弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2東京都知事(以下「都知事」という。)がA株式会社(以下「A」という。)
及び株式会社B(以下「B」といい,Aと併せて「本件申請者ら」という。)
に対してした平成21年2月27日付け○都市建指建第○号の総合設計許可
処分(以下「本件許可処分」という。)を取り消す。
3被控訴人財団法人C(以下「被控訴人C」という。)がAに対してした平成
22年4月13日付け確認番号○号の建築確認処分(以下「本件確認処分」と
いう。)を取り消す。
第2事案の概要
1本件申請者らは,原判決別紙建築物目録「3建設地」に記載の土地(以下,
「本件敷地」という。)上に同目録記載の共同住宅・保育所用ビルである建築
物(以下「本件建築物」という。)の建築を計画し,本件建築物につき,①都
知事は,本件申請者らに対し,建築基準法59条の2第1項に基づく許可処分
(本件許可処分)をし,②被控訴人Cは,Aに対し,建築基準法6条の2第
1項,88条1項に基づき,本件建築物の建築計画(以下「本件建築計画」と
いう。なお,後記のとおり本件建築物の建築計画には変更が施されているもの
の,変更の前後を区別することはしない。)に係る建築確認処分をし,その後
のいわゆる変更確認処分や審査請求における取消し等を経た後に平成22年
4月13日付けで本件確認処分をした。
本件は,本件敷地の近隣に事務所を構える宗教法人及び近隣に居住する住民
が,①本件許可処分は,同法59条の2第1項所定の要件を具備していない
にもかかわらず同項を適用して本来許容され得る範囲を超えて容積率の緩和
を許可している点で違法である,②本件確認処分は,違法な本件許可処分を
前提としているから違法であるなどとして,本件許可処分及び本件確認処分の
各取消しを求める事案である。
2原審は,控訴人D寺及び同Eの訴えは,同控訴人らがいずれも原告適格を欠
き不適法であるとしてこれを却下し,その余の控訴人ら(以下「控訴人3名」
という。)の訴えに係る請求はいずれも理由がないとしてこれを棄却したため,
控訴人らが控訴をして,上記第1のとおりの判決を求めた。なお,第1審原告
Fは,同原告の請求を棄却した第1審判決に対して不服を申し立てなかった。
3関係法令の定め,前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張の要旨は,
以下のとおり付加訂正し,後記4のとおり当審における控訴人の主張を付加す
るほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1項ないし4
項(3頁16行目から26頁21行目まで)に記載のとおりであるから,これ
を引用する(ただし,第1審原告Fに係る部分を除く。)。
(1)原判決5頁1行目の「上記5名を総称して,「原告5名」という。」を
「原告(控訴人)G,同H,同I及び同Eを「原告4名」という。」に,同
頁7行目の「原告5名」を「原告4名」に,それぞれ改める。
(2)原判決5頁3行目の「約61.5m,」を「約61.5mの位置に居住
していたが,本件訴訟係属中に,更に北東側に同距離程度離れた位置に住居
を移転し,」に,同頁15行目から16行目にかけての「甲8の3・4」を
「甲8の1~4」に,それぞれ改める。
(3)原判決6頁24行目の「平成21年1月19日,都知事は,」を「都知
事は,平成21年1月19日,」に改める。
(4)原判決7頁24行目の「Aは,J株式会社及びK株式会社と共に」を「A
(Bは,事業主から撤退し,その旨同年6月23日付けで届出済み。)は,
J株式会社及びK株式会社と共に,同2社が建築主に加わる旨の」に改める。
(5)原判決11頁2行目,5行目,17行目,13頁17行目の各「原告4
名」をいずれも「原告(控訴人)3名」に,同頁9行目の「原告5名」を「原
告4名」に,それぞれ改める。
(6)原判決24頁22行目から23行目にかけての「本件住宅マスタープラ
ン(甲4)における活動地が,本件敷地が幹線道路の沿道ではないにもかか
わらず,」を「本件敷地が幹線道路の沿道ではないにもかかわらず,本件住
宅マスタープラン(甲4)の」に改める。
(7)原判決26頁10行目の「活用が」を「活用を」に改める。
4当審における控訴人らの主張
(1)控訴人D寺が原告適格を有すること
ア景観利益に基づく原告適格
建築基準法59条の2は,「各部分の高さについて総合的な配慮がなさ
