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平成24年6月20日判決言渡同日原本受領裁判所書記官
平成23年(行ケ)第10349号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成24年6月13日
判決
原告株式会社知的未来
被告特許庁長官
同指定代理人金子幸一
須田勝巳
木方庸輔
樋口信宏
守屋友宏
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2010-10450号事件について平成23年9月20日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を下記
2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,本件補正
を却下した上,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その
理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取
消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)原告は,平成11年12月8日,発明の名称を「照会システムおよび照会
方法」とする特許を出願したが(特願平11-349309。甲10),平成22
年3月24日付けで拒絶査定を受けた(甲16)。そこで,原告は,同年5月17
日,これに対する不服の審判を請求する(甲11)とともに手続補正をした(以下
「本件補正」という。乙3)。
(2)特許庁は,前記請求を不服2010-10450号事件として審理し,平
成23年9月20日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との本件審決をし,その謄本は,同年10月3日,原告に送達された。
2本件補正前後の特許請求の範囲の記載
(1)本件審決が対象とした本件補正前の請求項1に係る特許請求の範囲の記載
(ただし,平成21年8月12日付け手続補正書(乙4),同年11月26日付け
手続補正書(乙5)及び平成22年2月18日付け手続補正書(乙6)による補正
後のものである。)は,次のとおりである。以下,上記請求項1に係る発明を「本
願発明」という。なお,「/」は,原文における改行箇所を示す。
【請求項1】所有者としての飼い主が不明な状態で保護されペットとして飼われて
いた可能性のある自律的に場所を移動可能な動物の種類や特徴を予め定めた項目に
分けて表したファウンド側ペットデータベースを,前記保護されペットとして飼わ
れていた可能性のある動物に関する情報を基に構築するファウンド側ペットデータ
ベース構築手段と,前記動物の種類や特徴を特定して前記ファウンド側ペットデー
タベースに対する検索を前記インターネットを介して送られてきた検索要求に応じ
て実行する検索手段と,この検索手段の検索結果を前記検索要求を行った要求元に
インターネットを介して送信する検索結果送信手段とを備えた照会用サーバと,/
この照会用サーバにインターネットを介してアクセスするアクセス手段と,このア
クセス手段によって前記照会用サーバにアクセスした状態で,前記飼い主の所有す
る居なくなったペットの種類や特徴を予め定めた項目に分けて入力するデータ入力
手段と,このデータ入力手段により入力した前記ペットの種類や特徴を用いて前記
照会用サーバの前記ファウンド側ペットデータベースに対する検索を要求する検索
要求手段と,この検索要求手段の検索要求によって前記検索手段が検索を行ったと
き前記照会用サーバからインターネットを介して送られてくる検索結果を受信する
検索結果受信手段と,この検索結果受信手段の受信した検索結果を表示する結果表
示手段とを備えた通信端末/とを具備することを特徴とする照会システム
(2)本件補正後の請求項1に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりである
が,下線部分は,当裁判所が便宜上付した本件補正による補正箇所である。以下,
上記請求項1に係る発明を「本件補正発明」というほか,本件出願に係る明細書
(甲10,乙3~6)を,「本件明細書」という。
【請求項1】所有者としての飼い主が不明な状態で保護されペットとして飼われて
いた可能性のある自律的に場所を移動可能な特定の動物の種類や特徴を予め定めた
項目に分けて表したファウンド側ペットデータベースを,前記保護されペットとし
て飼われていた可能性のある自律的に場所を移動可能な特定の動物をその保護した
側の情報を基に構築するファウンド側ペットデータベース構築手段と,前記動物の
種類や特徴を特定して前記ファウンド側ペットデータベースに対する検索を前記イ
ンターネットを介して送られてきた検索要求に応じて実行する検索手段と,この検
索手段の検索結果を前記検索要求を行った端末にインターネットを介して送信する
検索結果送信手段とを備えた照会用サーバと,/この照会用サーバにインターネッ
トを介してアクセスするアクセス手段と,このアクセス手段によって前記照会用サ
ーバにアクセスした状態で,前記飼い主の所有する居なくなったペットの種類や特
徴を予め定めた項目に分けて入力するデータ入力手段と,このデータ入力手段によ
り入力した前記ペットの種類や特徴を用いて前記照会用サーバの前記ファウンド側
ペットデータベースに対する検索を要求する検索要求手段と,この検索要求手段の
検索要求によって前記検索手段が検索を行ったとき前記照会用サーバからインター
ネットを介して送られてくる検索結果を受信する検索結果受信手段と,この検索結
果受信手段の受信した検索結果を表示する結果表示手段とを備えた通信端末/とを
具備することを特徴とする照会システム
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本件補正発明は,下記アの引用例1に記載
された発明並びに下記イ及びウの引用例2及び3に記載された事項(以下,順に,
「引用例2記載事項」「引用例3記載事項」という。)に基づいて当業者が容易に発
明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願
の際独立して特許を受けることができないものであり,本願発明も,引用例1に記
載された発明並びに引用例2記載事項及び引用例3記載事項に基づいて当業者が容
易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特
許を受けることができない,というものである。
