弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 被告が、原告に対する公正取引委員会平成11年(判)第1号不当景品類
及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)違反事件につき、平成13年
9月12日付けでした審決(以下「本件審決」という。)を取り消す。
(2) 訴訟費用は、被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨。
第2 本件審決の事実認定及び法令の適用
1 原告は、平成11年3月1日、横浜地方裁判所の決定に基づき、株式会社カン
キョー(以下「カンキョー」という。)について会社更生手続が開始されたことに
伴い、同社の管財人に選任された者である。カンキョーは、家庭用空気清浄機(以
下「空気清浄機」という。)等の製造販売等を営む者であり、会社更生手続開始後
においても同様である。
2 カンキョーが製造販売している「クリアベールCR」、「クリアベールR
E」、「クリアベールCA」、「クリアベール3」、「クリアベールKT」及び
「クリアベールCX」と称する空気清浄機(以下「本件空気清浄機」という。)
は、マイナスイオンを放出して空気中の粉塵をマイナスに荷電し、クーロン力を利
用して空気清浄機本体に備えたプラスの電極に集めるという集塵方式の空気清浄機
であり、イオン式又は電子式空気清浄機(以下「イオン式空気清浄機」という。)
と呼ばれている。これに対して、空気清浄機に備えたファンによって強制的に室内
の空気をフィルターなどに通して空気中の粉塵を集めるという集塵方式の空気清浄
機は、フィルター式又はファン式空気清浄機(以下「フィルター式空気清浄機」と
いう。)と呼ばれている。
3(1) カンキョーは、
① 「クリアベールCR」、「クリアベールRE」、「クリアベールCA」及び
「クリアベール3」と称する空気清浄機の販売を行うため、平成10年2月から同
年4月までの間に店頭配布用のパンフレット(本件審決が引用する審決案(以下
「本件審決案」という。)別添写し1及び2。以下「本件広告1」及び「本件広告
2」という。)を約2万部配布し、
② 「クリアベールKT」と称する空気清浄機の販売を行うため、平成10年1月
から同年10月までの間に店頭配布用のパンフレット(本件審決案別添写し3。以
下「本件広告3」という。)を約5万部配布し、
③ 「クリアベールCX」と称する空気清浄機の販売を行うため、平成10年1月
30日付け毎日新聞に広告(本件審決案別添写し4。以下「本件広告4」とい
う。)を掲載することにより、
一般消費者に広告した。
(2) そして、カンキョーは、
① 「クリアベールCR」、「クリアベールRE」、「クリアベールCA」及び
「クリアベール3」と称する空気清浄機について、本件広告1及び2に、「クリア
ベールは電子の力で花粉を強力に捕集するだけでなく、ダニの死骸・カビの胞子・
ウイルスなどにも有効な頼もしい味方です。」、「有害微粒子を集塵」、「フィル
ター式では集塵が難しい微細なウイルスやバクテリア、カビの胞子、ダニの死骸の
砕片までもホコリと一緒に捕集します。」、「●適用範囲/最大14畳まで」等
と、
② 「クリアベールKT」と称する空気清浄機について、本件広告3に、「一見、
きれいそうな室内の空気。でも実際は、アレルギーを引き起こすと言われるダニや
カビ、ウイルス、バクテリアなどがうようよ。このような目に見えない有害物質を
確実に集塵するのが、クリアベールです。」、「有害微粒子を集塵」、「フィルタ
ー式では集塵が難しい微細なウイルスやバクテリア、カビの胞子、ダニの死骸の砕
片までもホコリと一緒に捕集します。」、「驚異の集塵力」、「適用範囲 最大1
4畳まで」等と、
③ 「クリアベールCX」と称する空気清浄機について、本件広告4に、「クリア
ベールの集塵紙上でウイルスの捕集を確認。」、「ハウスダストもウイルスも捕れ
る。」と強調して表示した上で、「目に見えるタバコの煙をファンで取り除くのと
は違う次元で、目に見えないアレルゲンやサブミクロン・サイズのウイルスまでも
取り除くことが実証されています。」、「◎最大14畳まで(目安)」等と、
それぞれ記載した。
4 カンキョーは、本件広告1ないし4(以下、併せて「本件広告」という。)に
おいて、上記3の各記載をすることにより、広告された本件空気清浄機は、あたか
も、①他のフィルター式空気清浄機よりも集塵能力が高く、また、②室内の空気中
のウイルスを実用的な意味で有効に捕集する能力を有しているかのような表示をし
ているが、実際には、そのような性能を有するものではない。したがって、本件広
告は、本件空気清浄機の性能について、カンキョーと競争関係にある他の事業者に
係るもの及び実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるもので
ある。
5 以上によれば、カンキョーは、本件空気清浄機の性能について、実際のもの及
びカンキョーと競争関係にある他の事業者に係るものよりも著しく優良であると一
般消費者に誤認されるため、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれが
あると認められる表示をしていたものであって、かかる行為は、景品表示法4条1
号の規定に違反するものである。よって、被告は、原告に対し、私的独占の禁止及
び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)54条2項並びに景品
表示法7条1項及び2項の規定に基づき、審決により排除措置を命じる。
第3 原告の主張
1 本件審決は、本件広告が、本件空気清浄機はあたかも①他のフィルター式空気
清浄機よりも集塵能力が高く、また、②室内の空気中のウイルスを実用的な意味で
有効に捕集する能力を有するかのような表示をしている、とするが、これは、本件
広告の意味を誤ってとらえるものである。
 すなわち、本件広告は、本件空気清浄機が電子の力を基にして「有害微粒子を集
塵」、「脱臭効果」、「マイナスイオン供給」及び「無騒音・無風設計」という4
大特長を有していることを明らかにし、一般消費者の商品選択の重要な事項である
基本的性能を正しく表示するものである。本件空気清浄機は、従来のフィルター式
空気清浄機とは異なり、周辺の空気をマイナスイオン化して清浄な空気環境を維持
することを特徴としており、無騒音かつ無風に近い状態で長時間稼働することが可
能であり、かつ、フィルター式空気清浄機では捕集することが難しい微細な浮遊粒
子を捕集することができる性能を有している。本件広告は、このようなフィルター
式空気清浄機に比した本件空気清浄機の特質・優位性を訴えており、その次元にお
いて本件空気清浄機が他のフィルター式空気清浄機よりも集塵能力が高いことを表
示したものである。本件空気清浄機がフィルター式空気清浄機よりも即効性がある
などとは何も言及していない。空気清浄機の集塵能力を評価する場合は、即効性の
みでなく、集塵可能な粒径の範囲や、集塵に伴う弊害の排除、付随効果などを総合
して、その優劣を判断すべきものである。現在、他社は、集塵方式についてフィル
ター式(又はファン式)とイオン式(又は類似方式)の両方式を一台の中に取り入
れた空気清浄機を発売し、イオン式で稼働させる場合には、無風・無騒音で長時間
使用が可能であり、フィルター式では取れない細菌やウイルスの捕集ができること
を謳った広告を行っているが、このことは、空気清浄機の集塵能力の評価に当た
り、無風・無騒音、長時間使用等の要素を考慮すべきことを物語るものである。本
件審決は、吸引力及び即効性という指標のみで集塵能力をとらえた上、本件広告は
本件空気清浄機が他のフィルター式空気清浄機よりも集塵能力が高いと表示するも
のであるとするが、本件広告はそのような趣旨のものではない。
 また、ウイルスに関しても、本件広告は、微細なものの代表としてウイルスを挙
げ、本件空気清浄機がウイルスを捕集することができるという事実を表示するもの
にすぎない。ウイルスに起因する風邪などの疾病防止になると誤解されるおそれの
