弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
被告が原告に対し昭和四一年七月一五日付でした不動産取得税の賦課決定は金四万
五、〇〇〇円の限度においてこれを取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求める裁判
(原告)
主文と同旨
(被告)
 「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」
第二 原告の請求原因
 原告は、昭和四〇年三月一日日本住宅公団から東京都渋谷区<以下略>宅地八、
六四四・一二平方メートル(二、六一四・八五坪)および新宿区<以下略>六六
〇・〇三平方メートル(一九九・六六坪)の各一九六分の一の持分並びにこれら土
地の上に建在する別紙目録記載の建物(いわゆるプレスマン・ハウス)のうちの同
目録記載部分を買い受けたところ、被告は、これに対し、右土地については地方税
法七三条の二四第一項三号、右建物部分については同法七三条の一四第一項各所定
の課税標準の控除をすることなく、昭和四一年七月一五日付で、不動産取得税(右
建物部分については、取得価額二八一万六、五〇〇円を課税標準として八万四、四
九〇円)の賦課決定をした。
 しかし、右賦課決定は、次に述べる理由によつて違法である。すなわち、
 別紙目録記載の建物は、もともと、日本住宅公団が、オリンピツク東京大会開催
中外国報道関係者の宿泊施設を建設されたい旨の政府の要請に基づき、使用後は一
般に分譲する目的の下に、建築を計画し、外廓が一応完成したところで、請負人の
株式会社間組からその引渡しを受け、昭和三九年九月一日から同年一一月三〇日ま
での三か月間、財団法人オリンピツク東京大会組織委員会に対して合計一、二〇〇
万円という建築資金の利息に見合う対価をもつて貸与し、組織委員会において、外
国報道関係者の宿泊施設にふさわしい暫定的設備、調度品の備付け等をして外国報
道関係者に使用させ、オリンピツク終了後、約旨に基づき、これを原状に回復した
うえで日本住宅公団に返還し、その後同公団が数か月の日子を費して間切り、床上
げその他の造作を施して分譲住宅として完成し、昭和四〇年三月一日から公募の方
法によつて分譲を行なつたものである。
 ところで、日本住宅公団の事業目的が勤労者に対して宅地、住宅を供給すること
であること、外国報道関係者の使用がオリンピツク開催中という短期間の一時使用
であること、また、地方税法の前記諸規定の立法趣旨が宅地や新築住宅に対する不
動産取得税を軽減することによつて住宅の新築又は新築住宅の購入の促進を図るこ
とにあることに鑑みれば、組織委員会による別紙目録記載の建物の利用は、同法に
いう使用又は居住の用に供したことにはならず、従つて、原告の同目録記載の建物
部分の取得は、同法七三条の一四第一項にいう「新築した住宅でまだ人の居住の用
に供したことのないものの購入」に該当し、同条項所定の不動産取得税の課税標準
の特例の適用があるものというべきであり、このことは、前記土地については、審
査裁決により右と同一の理由に基づき不動産取得税の賦課決定が一部取り消された
ことに徴しても明らかである。
第三 被告の答弁
 原告主張の請求原因事実はすべて認めるが、その法律上の主張は争う。
 別紙目録記載の建物は、昭和三九年八月二五日工事請負人株式会社間組から注文
者日本住宅公団に引き渡されたものであり、それが財団法人オリンピツク東京大会
組織委員会に貸与されたときの状態と公団に返還されて原告らに分譲されたときの
状態とで、構造上の変更はなかつたのであるから、右引渡時において住宅として完
成していたものであるというべきである。しかして、住宅として完成された右建物
に外国報道関係者が一時的にしろ居住した以上、該建物が、地方税法七三条の一四
第一項にいう「人の居住の用に供したことのないもの」に当たらないことは明らか
である。原告は、組織委員会が日本住宅公団に支払つた建物使用の対価が低廉であ
ると主張し、そのことから右使用関係が賃貸借ではなかつたようにいうのである
が、当該建物使用関係の法的性質如何のごときは、当該建物が居住の用に供された
かどうかという法的事実の有無の判断には関係のない事柄であるばかりでなく、組
織委員会が日本住宅公団に支払つた三か月合計一、二〇〇万円(一か月四〇〇万
円、一戸平均一か月約二万円)の対価は、返還の際の原状回復費(自然損耗による
損耗部分の回復費をも含む。)を同委員会において負担することになつていたこと
を考慮すれば、右公団が一般に賃貸する住宅の賃貸料と比較して左程安いわけでは
