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平成27年(許)第11号遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する
許可抗告事件
平成28年12月19日大法廷決定
主文
原決定を破棄する。
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
理由
抗告代理人久保井一匡ほかの抗告理由について
1本件は,Aの共同相続人である抗告人と相手方との間におけるAの遺産の分
割申立て事件である。
2原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)抗告人は,Aの弟の子であり,Aの養子である。相手方は,Aの妹であり
Aと養子縁組をしたB(平成14年死亡)の子である。
(2)Aは,平成24年3月▲日に死亡した。Aの法定相続人は,抗告人及び相
手方である。
(3)Aは,原々審判別紙遺産目録記載の不動産(価額は合計258万1995
円。以下「本件不動産」という。)のほかに,別紙預貯金目録記載の預貯金債権
(以下「本件預貯金」と総称する。)を有していた。抗告人と相手方との間で本件
預貯金を遺産分割の対象に含める合意はされていない。
Bは,Aから約5500万円の贈与を受けており,これは相手方の特別受益に当
たる。
3原審は,上記事実関係等の下において,本件預貯金は,相続開始と同時に当
然に相続人が相続分に応じて分割取得し,相続人全員の合意がない限り遺産分割の
対象とならないなどとした上で,抗告人が本件不動産を取得すべきものとした。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)相続人が数人ある場合,各共同相続人は,相続開始の時から被相続人の権
利義務を承継するが,相続開始とともに共同相続人の共有に属することとなる相続
財産については,相続分に応じた共有関係の解消をする手続を経ることとなる(民
法896条,898条,899条)。そして,この場合の共有が基本的には同法2
49条以下に規定する共有と性質を異にするものでないとはいえ(最高裁昭和28
年(オ)第163号同30年5月31日第三小法廷判決・民集9巻6号793頁参
照),この共有関係を協議によらずに解消するには,通常の共有物分割訴訟ではな
く,遺産全体の価値を総合的に把握し,各共同相続人の事情を考慮して行うべく特
別に設けられた裁判手続である遺産分割審判(同法906条,907条2項)によ
るべきものとされており(最高裁昭和47年(オ)第121号同50年11月7日
第二小法廷判決・民集29巻10号1525頁参照),また,その手続において基
準となる相続分は,特別受益等を考慮して定められる具体的相続分である(同法9
03条から904条の2まで)。このように,遺産分割の仕組みは,被相続人の権
利義務の承継に当たり共同相続人間の実質的公平を図ることを旨とするものである
ことから,一般的には,遺産分割においては被相続人の財産をできる限り幅広く対
象とすることが望ましく,また,遺産分割手続を行う実務上の観点からは,現金の
ように,評価についての不確定要素が少なく,具体的な遺産分割の方法を定めるに
当たっての調整に資する財産を遺産分割の対象とすることに対する要請も広く存在
することがうかがわれる。
ところで,具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産であ
るという点においては,本件で問題とされている預貯金が現金に近いものとして想
起される。預貯金契約は,消費寄託の性質を有するものであるが,預貯金契約に基
づいて金融機関の処理すべき事務には,預貯金の返還だけでなく,振込入金の受入
れ,各種料金の自動支払,定期預金の自動継続処理等,委任事務ないし準委任事務
の性質を有するものも多く含まれている(最高裁平成19年(受)第1919号同
21年1月22日第一小法廷判決・民集63巻1号228頁参照)。そして,これ
を前提として,普通預金口座等が賃金や各種年金給付等の受領のために一般的に利
用されるほか,公共料金やクレジットカード等の支払のための口座振替が広く利用
され,定期預金等についても総合口座取引において当座貸越の担保とされるなど,
預貯金は決済手段としての性格を強めてきている。また,一般的な預貯金について
は,預金保険等によって一定額の元本及びこれに対応する利息の支払が担保されて
