弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人鈴木隆、同山下善久が連名で差し出した控訴趣意書
に、これに対する答弁は、検察官市川道雄が差し出した答弁書にそれぞれ記載され
たとおりであるから、これらを引用する。
 控訴趣意第一(有線電気通信法二一条の解釈適用の誤りの主張)について
 所論は、要するに、原判示の「マジツクホン」をA公社の電話回線に取り付ける
ことによつて送出を妨害される原判示応答信号は、有線電気通信法一九条にいう
「信号」にすぎないものであるから、その送出を妨害した原判示の各所為は、いず
れも同法による処罰の対象とはならないはずであるのに、右の応答信号が同法二条
一項所定の「符号」に当たるとして、被告人の原判示所為に対し同法二一条を適用
した原判決には、同法の解釈適用を誤つた違法がある、というのである。
 <要旨第一・二>(一) なるほど、符号と信号とは、両者等しく線条その他の導
体を利用して電磁的方式により情報を伝達する手段である点におい
て、類似の性質を有しているにもかかわらず、有線電気通信法二一条が、符号につ
いては、有線電気通信設備に障害を与えてこれにより通信を妨害した行為を処罰の
対象としているのに対して、信号については、同様の手段による妨害行為を処罰の
対象から除外していることは、その明文に徴し明らかである。このように同様の手
段による妨害行為を刑事上の処罰の対象とするか否かにつき、同法が符号と信号と
の間にかかる差異をもうけたのは、次のような理由によるものと思われる。すなわ
ち、符号については、例えばモールス符号にみられるように、それが情報伝達の手
段として、複雑で多元的な内容の情報を伝達しうる高度の機能を有するのに対し
て、他方、信号は銀行・警察間の非常ベル、鉄道用自動信号、あるいは踏切警報な
どにみられるように、情報伝達手段として果たす機能が、わずかに相手方の注意を
喚起する程度の単純で、しかも限定された情報の伝達のみにとどまり、両者は情報
伝達の手段として果たしうる機能の点において著しい差異があることによるものと
思われる。換言すれば、それが複雑で多元的な内容の情報を伝達しうるほどの高度
の機能を有するか否かによつて、符号と信号とに区別し、前者についてのみ、前記
のような手段による通信の妨害行為があつた際、これを処罰することによつて刑事
上の保護を与えようとするのが、同法二一条の趣旨であると解される。したがつ
て、所論が指摘するとおり、例えば、モールス符号のように長短二種の縦線を種々
に組合わせることによつて文字に代え、これによつて意思、感情、事実が表現で
き、また、情報を伝達するにあたつては、送信する場所において、モールス符号を
電気信号に変換して導体に送り出し、受信する場所において電気信号をモールス符
号に再現するという場合には、事柄の性質上当然に、その符号が情報伝達の手段と
して果たす機能は著しく高まり、これによつておのずから複雑で多元的な内容の情
報を伝達することが可能となるから、これが符号に当たることはいうまでもない。
しかしながら、このことから当然に、それが符号であるというためには、所論がい
うようにつねに形、音、光などの組合わせによつて意思、感情、事実を表現でき、
しかも、これを伝達するに際しては、その符号を一旦電気信号に変換して導体に送
り出し、また、送られてきた電気信号を受信したうえ、これを符号に再現するとい
う過程を経る場合に限られるものとは解されない。このような形、音、光などの組
合わせによる表現方法が採られ、また、送受信に際して電気信号への変換や符号へ
の再現という過程を経ることは、それが符号であることのひとつの特徴とはなりえ
ても、必ずしもそれが符号であるための不可欠の要件であるとは解されないのであ
る。なぜなら、かかる要件に該当しない単なる電気的信号であつても、例えば、断
続電流(パルス)によつて送信する場合のように、複雑で多元的な内容の情報を伝
達しうる高度の機能を有する通信手段が存在すると考えられるからである。
 (二) ところで、度数登算のために通話回路の形成されたことを報らせる応答
信号が送出されてから、発信側交換機内の課金装置が作動するまでの原理並びにこ
