弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成30年5月30日判決言渡
平成29年(行ウ)第206号旅館業法に関する地位確認請求事件
主文
1本件訴えを却下する。
2訴訟費用は原告の負担とする。5
事実及び理由
第1請求
原告が,別紙物件目録記載1の不動産において別紙「民泊実施計画1」に基
づき,別紙物件目録記載2の不動産において別紙「民泊実施計画2」に基づ
き,それぞれ反復継続して宿泊場所を提供することについて,旅館業法3条110
項に規定する大阪市長の許可を受ける義務を負わないことを確認する。
第2事案の概要
本件は,原告が,大阪市α区に所在するマンションの専有部分である別紙物
件目録記載1の不動産において別紙「民泊実施計画1」記載の実施方法によ
り,同市β区に所在するマンションの専有部分である同目録記載2の不動産15
(以下,同不動産と同目録記載1の不動産とを併せて「本件各不動産」とい
う。)において別紙「民泊実施計画2」記載の実施方法により,それぞれ反復
継続して有料で宿泊場所を提供すること(以下「本件民泊提供行為」とい
う。)を検討し,被告に対して,宿泊料を受けて反復継続して住宅に人を宿泊
させる行為(以下「民泊提供行為」という。)について旅館業法(同法は,平20
成29年法律第84号により改正されたが,同改正法の施行日は平成30年6
月15日である。)3条1項の許可(以下「営業許可」ということがある。)
を要するか否かを問い合わせたところ,民泊提供行為を行うには営業許可を受
けることを要する旨の見解が示されたことから,本件民泊提供行為には旅館業
法の適用はなく,本件民泊提供行為について営業許可を受ける必要はないなど25
と主張して,被告に対し,行政事件訴訟法4条の規定する公法上の当事者訴訟
の一類型である公法上の法律関係に関する確認の訴えとして,原告が本件民泊
提供行為について営業許可を受ける義務を負わないことの確認を求める事案で
ある。
1関係法令の定め
⑴旅館業法2条は,同法において,「旅館業」とは,ホテル営業,旅館営業,5
簡易宿所営業及び下宿営業をいう旨を(1項),「ホテル営業」とは,洋式
の構造及び設備を主とする施設を設け,宿泊料を受けて,人を宿泊させる営
業で,簡易宿所営業及び下宿営業以外のものをいう旨を(2項),「旅館営
業」とは,和式の構造及び設備を主とする施設を設け,宿泊料を受けて,人
を宿泊させる営業で,簡易宿所営業及び下宿営業以外のものをいう旨を(310
項),「簡易宿所営業」とは,宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設
備を主とする施設を設け,宿泊料を受けて,人を宿泊させる営業で,下宿営
業以外のものをいう旨を(4項),「下宿営業」とは,施設を設け,1月以
上の期間を単位とする宿泊料を受けて,人を宿泊させる営業をいう旨を(5
項),「宿泊」とは,寝具を使用して前各項の施設を利用することをいう旨15
を(6項)それぞれ規定する。
⑵旅館業法3条1項は,旅館業を経営しようとする者は,都道府県知事(保
健所を設置する市又は特別区にあっては,市長又は区長。以下同じ。)の許
可(営業許可)を受けなければならない旨規定し,同条2項は,都道府県知
事は,同条1項の許可の申請があつた場合において,その申請に係る施設の20
構造設備が政令で定める基準に適合しないと認めるとき等には,同項の許可
を与えないことができる旨規定する。
⑶旅館業法7条1項は,都道府県知事は,必要があると認めるときは,営業
者(営業許可を受けて旅館業を営む者。以下同じ。同法3条の2第1項参照)
その他の関係者から必要な報告を求め,又は当該職員に,営業の施設に立ち25
入り,その構造設備若しくはこれに関する書類を検査させることができる旨
規定する。
⑷旅館業法7条の2は,都道府県知事は,営業の施設の構造設備が同法3条
