弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人等の弁護人江橋活郎、同海野普吉、同江橋英五郎の上告趣意は末尾添付の
別紙書面記載のとおりである。
 同弁護人等の上告趣意第一点について。
 記録を調べても、所論の被告人Aの供述が強制拷問または脅迫による自白である
ことは、これを認めるに足りない。されば所論違憲の主張はその前提を欠くもので
あつて、上告適法の理由とならない。
 同第二点について。
 所論のように、被告人B、同Cが、被告人A、同Dと共謀して、被告人E外二名
に対し、候補者Fのための投票及び投票取纒等の選挙運動の費用報酬を供与したと
いう事実は、原判決の認定しないところである。されば所論高等裁判所の判例違反
を主張する論旨は、原判決の認定に副わない事実を前提とするものであり、大審院
の判例違反を主張する論旨は、具体的に判例を示さないので、いずれも上告適法の
理由とならない。
 同第三点について。
 所論は単なる訴訟法違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない(
二個の訴因として起訴された事実について、裁判所がこれを審理の上包括一罪とし
て処断した場合は、訴因全部に亘り審判を経たものであつて、審判の請求を受けた
事件について判決しない違法があるものということはできない)。
 同第四点について。
 公職選挙法二五二条一項が所論の憲法の各条規に違反するものでないことは、当
裁判所判例(昭和二九年(あ)四三九号、同三〇年二月九日大法廷判決、昭和二四
年(れ)一九〇九号、同二五年四月二六日大法廷判決)の趣旨に徴し明らかである
から、所論違憲の主張は理由がない。なお所論量刑不当の主張は刑訴四〇五条の上
告理由に当らない。
 また記録を調べても、本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められな
い。
 よつて同四〇八条により主文のとおり判決する。
 この判決は、上告趣意第四点の公職選挙法二五二条一項の合憲性につき裁判官池
田克の少数意見がある外、裁判官全員一致の意見によるものである。
 右論点に関する裁判官池田克の少数意見は、左のとおりである。
 公職選挙法第二五二条の合憲性を判示した当裁判所大法廷の昭和三〇年二月九日
の判決は、私が裁判官に就任する前、たまたま被告人の弁護人となつていた事件(
昭和二九年(あ)第四三九号)についてなされたものであつて、裁判官としては関
与することができなかつたものである。もとより、それだからと云つて、少数意見
を表示するの理由とならないことは云うまでもないところであるが、私の考えでは、
少くとも選挙権に関する限り、選挙犯罪に因る処刑者について公職選挙法第二五二
条の定めるところは、一般犯罪に因る処刑者に対して差別するものであつて、憲法
第一四条第一項、第一五条第三項、第四四条但書の各条規に牴触するものと解され、
看過することができないので、ここに、私の意見を要点的に表示することとする。
 右の憲法各条規が強く保障している選挙権は、主権在国民の日本国憲法のもとに
おいては、国民にとつて最も重大な参政権の一つであり、最も大切な基本権の一つ
であるから、それらの保障の例外の場合を認めて国民の或るものを差別するとして
も、その差別は、合理的な最少限のものにとどめなければならない。国政上、何人
にも首肯される理由のあるやむを得ない差別でなければならない。これを犯罪処刑
者について云えば、公職選挙法第一一条第一項が定めている一般犯罪処刑者の差別
待遇は理由のあるやむを得ないものであつて、国民一般との関係において同条項程
度の差別を設けても、憲法違反をもつて目すべきではないであろう。しかし、犯罪
処刑者をいわゆる欠格者とすることは、せいぜい、その程度の差別に限局されるべ
きであつて、その限度を超えた差別規定を定めることは、憲法に牴触するものと解
される。公職選挙法第一一条第二項によれば、選挙犯罪処刑者に対する選挙権の停
止については第二五二条の定めるところによるものとされ、同条第一項、第二項に
おいて厳しい特別の定めがなされているのである。かくのごときは、選挙犯罪処刑
者なるの故をもつて限度を超えてこれらの者の参政権をうばい、憲法の保障する国
民の基本権を犯すものであつて、理由のない差別といわなければならない。
 私といえども、選挙の公正が厳粛に保持されなければならないとすることにおい
ては、多数意見と見解を同じくする。しかし、このことを重視するの余り、一般犯
罪処刑者と選挙犯罪処刑者との間に差別を設け、後者のうち、禁錮以上の処刑者に
対し更に長期にわたる選挙権の停止期間を定めるの外、刑の執行猶予者に対しても、
また、罰金処刑者に対してまでも、それらのものの選挙権を停止する定めをするこ
とは、選挙制度として行き過ぎである。多数意見によれば、一旦選挙の公正を阻害
し選挙に関与せしめることが不適当と認められるものは、しばらく選挙権の行使か
ら遠ざけて選挙の公正を確保すると共に、本人の反省を促すことが相当であるから
それらのものの選挙権停止の特別処遇を規定しても、これをもつて不当に国民の参
政権をうばうものと云うべきでないとするのであるけれども、第一にそれは、選挙
権が、旧憲法のもとにおけるのと現行憲法のもとにおけるのとでは、本質的に異な
つているものであることを過少評価するものであり、第二にそれは、旧憲法の末期
に加えられた旧衆議院議員選挙法第一三七条の規定が、現行憲法の施行後において
も、なお、そのままに公職選挙法第二五二条として踏襲されていることに深き思い
をいたすことなく、ただ、選挙の公正保持の必要性を過重評価し、越えてはならな
い限界を逸脱している同条項を強いて合理化しようとするものである。
 おもうに、日本国民は主権者であつて、その本領は参政権によつて実現されるも
のであり、選挙権こそは、その中心をなすものと云わなければならない。それであ
るのに、選挙犯罪処刑者だからと云うので、処刑者たることにおいて同様の地位に
ある一般犯罪処刑者と差別した処遇をなすことは、主権者としての国民の能動的地
位を不当に長期間うばい、または、うばうべきでない者から不当にうばうものであ
つて、民主主義憲法の大趣旨にそわないものと云わなければならない。私の憂うる
ところは、選挙制度上、選挙権が余りに軽く扱われているのではないかと云うこと
である。選挙権を尊重しないで、どうして選挙の公正保持の目的を達成することが
できよう。若しそれ、選挙の公正保持の要請を充足しようとするのであるならば、
捜査の一層の合理化を図ることとあいまち、取締の周匝化に努めることによつて所
期の効果をあげる面が相当に残されていることに思いをいたすべきであり、仮りに
若し、選挙の公正を阻害し選挙に関与せしめることが不適当とみとめるものとして
も、その者が一定の期間選挙運動をすることができないような立法措置をなすをも
つて足りるのである。
 かように見て来ると、選挙犯罪処刑者の選挙権の停止を定めた公職選挙法の特別
規定は、憲法の条規に牴触するものであり、無効であると云わなければならない。
原判決が本件に適用した同法第二五二条の規定は、選挙権に関する限り憲法に違反
するものであり、原判決は破棄されなければならない。
  昭和三〇年五月一三日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    池   田       克

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