ア引用例1:特開平9-91340号公報(甲9)
イ引用例2:「迷い犬情報一元化」などと題する新聞記事(毎日新聞,平成1
0年(1998年)2月21日,大阪朝刊,毎日新聞社。甲12)
ウ引用例3:「迷い犬オンライン検索」などと題する新聞記事(読売新聞,平
成11年(1999年)4月27日,大阪夕刊,読売新聞社。甲13)
(2)なお,本件審決が認定した引用例1に記載の発明(以下「引用発明」とい
う。)並びに本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりであ
る。
ア引用発明:拾得物の物品名及び物品の色などの特徴等が各項目ごとに格納さ
れる拾得物管理テーブルを備え,拾得物の届出があったときに入力される前記拾得
物の物品名及び物品の色などの特徴等を前記拾得物管理テーブルに格納し,紛失物
及び紛失物の色などの特徴等を特定して行う前記拾得物管理テーブルに対する検索
を,インターネットを介して送信されてきた検索要求に応じて実行し,その検索結
果を前記検索要求を行った端末にインターネットを介して送信するホストコンピュ
ータと,前記ホストコンピュータにインターネットを介して接続され,紛失物名及
び紛失物の色などの特徴等が入力され,該紛失物名及び紛失物の色などの特徴等を
用いて前記ホストコンピュータの拾得物管理テーブルに対する検索を要求し,この
検索要求に対する検索が行われた際に前記ホストコンピュータからインターネット
を介して送信される検索結果を受信し,この検索結果を表示する端末,からなるシ
ステム
イ一致点:所有者が不明な物の特徴を予め定めた項目に分けて表したデータベ
ースを,前記所有者が不明な物をその管理する側の情報を基に構築するデータベー
ス構築手段と,所有者が不明な物の特徴を特定してデータベースに対する検索を前
記インターネットを介して送られてきた検索要求に応じて実行する検索手段と,こ
の検索手段の検索結果を前記検索要求を行った端末にインターネットを介して送信
する検索結果送信手段とを備えた照会用サーバと,この照会用サーバにインターネ
ットを介してアクセスするアクセス手段と,このアクセス手段によって前記照会用
サーバにアクセスした状態で,前記所有者が不明な物の特徴を予め定めた項目に分
けて入力するデータ入力手段と,このデータ入力手段により入力した前記物の特徴
を用いて前記照会用サーバの前記データベースに対する検索を要求する検索要求手
段と,この検索要求手段の検索要求によって前記検索手段が検索を行ったとき前記
照会用サーバからインターネットを介して送られてくる検索結果を受信する検索結
果受信手段と,この検索結果受信手段の受信した検索結果を表示する結果表示手段
とを備えた通信端末とを具備することを特徴とする照会システム
ウ相違点1:本件補正発明では,「所有者としての飼い主が不明な状態で保護
されペットとして飼われていた可能性のある自律的に場所を移動可能な特定の動物
の種類や特徴を予め定めた項目に分けて表したファウンド側ペットデータベースを,
前記保護されペットとして飼われていた可能性のある自律的に場所を移動可能な特
定の動物をその保護した側の情報を基に構築するファウンド側データベース構築手
段」であるのに対し,引用発明では,「拾得物の物品名及び物品の色などの特徴
等」の情報をデータベースとして,該データベースを「その管理する側の情報を基
に」構築する点
エ相違点2:本件補正発明では,「前記動物の種類や特徴を特定して前記ファ
ウンド側ペットデータベースに対する検索」を要求するのに対し,引用発明では,
「紛失物名及び紛失物の色などの特徴等を特定」してデータベースに対する検索要
求を行う点
オ相違点3:本件補正発明では,「飼い主の所有する居なくなったペットの種
類や特徴」を入力するのに対し,引用発明では,「紛失物名及び紛失物の色などの
特徴等」を入力する点
カ相違点4:本件補正発明では,「入力した前記ペットの種類や特徴を用い
て」照会用サーバへの検索要求を行うのに対し,引用発明では,「紛失物名及び紛
失物の色などの特徴等を用いて」検索要求を行う点
(3)また,本件審決が認定した引用例2記載事項及び引用例3記載事項は,以
下のとおりである。
ア引用例2記載事項:コンピュータを使って迷い犬の情報を一元管理し,飼い
主の判明率を高める目的で,府庁内に各地で捕獲された犬の種類や性別,特徴のほ
か映像も登録したコンピュータを設置し,該コンピュータと捕獲犬が集まる府犬管
理指導所(大阪府東成区)や各保健所のパソコンをオンラインで結び,情報を活用
できる迷い犬のリサーチシステム
イ引用例3記載事項:府食品衛生課にホストコンピューターを置き,保健所を
府が管轄していない大阪,堺,東大阪の三市を除く二十二保健所と,野犬を捕獲す
る四か所の同課分室,処分する犬管理指導所(大阪市東成区)に端末機を設置し,
各保健所は,迷い犬を探す飼い主の届出を受け,毛色や性別,体格,首輪の色など
犬の特徴や写真を入力して流すとともに,各食品衛生課分室が毎日入力する捕獲犬
のデータから,一致する犬がいないか検索する迷い犬リサーチシステム
4取消事由
(1)引用発明並びに一致点及び相違点の認定の誤り(取消事由1)
(2)本件補正発明の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由2)
第3当事者の主張
1取消事由1(引用発明並びに一致点及び相違点の認定の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)対象の特定について
本件審決は,本件補正発明と引用発明とでは,「所有者が不明な物の特徴を予め
定めた項目に分けて表したデータベースを,前記所有者が不明な物をその管理する
側の情報を基に構築するデータベース構築手段」を備える点で一致する旨を説示す
る。
しかしながら,引用例1に記載された発明は,拾得物の物品名が異なった名称で
拾得物管理テーブルに記載されることにより生じる確認漏れから紛失物が落とし主
に渡らないなどの課題を解決することを目的としている(引用例1【0003】)
から,引用例1には,特定の拾得物をデータベースの構築の対象から除外する(例
えば,「黒い2つ折りの財布」と特定(限定)することで,黒色以外又は2つ折り
以外の財布の届出を排除すること)という思想は,開示も示唆もされていない。
他方,本件補正発明は,商業的な経営を視野に入れて現実的な世界での発明の実
現を配慮している(本件明細書【0050】)から,ファウンド側ペットデータベ
ースの対象となる動物の種類を,全ての人が満足する数又は範囲にまで膨大なもの
に拡大することを想定しておらず,むしろ,その対象を,動物の中の特定のもの
(「自律的に場所を移動可能な特定の動物」)に限定している。