ある表現を慎重に避け、ウイルスを捕集するという事実のみを表示したものであ
る。
2 本件審決が引用する本件審決案の「第3 審判官の判断」のうち、次に掲げる
①ないし⑨の認定判断は、実質的証拠を欠き、合理性のないものであり、この点か
らして「本件広告は、あたかも、①他のフィルター式空気清浄機よりも集塵能力が
高く、また、②室内の空気中のウイルスを実用的な意味で有効に捕集する能力を有
しているかのような表示をしているが、実際には、そのような性能を有するもので
はない。」との本件審決の認定判断は根拠を欠くものである。
① 「「無騒音」、「無風」などは、本件審判で審理の対象とされている本件空気
清浄機の集塵能力とは直接には関係がない事柄である。」(本件審決案11頁ない
し12頁。以下「①認定」という。)
② 「一般的に空気清浄機には即効性が求められており、発塵が起こったときに自
然減衰よりもいかに短時間に対応できるかが空気清浄機の重要な性能であるとされ
ている」(本件審決案12頁。以下「②認定」という。)
③ 「その実験結果については、研究者の評価を得たもの(a報告書)、あるい
は、その当時、学会等の専門的な研究会に報告されたもの(b教授及びc教授の実
験結果)であって、その実験結果にも客観性があるものである。」(本件審決案2
2頁。以下「③認定」という。)
④ 「被審人の援用に係る医療機関の使用実績については、これは、本件空気清浄
機がフィルター式空気清浄機よりも集塵能力が高いことを示すものではない」(本
件審決案23頁。以下「④認定」という。)
⑤ 「実験実施者であるa教授がカンキョーあるいは本件空気清浄機を含むイオン
式空気清浄機に対してどのような考えを持っていたにせよ、そのことをもって、そ
の実験者が行った実験内容や実験結果の妥当性を直ちに左右するものということは
できないし(なお、被審人は、そのような実験者が実験を行ったことにより、その
実験自体にどのような欠陥ないし不当な結果が生じたのかを具体的に指摘するもの
ではない。)、本件証拠を検討しても、a教授が、実験実施者として不適当である
とか、そのために実験結果の妥当性を欠く事情が存したと認めるに足りない。」
(本件審決案25頁。以下「⑤認定」という。)
⑥ 「実験環境がそのようなものであることが、直ちにフィルター式空気清浄機に
有利に作用したとは認めるに足りない」、「このような現象が生じたことをもっ
て、実験内容が不合理なものであると直ちにいうことはできないし、そのような現
象を解明しなかったことをもって、ウイルスの捕集能力に係る実験結果そのものの
信頼性を左右するものであるとまでは認めるに足りない。」(本件審決案26頁。
以下「⑥認定」という。)
⑦ 「空気清浄機による粉塵の除去能力を確認するための実験において、このよう
な方法により大量の粉塵を発生させたことをもって不合理であるとすべき根拠は見
当たらない。」(本件審決案27頁。以下「⑦認定」という。)
⑧ 「実際には、本件空気清浄機は、様々な粒径(0.3ミクロンないし5ミクロ
ン)の粉塵について、フィルター式空気清浄機よりも集塵能力が低いものであり、
かつ、空気中のウイルスを有効に捕集する能力を有しないものであり、本件広告
は、根拠がなく、事実に反するものと認められる。」(本件審決案29頁。以下
「⑧認定」という。)
⑨ 「被審人がカンキョーと同様又はより問題の多い表示であると主張する広告の
表示は、いずれもフィルター式空気清浄機についてのものであり、これらの表示が
本件広告と同種同様の表示であると認めることはできない。」(本件審決案34
頁。以下「⑨認定」という。)
3 本件審決は主に北里大学医療衛生学部教授a(以下「a教授」という。)の実
験結果(査第9ないし第11号証)等に依拠しているが、a教授の実験は、アクリ
ル樹脂の壁面に囲まれた1立方メートルの空間中の実験であり、実験環境が実際の
使用環境と異なる上、狭い空間でファンにより大きな風量を発生させているなど、
フィルター式空気清浄機に有利に働く環境での実験である。本件空気清浄機は、長
時間マイナスイオンを放出させることにより、有害微粒子等を捕集するという設計
思想に基づくもので、そのような特性を有するものであるから、日常の使用空間に
おいて比較的長時間稼働させることによりはじめてフィルター式空気清浄機との優
劣が判断される。原告は、そのことを強調し、a教授の実験結果等は実験内容・実
験方法等において不当であるとの観点から、本件審判において、平成11年8月1
0日付けで本件空気清浄機の性能に関する鑑定の申出(以下「本件鑑定の申出」と
いう。)をしたところ、審判官は、平成12年7月17日、本件鑑定の申出を却下
した。本件鑑定の申出の却下は、公平の理念に反し、適正手続を保障した憲法31
条の規定に違反する。
4 本件審決は、景品表示法4条1号の「著しく」の解釈適用を誤るものである。
 本件広告がなされたころ、他社の空気清浄機の広告には、例えば、「従来のフィ
ルター式清浄機と異なり99パーセント以上の驚異的集塵力を発揮。ウイルスまで
も集塵して除菌」等の広告が存在しており(本件審決案7頁)、また現今では、マ
イナスイオンの放出効果を強調しつつ「フィルター式では取れない細菌やウイルス
なども逃しません。」と表示した広告(東芝)、「こんなものを除去します」とし
て「ハウスダスト・ペットの毛、フケ、ダニのフン・死骸、花粉、カビ胞子・カビ
臭、ウイルス・雑菌、タバコのニオイ・煙、排ガス(NOX)・粉塵」と表示した
広告(東芝)、「東芝独自のパワフルなクーロンULPAなら空気中の汚れを吸い
寄せ、0.15マイクロメートルの微細粒子を99.9995%除去。それよりも
小さな0.006マイクロメートルのウイルスなみの微細粒子も99.9999%
とさらに高い捕集率を発揮します」と表示した広告(東芝)、「空気中に浮遊して
いるウイルスは風邪など病気の原因になります。」、「花粉・タバコはもちろん、
ダニやウイルスもしっかりキャッチ」と表示した広告(松下電工)、「お部屋の空
気中を浮遊するウイルスや雑菌をすばやく取り囲みます」、「ウイルス、カビなど
雑菌類の繁殖を抑制」と表示した広告(シャープ)、「チリやホコリ、ウイルスも
強力に除去」と表示した広告(象印)等々が存在することは公知の事実である。こ
れらの各表示と比較対照してみても、本件広告の表示は社会通念上許される程度内
のものであり、景品表示法4条1号所定の「著しく」の要件に該当しない。
 また、景品表示法4条1号の「競争関係にある他の事業者に係るものよりも著し
く優良であると一般消費者に誤認される・・・表示」に該当するというためには、
「競争関係にある他の事業者」が行う表示よりも「著しく」誤認される表示でなけ
ればならないが、本件広告はこれに当たらない。
5 被告は、景品表示法6条1項の規定に基づき、平成11年1月26日、カンキ
ョー保全管理人に対し、本件空気清浄機につき、排除命令(平成11年(排)第1
号。以下「本件排除命令」という。)を行った。そして、被告は、同日、カンキョ
ー保全管理人に対し、カンキョーが製造販売する空気清浄機につき、警告(平成1
1年公取監第5号。以下「本件警告」という。)を行い、本件排除命令と一括して
同時にこれを公表した。本件警告は、カンキョーが製造販売している空気清浄機の
「脱臭能力」及び「花粉症を軽減する効果」につき、「実際には、かかる能力(効
果)を有しているとする根拠は認められない」と断定している。本件警告が指摘す
る上記能力(効果)は、本件空気清浄機の基本的性能ないし設計思想と密接不可分
のものであり、本件空気清浄機の消費者層にも、上記能力(効果)に注目して本件
空気清浄機を購入する向きが圧倒的に多い。したがって、本件警告は、重大かつ深
刻な不利益を課する処分であり、行政指導の域を超えて実質的に同法6条1項の排
除命令に該当する。そこで、原告は、同法8条1項の規定に基づき、同年3月4
日、被告に対し、本件排除命令と本件警告とを一体のものとして両者について審判
手続の開始を請求したところ、被告は、本件警告については審判開始の決定をせず
に、同年4月14日、同法8条2項の規定に基づき、本件排除命令についてのみ審
判開始決定をした上、平成13年9月12日、本件審決を行った。しかし、本件警
