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平成27年9月30日判決言渡
平成27年(行ケ)第10086号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成27年8月3日
判決
原告日本ウェーブロック株式会社
訴訟代理人弁理士小谷武
同木村吉宏
同伊東美穂
同長谷川綱樹
同永露祥生
被告カラーマトリックスホールディング
スインコーポレイテッド
訴訟代理人弁理士恩田誠
同恩田博宣
同木村達矢
主文
1特許庁が取消2013-300258号事件について平成27年3
月31日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
主文第1項と同旨
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯
(1)原告は,以下の商標(登録第5041167号。以下「本件商標」という。)
の商標権者である。
(本件商標)
出願日:平成18年5月22日
設定登録日:平成19年4月13日
指定商品:第17類「繊維布地を合成樹脂で挟んでなる積層シート,繊維
と貼り合わせたプラスチックシート,シート状・フィルム状・
フォイル状・テープ状のプラスチック基礎製品,その他のプラ
スチック基礎製品,農業用プラスチックフィルム,岩石繊維製
防音材(建築用のものを除く。),石綿の板,石綿の粉,化学
繊維(織物用のものを除く。),石綿,岩石繊維,鉱さい綿,
糸ゴム及び被覆ゴム糸(織物用のものを除く。),化学繊維糸
(織物用のものを除く。),石綿糸,石綿織物,石綿製フェル
ト,石綿網,ゴム製包装用容器,コンデンサーペーパー,石綿
紙,バルカンファイバー,ゴム」
(2)被告は,平成25年3月29日,特許庁に対し,本件商標は,その指定商
品中,第17類「繊維布地を合成樹脂で挟んでなる積層シート,繊維と貼り
合わせたプラスチックシート,シート状・フィルム状・フォイル状・テープ
状のプラスチック基礎製品,その他のプラスチック基礎製品」について,継
続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者
のいずれもが使用した事実がないから,商標法50条1項の規定により本件
商標の商標登録が取り消されるべきであるとして,本件商標の商標登録取消
審判を請求し(以下,この請求を「本件審判請求」という。),同年4月1
2日,本件審判請求の登録がされた(甲36)。
特許庁は,本件審判請求につき,取消2013-300258号事件とし
て審理し,平成27年3月31日,「登録第5041167号商標の指定商
品中,第17類「繊維布地を合成樹脂で挟んでなる積層シート,繊維と貼り
合わせたプラスチックシート,シート状・フィルム状・フォイル状・テープ
状のプラスチック基礎製品,その他のプラスチック基礎製品」については,
その登録は取り消す。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その
謄本は,同年4月9日,原告に送達された。
(3)原告は,平成27年5月8日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起
した。
2本件審決の理由
本件審決の理由は別紙審決書(写し)のとおりであり,その要旨は,以下の
とおりである。
(1)被請求人(原告)提出の証拠によれば,原告は,50m巻きのポリエステ
ル織布にPVC樹脂をコーティングした「ターポリン」の商品について,片
仮名の「ハイガード」及び欧文字の「High-guard」の商標又は片
仮名の「ハイガード」の商標を使用した商品カタログを平成24年6月25
日以降に作成し,使用したことが認められる。
上記商品は,本件審判請求に係る指定商品である「プラスチック基礎製品」
に含まれる。
(2)しかしながら,本件商標の下段の「HIGUARD」の欧文字は,辞書類
に載録されない造語であり,特定の観念を有しないのに対し,上段の「ハイ
ガード」の片仮名のみが表示された場合には,「highguard」の
欧文字を想起し,その表音を表記したものと容易に理解し,「ハイガード」
の片仮名は,「高いガード(保護)」,すなわち「商品を守る保護の程度が
高い」との観念を有するものであることからすると,本件商標の「ハイガー
ド」の片仮名と「HIGUARD」の欧文字とは,同一の称呼を有するとし
ても観念において明らかに異なり,片仮名及び欧文字の文字の表示を相互に
変更するものとは認められないから,「ハイガード」及び「High-gu
ard」の商標又は「ハイガード」のみの商標は,本件商標と社会通念上同
一のものとみることはできない。
(3)したがって,原告は,本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において,
商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが本件審判請求に係る
指定商品について,本件商標の使用をしていることを証明したものと認める
ことはできず,また,原告は,本件商標を本件審判請求に係る指定商品に使
用をしていないことについて,正当な理由があることを明らかにしていない
ので,本件商標の商標登録は,商標法50条1項の規定により本件商標の指
定商品中「繊維布地を合成樹脂で挟んでなる積層シート,繊維と貼り合わせ
たプラスチックシート,シート状・フィルム状・フォイル状・テープ状のプ
ラスチック基礎製品,その他のプラスチック基礎製品」について,その商標
登録を取り消すべきものである。
