弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原決定を取消す。
相手方の本件執行停止の申立を却下する。
本件申立費用および抗告費用はともに相手方の負担とする。
       理   由
 抗告人の本件抗告の趣旨は、主文同旨の裁判を求めるというにあり、その理由と
するところは、別紙「抗告の理由」記載のとおりである。
 よつて按ずるに、疎甲第一ないし第四号証および疎乙第一ないし第一〇号証によ
れば、次の事実が疎明される。
 すなわち、「相手方は、昭和一五年七月一九日本邦で父a、母bの間に出生した
韓国人で、昭和二〇年秋頃父母とともに本国に帰国したものであるが、昭和三五年
三月頃釜山港から大阪港に勉学を目的として不法入国し、同年五月東京都新宿区所
在の韓国学園高等科二年に編入学し、昭和三七年三月同学園高等科を卒業した上同
年四月明治学院大学文学部英文科に入学したものであるところ、同年五月二四日東
京入国管理事務所に自ら不法入国の事実を申告し、出入国管理令(以下単に「令」
という。)第二四条第一号該当容疑者として令に定める退去強制手続を受けたが、
同年一一月一四日法務大臣から、在留資格を留学生とし、在留期間一年、『学業終
了後は直ちに出国すること』との条件の下に令第五〇条に基づく在留の特別許可が
与えられたこと。しかるに、相手方は明治学院大学を中途退学して、昭和三八年四
月一日あらたに早稲田大学第一商学部に入学し、同年一一月一一日同大学在学中で
あることを理由に第一回在留期間更新許可申請をなして許可され、その後四回にわ
たり在留期間の更新を受けたこと。ところで右通算第五回目の更新は、相手方にお
いて卒業に必要な学科単位数を取得することができず、本来の卒業時期である昭和
四二年三月の卒業が不可能であつたので特に許可されたものであること。ところ
が、相手方は昭和四三年四月、未修得単位を一九単位残して卒業しないまま第六回
目の更新申請をなし、これについては前回更新の経緯があつたので、在留資格を令
第四条第一項第一六号所定の資格とし、在留期間を九〇日と変更の上許可され、さ
らにその後三回にわたつて在留期間の更新を許可されたにもかかわらず、在留期限
である昭和四四年四月二五日までに卒業に必要な未修得単位を取得せず、その結
果、結局右期限を超えて不法に本邦に残留することとなり、令第二四条第四号ロに
該当する者となつたこと。しかして相手方が大学の単位取得について誠意なく、昭
和四四年三月に至つてもなお卒業しなかつたのは、相手方において本国における兵
役義務回避などの理由により本国に帰還することをきらい、本邦で結婚し、かつな
がく生活をすることを希望していること等に基づく故意の引きのばし策であるとう
かがわれること。なお相手方に対しては昭和四四年六月退去強制手続がとられた
が、仮釈放されたため、昭和四五年三月右大学を卒業する機会は与えられていたこ
と。
相手方は現に大学院への進学希望を述べているが前記事情に照らし、その主たる目
的は本邦での滞在をながびかせるためであると認められること。」
 以上の疎明事実からすれば、法務大臣が相手方に対し昭和四四年四月二六日以降
令第五〇条に基づく在留特別許可を与えなかつた点について裁量権の濫用ないし逸
脱があつたものと考えることはできず、また相手方は「難民の地位に関する条約」
にいう「難民」には該当しないものと解されるから、相手方の本件執行停止の申立
は、本案について理由がないとみえる場合に当るものというべく、したがつてその
余の点について判断するまでもなく失当としてこれを却下すべきである。
 よつてこれと異なる原決定を取消し、本件申立を却下すべく申立費用および抗告
費用は民事訴訟法第九六条、第八九条により、相手方に負担させることとし、主文
のとおり決定する。
(裁判官 古山宏 川添万夫 秋元隆男)
(別紙)
抗告の理由
 相手方の本件執行停止の申立ては、本案につき理由がなく、また、執行停止の必
要性も認められないから、失当として却下さるべきである。
第一、本案について理由のないことが明白である。
(一) 原決定は、本件執行停止申請が本案について理由がないとみえる場合にあ
たるとの抗告人の主張について「相手方が出入国管理令第二四条第四号ロに該当す
るとの点については相手方の主張事実と抗告人の主張事実とは一致せず、本件疎明
によつては、いまだ抗告人の主張事実を肯認するには不十分であつて、本案におけ
る事実審理の結果をまたなければ、その黒白を決しえないところである。」と判示
される。
 しかし、相手方は、その許可された在留期間である昭和四四年四月二五日をこえ
て本邦に残留している事実を自ら認めているのであり、昭和四四年六月一〇日付の
東京入国管理事務所特別審理官の、相手方が出入国管理令二四条四号ロに該当する
旨の認定は誤りがないとの判定(疎乙第四号証)に対し、相手方はその事実の認定
を争うことなく、同日付の法務大臣の異議申出に当つても単に早稲田大学部に在学
中であることなどをあげて法務大臣の在留特別許可を嘆願するという趣旨で異議の
申出を行なつたもので(疎乙第五号証)相手方が出入国管理令二四条四号ロに該当
することについての争いは全くないのである。そのことは昭和四五年二月二八日付
の相手方の執行停止申請補充書によつても一見して明らかなように相手方はこれに
反するなんらの主張もしていない。
(二) 相手方が主張する違法理由は、法務大臣が相手方に対して出入国管理令五
〇条に基づき在留特別許可を与えなかつたのは、裁量権の濫用ないし逸脱があると
いう点である。
