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判決 平成13年9月10日 神戸地方裁判所 平成12年(わ)第294号,同
第354号 殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反,傷害被告事件
主文
被告人を懲役10年に処する。
未決勾留日数中420日を刑に算入する。
筋引き包丁2本(平成12年押第96号の1,2)を没収する。
理由
(犯罪事実)
 被告人は,
第1 平成11年11月30日午前0時30分ころ,神戸市a区bc丁目d番e号Aビル
2階スナック「B」で,C(当時29歳)に対し,その頭をビール瓶で1回殴り付
ける暴行を加え,その結果,Cに約1週間の治療を必要とする右前頭部打撲兼挫創
の傷害を負わせた。
第2 平成12年2月18日,前記「B」で飲酒した際,同店の客であったD(当
時35歳),E(当時37歳)及びF(当時37歳)らのグループから,同店での
粗野な行状を注意され,襟元を掴まれる等されたことで憤激し,自宅から筋引き包
丁2本(刃体の長さ約15.5センチメートル1本,平成12年押第96号の2。
刃体の長さ約14.8センチメートル1本,同号の1。)を持ち出し,同店付近に
行っていたところ,同日午前1時15分ころ,同区fc丁目g番h号先路上で,帰宅途
中のEら3名と出会い,Eらに謝罪したものの,Eらから,「早よ,いなんか
い。」等と言われて詰め寄られるや,憤激の余り,とっさに,Dらを殺害しようと
決意し,いきなり前記筋引き包丁2本で,Dの左腹及び左背中を数回突き刺し,次
いで,Eの右腹及び右背中を数回突き刺し,続いて,Fの胸及び腹を数回突き刺す
等したが,Dらが直ちに病院に収容され,治療を受ける等したため,Dに全治まで
約80日間を必要とする左背部刺創,左腹部刺創の傷害を,Eに約21日間の治療
を必要とする右背部刺創,右腹部刺創,右第11,12肋骨骨折等の傷害を,Fに
約30日間の治療を必要とする胸腹部刺創,右血胸の傷害をそれぞれ負わせたに止
まり,殺害の目的を遂げなかった。
第3 業務その他正当な理由による場合でないのに,同日午前1時15分ころ,前
記同区fc丁目g番h号先路上で,前記筋引き包丁2本を携帯した。
(証拠)
 なお,かっこ内の番号は,証拠等関係カードの検察官請求番号を示す。
(省略)
(争点に対する判断)
1 本件の争点は,第2の事実について,被告人に被害者3名に対する殺意があっ
たかどうか,という点である。
2 前掲証拠によれば,次の事実が認められる。
 (1) 被告人が本件犯行に使用した凶器は,全長約25.4センチメートル,刃体
の長さ約14.8センチメートル,刃体の最大幅約3.0センチメートル,刃体の
最大厚約1.6ミリメートルの先鋭な筋引き包丁1本(平成12年押第96号の
1。なお,本件犯行により,刃体の付け根付近で折れ曲がっている。)及び全長約
25.8センチメートル,刃体の長さ約15.5センチメートル,刃体の最大幅約
3.0センチメートル,刃体の最大厚約1.7ミリメートルの先鋭な筋引き包丁1
本(同号の2)の計2本の筋引き包丁であり,いずれも殺傷能力が極めて高い刃物
である。
 (2) 各被害者の創傷の部位,程度をみると,
   ①被害者Dの創傷は,左背部刺創と左腹部刺創の2か所であり,左背部刺創
は,左背部のほぼ中央に長さ約4センチメートルの創口があり,背中の中央部に向
かい斜めに刺入され,深さが約13センチメートルであり,左腹部刺創は,左腹部
のほぼ中央,ほぼへその高さの位置に長さ約2センチメートルの創口がある(な
お,刺創の深さは不明である。)。
   ②被害者Eの創傷は,右腹部刺創と右背部刺創の2か所であり,右腹部刺創
は,右腹部のほぼ中央,へそよりやや高い位置に長さ約2センチメートルの創口が
あり,正面からまっすぐ刺入され,腹腔内に達し,小腸の一部と腸間膜の一部を損
