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平成22年6月28日判決言渡
平成21年(行ケ)第10409号審決取消請求事件(商標)
口頭弁論終結日平成22年5月17日
判決
原告オムロン株式会社
訴訟代理人弁理士青木篤
訴訟代理人弁護士上谷清
同永井紀昭
同仁田陸郎
同萩尾保繁
同山口健司
同薄葉健司
同石神恒太郎
訴訟代理人弁理士原隆
同山口現
被告特許庁長官
指定代理人小田昌子
同佐藤達夫
同田村正明
同豊田純一
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2009−16391号事件について平成21年11月4日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,原告が,下記(1)の商標(本願商標)について商標登録出願をした
ところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁
から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。
2争点は,①本願商標が下記(2)の引用商標と類似するか(商標法4条1項1
1号),及び,②審判手続の違法性の有無等である。

(1)本願商標
・商標
・指定商品
第9類
「配電用又は制御用の機械器具,受変電設備の絶縁監視用配電盤,照
明用器具・暖房用器具・空気調和設備・火災報知器・防犯監視装置か
らなる建物管理設備用電気開閉装置,漏電監視装置,消費電力監視装
置,電子応用機械器具及びその部品並びに付属品,省燃費運転指導警
報装置用のコンピュータプログラム,省燃費運転指導警報装置,火災
報知機,ガス漏れ警報器,各種センサーからの信号を検知して監視者
へ自動通報する警報装置,漏電警報装置」(被告主張)
又は
「漏電監視装置,消費電力監視装置,各種センサーからの信号を検知
して監視者へ自動通報する警報装置,漏電警報装置」(原告主張)
(2)引用商標
・商標
・指定商品
第11類
「電気機械器具,電気通信機械器具,電子応用機械器具(医療機械器
具に属するものを除く)電気材料」
・出願昭和62年4月16日・商標登録第2210856号
・登録平成2年2月23日・商標権者株式会社東芝
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
ア原告は,平成20年3月21日,本願商標につき,指定商品及び指定役
務を下記のとおりとして商標登録出願(商願2008−21254号)を
したが,拒絶査定を受けたので,平成21年8月20日付けでこれに対す
る不服の審判請求をした。

・第9類
「配電用又は制御用の機械器具,受変電設備の絶縁監視用配電盤,照
明用器具・暖房用器具・空気調和設備・火災報知器・防犯監視装置から
なる建物管理設備用電気開閉装置,漏電監視装置,消費電力監視装置,
電子応用機械器具及びその部品並びに付属品,省燃費運転指導警報装置
用のコンピュータプログラム,省燃費運転指導警報装置,火災報知機,
ガス漏れ警報器,各種センサーからの信号を検知して監視者へ自動通報
する警報装置,漏電警報装置」
・第37類
「建設設備の運転・点検・整備,建設設備の運転状況の遠隔監視,建
築設備の運転状況の遠隔監視に関する情報の提供,ボイラー・冷暖房
・配電設備等の建築物附帯設備の運転及び点検,建物の電源設備・空
調設備・衛生設備・防犯設備・防災設備の運転・管理・保守」
・第42類
「省エネルギーに関するコンサルティング,コンピュータサイトのホ
スティング(ウェブサイト),電子計算機の貸与,電子計算機用プログ
ラムの提供」
イそして,原告は,同じく平成21年8月20日付けで,本願の指定商品
及び指定役務から上記第37類部分及び第42類部分を削除する手続補正
(甲2)をするとともに,本願からの分割出願として,本願商標につき上記
第37類部分及び第42類部分の指定商品及び指定役務につき商標登録出
願をし,同出願は平成22年1月15日に商標登録第5294072号と
して設定登録を受けた(甲147)。
ウ特許庁は,上記イの不服審判請求を不服2009−16391号事件と
して審理し,平成21年10月15日付け(発送日平成21年10月20
日)で原告宛に審理終結通知(甲11)を発したところ,これに対し原告は,
平成21年10月23日付けで特許庁に審理再開の上申書(甲8)を提出す
るとともに,本願の指定商品(第9類)をさらに下記のとおりに変更する手
続補正(以下「本件補正」という。甲9)をしたが,特許庁は,平成21年
11月4日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その
謄本は同年11月17日原告に送達された。

「漏電監視装置,消費電力監視装置,各種センサーからの信号を検知して
監視者へ自動通報する警報装置,漏電警報装置」
(2)審決の内容
審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願商
標と引用商標とは,外観上近似し称呼及び観念を共通にする類似の商標で
あって指定商品も同一又は類似であるから,商標法4条1項11号に該当す
る,というものである。
(3)審決の取消事由
しかしながら,上記審決には,以下に述べるとおり,実体上又は手続上の
誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(本願商標の指定商品認定の誤り)
(ア)審決は,本願商標の指定商品は「第9類『配電用又は制御用の機械器
具,受変電設備の絶縁監視用配電盤,照明用器具・暖房用器具・空気調
和設備・火災報知機・防犯監視装置からなる建物管理設備用電気開閉装
置,漏電監視装置,消費電力監視装置,電子応用機械器具及びその部品
並びに付属品,省燃費運転指導警報装置用のコンピュータプログラム,
省燃費運転指導警報装置,火災報知機,ガス漏れ警報器,各種センサー
からの信号を検知して監視者へ自動通報する警報装置,漏電警報装
置』」であると認定した(1頁26行∼2頁4行)。
しかし,本願商標の指定商品は,平成21年10月23日付けの本件
補正により,第9類「漏電監視装置,消費電力監視装置,各種センサー
からの信号を検知して監視者へ自動通報する警報装置,漏電警報装置」
に補正されており,審決の上記認定は誤りである。
(イ)すなわち,原告は,平成21年8月20日に本願の拒絶査定に対する
不服の審判請求をしたところ,同年10月20日に特許庁から審理終結
通知の送達を受け,同年10月23日に同日付け手続補正書(甲9)及び
審理再開を内容とする上申書(甲8)を提出したが,同年11月4日に審
決がなされ,同年11月17日にその謄本の送達を受けた。
そして,商標法は,補正をすることができる時期に関し,商標登録出
願をした者は,事件が審査,登録異議の申立についての審理,審判又は
再審に係属している場合に限り,その補正をすることができる旨を規定
しているところ(商標法68条の40第1項),本件補正は,上記のと
おり,審決が原告に送達される平成21年11月17日以前である同年
10月23日,すなわち不服審判係属中になされているから,適法な補
正である。
また,本件補正は,平成21年10月20日に原告に送達された審理
終結通知後になされたものであるが,商標法68条の40第1項が補正
に一定の制限を設けたのは,一切の補正を認めない場合に被る出願人等
の不利益を避けるとともに,①補正を無制限に認めた場合に補正にかか
る手間と時間がいたずらに増加して事件の処理能力の低下や審査の大幅
な遅延を招くことを避け,②補正効果の遡及効によって登録により公知
になった事項がいつでもどのようにでも変更されることにより法的安定
性が害されることを避けるところにある。そして,本件では,平成21
年8月20日の不服審判請求からわずか2か月後の同年10月20日に
審理終結通知が送達されており,異例の速さで審理が終結されたといえ
ること,審理終結通知は請求人(原告)に何ら予告もなく行われるもので