ないから、右使用関係は、むしろ、賃貸借とみるべきである。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
 別紙目録記載の建物は、日本住宅公団がオリンピック東京大会開催中外国報道関
係者の宿泊施設を建設されたい旨の政府の要請に基づいて建築したものであり、現
に、これを、昭和三九年九月一日から同年一一月三〇日までの三か月間、財団法人
オリンピック東京大会組織委員会に対して合計一、二〇〇万円の対価をもつて貸与
して外国報道関係者に使用させたこと、その後、原告が昭和四〇年三月一日日本住
宅公団から右建物のうち同目録記載の部分を買い受けたところ、被告が右建物は地
方税法七三条の一四第一項にいう人の居住の用に供したことのない新築住宅に該当
しないとして、同条項所定の課税標準の控除をすることなく、昭和四一年七月一五
日付で原告に対し不動産取得税八万四、四九〇円の賦課決定をしたことは、いずれ
も、当事者間に争いがない。
 およそ、法律事実としての居住の概念は、法律関係の基準となるものであるか
ら、単なる社会的事実としてのそれとは異なり、各法律ごとに、当該立法の趣旨・
目的に従い、また、それに付与された法的効果との関係において合理的にこれを決
定すべきであることはいうまでもない。
 ところで、地方税法七三条の一四第一項が、「住宅を建築(新築した住宅でまだ
人の居住の用に供したことのないものの購入を含む。)した場合における当該住宅
の取得に対して課する不動産取得税の課税標準の算定については、一戸につき百五
十万円を価格から控除するものとする。」と規定しているのは、不動産取得税は、
不動産の取得につき、当該不動産の取得者に対して課するものであるが、新築家屋
については、その家屋についての最初の使用又は譲渡(住宅金融公庫、日本住宅公
団等が注文者である家屋の新築に係る請負契約に基づく当該注文者に対する請負人
からの譲渡が当該家屋の新築後最初に行なわれた場合は、当該譲渡の後最初に行な
われた使用又は譲渡)が行なわれた日において家屋の取得がなされたものとみな
し、その者に対して不動産取得税を課することとしているので、そのことが住宅に
困窮している一般庶民の住宅の取得に障害となるのを避けるため、家屋の中でも特
に住宅に限り、これを新築した者又は新築した住宅でまだ人の「居住」の用に供し
たことのないものを購入した者に対して課税標準減額の特典を与えんとするもので
あるから、ここにいう居住とは、当該住宅をその本来の用法に従つた利用に供する
ことを指すものと解するのが相当である。
 いま、本件についてこれをみるのに、日本住宅公団の設立目的が、住宅不足の著
しい地域において勤労者のために耐火性を有する構造の集団住宅および宅地の大規
模な供給を行なうことであり(日本住宅公団法一条、三一条参照)、また、右貸与
の期間が、三か月という短期間であり、しかも、右貸与が、準備委員会において外
国報道関係者の宿泊施設にふさわしい暫定的設備、調度品の備付け等をなし、オリ
ンピック終了後原状に回復したうえで返還するとの約定のもとに行なわれたこと
(この事実は、被告の認めて争わないところである。)と、右貸与料合計一、二〇
〇万円は、分譲遅延による金利相当額の損失を補填するという考え方に基づき、従
つて、また、右建物の分譲価額も、同建物か新築住宅、つまり、人の居住の用に供
したことのない住宅であるとして算出されたこと(これらの事実は、第三者の作成
に係り真正に成立したものと認める甲第六号証、証人Aの証言によつて認めること
ができる。)に徴すれば、原告主張のごとく、組織委員会による右建物の使用は、
前記法条にいう居住の用に供したことに該当せず、従つて、原告の右建物部分の取
得は、新築した住宅でまだ人の居住の用に供したことのないものの購入に該当し、
不動産取得税の課税標準の特例の適用を受けるものというべく、その適用がないも
のとしてなされた本件不動産取得税の賦課決定は、違法たるを免かれない。そし
て、本件不動産取得税の課税標準から控除すべき一五〇万円に対応する税額が四万
五、〇〇〇円であることは、本件弁論の全趣旨に照らして明らかである。
 よつて、右四万五、〇〇〇円の限度において本件不動産取得税の賦課決定の取消
しを求める原告の請求は、その理由があるので、これを認容することとし、訴訟費
用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 渡部吉隆 中平健吉 斎藤清実)
(別紙)
目録(省略)

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