傷し,深さが約3から4センチメートルであり,右背部刺創は,右背部ほぼ中央に
長さ約3センチメートルの創口があり,右斜め上から左斜め下に向かい刺入され,
右胸膜,右横隔膜を貫き,右第11,第12肋骨を損傷し,後腹膜の脂肪織,筋肉
も損傷し,深さが約10センチメートルであり,刺突位置あるいは刺入方向が数セ
ンチメートルずれていれば,肝臓や心臓の臓器を損傷していたおそれがあった。
   ③被害者Fの創傷は,右胸部刺創,右上腹部刺創,左上腹部刺創,左腹部刺
創の4か所であり,右胸部刺創は,右乳の上方,やや正中よりに長さ約3センチメ
ートルの創口があり,まっすぐに刺入され,胸膜を貫通し,右肺臓に達し,その深
さが人差し指第2関節以上あって,その正確な深さが不明である。右上腹部刺創
は,右上腹部のほぼ中央,右乳の真下に約3センチメートルの創口があり,外側か
ら内側に向かい刺入され,胸膜,腹膜を損傷し,深さが人差し指第2関節以上あっ
て,その正確な深さが不明であるが,前記右胸部刺創よりは浅い。左上腹部刺創
は,左上腹部のほぼ中央,やや正中よりに長さ約3センチメートルの創口があり,
下外側から上内側に斜めに刺入され,腹膜を損傷し,深さが人差し指第2関節以上
あって,その正確な深さが不明であるが,刺入方向の延長線上には心臓がある。左
腹部刺創は,左腹部のほぼ中央,へそよりやや高い位置に長さ約3センチメートル
の創口があり,外側からやや内側に刺入されているが,腹膜まで達せず,その正確
な深さが不明であるものの,前記3か所の刺創よりも浅い。
3 次に,被告人が被害者らを刺突した態様等について検討する。
 (1) 被告人は,公判で,被害者らに対する殺意があったことを否認し,①被害者
Dに対する刺突の態様について,被告人が,被害者Dに背中を向けてしゃがんだ状
態で,落とした筋引き包丁2本を両手で1本ずつ拾い,包丁を持った両手を右腰に
ためるようにしていたところ,背後で人の気配がしたので,しゃがんだ状態のまま
左を振り向くと,そこにDが被告人の背中につんのめるようにおおいかぶさってき
て,そのときに左手に持った包丁がDの腹に,右手に持った包丁がDの腰に刺さっ
た旨供述し,②被害者Eに対する刺突の態様について,被告人に対し背中を向けて
立っていたEを倒そうと思い,包丁を持ったままの両手で背後からEの腰を持って
回したが,Eが倒れず,包丁が刺さった旨供述し,③被害者Fに対する刺突の態様
について,Fが被告人の左肩辺りを掴んできたので,同時に被告人も包丁を持った
ままの左手を出し,更に左手で3回Fを突いたが,被告人としては,包丁を寸止め
で止め,Fとの間に距離があったので刺さるとは思わなかった旨供述している。
   しかし,①被害者Dに対する刺突の態様については,証人Dは,真正面に向
かい合って立っていた被告人に対し,完全に背中を向ける状態になった瞬間,背中
に衝撃,鈍痛が走った旨証言し,証人Fは,被告人がDにおおいかぶさるようにな
り,Dが殴られたと思った旨証言し,また,マンション7階の自宅ベランダから被
告人と被害者Eら3名の状況を注視していた証人Gは,被告人が,被告人の前に立
っているDに対し,左手を前後に素早くぱっぱと動かした旨証言しているのであっ
て,被告人の前記公判供述は,これら証言に全く反している。そればかりか,前記
のとおり,Dの左背部刺創は,深さが約13センチメートルもあり,被告人が供述
するように偶然に包丁が刺さったとは考えにくい上,被告人が,人の気配がする左
方に振り向いた際に,なぜ被告人の右腰にためている両手に持った包丁がDの左背
と左腹に刺さったのか納得できる説明ができない。②被害者Eに対する刺突の態様
については,近接した位置から本件犯行を目撃していたIの検察官調書(3号証)
によれば,被告人は,Eに近付き,Eの腹を包丁で刺し,Eが前屈みになったとこ
ろ,被告人は,Eの顔を蹴り付け,Eが逃げようとして被告人に背中を向けたとこ