2項の規定に基づく政令で定める基準に適合しなくなったと認めるときは,
当該営業者に対し,相当の期間を定めて,当該施設の構造設備をその基準に
適合させるために必要な措置をとるべきことを命ずることができる旨規定す5
る。
⑸旅館業法8条は,都道府県知事は,営業者が,同法若しくは同法に基づく
処分に違反した等のときは,営業許可を取り消し,又は期間を定めて営業の
停止を命ずることができる旨規定する。
⑹旅館業法10条は,同法3条1項の規定に違反して営業許可を受けないで10
旅館業を経営した者及び同法8条の規定による命令に違反した者は,6月以
下の懲役又は3万円以下の罰金に処する旨規定する。
2前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨
により容易に認められる事実)
⑴原告は,宿泊施設の仲介ウェブサイトを利用して大阪市γ区所在のマンシ15
ョンの専有部分(以下「別件不動産」という。)及び本件各不動産において
民泊提供行為を行うことを検討し,平成29年2月1日,本件各不動産の所
有者から民泊提供行為を行うための使用権限の付与を受けるなどの準備を進
めた。(甲16,17,弁論の全趣旨)
⑵原告は,平成29年2月24日,大阪市保健所に対して,別件不動産にお20
いて本件民泊提供行為と同様の方法により宿泊料を受けて反復継続して住宅
に人を宿泊させる(民泊提供行為を行う)場合に営業許可を受けることを要
するか否かを問い合わせたところ,そのような場合には営業許可を受けるこ
とを要する旨の見解が示された。(甲9の1,弁論の全趣旨)
⑶原告は,平成29年3月9日,被告に対し,別件不動産において反復継続25
して宿泊場所を提供することについて,旅館業法3条1項に規定する大阪市
長の許可を受ける義務を負わないことを確認することを求める旨の訴えを大
阪地方裁判所に提起した(同裁判所同年(行ウ)第47号事件)。(顕著な
事実)
⑷原告は,別件不動産において民泊提供行為を行わないこととし,①平成2
9年11月1日,行政事件訴訟法41条2項,19条1項に基づき,被告に5
対し,前記第1記載のとおりの義務を負わないことを確認することを求める
旨の訴えを前記⑶の訴えに併合して大阪地方裁判所に提起し(本件訴訟),
②平成30年1月26日実施の第5回口頭弁論期日において,前記⑶の訴え
を取り下げた(被告もこれに同意した。)。(顕著な事実)
3争点10
⑴本件訴えの適法性
⑵本件民泊提供行為を行うに際して営業許可を受けることの要否
4争点に関する当事者の主張
⑴争点⑴(本件訴えの適法性)について
(原告の主張)15
ア原告と被告との間の公法上の法律関係の存在
旅館業法上,営業許可は都道府県知事(保健所を設置する被告にあって
は,大阪市長)が行うものとされており,原告と被告との間には本件民泊
提供行為について営業許可を受けることを要するか否かに関し見解が対立
していることからすれば,原告が本件民泊提供行為について営業許可の申20
請をしていない現時点においても,原告と被告との間には,本件民泊提供
行為について営業許可を受けることを要するか否かという公法上の法律関
係が存在しているということができる。
イ確認の利益の存在
(ア)対象選択の適否25
営業許可を受けない旅館業の経営(以下「無許可営業」という。)に
対する警察による取締りは,保健所による無許可営業に係る調査・指導
に従わないなど悪質と思われる者について保健所から警察に対して情報
提供が行われることを端緒として行われることが一般的であるところ,
本件民泊提供行為について営業許可を受けることを要しない旨の裁判所
の判断が示されれば,本件民泊提供行為について大阪市保健所による調5
査・指導及び警察に対する情報提供が行われることはなくなり,その結
果,原告は,営業許可を受けないで本件民泊提供行為を行っても,警察
の取締りを受けたり,逮捕・勾留・公訴提起されたりする可能性はなく
なる。
