弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成13年(行ケ)第594号 特許取消決定取消請求事件(平成15年1月15
日口頭弁論終結)
          判           決
       原      告   3Mカンパニー
           (旧商号)  ミネソタ マイニング アンド マニュフ
ァクチュアリング コンパニー
       訴訟代理人弁護士   片 山 英 二
       同          北 原 潤 一
       同    弁理士   小 林 純 子
       同          古 橋 伸 茂
       被      告   特許庁長官 太 田 信一郎
       指定代理人      高 橋 美 実
       同          末 政 清 滋
       同          山 口 由 木
       同          高 木   進
       同          宮 川 久 成
       被告補助参加人    日本カーバイド工業株式会社
       訴訟代理人弁理士   小田島 平 吉
       同          深 浦 秀 夫
       同          江 角 洋 治
          主           文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
      この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
          事実及び理由
第1 請求
   特許庁が異議2000-70322号事件について平成13年8月20日に
した決定を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は,下記特許異議の申立てに係る下記特許(以下「本件特許」といい,
その特許発明を「本件発明」という。)の特許権者であり,その手続の経緯は次の
とおりである。
  1985年11月18日 優先権主張・米国
  昭和61年11月17日 特許出願
  平成11年 5月14日 設定登録(特許第2926403号発明「包まれた
レンズ型逆行反射性シート」)
  平成12年 1月24日及び同月28日
              特許異議の申立て(異議2000-70322号)
  平成13年 8月20日 本件特許を取り消す旨の決定
  同   年 9月10日 原告への決定謄本送達
 2 本件発明の要旨
  1.(ⅰ)実質的にレンズの単層をキャリヤーウェブへ部分的に埋め,
   (ⅱ)前記キャリヤーウェブのレンズを有する表面の上に鏡面状反射性材料を
付着させ,
   (ⅲ)熱と圧力をかけて,HMW熱可塑性結合剤フィルムを,レンズ間の前記キャ
リヤーウェブの表面上にある鏡面状反射性付着物のどの部分とも接触させないよう
にしながら,レンズ上にある鏡面状反射性付着物の部分に接触させ,
   (ⅳ)キャリヤーウェブを剥がし,
   (ⅴ)露出したレンズ上に覆いフィルムを置き,そして
   (ⅵ)網目状結合部線に沿って熱と圧力をかけ,結合剤材料を軟化して変形
し,覆いフィルムと接触させ,このようにして気密に密封したセルを形成し,それ
らのセル中にレンズが包まれ,且つ空気と接するようにする
   諸工程を含む包まれたレンズ型逆行反射性シートの製造方法。
  4.実質的にレンズの単層が部分的に埋められている結合剤層,
   レンズの下に存在する鏡面状反射性層,および
   気密に密封されたセルで,その中にレンズが包まれ且つ空気と接しているセ
ルを形成するよう網目状結合部線に沿って結合剤層を密封する覆いフィルムを含
む,可撓性のある包まれたレンズ型逆行反射性シートであって,
   結合剤層が少なくとも60,000の重量平均分子量および750未満の溶融指数を有
するHMW熱可塑性フィルムであり,覆いフィルムがHMW熱可塑性結合剤フィルムと相
溶性があり,且つレンズ間の結合剤層上には鏡面状反射性層が存在しない,上記シ
ート。
   (以下,上記請求項1記載の本件発明を「第1発明」と,同4記載の本件発
明を「第2発明」という。なお,請求項2,3は,いわゆる実施態様項である。)
 3 本件決定の理由
   本件決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,第1発明及び第2発明は,い