あり,本件もその例外ではなかったこと,このような経緯でなされた審
理終結通知に対し,同通知到達から3日後に本件補正がなされているこ
とからすれば,本件補正は補正にかかる手間と時間をいたずらに増加さ
せて事件の処理能力の低下を招くものではなく,審査の大幅な遅延を招
くようなものでもない。加えて,本件は,登録により公知になった事項
を変更することにより法的安定性が害される場合にも当たらない。した
がって,本件補正は,商標法68条の40第1項の趣旨に反するもので
はなく,実質的にも同条項による適法な補正である。
さらに,ほかに審理終結通知後の補正を制限する規定はない。
(ウ)以上のとおり,本件補正は,商標法68条の40第1項による適法
な補正であり,補正の効果は当初の手続に遡及するので,本願商標は,
当初から減縮された範囲を指定商品とする出願とみなされる。よって,
審決の指定商品の上記認定は誤りである。
イ取消事由2(本願商標と引用商標の類否判断の誤り)
審決は,本願商標は引用商標と類似の商標であり商標法4条1項11号
に該当するとしたが,以下に述べるとおり誤りである。
(ア)本願商標中「watching」の文字部分を抽出することの可否
a商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又
は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,
需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に
係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり,複数の
構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構
成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そ
のものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商
品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認
められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観
念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきで
ある(最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228
号563頁,裁判所時報1467号7頁,判例時報2021号92
頁)。すなわち,複数の構成部分を組み合わせた結合商標に関しては,
その構成部分の一部を抽出し,その部分だけを他の商標と比較して商
標の類否を判断することは原則として許されないが,①商標の構成部
分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として
強く支配的な印象を与えるものと認められる場合,②それ以外の部分
から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合な
どは,例外として構成部分の一部を抽出して他の商標と比較すること
も許されるというべきである。
bかかる見地から本願商標中の「watching」の文字部分が出所識別標
識として強く支配的印象を与えるか否かを見るに,以下の各事実に照
らすと,本願商標中の「watching」の文字部分が取引者,需要者に対
し出所識別標識として強く支配的印象を与えないことは明らかである。
①外観上の特徴
本願商標の「」の部分は小文字で筆記体風に表され,ハイフン
の後に位置する小文字のゴシック体で表された「」の文
字と比べると大きく顕著に表されている。かかる本願商標の外観に
接した者は,「」の部分については,文字が他の部分に比べ大き
く筆記体風に肉太に図案化されていること,他方「」の
部分については,比較的小さな文字で整然と配列されていることな
どから,「」の部分ないし「」を含む本願商標全体から特徴的
な印象を受けると解するのが自然である。すなわち,外観上,
「」ないし「」の部分が捨象されて見る者に認識されるとはい
えないし,「」の文字部分だけが独立して見る者の注意
を引くように構成されているということもできない。
②本願商標の指定商品に使用した場合の「」の文字部分
の識別力
「watch」とは,英語で「見守る,注意[用心,警戒]する,監
視する」などの意味を有し(株式会社小学館「ポケットプログレ
ッシブ英和辞典<第2版>」,甲12),動詞の原型に「ing」が
付加されることで英文法上,動名詞ないし現在分詞となるが,「wa
tching」もまた上記意味を有する。また,「watching」の片仮名表
記である「ウォッチング」の語は,「観察,見張り,監視」の意味
を有する(株式会社集英社「イミダス編集部編imidas現代人のカ
タカナ語欧文略語辞典」,甲13)。したがって,「watching」と
は,「観察,見張り,監視」などといった観念を生ずる語といえる。
この「watching」を含む本願商標が,本件補正後の本願商標の指
定商品,すなわち「漏電監視装置,消費電力監視装置,各種センサ
ーからの信号を検知して監視者へ自動通報する警報装置,漏電警報
装置」(以下「本件補正後指定商品」という。)に用いられた場合,
「watching」の文字部分は,「監視装置」や「警報装置」といった
本件補正後指定商品の性質,用途等を記述的に表記したものか,本
件補正後指定商品と密接に関連するものであるから,自他商品識別
力は全くないか,あるとしても弱いものにすぎず,出所識別標識と
しての強く支配的な印象を与えるものではない。
また,「watching」ないし「ウォッチング」の語は,監視装置・
サービスなどの分野において,監視などの装置特性を表す記述とし
て使われている例が多数あることからも,「」の文字部
分のみでは識別標識として機能し得ないというべきである。
③引用商標の識別力
引用商標「WATCHING」は,平成2年2月23日の設定登録以後,
商標として使用された形跡がなく,むしろ,引用商標権者自身に
よって,引用商標権者の自社製品「FactoryView」がWebブラウザ
を使って監視を行うシステムであることを説明するために「WebWa
tchingSystem」などと「Watching」の語が記述的に用いられてい
る(甲21)。また,引用商標権者の関連会社も,企業店舗向け業
務用カメラ監視システムについて,「ネットワークカメラ監視シス
テム/NetWorkWatchingSystem」のように記述的に使用している
(甲22)。したがって,引用商標には特定の出所を示す識別力は
ない。
④「WATCHING」ないし「ウォッチング」を含む商標の存在
本件補正後指定商品に類似する商品・役務の分野で,「WATCHIN
G」又は「ウォッチング」を含む商標が存在し,「WATCHING」又は
「ウォッチング」と観念(観察,見張り,監視)が同じである「WA
TCH」又は「ウォッチ」を含む商標については,膨大な数の商標が
登録されていることからすると,本願商標のうち「」の
部分のみが識別力が高いということはできない。
⑤本願商標は分離することが取引上不自然なほど結合していること
「e(-)」の語は,「電子の」又は「インターネットを介した」
や「通信回線を介した」などの意味を暗示するものとして,コンピ
ュータの関連分野にとどまらず我が国一般に親しまれた語であり,
「e‐」を用いた用語は,商標にとどまらず社会一般で多数使用さ
れている。それらは,いずれも一定の言葉による表現(「○○○」)
に「e‐」が付加されることで,本来の「○○○」の言葉とは異なり,
「e‐○○○」が全体としてひとつの用語として用いられているから,
「e‐」の部分と「○○○」の部分に分けて「○○○」の部分だけを取
り上げることは不自然である。このような「e‐○○○」の使用実態
に照らせば,本願商標は,分離観察することが取引上不自然と思わ