告と本件排除命令の双方について審判するのでなければ、実体に迫り公正を確保す
ることができない。本件審決は、景品表示法8条1項の規定の解釈適用を誤るもの
である。
6 本件審決は、行政手続法12条ないし14条の規定の解釈適用を誤るものであ
る。
 本件排除命令及び本件警告並びにその公表は、カンキョーに対して、消費者離れ
と売上減少をもたらすなど、致命的な打撃を与えるもので、不利益な行政処分に当
たる。したがって、行政手続法12条ないし14条の規定に従い、適正な基準ない
し手続に従って行われるべきであった。
 すなわち、被告は、本件排除命令及び本件警告を行うに当たっては、行政手続法
12条の規定に基づき、「不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分と
するかについて」、できる限り具体的な処分基準「を定め、かつ、これを公にして
おくよう努めなければならない」が、これを全く遵守していない。
 また、被告は、行政手続法13条1項の規定に反し、本件排除命令及び本件警告
の公表につき、カンキョーに対して聴聞ないし弁明の機会を与えていない。
 さらに、被告は、行政手続法14条1項の規定に反し、本件排除命令及び本件警
告をするについて、証拠資料に基づいた理由を示していない。
 したがって、本件排除命令を肯認した本件審決も、行政手続法12条ないし14
条の規定に違反するものというべきである。
第4 被告の認否と主張
1 原告の主張第3の1について
 原告の主張は争う。本件広告は、本件空気清浄機について、微細な浮遊物を集塵
できることを強調しながらも、一般的に集塵能力がフィルター式空気清浄機よりも
優れており、また、室内の空気中のウイルスを実用的な意味で有効に捕集する能
力、すなわちウイルス感染の防止に効果があるなどの実用的な能力があるという印
象ないし期待を一般消費者に与えるものである。したがって、本件広告は、本件空
気清浄機がフィルター式空気清浄機よりも集塵能力が高く、また、室内の空気中の
ウイルスを実用的な意味で有効に捕集する能力を有していることを表示するもので
ある。本件審決において認定した不当な表示とは、空気清浄機の空気中の集塵能力
及びウイルスの捕集能力に係る表示であり、脱臭効果、マイナスイオン供給及び無
騒音・無風設計は、集塵能力やウイルス捕集能力とは直接には関係のない事柄であ
る。
2 原告の主張第3の2について
(1) 本件審決が引用する本件審決案に、①ないし⑨認定の認定判断があること
は認めるが、それが実質的証拠を欠き、合理性のないものであるとの主張は争う。
(2)ア ①認定について
 本件審決が認定した不当な表示は、本件空気清浄機の集塵能力及び空気中のウイ
ルスの捕集能力に係る表示である。「無騒音、無風など」が集塵能力やウイルス捕
集能力とは直接には関係のない事柄であることは明白である。
イ ②認定について
 空気清浄機に即効性が求められることは、査第40号証及び審第3号証から認定
できる。カンキョー自身も、本件広告4において、「クリアベールを運転した場
合、0.006~0.015ミクロンの粒子はすべて2分後に99%以上減衰。ク
リアベールが停止している場合(自然減衰)は10分後でも粒子が計測されまし
た。」と記載し、その他、本件広告と時期を前後して行った広告において「国立公
衆衛生院において0.3~5ミクロンの粒子が、クリアベール運転後わずか60分
で1/50に激減したことが実証されました。」と記載する(査第2及び第3号
証)など、即効性を強調していた。
ウ ③認定について
 本件審決は、本件広告が根拠があるものかどうかを判断する際に、審査官提出に
係る実験結果を客観的なものであるとして採用したが、a教授の実験結果が元国立
予防衛生研究所(現国立感染症研究所)所長のd博士や元国立予防衛生研究所のウ
イルス学の研究者であるe博士といった研究者の評価を得ていたことは、査第1
2、第13及び第40号証から、信州大学教育学部教授b(以下「b教授」とい
う。)の実験結果が、平成8年4月18日の第14回空気清浄機とコンタミネーシ
ョンコントロール研究大会において発表され、その内容が「室内型空気清浄機の性
能比較(その1)ファン式とイオン式について」と題する論文として発表されたこ
とは、査第14及び第16号証から、東京理科大学工学部建築学科教授c(以下
「c教授」という。)が国立公衆衛生院建築衛生学部長に就任していた昭和62年
当時、室内環境における空気清浄機の浄化性能を実験的に検討し、その結果を昭和
63年10月に開催された日本建築学会で発表したことは、査第17及び第18号
証から、それぞれ認められる。したがって、a教授、b教授及びc教授の各実験結
果が、研究者の評価を得たもの、あるいは、その当時、学会等の専門的な研究会に
報告されたものであって、その実験結果にも客観性があるとの認定には実質的証拠
がある。
エ ④認定について
 本件空気清浄機の医療機関における使用実績が、本件空気清浄機の方がフィルタ
ー式空気清浄機よりも集塵能力が高いことを示すものであることを認めるべき証拠
はない。
オ ⑤認定について
 a教授の実験結果が、上記のとおり、客観的に評価されている以上、a教授のカ
ンキョーあるいは本件空気清浄機に対する考え方がどのようなものであるかによっ
てその評価が変わるものではなく、また、a教授が実験実施者として不適当である
とか、そのために実験結果の妥当性を欠く事情が存したと認めるべき証拠はない。
カ ⑥認定について
 a教授の採用した実験環境がフィルター式空気清浄機に有利に作用したと認める
に足りないことは、査第11及び第40号証により明らかである。また、a教授の
実験において解明できない現象が生じたとしても、b教授の実験(査第14号証)
や東京工業大学の研究者らによる実験(査第41号証の2)の際にも同様の現象が
見られたということからすれば、このような現象が生じたこと及びその現象解明を
行わなかったことをもって、実験内容及び結果の合理性を損なうものということは
できない。
キ ⑦認定について
 b教授の実験が、試験室内で布団をたたいたりするなどして発塵した環境の下で
の実験であっても、このような実験方法が不合理であるということを示す証拠はな
い。
ク ⑧認定について
 上記のような評価を得た各実験結果によって、イオン式空気清浄機である本件空
気清浄機が、フィルター式空気清浄機よりも、様々な粒径(0.3ミクロンないし
5ミクロン)の粉塵について、集塵能力が低いものであり、また、空気中のウイル
スを実用的な意味で有効に捕集する能力を有するものではないことが認められると
した本件審決の事実認定は、十分な証拠を備え、合理性があるといえる。
ケ ⑨認定について
 ⑨認定についても、実質的証拠がある。原告は、他社の空気清浄機の広告につい
て問題とするが、被告の排除命令が平等原則に違背する違法なものとなるのは、同
種同様の不当表示をした事業者が複数ある場合に、排除命令を受けた事業者以外の
不当表示をした事業者に対しては排除命令をする意思がなく、排除命令を受けた事
業者に対してのみ、差別的意図をもって当該排除命令をしたような場合に限られる
ところ、被告は、イオン式空気清浄機についてカンキョーと同様の広告を行ってい
たティアック株式会社に対しても本件排除命令と同様に排除命令を出した(査第3
8号証)のであるから、被告がカンキョーのみに対して差別的意図をもって排除命
令をしたと認めることはできない。
3 原告の主張第3の3について
(1) 本件審判において審判官が本件鑑定の申出を却下したことは認めるが、そ
れが違憲であるという主張は争う。
(2) 審判官は、審判の進行状況その他を勘案してその合理的な裁量により取り
調べる必要がないと判断した証拠についてはその申出を却下することができる。審
判官は、本件鑑定の申出につき、平成11年8月27日の第3回審判期日ないし平
成12年2月9日の第6回審判期日において、双方から実験結果などに関する証拠
の提出を求め、これにより鑑定の必要性について検討した上、同年7月17日の第
9回審判期日において、既に双方から本件空気清浄機の性能、効果に関する実験結
果等の書証が多数提出されていること、本件空気清浄機の考案者である参考人fの