ずれも,特開昭57-189839号公報(本訴乙1〔枝番を含む。以下同
じ。〕,丙1,以下「刊行物1」という。)に記載された発明であるから,本件特
許は,特許法29条1項3号の規定に違反してされたものであり,同法113条1
項2号に該当するものとして取り消すべきものとした。
第3 原告主張の本件決定取消事由
 本件決定は,第1発明及び第2発明について,いずれも刊行物1に記載され
た発明であるとの誤った認定をした(取消事由1,2)ものであるから,違法とし
て取り消されるべきである。
 1 取消事由1(第1発明の新規性を否定した認定判断の誤り)
 (1) 本件決定は,第1発明の工程(ⅱ)(「前記キャリヤーウェブのレンズを有
する表面の上に鏡面状反射性材料を付着させ」る工程)及び工程(ⅲ)(「熱と圧力
をかけて,HMW熱可塑性結合剤フィルムを,レンズ間の前記キャリヤーウェブの表面
上にある鏡面状反射性付着物のどの部分とも接触させないようにしながら,レンズ
上にある鏡面状反射性付着物の部分に接触させ」る工程)が,いずれも刊行物1に
開示されていると認定する(決定謄本4頁第2,第3段落)が,以下のとおり誤り
である。なお,刊行物1に第1発明の工程(ⅰ)が開示されていることは認める。
 (2) 刊行物1について
    刊行物1を示す証拠としては,特許庁の端末から打ち出された乙1と,国
立国会図書館が昭和57年11月22日に受け入れた丙1とが提出されているとこ
ろ,両者の図面には異なった様相を呈している部分があるが,乙1は公衆にアクセ
ス可能となった時期が不明であるから,本件において,刊行物1の記載事項は,丙
1に基づいて検討するのが妥当である。
 (3) 工程(ⅱ)について
    まず,第1発明の工程(ⅱ)において,鏡面状反射性材料が付着させられる
「キャリヤーウェブのレンズを有する表面の上」とは,蒸着の特性からしても,ま
た,本件明細書(甲2)の「アルミニウムの薄いフィルム層(20)が微小球(1
8)及びそれら微小球の間のポリエチレンフィルムの表面上に蒸着されている」
(9欄29行目以下)との記載及び第1図の図示からしても,レンズ間のキャリア
ーウェブの表面を意味しているというべきである。
    ところが,本件決定は,刊行物1(丙1)の「このガラスビーズ表面側か
ら真空蒸着によりアルミニウム(2)を被着させておく」(2頁右下欄3行目以
下)との記載を根拠に,刊行物1に第1発明の工程(ⅱ)が開示されていると認定す
るところ,この記載に対応する第3図によれば,ビーズ1の上面にアルミニウム2
が被着されている一方,各ビーズ1の間(以下「ガラスビーズ間」という。)のポ
リエチレン5表面にはアルミニウム5は被着していない。しかし,アルミニウムを
ガラスビーズ間のポリエチレンの表面に被着させずに露出したガラスビーズ表面に
は被着させるということは,蒸着の特性として,特別な技術を用いるのでなければ
実際上不可能であり(原告従業員ウィリアム・B・ロビンスの宣誓供述書〔甲
4〕),刊行物1には,このような特別な技術についての開示もない。また,第3
図の左から二つ目のガラスビーズと三つ目との間には真空蒸着されたアルミニウム
がポリエチレンから浮上して形成されるというあり得ない状態が示されている。そ
うすると,同図は,アルミニウムの被着の態様について技術的にあり得ないことを
表すものであり,技術的に矛盾した不明りょうな図というべきである。したがっ
て,同図は,アルミニウムの被着蒸着の態様,特にガラスビーズ間に被着すること
について開示するものとはいえず,第4図についても同様といわざるを得ない。
    したがって,刊行物1は,アルミニウム(鏡面状反射性材料)が付着させ
られるのが「キャリヤーウェブのレンズを有する表面の上」であるとの工程(ⅱ)の
構成を開示するものではないというべきである。
 (4) 工程(ⅲ)について
    第1発明の工程(ⅲ)では,熱と圧力をかけて,HMW熱可塑性結合剤フィルム
を,レンズ間の前記キャリヤーウェブの表面上にある鏡面状反射性付着物のどの部
分とも接触させないようにしながら,レンズ上にある鏡面状反射性付着物の部分に
接触させている。
    これに対し,刊行物1(丙1)の最終製品であるオープンタイプ反射シー
トの断面図を示す第1図では,左から1番目と2番目のガラスビーズ間,左から5
番目と6番目のガラスビーズ間の基体樹脂上には,アルミニウムを示す太い線が描
かれている。これは,基体樹脂を貼り合わせる前にアルミニウムがポリエチレン上
に付着していたこと,当該アルミニウムが,基体樹脂とポリエチレンとの貼り合わ