いる上(預金保険法第3章第3節等),その払戻手続は簡易であって,金融機関が
預金者に対して預貯金口座の取引経過を開示すべき義務を負うこと(前掲最高裁平
成21年1月22日第一小法廷判決参照)などから預貯金債権の存否及びその額が
争われる事態は多くなく,預貯金債権を細分化してもこれによりその価値が低下す
ることはないと考えられる。このようなことから,預貯金は,預金者においても,
確実かつ簡易に換価することができるという点で現金との差をそれほど意識させな
い財産であると受け止められているといえる。
共同相続の場合において,一般の可分債権が相続開始と同時に当然に相続分に応
じて分割されるという理解を前提としながら,遺産分割手続の当事者の同意を得て
預貯金債権を遺産分割の対象とするという運用が実務上広く行われてきているが,
これも,以上のような事情を背景とするものであると解される。
(2)そこで,以上のような観点を踏まえて,改めて本件預貯金の内容及び性質
を子細にみつつ,相続人全員の合意の有無にかかわらずこれを遺産分割の対象とす
ることができるか否かにつき検討する。
アまず,別紙預貯金目録記載1から3まで,5及び6の各預貯金債権について
検討する。
普通預金契約及び通常貯金契約は,一旦契約を締結して口座を開設すると,以後
預金者がいつでも自由に預入れや払戻しをすることができる継続的取引契約であ
り,口座に入金が行われるたびにその額についての消費寄託契約が成立するが,そ
の結果発生した預貯金債権は,口座の既存の預貯金債権と合算され,1個の預貯金
債権として扱われるものである。また,普通預金契約及び通常貯金契約は預貯金残
高が零になっても存続し,その後に入金が行われれば入金額相当の預貯金債権が発
生する。このように,普通預金債権及び通常貯金債権は,いずれも,1個の債権と
して同一性を保持しながら,常にその残高が変動し得るものである。そして,この
理は,預金者が死亡した場合においても異ならないというべきである。すなわち,
預金者が死亡することにより,普通預金債権及び通常貯金債権は共同相続人全員に
帰属するに至るところ,その帰属の態様について検討すると,上記各債権は,口座
において管理されており,預貯金契約上の地位を準共有する共同相続人が全員で預
貯金契約を解約しない限り,同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るもの
として存在し,各共同相続人に確定額の債権として分割されることはないと解され
る。そして,相続開始時における各共同相続人の法定相続分相当額を算定すること
はできるが,預貯金契約が終了していない以上,その額は観念的なものにすぎない
というべきである。預貯金債権が相続開始時の残高に基づいて当然に相続分に応じ
て分割され,その後口座に入金が行われるたびに,各共同相続人に分割されて帰属
した既存の残高に,入金額を相続分に応じて分割した額を合算した預貯金債権が成
立すると解することは,預貯金契約の当事者に煩雑な計算を強いるものであり,そ
の合理的意思にも反するとすらいえよう。
イ次に,別紙預貯金目録記載4の定期貯金債権について検討する。
定期貯金の前身である定期郵便貯金につき,郵便貯金法は,一定の預入期間を定
め,その期間内には払戻しをしない条件で一定の金額を一時に預入するものと定め
(7条1項4号),原則として預入期間が経過した後でなければ貯金を払い戻すこ
とができず,例外的に預入期間内に貯金を払い戻すことができる場合には一部払戻
しの取扱いをしないものと定めている(59条,45条1項,2項)。同法が定期
郵便貯金について上記のようにその分割払戻しを制限する趣旨は,定額郵便貯金や
銀行等民間金融機関で取り扱われている定期預金と同様に,多数の預金者を対象と
した大量の事務処理を迅速かつ画一的に処理する必要上,貯金の管理を容易にし
て,定期郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図ることにあるものと解される。
郵政民営化法の施行により,日本郵政公社は解散し,その行っていた銀行業務は
株式会社ゆうちょ銀行に承継された。ゆうちょ銀行は,通常貯金,定額貯金等のほ
かに定期貯金を受け入れているところ,その基本的内容が定期郵便貯金と異なるも
のであることはうかがわれないから,定期貯金についても,定期郵便貯金と同様の
趣旨で,契約上その分割払戻しが制限されているものと解される。そして,定期貯
金の利率が通常貯金のそれよりも高いことは公知の事実であるところ,上記の制限