審訊を行ったこと、原告としては、既にしかるべき実験結果があればこれを提出す
るなり、自ら研究機関に依頼するなどの立証手段を有していることからすれば、更
に鑑定を行う必要がないとして、本件鑑定の申出を却下したものであり、この判断
には合理的理由がある。
 また、本件鑑定の申出を採用しなくても、本件空気清浄機の性能について認定判
断できることは、既に述べたところから明らかである。更に敷衍すると、一般に、
事業者が広告により商品の性能・効果を標ぼうする場合には、事業者において、そ
の根拠となる実験、データ等を有していることが期待され、特に、その商品が一般
消費者になじみが薄く、また、標ぼうする内容において新しい型であること、新し
い性能・効果であることなどを強調する場合には、根拠となる実験結果やデータ等
を有していることが不可欠のこととして期待されているといえる。そして、審査官
において当該広告が不当表示であることを立証するためには、当該商品が標ぼうさ
れている性能・効果を有していないことの根拠となる実験の方法やその結果に客観
性や合理性が必要であるが、基本的には、被審人の有する根拠となる実験・データ
との比較において、実験方法や実験結果に客観性や合理性が確保されていれば足り
るものであって、それ以上に、例えば、実際に使用する環境と実験環境とが完全に
一致しているという条件を満たさなければ、その実験結果を根拠に不当表示と認定
できないというものではない。
4 原告の主張第3の4について
(1) 本件審決案に記載された他社の広告が存在することは認め、それ以外の他
社の広告の存在は知らず、その主張は争う。
(2) 景品表示法4条1号の「著しく」とは、当該商品の品質等が実際のもの又
は競争事業者のものよりも優良であると一般消費者に誤認される程度が軽微ではな
いとの趣旨であり、社会通念上許される程度の誇張や消費者の商品選択に与える影
響が軽微なものは「著しく」の要件には当たらないが、その限度を超えるものは不
当表示に当たる。そして、社会的に許容される程度を超えるか否かについては、商
品の性質、一般消費者の知識水準、取引の実態、表示の内容・方法などを勘案して
判断すべきところ、本件広告は、イオン式という、これまでの空気清浄機とは異な
る、新しい集塵方法による空気清浄機という一般消費者にとってなじみの薄い商品
につき、パンフレットや新聞広告をもって、広く一般消費者に対し、従来のフィル
ター式空気清浄機よりも一般的に集塵能力が優れていること、ウイルスまでも実用
的な意味で有効に捕集できることを表示して、一般消費者が空気清浄機を選択する
に当たっての商品選択の重要な事項である基本的な性能において優れていることを
強調するものであるにもかかわらず、実際には、本件空気清浄機は、集塵能力にお
いて、フィルター式空気清浄機よりも劣るものであり、また、ウイルスを捕集する
能力についても、実用的な意味を有していないのである。そうすると、本件広告
は、一般消費者に与える誤認の程度が大きいものというべきであるから、「著し
く」の要件に該当し、不当表示となる。
 また、原告は、カンキョーと競争関係にある他社の空気清浄機の広告における表
示との比較において、「著しく」の要件該当性を判断すべきであると主張するが、
独自の見解というべきである。
5 原告の主張第3の5について
(1) 被告が、平成11年1月26日、本件排除命令及び、これに併せて、本件
警告を行ったこと、原告が、同年3月4日、本件排除命令と本件警告の両者につい
て審判開始請求を行ったこと、被告が、同年4月14日、本件排除命令に係る行為
についてのみ審判開始決定を行った上、本件審決に至ったこと、本件警告に原告主
張の記載があることは認めるが、その主張は争う。
(2) 審判手続における審判の対象は排除命令に係る事実に限られ、本件審判手
続の対象も、本件排除命令に係る事実に限られる。本件警告に係る事実は、本件排
除命令に係る事実とは同一性がなく、それとは区別されたものであるから、本件審
判手続の対象となるものではない。したがって、本件審判が、本件警告に係る事実
について審判しなかったからといって、違法となるものではない。
6 原告の主張第3の6について
 本件警告は、本件審判の対象外であるから、本件警告に係る原告の主張は失当で
ある。
 また、景品表示法8条1項が、排除命令に不服がある者は、公正取引委員会に対
し、当該排除命令に係る行為について、審判手続の開始を請求することができると
規定していることから明らかなとおり、審判手続の開始の請求は、当該排除命令に
係る行為自体についてするものであり、この請求によって開始される審判手続にお
ける審判の対象も上記行為の存否等であって、当該排除命令の当否ではないから、
排除命令及びこれに先立つ手続の瑕疵の存否につき、審判手続における審判の対象
とすべき余地がない。したがって、本件排除命令に係る原告の主張も失当である。
 なお、念のため、本件排除命令に係る手続に違法な点がないことについて述べ
る。
 景品表示法は、その規制対象である不当な表示等が、複雑多様であって絶えず変
化する企業活動にかかわるものである上、不当表示等の行為が波及性と高進性を有
するものであることから、公正取引委員会に対して、不当表示等の行為が認められ
る場合に、当該行為の実態に即して、機動的かつ迅速に規制権限を行使できるよう
に、排除命令をすることについても、またいかなる内容の措置を命じるかについて
も、広範な裁量権を付与しているものであるところ、同法は、公正取引委員会が、
上記規制権限を行使するに当たって、裁量基準をあらかじめ定立し、これを規制対
象事業者に周知させることを求める規定を置いていないのであるから、公正取引委
員会は、不当表示行為等について、裁量基準をあらかじめ定めることなく規制権限
を行使することができる。行政手続法12条に処分基準を設定する旨の努力規定が
あるとしても、公正取引委員会は、上記の性格を有する不当表示等を機動的かつ迅
速に規制するという法目的の実現を図るため、不当表示等の類型、内容、広がり等
の実態を勘案して、裁量基準を定め、周知し、これに基づき規制を行うか、又は、
個別の事案ごとに規制していくかを決定することができるのであって、必ずしも裁
量基準を定めなければならないものではない。
 次に、排除命令については、これを行政手続法13条1項2号に該当する処分と
位置付け、弁明の機会の付与の手続を執ることとされている(不当景品類及び不当
表示防止法に規定する公正競争規約の認定の取消しに係る聴聞及び排除命令に係る
弁明の機会の付与に関する規則5条)上、排除命令につき、審判手続開始請求をす
れば、準司法的手続による審判が行われ、審決がされることにより排除命令は失効
することが制度的に保障されている(景品表示法8条及び9条2項)。そして、実
際に、被告は、本件排除命令に先立ち、カンキョーに対して弁明の機会を与え、カ
ンキョー保全管理人が平成10年12月9日付けの書面(査第39号証)を提出し
た。したがって、本件排除命令につき、聴聞ないし弁明の機会を付与していないと
の原告の主張は、失当である。
 また、行政手続法14条1項の規定に基づく理由付記の程度としては、一般に、
いかなる事実関係に基づき、いかなる法規を適用して処分がなされたかを明らかに
するものでなければならないところ、本件排除命令では、審判開始決定書記載の事
実及び法令の適用と同程度の理由が記載されていたのであるから、本件排除命令の
理由付記に瑕疵があるということはできない。
       理   由
第1 原告の主張第3の1について
1 本件審決は、まず、「本件広告は、本件空気清浄機が他のフィルター式空気清
浄機よりも集塵能力が高いと表示するものである。」とする。
 空気清浄機は、空気中のほこりやにおいなどの汚れを自然減衰以上の速さで取り
除き、空気を清潔な状態にすることを機能とする機器であるから(査第40号証及
び審第3号証)、どれだけの時間でどれだけの種類及び量の粉塵等を捕集すること
ができるかという意味の集塵能力は、空気清浄機の基本的性能であって、一般消費
者が商品選択の上で最も重視するものということができる。本件審決が本件広告に
ついて問題とする「集塵能力」も、このような一般的な意味の集塵能力である。