れるほど不可分的に結合したものということができ,取引者,需要
者からは「e-watching」という一連一体の一種の造語と認識される
と見るのが自然である。すなわち,本願商標中「watching」の文字
部分だけが出所識別標識として強く支配的印象を与えることはない。
⑥小括
以上のとおり,本願商標は,①外観上「」の部分が注意を惹く
態様で記載されており,「」の文字部分だけが独立して
見る者の注意を引くように構成されているとはいえないこと,②本
願商標を本件補正後指定商品に用いた場合,「」の部分
は識別力が全くないかあるとしても弱いこと,③引用商標自身に識
別力はないこと,④本件補正後指定商品及び類似する指定商品にお
いて「watching」ないし「ウォッチング」を含む商標の登録例があ
ること(観念が同じ「WATCH」又は「ウォッチ」を含む商標も入れ
ると膨大な数の商標が登録されていること),⑤「e-○○○」の商標,
用語が一体の用語として多数使用されている現状から,本願商標は
分離することが取引上不自然なほど結合しているといえることに照
らすと,本願商標中「」の文字部分が出所識別標識とし
て強く支配的印象を与えるものと認められるとはいえない。
c次に,「」以外の部分である「」から出所識別標識と
しての称呼,観念が生じないと認められるか否かを検討すると,以下
のとおり,「」以外の部分「」から出所識別標識として
の称呼,観念が生じるということができる。
①外観上の特徴
前記のとおり,本願商標においては「」の部分が
「」の文字と比べ顕著に表され,見る者の注意を惹く態
様で構成されているから,「」の部分が捨象されて見る者に認
識されると解する余地はない。
②「(‐)」の称呼及び観念
「(‐)」からは「イー」との称呼が生じる。
また,「e(‐)」の語は,「電子の」又は「インターネットを
介した」や「通信回線を介した」といった観念を生ずる。
そして,本願商標を本件補正後指定商品に使用した場合,「
(-)」の部分は,本件補正後指定商品「漏電監視装置,消費電力
監視装置,各種センサーからの信号を検知して監視者へ自動通報す
る警報装置,漏電警報装置」との関係で,取引者,需要者に対し,
「電子の」又は「インターネットを介した」や「通信回線を介し
た」などのイメージを想起させるから識別力を有するというべきで
ある。また,後記のような本件補正後指定商品における本願商標を
使用した取引の実情に加え,近時の環境意識の高まりとともに
「e」をエコロジー(環境にやさしい)といった意味を暗示するも
のとして使用する例が多数存在し,このような用法が実際の商取引
において広く浸透していることに照らすと,取引者,需要者に対し,
エコロジー(環境にやさしい)といったイメージも想起させ,強い
識別力を有するというべきである。
d以上のとおり,本願商標は,商標の構成部分の一部「」
が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配
的な印象を与えるものと認められる場合には当たらず,それ以外の部
分「」から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認めら
れる場合にも当たらない。また,これらに類すると認められる他の事
情もない。よって,本願商標のうち「」の文字部分を抽出
して,本願商標と引用商標との類否判断をすることは許されない。
(イ)本願商標と引用商標の類否
a外観
本願商標は,前記のとおり,「」の部分が小文字で筆記体風に後
に続く部分に比し顕著に大きく表され,ハイフンを挟んで
「」の小文字を横書きしてなる部分が続くものであるのに
対し,引用商標は,「WATCHING」の大文字を単に横書きしてなる部分
だけから構成されており,本願商標と引用商標の外観は明らかに異な
る。
b称呼
本願商標の称呼は「イーウォッチング」であるのに対し,引用商標
の称呼は「ウォッチング」であるから,本願商標と引用商標の称呼は
異なる。
なお,本願商標の「イーウォッチング」は,略称を要するほど冗長
な称呼ではなく,これをさらに短縮するのは不自然なこと,実際の取
引において本件補正後指定商品の取引者・需要者間で一般に「ウォッ
チング」と略称されている事実もないこと,本願商標は後記のとおり
現に使用されていて,「」全体が一体として特定の出所
を識別するものとして広く知られている一方,「」だけで
は識別力はなく引用商標自身にも特定の出所を認識させる力はないこ
と,本件補正後指定商品及び類似する指定商品において「watching」
ないし「ウォッチング」を含む商標が登録されていること(観念が同
じ「WATCH」又は「ウォッチ」を含む商標も入れると膨大な数の商標
が登録されていること),「e-○○○」の商標,用語の使用例が多数あ
り,不可分一体に用いられていることなどから,本願商標が取引上,
「ウォッチング」と略称されることは,実際にはない。
c観念
本願商標からは,「電子による観察,見張り,監視」ないし「観察,
見張り,監視に関するある種コンピュータネットワーク(システム)」
との観念を生ずるのに対し(取引の実情を考慮すれば,前記のとおり
「エコロジー(環境にやさしい)」の観念も付加された上記「電子によ
る観察,見張り,監視」ないし「観察,見張り,監視に関するある種コ
ンピュータネットワーク(システム)」の観念も生ずる。),引用商標
からは「観察,見張り,監視」といった観念が生ずるにすぎない。した
がって,本願商標と引用商標の観念は異なる。
(ウ)取引の実情(本願商標と引用商標の使用状況)
本願商標は,以下のとおり,遅くとも審決時点では,本願商標
「」全体が監視装置及び同装置に関連する分野において原告
の出所識別標識として広く使用され,周知性を獲得しており,実取引で引
用商標「WATCHING」との混同を招くおそれは皆無である。
a本願商標の使用態様一般及び原告製品
原告は,遅くとも平成18年(2006年)5月から消費電力の管理
を始め各種エネルギーの管理を主眼とする遠隔監視システムに関する各
種ハード機器類及び関連サービス(以下,これらの機器類及びサービス
をまとめて「原告製品」という。)について本願商標の使用を開始し,
その後も後記のとおり,各種カタログその他広告宣伝活動において継続
して使用してきた。
原告製品は,M2M(MachinetoMachine)方式
のネットワークを介して行う独自の監視システムであって,携帯電話の
通信網に対応させた監視・通報システムを備えるものであり,電力デー
タをいわば「見える化」し,電力管理をサポートして,事業とエコロジ
ーを橋渡ししようというものである。言い換えれば,エネルギー(ener
gy)を電子技術(electronictechnology)による無線システムで監視
(watching)して,様々なサービスを提供し,これらがエコロジー(ec
ology)につながっていくというものである。主な使用先としては,オ
フィスビル,食品スーパー,チェーン店舗,工場及び学校などを想定し
ており,原告製品の取引者,需要者はこのような各種事業者である。
bカタログ類
原告製品は,平成18年(2006年)5月以降に作成された少なく
とも14のカタログ中で,本願商標が付されて掲載されてきた(甲40
∼53)。また,これらカタログ(甲43の2頁,甲47の1・3頁,
甲48の6・8頁,甲49の7頁等)には,本願商標が直接機器に使用
されている原告製品の写真が掲載されている。そして,原告は,平成1
8年(2006年)5月以降,上記カタログ類を多数作成し,取引先,
需要者へ配布するなどして,本願商標の下,多数の原告製品を販売して
きた。
c展示会・セミナー活動など
原告は,平成18年度(2006年度)から平成21年度(2009
年度)にかけて,多数の各種展示会・セミナーなどで,本願商標を付し
て原告製品の活発な販促・普及活動を継続的に展開してきた。上記期間
に出展した展示会は36か所(商品・パネル展示のみのものも含む。)
に上り,セミナーは平成20年度(2008年度)で9回行っている。
なお,原告は,展示会・セミナーにおいても,本願商標を使用して,
