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平成27年(し)第587号
再審請求棄却決定に対する即時抗告の決定に対する特別抗告事件
平成29年12月25日第一小法廷決定
主文
原決定を取り消す。
本件即時抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意のうち,最高裁昭和31年(あ)第4636号同35年3月29
日第三小法廷決定・刑集14巻4号479頁を引用して判例違反をいう点は,事案
を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,判例違反
をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法433
条の抗告理由に当たらない。
しかしながら,所論に鑑み,職権をもって調査すると,本件について再審を開始
した原決定には,刑訴法435条6号の解釈適用を誤った違法があり,取消しを免
れない。その理由は,次のとおりである。
1本件再審請求の経過
(1)本件再審請求の対象である第1審判決が認定した犯罪事実の要旨は,次の
とおりである。
請求人は,有限会社a(以下「a」という。)の実質経営者であるA(以下
「A」という。)及び友人のB(以下「B」という。)と共謀の上,同社の財産に
対する徴収職員からの滞納処分の執行を免れる目的で,真実はBに譲渡した事実は
ないのに,同社が経営する風俗営業店5店舗(以下「本件店舗」という。)の営業
をBに譲渡したかのように装って同社の財産を隠蔽することを企て,平成17年5
月頃から平成19年9月頃までの間,①4回にわたり,不動産賃貸借契約に関し同
社が返還を受け得る賃借保証金債権をBに仮装譲渡し,②本件店舗の営業主体が同
社からBに変更されたかのように装って,79回にわたり,クレジット会社の係員
をして,aに帰属すべきクレジット売上金をB名義の口座に振込入金させ,もっ
て,滞納処分の執行を免れる目的で財産を隠蔽した。
第1審において,請求人は,A及びBとの共謀の事実を否認し,Aの公判廷にお
ける供述(以下「A公判供述」という。)やBの捜査官に対する供述(以下「B捜
査段階供述」という。)の信用性等を争ったが,神戸地方裁判所は,平成21年9
月14日,請求人から財産隠蔽のやり方を教えてもらい仮装譲受人としてBを提案
された旨のA公判供述,請求人から仮装譲受人になる話を持ち掛けられ了承した旨
のB捜査段階供述の信用性を肯定し,共謀の事実を認定した上,請求人を懲役1年
6月,3年間執行猶予に処した。
請求人は,控訴したが,平成22年3月2日,大阪高等裁判所において,控訴棄
却の判決を受け,さらに,同年6月4日,最高裁判所において,上告棄却の決定を
受け,第1審判決は,同月10日に確定した(以下,第1審判決を「確定判決」と
いう。)。
(2)請求人は,平成26年8月5日,無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあら
たに発見したとして,確定判決に対する再審を請求し,新証拠として,平成25年
12月24日付けのAの陳述書(以下「A新供述」という。)等を提出した。A新
供述の内容は,財産隠蔽のやり方を教えてくれたのは,請求人ではなく,aの顧問
税理士であったC(以下「C税理士」という。)であり,Bに本件店舗の営業を仮
装譲渡する(以下「本件仮装譲渡」という。)以前に,D(以下「D」という。)
を代表者とする会社に仮装譲渡しようとした際,請求人がこれに関与した事実はな
く,本件仮装譲渡に関しても,Aが請求人に仮装譲受人の紹介を依頼したことも,
請求人から仮装譲受人としてBを提案されたこともなかったが,請求人を主犯にす
れば自分の罪が軽くなり,実刑を免れられるなどと考え,虚偽を述べたというもの
である。
(3)原々審は,検察官,請求人双方の意見を聴いた上,平成27年2月25
日,A新供述等の請求人から提出された証拠及び本件記録上の全証拠を総合して
も,無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したとは到底認められないと
して,再審請求を棄却する旨の決定(原々決定)をした。
(4)請求人からの即時抗告を受けた原審は,事実の取調べとしてAの証人尋問
(以下「新証人尋問」という。)を実施した上で,平成27年10月7日,要旨以
下のとおり説示して,原々決定を取り消し,本件について再審を開始する旨の決定
(原決定)をした。
Aは,新証人尋問において,偽証罪で処罰される可能性があることを知った後も
A新供述を維持し続けており,その信用性を高める大きな事情といえる。実刑にな
るのを回避するために請求人を巻き込もうとしたという内容は,自然な心情であ