 本件広告は、本件空気清浄機が「ファンレス/電子式空気清浄機」であること及
びその適用範囲が「最大14畳まで」であることを記載した上、その性能につき、
「有害微粒子を集塵」(本件広告1ないし3)、「フィルター式では集塵が難しい
微細なウイルスやバクテリア、カビの胞子、ダニの死骸の砕片までもホコリと一緒
に捕集します。」(本件広告1ないし3)、「フィルターを素通りしてしまった小
さなホコリをまき散らしたり、排気風で部屋のホコリをかき立てる、といった心配
も無用です。」(本件広告1ないし3)、「このような目に見えない有害物質を確
実に集塵するのが、クリアベールです。タバコの煙や花粉対策にもパワーを発揮」
(本件広告3)、一般のフィルター式空気清浄機の集塵範囲が0.1ミクロンない
し40ミクロンであるのに比してクリアベールの集塵範囲は0.005ミクロンな
いし40ミクロンとかなり広範囲である旨(本件広告3)、「驚異の集塵力」(本
件広告3)、「ハウスダストもウイルスも捕れる。」(本件広告4)、「目に見え
るタバコの煙をファンで取り除くのとは違う次元で、目に見えないアレルゲンやサ
ブミクロン・サイズのウイルスまでも取り除くことが実証されています。」(本件
広告4)、「クリアベールを運転した場合、0.006~0.015ミクロンの粒
子は、すべて2分後に99%以上減衰。クリアベールが停止している場合(自然減
衰)は10分後でも粒子が計測されました。」(本件広告4)等と記載している。
 上記の記載からすれば、本件広告は、本件空気清浄機は14畳までの室内の空気
中に現に存する様々な種類・粒径の浮遊物を確実に集塵できるものであり、上記室
内の浮遊物一般の集塵において、本件空気清浄機の集塵能力がフィルター式空気清
浄機のそれよりも優れているという印象ないし期待を一般消費者に与えるものとい
うことができる。
 本件広告は、確かに、「サブミクロン級の微細な微粒子もしっかり集塵する」
(本件広告1ないし3)、「サブミクロン粒子の捕集を確認」(本件広告4)等と
記載し、微細な浮遊物を捕集できることを強調してはいるが、上記の記載からすれ
ば、単に微細な浮遊物の捕集において性能が優れているというにとどまらず、健康
に有害なホコリ、タバコの煙、花粉を含め、室内の空気中に存する浮遊物一般を集
塵する能力がフィルター式空気清浄機よりも優れているという印象・期待を与える
ものである。
 また、本件広告は、「モーター/ファンを使わない無騒音・無風設計ですから、
モーター/ファン式空気清浄機のように音や風に悩まされることはありません。」
(本件広告1ないし3)、「24時間・安眠・快適性能」(本件広告4)等と記載
し、無騒音・無風設計を強調しているが、無騒音、無風という限定された条件の下
における他の空気清浄機との集塵能力の比較を述べて本件空気清浄機の優位性を強
調したものではなく、また、無騒音・無風という特徴を加味すれば集塵能力が優れ
ているといえるという趣旨のものでもなく、そのような特徴ないし使用方法・時間
とは別に、空気清浄機の一般的な使用状況の下で本件空気清浄機の集塵能力がフィ
ルター式空気清浄機のそれよりも優れているという印象・期待を与えるものであ
る。
 本件広告は、微細な浮遊粒子の捕集能力、無騒音・無風設計等の本件空気清浄機
の特質・優位性を表示しているが、そういう点を総合した性能がフィルター式空気
清浄機より優良であるというにとどまらず、集塵能力自体において本件空気清浄機
がより有効に機能するという印象・期待を与えるものである。
 したがって、本件広告は本件空気清浄機が他のフィルター式空気清浄機よりも集
塵能力が高いと表示しているという本件審決の認定判断は正当であり、この点の違
法をいう原告の主張は採用できない。
2 次に、本件審決は、「本件広告は、本件空気清浄機が室内の空気中のウイルス
を実用的な意味で有効に捕集する能力を有していると表示するものである。」とす
る。
 本件広告は、「クリアベールは電子の力で花粉を強力に捕集するだけでなく、ダ
ニの死骸・カビの胞子・ウイルスなどにも有効な頼もしい味方です。」(本件広告
1及び2)、「わたしの健康は、ナゼカ空気から始まるのダ。一見、きれいそうな
室内の空気。でも実際は、アレルギーを引き起こすと言われるダニやカビ、ウイル
ス、バクテリアなどがうようよ。このような目に見えない有害物質を確実に集塵す
るのが、クリアベールです。」(本件広告3)、「目に見えるタバコの煙をファン
で取り除くのとは違う次元で、目に見えないアレルゲンやサブミクロン・サイズの
ウイルスまでも取り除くことが実証されています。」(本件広告4)と記載してお
り、一般消費者に対し、本件空気清浄機の性能につき、単にウイルスを捕集するこ
とができるというにとどまらず、ウイルス感染の防止に効果があるなどの実用的な
意味でウイルスを有効に捕集する能力があるという印象ないし期待を与えるものと
いうことができる。
 したがって、本件広告は本件空気清浄機が室内の空気中のウイルスを実用的な意
味で有効に捕集する能力を有していることを表示しているという本件審決の認定判
断は正当であり、この点の違法をいう原告の主張も採用できない。
第2 原告の主張第3の2について
1 ①認定について
 本件審決は、上記のとおり、本件空気清浄機の品質のうち、集塵能力及びウイル
ス捕集能力に係る性能を一般消費者の誤認の対象ととらえ、この点に関する誤認を
解くための措置を講じるよう命じているものである。「無騒音」、「無風」など
は、本件審決が対象とする集塵能力及びウイルス捕集能力という性能とは関係がな
いから、①認定は正当な判断であるというべきである。
 「無騒音」、「無風」が、本件空気清浄機の特長の一つであり、一般消費者の商
品選択上の一要素であるとしても、上記のような意味の集塵能力、ウイルス捕集能
力も、それ自体で一般消費者の商品選択の重要要素をなすものであり、集塵能力等
について一般消費者の誤認を招けば、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害する
おそれがあるというべきであるから、集塵能力等に関する表示は、それ自体で景品
表示法4条1号の規定による規制対象となるというべきである。
2 ②認定について
 ②認定は、本件審決の引用する証拠(審第3号証並びに査第2,第3及び第40
号証。特に、国民生活センターの商品テストと暮らしの情報誌である審第3号証の
「速効性については、一般家庭の平均的な居室の気密性を考えると、少なくとも3
0分くらいでじんあい(塵埃)等の除去性能が期待できなければ実用性がないと考
えられます。」との記載及びb教授(平成11年4月からは国立公衆衛生院建築衛
生学部特別研究員)の供述調書である査第40号証の「一旦発塵した粒子が1時間
や2時間で浄化できなければ、長い時間の間には次々に起きる発塵に対応できず、
また、外気が汚れている場合、換気による汚染の侵入があるため、十分な浄化は期
待できないと思います。一般的に最近の気密なアルミサッシを用いた住宅における
部屋では1時間に部屋の容積の半分くらいの空気が入れ替わるといわれていま
す。」という記述。)から合理的なものということができる。
3 ③認定について
 a教授の平成10年3月31日付け試験報告書は、本件空気清浄機の一つである
クリアベールREを含むイオン式空気清浄機は、細菌とウイルスの除去能力におい
て、フィルター式空気清浄機よりも著しく劣り、また、ウイルスの捕捉能及び除去
能が極めて低いかほとんど証明できない程度であって、人間が感染する可能性を減
らすことができるほどの意味のある量を捕集することができず、さらに、粒径別に
みても、すべての粒径(0.3ミクロン、0.5ミクロン、1ミクロン、2ミクロ
ン、5ミクロン)について、フィルター式空気清浄機よりも除去の能力が著しく低
いというものである(査第9ないし第11号証)。この試験報告書は、元国立予防
衛生研究所(現国立感染症研究所)所長d博士(査第12号証)、元国立予防衛生
研究所のウイルス学研究者e(査第13号証)及びb教授(査第40号証)によ
り、妥当なものとして評価されている。
 b教授の平成7年8月下旬から同年10月下旬にかけての実験結果は、粒径0.