3取消事由
本件商標の使用の有無に係る判断の誤り
第3当事者の主張
1原告の主張
以下のとおり,本件審判請求の登録前3年以内に,日本国内において,本件
商標の商標権者である原告が,本件審判請求に係る指定商品のうち,「繊維布
地を合成樹脂で挟んでなる積層シート,繊維と貼り合わせたプラスチックシー
ト,シート状・フィルム状・フォイル状・テープ状のプラスチック基礎製品」
について,本件商標と「社会通念上同一と認められる商標」(商標法50条1
項)を使用した事実が存在する。
したがって,本件審決の判断は誤っており,取り消されるべきである。
(1)原告による商標使用の事実
原告は,「ハイガード」という商品名のターポリン(ポリエステル織布に
PVC樹脂をコーティングしたシート。以下「本件商品」という。)を,平
成17年2月から業として製造,販売しているところ,以下のとおり,本件
審判請求の登録前3年以内に,日本国内において,本件商品の宣伝用チラシ
や商品カタログに「ハイガード」の片仮名文字からなる商標を付して頒布す
ることにより,当該商標を使用(商標法2条3項8号)している。
ア甲8の宣伝用チラシ
甲8(審判乙3)は,原告が製造者として表示された本件商品に係る宣
伝用チラシ(以下「甲8チラシ」という。)であり,その表面及び裏面の
各最上段に,デザイン化された「ハイガード」の片仮名文字からなる商標
(以下「本件使用商標1」という。)が記載されている。また,裏面中段
の「製品」の項目においても,「品名」として,「ハイガード」の片仮名
文字及び「(ZT2600D)」との品番が横並びで記載されている。
そして,甲8チラシの裏面右下端にある「05.02.3000M」の
記載のうち,冒頭の「05.02.」の数字は,当該チラシが2005年
(平成17年)2月に作成されたことを示している。
イ甲9の商品カタログ
甲9(審判乙4)は,原告が製造元,ダイオ化成株式会社(以下「ダイ
オ化成」という。)が発売元として表示された「ウェーブロックGTシリ
ーズ」と題する商品カタログ(以下「甲9カタログ」という。)であり,
その表紙の右下部及び見開き中央下部にデザイン化された「ハイガード」
の片仮名文字からなる商標(以下「本件使用商標2」という。)が記載さ
れている。
そして,甲9カタログの裏面右下端にある「220-3IT1010」
の記載のうち,末尾4桁の「1010」の数字は,当該カタログが201
0年(平成22年)10月に作成されたことを示している。このことは,
甲9カタログと同一の商品カタログの最新版である甲27の裏面左下端に
ある「220-5IT-1503」の記載のうち,末尾4桁の数字が,2
015年(平成27年)3月を表す「1503」となっていることから裏
付けられる。
ウ甲10の商品カタログ
甲10(審判乙5)は,原告が製造元,ダイオ化成が販売元として表示
された商品カタログ(以下「甲10カタログ」という。)であり,その表
紙の中段に「ハイガード」の片仮名文字からなる商標(以下「本件使用商
標3」という。)が記載されている。また,当該商品カタログ内の目次及
び本文中にも,「品名」として,「ハイガード」の片仮名文字の記載があ
る。
そして,甲10カタログの裏面右下端にある「228-1HT1207」
の記載のうち,末尾4桁の「1207」の数字は,当該カタログが201
2年(平成24年)7月に作成されたことを示している。このことは,ダ
イオ化成が甲10カタログの印刷を業者に発注した際の注文書(甲11)
の日付が平成24年6月25日となっていることから裏付けられる。
(2)本件商品が本件審判請求に係る指定商品に当たること
ア本件商品は,ポリエステル織布をPVC樹脂でサンドした多重及び積層
構造からなるプラスチックシートであり,防火特性を持つPVCでポリエ
ステル織布を挟み込むことで耐久性及び防火性が強化され,農耕具倉庫,
肥料倉庫,資材庫,車庫など,資材や財産を風雨から守るための資材の素
材となるものである。
したがって,本件商品は,本件審判請求に係る指定商品のうち,「繊維
布地を合成樹脂で挟んでなる積層シート,繊維と貼り合わせたプラスチッ
クシート,シート状・フィルム状・フォイル状・テープ状のプラスチック
基礎製品」に当たる。
イこれに対し,被告は,第17類の「プラスチック基礎製品」には,プラ
スチックの半加工品は含まれるが,最終製品は含まれないところ,本件商
品は,最終製品として販売されるものであるから,第17類の「プラスチ
ック基礎製品」には属しない旨主張する。
しかし,本件商品は,幅185㎝,長さ50mの巻物(ロール)になっ
た状態で取引されるものであり,取引先において,各種カバー等の最終製
品に加工された後,最終需要者に販売されるものであるから,まさにプラ
スチックの半加工品に当たる。
したがって,被告の上記主張には理由がない。
(3)使用商標が本件商標と社会通念上同一のものであること
ア本件商標は,上段に片仮名文字の「ハイガード」を配し,下段に欧文字の
「HIGUARD」を配してなる商標である。
したがって,本件商標から生じる称呼は,上段下段ともに「ハイガード」
のみである。
また,本件商標の上段である片仮名文字「ハイガード」において,「ハイ」
は「高い」を意味する英単語「high」に由来し,「ガード」は「保護,
防御」等を意味する英単語「GUARD」に由来するものと認識される。そ
うすると,2つの英単語から生ずる意味を組み合わせると,全体として「防
御の程度が高い」という漠然とした意味合いが生ずるかもしれないが,他方
で,「ハイガード」という言葉は,本来日本語に存在する言葉ではなく,上
記のとおり単に漠然としたイメージが生ずるのみであることを考慮すると,