ろ,被告人は,Eの背後からEの腰の辺りを包丁で刺したことが認められ,被告人
の前記公判供述は,Iが供述する前記状況に反している。のみならず,被告人は,
公判で,包丁を両手に持ったままEにつかみかかったことについて,包丁を捨てる
に捨てられなかったとか,そのときEが何で止めてくれないのかという気持ちがあ
ったなどと,およそ理解できない供述をしているのである。③被害者Fに対する刺
突の態様については,被告人は,公判で,他方では,被告人がFの方に前に出なが
ら包丁を突き出すと,それと同時にFも被告人の方に向かって動いてきていたと
か,Fとの間がどの程度離れていたのか,正確に言うと,暗かったから分からない
とも供述しているのであり,前記のとおり,現に包丁がFの胸と腹4か所に刺さっ
ており,その深さも3か所が,人差し指の第2関節以上であること等からすると,
被告人とFとの間に距離があり,被告人が,Fの身体の手前で包丁を寸止めで止め
るつもりであったとは到底認められない。
   以上のとおりであって,被害者らを刺突した態様に関する被告人の前記公判
供述は,到底信用することができない。
 (2) これに対し,被告人の捜査段階の供述は,被害者らを刺突した態様を含む本
件犯行状況,犯行に至る経緯,犯行動機等が,スナック「B」から被告人宅に戻る
まで,被告人宅から包丁2本を持ち出して「B」に向かうまで,「B」付近でHと
出会うまで,被害者らと出くわしたとき,被害者Dらから詰め寄られて被告人が包
丁を路上に落としたときという時間の経過の中で,それにつれて変化していく被告
人の被害者らに対する心情と一体的に,かつ,具体的,詳細に供述されていて,そ
の供述内容も自然であるのみならず,前記2に認定した被害者らの刺創の位置,刺
入方向や被害者ら並びに目撃者Gの証言及び同Iの供述とも概ね符合していて,そ
の信用性は高いと認められる。
4 そこで,前掲証拠,ことに被告人の検察官調書及び警察官調書によって,本件
犯行に至る経緯,刺突の態様等の犯行状況をみると,次の事実が認められる。
 (1) 本件犯行に至る経緯
被告人は,平成7年の夏ころ,Hの経営するスナック「B」に客として行
き,Hと知り合い,客として同店に半年以上通った後,Hと交際するようになり,
平成8年5月ころ,Hが離婚したことから,Hと被告人方で同棲を始めた。Hが1
か月位で被告人方を出ていったが,被告人は,その後もHと交際を続けていた。
平成12年2月17日,被告人は,仕事を終えて,午後7時すぎころから,
居酒屋等4軒で飲酒した後,午後11時30分ころ「B」に行ったが,翌日午前3
時から仕事もあり,全く酒に酔っていなかった。「B」には,Hのほかに,客とし
て被害者Eら3名等がおり(なお,その後,Hの姉Gも来店した。),被告人は,
出入り口付近のカウンター席で,ビールを飲み,相手をしてくれたHに同店に来る
前に2,3軒で飲酒してきたことを話したところ,Hが被告人の相手をするのをや
めてEらの相手をし始めたため,Hが被告人を不満に思っていると感じ,面白くな
くなり,せっかく「B」に来たのに,Hに冷たい態度を取られたことから,Hに対
し腹立たしい気持ちになった。それで被告人は,帰宅することにし,Hに向かって
「もう帰るわ。」と言ったが,Hに無視されたため5000円札をカウンター上に
投げるようにして代金を支払い店外に出た。しかし,Hが被告人を見送りに出てこ
なかったことから,被告人は,Hが被告人に不満を感じていると思い,面白くな
く,同店付近に止めていた運転してきた軽四貨物自動車のところまで戻り,携帯電
話でHに文句を言ったが,Hに電話を切られ,電話をかけ直してもHが電話に出る
ことはなかった。そこで,被告人は,腹立たしい気持ちになり,「B」に戻り,H
に対し,「なんで電話に出えへんのや。」と大声で文句を言ったところ,客の被害
者Eらも被告人の方を注目したため,Hの姉であるGに店外へ連れ出された。被告
