弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決及び第一審判決を破棄する。
     被告人を罰金三〇〇〇円に処する。
     右の罰金を完納することができないときは金二〇〇円を一日に換算した
期間被告人を労役場に留置する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
     本件公訴事実のうち農地調整法違反の点について被告人は無罪。
         理    由
 被告人本人の上告趣意について。
 論旨は刑訴四〇五条の適法の上告理由に当らない。
 弁護人丹篤の上告趣意について。
 論旨は原判決の憲法二九条違反を主張するけれども、要するに原審の維持する第
一審判決が昭和二一年法律第四二号及び昭和二二年法律第二四〇号による改正前の
農地調整法九条三項を適用したことを非難するに帰しよう。
 第一審判決は「被告人は昭和一六年一〇月頃自己がAより借り受けていた徳島県
那賀郡a町大字b字cd番地のeの田二歩を同郡a町のBに対し賃貸していたので
あるが、昭和二一年一一月上旬頃同町においてC農地委員会の承認を受けないで右
Bと賃貸借の合意解約をなし、その頃右土地の返還を受けたものである。」旨の本
件公訴事実を認定し、被告人の所為に対し農地調整法(昭和二一年法律第四二号及
び昭和二二年法律二四〇号による改正前の)一七条の五第一号、九条三項を適用処
断したのであるが、右の農地調整法九条三項にいわゆる「解約」とは一般に契約の
当事者が一方的意思表示により契約を消滅せしめることを指称し、本件のごとく被
告人が相手方との間に合意の上農地の賃貸借を終了せしめる場合を含むものではな
いのである。(昭和二四年(れ)二八九七号、同二八年七月八日大法廷判決参照)。
 従つて本件公訴にかかる被告人の所為は右改正前の農地調整法九条三項に違反す
ることなく何等罪を構成しないものたること明白であるから、農地調整法違反につ
いて被告人を有罪に処した第一審判決及びこれを維持する原判決は違法であつて、
これを破棄しなければ著しく正義に反するものというべく、刑訴四一一条一号、四
一三条但書、三三六条により職権をもつて第一審判決及び原判決を破棄し、右事実
について無罪の言渡をする。
 よつて第一審判決の認定した犯罪事実のうち農地調整法違反の点を除いた他の事
実に法令を適用すると、被告人の所為は食糧管理法九条一項、三一条、同法施行令
八条、同法施行規則二二条、罰金等臨時措置法二条に該当するので所定刑中罰金刑
を選択し、定められた罰金額の範囲内で被告人を罰金三〇〇〇円に処することとし、
右罰金を完納することができないときは刑法一八条により金二〇〇円を一日に換算
した期間被告人を労役場に留置し、なお当審における訴訟費用は刑訴一八一条に従
い被告人の負担とする。
 右は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官市島成一がこの公判に出席した。
  昭和二八年九月一五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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