片仮名文字「ハイガード」は,全体として特定の観念が生じない造語とみる
べきである。
そして,本件商標の下段である欧文字「HIGUARD」についても,「H
I」が「高い」を意味する英単語「HIGH」の省略(例えば,HI-FI
など)とも考えられるが,欧文字「HIGUARD」全体では通常使用され
る英単語に存在するものではないため,一連に書された欧文字「HIGUA
RD」は,上段の片仮名文字「ハイガード」と同様に,特定の観念が生じな
い造語とみるべきである。
他方,前記(1)のとおり原告が本件商品について使用する本件使用商標1
ないし3(以下,これらを併せて「本件各使用商標」という。)は,「ハイ
ガード」の片仮名文字からなる商標であるところ,本件各使用商標から生ず
る称呼は「ハイガード」のみであり,また,上記のとおり,片仮名文字「ハ
イガード」は,全体として特定の観念が生じない造語というべきである。
そうすると,本件商標と本件各使用商標は,称呼において同一であり,ま
た,いずれも特定の観念が生じないから,観念における相違があるものでは
ない。
そして,日本の商取引の現場で最も重要視されるのは片仮名文字商標とそ
の称呼であり,欧文字商標に接した場合でも,看者はその称呼を片仮名文字
に置き換えて認識し記憶するのが通常であることからすれば,本件商標と本
件各使用商標とは,取引者,需要者によって社会通念上同一の商標と認識さ
れるものといえる。
したがって,本件各使用商標は,本件商標と「社会通念上同一と認められ
る商標」に該当する。
イ仮に,本件商標から特定の観念が生じるとすれば,それは「HIGHG
UARD」と同様に,「高いガード」といった観念である。すなわち,日本
においては,欧文字「HI」を,「高い」を意味する「HIGH」の略語と
して使用する例が多数存在していること(甲17ないし21,31ないし3
4)からすれば,本件商標の下段の欧文字「HIGUARD」は,「HIG
HGUARD」と同義の語として認識されるはずであり,また,本件商標
の上段の片仮名文字「ハイガード」もこれと同義の語として認識されるはず
である。
他方,本件各使用商標についても,「HIGHGUARD」と同義の語
として認識され,「高いガード」といった観念が生じるものといえる。
したがって,仮に,本件商標及び本件各使用商標から特定の観念が生じる
としても,両者の観念は共通しており,両者は,取引者,需要者によって社
会通念上同一の商標と認識されるものといえるから,本件各使用商標は,本
件商標と「社会通念上同一と認められる商標」に該当する。
(4)小括
以上によれば,原告は,本件審判請求の登録前3年以内に,日本国内にお
いて,本件審判請求に係る指定商品に含まれる本件商品について,本件商標
と社会通念上同一と認められる本件各使用商標を使用している。
2被告の反論
以下のとおり,原告は,本件審判請求の登録前3年以内に,日本国内におい
て,本件商標の商標権者,専用使用権者又は通常使用権者が,本件審判請求に
係る指定商品のいずれかについて,本件商標と「社会通念上同一と認められる
商標」を使用していることを証明したとはいえない。
したがって,本件審決の結論に誤りはなく,取り消されるべき理由はない。
(1)原告による商標使用の事実が認められないこと
原告が,原告による商標使用の事実を証するものとして提出する甲8チラ
シ,甲9カタログ及び甲10カタログについては,いずれも本件審判請求の登
録前3年以内に作成,頒布されたことが証明されているとはいえない。
すなわち,甲8チラシについて,原告は,裏面右下端にある「05.02.
3000M」の記載のうち,冒頭の「05.02.」の数字は当該チラシが2
005年(平成17年)2月に作成されたことを示している旨主張するが,当
該記載から一義的にそのように解釈することはできない。また,仮に,甲8チ
ラシの作成時期が平成17年2月だとしても,本件審判請求の登録前3年以内
における商標使用の事実を証するものではない。
また,甲9カタログ及び甲10カタログについて,原告は,それぞれの裏面
右下端にある数字等の記載のうち,末尾4桁の数字が当該カタログの作成時期
を示している旨主張するが,当該記載から一義的にそのように解釈することは
できない。
さらに,原告は,甲10カタログの作成日が上記末尾4桁の数字に示された
2012年(平成24年)7月であることは,甲11の注文書の日付が平成2
4年6月25日となっていることから裏付けられる旨主張する。しかし,甲1
1は,その品名欄に「ハイガード」の記載がなく,また,「※表紙(裏面)の
作成年月日の弊社No.は,228-1HT1207です。」との記載は意味
不明であり,注文書の記載として極めて不自然であるから,その証拠価値には
疑義がある。
(2)本件商品が本件審判請求に係る指定商品に属しないこと
本件審判請求に係る指定商品は,いずれも本件商標の商標登録出願時(平成
18年5月22日)に施行されていた商標法施行規則別表(平成18年経済産
業省令第95号による改正前のもの。以下「省令別表」という。)第17類4
に定める「プラスチック基礎製品」の範ちゅうに属するところ,この「プラス
チック基礎製品」とは,プラスチックの半加工品であって,最終製品となった
ものは含まれない。
しかるところ,ターポリンは,横断幕,テント生地,養生シート等の用途で,
ロール状に巻いた状態の生地が,最終消費者に最終製品として販売されるもの
である(乙6,7)。
したがって,本件商品は,省令別表第17類4に定める「プラスチック基礎
製品」に含まれるものではなく,本件審判請求に係る指定商品である「繊維布
地を合成樹脂で挟んでなる積層シート,繊維と貼り合わせたプラスチックシー