そうすると,本件訴えにおける確認の対象は,原告と被告との間にお10
ける紛争解決に有効適切であるといえる。
(イ)即時確定の利益の有無
原告は,被告の担当者から,平成29年3月3日,別件不動産で営業
許可を受けないで民泊提供行為を行った場合,旅館業法10条に基づき
刑罰が科されることになるので,原告に対する大阪市保健所による指導15
や警察による逮捕,書類送検等が行われる可能性がある旨の見解を示さ
れたことによって,本件民泊提供行為を行って逮捕・勾留・公訴提起さ
れて刑事罰を受ける危険を冒すか,又は,自己規制して本件民泊提供行
為を行うことを諦め,職業選択の自由ないし営業の自由という基本的人
権が侵害されることを甘受するかという究極の選択を迫られているか20
ら,原告について,本件民泊提供行為を行うことが事実上不可能となっ
ており,営業許可を受けないで本件民泊提供行為を行う自由に対する不
安又は危険が現実化しているというべきである。他方で,本件民泊提供
行為について営業許可を受けることを要しない旨の裁判所の判断が示さ
れれば,前記(ア)のとおり,原告は,営業許可を受けないで本件民泊提25
供行為を行っても逮捕・勾留・公訴提起される可能性はなくなり,原告
は営業許可を受けないで本件民泊提供行為を行うことが可能となる。
以上のことからすれば,原告が本件民泊提供行為について営業許可を
受ける義務を負わないことを即時に確定する必要があるというべきであ
る。
(ウ)他の有効適切な手段の有無5
被告の担当者は,営業許可を受けないで民泊提供行為を行おうとする
原告に対し,民泊提供行為を行うには営業許可が必要であり,営業許可
を受けないで民泊提供行為を行った場合には逮捕される可能性がある旨
の見解を示しているのであって,このような原告と被告との紛争を解決
するためには,訴訟において本件民泊提供行為について営業許可を受け10
る義務がないことを確認するのが最も有効適切な手段であるといえる。
ウまとめ
以上のとおり,本件訴えは,原告と被告との間の公法上の法律関係に関
する紛争についてのものであり,確認の利益も存在するから,本件訴え
は,適法である。15
(被告の主張)
ア原告と被告との間の公法上の法律関係の不存在
大阪市長は,旅館業を経営しようとする者から営業許可の申請があった
場合にその適否を判断するにすぎず,旅館業を経営しようとする者が営業
許可を受ける義務を負うのは国に対してであって,営業許可を受けないで20
旅館業を経営する者に対して刑罰を科すのも国である。そうすると,原告
が本件民泊提供行為について大阪市長に対し営業許可の申請をしていない
現時点において,原告と被告との間で公法上の法律関係は発生していない
というべきである。
イ確認の利益の不存在25
(ア)対象選択の適否
本件訴えにおいて本件民泊提供行為につき営業許可を受けることを要
しない旨の判決がされても,捜査機関は同判決に拘束されず,営業許可
を受けないで本件民泊提供行為を行った原告を逮捕・勾留・公訴提起す
ることは妨げられない。また,本件民泊提供行為につき大阪市保健所か
ら行政指導を受ける可能性があるとしても,行政指導は事実上のもので5
あって行政処分ではないから,そのような可能性をもって原告の具体的
な権利又は法的利益が侵害される現実的可能性があるということはでき
ない。したがって,本件訴えにおける確認の対象が原告と被告との紛争
解決に有効適切であるということはできない。
(イ)即時確定の利益の有無10
原告は,本件民泊提供行為を開始しているわけではなく,大阪市長に
対して営業許可の申請すらしていないのであって,現時点においては,
単に本件民泊提供行為が旅館業に該当し本件民泊提供行為について営業
許可を受けることを要するか否かについて見解の相違があるにすぎず,
原告の権利又は法的地位につき危険又は不安が現存しているということ15
はできない。
(ウ)他の有効適切な手段の有無