れていることにより市街地の環境の整備改善に資する」ことを要件として
おり,また,本件総合設計許可要綱は,「都市景観の創造」を基本目標と
し,第4の4「容積率制限」のカで「景観の形成」という項目を設け,町
並み景観重点地区において景観に配慮した景観配慮型建築物,景観形成型
建築物の場合に容積率を緩和するとしている。これらの規定からすれば,
総合設計許可制度は,良好な景観の整備保全をも目的としていることが明
らかである。
そして,控訴人D寺は,本件建築物の高さの2倍の水平距離の範囲内に
ある土地の所有者として,総合設計制度上,利害関係人として公聴会への
出席を呼び掛けられており,景観に関する意見書も提出している。
また,景観法は,建築基準法と目的を共通にする関係法令であるところ,
景観法に基づき定められた台東区景観計画(素案)(甲38)では,「D
寺周辺景観形成特別地区」を定め,D寺の「重要な眺めを阻害しない周囲
の建物のスカイラインの協調を図ります」とし,「LからM,MからD寺
本堂,N神社への眺め」を「主要な眺め」と記載し,D寺の建築物を「景
観資源」として,D寺周辺のスカイラインの協調の重要性を述べている。
さらに,国の文化審議会は,平成23年5月21日,D寺本坊・O院の
庭園について,国の名勝に指定するよう文部科学大臣に答申しており,D
寺の景観は,客観的価値を有している。
したがって,保護すべき景観の内容,範囲,保護の態様が明らかである
控訴人D寺の景観利益は,個別的利益として保護されており,控訴人D寺
には,景観利益に基づく原告適格が認められるべきである。
イ土地所有に基づく原告適格
総合設計許可制度の手続上,土地所有者に発言権が認められる以上,原
告適格が認められるべきである。
また,本件建築物は今後長期にわたり存在するものであり,控訴人D寺
が所有している土地は,その所在地からして今後何らかの建築物が建築さ
れることが予定されているから,本件建築物からの影響を将来的に被るこ
とになり,被害の可能性に関しては現在建築物を所有している他の控訴人
らと何ら変わりはない。したがって,建物所有者に原告適格が認められる
以上,土地所有者である控訴人D寺にも原告適格が認められるべきである。
(2)控訴人Eが原告適格を有すること
建築基準法52条2項は,道路の幅の大小に応じて容積率が変わることを,
また,同法52条14項は,周囲に広い公園等を有する建築物の場合,容積
率の緩和があり得ることをそれぞれ定めており,これらは,交通の混雑,災
害時の避難との関係で容積率が定められることを示している。そうであれば,
建築基準法59条の2にいう「市街地の環境の整備改善」に当たるか否かを
考慮する際,容積率の緩和により増えた人口が周囲の公園,広場などの公共
空地の混雑にいかなる影響を与えるかは,当然考慮すべき事項であり,同条
にいう「安全上,防火上」支障がないとの要件は,前面道路の交通の混雑や
周囲の空き地の混雑も含めたものと解すべきである。
また,災害対策基本法は,災害時に安全な避難を定め,もって生命,財産
の保護を図ることを目的とするものであり,建築基準法と目的を同じくする
関係法令であるところ,災害対策基本法42条に基づき作成された台東区地
域防災計画は,避難場所について詳細に定め,個々の住民の避難の利益を個
別的利益として保護する趣旨と解される。
本件建築物の建築により,避難所が許容限度を超えて混雑することが見込
まれ,控訴人Eの災害時における避難の利益,すなわち生命,身体が侵害さ
れるおそれがあるから,控訴人Eには本件訴訟について原告適格がある。
(3)本件許可処分及び本件確認処分が違法であること
ア本件台東区マスタープランに反すること
区のマスタープランは,都のマスタープランの下位計画としての性格を
有し,都のマスタープランをより詳細化したものであるから,東京都の行
政計画としての性格を有する。仮に本件台東区マスタープランが東京都の
行政計画に該当しないとしても,都市計画法18条の2第4項は,個々の
都市計画が市町村マスタープランに即することを定めているから,本件の
建築計画が本件台東区マスタープランに違反するか否かを検討しなければ
ならない。
本件台東区マスタープランは,台東区の現状として,「集合住宅の建設
は,下町情緒が残る街並みや家並み,商店街といったまちの連続性,景観・
日照等の住環境に影響を与えていると懸念されている。こうしたことから,