ト,シート状・フィルム状・フォイル状・テープ状のプラスチック基礎製品,
その他のプラスチック基礎製品」のいずれにも属しない。
(3)使用商標が本件商標と社会通念上同一のものとはいえないこと
仮に,原告の主張するとおり,甲10カタログが,本件審判請求の登録前3
年以内に作成,頒布された事実が認められるとした場合,その中で使用されて
いる「ハイガード」の片仮名文字と「High-guard」の欧文字からな
る商標と本件商標とを対比すると,以下のとおり,両者は社会通念上同一のも
のとはいえない。
すなわち,まず,「ハイガード」の片仮名と「HIGUARD」の欧文字を
上下二段に配してなる本件商標は,特定の観念を生じない造語と認識される。
また,本件商標からは,片仮名及び欧文字に照応して「ハイガード」の称呼が
生ずる。
他方,甲10カタログで使用されている「ハイガード」の片仮名文字は,英
単語の「High」と「guard」を結合したものと容易に理解され,「(程
度が)高い防護」といった程の観念が生じ,また,「ハイガード」の称呼が生
ずる。
そうすると,本件商標と甲10カタログで使用されている商標とは,「ハイ
ガード」の称呼は共通にするものの,外観が顕著に異なり,観念においても同
一とはいえない。
また,仮に,本件商標から特定の観念が生じるとしても,我が国の英語の普
及レベルからすれば,下段の欧文字は,「HI」と「GUARD」を結合させ
た造語と理解でき,英単語の「HI」が呼び掛けを表す間投詞として一般的で
あることからすれば,そこからは,「やあ保護者」,「こんにちは管理人」と
いった程の観念が生じることとなり,甲10カタログで使用されている商標と
は,観念において顕著に異なるといえる。
この点に関し,原告は,「HI」は,「HIGH」に由来する略語であるか
ら,同一の観念が生ずる旨主張する。しかしながら,仮に略語であっても,文
字構成,綴りが異なる2語は同一とはいえないし,「HI」は,独立した英単
語でもあり(乙2),両者は非類似といえる程度に相違するから,原告の上記
主張は失当である。
したがって,本件商標から特定の観念が生じる場合,生じない場合のいずれ
であっても,本件商標と甲10カタログで使用されている商標とは,「平仮名,
片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼
及び観念を生ずる」(商標法50条1項括弧書き)ものではなく,甲10カタ
ログで使用されている商標は,本件商標と「社会通念上同一と認められる商標」
に該当しない。
(4)小括
以上によれば,原告は,本件審判請求の登録前3年以内に,日本国内におい
て,本件審判請求に係る指定商品について,本件商標を使用していることを証
明したものとはいえないから,原告主張の取消事由は理由がない。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,以下のとおり,本件審判請求の登録前3年以内に,日本国内に
おいて,本件商標の商標権者である原告が,本件審判請求に係る指定商品のう
ち,「繊維布地を合成樹脂で挟んでなる積層シート」,「繊維と貼り合わせた
プラスチックシート」及び「シート状・フィルム状・フォイル状・テープ状の
プラスチック基礎製品」に属する商品について,本件商標の使用をしているこ
とが証明されたものといえるので,当該証明がないとして,商標法50条1項
の規定により本件商標の指定商品中「繊維布地を合成樹脂で挟んでなる積層シ
ート,繊維と貼り合わせたプラスチックシート,シート状・フィルム状・フォ
イル状・テープ状のプラスチック基礎製品,その他のプラスチック基礎製品」
について,その商標登録を取り消すべきものとした本件審決は誤っており,取
り消されるべきであると判断する。
1本件各使用商標の使用の事実について
(1)証拠(甲6ないし10,26ないし29)及び弁論の全趣旨によれば,以
下の事実が認められる。
ア原告の前身である日本ウェーブロック株式会社は,プラスチックとファ
イバーの複合素材メーカーとして,昭和39年に設立されたが,平成17
年4月に商号を「ウェーブロックホールディングス株式会社」に変更する
とともに,純粋持株会社となった。これと同時に,ウェーブロックホール
ディングス株式会社の100%子会社である事業会社として,会社分割に
より,原告が設立された。
原告は,その設立以降,PVC(ポリ塩化ビニル),EVA(エチレン
ビニルアセテート)等の合成樹脂を使用して加工したシート,フィルムや
その成形品を,建設仮設資材,農業資材,工業材料等として製造・販売す
るなどの事業を行っている。
イ原告は,「ハイガード」という商品名のターポリン(ポリエステル織布
にPVC樹脂をコーティングしたシートで,ガレージ,野積みシート,ト
ラック荷台カバー等の用途に用いられるもの。本件商品)を製造・販売し
ているところ,本件商品については,以下のとおり,商標が記載された商
品カタログが作成,頒布されている事実がある。
(ア)原告は,原告を製造元,ダイオ化成を発売元とする「ウェーブロッ
クGTシリーズ」と題する,見開き4頁からなる商品カタログ(甲9カ
タログ)を,ダイオ化成とともに作成し,頒布した。
そして,甲9カタログには,その表紙の右下部に「ハイガード」の片
仮名文字を青色のデザイン化された書体で記した商標(本件使用商標2)
が記載され,その下に「防汚/無滴処理品」との記載がある。また,甲
9カタログの見開きの中央下部にも本件使用商標2が記載され,その右
横に「ポリエステルターポリン」との記載があり,その下方にサンプル
として生地見本が貼付されている。さらに,甲9カタログの裏面には,