原告が,本件民泊提供行為を行った場合に捜査機関による訴追を受け
ず,大阪市保健所による行政指導を避けるためには営業許可を受ければ
足りるのであり,原告が本件民泊提供行為を行った場合に受ける可能性20
のある不利益を避けるために本件訴え以外に有効適切な手段が存在す
る。
ウまとめ
以上のとおり,原告と被告との間には公法上の法律関係は存在しない
上,本件訴えについては確認の利益が認められないから,本件訴えは不適25
法である。
⑵争点⑵(本件民泊提供行為について営業許可を受けることの要否)
(原告の主張)
宿泊用に提供された個人宅の一部や空き別荘,マンションの空室等に単独
又は友人若しくは家族などの限定的な人的関係に結ばれた少数の旅人が数日
単位の短い期間宿泊する場所を提供する行為は,旅館業に該当しない以上,5
当該行為に旅館業法の規制は及ばず,当該行為について営業許可を受ける必
要はない。
仮に,当該行為に旅館業法の規制が及ぶとしても,本件民泊提供行為は,
公衆衛生の確保という旅館業法の立法目的を害するものではないから,本件
民泊提供行為には旅館業法の規制は及ばず,本件民泊提供行為について営業10
許可を受ける必要はないというべきである。
(被告の主張)
宿泊用に提供された個人宅の一部や空き別荘,マンションの空室等に単独
又は友人若しくは家族などの限定的な人的関係に結ばれた少数の旅人が数日
単位の短い期間宿泊する場所を提供することは,旅館業の1つである「簡易15
宿所営業」(旅館業法2条4項)に該当するから,本件民泊提供行為につい
て営業許可を受ける必要があるというべきである。
第3当裁判所の判断
1争点⑴(本件訴えの適法性)について
⑴本件訴えは,公法上の法律関係に関する確認の訴えとして提起されたもの20
であるから,本件訴えが適法であるといえるためには確認の利益が存在する
ことが必要であるところ,確認の訴えにおける確認の利益は,判決をもって
法律関係の存否を確定することが,その法律関係に関して現に存する法律上
の紛争を解決し,当事者の法律上の地位の不安,危険を除去するために必要
かつ適切である場合に認められる(最高裁昭和44年(オ)第719号同425
7年11月9日第一小法廷判決・民集26巻9号1513頁,最高裁平成1
3年(行ツ)第82号,第83号,同年(行ヒ)第76号,第77号同17
年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁参照)。
⑵そこで,前記⑴の観点から,本件訴えについて確認の利益が認められるか
否かについて検討する。
ア前記前提事実⑵及び弁論の全趣旨によれば,原告は,民泊提供行為に旅5
館業法の適用はなく,本件民泊提供行為について営業許可は必要ないと主
張しているのに対し,被告は,民泊提供行為にも旅館業法は適用され,本
件民泊提供行為についても営業許可が必要であると主張していることが認
められるから,原告と被告との間には本件民泊提供行為について営業許可
を受けることを要するか否かに関する見解の相違があるということができ10
る。
しかしながら,旅館業法上,営業許可を受けないで旅館業を経営した者
に対しては刑罰を科す旨が規定されているものの(10条1号),当該者
に対して都道府県知事が何らかの行政処分をする旨の規定は見当たらない
(旅館業法は,都道府県知事の報告徴収権限及び立入検査権限〔7条115
項〕,措置命令権限〔7条の2〕並びに営業の停止命令権限〔8条〕を規
定するものの,これらは,営業許可を受けて旅館業を営む者〔営業者〕に
対する都道府県知事の権限を定めたものであって,都道府県知事に対して
営業許可を受けないで旅館業を営む者に対する何らかの権限を付与したも
のではない。)から,原告が営業許可を受けないで本件民泊提供行為を20
行ったとしても,原告が大阪市長から旅館業法に基づき何らかの行政処分
を受ける可能性があるということはできない。
そして,被告は,原告に対して,民泊提供行為にも旅館業法が適用さ