3ミクロンないし5ミクロンのたばこの煙、粉塵、細菌、真菌及びダニアレルゲン
の除去能力において、本件空気清浄機の一つであるクリアベール3を含むイオン式
空気清浄機はフィルター式空気清浄機よりも大幅に劣るというものである(査第1
4ないし第16及び第40号証)。この実験結果は、平成8年4月18日の第14
回空気清浄とコンタミネーションコントロール研究大会において発表され、その内
容が「室内型空気清浄機の性能比較(その1)ファン式とイオン式について」と題
する論文として公表された(査第14及び第16号証。なお、本論文については、
査第32号証で補足説明及び一部修正が施されているが、これにより本論文の結論
が変更されたり影響を受けるものではない。)。カンキョーの技術課長のgも、被
告の係官から上記論文を示されたが、これに対して何ら反論を加えていない(査第
26号証)。
 c教授が国立公衆衛生院建築衛生学部長当時の昭和62年に、室内環境における
空気清浄機の浄化能力を実験的に検討した結果は、カンキョーが製造販売するイオ
ン式空気清浄機クリアベール(以下「クリアベール」という。)は、粒径0.3ミ
クロンないし2ミクロンの浮遊粉塵について、フィルター式空気清浄機よりも浄化
能力が極めて低いというものである(査第第17、第18及び第42号証)。この
実験結果は、「空気清浄装置の粉塵捕集率と室内空気の浄化性能」という論文にま
とめられ、昭和63年10月開催の日本建築学会において発表された(査第17及
び第18号証)。上記のgも、被告の係官から上記論文を示されたが、これに対し
て何ら反論を加えていない(査第26号証)。
 したがって、上記の各実験結果は客観性を有するものということができ、③認定
は、本件審決が引用する上記証拠から合理的なものということができる。
4 ④認定について
 本件審判において被審人側が提出した医療機関における使用実績のうち、上天草
総合病院の使用実績は、気管支喘息で入院していた児童の一部の試験外泊に際し
て、自宅にクリアベールを設置したところ、空気中の浮遊塵量が有意に減少し、児
童の気管支喘息の発作点数、治療点数ともに有意に減少したというものである(審
第18号証)が、本件空気清浄機がフィルター式空気清浄機よりも集塵能力が高い
ことを示すものとはいえない。同じく神奈川県立こども医療センターの使用実績
は、同病院アレルギー科に通院中の気管支喘息患者26名について、うち使用群1
3名の自宅にクリアベールを設置し、対照群13名にはこれを設置せず、その臨床
的効果を比較検討したところ、「その結果は、設置前に比べて設置後はピークフロ
ー値が低下する頻度が有意に下がった。喘息発作、鼻炎症状に改善傾向を認めた
が、統計的には有意とはいえなかった。本調査の対象は、症状と治療内容からみる
と中等症から重症であり、濃厚な治療をすでに受けて症状がコントロールされてお
り、このような症例では、環境整備のみで臨床症状をさらに改善させるのはかなり
困難であろう。」というものである(審第19号証)が、本件空気清浄機がフィル
ター式空気清浄機よりも集塵能力が高いことを示すものとはいえない。同じく大阪
医科大学の使用実績は、患者のいる病室(個室)4室について、夏期と冬期に各2
室各3日間、クリアベールを設置して、その能力を検討したところ、クリアベール
の集塵紙には使用前にはなかった菌が多く認められ、室内落下菌数が有意に減少し
たというものである(審第20号証)が、これについて、上記dは、細菌数の減少
の程度が低く、また、3日間という長期にわたる試験結果なので、この減少がクリ
アベールによる吸着によるものか、それ以外の細菌に対する不活性化原因によるも
のか判断できないとし(査第12号証)、上記eは、再現性の実験を経なければク
リアベールの有用性についての一般的な結論を導くには無理があるとの批判を加え
ている(査13号証)。いずれにしても、大阪医科大学の使用実績は、本件空気清
浄機がフィルター式空気清浄機よりも集塵能力が高いことを示すものとはいえな
い。同じく福岡大学病院の使用実績は、患者のいる個室内にクリアベールを7日間
設置し、また、MRSA排出患者の個室にクリアベールを4日間設置し、落下菌数
の変動を調べたところ、浮遊菌数・浮遊MRSAが有意に減少することが確認され
たというものである(審第21号証)が、これについて、上記dは、7日間という
長期にわたる実験なので、菌数の減少が何によるものなのかが明らかでなく、ま
た、MRSAの検出菌数そのものの量が少ないので、信頼性が低いとし(査第12
号証)、上記eは、再現性の実験を経なければ、クリアベールの有用性について一
般的な結論を導くことはできず、また、クリアベールを運転した状態と運転しない
状態で、集塵紙に細菌が付着しているかどうかを確認する対照実験が行われていな
い点も問題であるとの批判を加えている(査第13号証)。いずれにしても、福岡
大学病院の使用実績は、本件空気清浄機がフィルター式空気清浄機よりも集塵能力
が高いことを示すものとはいえない。
 その他、本件審判において取り調べた全証拠を検討しても、本件空気清浄機の医
療機関における使用実績が、本件空気清浄機の方がフィルター式空気清浄機よりも
集塵能力が高いことを示すものであると認めるべき証拠は見あたらないから、④認
定は合理的である。
5 ⑤認定について
 本件審判において取り調べた全証拠を検討しても、a教授が実験実施者として不
適当であるとか、そのために実験結果の妥当性を欠く事情が存したと認めるべき証
拠は見あたらないから、⑤認定は合理的である。
6 ⑥認定について
 a教授の上記試験報告書に係る実験の環境がアクリル製の1立方メートルの空間
であったことがフィルター式空気清浄機に有利に作用したとは認めるに足りないと
の認定は、a教授の供述調書である査第11号証の「フィルター式の空気清浄機の
場合には、狭い空間内で最大性能の運転を行ったため、かえって吸い込んだ空気が
フィルターを通らず横から漏れるような状態になり、ウイルスの捕捉能力が低く計
測されたと考えられる」及び「空間に浮遊している物質を直接物理的な力で引き寄
せているわけではなく、粒径の大きい物質を引き寄せることが難しいと思われるイ
オン式の空気清浄機にとっては、試験を行った空間が狭く、捕集する物質の粒径が
小さいために有利な値が出るものであり」との記述、並びにb教授の供述調書であ
る査第40号証の「試験室が1辺1メートルの立方体であることは、イオン放出の
範囲から考えて、イオン式空気清浄機にとっては、実際の20~30立方メートル
の室で使用する場合に比較して、高い効力が示されることが考えられます。実験室
の壁面への付着については、これまでの知見から申しますと、ファン式の空気清浄
機により室内気流が生じた場合、室内の表面に粒子が衝突して付着する現象が考え
られます。気流、粒子、壁面等の性状によっては表面付着現象により数時間の間に
最大20パーセントくらい濃度減少を示す場合があります。しかし、ファン・フィ
ルタ式によるa教授の15分という短時間での試験結果に影響を与えるとは考えら
れません。」との記述から合理的なものということができる。