人は,同店前の階段踊り場で,Gに対し,Hに対する不満をぶちまけ,Gが被告人
をなだめていた。そこへ,店内から飛び出してきたEが,被告人に対し,「お前,
姉さんに何文句言うとんのや。」と怒鳴った。被告人は,Eに対し,立腹したが,
Gとは身内同士の話をしている旨言っていたところ,そこへ今度はFが,店内から
出てきて,被告人に近付こうとするEを制止してから,被告人に向かってきて,
「何やこら。」と言いながら,右手で被告人の左襟元を掴み前後に揺する等した。
被告人は,Fに対しても立腹したが,同様にFにも身内同士の話をしている旨言っ
たところ,Fが,「何ぬかしとんじゃ。」と怒鳴り,Eも横から,「何ぬかしとん
じゃ,こら。」等と怒鳴りながら被告人に近付いてきたが,Fが,Eを手で制し,
再び被告人の襟元を掴んだ。被告人は,このようなFやEの態度にはらわたが煮え
くりかえる思いになり,Fらをやっつけてやろうかとも思ったが,Gが,被告人に
対し,ひたすら我慢するように言い,また,平成11年11月に傷害事件(第1の
事実)を起こしたこともあり,我慢していた。そのうち,Fが被告人の襟元を掴ん
でいた手を放し,被告人に近付こうとするEを制止した隙に,被告人は,Gに押さ
れて階段を1階まで降り,被告人の軽四貨物自動車を止めているところまで戻っ
た。被告人は,EやFに対する腹立ちから,Gに対し,「俺は何も悪うないやない
か。なんであそこまでされなあかんのや。」等とFらに対する不満を言ったが,G
から,「ええから,ええから。もう帰り。」等となだめられた。
被告人は,軽四貨物自動車を運転して帰宅する途中,先程のFらの被告人に
対する態度が頭から離れず,自分が悪くないのに,自分一人あのような目にあわさ
れて我慢していなければならないのかと思うに及んで,Eら3人に対する憤激の余
り,自分を馬鹿にしたEらを殺してやろうと考えるに至り,被告人宅から包丁を持
ち出して「B」に戻り,Eらをその包丁で刺し殺してやろうと考えた。自宅に戻っ
た被告人は,Eら3人連れを相手に喧嘩をするには,包丁が1本だけでは足りない
と考え,台所から筋引き包丁2本を取り出し,タオル地のハンカチで刃の部分を巻
いて持ち出し,軽四貨物自動車で「B」に向かった。
しかし,被告人は,「B」に近付くにつれ,少しずつ腹立ちも治まってき
て,少し冷静になり,前記平成11年11月の傷害事件のことが頭に浮かび,でき
るならば事件を起こしたくない,Eらを殺すのはまずいと考えるうち,どうしてG
がEらを止めてくれなかったのか,もとはといえばHの態度が悪かったからではな
いか等と考えが及んで,とにかくGも交えてHと話をしようと決めた。被告人は,
Eらに対する怒りが全く治まっていたわけではなく,刃の部分をタオル地のハンカ
チで巻いた包丁2本をズボンの後ろ腰辺りに挟んで持ち,北から南に下り坂になっ
ている南北に通じる道路(以下「南北道路」という。)を歩いて南に下り,「B」
付近に行き,「B」に明かりがついていたことから,Hがまだ営業しているのが分
ったが,今店内に入るとまだEらが残っていて,Hと話をすることもできないと思
い,Hが店を終えて出てきたところで話をすることにし,同店付近で同店の様子を
窺いながら,Hが店を終えて出てくるのを待っていた。
そして,「B」からHとGが出てくるのを見た被告人は,Hと話すのは今だ
と考え,Hに対する腹立ちもあって,「お前のせいや。」等と口走って2人の方に
駆け寄って行きながら,ズボンの後ろ腰に挟んでいた包丁が落ちないように手に持
とうとしたとき,刃の部分をタオル地のハンカチで巻いたままの包丁2本をHらの
目の前で落とした。被告人は,包丁2本をすぐに拾い上げたものの,被告人が包丁
を持っていることに気が付いたHら2人が自宅マンションの方に走って行き,被告
人は,2人を追いかけたが,Hら2人は,マンションの中に入ってしまった。
(2) 本件刺突の態様等犯行状況
