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裁判例


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平成13年10月26日判決言渡・同日判決原本領収 裁判所書記官 
平成10年(行ウ)第8号地方自治法第242条の2による違法確認請求事件
口頭弁論終結の日 平成13年9月7日
          判    決
          主    文
1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告ら
(1) 被告安中市長が,Aに対し,同人の平成2年分から平成5年分までの各所得に対して,いずれ
も市民税の賦課徴収を怠ったことが違法であることを確認する。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
(本案前の申立て)
  主文1と同旨
(本案についての答弁)
(1) 原告らの請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第2 当事者の主張
 1 請求原因
(1) 原告らは,いずれも群馬県安中市(以下「安中市」という。)の住民であり,被告は,安中市
長の職にある者である。
(2) 被告は,平成8年3月ころ,有印公文書偽造,同行使,詐欺罪により実刑判決を受けた元安中
市土地開発公社主査のAが所轄税務署に提出した平成2年分(平成3年度分)から平成6年分(平成
7年度分)までの所得税に関する期限後修正申告書記載の総所得額を,同税務署から送付された上記
申告書の写しにより知り,それに基づき,Aに対する平成3年度分から平成7年度分の市民税に関す
る総所得額を決定し,その決定の範囲内でAに対する平成3年度分から平成7年度分の市民税を算定
し,別紙5の「被告課税税額」欄記載のとおり,これを賦課した。
(3) 上記申告にかかるAの総所得額は開示されていないが,原告らが平成10年度予算審査資料に
示された市民税収入未済額調等の結果から推計したところ,別紙1ないし別紙4記載のとおりと推定
される。
  しかし,原告らがAの刑事事件記録をもとに,上記各年度における同人の実際の総所得額を推計
したところ,別紙5の「原告主張課税税額」欄記載のとおりであった。
  したがって,Aの市民税について同人に賦課した平成3年度分から平成7年度分までの総所得額
合計額は,同期間の正しい総所得額合計額に比べて明らかに過少であるから,被告は,Aに対し,別
紙5の「差額」欄記載の金額を賦課徴収する義務を負う。
(4) しかるに,被告は,Aに対し,上記賦課決定額を超える金額について,その賦課徴収をしな
い。
  すなわち,地方税法315条1号ただし書は,市町村は,市民税の所得割額の算定にあたって,
所得税申告(確定・修正)ないし更正,決定における総所得額が,「過少であると認められる場合に
は自ら調査し,その調査に基づいて算定する」と規定するから,「過少であると認められる場合」
に,調査をすることなく賦課決定処分をすることには,市民税の賦課徴収を怠る違法があるというべ
きであるところ,被告はこの義務を怠っているから,違法である。
(5) 原告らは,被告がAの納入すべき市民税額の賦課徴収を怠ったことが違法であるとして,平成
10年8月31日,安中市監査委員に対し,地方自治法242条に基づき監査請求をしたが,同監査
委員は,同年10月26日,同監査請求を棄却する旨の決定をした。
(6) よって,原告らは,被告に対し,地方自治法242条の2第1項3号に基づき,被告が,Aに
対し,同人の平成2年分から平成5年分までの各所得に対して,いずれも市民税の賦課徴収を怠った
ことが違法であることの確認を求める。
2 本案前の抗弁
  地方税法17条の5第1項は,更正,決定又は賦課決定は,法定納期限の翌日から起算して3年
を経過した日以後においてはすることができない旨除斥期間を規定する。ここに法定納期限とは,地
方税で納期を分けているものの第2期以降の分については,その第1期分の納期限をいう(地方税法
11条の4第1項)ところ,同法320条は,市町村民税の納期について,6月,8月,10月及び
1月中において,当該市町村が定める,ただし,特別の事情がある場合においては,これと異なる納
期を定めることができる旨規定し,安中市市税条例28条1項は,第1期を6月1日から同月30日
まで,第2期を8月1日から同月31日まで,第3期を10月1日から同月31日まで,第4期を1
2月1日から同月25日までとそれぞれ規定している。
  したがって,原告らが主張するような遺脱所得が仮にあったとしても,平成3年度のそれは平成
6年6月30日をもって,平成4年度のそれは平成7年6月30日をもって,平成5年度のそれは平
成8年6月30日をもって,平成6年度のそれは平成9年6月30日をもって,それぞれ除斥期間が
満了しているため,被告は,更正,決定又は賦課決定をすることができず,被告の市民税賦課徴収の
違法を確認しても,もはや改めて賦課徴収することはできないので,訴訟追行の実益がないから,訴