省エネによる温暖化防止,エコロジーとエコノミーの両立,省エネルギ
ーは使用エネルギーの「見える化」から,などの事業コンセプトを強調
して販促,普及活動を展開した。
d広告宣伝活動
原告は,ホームページ,雑誌,新聞等各種メディア,ダイレクトメー
ル,招待状,ノベルティグッズなどにおいて,本願商標の下,原告製品
の大規模な広告宣伝活動を展開してきた。
e販売実績等
上記のような広告宣伝活動,営業販売活動の結果,原告製品は,大規
模工場や京都市の全283校で導入された。また,大手製造業において
は製造ラインの電力使用量のモニタリングのために,スーパーマーケッ
ト,ファミリーレストラン,パチンコ店及び銀行などにおいては他店舗
チェーン向けESCO事業の計測ツールとして,大学及び病院などにおいて
は省エネ工事の効果検証のために,ファシリティ系事業者などにおいて
は中規模ビル向けエネルギー管理などのために,それぞれ原告製品を実
際に導入しており,原告製品は,特定の業界のみならず多方面で需要に
供された。原告製品の販売数量は,平成21年(2009年)7月16
日時点で,合計1万6215台に上り,総販売高は9億円を下らない。
f本願商標の使用状況のまとめ
以上のとおり,平成18年(2006年)以降,原告は,本願商標の
下で,各種展示会やセミナーにおいて原告製品を紹介するとともにカタ
ログ,価格表を多数の需要者に頒布し,また,ホームページ,新聞,雑
誌などの各種メディアで,不特定多数の者に原告製品を広く宣伝するの
みならず,ダイレクトメール,招待状,ノベルティグッズを用いて多く
の需要者の関心を高めるなどしてきた。その結果,本願商標は,遅くと
も審決当時には,特定の業界に限られない本件指定商品の広範な取引者,
需要者間では出所識別標識として広く知られるに至ったといえる。そし
て,このようにして本願商標が特定の出所識別標識として周知となって
いる以上,実際の取引に際して,引用商標との混同が生ずることはあり
得ない。
g引用商標の使用状況
前記のとおり,引用商標「WATCHING」は,平成2年2月23日の設定
登録以後,商標として使用された形跡がなく,引用商標権者自身が,そ
の自社製品「FactoryView」について「WebWatchingSystem」などと
「watching」の語を記述的に用い,引用商標権者の関連会社も,企業店
舗向け業務用カメラ監視システムについて,「ネットワークカメラ監視
システム/NetWorkWatchingSystem」のように記述的に使用している。
(エ)小括
以上のとおり,本願商標と引用商標とは外観,称呼,観念が相違する
ことは明らかである。加えて,実際の取引において,本願商標が原告製
品の出所識別標識として周知性を獲得する一方で,引用商標は商標的に
使用された形跡もなく識別力を獲得していないこと,本願商標が用いら
れる取引は,一般家庭の消費者ではなく企業,工場及び学校などの事業
者を主に対象とするものであり,取引者,需要者には相応の注意力があ
る上,1台当たりの単価が比較的高価な商品であり(大量消費される商
品と異なる。),取引者,需要者は自ずと相当の注意を払うはずである
こと,本願商標がそのまま原告製品カタログないし価格表などに用いら
れて実際の取引に供されており(電話のみによる取引などとは異な
る。),このような取引態様からして本願商標の「」の部分の特徴的
なデザインの有無による外観上の相違は大きく,取引者,需要者に与え
る印象の相違は大きいこと,本願商標に係る原告製品が省エネ効果,エ
コロジー効果を持ち,本願商標の「」の部分にそのような意味がある
ことを強調して販促活動を展開したため,実際の取引では「」の有無
による相違は大きいことなどの取引の実情からすれば,本件指定商品の
取引において本願商標が引用商標と紛れる余地はなく,両商標は類似し
ないものということができる。したがって,本願商標と引用商標を類似
すると判断した審決は誤りである。
ウ取消事由3(審理手続の違法)
商標法56条1項が準用する特許法156条2項によれば,審理終結後
に審理を再開するか否かは審判長の裁量に委ねられている。
しかし,同条項は,審理の完全を期する趣旨で設けられたものであり,
審判長の裁量といえども無制約ではなく上記趣旨を無視することは許され
ない。
この点,審決は,「請求人は,本件審判の審理の終結後の平成21年1
0月23日付け上申書及び手続補正書を提出して『審理を再開するよう上
申する』旨述べているが,その理由及び内容を検討するも上記判断に影響
を及ぼし得る程のものではないから,審理を再開する必要がない。」(5
頁23行目∼26行目)とし,指定商品を本件補正のとおり減縮しても本
願商標は引用商標と類似の商標であるとしている。しかし,前記のとおり,
本願商標と引用商標とは類似しない。また,本願商標を本件補正後指定商
品に用いた場合,「」の部分が記述的な表記であるか指定商品に
密接に関連する表記であることがより一層明確になる。さらに,そもそも,
指定商品の内容は商標権の権利範囲を画する重要な要素であり,出願商標
と引用商標との類否判断に重大な影響を及ぼすものであるから,指定商品
の減縮を内容とする補正は,審理の完全を期するとの同条項の目的を達成
するためには審理を再開すべき要請が強いものである。加えて,本件では,
前記のとおり,平成21年8月20日の審判請求からわずか2か月後の同
年10月20日に審理終結通知が送達されており,異例の速さで審理が終
結され,しかも審理終結通知は請求人に何ら予告もなく行われたこと,こ
のような経緯でなされた審理終結通知に対し,同通知到達から3日後に本
件補正及び審理再開の上申が行われたことといった経過にも照らせば,本
件補正に関する手続補正書が提出されたにもかかわらず審理の再開を行わ
なかったことは,商標法56条1項が準用する特許法156条2項の審判
長の裁量権を逸脱するというべきである。
よって,仮に,本件補正が適法になされたから本願商標の指定商品の認
定に誤りがあるとの主張(取消事由1)が認められない場合,つまり,審
理終結後は,手続補正書が特許庁に提出されただけでは補正の効果は生じ
ず,補正の効果が生じるためには審理を再開させなければならないとの考
えに立った場合でも,本件審判手続においては,本件補正に関する手続補
正書が提出された以上,審理を再開しない違法があったというべきである。
2請求原因に対する認否
請求原因(1),(2)の各事実は認めるが,(3)は争う。
3被告の反論
(1)取消事由1に対し
確かに,商標法68条の40第1項は,「商標登録出願,防護標章登録出
願,請求その他商標登録又は防護標章登録に関する手続をした者は,事件が
審査,登録異議の申立てについての審理,審判又は再審に係属している場合
に限り,その補正をすることができる。」と規定している。
しかし,一方で,商標法56条が準用する特許法156条1項は,「審判
長は,事件が審決をするのに熟したときは,審理の終結を当事者及び参加人
に通知しなければならない。」と規定している。そして,この「審決をする
のに熟したとき」とは,審理に必要な事実をすべて参酌し,取り調べるべき
証拠をすべて調べて結論を出せる状態に達したことをいい,審理終結の通知
後は原則として審理は行われない。すなわち,審理終結通知は,職権審理主
義が支配する審判手続において,区切りをつけて審理の進行をはかり,審判
終了の遅滞を防止するためのものであるから,審理終結の通知が到達した後
に提出された手続補正書は,それを審理の対象にすることは,原則としてで
きないというべきである(東京高裁昭和40年7月29日判決・判例タイム
ズ180号173頁参照)。
本件補正に関する手続補正書(以下「本件手続補正書」という,甲9)は
審理終結通知の到達後に提出されたものであるから,審判において,審理の
対象となる本願の指定商品につき本件手続補正書を採択せず,平成21年8
月20日付け補正に係る指定商品を指定商品と認定した審決に何ら違法はな
い。
なお,審決は,審理を再開すべきかどうかを判断するために本件補正に係
る指定商品についても実質的な検討を行い,本件補正に係る指定商品「漏電