れ,民泊提供行為についても営業許可が必要である旨の見解を示している
のであるから(前記認定事実⑵),原告は,被告から本件民泊提供行為の25
中止を求める指導,勧告等の行政上の措置(以下「行政上の措置」とい
う。)を受ける可能性があるものの,①現時点においては,原告は,被告
から現実に行政上の措置を受けているわけではなく,その可能性があるに
とどまるのであって,本件各証拠によっても原告が被告から行政上の措置
を受ける具体的な蓋然性があると認めることはできず,また,②仮に,原
告が被告から行政上の措置を受けた場合には,本件民泊提供行為に一定の5
支障が生ずる余地が否定できないとしても,それによって原告に生ずる支
障の内容や損害の程度を具体的に認めるに足りる証拠はない。
さらに,前記のとおりの見解の相違があるとしても,原告としては,被
告の見解を含む諸般の事情や状況を考慮の上,自らの判断で営業許可を受
けないで本件民泊提供行為を行うことは可能なのであって,現時点におい10
て,本件民泊提供行為について営業許可を受けることを要するか否かが被
告との間で判決をもって確定されないことによって,原告について,本件
民泊提供行為等に関して事後的な損害の回復が著しく困難になる状況が存
すると認めることはできず,他に原告の何らかの法律上の地位に現実の不
安又は危険が存することをうかがわせるような事情も見当たらないという15
べきである(なお,平成29年法律第84号による改正後の旅館業法〔平
成30年6月15日施行〕においては,保健所を設置する市たる被告の長
たる大阪市長に対して,一定の要件の下で,営業許可を受けないで旅館業
を営む者に対する報告徴収権限及び立入検査権限〔同法7条2項〕並びに
措置命令権限〔7条の2第3項〕が新たに付与されているものの,現時点20
においては,原告と被告との間には前記のとおりの見解の相違があるにと
どまり,原告は,被告から,現実に行政上の措置を受けているわけではな
く,また,行政上の措置を受ける具体的な蓋然性があると認めることもで
きないこと,その他の原告と被告との間における本件民泊提供行為に関す
る諸状況に鑑みると,同日以後,大阪市長に前記各権限が付与されること25
を考慮しても,現時点において,本件民泊提供行為について営業許可を受
けることを要するか否かが被告との間で判決をもって確定されないことに
よって,原告について,本件民泊提供行為等に関して事後的な損害の回復
が著しく困難になる状況が存すると認めることはできず,他に原告の何ら
かの法律上の地位に現実の不安又は危険が存することをうかがわせるよう
な事情も見当たらないというべきである。)。5
イこれに対し,原告は,無許可営業に対する警察による取締りは,保健所
による無許可営業に係る調査・指導に従わないなど悪質と思われる者につ
いて保健所から警察に対して情報提供が行われることを端緒として行われ
ることが一般的であるところ,本件民泊提供行為について営業許可を受け
ることを要しない旨の裁判所の判断が示されれば,本件民泊提供行為につ10
いて大阪市保健所による調査・指導及び警察に対する情報提供が行われる
ことはなくなり,その結果,営業許可を受けないで本件民泊提供行為を
行っても,警察の取締りを受けたり,逮捕・勾留・公訴提起されたりする
可能性はなくなる旨主張する。
そこで検討すると,無許可営業に対する捜査機関(検察官及び検察事務15
官を含む。以下同じ。)による捜査は,保健所から警察に対する情報提供
を端緒として行われることが少なくないと考えられるものの,当該情報提
供以外の事情を端緒とする事案が存しないことを裏付ける客観的かつ的確
な証拠はない。そして,捜査や逮捕状・勾留状の請求は,捜査機関におい
て,公訴提起は,検察官において,それぞれ独自の判断で行うものであり,20
また,逮捕状・勾留状の発付は,当該逮捕状・勾留状の請求に対する判断
を担当する裁判官において,独立の権限をもって行うものであって,仮に,