このように,「もの」の種類自体を制限しない引用例1に記載された発明と,「も
の」の種類を特定する本件補正発明とは,明確に相違している。すなわち,引用例
1に記載された発明に開示されているサイフ等の拾得物は,本件補正発明が対象と
する「所有者としての飼い主が不明な状態で保護されたペットとして飼われていた
可能性のある自律的に場所を移動可能な」動物と明確に異なる概念であり,前者は,
後者を包含せず,引用例1に記載された発明は,当該拾得物を登録する際にこれら
の一部に制限するという意味の「特定」という概念が存在しない一方,本件補正発
明には,これを特定するものである点で相違している。
(2)インターネットによる接続について
本件審決は,本件補正発明と引用発明とでは,照会用サーバと所有者の端末とが
インターネットを介して接続されている点で一致する旨を認定する。
しかしながら,引用例1の【図1】は,引用例1に記載された発明のシステムの
実施例の全体構成図であるというのにもかかわらず,閉じたネットワークが示され
ているだけであり,一般に開放されたネットワークが何ら示されておらず,当該発
明がインターネット等の広域ネットワーク上でも実現可能である(引用例1【00
17】)としても,当該発明におけるホストコンピュータが検索のためにインター
ネットで端末と接続される装置であるとする開示や示唆はない。
他方,本件補正発明における保護した者及び飼い主の通信端末は,いずれもイン
ターネットを介して「照会用サーバ」と接続し,そのデータベース(ファウンド側
ペットデータベース)の構築及び検索を可能にするものである(本件明細書【00
44】【0044】【0047】【図7】)。
(3)届出の存否について
本件審決は,本件補正発明と引用発明とでは,「このアクセス手段によって前記
照会用サーバにアクセスした状態で,前記所有者が不明な物の特徴を予め定めた項
目に分けて入力するデータ入力手段と,このデータ入力手段により入力した前記物
の特徴を用いて前記照会用サーバの前記データベースに対する検索を要求する検索
要求手段」という点で一致する旨を説示する。
しかしながら,引用例1に記載された発明は,遺失物の属性情報が遺失物の管理
を行う各機関の端末から入力されることでホストコンピュータの拾得物管理ファイ
ル(共有ファイル)に格納されるものであるばかりか,引用例1には当該ファイル
の変更を阻止するアクセス阻止手段についての開示がないから,データベースの構
築の対象となる拾得物について当該各機関に対する「届出」を必須の前提条件とし
ているといえる(引用例1【0003】【0007】)。すなわち,引用例1に記載
された発明の拾得物管理ファイルは,上記各機関でのみ作成・管理されるものであ
って,各家庭のパーソナルコンピュータから紛失物の属性情報を直接入力すること
はできない。したがって,引用例1の「各家庭のパーソナルコンピュータからでも
紛失物の検索を行うことが可能になる」(【0017】)との記載は,各家庭のパー
ソナルコンピュータが拾得物管理ファイル(共有ファイル)にアクセスしてその内
容を変更できる(ファイルに対して書き込みができる)ということや,データベー
スを構築するための入力を意味するものではない。このように,引用1に記載され
た発明では,ホストコンピュータが保有するデータの検索と,そのデータの変更
(データベースの構築)とを完全に使い分けているというべきである。
他方,本件補正発明は,その特許請求の範囲の記載及び出願に係る他の請求項の
記載(【請求項4】)から明らかなように,上記各機関に対する「届出」を必須の前
提条件としておらず,むしろ,飼い主は,届出を経ることなく,端末から入力され
た情報によりデータベースを順次構築し,あるいは検索を試みることができるもの
である(本件明細書【0044】【0047】【図7】)。
(4)小括
以上のとおり,本件審決は,引用例1に記載された発明及び本件補正発明と引用
例1に記載された発明との一致点の認定を誤り,相違点を看過するものである。
〔被告の主張〕
(1)対象の特定について
引用発明における拾得されたサイフ等は,拾得物管理テーブル等に拾得物又は紛
失物として登録される物の例示であるにすぎず(引用例1【0011】),当該テー
ブルは,拾得物を物品名や特徴その他の汎用的な項目でテーブル化したものである
(引用例1【図2】)から,保護(拾得)されたペットが登録されることを排除す
るものではない。
次に,本件出願日時点において,遺失された犬,猫,鳥等を拾得した者は,交番
(警察署長)に届けることとされており,その所有者は,これらの動物を懸命に探
し回ることになるから,拾得されたペットは,各機関への問い合わせの対象物とし
て,引用例1に記載された産業上の利用分野(【0001】),発明が解決しようと
する課題(【0003】),課題を解決するための手段(【0004】)及び発明の効
果(【0018】)がよく妥当するものである。
さらに,引用例1の出願日時点においては,データベースに無制限に情報を蓄積
することには記憶容量の観点から制約があった(引用例1【0017】)ことから,
引用発明は,システムに無制限に拾得物を登録することを予定していない。また,
引用発明は,属性情報だけによる検索では検索されたものが本当に自分の物かどう
かを正確に把握できないような拾得物や,検索された拾得物の候補が複数ある場合
にそれらの画像データを順に表示して紛失届したものに該当するか否かの特定を正
確かつ迅速に行うことができるような拾得物に対して有益なものである(引用例1
【0014】【0015】)。
他方で,飼い主が不明として保護されるペットについて,拾得物管理テーブルの
登録対象を犬や猫のみに特定することは,交番等の各機関の業務上の効率を考慮し
て適宜決定し得た事項であるし,このような特定に技術的な困難性はないばかりか,
システムが大規模とならず,登録作業負担も軽減されて好都合である。
以上によれば,引用発明のシステムにおいて,拾得物である動物のうち画像によ
る特定及び確認が有効と考えられる犬,猫,鳥等の特定の動物に対象を限定するこ
とは,引用例1の記載からごく自然に導き出されることである。むしろ,本件明細
書には,プルダウンメニューの項目が犬,猫及びインコ以外のものを含み得る旨の
記載がある(【0045】)から,本件補正発明においても,対象とする動物の種類
の数は,任意でよいと解釈するのが相当である。
よって,引用例1に接した当業者は,引用発明における拾得物をサイフ等に限定
解釈することがなく,また,拾得されたペットをこれとは異なる概念の物と認識す
ることもないと考えるのが合理的であり,本件審決が「所有者が不明な物の特徴を