は,預入期間内には払戻しをしないという条件と共に定期貯金の利率が高いことの
前提となっており,単なる特約ではなく定期貯金契約の要素というべきである。し
かるに,定期貯金債権が相続により分割されると解すると,それに応じた利子を含
めた債権額の計算が必要になる事態を生じかねず,定期貯金に係る事務の定型化,
簡素化を図るという趣旨に反する。他方,仮に同債権が相続により分割されると解
したとしても,同債権には上記の制限がある以上,共同相続人は共同して全額の払
戻しを求めざるを得ず,単独でこれを行使する余地はないのであるから,そのよう
に解する意義は乏しい。
ウ前記(1)に示された預貯金一般の性格等を踏まえつつ以上のような各種預貯
金債権の内容及び性質をみると,共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び
定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるこ
とはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。
(3)以上説示するところに従い,最高裁平成15年(受)第670号同16年
4月20日第三小法廷判決・裁判集民事214号13頁その他上記見解と異なる当
裁判所の判例は,いずれも変更すべきである。
5以上によれば,本件預貯金が遺産分割の対象とならないとした原審の判断に
は,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,この趣旨をい
うものとして理由があり,原決定は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせ
るため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官岡部喜
代子の補足意見,裁判官大谷剛彦,同小貫芳信,同山崎敏充,同小池裕,同木澤克
之の補足意見,裁判官鬼丸かおる,同木内道祥の各補足意見,裁判官大橋正春の意
見がある。
裁判官岡部喜代子の補足意見は,次のとおりである。
共同相続が発生したとき,相続財産は民法898条,899条により相続分に応
じた共有となる。その財産が金銭の給付を目的とする債権であっても同様である。
当該債権については民法264条の規律するところになるのであるが,同条の特則
としての民法427条により相続人ごとに分割されて相続人の数だけ債権が存在す
ることとなると考えられているところである。しかし,共同相続においては上記の
とおりまず準共有状態が発生するのであるから,分割を阻害する要因があれば,分
割されずに準共有状態のまま存続すると解することが可能である。普通預金契約
(通常貯金契約を含む。以下同じ。)の本体は消費寄託契約ではあるが,そればか
りではなく,付随して口座振替等の準委任契約が締結されることも多いのであっ
て,普通預金が決済手段としての性格を強めていることは多数意見の指摘するとお
りである。そうすると,普通預金債権を共同相続した場合には,共同相続人は同時
に準委任契約上の権利義務もまた相続により承継することになる。例えば口座振替
契約の解約を行う場合は,それは性質上不可分な形成権の行使であり,かつ,処分
行為であるから民法251条により相続人全員で行わなければならない。ところが
預貯金債権が当然に分割され各人の権利行使が認められることになると,共同相続
人の一人が自己の持分に相当する預貯金を全額払い戻して預貯金債権を行使する必
要がなくなる結果,預貯金契約自体あるいは口座振替契約等についての処理に支障
が生ずる可能性がある。また,各別の預貯金債権の行使によって,1個の預貯金契
約ないし一つの口座中に,共同相続人ごとに残高の異なる複数の預貯金債権が存在
するという事態が生じざるを得ない。このような事態は,振込等があって残高が変
動しつつも同一性を保持しながら1個の債権として存続するという普通預金債権の
性質に反する状況ともいい得るところであり,また普通預金契約を締結する当事者
の意思としても認めないところであろう。共同相続の場合には,普通預金債権につ
いて相続人各別の行使は許されず,準共有状態が存続するものと解することが可能
となる。以上のとおりであるから,多数意見の結論は,預貯金債権について共同相
続が発生した場合に限って認められるものであろう。
ところで,私は,民法903条及び904条の2の文理並びに共同相続人間の実
質的公平を実現するという趣旨に鑑みて,可分債権は共同相続により当然に分割さ