標準物性表が記載されているところ,その中には,「ボンガードポリ
エステルターポリンシリーズ」の一つとして,品種欄に「ZT2600
Dハイガード」との記載がある。
また,甲9カタログの裏面右下端には,「220-3IT1010」
との記載がある。
原告は,原告を製造元,ダイオ化成を販売元とする,冊子状の商品カ
タログ(甲10カタログ)を,ダイオ化成とともに作成し,頒布した。
そして,甲10カタログにおいては,その表表紙に,商品の内容とそ
の名称が4段に分けて青地に白抜きで記載されているところ,その3段
目には,「防汚・ポリエステルターポリンシート」の名称として「ハイ
ガード」の片仮名文字を青地に白抜きのゴチック体で記した商標(本件
使用商標3)が記載されている。また,甲10カタログの目次には,項
目として「防汚ターポリンシート(ハイガード/ニュー・ホワイトガー
ド)」との記載があり,そのNO.15には,「品名」として「ZT2
600Dハイガード」との記載がある。さらに,甲10カタログの本文
中のNO.15の頁の最上段には,「ハイガードZT2600D」との
記載があり,同頁には,「品名」として「防汚ポリエステルターポリン
(ハイガード)ZT2600D」との記載のほか,商品の色,特性,用
途例等の説明が記載されている。加えて,甲10カタログの裏表紙には,
商品の名称を表す英語が4段に分けて青地に白抜きで記載されていると
ころ,その3段目には,「High-guardNew-white
-guard」の欧文字が記載されている。
また,甲10カタログの裏表紙右下端には,「228-1HT120
7」との記載がある。
(2)甲9カタログ及び甲10カタログが作成・頒布された時期について
甲9カタログ及び甲10カタログが作成された時期について,原告は,こ
れらのカタログの裏面に記載された数字等の最後の4桁の数字が,これらの
カタログが作成された西暦の年号の下2桁と月を表すものである旨主張する
のに対し,被告は,原告の上記主張を裏付ける証拠がないなどとしてこれを
争うので,以下,この点について検討する。
ア甲10カタログについて
(ア)甲10カタログの裏表紙右下端には,「228-1HT1207」
との記載があり,原告の上記主張に従えば,これは,同カタログの作成
時期が2012年(平成24年)7月であることを表しているというこ
とになる。
他方,甲11は,ダイオ化成が印刷業者に対し,商品カタログ100
0部の印刷を発注した際の注文書であるところ,当該発注の対象となっ
た商品カタログが甲10カタログであることは,甲11の品名の記載が
「ウェーブロック,テクミラー,ボンガード短冊型カタログ」とされ,
また,甲11にサンプルとして添付されたカタログの表表紙のデザイン
が甲10カタログの表表紙のデザインと一致することから明らかであ
る。しかるところ,甲11の作成日付は,平成24年6月25日である
から,その後,これに近接した時期に甲10カタログが作成されたであ
ろうことは,これを推認し得るところであり,そうすると,甲10カタ
ログの裏表紙右下端の「228-1HT1207」との記載の末尾4桁
の数字が当該カタログの作成時期が2012年(平成24年)7月であ
ることを表すとする原告の主張は,甲11の内容と符合するものであっ
て,これによって裏付けられるということができる。加えて,甲11に
は,発注者であるダイオ化成から印刷業者への指示事項として,「※表
紙(裏面)の作成年月日の弊社NO.は,228-1HT1207です。」
との記載が付記されており,「228-1HT1207」の記載がカタ
ログの作成時期を表すことが示されていることからも,原告の上記主張
が裏付けられる。
これに対し,被告は,甲11について,その品名欄に「ハイガード」
の記載がないこと及び甲11中の「※表紙(裏面)の作成年月日の弊社
No.は,228-1HT1207です。」との記載が意味不明である
ことから,注文書の記載として極めて不自然であり,その証拠価値には
疑義がある旨主張する。
しかしながら,甲11においては,その1枚目品名欄に,甲10カタ
ログの表表紙に4段に分けて記載された商品名のうち,「ウェーブロッ
ク」(1段目),「テクミラー」(2段目)及び「ボンガード」(4段
目)の各商品名が記載され,かつ,その2枚目に,甲10カタログの表
表紙と同一のデザインのサンプルが添付されているのであるから,甲1
1の品名欄の記載において,甲10カタログの表表紙に記載された残り
の商品名である「ハイガード/ニュー・ホワイトガード」(3段目)の
記載が省略されていたとしても,格別不自然なこととはいえない。
また,甲11中の「※表紙(裏面)の作成年月日の弊社No.は,2
28-1HT1207です。」との記載は,その内容から見て,甲10
カタログの印刷発注に当たって,当該カタログの作成時期を表す注文者
独自のナンバー表示として,「228-1HT1207」との表示を付
すよう印刷業者に指示する趣旨の記載であることが明らかであって,意
味不明な記載などとはいえないから,この点においても,甲11に格別
不自然な点があるとはいえない。
したがって,甲11の証拠価値に疑義があるとする被告の前記主張は
採用できない。
以上によれば,甲10カタログの裏表紙右下端の「228-1HT1
207」との記載のうち,末尾4桁の数字が,同カタログの作成時期が
2012年(平成24年)7月であることを表しているとする原告の主
張は,証拠による裏付けのあるものとしてこれを首肯することができる
というべきである。
したがって,甲10カタログは,平成24年7月に作成されたことが
認められ,また,そのころ,顧客等に対し頒布されたことが推認される