予め定めた項目に分けて表したデータベースを,前記所有者が不明な物をその管理
する側の情報を基に構築するデータベース構築手段」を本件補正発明と引用発明と
の一致点と認定したことに誤りはない。
(2)インターネットによる接続について
引用例1には,拾得物について各機関が情報登録し,かつ,各家庭のパーソナル
コンピュータがインターネットを介して情報検索を行う構成が開示されている
(【0017】)。他方,本件補正発明のデータベース構築手段については,インタ
ーネットを使用する構成までが特許請求の範囲の記載に特定されていると解するこ
とはできないし,本件補正発明の通信端末も,インターネットを介して照会用サー
バに接続し検索を行うことは記載されているものの,ファウンド側ペットデータベ
ース構築手段に接続して当該データベースを構築するものとまでは解することがで
きない。
したがって,この点に関する原告の主張は,本件補正発明の特許請求の範囲の記
載に基づくものではない。
(3)届出の存否について
本件補正発明の特許請求の範囲の記載は,ペットを保護した側の情報を基にファ
ウンド側ペットデータベースが構築されることを特定するのみであって,当該情報
がどのような経緯(例えば,届出)で得られたものであるかは,特定されていない
から,届出によって得られた情報に基づくデータベースの構築も,本件補正発明に
含まれることが明らかである。
したがって,この点に関する原告の主張は,本件補正発明の特許請求の範囲に基
づくものではない。
(4)小括
以上のとおり,本件審決の引用発明並びに本件補正発明と引用発明との一致点及
び相違点の認定に誤りはない。
2取消事由2(本件補正発明の容易想到性に係る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)本件審決は,当業者が相違点1ないし4を容易に想到できた旨を説示する。
(2)しかしながら,相違点1についてみると,引用例2は,「迷い犬」の情報を
コンピュータにより一元管理することは記載しているが,本件補正発明の「所有者
としての飼い主が不明な状態で保護されペットとして飼われていた可能性のある自
律的に場所を移動可能な特定の動物」の1つとして「迷い犬」を挙げたものではな
いし,その他の動物の情報については一切記載していない。また,引用例1には,
拾得物の情報をコンピュータにより一元管理するために拾得物管理テーブルを設け
る旨の記載はないから,引用例2の記載と引用例1に記載された発明とでは,技術
的思想が異なる。したがって,引用例1に記載された発明のシステムに引用例2記
載事項を適用することで,ペットの全てについて一元管理をできるというものでは
なく,この点についての本件審決の判断は,根拠を欠く。
次に,相違点2ないし4についてみると,引用例3は,引用例2と同様,「迷い
犬」を対象とした「リサーチシステム」であって「サーチシステム」ではなく,本
件審決は,語句を取り違えている。したがって,引用例1に記載された発明に引用
例3記載事項を適用することで本件補正発明を容易に想到できたとする本件審決の
判断は,論拠を欠く。
(3)むしろ,引用例2記載事項及び引用例3記載事項は,インターネットに接
続されていない自治体内の閉じたネットワークで,自治体で働いている者のみが活
用できるという限定された状態で存在しており,インターネットの活用を想起させ
る何らの開示も示唆もない一方,本件補正発明は,インターネットでアクセス可能
な照会用サーバにファウンド側ペットデータベースが存在する点で,独自の構成を
有している。
また,引用例1に記載された発明は,インターネットで第三者が拾得物を検索で
きるものの,本件補正発明が対象とする特定の動物の特殊事情(自律的に場所を移
動可能な動物としていることから,ファウンド側ペットデータベースの内容が保護
した側により最新の状態に更新されるべきであること)を全く考慮しておらず,当
業者の範囲を異にするから,引用例1に記載された発明を引用例2記載事項及び引
用例3記載事項に組み合わせて論ずることには無理がある。
仮に,当業者がこれらを参照できるとしても,引用例1に記載された発明におい
ては,「届出」という前提条件が必要となるし,引用例2記載事項及び引用例3記
載事項では,自治体職員がデータベースの対象となるものが適切であるかどうかを
チェックしている。
他方,本件補正発明は,その対象を「所有者としての飼い主が不明な状態で保護
されペットとして飼われていた可能性のある自律的に場所を移動可能な動物」とい
う特定の動物に限定することで,対象が無限定に膨張することがなく,インターネ
ットに接続された端末からの構築及び検索が可能となっており,その運用に当たっ
て「届出」その他のチェックを介在させなくてもすむようになっている。
このように,本件補正発明は,インターネットの特殊性を考慮したものであって,
引用例1に記載された発明に引用例2記載事項及び引用例3記載事項を組み合わせ
ることで当業者が容易に想到することができなかったものである。
(4)本件審決は,本件補正発明の有する次の作用効果を看過している。
すなわち,本件補正発明は,ファウンド側ペットデータベースに登録する動物を
特定の動物に限定することで,これを構築する側が動物の種類を特定できることと
して,照会システムや照会方法を適正かつ無理なく実現できることを可能にしてい
る。すなわち,このような限定をしないと,そこに登録される動物が膨大なものと
なるなどの可能性があり,ファウンド側ペットデータベースに登録・更新して活用
に供することが現実的に不可能となる。
次に,本件補正発明では,拾得物の届出をファウンド側ペットデータベースの構
築の条件としていない結果,新たな登録に要する時間を短縮できるという効果があ
る(ただし,本件補正発明は,「拾得物の届出」を排除するものではない。)。また,
引用発明における拾得物は,無生物であって届出後にその情報を変更又は削除する
必要がない一方,本件補正発明は,その対象を,自律的に場所を移動可能な動物と
していることから,そのファウンド側ペットデータベースの内容は,保護した側に
より最新の状態に更新されるべきものであり,そうであれば,飼い主が自分のペッ
トをファウンド側ペットデータベースで発見できれば,当該ペットが生きた状態で
特定の場所に保護されていることがある程度高い確率で保証されるという効果が生
じる。
さらに,本件補正発明は,引用発明とは異なり,インターネットを介してファウ
ンド側ペットデータベースを構築できるから,インターネットの技術を活用するこ
とで地域を問わずに安いコストで最新の情報に基づくデータベースの構築及びその
検索が可能となり,飼い主も気軽に検索が可能となるという効果がある。