えの利益を欠き,したがって,本件訴えは不適法である。
3 本案前の主張に対する原告らの反論
  被告の主張は,争う。
4 請求原因に対する答弁
(1) 請求原因(1)の事実は,認める。
(2) 同(2)の事実は,認める。
(3) 同(3)の事実は,否認する。
(4) 同(4)の事実は,否認し,主張は,争う。
(5) 同(5)の事実は,認める。
第3 当裁判所の判断
   被告は,本案前の答弁として,原告らの本件訴えは,訴えの利益を欠くので不適法であり,却
下されるべきである旨主張するので,まず本件訴えの適法性について検討する。
1 住民税の更正,決定又は賦課決定は,地方税法17条の5第1項により法定納期限の翌日から起
算して3年を経過した日以後においてはすることができず,また,同法18条1項により住民税の徴
収権も法定納期限の翌日から起算して5年間行使しないことによって時効により消滅するところ(同
条2項により上記時効の援用を要せず,その利益も放棄することができない。),地方税法320条
及び乙第8号証(安中市例規集)中の安中市市税条例28条1項によれば,安中市においては,普通
徴収の方法によってする(乙第3号証の1ないし5及び乙第4号証の1ないし5によれば,原告らが
被告の賦課徴収の過怠を主張する住民税については,普通徴収の方法によってなされていることが認
められる。)住民税の納期を4期に分け,1期を6月1日から同月30日までとしていることが認め
られるから,地方税法11条の4第1項の法定納期限の定義により法定納期限は6月30日とされ,
したがって,被告のAに対する平成3年度分から平成6年度分までの各住民税の賦課決定権等及び徴
収権は,遅くとも平成11年6月30日の経過によりすべて消滅し,被告においてAから前記住民税
を賦課徴収することはできないことになる。
  もっとも,地方税法17条の5第4項は,偽りその他不正の行為により,その全部若しくは一部
の税額を免れ,若しくはその全部若しくは一部の税額の還付を受けた地方税についての更正,決定若
しくは賦課決定又は当該地方税に係る加算金の決定は,同条1項の規定にかかわらず,法定納期限の
翌日から起算して7年を経過する日まですることができる旨規定し,また,同法18条の2第3項
は,偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ,又はその全部若しくは一部の
税額の還付を受けた地方税に係る徴収権の時効は,法定納期限の翌日から起算して2年間は進行しな
い旨規定している。しかし,本件において,たとえAが,本件訴えの対象となっている住民税につい
て,偽りその他不正の行為により,その全部若しくは一部の税額を免れ,又はその全部若しくは一部
の税額の還付を受けたものと仮定しても,被告のAに対する平成3年度分から平成6年度分までの各
住民税についての徴収権や賦課決定権等は,遅くとも平成13年6月30日の経過によりすべて消滅
したものといえ,現在,すなわち本件訴えの弁論終結(平成13年9月7日)の時点においては,被
告においてAから前記住民税を賦課徴収することはできないものといわなければならない。
2 ところで,本件訴えは地方自治法242条の2第1項3号の不作為の違法確認訴訟であるとこ
ろ,本件訴えのような「怠る事実」の違法確認を求める訴訟に対しこれを認容する判決においては,
行政事件訴訟法43条3項,41条1項により準用される同法33条1項に基づき,当該事件につい
て当事者たる行政庁その他の関係行政庁を拘束し,行政庁等に対し認容判決の趣旨に従って行動する
ように義務付けることになる。したがって,ここでいう違法とは,現在,つまり弁論終結の時点にお
いて,被告がその行為をすることができるにもかかわらずこれをしないことをいうのであって,たと
え過去においてその行為をすることができたとしても,弁論終結の時点において消滅時効の完成など
によりその行為を行うことができなくなっている場合には,その不作為をとらえて違法であるとする
余地はないものといわざるを得ない(なお,この場合には,住民としては,別の形態の住民訴訟によ
るほかはない。)。
3 本件では,上記1のとおり,被告のAに対する住民税の徴収権及び賦課決定権等は,除斥期間の
満了あるいは消滅時効の完成によりいずれにしても消滅しており,現在ではもはや被告がこれを行使
する余地はないものである。そのため,仮に被告がAに対する上記住民税の徴収を怠っていたとして
も,その不作為をとらえて違法であるとする余地はなく,本件訴えは訴えの利益を欠き不適法である
といわざるを得ない。
4 よって,本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし,訴訟費用の負担につき行政事件
訴訟法第7条,民事訴訟法第61条を適用して,主文のとおり判決する。
    前橋地方裁判所民事第2部
          裁判長裁判官東 條   宏
             裁判官原   克 也
             裁判官鈴 木 雄 輔

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