弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人等の負担とする。
         理    由
 上告代理人寺田熊雄の上告理由第一点について。
 論旨の主眼とするところは、要するに原審は、上告人等に懲戒解雇を相当とする
違法行為のあつたことが認められるから本件解雇は不当労働行為でないとしている
が、使用者側が懲戒原因ありとして労働者に対してなす解雇処分には使用者側の反
組合的意図が隠されていることが多いから、不当労働行為の審判に当つては、表面
上解雇の理由となつている事実の有無や性質について調査するにとどまるべきでな
く、内に隠された使用者側の主観的意図を追究すべきものである。しかるに、本件
において上告人等は、使用者側に別紙第二記載のような第一組合の切崩し、第二組
合の育成、第一組合との団体交渉の拒否、争議妥結後の第一組合の圧迫及び第二組
合との差別待遇等反組合的意図を推測させる事実のあつたことを主張し、それらの
証拠を提出しているにも拘わらず、原審が右の主張や証拠について審理判断するこ
となく本件解雇をもつて不当労働行為でないと認定したのは、懲戒解雇の当否とい
うことを使用者側の反組合的意図を推測させる事実と無関連に判断した結果、審理
不尽ないし理由不備の違法に陥つたものであるというにある。
 しかし、使用者側に反組合的意思がありその徴憑と認むべき事実がある場合でも、
被解雇者側に別に懲戒解雇に値する事由とくに顕著な懲戒事由がある場合には、使
用者側の反組合的意思の実現ということとは無関連に懲戒解雇を断行することはあ
り得ないことではない。これを本件の場合についてみると、原審の確定したところ
によれば、本件争議は、昭和二五年四月一八日に開始され同年六月一九日に至つて
漸やく解決をみたのであるが、その間、組合員の会社施設の無断使用、坐り込み、
暴行と立入禁止仮処分の侵犯、会社職員に対する監禁、応援団体の協力を得ての暴
行、行動部員等の第二組合員の連出し、坐込組合員の会社経理課長に対する暴行及
び深夜の団体交渉の強要等組合活動としての正当な範囲を著しく超えたものであつ
たというのであるから、使用者側において被解雇者側のかか越軌行動の責任を問う
ことは無理からねことであり、「本件解雇は、正当な組合活動をしたことの故をも
つてなされたものでないことは明らかである」とした原審の判断は、十分首肯でき
るところである。そして原審の右判断は、使用者側に論旨主張のような反組合的態
度の現われと目すべき事実の全部もしくは一部があつたとしても、本件解雇は使用
者側の反組合的意思の実現ということとは関係なく違法争議の責任を問う見地から
行われたものであるとの趣旨の判断を含むものと解される。それ故、原判決には所
論のような審理不尽ないし理由不備の違法があるということはできない。
 論旨中はに、なお使用者側の団体交渉に対する態度をもつて労働関係調整法、労
働組合法、憲法二八条に違反するものと主張し、さらに、原判決が使用者側の反組
合的意思の徴憑として上告人側の主張した事実及び証拠につき判断を示さなかつた
ことが憲法二八条、九九条の精神に反する旨を主張する点もあるが、これらの論旨
はひつきよう、使用者側の右態度からその反組合的意思を推認し、本件解雇をもつ
て不当労働行為と認定すべきものであるのに、原審がこれに反する認定をしたこと
が違法である旨の上記の上告人の主張を、単に繰り返したものであるか、もしくは
名を憲法違反に籍りて主張したものに過ぎず、その採用し得ないことは、前示のと
おりである。
 同第二点について。
 論旨は、まず、原審が本件争議のような異常事態において応援の外部団体のした
越軌行動をもつて斗争委員である上告人等の制止し得るところであるように判断し
たことは経験則に違反する旨主張するのであるが、原審の認定した暴力行為当日の
状況の下でも、組合員やその他外部団体員の暴力行為の発生が上告人等の統制の責
任を全く免れしめる意味において不可抗力であつたとは解されないのみならず、暴
力行為当日における情勢激化に至るまでの経過においてこれを統制することは不可
能ではなかつたものと認められるのであるから、使用者側が上告人等の統制の責任
を問い懲戒解雇の措置に出でたものであるとする原審の認定をもつて、経験則違背
ということはできない。
 次に、判例違反の主張について考えてみると、論旨の引用する判例は、いずれも
使用者側に不当労働行為の意思とその他の意思(たとえば違法行為に対する責任追
求の意思)とが併存する場合に関するものであるが、本件解雇の動機は、原審の認
定によればもつぱら懲戒処分に付することに存し不当労働行為意思は併存しないと
いうのであるから、本件の場合に適切でない。
 その余の論旨は、論旨第一点と重複し、要するに不当労働行為の成立を否定した
原審の認定を非難するに帰する。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    奥   野   健   一

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