(5)以上のとおり,本件審決は,本件補正発明と引用例1に記載された発明と
の相違点に係る容易想到性の判断を誤っており,取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
(1)引用発明は,紛失物の届出に伴う照会作業,他の機関への問い合わせの手
間及び紛失物の有無の確認漏れから紛失物が落とし主に渡らないなどの課題を解決
するため,センタのホストコンピュータに拾得物管理ファイル(共有ファイル)を
設け,各機関の端末から拾得物の登録及び紛失物の照会を可能とするもの,すなわ
ち,拾得物の情報をホストコンピュータで一元管理するものである(引用例1【0
003】【0004】【0007】)。
そして,引用発明と,引用例2記載事項及び引用例3記載事項とは,いずれも紛
失物の調査負担の軽減及び発見率の向上を図るという発明が解決しようとする課題
の点及び所有者不明の物の情報をコンピュータネットワーク上で一元管理して各所
から検索可能にするという課題を解決するための手段の点において,同じ技術的思
想のものといえる。また,引用例2及び3には保健所が記載されているところ,保
健所は,拾得された犬,猫,鳥等の引き取り手であり公的機関でもあるから,この
観点において引用例1の「駅や交番等の各機関」と同様のものである。そして,前
記のとおり,引用発明の拾得物は,迷い犬などの動物を排除していない。
したがって,当業者が引用発明のシステムと引用例2記載事項及び引用例3記載
事項とを組み合わせることには合理性がある。
なお,引用発明が取り扱うことができる拾得物は,複数種類であって,犬のみに
限定されるものではないから,上記各機関が情報管理する対象を犬のみに限定する
ことは,不自然であり,ペットとして飼われる可能性があり,情報管理(検索)に
よる効果が期待できる範囲内の動物を対象にすると考えるのが合理的である。
(2)引用例1には,拾得物について前記各機関が情報登録し,かつ,各家庭の
パーソナルコンピュータがインターネットを介して情報検索を行う構成が開示され
ており(【0017】),このようなことが技術的に不可能であるといった特段の事
情もない。
なお,引用発明のホストコンピュータは,インターネットを介して接続される端
末に対して閲覧及び検索機能のみを提供すれば足り,拾得物管理テーブルに対する
書込権限を付与する必要はなく,各機関の端末とホストコンピュータとの間をイン
トラネットとするか,インターネットを介して接続しても書込権限のチェックを行
うなどすることで,当該端末にのみ書き込み可能なアクセス権限を付与すればよい。
また,前記のとおり,データベース構築手段としてインターネットを使用する構
成及び届出に関する原告の主張は,いずれも本件補正発明の特許請求の範囲に基づ
かない主張である。
そして,本件明細書によれば,本件補正発明の効果は,いなくなったペットを,
インターネットを介して照会可能とすることによる効果であり,自治体職員等の人
を介したチェックあるいは届出の手続を不要にしてインターネットを介してファウ
ンド側ペットデータベースを構築可能とすることによる効果ではない。また,引用
発明は,照会の対象がペットとして特定されていないものの,拾得物を,インター
ネットを介して照会可能とすることによる効果を奏するものであるから,本件補正
発明の効果は,引用発明に引用例2記載事項及び引用例3記載事項を組み合わせた
ことにより当然期待される効果にすぎない。
(3)よって,本件審決の本件補正発明の容易想到性に係る判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(引用発明並びに一致点及び相違点の認定の誤り)について
(1)本件補正発明について
本件補正発明の特許請求の範囲は,前記第2の2(2)に記載のとおりであるが,
本件明細書には,本件補正発明について,おおむね次の記載がある。
ア本願に係る発明は,ペットを探す場合に好適な照会システム及び照会方法に
関する(【0001】)。
イインターネットの普及は,商品の販売やペットの検索等の手法に大きな変革
をもたらし,需要者は,インターネットを用いて販売しようとする物を簡単に検索
し,あるいはいなくなったペットを個人のホームページに掲示して,見かけた者の
連絡を期待することもできるようになっている(【0002】~【0004】)。し
かしながら,従来は,自分の探し求めている物又は者が具体的な対象として明確で
あっても,ホームページをわざわざ作ってこれにアップロードしたり,あるいは既
存の掲示板等に頻繁にアクセスして探し歩くしかなかった(【0005】)。本願に
係る発明の目的は,その特許請求の範囲に記載の構成を備えた発明により,集中的
に照会を行うことのできる照会システム及び照会方法を提供することにある(【0
006】【0007】【0017】)。
ウ図6については,迷子になったペットの照会を中心にして説明するが,そこ
に記載の各LFサーバは,動物や人物あるいは紛失した物別に区分けされている必
要はなく,照会の要望に応じて適宜統合が可能である(【0041】)。端末からペ
ットサーチ用の所定のホームページにアクセスした者のうち,ペットの犬をなくし
た者は,“LOST”に,犬を見つけたような者は,“FOUND”に,印(マー
ク)を付ける(【0043】)。表示画面には,複数のプルダウンメニューが配置さ
れており,その中から所望の項目を選択することができる。例えば,あるプルダウ
ンメニューを指定すると,「犬,ねこ,インコ,…」といった項目が表示されるの
で,その中から「犬」を選択し,次のプルダウンメニューを選択すると,「オス,
メス,不明」といった項目が表示されるので,これから1つを指定する(【004
5】)。所定の項目の入力が終了して登録ボタンを押すと,LFサーバの所定のLO
STデータベース又はFOUNDデータベースに登録がされる。このようにして,
ペットのいなくなった飼い主は,そのペットを特定する情報をLOSTデータベー
スに登録し,動物を見つけた者又は保護した者は,これをFOUNDデータベース
に登録することになる(【0047】)。登録が終了すると,LOSTデータベース
に登録がされた場合には同一の条件についてFOUNDデータベースの検索が実行
され,その逆にFOUNDデータベースに登録がされたときにはLOSTデータベ
ースの検索が実行される。そして,その結果が完全一致のものと部分一致のものに
ついて,それらの一致の確からしさがパーセント表示される(【0048】)。
エLFサーバを使用して商業的な経営を行う場合には,ペットの所有者が最終
的なペットの引渡しを受けるときに支払う報酬の一部を還元させるなどの条件を付
しておけば,このシステムが有効に機能することになる。また,LFサーバの所有
