弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人は無罪。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人表権七作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから、
これを引用する。
 控訴趣意第一点及び第二点について
 論旨は、要するに、被告人は、日記帳などの表題を付した帳簿を事務所に備え付
け、これに宅地、建物の取引ごとに所定の事項を記載していたのであり、右帳簿は
宅地建物取引業法四九条、八三条一項四号にいう帳簿にあたると解されるから、帳
簿を備え付けなかつた罪は成立しないものというべく、原判決には法令の適用の誤
ないしは事実誤認がある、というのである。
 調査するのに、原判決は、罪となるべき事実として、「被告人は、昭和四三年一
〇月三日京都府知事の免許を受け、同年同月一六日から京都市上京区ab町c番地
においてAの商号を使用して宅地建物取引業を営んでいる者であるが、そのころか
ら昭和四七年六月二六日までの間、右業務に関し建設省令の定める帳簿を右事務所
に備え付けていなかつた」旨を認定し、宅地建物取引業法四九条、八三条一項四
号、同法施行規則一八条を適用したうえ、被告人及び弁護人の主張に対する判断と
して、「同法四九条及び同法施行規則一八条一項所定の事項が取引ごとに記載され
(又は、事項欄を設けるなどで記載の意図が認められ)、その記載事項が業者の説
明をまつまでもなく第三者に容易に判読できるものであると解するのが相当であ
る」との解釈を示し、次いで、被告人が事務所に備え付けていた日記帳など一二冊
の帳簿について、「右帳簿はいずれも所定記載事項の欄が設けられた帳簿ではな
く、又、その記載された事項は物件帳と日記帳をあわせてみても右法規所定の記載
事項を充足しているものとは認め難く、かつ、その記載は所定記載事項が一取引ご
とに第三者にたやすく判読できるよう明瞭になされた帳簿とは認められないから、
右帳簿を備付けていたことをもつて宅建業法四九条の帳簿備付義務をつくしたもの
とするのは相当でな」いと判示している。
 ところで、宅地建物取引業法四九条は、「宅地建物取引業者は、建設省令の定め
るところにより、その事務所ごとに、その業務に関する帳簿を備え、宅地建物取引
業に関し取引のあつたつど、その年月日、その取引に係る宅地又は建物の所在及び
面積その他建設省令で定める事項を記載しなければならない」と規定し、同法施行
規則一八条一項は、右の法四九条に規定する建設省令で定める事項として、八項目
を掲げている。そして、同法八三条一項四号は、「第四十九条に規定する帳簿を備
え付けず、又はこれに同条に規定する事項を記載せず、若しくは虚偽の記載をした
者」を二万円以下の罰金に処する旨を規定している。
 <要旨>そこで、帳簿の備付け義務に関する原判断の当否を検討するのに、宅地建
物取引業法四九条が業務に関する帳簿を備え付ける義務とこれに所定の事項
を記載する義務とを区別して規定していること、同法八三条一項四号が帳簿の備付
け義務違反、帳簿への所定事項記載義務違反、同虚偽記載の三者を別個の処罰対象
として規定していること、及び帳簿の様式についての法令の定めがないことを考え
あわせると、右各法条にいう帳簿とは、本人の意思及び帳簿の形式又は記載内容か
らみて、宅地建物取引業者がその業務に関し取引年月日など所定の事項を記載する
ことを予定して備え付けた帳簿と認められるものであれば足り、さらに帳簿への記
載義務を充たすものであることまでも必要とするものではないと解するのが相当で
ある。もとより、右の帳簿の備付け及び記載の義務は、同法一条の目的すなわち
「宅地建物取引業を営む者について免許制度を実施し、その事業に対し必要な規制
を行なうことにより、その業務の適正な運営と宅地及び建物の取引の公正とを確保
し、もつて購入者等の利益の保護と宅地及び建物の流通の円滑化とを図る」目的を
達成するために課されているのであるから、これらの義務を履行したというために
は、帳簿を備え付けて取引ごとに所定記載事項をこれに記載することをもつて足り
るものではなく、原判決もいうように、当該宅地建物取引業者の説明をまたずに第
三者に容易に理解されるような形態で所定記載事項を帳簿に記載することを要する
ものと解すべきであるが、それは、帳簿の備付け義務の内容としてではなく、帳簿
の記載義務の内容として要請されるものと解するのが相当なのである。
 原審で取調べた証拠によると、被告人は、原判示の期間中、その宅地建物取引業
の記録として、不動産取引台帳二冊(当裁判所昭和五三年押第四六七号の五、六)
に宅地・建物貸借の仲介取引の概要を記載し、また、物件帳二冊と日記帳一〇冊
(同押号の三、四、八、一〇ないし一八)に宅地・建物売買の仲介取引の概要を記
載していたものであり、しかも、それらの記載は、ほとんど全部の取引について、
取引当事者、宅地・建物の特定、取引条件など所定記載事項の重要部分に及んでい
ることが認められる。そうしてみると、宅地・建物売買の仲介取引に関しては、日
を追つた日記帳の形式で取引仲介の経過が記載されていて、特定の取引ごとにまと
めた記載がされておらず、しかも記載の方法が独特に略式化されているため、被告
人の説明をまたなければ特定の取引に関する所定事項の全体を把握することが容易
でなく、また、ほぼ全部の取引について、必要的記載事項である仲介手数料の記載
がなされていない点において、帳簿の記載義務違反が問題となるとしても、右の帳
簿は、被告人の意思及び記載内容からみて、被告人がその業務に関し取引の年月日
等所定の事項を記載することを予定して備付けていたものというべきであるから、
少くとも前記宅地建物取引業法四九条にいう帳簿の備付け義務は履行されていたも
のと認めるのが相当である。
 結局、原判決は、帳簿の備付け義務に関する法解釈を誤つたものというべきであ
つて、破棄を免れない。論旨は理由がある。
 よつて、その余の控訴趣意に対する判断を省略して刑事訴訟法三九七条一項、三
八〇条により原判決を破棄したうえ、同法四〇〇条但書によりさらに次のとおり判
決する。
 本件公訴事実は、原判示事実と同一であるが、さきに判断したとおり、被告人
は、宅地建物取引業法四九条に定める業務に関する帳簿を備え付けていたものとい
うべきであつて、同法八三条一項四号に違反するところはないから、刑事訴訟法四
〇四条、三三六条により被告人に対し無罪の言渡をする。
 (裁判長裁判官 瓦谷末雄 裁判官 香城敏麿 裁判官 鈴木正義)

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