弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2大阪市α区長が平成21年12月1日付けで控訴人に対してした転入届不受
理処分を取り消す。
3控訴人が大阪市の敬老優待乗車証の交付申請を行ったときは,被控訴人は控
訴人に対し敬老優待乗車証を交付しなければならないことを確認する。
第2事案の概要
1本件は,大阪市α区と大阪府八尾市との境界線上に所在する原判決別紙物件
目録記載の建物(以下「控訴人居宅」という。また,控訴人居宅がある一棟の
建物を「B棟」と,B棟及びその他の関連施設全体を「本件マンション」とい
う。)に居住し,大阪府八尾市に住民登録を有していた控訴人が,大阪市α区
長に対して転入届(以下「本件転入届」という。)を提出したところ,同区長
の補助機関である同区職員が本件転入届の受理を拒否した(以下「本件不受理
処分」という。)ため,被控訴人に対し,本件不受理処分が違法であるとして
その取消しを求めるとともに,大阪市内に居住する高齢者で交付要件を満たす
者が交付申請をすれば当該申請者に対して交付される大阪市発行の敬老優待乗
車証(以下,単に「敬老優待乗車証」という。)について,控訴人が交付申請
を行ったときは,被控訴人は敬老優待乗車証を交付しなければならない義務が
あることの確認をそれぞれ求めた事案である。
原審は,控訴人の請求をいずれも棄却したところ,控訴人は,これを不服と
して控訴した。
2関係法令等の定め,前提となる事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,
当審における補充主張を次項に追加するほか,原判決「第2事案の概要」の
「1法令等の定め」,「2前提事実」,「3争点」及び「4争点につ
いての当事者の主張」記載のとおりであるから,これを引用する。
3当審における補充主張
(控訴人)
(1)本件不受理処分の取消請求について
ア民事局長回答は,「生活の諸設備が居室を除き全員の共用に付せられて
いるような場合」,一つの建物に二つの住所を定めることを認めていない。
本件マンションの団地管理規約(甲14)における共用部分の記載内容が
参照されるべきである。そして,一つの住居表示に統一する場合にもっと
も基準となるのは,B棟の玄関であるエントランスの位置とB棟全体の敷
地面積の多くがどこに属するかである。
また,行政実例等によれば,個人の建物が市町の境界線上に跨る場合に
おける住所の認定は,住居に係る諸般の客観的事実と本人の意思とを総合
して行われるべきものであるところ,控訴人が高齢者であることからすれ
ば,福祉関係の相談や手続のために役所に行くには交通の便が良く敬老優
待乗車証も交付される大阪市に住みたいという意思があり,この考えは不
合理なものではない。
イ本件では,控訴人は,住所の決定手続において,本人の意思を聴取され
ていない。よって,本件不受理処分は,手続的要件に瑕疵があり,行政手
続上違法である。また,本件不受理処分は,本人の意思を無視してその住
所を決定するものであり,このことは,憲法22条の居住の自由を侵害す
るものである。
(2)敬老優待乗車証の交付請求について
仮に,控訴人が住民登録を大阪府八尾市とすべきであるとしても,固定資
産税,都市計画税を両市から賦課されている控訴人は,納税状況からみて大
阪市民(大阪市の住民)に準じる地位にある者であって,大阪市民と平等に
取り扱われなければならず,敬老優待乗車証を交付申請をしても,これを交
付しないことは,憲法の平等原則違反,地方自治法,地方公営企業法違反で
あり,それを定める大阪市の敬老優待乗車証交付事業実施要綱(甲6)は違
法であり,現状の取扱いも違法である。
大阪市と八尾市は,控訴人に対し,固定資産税,都市計画税を各50パー
セント課税しているが,これは所有者に対する課税という制度の建前とも異
なる独自の課税を行っているものである。合理的な理由もなく納税を強制さ
れている控訴人に対するその償いとして,せめて被控訴人は,敬老優待乗車
証を控訴人に交付すべきである。
(被控訴人)
争う。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の住所は八尾市にあると認めるのが相当であるから,本
件不受理処分は適法であり,また,控訴人が敬老優待乗車証の交付を受け得る
地位にあるものとは認められないものと判断する。
その理由は,原判決「第3当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,
これを引用する。
2補足説明
(1)ア控訴人は,当審においても,本件不受理処分の適法性に関し,B棟が
民事局長回答にいう一つの住所を定めるべき場合であるとし,本件マンシ
ョンの団地管理規約(甲14)の共用部分の記載内容(例えば,専有部分
以外の建物の部分(基礎,建物躯体,エントランスホール,メールコーナ,
エレベーターホール等),建物付属設備(エレベーター,電気設備等)
等)が参照されるべきであることを指摘するところであるが,これらはも
っぱら生活の用に直接供される諸設備そのものではなく,専用部分の独立
した利用ないしそこにおける生活の用に供される間接的な諸設備であり,
その内容に鑑みても,上記認定判断のとおり,控訴人居宅は,生活設備を
備えた独立の住宅であって,B棟は上記回答のいう一つの住所を定めるべ
き場合に該当するものではないとみるのが相当である。
