務所出所後,Dを設立して更生支援活
動を始め,キリスト教,教育,行政等の各関係者に働きかけるなどし
て,その活動の輪を広げ,文通を通じた上記活動を中心に,継続的に
行ってきたこと,そして,出所後本件処分までの約2年間,何らの犯
罪も犯していないことからすれば,本件処分当時,犯罪を犯す傾向を
有している者であったと認めるに足りる合理的根拠があるとはいえな
い。Eは,現時点においても,有罪の結果を受け入れていない点や被
害者に対する慰謝の措置を講じていないなどの点もあり,また,矯正
処遇の在り方について,現状に批判的な意見を有していることは認め
られるが,いずれもEの犯罪性に直接関連するものではなく,上記判
断を左右しない(なお,原告の矯正処遇に放置できない程度の支障を
生じる相当の蓋然性を根拠づけるものともいえない。)。
オ(ア)被告は,DとFが密接な関係にあること,Fが受刑者と「犯罪
性のある者」との交流を図るための脱法的手段であることを前提に,D
との信書の発受は,EないしDを介して,「犯罪性のある者」であるH
や他の受刑者との交流が行われることから,原告の矯正処遇に支障を生
じさせるおそれがあるとも主張する。
しかし,DとFは,目的を共通にする点もあることから,それぞれの
思わくの中で,一定の協力を求めることがあることは窺われるものの,
それ以上の密接な関係にあるとはいえず,実際,本件処分時においては,
EがHに面会に行くこともなくなっている。また,次のとおり,Fが受
刑者と「犯罪性のある者」との交流を図るための脱法的手段であると認
めることもできない。
前提事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,Fの代表者であるHは死
刑確定者であり,Fには被収容者の会員(以下「被収容者会員」とい
う。)が300人以上いること,Gから受刑者A宛の信書の中にHのG
宛の手紙が同封されていたことがあったこと(前記1前提事実等
(4)),F事務局は熊本刑務所受刑中の受刑者B及び岐阜刑務所収容
中の受刑者Cからの信書をHに転送したことがあったこと,GがHと面
会した際,受刑歴のあるKについて話したことがあったことなどの事実
が認められる。しかし,他方で,Fは,ボランティアスタッフとの文通,
面会及び会報「和解」の発行を通じて,被収容者の改善更生や社会復帰
を支援する活動を行っていること,Fの会員には,被収容者ではない一
般会員が約250人以上いるほか,事務局や被収容者会員との文通を行
うボランティアスタッフが約80人おり,それらの者に犯罪性があると
は認められないこと,被収容者とFのボランティアスタッフとの文通は,
更生に反することや個人情報に関することを書いてはいけないことなど
のルールを設定して行われていること,F事務局によってHに転送され
た受刑者B及び同Cの上記各信書は,H宛に発信された書籍ないし会報
のお礼とFへの入会希望であり,また,当時のHは未決勾留中であり,
法128条の規定の適用はなかったこと,そして,東京拘置所も発信者
が受刑者B及び同Cであり,Fから転送されたものであることやその内
容を把握した上で受信を許可していること,GとHは,面会において,
主にFの運営について話をしており,Kの話題が出たのは,FがKの出
所後の更生支援に関わっていたためであり,その話の内容も,Kが岐阜
刑務所内の受刑者に手紙を出したが届かなかったことを伝えたものにす
ぎないこと,Fの会報「和解」には,被収容者である会員から多くの投
稿がされているが,ペンネームで掲載され,他の被収容者に対する個人
的な私信は掲載されておらず,その内容は基本的には被収容者自身の反
省や更生に向けた決意を表明するものであることなどの事実も認められ
る。
このように,Fの代表者Hは死刑確定者であるが,Fの文通制度は,
一定のルールの下,犯罪性のない事務局員やボランティアスタッフによ
って実施されており,Hが個々の文通に関与するものではない。上記の
とおり,事務局やGの行為に一部不用意なものがあったことは確かであ
るが,Fが事務局員やボランティアスタッフを通じて行ってきた多数の
信書のやり取りの中で見れば,ごく一部で生じたものにすぎない。また,
F事務局のGとHとの間でKのことが話題に出た理由は上記のとおりで
あり,その会話内容に照らしてもHとKとの意思疎通を図ったものとは
認められない。
したがって,Fが本来外部交通が許されない受刑者と「犯罪性のある
者」との交流を図るための脱法的手段であると認めることはできず,他
にこれを認めるに足りる証拠はない。
このように,DとFとの関係からも,Fの犯罪性からも,本件処分時
点で,原告とDとの信書の発受が,Fという脱法的手段を通じて,その
代表者HやFの被収容者会員との交流につながる蓋然性があるとはいえ
ない。なお,本件信書は,Dに対し,その支援内容の教示を依頼するも
のであり,信書の内容に照らしても,F関係者との意思疎通を図ろうと
したものでないことは明らかで,上記交流につながるとは考え難い。
(イ)被告は,Dの文通制度は,受刑者の相手方となる者が,住所・氏
名を偽りつつ文通することが可能な脱法的な手段であることから,Dと
の信書の発受は原告の矯正に支障を生じるおそれがあるとも主張する。
確かに,千葉刑務所では,受刑者に対し,信書の発受が予想される相手
方について,氏名,生年月日,住所,職業等の届出を求めているところ
(被収容者外部交通規定),Dの文通は,その事務局を介して行われ,
受刑者にも相手方の住所は知らされないから,千葉刑務所は,受刑者を
通じて相手方の住所を把握することはできない。しかし,このような文
通方式は,ボランティアスタッフのプライバシー保護などの趣旨からす
れば,不合理なものではなく,千葉刑務所も,必要に応じて,Dに照会
することも可能であることも併せて考えれば,Dの文通制度が,適正な
外部交通を潜脱する脱法的手段であると認めることはできない。実際,
Dの文通において,潜脱的に被収容者間の交流が行われたとか,犯罪性
のある者との交流がされたことを窺わせる事情もない。
(ウ)以上によれば,Dについて,原告の矯正処遇の適切な実施に放置
することができない程度の支障を生ずる相当の蓋然性がある者と認める
に足りる合理的根拠があるとはいえない。
カ上記の各判断は,千葉刑務所がLA指標施設であるからといって変わる
ものではない。被告は,「犯罪性のある者」との外部交通が仲介者を通じ
て許されたという情報が受刑者間に伝播する危惧があると主張するが,本
件信書について,その受信者であるDやEが「犯罪性のある者」とはいえ
ないこと,また,本件信書が原告とHや他の被収容者との外部交通である
ともいえないことは前記のとおりであり,上記主張は,その前提を欠く。
キ結局,本件処分について,法128条の要件を充たすとした判断に合理
的根拠があったとはいえないから,千葉刑務所長に裁量権があることを考
慮しても,本件処分は違法であり,取り消されるべきである。
3国家賠償法に基づく損害賠償請求について
上記の検討によれば,本件処分を行った千葉刑務所長には,本件信書の発
受を禁じられた原告との間で法的義務違反があるというべきであるから,国
家賠償法上も違法であり,過失も認められる。
そして,原告は,違法な本件処分によって,本件信書を発信することがで
きず,精神的苦痛を受けたものと認められるところ,慰謝料額については5
000円とするのが相当である。
第4結論
よって,原告の請求は,上記の限度で理由があるからこれを認容し,その余の
請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官廣谷章雄裁判官瀬戸啓子裁判官内山香奈)

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