監視装置,消費電力監視装置」と引用商標の指定商品「電気機械器具,電気
通信機械器具」との商品の同一又は類似の可否を検討してこれを認定してい
る上,原告は本願商標と引用商標の指定商品が同一又は類似の商品であるこ
とについて争うことを明らかにしていないことに照らすと,審決に本件補正
に係る指定商品の記載がないとしても,補正の扱いについて誤っているとい
うことはできないから,商標法に違反したものとはいえない。
(2)取消事由2に対し
ア本願商標の分離観察につき
(ア)本願商標は,「」の文字から成るものであり,前半部の
「」の文字部分が筆記体風に大きく表され,かつ後半部の
「」の文字部分がゴシック体で表され,さらに「−」(ハイ
フン)で連結して成るところ,構成中の「−」(ハイフン)は,「言語
表記の補助符号として使用され,英文などで完全な複合語をなすには至
らない2語の連結,1語が行末までに収まりきれず2行にまたがる時の
つなぎ,又は,1語内の要素の区切りを示すのに使われる」(株式会社
岩波書店「広辞苑第六版」,乙2の1)ものである。そして,本願商標
は,「」と「」との間に「−」(ハイフン)が存在し,こ
のハイフンがその前後を区切るために使用されるものであることは,意
味合いからも表示自体からも明らかである。そうすると,本願商標は,
視覚上,ハイフンの前後で,「」と「」の各文字部分とが
分離して看取されるものである。
(イ)また,本願商標の前半部の「e」の文字は,「英語アルファベットの
第5字,文字eが表す音,電気の」などの意味(株式会社研究社「新
英和大辞典」,乙3),あるいは「アルファベットの五番目の文字,
音名の一つであるホ音,東又は東経を表す符号,自然対数の底,電気
素量を表す記号,電子を表す記号,エネルギーを表す記号」などの意
味を有する語であり(広辞苑第六版,乙2の2),「電子の,インタ
ーネットの」という意味を有することもあるから(自由国民社「現代
用語の基礎知識2010年版」,乙4の1),電気製品又は電子機器
を含む本願指定商品との関係で,「electric(電気の)の略
語」として,あるいは「電気素量又は電子を表す記号」等の意味合い
で理解されることが少なくないものである。そうすると,「e」の文
字に接した取引者・需要者は,この文字を「electric(電気
の)の略語」として,あるいは「電子」等の意味合いで理解すること
が少なくないというべきであり,本願指定商品との関係で,強い識別
力を発揮する文字部分ということはできない。
なお,原告は,一定の言葉による表現(「○○○」)に「e‐」が付加
された場合(「e−○○○」)の用語の使用例を挙げ,「e−○○
○」が全体としてひとつの用語として用いられていることから,「e
−」の部分と「○○○」の部分に分けて「○○○」の部分だけを取り
上げることは不自然であると主張している。しかし,原告が挙げる例
は,「e−○○○」全体として辞書等に掲載されているものを前提と
しているところ,それらの語の存在により,「e」が「電子」等の意
味合いを有することを理解することはできても,本願商標は全体とし
て辞書に掲載されている語ではないから,一連一体の語句として特定
の意味合いをもって一般に親しまれているということはできない。し
たがって,「e−○○○」の使用例は,本願商標の構成文字全体を常
に一体不可分のものとして把握しなければならない格別の事情を見い
だせない旨の審決の判断を左右するものではない。
(ウ)さらに,本願商標を構成する「」の文字部分は,英語で
「観察」(株式会社小学館「小学館ランダムハウス英和大辞典」,乙
5の1)の意味を有する語である。そうすると,本願商標を構成する
両文字部分は,それぞれが独立した意味を有している上に,その意味
内容において相互に関連性を有するものとはいえないから,観念上も,
本願商標の構成文字全体を常に一体不可分のものとして把握しなけれ
ばならない格別の事情も見いだせない。したがって,本願商標に接す
る取引者,需要者は,一般に親しまれた語であり,独立して自他商品
の識別標識としての機能を果たし得る「」の文字部分を分離
して把握,認識し,取引に当たる場合もあることは取引の経験則に照
らして極めて自然なことというべきである。
イ本願商標と引用商標の類否につき
(ア)称呼につき
本願商標は,「」の文字より成るところ,前記のとおり,
その構成中の「」の文字自体が独立して自他商品の識別標識
としての機能を果たし得るものといえるから,本願商標に接する一般の
取引者,需要者は,これを分離して把握,認識し,称呼することが十分
にあり得るものであって,本願商標からは,全体として
「」の文字に相応する称呼が生ずるとともに,
「」の文字部分よりは,「ウォッチング」の称呼をも生ずる
ものである。
他方,引用商標は,「WATCHING」の文字より成るものである
から,「ウォッチング」の称呼を生ずるものである。
そうすると,本願商標と引用商標とは「ウォッチング」の称呼を共通
にするものである。
(イ)観念につき
本願商標は,「」の文字より成るところ,前記のとおり,
その構成中の「」の文字自体も独立して自他商品の識別標識
としての機能を果たし得るものといえるものである。そこで,
「」の文字部分についてみるに,これが「観察」等の意味を
有する語であることは前記のとおりであるから,本願商標からは「観
察」の観念を看取し得る。
他方,引用商標は「WATCHING」の文字より成るところ,これ
もその英語自体の意味により「観察」の観念が容易に生ずるものである。
したがって,本願商標と引用商標とは「観察」の観念において共通す
るということができる。
(ウ)外観につき
本願商標と引用商標の外観を全体観察をもって視覚に訴えて対比観察
した場合,引用商標には本願商標の「」の文字及び「−」(ハイフ
ン)に相当する部分がないので,外観は相違するということができる。
しかし,両商標は,本願商標の「」の部分と引用商標の
「WATCHING」とは文字の綴りを同一とし,本願商標の
「」の部分は取引者,需要者の注意を引く部分であるから,
近似した印象を与えるものである。
なお,原告は,本願商標の「」の部分は小文字で筆記体風に表され,
ハイフンの後に位置する小文字のゴシック体で表された「」
の文字と比べると大きく顕著に表されていることから,外観上,「」
ないし「」の部分が捨象されて見る者に認識されるとはいえないと
主張する。
しかし,前記のとおり,本願商標を構成する「」の文字部分は,ア
ルファベットの「e」の文字を直ちに認識させるものである上,文字商
標の場合,何らかのデザインを施して使用されることが一般的であると
ころ,本願商標の「」の文字部分は顕著な特徴を有するような書体で
はなく,広くありふれた書体であり,独創的なデザインからなるとまで
はいえない。そして,前記のとおり,本願商標は「」の文字部分が筆
記体風に大きく表され,かつ後半部の「」の文字部分がゴシ
ック体で表され,さらに「−」(ハイフン)で連結してなるものである
から,視覚上,ハイフンの前後で,「」と「」の各文字部
分とが分離して看取されるものであり,かつ,「」の文字部分は,そ
の指定商品との関係において自他商品の識別標識としての機能を果たし
得ない。よって,本願商標中の「」の文字部分の特徴によって「」
の部分が捨象されるとはいえないとの原告の上記主張は理由がない。
(エ)小括
上記のとおり,本願商標と引用商標は,本願商標の「」の
文字部分と引用商標の「WATCHING」の文字は小文字,大文字の
差異があるとしても綴りを同一とするものであって,外観において両者
を特徴付ける主要な部分が近似した印象を与えるものであり,「ウォッ
チング」の称呼及び「観察」の観念を共通にする類似の商標であるから,
両商標をその指定商品について使用したときは,これに接する取引者,
需要者をして商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれがあるも
のというべきである。したがって,本願商標と引用商標は,商標におい
て類似するものであり,かつ,指定商品は同一又は類似のものであるか