また,控訴人は,個人の建物が市町の境界線上に跨る場合における住所
の認定は,住居に係る諸般の客観的事実と本人の意思とを総合して行われ
るべきものであると主張する。
たしかに,証拠(乙9)によれば,控訴人が主張するとおりの行政実例
があることが認められる。
しかしながら,仮に,控訴人の主張するとおり,住所の認定につき住居
に係る諸般の客観的事実と本人の意思とを総合して行うべきものとしても,
生活の本拠である地の住居表示は客観的に定められるべきものであること
からすると,住所の認定における本人の意思は,住居に係る客観的事実を
評価・解釈し,これを補完するものとして考慮されるべきものというのが
相当であって,上記控訴人が指摘する行政実例(乙9)が,上記総合考慮
をするべきことをいうに続けて,「その場合の判断のもととなるのは,家
屋の玄関,居間等主として利用している部分がどちらの区域に属するかと
いうことによると解する。」としていることは,この趣旨をいうものと解
される。してみると,上記認定判断のとおり,控訴人居宅は,生活のため
の諸設備を備えた独立の住居で,その玄関が八尾市側にあり,その面積の
大部分が八尾市側に存在しているというのであるから,仮に,控訴人の主
張するとおり,控訴人において福祉関係の相談や手続のために役所に行く
には交通の便が良く敬老優待乗車証も交付される大阪市に住みたいという
意思があったとしても,それは控訴人において居住に係る客観的事実と乖
離した観念的な願望ないし認識を有していることを示すものに過ぎないの
であって,住所の認定につき客観的事実と本人の意思とを総合して行う観
点からしても,控訴人の住所は,八尾市にあるものというのが相当である。
なお,控訴人は,本件マンションの付近に大阪市営バスの停留所があり,
α区役所に向かうことが容易であること等控訴人の住所の認定に関し,控
訴人の行政利用の利便性を含めた生活利益を重視するべきことを指摘する
ところであるが,当該指摘の趣旨は,住所の認定に関し,上記ように本人
の意思を考慮するものとすることで適切に実現されているものと解される。
イ控訴人は,本件不受理処分に至る手続において,住所に関する控訴人本
人の意思の聴取がされていないとして,本件不受理処分は行政手続上違法
となり,取り消されるべきものであると主張する。
しかしながら,個人の建物が市町の境界線上に跨る場合における住所の
認定が,住居に係る客観的事実のほか,本人の意思を総合して行われるべ
きものであるとしても,住基法に基づく行政手続として,住所の認定にあ
たり転入届を提出した本人の意思の聴取を行わなければならないとする具
体的な法令上の根拠を見いだすのは困難である。本件では,上記認定判断
のとおり,控訴人居宅は,生活のための諸設備を備えた独立の住居で,そ
の玄関が八尾市側にあり,その面積の大部分が八尾市側に存在していると
いうものであることからすれば,当該客観的事実から控訴人の住所が八尾
市にあるものと認定するには十分であって,控訴人の意思の聴取をしてい
ないことが,本件不受理処分に係る手続を違法とすることにはならないも
のというのが相当である。
また,控訴人は,本件不受理処分は,控訴人本人の意思を無視してその
住所を決定しているものであるとし,このことは,憲法22条が定める居
住の自由を侵害するものであると主張するが,本件不受理処分ないしその
手続は,控訴人が控訴人居宅に居住し,これを住居としているという,控
訴人の住居の設定自体に何らの影響を与えるものではなく,憲法22条に
いう居住の自由とは関係のないものというべきであるから,上記控訴人の
違憲の主張は、その前提を欠き,失当である。
(2)控訴人は,仮に控訴人が住民登録を大阪府八尾市とすべきであるとして
も,固定資産税及び都市計画税の納付状況から大阪市民に準ずる地位にあ
ることから,敬老優待乗車証の交付を受け得る地位にある旨主張する。
しかしながら,固定資産税や都市計画税は,固定資産の所在地の市町村
がその所有者に対して課す税であって,控訴人が主張するとおり,B棟に
ついては,大阪市と八尾市が各50パーセントずつ課税することとなって
いるものの,少なくとも,当該納税者(所有者)の住所の所在とは無関係
のものである。したがって,控訴人において,大阪市に対し固定資産税,
都市計画税を納税していたとしても,これによって,大阪市に住所を有す
る者に準ずる地位(大阪市民に準ずる地位)なるものを獲得することとな
ることを観念することも,またできないものというべきである。そうだと
すれば,上記控訴人の主張は,その前提を欠くものであり,失当である。
なお,大阪市及び八尾市がB棟の所有者に対し各50パーセントの課税
を行っていることについて,合理的な理由もなく納税を強制されている控
訴人に対する償いとして被控訴人は敬老優待乗車証を交付するべきと主張
するが,課税のあり方を合理的な理由がないとする法令上の根拠は必ずし
も明らかではなく,その償いとしての敬老優待乗車証を交付するべきとす
る控訴人の主張は,採用することができない。
(3)その他,控訴人の主張に沿って検討しても,上記認定判断を動かすもの
ではない。
3以上によれば,控訴人の請求には,いずれも理由がないから,これらをいず
れも棄却した原審の判断は相当であり,本件控訴は理由がないから,主文のと
おり判決する。
大阪高等裁判所第7民事部
裁判長裁判官永井ユタカ
裁判官泉薫
裁判官内野宗揮

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