地域の特性にあわせた地域レベルでの土地利用誘導方策の検討を行い,下
町にふさわしい住環境の形成を進めていくことが必要となっている。」と
し,基本的な考え方として,「現状の複合かつ多様な土地利用を基本とし
て,景観や街並みを考慮した地域の個性を表す土地利用を誘導する」等と
述べており,集合住宅の建設により下町情緒が残る街並みが破壊され,景
観・日照等の住環境が悪化するのを懸念して,土地利用誘導方策を定める
こととしている。そして,その方策の内容として,本件台東区マスタープ
ランは,本件敷地の含まれる地域を「中・低層地(概ね3~5階程度)」
と定めている。130mを超える超高層建築「37階+塔屋2階」は,こ
れをあまりにも逸脱し,また,同プランに記載されたイメージ図からも大
きく逸脱するもので,許容限度を超えている。
本件台東区マスタープランに「土地の高度利用」を進めると記載されて
いることは,「超高層」を意味するものではないから,これを理由として
総合設計許可による超高層建築が許容されることにはならない。本件台東
区マスタープランは,土地利用の高度化と中・低層地(概ね3~5階程度)
の両者を充足することを要請しているのである。「高度利用」は,幹線道
路沿いの高層建築物群(Pホテルを除くと15階が最高)を超えない範囲
(つまり8~9階まで)と考えるのが社会通念に則った解釈である(Q意
見書・甲44の1)。
本件台東区マスタープランは,基本理念であり目標であるから,手段た
る総合設計制度の上位に位置するものであり,目標を逸脱して総合設計制
度を活用することは許されない。
本件許可処分が本件台東区マスタープランに反しない旨の台東区長の回
答は,本件台東区マスタープランの解釈を逸脱する立法行為に当たるもの
であり,同回答を是認することはできない。
本件許可処分は,本件台東区マスタープランが目的とする集合住宅によ
る住環境の悪化阻止に真っ向から反するものであり,裁量を逸脱し,違法
である。
イ風環境の悪化があること
Pホテルの建築時においても,風環境の評価を行ったが,現実には,付
近で自転車が大量に倒れるなどの被害が生じ,また,平成23年2月6日
には,同ホテルの真正面にある建物の壁の一部が同ホテルからの風で崩落
するという事態に至っているのであるから,机上の実験で風害は受忍限度
であるとの予測があったとしても,現実に風害が生じないことを意味する
ものではない。現場を踏まえた判断をすべきである。
ウ人格権を保障する憲法13条,25条に反すること
本件台東区マスタープランは,住民が,景観・日照等の人格権実現のた
め,抽象的な人格権の内容をマスタープランという形で具体的に明文化し
たものであるところ,本件建築物につき人格権制限を正当化する公共空地
により受ける利益は非常に小さい一方で,建物周囲の住民の人格権は,上
記アのとおり,マスタープランの保障しようとする限度をはるかに超えて
侵害されるという不利益を被る。したがって,本件許可処分は,控訴人ら
の日照権,圧迫感,風害等の人格権を過度に制限するものとして,総合設
計制度の適用において,憲法13条,25条に反する。
第3当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人D寺及び同Eはいずれも原告適格がなく,同控訴人らの
訴えは不適法であり,その余の控訴人ら(控訴人3名)の請求はいずれも理由
がないと判断する。その理由は,控訴人の当審における主張も踏まえ,以下の
とおり付加訂正するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3争点に対す
る判断」(ただし,原告Fに係る部分を除く。)に記載のとおりであるから,こ
れを引用する。
1原判決29頁10行目の「約61.5m」を「約120m」に改める。
2原判決29頁11行目,13行目,38頁末行,40頁15行目,41頁1
7行目の各「原告4名」を,いずれも「原告(控訴人)3名」に改める。
3原判決36頁13行目の次に,改行して,以下のとおり加える。
「この点につき,原告(控訴人)らは,①建築基準法59条の2第1項が
「各部分の高さについて総合的な配慮がなされていることにより市街地の
環境の整備改善に資する」ことを要件としていること,②本件総合設計許
可要綱が「都市景観の創造」を基本目標とし,第4の4「容積率制限」のカ
で「景観の形成」という項目を設け,町並み景観重点地区において景観に配