ものといえる。
イ甲9カタログについて
甲9カタログの裏面右下端には,「220-3IT1010」との記載
があり,原告の前記主張に従えば,これは,同カタログの作成時期が20
10年(平成22年)10月であることを表しているということになる。
しかるところ,上記アで述べたとおり,甲10カタログにおいて,その
裏表紙に記載された数字等の末尾4桁の数字が当該カタログの作成時期を
表すものであることが認められることからすれば,甲10カタログと同様
に,原告が製造元,ダイオ化成が発売元として表示され,共通する商品に
ついて作成された甲9カタログにおいても,同様の取扱いがされているも
のと考えるのが自然である。そして,このことは,原告が甲9カタログの
最新版であるとして提出する甲27のカタログの裏面左下端に,同カタロ
グの作成時期が2015年(平成27年)3月であることを表すものと考
えられる,「220-5IT-1503」の記載があることからも裏付け
られるところである。
以上によれば,甲9カタログにおいても,裏面右下端の「220-3I
T1010」との記載のうち,末尾4桁の数字が,同カタログの作成時期
が2010年(平成22年)10月であることを表しているとする原告の
主張は,これを首肯することができるというべきである。
したがって,甲9カタログは,平成22年10月に作成されたことが認
められ,また,そのころ,顧客等に対し頒布されたことが推認されるもの
といえる。
(3)以上の認定事実を総合すれば,本件商標の商標権者である原告は,本件審
判請求の登録前3年以内である,平成22年10月ころ及び平成24年7月
ころ,日本国内において,本件商品に関する広告又は取引書類に当たる甲9
カタログ及び甲10カタログに,上記(1)イ(ア)及び(イ)のとおり本件使用商
標2及び3を付して,これを頒布することにより,本件使用商標2及び3を
使用(商標法2条3項8号)したものと認められる。
なお,原告は,2005年(平成17年)2月に作成された甲8チラシに
おいても,本件使用商標1を使用した旨主張するが,当該チラシが本件審判
請求の登録前3年以内の時期に頒布されていたことを認めるに足りる証拠は
ないから,仮に,原告主張の事実が認められるとしても,本件審判請求の登
録前3年以内における本件商標の使用の事実が認められることにはならな
い。
2本件商品が本件審判請求に係る指定商品に属するか否かについて
(1)本件審判請求に係る指定商品は,第17類「繊維布地を合成樹脂で挟んで
なる積層シート,繊維と貼り合わせたプラスチックシート,シート状・フィ
ルム状・フォイル状・テープ状のプラスチック基礎製品,その他のプラスチ
ック基礎製品」であるところ,これらの指定商品は,省令別表第17類4に
定める「プラスチック基礎製品」の範ちゅうに属するものと認められる。
しかるところ,本件商標の商標登録出願時に施行されていた商標法施行令
別表(平成18年政令第342号による改正前のもの。以下「政令別表」と
いう。)の第17類は,その名称を「電気絶縁用,断熱用又は防音用の材料
及び材料用のプラスチック」とされていること,省令別表第17類4の「プ
ラスチック基礎製品」には,「板」,「帯」,「管」,「金属はくを蒸着し
たプラスチックシート」,「スポンジ体」,「積層板」「接着剤を塗布した
プラスチックシート」,「繊維入り板」,「反射基剤を有するプラスチック
シート」,「フィルム生地」,「棒」,「毛状プラスチック基礎製品」が含
まれるとされていること,特許庁商標課編「商品及び役務の区分解説(国際
分類第10版対応)」(乙5)において,「プラスチック基礎製品」(34
A01)には,プラスチックの半加工品が該当し,成型等の加工を何ら施さ
ない原料としてのプラスチックは第1類「原料プラスチック」に属し,第2
1類「プラスチック製の包装用容器」等の最終製品となったものは含まれな
いとされていることからすれば,省令別表第17類4の「プラスチック基礎
製品」とは,原料としてのプラスチックや最終製品を除いた,プラスチック
の半加工品を指すものと解すべきである。
したがって,本件審判請求に係る指定商品である第17類「繊維布地を合
成樹脂で挟んでなる積層シート,繊維と貼り合わせたプラスチックシート,
シート状・フィルム状・フォイル状・テープ状のプラスチック基礎製品,そ
の他のプラスチック基礎製品」に属するといえるためには,原料としてのプ
ラスチックや最終製品ではなく,プラスチックの半加工品であることが必要
と解される。
(2)以上を踏まえて,本件商品が本件審判請求に係る指定商品に属するものか
否かについて検討する。
ア証拠(甲8ないし10,26,27)によれば,本件商品について,以
下の事実が認められる。
(ア)本件商品は,産業用強力ポリエステル平織り基布の全体(表面と裏
面)をPVC(ポリ塩化ビニル)樹脂でコーティングしたシートであり,
一般に「ターポリン」あるいは「ポリエステルターポリン」と呼ばれる
ものであるが,特に,表面に汚れを付きにくくするための防汚処理を,
裏面に水滴のボタ落ちを防止するための無滴処理を施した点に特徴があ
る。
(イ)本件商品の用途例としては,パイプ車庫やパイプ倉庫の覆い,野積
みシート,カーテン(仕切り幕,風除け),トラック荷台カバーなどが
ある。
(ウ)本件商品は,幅185センチメートル,厚さ0.35センチメート
ルのシートが50メートルの巻物(ロール)になった状態で販売される。
イ上記アによれば,本件商品は,プラスチックの一種であるPVC樹脂を
主要な成分とする製品であるところ,ポリエステル織布にPVC(ポリ塩
化ビニル)樹脂をコーティングするという加工を施したものであるから,