り,十分理解できる。仮装譲渡の譲受人を含めて確実に納税を免れるためには税務
に関する相応の専門知識が必要であったと考えられるが,Bが第2次納税義務を免
れた事実は,仮装譲渡の方法を教わったのが請求人からではなくC税理士からであ
ったというA新供述と整合する。A新供述は,Bの確定審における供述(以下「B
公判供述」という。)と合致し,信用性に限界があるもののE行政書士(以下「E
行政書士」という。)の陳述書とも矛盾しない。他方で,A公判供述は,具体性を
欠き,これを裏付けているとされるB作成の覚書(以下「本件覚書」という。)
は,A新供述やB公判供述を踏まえると,請求人の関与を裏付けるものとはいえ
ず,同じくA公判供述と整合的とされるDの確定審における供述(以下「D公判供
述」という。)も信用性に疑義を差し挟むべき事情があり,A公判供述を支えるも
のとはいえない。A新供述等の新証拠を踏まえると,A公判供述やB捜査段階供述
の信用性には大きな疑問が生じ,請求人との共謀を認定することには合理的な疑い
が残る。そうすると,A新供述等の新証拠は,本件について請求人に対し無罪を言
い渡すべき新規かつ明白な証拠に当たるといえ,本件再審請求は理由がある。
2当裁判所の判断
(1)請求人が提出した新証拠のうち中心となるものは,A新供述である。A
は,確定審の証人尋問において,「請求人から,財産隠蔽の方法として本件店舗の
営業を仮装譲渡することを教えてもらい,仮装譲受人としてBを提案された」旨供
述した。請求人は,Aが請求人に責任を転嫁するため虚偽を述べた旨主張し,その
信用性を争ったが,確定判決は,請求人の主張を排斥し,A公判供述の信用性を肯
定して請求人とA及びBとの共謀を認定し,控訴審判決もこれを是認した。A新供
述は,請求人の関与を述べた部分は虚偽であった旨述べるA作成名義の書面である
が,前記の経緯に照らすと,A新供述が請求人に対し無罪を言い渡すべき明らかな
証拠といえるかどうかを判断するに当たっては,供述を変更するに至った経緯・過
程を含め,その内容が,A公判供述の信用性判断を動揺させるに足りる事情を供述
するものであるかについて,新証人尋問におけるAの供述も踏まえた上で,慎重に
吟味する必要があるというべきである。しかし,以下のとおり,A新供述には重大
な疑問がある。
アA新供述は詳細なものであるが,新証人尋問におけるAの供述は,曖昧で覚
えていないと述べるところが多く,主要な点で,A新供述の内容を再現できていな
い。また,Aは,新証人尋問において,供述を変更した経緯・過程を問われた際,
請求人から連絡があってやり取りが始まった旨述べ,請求人の冤罪を晴らさなくて
はと思い立ち請求人の連絡先を調べたとのA新供述と異なる内容を述べ,A新供述
の作成過程についても曖昧な供述に終始している。このような事情は,時の経過等
により記憶の減退があることを考慮しても,A新供述が真に記憶に基づき作成され
たものかについて大きな疑念を抱かせるものといわざるを得ない。
イA新供述では,請求人を本件仮装譲渡の関与者と述べるに至った経緯につい
て,財産隠蔽の方法を教えてくれたのは,C税理士であったが,その旨検察官に伝
えたが聞いてもらえず,勾留質問の際,裁判官から今回の事件を計画したのは請求
人ではないのかと断定的な口調で問われたため,Bへの恨みが高じて請求人に対し
ても恨みを抱いていたこともあり,実刑を免れたいとの思いから,請求人の名前を
出して虚偽供述をした旨述べられている。
しかし,勾留質問時に裁判官から請求人の名前を出して問われたことを虚偽供述
の理由として述べる点が信用性に乏しいものであることは,原決定も指摘するとお
りである。また,Aが勾留質問を受けた当時,C税理士は既に亡くなっており,C
税理士を関与者と述べることに支障があったとは思われず,請求人の名前を出して
虚偽を述べなければならない状況にあったとは言い難い。そうであるのに,請求人
が否認すればその真偽が直ちに問題となることが容易に予想される虚偽の事実を述
べたというのは,不自然不合理というべきであるし,請求人への恨みから虚偽を述
べたという内容も,請求人に恨みを抱いた理由を合理的に説明できておらず,にわ
かに首肯できるものではない。
ウ原決定は,Aが,新証人尋問において,自分が偽証罪で処罰される可能性が
あることを知った後もA新供述を維持していることなどを,その信用性を肯定した
理由として指摘している。
しかし,Aは,新証人尋問の終盤に裁判官から質問を受けるまで,自分が偽証罪
で処罰される可能性があることを理解していなかったことが認められ,A新供述を
維持したまま尋問が終了していることをもって,その信用性を肯定する事情とみる
ことはできない。原決定が指摘するその余の理由も,説得的なものとはいえない。
エ以上によれば,A新供述には重大な疑問があるというべきである。
(2)A新供述の信用性に関する原決定の判断は,次のことからも,その合理性