慮した景観配慮型建築物,景観形成型建築物の場合に容積率を緩和するとし
ていることから,総合設計許可制度は良好な景観の整備保全をも目的として
いることが明らかであると主張する。
しかしながら,景観利益は,その主体及び客体の両面においてその範囲を
明確に画することができるものではない上,景観利益の保護は,一方におい
て当該地域における土地・建物の財産権に制限を加えることとなり,その範
囲・内容等をめぐって周辺の住民相互間や財産権者との間で意見の対立が生
ずることも予想されるものであることからすると,景観利益の保護とこれに
伴う個人の財産権等の規制は,第一次的に行政法規や当該地域の条例等によ
ってされることが予定されているものであるということができる。ところが,
建築基準法59条の2第1項の「市街地の環境の整備改善に資する」との要
件は,極めて抽象的一般的なものであるし,総合設計制度の取扱方針を定め
た本件許可要綱をみても,具体的にどのように景観に対する配慮を行うのか,
それに伴って個人の財産権がどのように制限されるのかは明確にされてい
ない。そうすると,これらの規定から,総合設計制度が景観利益を一般公益
にとどまらず個々人の個別的利益として保護する趣旨であるとまでみるこ
とはできない。
また,原告D寺は,公聴会への参加資格があり,景観に関する意見を述べ
ていること,また,台東区景観計画(素案)により保護すべき景観の内容,
範囲,保護の態様が明らかであることから,原告D寺の景観利益は個別的利
益として保護されているとして,原告適格があると主張する。
しかしながら,公聴会への参加資格やそこで意見を述べる機会の付与は,
広く一般的公益を保護する趣旨で周辺住民に与えられるものとみることも
できるのであり,これらが与えられているからといって,建築基準法59条
の2第1項がその者の個人的利益を保護する趣旨であると解することはで
きない。また,台東区景観計画(素案)は,未だ制定に至っているものでは
ない上,本件許可処分時には上記素案さえ示されていなかったものであるこ
とからすると,上記素案を根拠として原告D寺の原告適格を肯定することは
できない。」
4原判決37頁末行の次に,改行して,以下のとおり加える。
「この点につき,原告(控訴人)D寺は,総合設計許可制度の手続上,土地
所有者にも発言権が認められること,原告D寺の所有している土地はその所
在地からして今後何らかの建築物が建築されることが予定されており,本件
建築物からの影響を将来的に被ることになる点において,被害の可能性は現
在建築物を所有している他の控訴人らと何ら変わりはないことを理由として,
建物所有者に原告適格が認められるのと同様に土地所有者にも原告適格が認
められるべきであると主張する。
しかしながら,建築基準法59条の2第1項に基づく総合設計許可の取消
訴訟の原告適格は,同条項が保護すべきものとする利益が何かによって定ま
るものであり,当該利益を有する者に対しては発言権が与えられるべきであ
るということはできても,逆に総合設計許可要綱の実施細目において発言権
が与えられたからといって,当然に取消訴訟の原告適格が認められるという
ことはできない。また,本件許可処分時に原告D寺の所有する土地上に何ら
かの建築物が建築される予定があったことの主張もなく,単にその可能性の
みを根拠として,土地所有者が現に建築物を所有する者やそこに居住する者
と同等の利益を有しているとみることはできない。」
5原判決38頁22行目の次に,改行して,以下のとおり加える。
「原告(控訴人)Eは,建築基準法52条2項が道路の幅の大小に応じて容
積率が変わることを,また,同法52条14項が周囲に広い公園等を有する
建築物の場合,容積率の緩和があり得ることを定めていることや,災害対策
基本法に基づき定められた台東区防災計画を根拠として,総合設計制度が前
面道路の交通の混雑や周囲の空き地の混雑を考慮し,個々の住民の避難の利
益を個別的利益として保護する趣旨であると主張する。
しかしながら,前記引用に係る原判決説示のとおり,建築基準法の上記各
条項は,建築物の過密化を避け,適当な都市空間を確保することにより,当
該建築物及びこれに隣接する建築物等における日照,通風,採光等を良好に
保つこと,火災その他の災害発生時における延焼等の危険を抑制し,円滑な
退避を可能にすることを目的とするものであって,このような直接的な被害
を受ける範囲にない,広く周辺地域全体に居住する者の避難場所等の確保を
