弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人桝井雅生作成名義の控訴趣意書記載のとおりであるか
ら、これをここに引用し、これに対し次のとおり判断する。
 論旨第一点
 原判決援用の証拠によれば、原判示第二、第三の如く被告人が夫々麻薬を所持し
ていたことを認めるに十分である。
 而して、右各麻薬は被告人が麻薬中毒者であつた為何れも自己施用の目的をもつ
て、密かに所持していたものであり、入手の時期及び径路も同一であることは本件
記録によつて明白である。しかし、被告人の検察官に対する昭和三三年八月二六日
附供述調書によれば、被告人は原判示第二、第三の各麻薬を順次A方から譲り受け
一括して自宅に所持していたのであるが、同年五月二六日頃取締官憲に発見される
ことをまぬかれる為その一部を分散すべく、原判示第三の二二包の麻薬を原判示B
方玄関入口上部ののき桁の上に隠匿したものである事実が認められるのである。
 ところで、所持は人が物を保管するためその物に対して実力支配関係を開始する
行為とその実力関係の持続を客観的に表明する容態とから成り立つていると見ら
れ、人が多数の物を同時に所持する場合、人と物との間にその物の個数に相当する
だけの実力支配関係が存在することは云うまでもないが、所持をこれを開始する行
為とこれを持続する容態として観察するときその個数は必ずしもその物との間に存
在する実力支配関係の個数即ち物の個数と一致するとは限らないのである。
 所持という行為乃至容態が一個あるか数個あるかを決定するのは必ずしも人と物
との間に存在する実力支配関係にあるのではなく、その行為乃至容態そのものの形
態が社会生活上有する個別性的意義にあるといわなければならない。そしてこの社
会生活上における行為の個別的意義はかかる数的衡量を必要とする社会生活上の要
求殊に刑罰法規、手続規定等の立法の目的に立脚する目的論的観点に立つて所持と
いう行為乃至容態を内心的、物理的、時間的、空間的関係はもとよりその他各場合
における諸般の事情に従つて仔細に考察して、社会通念によつて、それが人と物と
の間に存する実力支配関係を客観的に表明するに足りる個別性を有するか否かを究
めて所持の個数は決定せらるべきものと解せられる(昭和二三年(れ)第九五六号
事件、昭和二四年五月一<要旨>八日最高裁大法廷判決、判例集第三巻第六号七九六
頁参照)から、右のように従来は一括して同一場所に所持していたものであ
つても、官憲の捜索によつて発見されることを妨げる目的で、一括所持していたも
のの内から特に一部を分割して他の場所に隠匿所持するに至つたような場合には、
最早右両者をもつて包括単一の所持とは認められず、分割所持するに至つたものに
ついては、分割されたときから従来の場所に引続き所持するものとは別個に新たな
所持が開始されたものと認めるのを相当とする。
 従つて、原判決が原判示第二、第三の麻薬につき各別の所持を認めたのは相当で
あつて、原判決には所論のような事実誤認の存するものとは認められない。論旨は
理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 山本謹吾 判事 渡辺好人 判事 石井文治)

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