れるものの,上記各条に定める「被相続人が相続開始の時において有した財産」に
は含まれると解すべきであり,分割された可分債権の額をも含めた遺産総額を基に
具体的相続分を算定し,当然分割による取得額を差し引いて各相続人の最終の取得
額を算出すべきであると考えている。従前は預貯金債権も当然に分割される可分債
権に含まれると考えてきた。しかし,最高裁判所が権利の性質を詳細に検討して少
しずつ遺産分割の対象財産に含まれる権利を広げてきたという経緯,預貯金債権も
遺産分割の対象とすることが望ましいとの結論の妥当性,そして上記のとおり理論
的にも可能であるという諸点から多数意見に賛同したいと思う。ただ,当然に分割
されると考えられる可分債権はなお各種存在し,預貯金債権が姿を変える場合もあ
り得るところ,それらについては上記のとおり具体的相続分の算定の基礎に加える
などするのが相当であると考える。
裁判官大谷剛彦,同小貫芳信,同山崎敏充,同小池裕,同木澤克之の補足意見
は,次のとおりである。
従来,預貯金債権は相続開始と同時に当然に各共同相続人に分割され,各共同相
続人は,当該債権のうち自己に帰属した分を単独で行使することができるものと解
されていたが,多数意見によって遺産分割の対象となるものとされた預貯金債権
は,遺産分割までの間,共同相続人全員が共同して行使しなければならないことと
なる。そうすると,例えば,共同相続人において被相続人が負っていた債務の弁済
をする必要がある,あるいは,被相続人から扶養を受けていた共同相続人の当面の
生活費を支出する必要があるなどの事情により被相続人が有していた預貯金を遺産
分割前に払い戻す必要があるにもかかわらず,共同相続人全員の同意を得ることが
できない場合に不都合が生ずるのではないかが問題となり得る。このような場合,
現行法の下では,遺産の分割の審判事件を本案とする保全処分として,例えば,特
定の共同相続人の急迫の危険を防止するために,相続財産中の特定の預貯金債権を
当該共同相続人に仮に取得させる仮処分(仮分割の仮処分。家事事件手続法200
条2項)等を活用することが考えられ,これにより,共同相続人間の実質的公平を
確保しつつ,個別的な権利行使の必要性に対応することができるであろう。
もとより,預貯金を払い戻す必要がある場合としてはいくつかの類型があり得る
から,それぞれの類型に応じて保全の必要性等保全処分が認められるための要件や
その疎明の在り方を検討する必要があり,今後,家庭裁判所の実務において,その
適切な運用に向けた検討が行われることが望まれる。
裁判官鬼丸かおるの補足意見は,次のとおりである。
私は,多数意見に賛同するものであるが,普通預金債権及び通常貯金債権の遺産
分割における取扱いに関して,以下のとおり私見を付したい。
1遺産分割とは,被相続人の死亡により共同相続人の遺産共有に属することと
なった個々の相続財産について,その共有関係を解消し,各共同相続人の単独所有
又は民法第2編第3章第3節の共有関係にすることであるから,遺産分割の対象と
なる財産は,相続開始時に存在し,かつ,分割時にも存在する未分割の相続財産で
あると解される。そして,多数意見が述べるとおり,普通預金債権及び通常貯金債
権は相続開始と同時に当然に分割される債権ではないから,相続人が数人ある場
合,共同相続人は,被相続人の上記各債権を相続開始時の残高につき準共有し,こ
れは遺産分割の対象となる。一方,相続開始後に被相続人名義の預貯金口座に入金
が行われ,その残高が増加した分については,相続を直接の原因として共同相続人
が権利を取得するとはいえず,これが遺産分割の対象となるか否かは必ずしも明ら
かでなかった。
しかし,多数意見が述べるとおり,上記各債権は,口座において管理されてお
り,預貯金契約上の地位を準共有する共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない
限り,同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在するのであ
るから,相続開始後に被相続人名義の預貯金口座に入金が行われた場合,上記契約
の性質上,共同相続人は,入金額が合算された1個の預貯金債権を準共有すること
になるものと解される。
そうすると,被相続人名義の預貯金債権について,相続開始時の残高相当額部分
は遺産分割の対象となるがその余の部分は遺産分割の対象とならないと解すること
はできず,その全体が遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。多数意