原料としてのプラスチックでないことは明らかである。
また,本件商品は,上記ア(イ)のとおり,様々な用途において,それぞ
れ大きさや形状が異なる状態で使用されることが予定されるところ,本件
商品は,幅と厚さが一定で,長さが50メートルに及ぶシートが一巻きに
なった状態で販売されるものであることからすると,本件商品を購入した
者がこれを種々の最終製品に加工して最終需要者に販売されることが予定
されていると考えるのが自然である。そうすると,本件商品は,少なくと
も専ら最終製品として販売されるというものではなく,その後の加工によ
って最終製品となる半加工品を含むものであると認められる。
してみると,本件商品は,本件審判請求に係る指定商品である「シート
状…のプラスチック基礎製品」に属するものといえる。
また,本件商品は,ポリエステル繊維布地を合成樹脂であるPVC樹脂
でコーティングすることにより,ポリエステル繊維布地をPVC樹脂が上
下から挟んだ積層構造をなしているものといえるから,本件審判請求に係
る指定商品である「繊維布地を合成樹脂で挟んでなる積層シート」に属す
る。
さらに,本件商品は,ポリエステル繊維とプラスチックの一種であるP
VC樹脂とを貼り合わせたシートといえるから,本件審判請求に係る指定
商品である「繊維と貼り合わせたプラスチックシート」に属する。
ウこれに対し,被告は,ターポリンは,横断幕,テント生地,養生シート
等の用途で,ロール状に巻いた状態の生地が,最終消費者に最終製品とし
て販売されるものである旨主張し,これを証する証拠として,乙6及び7
を提出する。
しかしながら,乙6は,「ターポリン」の語をインターネットで検索し
た結果を表示した画面であり,また,乙7は,インターネット上でターポ
リンを販売する業者のホームページ画面であるところ,これらから明らか
になるのは,複数の業者が,ターポリンを,横断幕,テント生地,養生シ
ート等の用途に使用される製品としてインターネット上で販売していると
いう事実にすぎず,このことから直ちに,本件商品を含むターポリン一般
について,専ら最終製品として最終消費者に販売されていることが明らか
になるというものではない。
したがって,被告の上記主張は,乙6及び7によって認められるもので
はなく,他にこれを認めるべき証拠もないから,これを採用することはで
きない。
エ以上によれば,本件商品は,本件審判請求に係る指定商品のうち,「繊
維布地を合成樹脂で挟んでなる積層シート」,「繊維と貼り合わせたプラ
スチックシート」及び「シート状…のプラスチック基礎製品」のいずれに
も属するものといえる。
3本件使用商標2及び3が本件商標と社会通念上同一のものといえるか否かに
ついて
商標法50条1項においては,使用の対象となる商標について,「登録商標
(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標,平仮名,片仮名及びロー
マ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる
商標,外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会
通念上同一と認められる商標を含む。以下この条において同じ。)」と規定さ
れており,「登録商標と社会通念上同一と認められる商標」も含むものとされ
ている。
そこで,本件使用商標2及び3が本件商標と「社会通念上同一と認められる
商標」といえるか否かについて,以下検討する。
(1)本件商標は,いずれもゴチック体による,片仮名文字の「ハイガード」を
上段に,欧文字の「HIGUARD」を下段に配してなる商標である。これ
に対して,本件使用商標2及び3は,片仮名文字の「ハイガード」のみから
なる商標である点において,本件商標と外観上の相違が認められることは明
らかである。
一方で,本件商標の上段の「ハイガード」の4文字の片仮名文字と下段の
「HIGUARD」の7文字の欧文字は,欧文字1文字の大きさが片仮名1
文字の約8割程度の大きさであるが,上段と下段との間隔は近接し,それぞ
れの文字部分の左右の幅は同一であり,その両端の位置がそろっており,全
体として上段及び下段の文字部分がまとまりよく配置されていること,「G
UARD」(guard)の語は,「警戒。監視。防御。」等の意味を有す
る英単語として我が国において一般的に認識されており,「HIGUARD」
の欧文字中の「GUARD」の部分から「ガード」の称呼が自然に生じるこ
とからすると,「ハイガード」の片仮名文字は「HIGUARD」の欧文字
の表音を示したものとして,両者は一体的に把握され,本件商標全体から「ハ
イガード」の称呼が生じるものと認められる。また,本件使用商標2及び3
から「ハイガード」の称呼が生じることは明らかである。そうすると,本件
商標と本件使用商標2及び3の称呼は同一であることが認められる。
(2)そこで,本件商標と本件使用商標2及び3から生ずる観念の異同について
検討する。
ア片仮名の「ハイガード」から生ずる観念について
片仮名の「ハイガード」は,それ自体が辞書等に登載された既成の用語
として特定の観念を有するものではない。
しかし,「ハイ」の部分は,英語の「high」に由来し,「程度の高
いこと。高度。高級。」などの意味を有する外来語として,また,「ガー
ド」の部分は,英語の「guard」に由来し,「警戒。監視。防御。」
などの意味を有する外来語として,いずれも一般的に使用されていること
(広辞苑第六版),また,片仮名の「ハイ」は,例えば,「ハイスピード」,
「ハイジャンプ」,「ハイクラス」などのように,その後に続く外来語と