せ工程において,基体樹脂に接触したことを示すものにほかならず,第1発明の工
程(ⅲ)が開示されていないことは明らかである。また,刊行物1(丙1)の第5,
6図では,基体樹脂3とポリエチレン5との間に二重線が引かれているものの,こ
の二重線は多義的であり,基体樹脂3とポリエチレン5とが剥がれる箇所を示して
いると解する余地もあるから,「基体樹脂(3)とポリエチレン(5)とが接触し
ていない様子」が示されている(決定謄本4頁20行目参照)と断定することはで
きない。また,第5図では,ポリエチレン層の厚さは図面上約1.5㎜であるの
に,第6図の剥離したポリエチレン層の厚さは図面上約2㎜であるから,極めて不
正確な図といわなければならない。このような不正確な図面で,ポリエチレンと基
体樹脂との間に間隔があるように見えるからといって,第1発明の工程(ⅲ)が技術
的思想として開示されているということはできない。
    さらに,刊行物1(丙1)には,「第4図に示すように前記ガラスビーズ
付着ポリエチレンラミネートクラフト紙(56)のガラスビーズ(1)の表面にポ
リエチレンテレフタレートフィルム(4)を背方におき,この基体樹脂(3)を対
向配置させる。両者は・・・第5図に示すように一体に貼り合される」(2頁右下
欄13行目以下)との記載があるところ,複数の対象物を一体に貼り合わせる際に
は,一般的に,その貼り合わされる対象物は必然的に接触することになるから,こ
の記載は,ガラスビーズ付着ポリエチレンラミネートクラフト紙(56)と基体樹
脂(3)とを一体に貼り合わせる際に,ガラスビーズ間の上記クラフト紙(56)
の表面上のアルミニウム(第1発明における「レンズ間のキャリヤーウェブの表面
上にある鏡面状反射性付着物」)と基体樹脂(3)(第1発明における「フィル
ム」を構成するもの)とが接触していることを開示していると解釈すべきものであ
る。また,上記の貼り合わせの際,アルミニウムと基体樹脂とが接触しないように
する線速度や圧力を印加する時間といった具体的な制御条件が開示されていないこ
とからも,これらは接触しているものと理解せざるを得ない。
    したがって,刊行物1には,第1発明の工程(ⅲ)が開示されているとはい
えない。
 2 取消事由2(第2発明の新規性を否定した認定判断の誤り)
   本件決定は,刊行物1記載の発明が「レンズ間の結合剤層上には鏡面状反射
層が存在しない」構成を備えるものとして,第2発明との一致点の認定をする(決
定謄本8頁2行目以下)が,誤りである。
   すなわち,第2発明の要旨に規定する「レンズ間の結合剤層上には鏡面状反
射層が存在しない」シートは,第1発明の要旨に規定する前記工程(ⅱ),(ⅲ)によ
って製造されるところ,刊行物1に当該工程が開示されていないことは上記1のと
おりであるから,刊行物1に上記構成が開示されているということはできない。
第4 被告及び被告補助参加人の反論
 1 本件決定の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
 2 取消事由1,2(第1発明及び第2発明の新規性を否定した認定判断の誤
り)について
   原告は,刊行物1には,第1発明の工程(ⅱ),(ⅲ)の開示がないと主張する
が,刊行物1(乙1,丙1)の「140℃の保温炉中でこのビーズ(1)をポリエ
チレンラミネートクラフト紙のポリエチレン層に付着させる。そして第3図に示す
ようにこのガラスビーズ表面側から真空蒸着によりアルミニウム(2)を被着させ
ておく」(2頁左下欄末行以下)との記載,「第2図乃至第5図は,ガラスビーズ
を仮植されたポリエチレンラミネート紙とシート用基体樹脂を塗布されているポリ
エチレンテレフタレートフィルムとを貼着させる工程の順に得られる半成品断面
図,第6図はこの発明の実施例で剥離工程にある半成品断面図である」(3頁右下
欄1行目以下)との記載及び第4~6図の図示から,上記各工程の開示があること
は明らかである。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(第1発明の新規性を否定した認定判断の誤り)について
 (1) 原告は,刊行物1に,第1発明の工程(ⅱ),すなわち,「前記キャリヤー
ウェブのレンズを有する表面の上に鏡面状反射性材料を付着させ」る工程も,同工
程(ⅲ),すなわち,「熱と圧力をかけて,HMW熱可塑性結合剤フィルムを,レンズ間
の前記キャリヤーウェブの表面上にある鏡面状反射性付着物のどの部分とも接触さ