ら,本願商標と引用商標は類似しているとした審決の判断に誤りはない。
ウ取引の実情につき
(ア)「」の識別性につき
原告は,「」の識別性について,「watching」の
語が辞典等で「観察,見張り,監視」と紹介されていることからすると,
その指定商品「電気機械器具,電気通信機械器具」との関係では記述的
に表記したものとして理解されるものであり,自他商品識別力が全くな
いか仮にあるとしても弱いものにすぎない旨の主張をしている。
しかし,ランダムハウス英和大辞典の「monitor」の項に「モ
ニター:機械や装置,特に,自動制御装置の動きを観察・記録する監視
装置,<ラジオ電波。電話の声など送信の状態を>(監視装置によっ
て)モニターする,監視する」との記載があり(乙5の2),実際に
「中央監視装置」が「Centralmonitordevic
e」(乙6の1),「全天X線監視装置」が「Monitorof
All−skyX−rayImage,MAXI」(乙6の2)のよ
うに訳されていることからすると,「監視装置」を指称するものとして
は「monitor」の語を使用することが一般的であり,指定商品に
「watching」の文字を用いたとしても,商品の品質,用途等を
意味するものと直ちに理解される可能性は低いというべきである。そし
て,現に「電源装置遠隔監視システムの開発」のタイトルの英訳が「D
evelopmentofRemoteMonitoring
SystemforPowerSupplySystem」
(甲18)とされ,「監視」の語の英訳には「Monitoring」が
使用されているし,原告ホームページ中の原告商品についての説明でも
「ネットワークを通じ,パソコンや携帯電話から電気,ガス,水道など
のあらゆるエネルギー使用量をモニタリング,操作できます。」との記
載(乙7)があり,「監視」の機能を表示するものとして,原告自身も
「watching」(ウォッチング)でなく,「モニタリング」(m
onitoring)を採用している。
そうすると,本願商標の指定商品である「漏電監視装置,消費電力監
視装置」の「監視」機能を有する装置に使用する場合はもとより,本願
の指定商品中のいずれの商品に使用する場合であっても,
「」の文字部分が自他商品識別標識としての機能を有さない
ものであると判断しなければならない特段の理由はないというべきであ
る。よって,原告が挙げた「watching」の使用例のみをもって,
「watching」の文字がその指定商品との関係では記述的な言葉
として理解され得るものということはできないから,独立して商標とし
て使用した場合に識別標識として機能し得ないということはできない。
(イ)本願商標の周知性につき
原告が提出した証拠からは,原告は,平成18年(2006年)以
降,「遠隔監視通報システム」,「トータルエネルギーソリューショ
ン」及び「エネルギー遠隔監視通報システム」等に「e−watch
ing」の文字を使用し,平成18年度(2006年度)から平成2
1年度(2009年度)にかけて36か所の展示会場において出展し,
「トータルソリューションシステムe−watching」に関す
るセミナーを平成20年度(2008年度)に9回行い,平成18年
(2006年)8月から平成20年(2008年)7月までに「トー
タルソリューションシステムe−watching」を合計1万6
215台販売し,京都市内では約300セットの原告の機器が販売さ
れたことを認めることができる。
しかし,原告が「e−watching」の標章を使用したのは平
成18年(2006年)からであって,使用開始から3年ないし4年
程度しか経っておらず,これを長期間使用したものとはいえない。ま
た,展示会やセミナーの開催回数は決して多いとはいえない上,開催
場所は東京,大阪に偏っており,全国規模で行っているものとはいえ
ない。さらに,その販売実績も約3年の間の総数として1万6215
台であり,かかる販売数が同製品の業界においてどの程度の市場規模
であるのかは販売台数のみからは分からない。加えて,原告の製品が
京都市内で約300セット販売されたとしても,京都市以外の地域で
の売り上げ等の実績の証左もない。
そうすると,本願商標が需要者の間に広く知られているものとはいえ
ず,本願商標の周知性に係る原告の主張は理由がない。
(ウ)引用商標の使用状況につき
原告は,引用商標の使用状況について,引用商標は商標的に使用され
た形跡もなく,識別力を獲得していないと主張する。
しかし,商標法4条1項11号は,先願登録主義を採用した我が国の
商標登録制度の基本として,先願に係る他人の登録と抵触する商標は登
録をしない旨定めたものである。これは既登録商標の権利を保護するた
めの私益保護規定であり,同時に取引における競業秩序が重複登録によ
り乱されるおそれがあるのを防ごうとする公益保護のための規定である
ことも否定できない。そして,引用商標が登録されているものである以
上,その登録商標の使用の有無とは関係なく,出所の混同のおそれなど
の要件を満たすときは商標法4条1項11号が適用されるべきである。
すなわち,我が国商標制度は先願登録主義を採用し,先願に係る他人の
登録商標と抵触する同一又は類似の商標の登録を認めないとものとし,
そのことによって,登録商標につき商標権者の専用権,禁止権を保障し
ているものであるから,先願に係る他人の登録商標と抵触する同一又は
類似の商標の登録を認めることは,登録主義の権利性を希釈化ないし弱
体化することになり,商標制度の趣旨に反するものである。
そうすると,他人の登録商標が現実に使用されているか否かは類否判
断に際し考慮すべき取引の実情には当たらないというべきであり,原告
の前記主張は理由がない。
(3)取消事由3に対し
確かに商標法56条1項が準用する特許法156条2項は,「審判長は,
必要があるときは,前項の規定による通知をした後であっても,当事者若し
くは参加人の申立により又は職権で,審理の再開をすることができる。」と
規定している。
しかし,審理の再開は審理の完全を期するために行われるものであるから,
重大な証拠の取調べが未了であったとか,審理終結通知の到達前に請求の理
由の補充,明細書の補正などがされていた等の場合であって,かつ,審判長
が必要と認めた場合に行われるものである。したがって,請求人が再開の申
立をしても,審判長が審理は尽くされていると判断すれば再開の必要はない。
本願商標の場合,審理終結の送達後に原告(請求人)より上申書(甲8)及
び手続補正書(甲9)が提出されたものであるが,それらを検討しても類否判
断に重大な影響を及ぼすものには該当しないと判断したため,審判長は再開
の必要性を認めなかったものである。よって,原告の主張は理由がない。
なお,原告は,「平成21年8月20日の審判請求からわずか2か月後の
同年10月20日に審理終結通知が送達されており,異例の速さで審理が終
結されたといえること,しかも,審理終結通知は,請求人に何ら予告もなく
行われた」ことを問題としているが,遅滞ない審決による迅速な審理が問題
となるはずもない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(審決の内容)の各事実は,
当事者間に争いがない。
2取消事由1(本願商標の指定商品認定の誤り)について
商標法68条の40第1項によれば,商標登録出願,防護標章登録出願,請
求その他商標登録又は防護標章登録に関する手続をした者は,事件が審査,登
録異議の申立てについての審理,審判又は再審に係属している場合に限り,そ
の補正をすることができる。しかし,一方で,商標法56条が準用する特許法
156条1項,2項によれば,審判長は,事件が審決をするのに熟したときは,
審理の終結を当事者及び参加人に通知しなければならず,必要があるときは,
当事者等の申立て又は職権で審理を再開することができるとされている。そし
て,「審決をするのに熟したとき」とは,審理に必要な事実を参酌し,取り調
べるべき証拠を調べて結論を出せる状態に達したことをいうと解されるところ,
審決をなしうる状態になったとして審理を終結した後であっても審決がなされ