者が商業的にデータベースを管理することは,既に引渡しの行われたペットのデー
タを削除するなどしてデータの信頼性を確保する上で有効である(【0050】)。
オ本願に係る発明によれば自律的に場所を移動可能な動物をその保護した側の
情報を基にして,照会用サーバ上にファウンド側ペットデータベースの構築をする
ことにしているから,いなくなったペットに対する照会又は連絡を容易かつ少ない
費用で行うことが可能になる。しかも,通信端末を使用しインターネットを介して
ファウンド側ペットデータベースにアクセスするので,アクセスする地域を限定し
ない(【0051】)。
(2)引用例1に記載された発明について
引用例1は,「遺失物情報管理方法」という名称の発明に関する公開特許公報で
あるが,そこにはおおむね次の記載がある。
ア本発明は,遺失物情報の管理を統合的に行う遺失物情報管理方法に関し,特
に電車や駅構内又は町中などで物を紛失した場合,紛失物に関する各種の情報の管
理を広域的かつ統合的に行うことが可能な遺失物情報管理方法に関する(【000
1】)。
イ従来,駅や交番等の各機関に紛失物の届出があった場合,これらの各機関で
遺失物の情報を共有して保持していないため,各機関の間での電話等による問い合
わせに手間や時間がかかり,また,紛失物の特徴等が正確に伝わらない場合が多い
ために紛失物の確認漏れが生じて紛失物が落とし主に渡らないという問題があった
(【0003】)。そこで,本発明は,各機関に設置された端末から紛失物の属性情
報が入力されると,センタのホストコンピュータの拾得物管理ファイル(共有ファ
イル)に当該端末が設置された機関名と対応付けて格納されるため,紛失物の届出
があった機関を特定することができるというものであり(【請求項1】【0004】
【0007】),その際,キャッシュカードの使用を禁止する旨の情報が銀行に送信
されるようにしたり(【請求項2】【0005】【0008】),遺失物の画像情報を
遺失物管理ファイル(共有ファイル)に格納することもできる(【請求項3】【00
06】【0008】)。
ウ図1は,このシステムの一実施例を示す全体構成図であり,そこには,駅,
交番,銀行等の各機関に設置された端末が,ホストコンピュータに接続されている
ことが図示されている。ホストコンピュータは,拾得物(例えば黒い2つ折りのサ
イフ等)の届出があったときにその属性情報を格納しておく拾得物管理テーブル
(図2)を有するファイルが接続されており,当該テーブルには,拾得物の物品名,
届出日時,拾得場所,届出者,物品の色及び種類などの特徴並びに画像ファイル番
号が示される。また,ホストコンピュータには,紛失物の届出があったときにその
属性情報を格納しておく紛失届テーブル(図3)を有するファイルが接続されてお
り,当該テーブルには,紛失物名,紛失日時,紛失場所,落とし主名,紛失届出機
関名並びに紛失物の色及び形状その他の特徴が示される(【0009】~【001
1】)。
エ紛失届を派出所に対して行う落とし主が,当該派出所に設置された端末から
紛失物に関する属性情報を入力すると,当該属性情報に基づき,拾得物管理テーブ
ルの検索がされるが,その際,特定の属性を優先する,紛失物の特徴を示す情報が
所定数以上(例えば,2つ以上)一致したものを検索する,あるいは属性ごとに重
み付けをして加算した総合点の高い物から順に表示する,などの種々の方法が考え
られる。そして,拾得物管理テーブルから該当するものが検索されると,その拾得
物の属性情報及び拾得物として届出がされた機関名を,紛失届がされた派出所の端
末に表示するが,拾得物管理テーブルから該当するものが検索されなかった場合に
は,入力された紛失物に関する上記属性情報及び紛失届出機関名が紛失届テーブル
に格納され,以後,当該属性情報に基づいて定期的かつ循環的に拾得物管理テーブ
ルの検索を行う(【0012】【0013】)。
オこのシステムにおいて,例えば紛失物が落とし主に戻ったことを契機に拾得
物管理テーブル及び紛失届テーブルの該当するデータを消去すれば,テーブルを格
納するメモリを有効に使用することができる。なお,「インターネット等の広域ネ
ットワーク上で本発明を実現することにより,各家庭のパーソナルコンピュータか
らでも紛失物の検索を行うことが可能となるとともに,全世界的に遺失物情報の管
理を行うことも可能である。」(【0017】)
(3)以上の引用例1の記載によれば,引用例1に記載された発明は,紛失物の
届出に伴う照会作業の手間及び時間並びに確認漏れが生じて紛失物が落とし主に渡
らないという問題を解決するため,ホストコンピュータに拾得物管理ファイルを設
け,そこで拾得物等に関する情報を一元管理することで,駅等の各機関に設置され
た端末から拾得物の登録及び紛失物の検索を可能とするものであって,端末とホス
トコンピュータとをインターネットを介して接続することで,各家庭のパーソナル
コンピュータからでも紛失物の検索が可能となるものであるといえる。
したがって,引用例1に記載された発明を引用発明,すなわち,「拾得物の物品
名及び物品の色などの特徴等が各項目ごとに格納される拾得物管理テーブルを備え,
拾得物の届出があったときに入力される前記拾得物の物品名及び物品の色などの特
徴等を前記拾得物管理テーブルに格納し,紛失物及び紛失物の色などの特徴等を特
定して行う前記拾得物管理テーブルに対する検索を,インターネットを介して送信
されてきた検索要求に応じて実行し,その検索結果を前記検索要求を行った端末に
インターネットを介して送信するホストコンピュータと,前記ホストコンピュータ
にインターネットを介して接続され,紛失物名及び紛失物の色などの特徴等が入力
され,該紛失物名及び紛失物の色などの特徴等を用いて前記ホストコンピュータの
拾得物管理テーブルに対する検索を要求し,この検索要求に対する検索が行われた
際に前記ホストコンピュータからインターネットを介して送信される検索結果を受
信し,この検索結果を表示する端末,からなるシステム」と認定した本件審決に誤
りはない。
(4)以上に対して,原告は,本件補正発明の対象が引用発明の対象に包含され
ず,両者が対象を異にしているばかりか,引用発明が対象を特定するという技術的
思想を開示していないのに対して本件補正発明が当該技術的思想を開示しているの
に,本件審決がこれらの相違点を看過している旨を主張する。
しかしながら,本件出願当時の遺失物法12条,1条1項によれば,ペットとし
て飼われていた動物(家畜)を拾得した者は,その他の遺失物を拾得した場合と同
様,所有者等に返還し又は警察署長に差し出すこととされており,家畜とその他の
遺失物との間に区別が設けられていなかったことに加えて,引用例1は,拾得物管