本件民泊提供行為について営業許可を受けることを要しないことが被告と
の間で判決をもって確定したとしても,当該判決が,捜査や逮捕状・勾留
状の請求を行うか否かに関する捜査機関の判断,公訴提起を行うか否かに25
関する検察官の判断及び逮捕状・勾留状の発付の適否に関する裁判官の判
断を拘束するものと解すべき根拠となる法令上の規定は存しない。
そうすると,当該判決がされることによって,原告が,営業許可を受け
ないで本件民泊提供行為を行っても,警察の取締りを受けたり,逮捕・勾
留・公訴提起されたりする可能性はなくなるということはできない。
ウまた,原告は,被告の担当者から,平成29年3月3日,別件不動産で5
営業許可を受けないで民泊提供行為を行った場合,旅館業法10条に基づ
き刑罰が科されることになるので,原告に対する大阪市保健所による指導
や警察による逮捕,書類送検等が行われる可能性がある旨の見解を示され
たことによって,本件民泊提供行為を行って逮捕・勾留・公訴提起されて
刑事罰を受ける危険を冒すか,又は,自己規制して本件民泊提供行為を行10
うことを諦め,職業選択の自由ないし営業の自由という基本的人権が侵害
されることを甘受するかという究極の選択を迫られているから,原告につ
いて,本件民泊提供行為を行うことが事実上不可能となっており,営業許
可を受けないで本件民泊提供行為を行う自由に対する不安又は危険が現実
化しているというべきである旨主張する。15
しかしながら,被告は,被告の担当者が原告に対して前記見解を示した
事実を否認しているところ,この事実を裏付ける客観的かつ的確な証拠は
ない。仮に,被告の担当者が,原告の主張に係る前記のとおりの見解を原
告に対して示した事実が存するとしても,①原告としては,被告側による
当該見解の表示の有無にかかわらず,諸般の事情や状況を考慮の上,自ら20
の判断で本件民泊提供行為を行うことは可能であるというべきであること,
②当該見解を示した被告側は,逮捕状・勾留状の請求や公訴提起を行うか
否かを決する権限を有していないことはもとより,本件各証拠によっても,
これらの権限を有する捜査機関における逮捕状・勾留状の請求を行うか否
かの判断や検察官における公訴提起を行うか否かの判断に対して現実的か25
つ具体的な影響力を有していると認めることはできないことに加えて,③
現時点においては,原告と被告との間には前記のとおりの見解の相違があ
るにとどまり,原告は,被告から,現実に行政上の措置を受けているわけ
ではなく,また,行政上の措置を受ける具体的な蓋然性があると認めるこ
ともできないこと,その他の原告と被告との間における本件民泊提供行為
に関する諸状況に鑑みると,当該見解が示されたことによって,原告につ5
いて,本件民泊提供行為を行うことが事実上不可能となっており,営業許
可を受けないで本件民泊提供行為を行う自由に対する不安又は危険が現実
化していると認めることはできない。
エ以上の諸点を総合考慮すると,現時点において,本件民泊提供行為につ
いて営業許可を受けることを要するか否かを被告との間で判決をもって確10
定することが,原告の法律上の地位の不安,危険を除去するために必要か
つ適切であるということはできない。
⑶したがって,本件訴えは,確認の利益を欠く不適法な訴えというほかな
い。
2よって,本件訴えは不適法であるから,これを却下することとし,主文のと15
おり判決する。
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官三輪方大20
裁判官角谷昌毅は転補につき,裁判官吉川慶は差し支えにつき,いずれも署名
押印することができない。
裁判長裁判官三輪方大
(別紙物件目録省略)
(別紙「民泊実施計画1」省略)
(別紙「民泊実施計画2」省略)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