るまでの間はいつでも補正ができるとなると,審理の進行に区切りがつかず審
決に遅滞が生じ,ひいては審決ができない事態が生じるおそれがあることにな
る。したがって,事件が本件のように審判に係属している場合であっても,審
理終結の通知により審理終結という効果が発生した後は,審理が再開されない
限り手続の補正をすることはできず,審理終結通知が当事者に到達した後に提
出された手続補正書は審判においてこれを斟酌することを要しないと解するの
が相当である。
そうすると,本件補正に関する手続補正書(本件手続補正書,甲9)は前記
のとおり審理終結通知が請求人(原告)に到達した後に提出されたものである
から,審判において,本件手続補正書による補正を認めることはできず,平成
21年8月20日付け補正に係る指定商品を本願商標の指定商品と認定した審
決に誤りはなく,原告主張の取消事由1は採用することができない。
3取消事由2(本願商標と引用商標の類否判断の誤り)について
原告は,審決が本件商標と引用商標とは類似の商標であり商標法4条1項1
1号に該当するとしたことは誤りであると主張するので,以下その当否につい
て検討する。
(1)判断基準
商標法4条1項11号に係る商標の類否は,対比される両商標が同一また
は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそ
れがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使
用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,
連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明ら
かにしうるかぎり,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである
(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参
照)。一方,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各
構成部分がそれぞれ分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不
可分に結合しているものと認められる場合は,その一部だけを抽出しこれを
他人の商標と比較して商標の類否を判断することは,原則として許されない。
しかし,複数の構成部分の結合度が弱くそれを分離して観察することが取引
上不自然でないと認められる場合等にあっては,商標の構成部分の一部だけ
を他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することが許されると解
される(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1
621頁,最高裁平成20年9月8日判決・裁判集民事228号563頁・
判例時報2021号92頁等参照)。
(2)検討
上記見地に立って本願商標について検討する。
ア分離観察の可否
本願商標の内容は,前記第2,2(1)のとおりであるが,これを概観す
ると,冒頭に「」なる1文字があり,それと「」なる8文字
とが「−」(ハイフン)で結ばれている形態となっている。そして,「」
なる文字の大きさは,その高さ・幅において後半の「」の文字
よりやや大きい(約1.5倍)程度であり,また本願商標については色彩に
よる指定もないから,「」と「」は単調な同一色(甲1の商標
登録願によれば,ほぼ黒色)となっており,その両者は,後記のとおり合
成度の浅い複合語を連結する意味を有する「−」で結ばれている。
一方,本願商標の前半部の「e」の文字は,「英語アルファベットの第
5字,文字eが表す音,electric(電機の)の略語」(新英和大辞典,乙
3),「アルファベットの五番目の文字,音名の一つであるホ音,東又は
東経を表す符号,自然対数の底,電気素量を表す記号,電子を表す記号,
エネルギーを表す記号」(広辞苑第六版,乙2の2)といった意味を有す
る語であり,「電子の,インターネットの」という意味も有するから(現
代用語の基礎知識2010年版,乙4の1),電気製品又は電子機器を含
む本願指定商品との関係で,「electric(電気の)」の略語,
「電子」あるいは「インターネットを介した」といった意味合いで理解さ
れると解される。そして,最近の取引の実情から「e」の文字部分が「エ
コロジー(環境にやさしい)」(ecology)といったイメージを有
することもあると考えられる。そして,インターネットを利用した電気製
品又は電子機器,あるいは環境に配慮した電気製品又は電子機器を製造す
る業者は多数存在する上,「e」の文字部分(1文字)が電気やインター
ネットを利用すること,あるいは環境に配慮していることを示す略語とし
てハイフンに続く語に対し接頭語のように使用されていることに照らすと,
「」の文字部分から特定の商品の出所が識別できるとは考えがたい。そ
うすると「」の部分からは出所識別標識としての観念は生じないという
べきである。
また,本願商標は,上記のとおり,前半部の「」の文字部分と後半部
の「」の文字部分が「−」(ハイフン)で連結して成るとこ
ろ,構成中の「−」(ハイフン)は,言語表記の補助符号であり,英文な
どで合成度の浅い複合語の連結,1語が行末までに収まりきれず2行にま
たがる時のつなぎ,又は,1語内の形態素の区切りを明確にするのに使わ
れるものである(広辞苑第六版,乙2の1)。そうすると,本願商標は,
複数の言葉の連結又は1語内の形態素の区切りの明確化というハイフンの
なす役割自体からして,「」と「」の各文字部分とを分離し
て看取することは可能であると考えられる上,「e‐watching」
の語が取引社会において一連一体の語句として特定の意味合いをもって一
般に親しまれていると認めることもできないから,本願商標の構成部分で
ある「」の文字部分と「」の文字部分がそれを分離して観察
することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているもの
ということはできない。
さらに,「」の文字部分は,8文字からなっていて,1文字
である「」の8倍の長さがあるのみならず,英語で「観察,監視」(ポ
ケットプログレッシブ英和辞典〔甲12〕,ランダムハウス英和大辞典
〔乙5の1〕)の意味を有する語であって,日本においても比較的親しま
れた語であり,本願商標はその一部である「」の文字部分だけ
によって簡略に称呼,観念されることもあると認めることができる。
そうすると,本願商標は,複数の構成部分の結合度が浅くそれを分離し
て観察することが取引上不自然でないと認めるのが相当であるから,本願
商標のうち「」の文字部分を分離して,本願商標と引用商標と
の類否判断をすることは許されると解される。
イ本願商標と引用商標の類否
(ア)外観
本願商標と引用商標の外観を全体観察をもって視覚に訴えて対比観
察した場合,引用商標には本願商標の「」の文字及び「−」(ハイフ
ン)に相当する部分がないので,外観は相違するということができる。
しかし,本願商標の「」の部分と引用商標の「WATCH
ING」とは文字の綴りを同一とし,本願商標の「」の部分
は取引者,需要者の注意を引く部分であるから,近似した印象を与え
るものであると認めることができる。
なお,原告は,本願商標の「」の部分は小文字で筆記体風に表さ
れ,ハイフンの後に位置する小文字のゴシック体で表された
「」の文字と比べると大きく顕著に表されていることから,
外観上,「」ないし「」の部分が捨象されて見る者に認識されると
はいえないと主張する。しかし,本願商標がハイフンの前後で「」と
「」に分離して看取することが可能であることは前記のとお
りである上,「」の文字は「」の各文字に比べて少し大き
い程度(約1.5倍)であり,むしろ「」の文字部分の方が文
字数が多く,「」の文字部分をひとまとまりとして見たとき
は,「」の部分よりも多くの幅をとって表記され,視覚上,「」の