理テーブルに記入される対象として黒い2つ折りのサイフ等を例示しているものの,
これは,あくまでも例示であることが明らかであり,家畜を含む動物を引用発明の
対象から除外しているとみるに足りる記載はない。したがって,引用発明が対象と
している「拾得物」は,本件補正発明が対象としている「所有者としての飼い主が
不明な状態で保護されペットとして飼われていた可能性のある自律的に場所を移動
可能な特定の動物」を含むものであるというべきである。
次に,本件補正発明の対象となる「所有者としての飼い主が不明な状態で保護さ
れペットとして飼われていた可能性のある自律的に場所を移動可能な特定の動物」
は,それ自体,極めて広汎な種類の動物を含み得るものであるから,本件補正発明
は,その対象を拾得物のうちの一部に限定しているからといって,ファウンド側ペ
ットデータベースの対象が膨大に拡大しないようにするために対象を特定するとい
う技術的思想を開示しているとは認められない。そればかりか,前記(1)ウに記載
のとおり,本件明細書は,サーバが動物や人物あるいは紛失物別に区分けされてい
る必要はない旨を記載しているのであって,本件補正発明が上記技術的思想を具体
的に開示しているとはいい難い。
以上によれば,相違点1として,データベースに格納される情報の対象について,
引用発明が「拾得物」であるのに対して本件補正発明が「所有者としての飼い主が
不明な状態で保護されペットとして飼われていた可能性のある自律的に場所を移動
可能な特定の動物」である点を認定する一方,一致点として,「所有者が不明な物
の特徴を予め定めた項目に分けて表したデータベースを,前記所有者が不明な物を
その管理する側の情報を基に構築するデータベース構築手段」である点を認定した
本件審決に誤りはなく,これに反する原告の上記主張は採用できない。
(5)原告は,引用発明のホストコンピュータが検索のためにインターネットで
端末と接続される装置である旨の開示や示唆がない旨を主張する。
しかしながら,引用例1には,前記(2)ウに記載のとおり,駅,交番及び銀行と
いう異なる機関に設置された端末がホストコンピュータに接続されている旨の説明
があるばかりか,前記(2)オに記載のとおり,引用発明をインターネットで実現す
ることが明記されている。したがって,本件補正発明との対比に当たって,引用発
明のホストコンピュータと端末とがインターネットにより接続されたものとして認
定することに何ら妨げはなく,これに反する原告の上記主張は採用できない。
(6)原告は,引用発明の端末が交番等の各機関に設置されており,引用例1に
はファイル変更を阻止する手段の開示がないから,引用発明が拾得物の当該各機関
に対する届出を必須の前提条件としており,各家庭から行えるのは検索に限られ,
データベースの構築ができない一方,本件補正発明では届出を経ずにデータベース
を順次構築することができるから,本件審決が相違点を看過している旨を主張する。
しかしながら,上記のとおり,引用発明のホストコンピュータと端末とは,イン
ターネットにより接続されていると認めることができることに加えて,引用例1は,
前記(2)エ及びオに記載のとおり,紛失物の落とし主自身が紛失物に関する属性情
報を端末から入力する旨及び各家庭からホストコンピュータに対して検索を要求で
きる旨を明記しているから,引用発明の端末は,駅などの各機関に設置されるもの
に限定されると解すべき根拠がない。また,ファイル変更等を阻止する手段を付加
するか否かは,引用発明の実施に当たって,拾得物管理テーブル及び紛失届テーブ
ルの一方又は双方について追加情報の書込みを許容するか否かに応じて決めれば足
りる設計的事項であるにすぎないから,引用例1にこの点の記載がないからといっ
て,引用発明が当該各機関に対する届出を必須の前提条件としていると認めるには
足りない。
他方,本件明細書には,前記(1)ウに記載のとおり,そこに記載の発明には動物
を見つけた者がファウンド側ペットデータベースを,ペットの所有者がロスト側ペ
ットデータベースを,それぞれ構築した上で,これらのデータベースが相互に検索
を実行する旨の記載がある。しかしながら,本件補正発明の特許請求の範囲の記載
における「通信端末」は,インターネットを介して「照会用サーバ」に接続されて
いるものの,「通信端末」から飼い主により入力された,いなくなったペットに関
する情報は,「ファウンド側ペットデータベース」に対する検索のために使用され
るにとどまり,当該情報に基づくデータベースが構築される旨の記載が見当たらな
い。また,上記特許請求の範囲の記載では,「ファウンド側ペットデータベース」
を構築する「ファウンド側ペットデータベース構築手段」がいかなるものであるか
についても特定がされていないから,本件補正発明の特許請求の範囲の記載によれ
ば,本件補正発明は,例えば届出に基づいてファウンド側ペットデータベースが構
築される場合も包含しているというほかなく,仮に引用発明が上記各機関に対する
届出を必須の前提条件としているとしても,この点において本件補正発明と引用発
明との間に相違点は存在しない。
したがって,本件補正発明によりデータベースを順次構築することが可能である
との原告の主張は,特許請求の範囲に基づかないものであって,根拠を欠くものと
いうほかなく,相違点の看過に関する原告の上記主張は,いずれも採用できない。
(7)以上のとおり,本件審決による引用発明の認定に誤りはなく,本件補正発
明と引用発明との一致点及び相違点の認定にも誤りは認められないほか,相違点の
看過も認められないというべきである。
2取消事由2(本件補正発明の容易想到性に係る判断の誤り)について
(1)引用発明と引用例2記載事項及び引用例3記載事項との組合せについて
ア前記1(3)に記載のとおり,引用発明は,紛失物の届出に伴う照会作業の手
間及び時間並びに確認漏れが生じて紛失物が落とし主に渡らないという問題を解決
するため,ホストコンピュータに拾得物管理ファイルを設け,そこで拾得物等に関
する情報を一元管理することで,駅等の各機関に設置された端末から拾得物の登録
及び紛失物の検索を可能とするものであって,端末とホストコンピュータとをイン
ターネットを介して接続することで,各家庭のパーソナルコンピュータからでも紛
失物の検索が可能となるものである。
イ引用例2は,「迷い犬情報一元化傷ついた鳥に里親府民の寄付で愛護事
業大阪府」と題する新聞記事であって,そこには,前記第2の3(3)アに記載の
引用例2記載事項が記載されている。
また,引用例3は,「迷い犬オンライン検索大阪府来月6日から保健所と結
び写真など照合動物好き故人の寄付活用」と題する新聞記事であって,そこには,
前記第2の3(3)イに記載の引用例3記載事項が記載されている。
