弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     一、 本件控訴を棄却する。
     一、 控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 第一、 当事者の求める裁判
 一、 控訴人
 「一、原判決を取消す。二、原判決添付別紙物件目録記載の土地が控訴人の所有
であることを確認する。
 三、 被控訴人は控訴人に対し、右土地につき、原判決添付別紙登記目録記載の
所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。四、訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負
担とする。」との判決。
 二、 被控訴人
 「一、本件控訴を棄却する。二、控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決。
 第二、 当事者の主張
 一、 当事者双方の事実上の主張、証拠関係は次のとおり訂正、附加するほか、
原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。
 原判決二枚目裏二行目の「昭和三三年頃より重い精神病のため、」とあるのを
「重い精神病のため昭和三三年頃から」と、同三枚目裏九行目の「右別紙(一)」
を「右(一)の別紙(1)」と各訂正し、同六枚目表八行目の「得」を削除する。
 第三、証拠(省略)
         理    由
 一、 当裁判所も原判決と同様、本訴請求は遺産分割の調停調書(京都家庭裁判
所昭和四〇年(家イ)第六七七号)の既判力に触れ、請求を棄却すべきものと判断
するのであつて、その理由は、次のとおり訂正、附加するほか原判決理由説示のと
おりであるから、これをここに引用する。
 原判決理由説示中、第一項全部、原判決七枚目表六行目の「第二本訴請求の理
由」とあるのを各削除し、同七行目の「前記のとおり、もし」とあるのを「本件土
地につき」と訂正し、同八、九行目の「証拠調べの結果をまつまてもなく、」を削
除し、同裏一行目の「調停」の前に「左記」を、同二行目と三行目の間に
「(一)、被相続人Aの遺産をその相続人である申立人及び相手方との間で次のと
おり分割する。本件土地を含む別紙(1)記載の不動産全部を双方の共有(持分各
二分の一)とする。(二)、当事者双方は右不動産の共有持分について、直ちにそ
の所有権移転登記手続をする。」を、同八枚目裏四行目の「等」の次に「と」を、
同五行目の「原」の前に「分割方法として」を各加入し、同六行目の「共有のまま
での分割方法に定める」とあるのを「共有のままとする」と訂正し、同一〇枚目表
二行目以下全部を削除する。
 二、 本件遺産分割の調停は、控訴人が担当調停委員から、登記簿上被相続人名
義となつている不動産は、その実質的所有権者のいかんにかかわらず遺産分割の対
象になるといわれたことによつて成立したものであるという控訴人主張の事実は、
当審証人Bの証言によつてもこれを認めることができないし、本件全証拠によるも
これも認めるに足りない。
 <要旨第一>三、 家事調停において、前認定のとおり遺産の範囲とその分割につ
き当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは家事調停が成
立し、遺産の範囲を定める記載部分は、訴訟事項に関する調停として確定判決と同
一の効力を有し、遺産の分割を定める記載部分は、乙類審判事項に関する調停とし
て確定した審判と同一の効力を有する(家事審判法二一条一項、九条一項乙類一〇
号)。
そして、右確定判決と同一の効力を有する部分は訴訟上の和解と同じく、それが要
素の錯誤その他の理由により効力を失わない限り既判力を有するが、確定審判と同
一の効力を有する部分は非訟事件の裁判とつて既判力を有しないものと解すべきて
ある。
 前示原判決の引用により認定したとおり、本件家事調停には、控訴人が主張する
ような要素の錯誤が存したことが認められず、右調停は有効に成立したというべき
であるから、そのうち、本件土地を含む一七筆の不動産全部を被相続人Aの遺産と
する条項は既判力を有するが、その分割方法としてこれを控訴人と被控訴人双方の
共有とし、持分を各二分の一とする条項は既判力を生ずるものではないのである。
 四、 控訴人は本訴において、本件土地は、控訴人が昭和三六年一〇月六日国か
ら買受けその所有権を取得したものて、被相続人Aの遺産ではないことを請求原因
としているが、かかる主張は前示本件家事調停の既判力に抵触し、許されない。
 <要旨第二>ところで、被控訴人は本案前の抗弁として、控訴人の本訴請求が既判
力に触れるのて訴を却下すべきてあると主張するところ、民事裁判にお
ける既判力の対象は、紛争の原因たる私法上の権利または法律関係の存否てあつ
て、その存否が弁論終結時ないし和解、調停の成立時点において一たん確定されて
も、あらたに同一の権利または法律関係が発生、変更、消滅する可能性が存在する
から、民事訴訟における既判力の作用は一事不再理の原則と異なり、同一事項につ
き裁判所はさきになされた判断と異なる判断をすることがてきないという効力を持
つに過ぎないのである。
 したがつて、請求認容の確定判決があるのに勝訴者が再び同一の判決を求める訴
訟を提起した場合には原則として訴の利益を欠くため、訴却下の判決がなされるべ
きであるけれども、請求棄却の確定判決があるのに敗訴者が同一訴訟物につき前訴
判決と矛盾する訴を提起した場合には、再び請求棄却の判決がなされるにすぎない
(大判昭八・五・二三民集一二巻一二五四頁、最判昭二四・五・一八刑集三巻六号
七九九頁、最判昭二九・四・二〇裁判集民事一三号五八五頁参照)。
 本件家事調停の既判力ある条項は、控訴人が本訴において自己が所有権を有する
本件土地を被相続人Aの遺産であるとするもので、この点では前示請求棄却の確定
判決があるのにこれと矛盾する判決を求めた場合に準じて考えられるから、被控訴
人の本案前の抗弁は失当てある。しかし、調停成立時以後あらたに控訴人が本件土
地につき単独の所有権を取得したとの事実についてはその主張も立証もないばかり
か、却つて、相続財産はもともと共同相続人の共有に属するとされており(民法八
九八条)、本件においては前示のとおり、家事調停において遺産分割の方法として
控訴人と被控訴人の共有(持分各二分の一)と定めているのであつて、この部分は
前示のとおり既判力を有しないとはいうものの、少なくとも和解契約の合意として
の効力を有するものであつて、これに反する主張は民法六九六条により失当である
から、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却すべきものである。
 五、 以上のとおり、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は
結局相当であるから、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法
九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 下出義明 裁判官 村上博己 裁判官 吉川義春)

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