 また、a教授の上記試験報告書には、本件空気清浄機の一つであるクリアベール
REを作動させると2ミクロンと5ミクロンの粒子数が急激に増加するという不思
議な動態を示した、との記載があるが、同様の現象は、b教授の上記実験(査第1
4号証)や東京工業大学の研究者らによる実験(査第41号証の2)の際にもみら
れたことからすると、このような現象が生じたことのみをもって、上記試験報告書
に係る実験内容が不合理なものと直ちにいうことはできないし、そのような現象を
解明しなかったことをもってウイルスの捕集能力に係る実験結果の信頼性を左右す
るものとまではいえないと考えられる。
 したがって、⑥認定は合理的なものということができる。
7 ⑦認定について
 b教授の上記実験が、試験室内で布団をたたくなどして発塵した環境の下での実
験であっても、このような方法により大量の粉塵を発生させたことをもって不合理
とする根拠は、本件審判において取り調べた全証拠を検討しても見あたらない。
 したがって、⑦認定は合理的なものということができる。
8 ⑧認定について
(1) 以上の1ないし7で摘示した証拠及びそれに基づく認定判断からすると、
本件空気清浄機が、様々な粒径(0.3ミクロンないし5ミクロン)の粉塵につい
て、フィルター式空気清浄機よりも集塵能力が低いものであり、かつ、空気中のウ
イルスを有効に捕集する能力を有しないものということができる。
(2) これに対し、カンキョーが審査手続で提出し、あるいは原告が審判手続で
直接提出した実験結果等をみると、次のとおりである。
ア アメリカ合衆国に所在する測定や調査を業とするハウザー・ケミカル・リサー
チ・インコーポレイテッドは、同国に所在するカンキョーの代理店クリアベール・
コーポレーションからのクリアベールの性能に関する調査依頼に基づき、平成4年
11月18日付けのテスト・リポートを作成した(査第21及び第22号証)。同
テスト・リポートは、クリアベールとHEPAフィルターを使用したフィルター式
空気清浄機を、実験室内で、それぞれ168時間稼働させた後、クリアベールの集
塵紙とHEPAフィルターの各0.1ミリメートル四方に付着した微粒子の数を計
測したところ、0.3ミクロン以下の微粒子については、クリアベールの集塵紙に
は135個付着していたが、HEPAフィルターには5個付着していたのみであ
る、ただし、この168時間稼働後の5個という相対的に少ない数値は統計的に意
味のある評価を可能にするものではない、としている。このテスト・リポートは、
0.1ミリメートル四方に付着した微粒子の数を比較したものであって、各集塵紙
全体としての集塵能力を比較するものではなく、上記の数値も必ずしも統計的に有
意なものではない。
イ 東京工業大学生命理工学部助教授hは、カンキョーから、クリアベールがウイ
ルスを捕集するか否かの確認を依頼され、平成9年10月7日付けの試験研究報告
書を作成した(査第3、第23ないし第26号証)。同報告書は、91リットルの
アクリルの箱内に、インフルエンザウイルスを入れた溶液を10分間噴霧しなが
ら、本件空気清浄機の一つであるクリアベール3を稼働させ、又は稼働させない状
態で置いたところ、稼働させたクリアベール3の集塵紙からは噴霧した量の38パ
ーセントに当たるインフルエンザウイルスの遺伝子が検出されたが、稼働させなか
ったクリアベール3の集塵紙からはインフルエンザウイルスが検出されなかったと
している。この実験結果について、h助教授自身も、クリアベール3が定性的な意
味においてウイルスを捕集することを確認したものにすぎず、実用的な意味でウイ
ルスを捕集する能力を有するかどうかはわからない、と述べている(査第25号
証)。同実験について、上記dは、空気清浄機を稼働させながら新たなウイルスを
実験環境に入れていることから、もともと存在していたウイルスをどの程度捕集で
きるかを示すものではなく、また、噴霧されたウイルスは不活化されており、これ
を捕集しても、どのような意味を持つか不明であると述べている(査第12号
証)。同じく、上記eは、ウイルスを散布しながらクリアベールを稼働させること
になれば、フィルター式空気清浄機と同じように実験空間に空気の動きが生じるこ
とになり、この実験によっては、ファンを有しないクリアベールのウイルス捕集能
力を評価できないと述べている(査第13号証)。
ウ 金沢大学工学部物質化学工学科微粒子プロセス研究室i助手は、平成9年にカ
ンキョーからの依頼に基づき、クリアベールがナノメートルサイズの粒子を捕集す
ることができるかどうかを確認する実験を行い、研究報告書を作成した(査第2
2、第27号証)。同報告書は、112リットルのアクリル製の容器に、6ナノメ
ートルないし15ナノメートルサイズの粒子を充満させ、本件空気清浄機の一つで
あるクリアベール3を10分間稼働させ、又は稼働させない状態で置いたところ、
クリアベール3を稼働させることにより、自然減衰に比べて明らかに高効率で粒子
を捕集することができた、同様の実験を2ナノメートル及び5ナノメートルの粒子
を用いて実施したところ、定性的に捕集できることが示された、というものであ
る。ただし、ウイルスは通常20ナノメートルから260ナノメートル程度の大き
さであるとされているので、同実験結果からは、クリアベール3がウイルスを捕集
することができるという結論にはならない(査第22号証)。
エ カンキョーは、0.3ミクロンないし5ミクロンの粒子について、クリアベー
ルの集塵能力を確認するための試験を行い、平成11年2月10日付けで報告書を
作成した(審第8号証)。同報告書は、3.9立方メートルの研究用チャンバー内
で、大気塵につき、自然減衰8時間後に、本件空気清浄機の一つであるクリアベー
ル3を8時間稼働させたところ、5ミクロンの粒子は約100分の1ないし100
0分の1と最大の減少を示し、0.3ミクロンの粒子は約4分の1と最小の減少を
示した、とする。
(3) 上記(2)に掲げた実験結果等は、他の研究者から積極的な評価を受けた
り、学会等で発表されたものではなく、その客観性は明らかでないが、いずれにし
ても、本件空気清浄機がフィルター式空気清浄機よりも集塵能力が高く、また、本
件空気清浄機が室内の空気中のウイルスを実用的な意味で有効に捕集する能力があ
ることを示すものではなく、上記(1)の認定を覆すものではない。その他、本件
空気清浄機の考案者であるfの審訊の結果など本件審判に現れた証拠を検討して
も、本件広告が、根拠がなく、事実に反するとする⑧認定は、合理的であるという
ことができ、実質的証拠に欠けるところがない。
9 ⑨認定について
 本件審判において被審人がカンキョーと同様又はより問題の多い表示であると主
張した広告の表示は、いずれも本件空気清浄機とは集塵方式を異にする空気清浄機
についてのものである(審第22ないし第32及び第48号証)から、その表示が
本件広告の表示と同種同様のものとはいうことができず、⑨認定は合理的であると
いうべきである。
 そして、被告は、イオン式空気清浄機についてカンキョーと同様の広告を行って