せないようにしながら,レンズ上にある鏡面状反射性付着物の部分に接触させ」る
工程も開示されていない旨主張するので,以下判断する。
    なお,刊行物1が昭和57年11月22日に公開された公報であることは
明らかであるところ,乙1と丙1とで,その印刷状態においてわずかな違いはある
ものの,本件における認定判断を左右するような違いとはいえないので,両者を参
酌することとする。
 (2) 刊行物1(乙1,丙1)には,オープンタイプ再帰反射シートを全天候型
にした高輝度反射シートの製造方法が記載されているところ,その工程として,第
1発明の工程(ⅰ)(「実質的にレンズの単層をキャリヤーウェブへ部分的に埋め」
る工程)が開示されていることは当事者間に争いがなく,また,その具体的な製造
工程に関し,「オープンタイプ反射シートを全天候型にするために空気層を設けた
表面フィルムでカバーしたものが高輝度反射シートである。以下にこの高輝度反射
シートの基体であるオープンタイプ反射シートの製造工程を図に従って述べる。第
1図に製造されたオープンタイプ反射シート(0)の断面を示す。このシートはポ
リエチレンテレフタレートフィルム(4)上の基体樹脂(3)にアルミニウム
(2)を蒸着された半球面で転写定植されたガラスビーズ(1)を備えて成つてい
る。このガラスビーズは屈折率1.90~1.93直径30~120μである。ま
ず第2図の例えば120μのクラフト紙(6)に30μのポリエチレン(5)を積
層したポリエチレンラミネートクラフト紙(56)を,温度むらを生じない様に1
00℃の完全保温室中でクラフト紙側からロールに巻き付ける。このロール温度を
140℃前後になるように加熱して100℃前後に加熱されているガラスビーズを
撒布する。この時ビーズ分布が最密充填になるようにする。140℃の保温炉中で
このビーズ(1)をポリエチレンラミネートクラフト紙のポリエチレン層に付着さ
せる。そして第3図に示すようにこのガラスビーズ表面側から真空蒸着によりアル
ミニウム(2)を被着させておく。この一方で熱安定性の良いフィルムに乾燥膜厚
100μとなる様にガラスビーズとの密着性のよい基体樹脂を塗工する。例えば,
フィルムは厚さ50μのポリエチレンテレフタレートで良く,基体樹脂は東亜合成
のアロンS-1006加熱残分50部,ルチル型酸化チタン50部,DOP7部,
エチルセロソルブ20部,粘度調整にはトルエンを使用して混合したもので良い。
塗工後50℃に5分間半乾燥し,第4図に示すように前記ガラスビーズ付着ポリエ
チレンラミネートクラフト紙(56)のガラスビーズ(1)の表面にポリエチレン
テレフタレートフィルム(4)を背方におき,この基体樹脂(3)を対向配置させ
る。両者は100℃,ニップ圧2kg/cm2
の加熱ロールにより第5図に示すよう
に一体に貼り合される。このあとポリエチレンラミネートクラフトを剥離すればガ
ラスビーズ(1)はポリエチレンテレフタレートフィルム(4)上の基体樹脂
(3)に転写されて第1図製品となるのである」(2頁左下欄1行目~3頁左上欄
3行目),「剥離終了後ガラスビーズを転写定植させた基体樹脂を80℃10分間
でキュアさせる。このオープンタイプ再帰反射シートを全天候型にする場合には表
面フィルムのアクリルフィルムとエンボスロールを用い,空気層が得られる様に加
熱して部分接着させると良い」(3頁左下欄1行目~6行目)との記載があること
が認められる。
    前記当事者間に争いのない事実及び刊行物1の上記記載によれば,刊行物
1には,高輝度反射シートを製造する一連の工程として,①実質的なガラスビーズ
(第1発明のレンズに相当する。)の単層をポリエチレンラミネートクラフト紙
(同キャリヤーウェブに相当する。)へ部分的に埋める工程に続いて,②当該ガラ
スビーズの埋められたポリエチレンラミネートクラフト紙に対し,ガラスビーズ側
から真空蒸着によりアルミニウム(同鏡面状反射性材料に相当する。)を被着させ
る工程,③フィルムに基体樹脂を塗工したものを,その基体樹脂が上記クラフト紙
のガラスビーズの付着された側に対向するように配置させ,当該クラフト紙と,フ
ィルムに基体樹脂を塗工したものとを100℃,ニップ圧2kg/cm2
の加熱ロー
ルにより一体に貼り合わせる工程,④当該クラフト紙を剥離することにより,フィ
ルムに塗工された基体樹脂にガラスビーズが転写された製品とする工程,⑤この製
品を全天候型にするために空気層を設けた表面フィルムでカバーする工程が記載さ
れていると認められる。
