弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人村林隆一、同今中利昭、同吉村洋、同角源三、同深井潔、同小泉哲二、
同井原紀昭の上告理由第一点について
 記録に徴すれば、第一審の訴訟手続に所論の法令違背があるとは認められず、右
法令違背があることを前提とする所論理由不備の主張は、その前提を欠き失当であ
る。論旨は、採用することができない。
 同第二点について
 記録にあらわれた本件訴訟の経緯に徴すれば、第一審及び原審の訴訟手続には審
理不尽の違法があるとは認められない。論旨は、採用することができない。
 同第三点及び上告代理人原増司、同酒井正之、同佐藤恒雄の上告理由第一点につ
いて
 原審は、被上告人の長押が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて判断す
るにあたり、(1) 本件考案の明細書の実用新案登録請求の範囲の項に、「芯材2
の正面及び裏側にベニヤ板3、3′を貼合せ、裏面側のベニヤ板3′は裏打材4に
よつて裏打ちすると共に、表側のベニヤ板3、芯材2の上面及び芯材2と裏打材4
の底面をこれらの面に貼着した単板の良質木材5によつて被覆した事を特徴として
なる長押。」と記載されていること、(2) 同明細書の考案の詳細な説明の項に、
従来より使用されている長押が「木材を接着剤で積層し集成材となし、その三面(
正面、上面、底面)を単板の良質材(檜、杉等)で被覆するようなされていた」た
めに、温度や湿度の変化により曲り及び割れ目が生じ易いものであつたのに対し、
本件考案の長押は、「芯材の正面及び裏面にベニヤ板を貼合せ、裏面側のベニヤ板
は裏打材によつて固定し、又正面側のベニヤ板は単板の良質木材によつて被覆する
と共に該良質木材で上面及び底面をも一体的に被覆するよう構成している」から、
温度や湿度が変化しても割れや曲りが生じることなく、しかも外観も損われずに美
麗であると記載されていること、以上の事実を確定したうえ、右事実に基づいて、
本件考案の要点は芯材の表面及び裏面にベニヤ板を貼合せる点にあり、これにより
温度や湿度による曲り及び割れを防止する効果を生ずるものであるから、本件考案
の長押の芯材は、それ自体ベニヤ板のように温度や湿度に対する耐性を備えている
ものとは異なり、そのような耐性を備えていない別の部材であると解すべきところ、
被上告人の長押は、温度や湿度に対する耐性を備えているベニヤ板を芯材に用いる
ものであり、更に、本件考案の長押は独立の存在である芯材の両側面にベニヤ板を
貼合せて製作するのに対し、被上告人の長押は既製のベニヤ合板をそのまま利用し
て製作するものであるから、両者は技術的思想を異にするものである、と判断した
ことは、その判文に照らして明らかである。
 ところで、前記原審認定の事実によれば、本件考案の明細書には、集成材を用い
る従来の長押には温度や湿度に対する耐性はなかつたが、実用新案登録請求の範囲
の項に記載されたとおりの構成をとる本件考案の長押には温度や湿度に対する耐性
がある、と記載されているにとどまり、本件考案にいう「芯材2」がどのような材
料のものであるかについては記載されていないのであるから、明細書の右記載から
本件考案の長押の芯材はベニヤ板のように温度や湿度に対する耐性を備えているも
のとは異なり、そのような耐性を備えていない別の部材に限るとすることは、困難
であるといわなければならない。更に、実用新案法における考案は、物品の形状、
構造又は組合せにかかる考案をいうのであつて(実用新案法一条、三条参照)、製
造方法は考案の構成たりえないものであるから、考案の技術的範囲は物品の形状等
において判定すべきものであり、被上告人の長押が本件考案の技術的範囲に属する
か否かの判断にあたつて製造方法の相違を考慮の中に入れることは許されないもの
というべきである。
 以上によれば、前記原審認定の事実に基づき原審が判示するような解釈のもとに、
被上告人の長押が本件考案の技術的範囲に属しないと判断することはできないもの
といわなければならない。
 しかしながら、前記原審認定の事実によれば、本件考案において「ベニヤ板」は
それ自体一構成部分をなすものと観念されていることは明らかであるから、ベニヤ
板を一構成部分として本件考案と被上告人の長押とを対比してみると、本件考案の
長押の本体は、芯材並びに正面及び裏面の各ベニヤ板から構成されているのに対し、
被上告人の長押の本体は、ベニヤ板のみから構成されており、本件考案の「芯材2
の正面及び裏面にベニヤ板3、3′を貼合せ」るという構成を備えていないものと
いわざるをえない。したがつて、被上告人の長押は、本件考案とは構造上技術的思
想を異にするものであつて、本件考案の技術的範囲に属しないものであり、これと
結論を同じくする原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論
の違法はなく、論旨は採用することができない。
 上告代理人原増司、同酒井正之、同佐藤恒雄の上告理由第二点について
 原判文に照らせば、所論の証拠を採用しなかつたことが明らかであるところ、証
拠の採否についてはその理由を説示する必要はないから、所論の証拠を採用しなか
つた理由を説示しなかつたことが原判決の違法を来すものではなく、原判決に所論
の違法はない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    環       昌   一
            裁判官    横   井   大   三
            裁判官    寺   田   治   郎

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