弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     抗告人等の抗告を棄却する
         理    由
 抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりである
 抗告理由一、「1」、「2」について
 <要旨>不動産任意競売の競売期日の公告に、競売法第二九条、民事訴訟法第六五
八条第一号により不動産の表示が要されるのは、競売不動産を特定させるた
めであると解するのが相当である(同旨、大審院昭和一四年(オ)第六七号事件、
同年八月一二日言渡判決、大審院民事判例集第一八巻八一七頁参照)。そして、不
動産の公示に登記制度が採択されている以上、右公告の表示は土地については登記
簿の表示にしたがつて地番、地目、地積を記載すべきものであつて、登記簿上の表
示が実際と合致しないばあいに、右表示にしたがつてなした公告は、その表示と実
際との相違が、不動産の同一性を認識しえない程度に著しいものでないかぎり、有
効と解すべきである。
 所論の本件公告中の競売不動産の表示は、登記簿上の表示にしたがつて、「徳山
市大字a字b第c番のd、山林二畝歩、」「同所第e番のf、宅地八〇坪」と記載
されていることが記録上明らかである。抗告人等は右第c番のdは現況宅地である
と主張するが、その主張のとおりであつたとしても、右表示の番地、地積が現状に
合致していないことを認めるにたる資料はないので、たとい地目に相違があつても
土地の所在とその範囲は容易にこれを認識しうるのみならず、本件記録中の評価書
によれば、右土地は宅地と同一の価格に評価せられていることを認め得る。また、
抗告人等は、前記第e番のfの宅地の実測面積は九〇坪をこえるものであると主張
するが、仮にそうであるとしても、記録に徴し、右土地の所在地の所在と範囲は明
確であり、地積の相違のため右競売宅地の同一性につき疑問をさしはさむ余地のな
いことが認められる。したがつて右公告の記載と実際の地目或は面積との抗告人等
主張の相違は本件競売不動産の同一性の認識の妨げとなる程度に著しいものとは認
めがたく、右公告は違法でないというべきである。
 もつとも、前記民事訴訟法第六五八条第一号所定の不動産の表示は、右に説明し
た競売不動産を特定するためのみならず、競買希望者をして不動産の実価を知らし
めるためにするものであり、したがつて、競売期日の公告の記載が実際と相違する
と、競買希望者が実価を測定することが困難となるから、かかる公告は違法である
旨の見解がある(法律学全集競売法第一四一頁註(一八)の所説及び右に引用の各
裁判例参照)。右公告における不動産の表示が実際に合致することは公売手続の適
正を期し、また、利害関係人の利益の保障のため重要であることは否定しえない。
しかしながら、登記簿上の不動産の表示が、実際と合致していない事例の多い現状
では、その実際の状況を調査・確定したうえこれを公告に記載すべしとするのは、
競売手続を煩雑化し、その迅速な処理はとうてい期待することができなくなる。し
たがつて、裁判所は公告前競売不動産の現況を調査しその面積等を実測する義務を
負わないものと解すべきである。ただ、競売不動産の価格の鑑定の結果等により競
売不動産の実際の状況が著しくその登記簿上の表示と相違し、その同一性の認識に
影響を及ぼすことが記録上明らかとなつた如き場合においてのみ競売期日の公告に
は競売不動産の登記簿上の表示の外実測面積等の実際の状況を掲げる必要があるも
のといわねばならぬ。前記所説等にいう競買希望者に実価を知らしめるということ
も、右公告についての規定が、競買希望者においてその実価を知るにたるべき事項
のすべてを記載することを要求する趣意とはとうてい考えられないので、公告の記
載、とりわけ、第一号の不動産の表示によつて実価を知るということには、おのず
と限界があり、競買希望者において、競売不動産の実価を知るためには、同号のほ
か、第二号の租税その他の公課、第三号の賃貸借に関する事項、第六号の最低競売
価格等公告の記載を一応の基準とし、さらに競売記録の閲覧、現地の検分等、独自
の責任においてこれを調査すべきであるから、前掲の見解には、たやすく賛同でき
ないのである。
 抗告理由一、「3」について
 仮に、所論のように本件競売不動産に賃貸借があつたとしても、債務者及び所有
者である抗告人等は、右賃貸借が競売期日の公告に記載されていないことによつて
直接損失を蒙るものではないから、右公告に賃貸借の記載を欠くことは、競売法第
三二条、民事訴訟法第六七三条第六八一条により、抗告人等の権利に関する理由に
もとずかないものであつて、適法な抗告理由となしがたい。
 抗告理由一、「4」について
 仮に、競売申立人が競売期日の延期手続をすることを約した事実があつたとして
も、それだけで、競売手続の続行が許されないものとはなしがたいから、原決定に
所論の違法はないというべきである。
 そのほか、記録を調査するも、原決定に違法な点を見出しがたい。
 よつて、本件各抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 松本冬樹 裁判官 胡田勲 裁判官 長谷川茂治)

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