 (3) 以上の認定に基づいて,まず,第1発明の工程(ⅱ)(「前記キャリヤーウ
ェブのレンズを有する表面の上に鏡面状反射性材料を付着させ」る工程)の開示の
有無について見るに,刊行物1記載の発明における上記②の工程は,上記①の工程
(これが第1発明の工程(ⅰ)に相当することは明らかである。)を経て,直径30
~120μのほぼ球形のガラスビーズが実質的に単層の状態でポリエチレンラミネ
ートクラフト紙に埋め込まれているものにアルミニウムを真空蒸着により被着させ
る工程である。そして,被着させるアルミニウムが第1発明の鏡面状反射性材料に
相当することは上記のとおりであるから,結局,上記②の工程は,実質的にレンズ
(ガラスビーズ)の単層をキャリヤーウェブ(ポリエチレンラミネートクラフト
紙)へ部分的に埋めたものの表面上に鏡面状反射性材料(アルミニウム)を付着さ
せる工程に相当し,これは,第1発明の工程(ⅱ)を開示するものにほかならない。
    原告は,同工程で鏡面状反射性材料が付着させられる「キャリヤーウェブ
のレンズを有する表面の上」とは,レンズ間のキャリヤーウェブの表面を意味する
と主張するが,そのように解することができるとしても,刊行物1が第1発明の工
程(ⅱ)を開示することに変わりはない。すなわち,刊行物1記載の発明の上記②の
工程でアルミニウムを被着させる対象は,「直径30~120μのほぼ球形のガラ
スビーズが実質的に単層の状態でポリエチレンラミネートクラフト紙に埋め込まれ
ているもの」にほかならないから,当該ポリエチレンラミネートクラフト紙を平面
から見て,ガラスビーズとガラスビーズとの間のすき間,すなわちガラスビーズ間
が存在することは明らかであって,この状態でアルミニウムを真空蒸着すれば,ガ
ラスビーズの表面に限らず,ガラスビーズ間部分のクラフト紙の表面上にもアルミ
ニウムが付着することは当業者において明らかというべきである。蒸着の特性とし
て,アルミニウムをガラスビーズ間のポリエチレンの表面に被着させずに露出した
ガラスビーズ表面には被着させるということが実際上不可能である旨をいう甲4
(原告従業員Aの宣誓供述書)は,上記認定判断に反するものではなく,むしろこ
れに沿うものである。
    また,原告は,刊行物1の第3図の左から二つ目のガラスビーズと三つ目
との間には真空蒸着されたアルミニウムがポリエチレンから浮上して形成されると
いうあり得ない状態が示されていることを根拠として,第3図,第4図は技術的に
矛盾した不明りょうな図である旨主張する。しかし,刊行物1(乙1,丙1)の第
3図の該当部分は,ガラスビーズの露出面に被着したアルミニウム2を示す太線
が,左右で近接しているために,作図上は接触しているようかのように表現されて
いるにすぎないと理解されるものであって,このような図示から,「真空蒸着され
たアルミニウムがポリエチレンから浮上して形成」されている状態を図示するもの
とは,到底認めることができない。原告の上記主張に沿う記載のある甲3(Bの宣
誓供述書)は,刊行物1(乙1,丙1)の原図を忠実に再現していない複写図面に
基づくものであるから,採用することができない。
 (4) 次に,第1発明の工程(ⅲ)(「熱と圧力をかけて,HMW熱可塑性結合剤フィ
ルムを,レンズ間の前記キャリヤーウェブの表面上にある鏡面状反射性付着物のど
の部分とも接触させないようにしながら,レンズ上にある鏡面状反射性付着物の部
分に接触させ」る工程)の開示の有無について検討する。
    この点について,原告は,刊行物1記載の発明の「ポリエチレンラミネー
トクラフト紙」及び「基体樹脂」が,それぞれ第1発明の「キャリヤーウェブ」及
び「HMW熱可塑性結合剤フィルム」に相当することを前提に,刊行物1(乙1,丙
1)の第5図及びその関連記載は,ポリエチレンラミネートクラフト紙とHMW熱可塑
性結合剤フィルムとを接触させない状態を開示するものではない旨主張する。しか
し,上記③の工程に係る認定(上記(2)③)に,刊行物1の第5図及び第6図(乙1
-2,3はこれらの拡大図)の図示を総合すれば,当業者は,刊行物1記載の発明
の③の工程において,ポリエチレンラミネートクラフト紙のポリエチレンの表面と
基体樹脂の表面とが,一定の間隔をもってかい離している状態が二重線をもって示
されていることを,明らかに認識,把握することができるというべきである。とり
わけ,ポリエチレンラミネートクラフト紙を剥離する工程(上記(2)④)を示す第6
図において,左側4個のガラスビーズの間に示された二重線と,これに対応する,