  被告人は,Hと話ができなかったことから,Hが自分のことを全然分かって
くれない等と考えて力が抜け,南北道路に沿って建っているHらの自宅マンション
入口付近にたたずんでいたところ,南方からEが運転し,助手席にFが同乗してい
る,後部が幌付荷台になった軽四貨物自動車が,被告人のいる方に北進してくるの
に気付いた。被告人は,このころに既にEらを殺してやろうという気持ちはなくな
っており,そのため,先程「B」の前で喧嘩になりかけたことについてEらに対し
謝ろうと思い,刃の部分をタオル地のハンカチで巻いた包丁2本をズボンの後ろ腰
に挟み,Eが運転する軽四貨物自動車に近付き,運転席のEに対し,「さっきは,
すんまへんなあ。」と言って謝った。しかし,Eが,被告人をにらみ付け,「おの
れ,また何やこら。」などと喧嘩腰で言い,助手席のFも,「兄ちゃん,何やこ
ら。」と言った。被告人は,先程のことを謝りに来ている旨言うと,Fが,被告人
に対し,「早よ,いなんかい。」と早く立ち去るように言った。そのとき,軽四貨
物自動車の後部荷台からDが飛び降りて来て,被告人をにらみ付けながら,被告人
の胸を押して迫ってきた。被告人は,Dに迫られて,徐々に南北道路を後ずさりし
て北に上って行った。FとEも軽四貨物自動車から降りて来て,被告人に近付き,
Fが,「早よ,いなんかい。」等と言い,被告人の胸ぐらを掴んで揺する等した。
被告人は,自分が謝っているのに,Eら3人がそれを聞き入れず,先程と同じこと
をしてくる,どうしようもない奴らだ,いい加減にしろ等と思うに及んで,Eら3
人に対し憤激したが,前記の平成11年11月の傷害事件のことも頭に浮かび,E
らに手を出してはいけないという思いもあった。しかし,被告人は,Fから胸ぐら
を掴まれて揺すられ,強く突き放されてズボンの後ろ腰に挟んでいた包丁2本を道
路に落とした。そのとき,被告人は,包丁をEらに発見されて掴まれると,その包
丁で自分が刺されると思うや,自分がすぐに包丁を拾い,Eらの機先を制してEら
を包丁で突き刺して殺してやろうととっさに決意した。
  そこで,被告人は,すぐに,包丁を拾い,左,右の手に1本ずつ包丁を順手
に持ち,機先を制して,まず被告人の真正面に立っていたDの方に向けて,右手と
左手に持った包丁をほぼ同時に突き出して,Dを突き刺し,そのとき,Dが被告人
に完全に背中を向ける形で後ろに振り向いたため,Dの左背を右手に持った包丁
で,その左腹を左手に持った包丁でそれぞれ突き刺した。Dは,その場にひざまず
いた。
  被告人は,Dを刺したことにより興奮し,引き続いて,Eの右腹を目がけて
左手順手に持った包丁で突き刺し,前屈みになったEの顔を2,3回蹴り付け,逃
げようとして身体を反転させたEの背後から,Eの右背中を,左手順手に持ってい
た包丁を左手逆手に持ち替えて突き刺した。Eは,その場に倒れ込んだ。
さらに,引き続いて,被告人は,被告人の方を向いて,南北道路を後ずさり
して南に下って逃げようとしたFに近付き,向かい合った状態で,Fの腹付近を目
がけて右手と左手に持った包丁を交互に突き出し,Fの腹と胸を合計4か所突き刺
した。Fは,前のめりに倒れ込んだ。被告人は,倒れたFの右足を2,3回蹴り付
けた。
5  以上に詳しく認定した本件凶器の形状,性質,各被害者の創傷の部位,程
度,本件犯行に至る経緯,刺突の態様等の本件犯行状況を総合すれば,被告人は,
被害者D,E,Fに対し,いずれも確定的な殺意があったと認めるのが相当であ
る。
(法令の適用)
罰条
 第1の行為      刑法204条
 第2の行為      被害者ごとに刑法203条,199条
 第3の行為      包括して中央省庁等改革関係法施行法1303条により
同法による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条
刑種の選択
 第1の罪       懲役刑