 しかし、意見書においても述べたように、法務大臣の在留特別許可は出入国管理
令五〇条の規定から明らかなとおり、異議の申出に対する裁決の特例としてなされ
るものであり、在留特別許可を与えるかどうかは法務大臣の自由裁量に属するもの
であつて、しかもその許可は国際情勢外交政策等をも考慮のうえ、行政権の責任に
おいて決定さるべき恩恵的措置であり、裁量の範囲のきわめて広いもので、法務大
臣がその責任において裁量した結果については充分尊重されて然るべきものであ
る。
 しかも、法務大臣が在留特別許可をするに際しては、個別的に主観的客観的要件
を総合して特別に在留を許可すべき事情の有無を判断するのであつて判断の基準先
例あるいは規範は存しないのである。
(三) 相手方は、申請補充書において、さらに本件処分が確立された国際法規並
びに憲法九八条二項に違反する旨主張するが相手方が確立された国際法規とする難
民の地位に関する条約は、一般的に難民の処遇を定めたものでなく、第二次世界大
戦前の各種条約および協定中で難民とされていた者IRO憲章で難民とされている
者であつて、かつ、民族、宗教、国籍、特定の社会に属すること等の理由で確実な
恐怖のため本国を難れている者であつて、本国の保護を受けることが不可能または
希望しない者等を対象としているのである。
 難民の地位に関する条約の加盟国がその条約上の義務を負担していることは別と
して、わが国を含む未加盟国が難民を本人の意思に反して送還してはならないとい
う一般的な国際慣習法上の義務を負うものではない。すなわち、難民保護を一種の
努力目標とすることは格別、現在の国際法上はいまだ国家の一般的義務として確立
されていないというべきである。
 相手方は、昭和三五年三月家族とかわれ本人の自由意思で不法入国してきたので
あつて、相手方がいわゆる難民に該当しないことは明らかであり、確立された国際
法規ならびに憲法九八条二項に違反するものではない。
 よつて、本案について理由のないことは明白である。
第二、回復の困難な損害を避けるための緊急の必要性はない。
(一) 回復の困難な損害はない。
1、原決定は「相手方は、本件退去強制令書に基づく執行を受けるときは、これに
より回復困難な損害を蒙るおそれがあり、これを避けるため、右執行を停止すべき
緊急の必要がある。」と認められる。と判示されるが、いかなる点が相手方に回復
の困難な損害であるかについては判示されるところはない。相手方の主張によれ
ば、収容・送還されることによつて相手方が早稲田大学第一商学部を卒業すること
ができなくなること、大学院への進学の道が閉されることが回復の困難な損害を生
ずることになるというものと思われる。
2、しかしながら、早稲田大学に在学中であるとはいつても学業状況については既
にのべたとおりであり、いわば形式的なものにすぎず未だに卒業に至らないもので
ある。しかも相手方は、昭和四三年度より授業に出席していないばかりでなく、授
業料も未納のまま放置し、抹籍対象者となつていたところ(疎乙第六号証)不法残
留となり、本件退去強制手続きが開始され、東京入国管理事務所に収容されていた
同四四年六月九日に、養母cの夫dが早稲田大学に未納授業料を納入して抹籍を免
れたものであり(疎乙第七号証)、同四二年四月以降は一単位も取得していない状
況で(疎乙第八号証)、勉学に熱意があるとはとうてい認められない。
3、また相手方は大学院に進学予定であると申し立てているが、そのような希望は
在留期間更新許可申請にあたつてはもちろん退去手続における違反調査、審査なら
びに口頭審理のいずれの段階においても申し立てたことはなく、(疎乙第九号証)
本件執行停止申立においてにわかに表明したものであり、大学学部における就学状
況を勘案しても、相手方が真に大学院において、より高度の学問を修めようと希望
しているものではなく、実は、形式的在学の事実により、留学生としての在留資格
を得て、本邦に居坐りを策しているものといわざるをえない。
4、したがつて、相手方の本邦における在留目的(学業)はすでに実質的に失なわ
れたものと認められるので、退去強制令書の執行をうけることによつて蒙る回復の
困難な損害は存しない。
(二) 緊急の必要性はない。
 外国人退去強制令書の執行は、被退去強制者をその令書に記載された送還先へ送
還することと、送還のための所定の場所への収容を含むものであるところ、原決定
は、その両者とも執行を停止するものである。
 このように、収容部分の執行をも停止される場合には、相手方は、出入国管理令
による外国人としての管理を受けることなく、全く無制限に行動することができる
ことになり、このまま、本案判決確定に至るまでの相当長期間放置を余儀なくされ
ることは、法定の資格なく、事実上本邦に在留を認めると同じ結果を招来し、出入
国管理行政を混乱させることになる。
 なお、場合によつては、相手方は所在不明となり、本案判決が、抗告人の勝訴に
確定しても本件処分の執行が不能になるおそれも十分予想されるところである。
 相手方は、本件処分により収容されても出入国管理令五四条による仮放免の請求
をすることができるし、その場合、抗告人側は一定の保証金を納付させ、住居およ
び行動範囲の制限、呼出しに対する出頭の義務、その他必要と認める条件を付して
仮放免することができるのである。
 したがつて、仮に送還部分の執行を停止されるとしても、予め、収容部分の執行
の停止をも認めねばならない緊急の必要性はなく、少なくともこの限度で原決定は
変更されるべきものである。 以上

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