右側5個のガラスビーズの間に示された各線とを対比観察するならば,上記二重線
の上側の線が基体樹脂の表面を,下側の線がポリエチレンラミネートクラフト紙の
表面をそれぞれ示すものであることが,疑いのない明りょうさで示されているとい
うべきである。そうすると,この図示自体から,第1発明の工程(ⅲ)が技術的思想
として開示されているものと優に認定することができる。加えて,刊行物1(乙
1,丙1)には,「屈折率1.90~1.93のガラスビーズの前半球を空気中に
露出させ、後半球に直接光反射層を設けたいわゆるオープンタイプ反射シートは、
ガラスビーズを利用した再帰反射板としては最高の反射輝度を示すことが知られて
いる」(2頁右上欄12行目以下)との記載があるところ,この記載によれば,刊
行物1記載の発明は,専らガラスビーズに光反射層(アルミニウム)を形成するこ
とを意図するものであることが明らかであり,ガラスビーズ間に被着したアルミニ
ウムに基体樹脂を直接接触させることを何ら意図していないことがうかがわれるも
のである。
    原告は,刊行物1(乙1,丙1)の第1図では,左から1番目と2番目の
ガラスビーズ間,左から5番目と6番目のガラスビーズ間の基体樹脂上には,アル
ミニウムを示す太い線が描かれていることを根拠として,ポリエチレンラミネート
クラフト紙と基体樹脂との貼り合わせ工程において,両者が接触したことが示され
ている旨主張する。しかし,原告の主張する上記「アルミニウムを示す太い線」
は,第3図に関して上記(3)で述べたところと同様,ガラスビーズに被着したアルミ
ニウムを示す左右の太線が作図上接触した結果,そのように表現されているにすぎ
ないと理解されるものであって,原告の主張するように,ポリエチレンラミネート
クラフト紙と基体樹脂との貼り合わせ工程において両者が接触したことを示すもの
とはいえない。また,第5,6図に示されたポリエチレン層の厚さを根拠として,
その不正確性をいう原告の主張は,上記認定判断に照らして,採用することができ
ない。
    次に,原告は,刊行物1(乙1,丙1)の「ガラスビーズ付着ポリエチレ
ンラミネートクラフト紙(56)のガラスビーズ(1)の表面にポリエチレンテレ
フタレートフィルム(4)を背方におき,この基体樹脂(3)を対向配置させる。
両者は・・・第5図に示すように一体に貼り合される」(2頁右下欄13行目以
下)との記載は,ポリエチレンラミネートクラフト紙と基体樹脂とが接触している
ことを示すものである旨主張するが,「一体に貼り合わされる」との記載のみか
ら,ポリエチレンラミネートクラフト紙のガラスビーズ間部分の表面と基体樹脂の
表面とが直接接触しているかどうかを認識することはできないというべきであるか
ら,上記主張も採用の限りでない。さらに,原告は,刊行物1記載の発明の上記③
の工程の貼り合わせの際,アルミニウムと基体樹脂とが接触しないようにする線速
度や圧力を印加する時間といった具体的な制御条件が開示されていないことを主張
するが,刊行物1の各図の図示自体において,第1発明の工程(ⅲ)が技術的思想と
して開示されていることは上記のとおりであり,これを実現するための具体的な制
御条件が開示されていないことは,上記認定を左右するものとはいえない。
 (5) 以上のとおり,原告主張の取消事由1の主張は理由がない。
 2 取消事由2(第2発明の新規性を否定した認定判断の誤り)について
   原告の取消事由2の主張は,取消事由1の主張を前提とするものであるとこ
ろ,その前提となる主張を採用し得ない以上,取消事由2の主張も理由がないとい
うほかない。すなわち,刊行物1の前記③,④の工程(上記1(2)③,④)におい
て,ガラスビーズをポリエチレンラミネートクラフト紙から基体樹脂に転写させる
際,基体樹脂は,上記クラフト紙のガラスビーズ間のどの部分とも接触させないよ
うにしていることは上記のとおりであるから,ガラスビーズ間の基体樹脂上にはア
ルミニウムが存在しない構成を把握することができ,この趣旨をいう本件決定の認
定判断に誤りはない。
 3 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に本件決定を取り消す
べき瑕疵は見当たらない。
   よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 長  沢  幸  男
    裁判官 宮  坂  昌  利

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