見はこの点について明示しないものの,多数意見が述べる普通預金債権及び通常貯
金債権の法的性質からすると,以上のように解するのが相当であると考える。
2以上のように解すると,①相続開始後に相続財産から生じた果実,②相続開
始時に相続財産に属していた個々の財産が相続開始後に処分等により相続財産から
逸出し,その対価等として共同相続人が取得したいわゆる代償財産(例えば,建物
の焼失による保険金,土地の売買代金等),③相続開始と同時に当然に分割された
可分債権の弁済金等が被相続人名義の預貯金口座に入金された場合も,これらの入
金額が合算された預貯金債権が遺産分割の対象となる(このことは,果実,代償財
産,可分債権がいずれも遺産分割の対象とならないと解されることと矛盾するもの
ではない。)。この場合,相続開始後に残高が増加した分については相続開始時に
預貯金債権として存在したものではないところ,具体的相続分は相続開始時の相続
財産の価額を基準として算定されるものであることから(民法903条,904条
の2),具体的相続分の算定の基礎となる相続財産の価額をどう捉えるかが問題と
なろう。この点については,相続開始時の預貯金債権の残高を具体的相続分の算定
の基礎とすることが考えられる一方,上記②,③の場合,当該入金額に相当する財
産は相続開始時にも別の形で存在していたものであり,相続財産である不動産の価
額が相続開始後に上昇した場合等とは異なるから,当該入金額に相当する相続開始
時に存在した財産の価額を具体的相続分の算定の基礎に加えることなども考え得る
であろう。もっとも,具体的相続分は遺産分割手続における分配の前提となるべき
計算上の価額又はその価額の遺産の総額に対する割合を意味するのであるから(最
高裁平成11年(受)第110号同12年2月24日第一小法廷判決・民集54巻
2号523頁参照),早期にこれを確定することが手続上望ましいところ,後者の
考え方を採る場合,相続開始後の預貯金残高の変動に応じて具体的相続分も変動し
得ることとなり,事案によっては具体的相続分の確定が遅れかねないなどの遺産分
割手続上の問題が残される。従来から家庭裁判所の実務において,上記①~③の財
産も,共同相続人全員の合意があれば具体的相続分の算定の基礎ないし遺産分割の
対象としてきたとみられるところであり,この問題については,共同相続人間の実
質的公平を図るという見地から,従来の実務の取扱いとの均衡等も考慮に入れて,
今後検討が行われることが望まれよう。
裁判官木内道祥の補足意見は,次のとおりである。
私は多数意見に賛同するものであるが,以下のとおり,私見を付加しておきた
い。
多数意見は,遺産分割の仕組みが共同相続人間の実質的公平を図ることを旨とし
て相続により生じた相続財産の共有状態の解消を図るものであり,被相続人の財産
をできる限り幅広く対象とすることが望ましいことを前提に,預貯金が現金に極め
て近く,遺産分割における調整に資する財産であることなどを踏まえて,本件で問
題となっている各預貯金債権の内容及び性質に照らし,上記各債権が共同相続人全
員の合意の有無にかかわらず遺産分割の対象となるとしたものであると理解するこ
とができる。
私は,以上の点に加えて,預貯金債権は,その額面額をもって価額と評価するこ
とができることからしても,共同相続人全員の合意の有無にかかわらず遺産分割の
対象となると考えるものである。
遺産分割の審判においては,各相続人の具体的相続分の算定と取得財産の決定と
いう二つの場面で,個別の相続財産の価額を評価することが求められる。前者につ
いては,被相続人が相続開始時において有した財産,遺贈や生前贈与として持ち戻
される財産の価額に基づいて,寄与分を考慮した上で,各相続人の具体的相続分の
価額及び割合が算定される(民法903条,904条の2)。後者については,遺
産分割時に存在する財産をその時点の価額で評価した上で,各相続人の具体的相続
分の割合に応じて,各相続人が取得する財産が定められる。
しかるに,債権については,その有無,額面額及び実価(評価額)について共同
相続人全員の合意がある場合を除き,一般的に評価が困難というべきである。その
ため,債権を広く一般的に遺産分割の対象としようとすると,各相続人の具体的相
続分の算定や取得財産の決定が困難となり,遺産分割手続の進行が妨げられ,その
他の相続財産についても遺産分割の審判をすることができないという事態を生ずる
おそれがある。共有状態にある相続財産については各相続人の権利行使が制約され