に疑問があるとの評価を免れない。
確定判決では,A公判供述の信用性を補強するものとして,本件覚書やD公判供
述等が挙げられている。A新供述の信用性を判断するに当たっては,これらの証拠
との関係を合理的に説明できるかも問題となる。
ア本件覚書は,本件仮装譲渡の後,BがAの求めに応じて作成し,Aに交付し
たものである。その内容は,Bが「親しい知人の仲介」によりAと面談し,aに課
せられている国税の追徴金を逃れる方策として名義上の新経営者になったというも
のであり,「親しい知人」が請求人を指すことは,A及びB共に認めている。
原決定は,A新供述及びB公判供述を踏まえると,A又はBにおいて,本件覚書
を作成する際,違法な仮装譲渡であることが発覚した際の責任を他者に転嫁するこ
とを思い付き,その旨の文言を付加することが,不自然とはいえず,本件覚書が請
求人の関与を裏付けるものとはいえないと説示している。
しかし,A及びBのいずれも,原決定が説示するような理由で本件覚書中に「親
しい知人の仲介」という文言が付加されたとは述べておらず,A新供述において,
何らかの時に責任逃れをするためBが使ったのだと考える旨述べられているにすぎ
ない。また,本件覚書は,AとBとの間の将来の紛争に備えて作成されたものであ
り,責任を逃れるための記載を入れる必要はなく,請求人が本件仮装譲渡に関与し
ていないとすると,前記文言を付加した理由の説明は,なおさら困難となる。さら
に,責任を他者に転嫁するために前記文言が付加されたのだとすると,なぜ「親し
い知人」という漠然とした表現を用いたのかも疑問となる。
本件覚書は,素直に読めば,本件仮装譲渡に請求人の関与があったことを強くう
かがわせるものというべきところ,原決定は,A新供述と本件覚書との関係につい
て説得的な説明ができていないといわざるを得ない。
イD公判供述は,本件仮装譲渡以前に,請求人から電話やメモの交付を受ける
などして本件店舗の名義人になってほしい旨の話があったというものであり,本件
に至る経緯に関するA公判供述と整合する内容となっている。他方で,A新供述
は,請求人の前記関与を全面的に否定するものである。
原決定は,元警察官である請求人がメモを渡すなど違法行為についての証拠を残
すことは通常考え難く,D公判供述は内容自体にわかに信じ難いものであること,
Dは,Aと少なくとも経済的に相当密着した関係にあり,Aが実刑判決を受けるこ
とを避けたいという動機があったことなどを指摘し,D公判供述には信用性に疑問
を差し挟むべき事情があると説示している。
しかし,D公判供述は相応に具体的であり,請求人からメモを渡されたとの内容
も直ちに不自然不合理であるとの評価ができるものではない。また,Dを代表者と
する会社に本件店舗の営業を仮装譲渡しようとした際,E行政書士等のほか請求人
もAの事務所に参集して話をしていることは,請求人の関与を強くうかがわせる事
情であり,D公判供述の信用性を支えている。さらに,DがAと口裏合わせをして
証言に臨んだことをうかがわせる事情はない上,Dが確定審で証人として供述した
当時,本件に関するAの執行猶予付き判決は既に確定しており,実刑判決を受ける
可能性はない状況であった。
このような諸事情に照らすと,D公判供述の信用性に疑義があるとした原決定の
前記説示は,説得力を欠くものというべきである。
(3)以上の検討を踏まえると,A新供述は,A公判供述の信用性を動揺させる
ものではなく,その余の新証拠を考え併せてみても,確定判決の事実認定に合理的
な疑いを抱かせるに足りるものとはいえない。したがって,A新供述等の新証拠
が,請求人に対し無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たるとした原判断には,刑
訴法435条6号の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず,その違法が決
定に影響を及ぼすことは明らかであり,原決定を取り消さなければ著しく正義に反
するものと認められる。
よって,刑訴法411条1号を準用して原決定を取り消し,同法434条,42
6条2項により更に裁判をすると,前記のとおり,請求人が提出した新証拠は,無
罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たるものとはいえず,本件について再審請求を
棄却した原々決定に誤りがあるとはいえないから,同条1項により請求人の即時抗
告を棄却することとし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官小池裕裁判官池上政幸裁判官大谷直人裁判官
木澤克之裁判官山口厚)

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