弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破毀する。
     被告人Aに対し、議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律違反
被告事件に関する部分の公訴を棄却する。
     同被告人を禁錮四月に処する。
     被告人B同Cに対する被告事件の公訴を棄却する。
         理    由
 被告人A弁護人三宅正太郎、同村瀬直養、同小野清一郎、被告人B弁護人久保田
国松、被告人C弁護人小野清一郎、同宮内厳夫提出の各上告趣意書は、末尾添付の
とおりであつて、之に対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 三宅弁護人の第一点について。
 所論、昭和二三年当裁判所規則第九号(同年当裁判所規則第三五号を以つて一部
改正以前の当初規定)の規定中、上告審のみに適用ある第四条の規定を除けば、す
べて従来裁判所又は裁判長の裁量に委せられた事項につき、たゞその裁量の範囲に
制限を加えた規定をなしたに過ぎないものであつて、如何なる見地からするも違憲
なぞというべきものではない。従つて之を適用して裁判をした原判決に違法があり
とは考えられない。所論は、第四条の第一回口頭弁論期日の指定及び上告趣意書の
提出期日に関する規定を違憲なりとして上告理由としているが、上告理由は、原審
判決の法令違反を理由とすべきものであるから、前記第四条の違憲を主張する論旨
は、上告適法の理由として認めることはできない。尚前示第四条は違憲と認むべき
ものではない、ここではその理由を詳述する必要がないから之を省略する。
 以上の如くであるから、第九号規則による手続に従つた原判決は憲法第三一条の
規定に反するとの所論は到底採用し難い。論旨は理由がない。
 三宅弁護人の第二点、村瀬弁護人の第一点について。
 所論、昭和二二年勅令第一号(以下公職追放令と称す)第一五条第一六条第一項
第七号の各規定事項が、ポツダム宣言第六項の趣旨を貫徹するための必要的事項で
あることは、所論も之を肯定するところである。されば、焦点は昭和二二年勅令第
七七号により改正追加せられた右第一五条第一六条第一項第七号の規定が昭和二〇
年勅令第五四二号(以下ポツダム勅令と称す)所定の「連合国最高司令官ノ為ス要
求ニ係ル事項」たりや否やの一点に存する。当裁判所の職権調査の結果に依れば、
「昭和二二年二月末頃連合国最高司令部民政局から政府に対し、同年四月に行われ
る各種選挙に際し、昭和二二年一月四日附連合国総司令部発日本政府宛覚書該当者
の選挙運動等を禁止する規定を作るよう、口頭上の要求があつたこと。政府は右に
基ずき草案を作成し、民政局に提出したところ、選挙運動に関連ある政治活動のみ
では狭いから、すべての政治活動を禁止するようにとの要求があつたこと。その結
果追加各条項のとおり制定すべしとの指示があつたこと。」の事実を確認すること
ができる。(記録編綴、昭和二四年三月二八日附当裁判所宛法務総裁回答交書参照)。
然らば、所論各追加規定は、ポツダム勅令所定の連合国最高司令官の要求に係る事
項であることは是に明瞭であるから、論旨は理由がない。
 村瀬弁護人の第二点について。
 公職追放令第一五条に所謂「政治上の活動」とは、原則として政府、地方公共団
体、政党その他の政治団体又は公職に在る者の政治上の主義、綱領、施策又は活動
の企画、決定に参与し、之を推進し支持し苦しくは之に反対し、或は公職の候補者
を推薦し支持し若しくは之に反対し、或は日本国と諸外国との関係に関し論議する
こと等によつて、現実の政治に影響を与えると認められるような行動をすることを
言うものと解するを相当とすることは、当裁判所の他の案件において、尚詳細に亘
つて之を判示するところである(昭和二三年(れ)第一八六二号昭和二四年六月一
三日大法廷判決)。今、被告人Aの所為を考察すれば、原判決の認定した被告人の
原判示第一の所為は、右公職の候補者を支持することによつて、現実の政治に影響
を与えると認められる行動であることは、亦寔に明らかと謂わねばならぬ。然らば、
原判決が、被告人の所為を以つて、公職追放令第一五条の政治上の活動に該当する
ものとし、同条第一項第一六条第一項第七号に問擬したのは相当である。論旨は理
由がない。
 三宅弁護人第三点、小野弁護人第一点、久保田弁護人第一点宮内弁護人の第一点
について。
 議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律(以下議院証人法と称する)違
反の罪については、同法第八条所定の、各議院又は各委員会若しくは両議院合同審
査会の告発を俟つて、公訴提起の条件としたものと解するを相当とすることは、既
に当裁判所の判例とするところである(昭和二三年(れ)第一九五一号昭和二四年
六月一日大法廷判決)。然らば、被告人等に対するD事件は、被告人等が偽証した
とする衆議院不当財産取引調査特別委員会又は衆議院の何れからも告発がないのに
拘わらず、公訴の提起された案件であることは明らかであるから、右被告事件の公
訴は不適法のものと謂わねばならぬ。然るに公訴を受理し実体的審理を行つた上、
被告人等を有罪とした原判決は違法であつて、論旨は正に理由あり。原判決は此点
において破毀を免かれない。
 三宅弁護人第五点について。
 原判決は、原判示第一第二の各事実について、何れも第一審における第二回公判
調書を証拠にしていることは所論のとおりである。然し、原判決は、右何れの証拠
説示にも「原審第二回公判調書中被告人Aの供述として、、、の記載」と判示して
いるのであつて、従つて第一審第二回公判調書における被告人Aに対する供述部分
のみを指していることは極めて明白である。原判決は不特定な資料を断罪の証拠に
供したものではない。論旨、理由なし。
小野弁護人の第二点、三宅弁護人の第四点、第六点、第七点、久保田弁護人の第二
点乃至第四点について。
 以上各所論は、被告人等に対するD事件の公訴の有効であることを前提としての
立論である。然るに、右被告事件の公訴は不適法として公訴を棄却すべきものであ
る以上、各所論に対しては判断を用うるの必要を認めない。
以上の理由に依り、刑訴施行法第二条に則り、各被告人に対するD事件の部分につ
いては、旧刑訴法第四四七条第四五五条第三六四条第六号に従い公訴を棄却すべく、
被告人Aに対する爾余の被告事件については、原判決はその事件の罪と右議院証人
法違反事件の罪とを、併合罪として処断したのであるから、旧刑訴法第四四七条に
従い原判決全部を破毀し、同第四四八条に従い更に判決すべきものである。仍つて
原判決の確定した原判示第一の事実を法律に照せば、被告人の所為は公職追放令第
一五条第一項に該当し、同令第一六条第一項第七号に違反するものであるから、同
条第一項本文の所定刑中禁錮刑を選択し、被告人Aを禁錮四月に処するを相当する。
 仍つて主文のとおり判決する。
 此判決は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 茂見義勝関与
  昭和二四年六月一三日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介

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