も目的とするものとみることはできない。また,災害対策基本法や台東区防
災計画の目的とするところは,総合設計許可制度の趣旨の解釈に直接関わる
ものではなく,原告Eの原告適格の有無に関する上記の判断を左右しない。」
6原判決48頁9行目「居住環境創出される」を「居住環境が創出される」に,
16行目の「形成してする」を「形成する」に,それぞれ改める。
7原判決52頁10行目の次に,改行して,以下のとおり加える。
「原告(控訴人)らは,Pホテルの建築時においても,風環境の評価を行っ
たが,現実には同ホテルの完成後に付近で自転車が大量に倒れるなどの被害
が生じ,また,同ホテルの真正面にある建物の壁の一部が同ホテルからの風
で崩落するという事態に至っているとして,机上の実験で風害は受忍限度で
あるとの予測があったとしても現実に風害が生じないことにはならないと主
張する。しかし,上記の被害が同ホテルの建築による風害であることを認め
るに足りる証拠はなく,また,本件申請者らにより実施された風環境調査(乙
A2)の結果を覆すに足りる証拠もないから,原告らの上記主張は上記判断
を左右しない。」
8原判決54頁16行目の「本件敷地は」を削り,55頁21行目から22行
目にかけての「α地域のいては」を「α地域においては」に改める。
9原判決57頁2行目の「公開空地地」を「公開空地」に,18行目の「原告」
を「原告(控訴人)ら」に,それぞれ改め,19行目の次に,改行して,以下
のとおり加える。
「原告(控訴人)らは,本件台東区マスタープランが,集合住宅の建設によ
る景観・日照等の住環境の悪化を懸念し,土地利用誘導方策の内容として,
本件敷地の含まれる地域を「中・低層地(概ね3~5階程度)」と定めてい
ることからすると,本件建築物のような130mを超える超高層建築「37
階+塔屋2階」は,これを大きく逸脱するものであり,許容限度を超えるか
ら,本件許可処分には裁量の逸脱があり,違法であると主張する。
しかしながら,本件台東区マスタープランは,都市計画法18条の2に基
づき定められた市町村の都市計画に関する基本指針であって,「まちの将来
像や土地利用・都市施設等の整備方針を明らかにし,」「まちづくりのガイ
ドラインの役割を持つもの」にすぎない上,本件敷地を含む地域に関しては,
土地利用方針として,建物形態を「中・低層地(概ね3~5階程度)」とし
ているものの,他方で,土地利用形態を「複合市街地」とし,「幹線道路の
背後の街区では,建物の共同化等により,土地の高度利用を進め,オープン
スペースの創出や狭あい道路の拡幅等を進め,居住環境に配慮した土地利用
を図る」ともされており,この場合の「高度利用」の制限については何らこ
れを定めるものではない。原告らは,建物形態が「中・低層地(概ね3~5
階程度)」と定められていることからすると,社会通念上,「高度利用」は
幹線道路沿いの高層建築物群を超えない8~9階までと考えるべきであると
主張するが,本件台東区マスタープラン上,そのように解すべき根拠は見当
たらない。
そうすると,どの程度の高度利用が許容されるかについては,本件許可要
綱に反しない限度で,土地及び建物の共同化により確保される空間の程度及
びその利用内容等,当該建築物により創出される住環境を総合的に考慮して
判断すべきものというほかなく,本件建築物が地上37階の高さ(ペントハ
ウスを含む最高高さ133.53m)であるからといって,本件許可処分が
本件台東区マスタープランに反しないというべきことは,上記説示のとおり
である。」
10原判決58頁22行目の「原告」を「原告(控訴人)ら」に改める。
11原判決59頁1行目の次に,改行して,以下のとおり加える。
「原告(控訴人)らは,本件許可処分は原告らの人格権を保障する憲法13
条,25条に反するなどとも主張するが,その内容は結局のところ本件台東
区マスタープランに反するという主張にすぎず,具体的な権利ないし法的利
益の侵害を主張するものではないから,これを採用し得ない。」
第4結論
よって,本件控訴はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,
主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第23民事部
裁判長裁判官鈴木健太
裁判官中村さとみ
裁判官藤澤孝彦

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