部分よりも比重が重いと見ることもできることに照らすと,原告の上記
主張は採用することができない。
(イ)観念
本願商標の「」の文字部分が「観察,監視」といった意味
を有する語であることは前記のとおりであるから,本願商標からは「観
察,監視」の観念を看取し得る。一方,引用商標は「WATCHIN
G」の文字より成るところ,これもその英語自体の意味により「観察,
監視」の観念が生ずる。したがって,本願商標と引用商標とは「観察,
監視」の観念において共通すると認めることができる。
(ウ)称呼
本願商標は,前記のとおり「」の文字から成るものであ
るが,「」と「」の各文字部分とを分離して看取すること
が可能であることは前記のとおりである。そして,「」の文字部分が
上記のとおり出所識別標識としての機能を果たしているとはいえない
のに対し,「」の文字部分は英語で「観察,監視」(ポケッ
トプログレッシブ英和辞典〔甲12〕,ランダムハウス英和大辞典
〔乙5の1〕)の意味を有する語であって,独立して自他商品の識別
標識の機能を果たし得るものと認められるから,本願商標に接する一
般の取引者,需用者は上記部分を分離して把握,認識し,称呼するこ
とがあるというべきである。
そして,本願商標からは,全体として「」の文字に相応
して「イーウォッチング」の称呼が生ずるとともに,「」の
文字部分よりは,「ウォッチング」の称呼も生ずるといえるが,一方,
引用商標は,「WATCHING」の文字より成るものであるから,
「ウォッチング」の称呼を生ずる。そうすると,本願商標と引用商標
とは「ウォッチング」の称呼を共通にするものであると認めることが
できる。
(エ)取引の実情
a証拠(甲40∼100,144∼146)及び弁論の全趣旨によ
れば,以下の事実を認めることができる。
①原告は,平成18年5月ころから,消費電力の管理を始め各種エ
ネルギーの管理を主眼とする遠隔監視システムに関する各種ハード
機器類及び関連サービス(原告製品)について本願商標の使用を開
始した。「e−watching」には,「エネルギー(energy)
を電子技術(electronictechnology)による無線システムで監視
(watching)して,様々なサービスを提供し,これらがエコロジー
(ecology)につながっていく」という意味が込められており,原
告製品は電力データをいわば「見える化」し,電力管理をサポート
して,事業とエコロジーを橋渡しし,地球環境の維持・改善に貢献
することをコンセプトとしている。原告製品の主な使用先として
は,オフィスビル,食品スーパー,チェーン店舗,工場及び学校な
どを想定しており,原告製品の取引者,需要者はこのような各種事
業者である。
②原告は,平成18年5月以降,原告製品を掲載した14のカタロ
グに本願商標を付し,カタログに掲載された原告製品の中には直接
本願商標が付されたものもあった。
③原告は,平成18年度ころから平成21年度ころにかけて,各種
展示会・セミナーなどで,本願商標を付して原告製品の販促・普及
活動を展開した。上記期間に出展した展示会は36か所(商品・パ
ネル展示のみのものも含む。)であり,セミナーは平成20年ころ
に9回行われた。
④原告は,平成18年7月以降,インターネット上のウェブサイト,
雑誌,新聞等各種メディア,価格表,ダイレクトメール,プロモー
ションビデオ,招待状,ノベルティグッズなどにおいて,本願商標
を使用して原告製品の広告宣伝活動を展開した。また,原告製品は,
平成18年7月ころ以降,21の新聞,雑誌で取り上げられた。
⑤原告製品は,大規模工場や京都市の全283校で導入された。ま
た,大手製造業においては製造ラインの電力使用量のモニタリング
のため,スーパーマーケット,ファミリーレストラン,パチンコ店
及び銀行などにおいては他店舗チェーン向けESCO事業の計測ツール
として,大学及び病院などにおいては省エネ工事の効果検証のため,
ファシリティ系事業者などにおいては中規模ビル向けエネルギー管
理などのために,それぞれ原告製品が導入された。原告製品の販売
数量は,平成21年(2009年)7月16日時点で,合計1万6
215台に上り,総販売高は9億円を下らない。
⑥原告が京都市教育委員会とともに推進した「京都私立学校での電
力使用量の『見える化』と省エネ教育活動」は,経済産業省主催の
平成21年度省エネ大賞の組織部門の支援サービス分野において経
済産業大臣賞を受賞した。
bしかし,原告が「e−watching」の標章を使用したのは平
成18年(2006年)からであって,使用開始から3年ないし4年
程度しか経過していない。また,原告製品を掲載したカタログ(甲4
1∼47,49,50)の表紙において,「e−watching」
の文字は左下に記載され,製品名(例えば絶縁監視装置SW150L
F/LF8〔甲41〕)に比べると目立たない表記であり,原告製品
を取り上げた新聞や雑誌の記事においてエネルギー遠隔システム端末
の製品名である「EW330L」は記載されていてもシステム名であ
る「e−watching」は記事の文中にはないものも少なくない
(甲70の2枚目∼5枚目,7枚目∼9枚目,13枚目∼16枚目,
20枚目,21枚目,23枚目)。また,本件補正がなされたことを
前提とした本願商標の指定商品である「漏電監視装置,消費電力監視
装置,各種センサーからの信号を検知して監視者へ自動通報する警報
装置,漏電警報装置」又はこれと類似する商品の需用者は,事業者に
限られず一般消費者も含まれると考えられるが,原告製品を実際に購
入したのは企業及び学校などの事業者であり,広告宣伝活動もこれら
事業者を主な対象として行われてきたと認められる。そうすると,本
件補正がなされたことを前提としても,本願商標が遅くとも審決時ま
でに事業者に限らず一般消費者を含む本願商標の指定商品の取引者,
需要者間に出所識別標識として広く知られるに至ったと認めることは
できない。
ウ小括
上記のとおり,本願商標の「」の文字部分と引用商標の「W
ATCHING」の文字は,小文字・大文字の差異があるとしても綴り
を同一とするものであって,本願商標と引用商標は,外観において近似
した印象を与えるものであり,「観察,監視」の観念及び「ウォッチン
グ」の称呼を共通にする類似の商標であると認めることができる。また,
本願商標と引用商標の各指定商品は,本件補正前及び本件補正後のいず
れであっても,類似のものである。そして,本願商標が遅くとも審決時
までに事業者に限らず一般消費者を含む本願商標の指定商品の取引者,
需要者間に出所識別標識として広く知られるに至ったと認めることもで
きない。したがって,本願商標と引用商標は,商標及び指定商品におい
て類似し,両商標をその指定商品について使用したときは,これに接す
る取引者,需要者をして商品の出所について誤認混同を生じさせるおそ
れがあるから,商標法4条1項11号により本願商標と引用商標は類似
しているとした審決の判断に誤りはないというべきである。
4取消事由3(審理手続の違法)について
審判手続における審理終結後に審理を再開するか否かは審判長の裁量に委ね
られている上(商標法56条1項,特許法156条2項),本願商標と引用商
標は,本件補正がなされたことを前提としても,指定商品において類似し,本
件補正の有無によって審決の結論が左右されるものでないことは前記のとおり
である。したがって,前記のとおり審理終結通知が送達されたのが平成21年
10月20日であり,本件補正とともに審理再開の上申がなされたのがその3
日後の平成21年10月23日であったとしても,本件審判において,その必
要がないとして審理の再開が行われなかったことにつき,裁量権の範囲を明ら
かに逸脱する違法があったとまでいうことはできない。原告主張の取消事由3
は理由がない。
5結語
以上によれば,原告主張の取消理由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官真辺朋子
裁判官田邉実

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