結合して一連表記され,「高い○○」,「高度な○○」の意味で使用され
る用例が一般的にみられること(広辞苑第六版)からすれば,本件審判請
求に係る指定商品である第17類「繊維布地を合成樹脂で挟んでなる積層
シート,繊維と貼り合わせたプラスチックシート,シート状・フィルム状
・フォイル状・テープ状のプラスチック基礎製品,その他のプラスチック
基礎製品」に係る取引者,需要者が,片仮名の「ハイガード」からなる商
標に接した場合には,これを上記のような意味を有する「ハイ」の語と「ガ
ード」の語が結合した用語として認識すると考えられる。そして,これを
前提とすれば,片仮名の「ハイガード」からなる商標からは,「高度な防
御」といった観念が生ずるというべきであり,更には,これが上記指定商
品に使用されることを想定すると,これらの商品の用途や性能等に関連し
た印象が生ずることの結果として,「物を保護する程度が高い。」といっ
た観念が生ずるものと認めることができる。
イ本件商標から生ずる観念について
片仮名の「ハイガード」からは,上記アのような観念が生ずるといえる
ところ,本件商標は,片仮名の「ハイガード」の下に「HIGUARD」
の欧文字が配されていることから,これらを全体としてみた場合にも,上
記アと同様の観念が生ずるといえるかが問題となる。
そこで検討するに,前記(1)のとおり,本件商標の上段の「ハイガード」
の片仮名文字は下段の「HIGUARD」の欧文字の表音を示したものと
して両者は一体的に把握されるものといえるから,本件商標に接した取引
者,需要者においては,欧文字の「HIGUARD」について,片仮名の
「ハイガード」の「ハイ」の語に相応する「HI」の語と,片仮名の「ハ
イガード」の「ガード」の語に相応する「GUARD」の語とが結合した
ものであることを自然に認識するというべきである。
そして,このうち,「GUARD」の語が,「警戒。監視。防御。」等
の意味を有する英単語として,我が国においても一般的に認識されている
ことは,前記(1)のとおりである。
次に,「HI」の語については,「やあ。」などの呼び掛けを表す間投
詞に当たる英単語としての用例が一般的ではあるが,そのような間投詞が
他の用語と結合して一連表記される用例は一般的ではないから,上記のよ
うに「GUARD」の語と結合して一連表記された「HI」の語が,間投
詞の「HI」の語であると認識されることは考え難い。他方,「hi」の
語には,「高い。高度な。高級な。」等の意味を有する英単語「high」
の略語としての意味もあり(甲34),しかも,「hi」の語には,例え
ば,高品位テレビジョンの日本方式の愛称として「hi-vision」,
高度先端技術を表すものとして「hi-tech(technology
の略)」などのように,その後に続く英単語と結合して一連表記され,「高
度な○○」の意味で使用される用例が,我が国においても一般的にみられ
るところである(甲17,18)。
以上のような「HI」の語及び「GUARD」の語に対する我が国にお
ける一般的な認識を前提とすれば,上記アのような観念が生ずるものと認
められる片仮名の「ハイガード」の下に配された「HIGUARD」の欧
文字から構成された本件商標に接した本件審判請求に係る指定商品の取引
者,需要者においては,これを上記用例と同様に,「HI」は「high」
の略語として認識し,あるいは「HI」の語から「high」の語を想起
又は連想し,本件商標は,「high」の語を表す「HI」と「警戒。監
視。防御。」等の意味を有する英単語の「GUARD」とが結合して一連
表記されたものであって,上段の「ハイガード」の片仮名と同様の意味を
有するものとして認識するというべきである。
してみると,本件商標からは,片仮名の「ハイガード」単独の場合と同
一の観念,すなわち,「高度な防御」あるいは「物を保護する程度が高い。」
といった観念が生ずるものと認めるのが相当である。
これに反する被告の主張は,採用できない。
ウ観念の同一性について
本件使用商標2及び3は,片仮名の「ハイガード」からなる商標である
から,これからは,前記アのとおり,「高度な防御」あるいは「物を保護
する程度が高い。」といった観念が生ずる。また,本件商標からも,これ
と同一の観念が生ずることは,前記イのとおりである。
したがって,本件商標と本件使用商標2及び3は,そこから生ずる観念
が同一であるというべきである。
(3)以上によれば,本件商標と本件使用商標2及び3とは,前記(1)のとおり
の外観上の相違が認められるものの,同一の称呼及び観念を生ずるものであ
ることからすれば,本件使用商標2及び3は本件商標と「社会通念上同一と
認められる商標」(商標法50条1項)に該当するというべきである。
4結論
以上の次第であるから,本件商標の商標権者である原告は,本件審判請求の
登録前3年以内である平成22年10月ころ及び平成24年7月ころ,日本国
内において,本件審判請求に係る指定商品のうち,「繊維布地を合成樹脂で挟
んでなる積層シート」,「繊維と貼り合わせたプラスチックシート」及び「シ
ート状・フィルム状・フォイル状・テープ状のプラスチック基礎製品」につい
て,本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用をしていることが認め
られる。
したがって,本件審決の判断には誤りがあり,原告主張の取消事由には理由
がある。
よって,本件審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官大西勝滋
裁判官田中正哉

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