ることを考慮すると,このような状態はなるべく早く解消されるべきである。
遺産分割の審判においては,共同相続人間の実質的公平を図るために特別受益の
持戻しや寄与分の考慮を経て具体的相続分を算定して遺産分割が実現されるとこ
ろ,債権を広く一般的に遺産分割の対象としようとして具体的相続分の算定が困難
となり,その他の相続財産についても遺産分割の審判をすることができず,相続財
産に対する各相続人の権利行使が制約される状態が続くことは,遺産分割審判制度
の趣旨に反する。したがって,額面額をもって実価(評価額)とみることができな
い可分債権については,上記合意がない限り,遺産分割の対象とはならず,相続開
始と同時に当然に相続分に応じて分割されるものと解するのが相当である。なお,
民法903条,904条の2は,同法第5編第3章第3節「遺産の分割」の前に位
置するが,遺産分割の基準である具体的相続分を算定するためのものであるから,
遺産分割の対象とならない上記可分債権は,これらの規定にいう「相続開始の時に
おいて有した財産」には含まれないと解される。
これに対して,預貯金債権の場合,支払の確実性,現金化の簡易性等に照らし,
その額面額をもって実価(評価額)とみることができるのであるから,上記可分債
権とは異なり,これを遺産分割の対象とすることが遺産分割の審判を困難ならしめ
るものではない。
したがって,預貯金債権は,共同相続人全員の合意の有無にかかわらず,遺産分
割の対象となると解するのが相当である。
裁判官大橋正春の意見は,次のとおりである。
私は,原決定を破棄し,本件を原審に差し戻すとの多数意見の結論には賛成する
ものであるが,その理由については考えを異にするので,意見を述べたい。
1多数意見は,原決定による遺産分割の結果が著しく抗告人に不利益なもので
あり,その原因は預貯金債権が遺産分割の対象とならなかったことにあると考え,
これを解決する方策として,判例を変更して,普通預金債権及び通常貯金債権は最
高裁昭和27年(オ)第1119号同29年4月8日第一小法廷判決・民集8巻4
号819頁にいう「可分債権」に当たらないとするものであると理解することがで
きる。
しかし,多数意見の立場は,問題の設定を誤ったものであり,問題の根本的解決
に結び付くものでないだけでなく新たな問題を生じさせるものといわなければなら
ない。預貯金債権を準共有債権と解したとしても,他の種類の債権について本件と
同様に不公平な結果が生ずる可能性は依然として残されている。例えば,本件と,
被相続人が判決で確定した国に対する国家賠償法上の損害賠償請求権を有していた
事案とで結論が異なるのが相当なのかという疑問が生ずる。
2問題は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割される可分債権を遺産
分割において一切考慮しないという現在の実務(以下「分割対象除外説」とい
う。)にあるといえる。これに対して,私は,可分債権を含めた相続開始時の全遺
産を基礎として各自の具体的相続分を算定し,これから当然に分割されて各自が取
得した可分債権の額を控除した額に応じてその余の遺産を分割し,過不足は代償金
で調整するという見解(以下「分割時考慮説」という。)を採用すべきものと考え
る。その理由は,次のとおりである。
遺産の分割は,遺産全体の価値を総合的に把握し,これを共同相続人の具体的相
続分に応じ民法906条所定の基準に従って分割することを目的とするものであり
(最高裁昭和47年(オ)第121号同50年11月7日第二小法廷判決・民集2
9巻10号1525頁参照),ここにいう「遺産全体」が相続開始時において被相
続人の財産に属した一切の権利義務(同法896条)を指すことには疑問がない。
したがって,遺産分割とは,相続開始時において被相続人の財産に属した一切の権
利義務を具体的相続分に応じて共同相続人に分配することであるといえる。これに
対して,分割対象除外説は,遺産を構成する個々の相続財産の共有関係(同法89
8条)を解消する手続が遺産分割であると捉え,かつ,可分債権について共有関係
が生じないと解して,可分債権は遺産分割の対象とならないものとする。しかし,
個々の相続財産の共有関係を解消する手続は,遺産全体を具体的相続分に応じて共
同相続人に分配するという遺産分割を実現するための手続にすぎないのであるか
ら,この意味における遺産分割の適切な実現を阻害する分割対象除外説を採用する
ことはできず,分割時考慮説が正当なものと考えられる。