れに対する原判示マジツクホンの妨害機能が、原判決の説示するとおりであること
は、証人Bの原審公判廷における供述によつて明らかなところである。すなわち、
これを全体としてみた場合、そこにいわゆる度数登算システムという通話料金の登
算に向けられた一連の複雑な論理回路が設けられているのである。したがつて、原
判示の「マジツクホン」を電話回線に取り付ける行為によつて送出を妨害されるの
は、直接には、原判示の応答信号のみであるにしても、度数登算システム全体から
みれば、これによつて結局、通話料金の登算という複雑かつ多元的な情報を生み出
す度数登算システムの機能のすべてを妨害することになるわけである。してみる
と、原判示のマジツクホンを電話回線に取り付けた場合、その電話(受信側)に他
の電話(発信側)から通話の着信があつた際に、送出を妨げられる電気的信号が、
果たして符号であるか、それとも信号に当たるかを判断するに際しては、マジツク
ホンによつて直接送出を妨害される応答信号のみにその対象を限定し、しかも応答
信号の果たす機能を度数登算システムから分断して、その機能のみを検討するべき
ではない。なによりも、度数登算システムが全体として得る出力、すなわち、電気
的信号の機能そのものに着眼しなければならない。そして現に、被告人が原判示の
マジツクホンを電話回線に取りつけた目的も、応答信号の送出を妨害することによ
つて、度数登算システムによる通話料金の登算そのものを妨害することにあつたこ
とは原判決挙示の諸証拠に照らして明らかなところである。このようにみてくる
と、度数登算システムの一部をなす課金装置が、たとえ、受信側の交換機から送出
される電気的信号を受ける場所である発信側の交換機内に設置されているとして
も、それもまた、度数登算システムの一環をなすものとして、その機能をも含めて
原判示の行為により発出を妨害される電気的信号の機能を検討すべきは当然のこと
である。そして、度数登算システムの機能は、究極的には、通話時間中、すなわち
通話の開始から終了まで発信側と受信側との間の距離に応じて、課金装置から発出
される課金パルス(但し、電子交換機の場合は、度数メモリー)の機能に集約され
る。課金パルスの実質は電流の断続、いいかえれば、「断」と「続」との組合わせ
によつて表現される電気的信号の一種であるが、通話時間と距離とに比例して登算
される通話料金を示す数値が、この課金パルスによつて表現されるのである。して
みると、この課金パルスもまた、複雑で多元的な内容の情報を伝達しうる機能をも
つものといわなければならない。したがつて、原判示の応答信号の送出を妨害する
ことは、とりもなおさず、課金パルスの発出を妨害することにほかならないから、
右の応答信号も有線電気通信法二条一項にいう「符号」に当たるというべきであ
る。それゆえ、これによる通信を原判示の方法によつて妨害した被告人の同判示行
為に対し、同法二一条を適用した原判決は正当であつて、所論のような同法の解釈
適用の誤りはなく、論旨は理由がない。
 控訴趣意第二(刑法二三三条の解釈適用の誤りの主張)について
 刑法二三三条所定の偽計業務妨害罪は、偽計を用いて人の業務を妨害した場合に
成立する罪であるから、たとえ、本件「マジツクホン」を原判示のように設備、使
用する行為が、その性質上、所論のように有償で提供されている役務を無償で取得
する行為、ないしは、自動機器の不正利用として、財産罪に近似した一面を有する
としても、そのことから当然に偽計業務妨害罪の成立を否定する事由とはならな
い。そして、原判示の行為が偽計業務妨害罪を構成するものと解すべきことは、原
判決の説示するとおりであつて、これを正当として是認することができる。それゆ
え、原判決には所論のような刑法二三三条の解釈適用の誤りはなく、論旨は理由が
ない。
 よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決
する。
 (裁判長裁判官 寺澤榮 裁判官 片岡聰 裁判官 荒木勝己)

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