ウ前記1(4)に認定のとおり,引用例1は,引用発明が対象としている「拾得
物」から家畜を含む動物を除外しているとみるに足りる記載はないから,引用発明
と引用例2記載事項及び引用例3記載事項とでは,解決すべき課題及び当業者に重
複があるものといえる。
また,引用例2記載事項及び引用例3記載事項は,いずれも,迷い犬を探しやす
くするため,1個のコンピュータ(ホストコンピュータ)に捕獲犬に関する属性情
報等を登録して一元管理し,捕獲犬が集まる犬管理指導所及び保健所に設置された
端末と当該コンピュータを接続することで当該情報を共有するもので,特に引用例
3記載事項は,迷い犬の飼い主の届出を受けて犬の特徴や写真という属性情報を入
力することで犬を検索するというものであるから,引用発明と課題解決の手段に関
する技術的思想を共通にしている。
したがって,引用例1及び2に接した当業者は,引用発明が対象とする拾得物の
一部であって,引用例2記載事項が対象とする捕獲犬及び迷い犬を包含する,「所
有者としての飼い主が不明な状態で保護されペットとして飼われていた可能性のあ
る自律的に場所を移動可能な特定の動物」について,その保護した側の情報を基に
データベースを構築すること(本件補正発明の相違点1に係る構成)を容易に想到
することができたものというべきである。
また,引用例1及び3に接した当業者は,引用発明が対象とする拾得物の一部で
あって,引用例3記載事項が対象とする迷い犬を包含する,「所有者としての飼い
主が不明な状態で保護されペットとして飼われていた可能性のある自律的に場所を
移動可能な特定の動物」の検索について,当該動物の種類や特徴という属性情報を
端末に入力することで検索を要求する構成(本件補正発明の相違点2ないし4に係
る構成)を容易に想到することができたものというべきである。
よって,引用例1ないし3に接した当業者は,引用発明に基づき,引用例2記載
事項及び引用例3記載事項を組み合わせることで,本件補正発明を容易に想到する
ことができたものというべきであり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(2)原告の主張について
ア以上に対して,原告は,引用例2及び3が迷い犬のみを対象としており,本
件補正発明とは対象が異なり,引用発明と引用例2とでは技術的思想が異なる旨を
主張する。
しかしながら,引用発明が対象としている「拾得物」は,前記1(4)に記載のと
おり,本件補正発明が対象としている「所有者としての飼い主が不明な状態で保護
されペットとして飼われていた可能性のある自律的に場所を移動可能な特定の動
物」を含むものであり,かつ,迷い犬が本件補正発明が対象とする当該動物に含ま
れることは,明らかであるばかりか,引用発明と引用例2とでは,前記(1)ウに記
載のとおり,技術的思想を共通にしている。
したがって,原告の上記主張は,いずれも採用できない。
イ原告は,引用例2記載事項及び引用例3記載事項が迷い犬のリサーチシステ
ムであって,これをサーチシステムという語句に取り違えた本件審決の判断が論拠
を欠く旨を主張する。
しかしながら,リサーチシステムとサーチシステムとでは,照会システムという
点で共通するばかりか,引用例2及び3の記載に照らすとき,両者の間に意味の上
で相違があるとは認められない。
よって,原告の上記主張は,採用できない。
ウ原告は,引用例2及び3の各記載事項がインターネットに接続されていない
こと,引用発明並びに引用例2記載事項及び引用例3記載事項では,届出又は自治
体職員によるチェックが必須となるのに本件補正発明では対象を特定することで届
出等が不要となっていること,引用発明が本件補正発明の対象となる動物の特殊事
情を考慮していないことを主張する。
しかしながら,引用発明は,前記1(5)に記載のとおり,インターネットに接続
されているから,引用例2記載事項及び引用例3記載事項がインターネットに接続
されていないとしても,このことは,本件補正発明の容易想到性の判断を左右する
ものではない。
また,引用発明は,前記1(6)に記載のとおり,届出を必須の前提条件としてい
ると認めるには足りず,また,本件補正発明も,前記1(4)に記載のとおり,対象
を特定するという特有の技術的思想を開示するものではない。
さらに,引用発明の拾得物は,前記1(4)に記載のとおり,本件補正発明が対象
とする動物を含むものと認められ,原告の主張する動物の特殊事情の考慮なるもの
についても,引用発明の実施に当たって,拾得物管理テーブル及び紛失届テーブル
の一方又は双方について追加情報の書込みを許容する設計とすれば足りるものであ
って,実質的な相違点となるものではない。
したがって,本件補正発明の容易想到性に関する原告の上記主張は,いずれも採
用できない。
エ原告は,本件補正発明には,①ファウンド側ペットデータベースに登録され
る動物が膨大なものとならないこと,②届出を必要としないことで登録に要する時
間を短縮でき,動物をより高い確率で発見できること,③インターネットの技術を
活用できること,という作用効果がある旨を主張する。
しかしながら,上記①についてみると,前記1(4)に記載のとおり,本件補正発
明の対象は,極めて広汎な種類の動物を含み得るものであり,データベースの対象
が膨大に拡大しないようにする技術的思想を開示しているとは認められないから,
本件補正発明の構成によって,ファウンド側ペットデータベースに登録される動物
が膨大にならないとはいえない。
上記②及び③についてみると,前記1(5)及び(6)に記載のとおり,引用発明は,
届出を必須の前提条件としていると認めるには足りず,また,端末とホストコンピ
ュータとをインターネットを介して接続するものと認められるから,原告の上記主
張は,いずれも前提を欠くものである。
よって,本件補正発明の作用効果に関する原告の上記主張は,いずれも採用でき
ない。
(3)小括
以上のとおり,当業者は,引用発明に基づき,引用例2記載事項及び引用例3記
載事項を組み合わせることで,本件補正発明を容易に想到することができたものと
認められ,また,本願発明は,本件補正発明よりも広汎な動物をその対象とするも
のであるから,当業者は,やはり引用発明に基づき,引用例2記載事項及び引用例
3記載事項を組み合わせることで,本願発明を容易に想到することができたものと
認められる。
よって,これと同旨の本件審決に誤りはない。
3結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官井上泰人
裁判官荒井章光

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