分割対象除外説によれば,遺産分割時に預貯金が残存している場合には,具体的
相続分に応じた分配をすることができるのに対し,共同相続人の1人が被相続人の
生前に無断で預貯金を払い戻した場合には,被相続人が取得した損害賠償請求権又
は不当利得返還請求権について具体的相続分に応じた分配をすることができない。
これに対して,分割時考慮説によれば,後者の場合においても具体的相続分に応じ
た分配をすることができ,結果の衡平性という点においてより優れている。また,
遺言をしない被相続人の中には法律の規定に従って遺産分割が行われることを期待
した者がいると考えられるところ,法律の専門家でない一般の被相続人としては,
遺産を構成する債権が可分債権であるか否かによって結果は異ならないと期待して
いたと考えるのが自然である。したがって,分割対象除外説は被相続人の期待に反
する結果を生じさせるものということができる。
分割時考慮説を採用することにより,家事審判事件が増加し,家庭裁判所の負担
が増加することが考えられる。しかし,家庭裁判所の実務では当事者の合意を前提
に可分債権を遺産分割の対象とすることがかなりの範囲で行われていること,分割
時考慮説と分割対象除外説とで極端な結論の違いが生ずるのはまれで,多くの場合
には具体的相続分と法定相続分の乖離は小さいと推測されることなどからすると,
家庭裁判所における適正な事務処理を阻害するような著しい負担の増加はないであ
ろうと考える。
よって,分割対象除外説に基づく原決定を破棄し,分割時考慮説に基づき更に審
理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すのが相当であると考えるものである。
3最後に,普通預金債権及び通常貯金債権を準共有債権とすると,問題の根本
的解決にならないばかりか新たな不公平を生み出すほか,被相続人の生前に扶養を
受けていた相続人が預貯金を払い戻すことができず生活に困窮する,被相続人の入
院費用や相続税の支払に窮するといった事態が生ずるおそれがあること,判例を変
更すべき明らかな事情の変更がないことなどから,普通預金債権及び通常貯金債権
を可分債権とする判例を変更してこれを準共有債権とすることには賛成できないこ
とを指摘しておきたい。
(裁判長裁判官寺田逸郎裁判官櫻井龍子裁判官岡部喜代子裁判官
大谷剛彦裁判官大橋正春裁判官小貫芳信裁判官鬼丸かおる裁判官
木内道祥裁判官山本庸幸裁判官山崎敏充裁判官池上政幸裁判官
大谷直人裁判官小池裕裁判官木澤克之裁判官菅野博之)
(別紙)
預貯金目録
1三井住友銀行a支店普通預金(口座番号○○○○○○○)
265円
2三井住友銀行b支店普通預金(口座番号○○○○○○)
6万8729円
3ゆうちょ銀行通常貯金(記号番号○○○○○-○○○○○○○○)
762円
4ゆうちょ銀行定期貯金(記号番号○○○○○-○○○○○○○)
3万円
5三菱東京UFJ銀行c支店普通預金(口座番号○○○○○○○)
245万7956円
6三菱東京UFJ銀行c支店外貨普通預金(口座番号○○○○○○○)
36万4600.62ドル
(残高は,いずれも平成25年8月23日現在)

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弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
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仕事がない弁護士は無力です。
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答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
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興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
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条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
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残り応募人数(2019年5月1日現在)
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