 第2の罪       いずれも有期懲役刑
 第3の罪       懲役刑
併合罪の加重      刑法45条前段,47条本文,10条,14条(刑及び
犯情の最も重い第2のDに対する殺人未遂罪の刑に加重)
未決勾留日数の算入   刑法21条
没収          
 第2の罪       いずれも刑法19条1項2号,2項本文
訴訟費用の不負担    刑訴法181条1項ただし書
(量刑の事情)
1 第2の殺人未遂の犯行については,犯行に至る経緯,犯行状況等に関し,前記
(争点に対する判断)4に詳細に認定したとおりであり,被告人は,被害者3名か
ら胸ぐらを掴まれる等して迫られ,隠し持っていた包丁2本を落としたことから,
その包丁を被害者らに発見されて取られると,その包丁で自分が刺されると考える
や,すぐに包丁を拾い,被害者らの機先を制して被害者らを包丁で突き刺して殺害
しようととっさに決意し,被害者3名に対し,左,右の手に1本ずつ持った鋭利な
包丁で,連続的に各被害者の胸,腹や背中を複数回ずつ突き刺したが,傷害を負わ
せるに止まったという事案であって,その動機は,極めて短絡的である。犯行態様
も,自宅から持ち出してきた刃体の長さが約15.5センチメートルと約14.8
センチメートルの鋭利で殺傷能力の極めて高い筋引き包丁2本を凶器として用いて
おり,自宅から筋引き包丁2本を持ち出した際に有していた殺意を一旦解消し,被
害者3名を刺突する直前にとっさに殺意を生じたものではあるが,被害者3名に対
し確定的な殺意をもって,被害者らの機先を制し,その身体の枢要部である胸,腹
や背中を続けざまに複数回ずつ突き刺したもので,極めて危険,悪質,執拗である
ばかりか,いずれの被害者もその一命を取り止めたのはまさに幸運というべきであ
る。犯行の結果も,最も重傷の被害者が全治までに約80日間を必要とする左背部
刺創,左腹部刺創の傷害を,最も軽い被害者でも約21日間の治療を必要とする右
背部刺創,右腹部刺創の傷害を負っており,一瞬にしてこのような被害に遭った被
害者らの苦痛,驚愕,恐怖感は大きいものである。被害者らの処罰感情は厳しく,
被告人は,被害者らに対し,十分な金銭的賠償,慰謝の措置を講じていない。加え
て,被告人は,公判で,殺意を否認し,被害者らに対しては,偶然に包丁が刺さっ
たなどと不合理な弁解に終始しており,本件について十分に反省をしているとは認
めがたい。
さらに,第1の傷害の犯行でも,些細な理由から,ビール瓶という凶器を用い
て傷害行為に及んでおり,短絡的,自己中心的で危険,悪質である。
  これらの事情にかんがみると,被告人の刑事責任は重大である。
2 しかし,他方,第2の殺人未遂の犯行において,被害者3名は,被告人が謝罪
していたにもかかわらず,「何やこら。」「早よ,いなんかい。」等と言い,被告
人の胸を押し,その胸ぐらを掴んで揺する等して被告人に迫り,被告人を挑発して
本件犯行を誘発しており,被害者3名にも落ち度があること,被告人は,各被害者
に対し,見舞金としてそれぞれ20万円を支払っていること,第1の傷害の犯行に
おいては,被害者の方が先に被告人に対し,椅子を持ち上げて振りかぶり,暴行を
加えようとしており,被害者にも落ち度があること,被害者に対し,治療費及び休
業補償として8万円を支払い,被害者も被告人を宥恕して,示談が成立しているこ
と,被告人には,これまで前科・前歴がないこと等被告人にとって酌むべき事情も
認められる。
3 そこで,以上のような諸事情を総合考慮して,被告人に対し,主文の刑を量定
した。
平成13年9月10日
神戸地方裁判所第4刑事部
      裁判長裁判官  白  神  文  弘
         裁判官  寺  本  明  広
         裁判官  中  原  淳  一

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