いたティアック株式会社に対しても、平成11年1月26日付け排除命令で、本件
審決と同旨の排除措置を命じており(査第38号証)、本件審決がカンキョーに対
する差別的意図に基づくものということもできない。
10 まとめ
 以上のように、①ないし⑨認定は、合理的で正当なものであり、本件空気清浄機
が、フィルター式空気清浄機よりも集塵能力が劣り、また、室内の空気中のウイル
スを実用的な意味で有効に捕集する能力を有するものではない、との本件審決の認
定は、実質的証拠を備えた合理的なものというべきであるから、この点の違法をい
う原告の主張は採用できない。
第3 原告の主張第3の3について
 本件審判において、審判官が平成12年7月17日の第9回審判期日において本
件鑑定の申出を却下したことは、当事者間に争いがない。
 審判官は、平成11年8月27日の第3回審判期日及び平成12年2月9日の第
6回審判期日において、原告及び審査官に鑑定についての意見を求めるとともに、
双方から実験結果などに関する証拠の提出を求め、第9回審判期日において、双方
から本件空気清浄機の性能、効果に関する実験結果等の書証が多数提出されている
こと、本件空気清浄機の考案者である参考人fの審訊を行ったこと、審判官が再三
指摘してきたように、原告としては、既に実験結果があればこれを提出するなり、
自ら研究機関に依頼するなどの立証手段を有していることからすれば、更に鑑定を
行う必要がないとして、本件鑑定の申出を却下した(上記審判期日調書)。
 独禁法の規定に基づく審判において、被審人は、公正取引委員会に対し、証拠調
の請求の一環として、鑑定人に鑑定を命じることを求めることができる(同法52
条1項)。公正取引委員会は、証拠調の請求があったときは、その採否を決定しな
ければならず(平成13年公正取引委員会規則8号による改正前の公正取引委員会
の審査及び審判に関する規則50条)、被審人等から申出のあった証拠を採用しな
いときは、その理由を示さなければならない(独禁法52条の2)ところ、正当な
理由があれば、被審人の証拠調の請求を採用しないことができることはいうまでも
ない。このことは、独禁法81条1項1号が、「公正取引委員会が、正当な理由が
なくて、当該証拠を採用しなかった場合」に、公正取引委員会の審決の取消請求訴
訟において、当事者は、裁判所に対し、当該証拠を、公正取引委員会が認定した事
実に関する新しい証拠として申し出ることができると規定していることからも、明
らかである。そして、当事者双方の提出に係る証拠から一定の認定ができ、被審人
の申出に係る証拠を採用してもその認定が覆らないと認められる場合には、当該証
拠を取り調べる必要性がなく、公正取引委員会において当該証拠の申出を採用しな
い正当な理由があるものというべきである。なお、本件鑑定の申出の却下は、独禁
法51条の2の規定に基づき公正取引委員会から審判手続の一部を委任された審判
官が、上記の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則27条1項の規定に基づ
き行ったものであるが、審判官による審判においても、上記の理は変わらない。
 本件審決が正当であるというためには、「カンキョーは、本件広告において、本
件空気清浄機は、あたかも、他のフィルター式空気清浄機よりも集塵能力が高く、
また、室内の空気中のウイルスを実用的な意味で有効に捕集する能力を有している
かのような表示をしているが、実際には、そのような性能を有するものではな
い。」という認定事実を立証する実質的な証拠がなければならないが、この点が肯
定できることは、上記第2で説明したとおりである。一般に、事業者が広告により
商品の性能・効果を標ぼうする場合には、事業者においてその根拠となる実験結果
等を有していることが期待され、事業者は審判に際し自己に最も有利な実験結果等
を提出するものと考えられるところ、本件審判においては、カンキョーが審査手続
で提出し、あるいは原告が審判手続で直接提出した実験結果等が証拠として取り調
べられ、更に本件空気清浄機の考案者であるfの審訊も行われているが、それによ
っても上記認定が覆らないことは、上記第2の8(3)で説明したとおりである。
したがって、審判官において、本件鑑定の申出を採用しても、上記認定を覆すべき
結果が出るとは考えられないとして、これを却下したことは合理的な判断というべ
きである。そうすると、審判官が本件鑑定の申出を却下したことは、正当な理由が
あり、この点の違法・違憲をいう原告の主張は理由がないといわざるを得ない。
第4 原告の主張第3の4について
1 およそ広告であって自己の商品等について大なり小なり賛辞を語らないものは
ほとんどなく、広告にある程度の誇張・誇大が含まれることはやむを得ないと社会
一般に受け止められていて、一般消費者の側も商品選択の上でそのことを考慮に入
れているが、その誇張・誇大の程度が一般に許容されている限度を超え、一般消費
者に誤認を与える程度に至ると、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそ
れが生ずる。そこで、景品表示法4条1号は、「著しく優良であると一般消費者に
誤認されるため、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認め
られる表示」を禁止したもので、ここにいう「著しく」とは、誇張・誇大の程度が
社会一般に許容されている程度を超えていることを指しているものであり、誇張・
誇大が社会一般に許容される程度を超えるものであるかどうかは、当該表示を誤認
して顧客が誘引されるかどうかで判断され、その誤認がなければ顧客が誘引される
ことは通常ないであろうと認められる程度に達する誇大表示であれば「著しく優良
であると一般消費者に誤認される」表示に当たると解される。
 そして、当該表示を誤認して顧客が誘引されるかどうかは、商品の性質、一般消
費者の知識水準、取引の実態、表示の方法、表示の対象となる内容などにより判断
される。
2 これを本件についてみるに、本件広告は、従来のファン、フィルターを用いる
方式の空気清浄機とは異なる集塵方式を用いたイオン式空気清浄機という、一般消
費者には比較的なじみの薄い新しい方式の空気清浄機について、パンフレット及び
新聞広告を用いて、広く一般消費者に対し、空気清浄機の基本的性能であり商品選
択上の重要要素というべき集塵能力を訴えるものである。そして、本件広告の表示
は、本件空気清浄機がフィルター式空気清浄機よりも集塵能力が高く、室内の空気
中のウイルスを実用的な意味で有効に捕集する能力があると一般消費者に誤認され
る表示であり、一般消費者において、本件空気清浄機が、集塵能力においてフィル
ター式空気清浄機よりも劣るものであり、また、ウイルスを捕集する能力において
も実用的な意味を有していないものであることを知っていれば、通常は本件空気清
浄機の取引に誘引されることはないであろうと認められるから、本件広告の表示は
「著しく優良であると一般消費者に誤認される」表示に当たるというべきである。
3 原告は、カンキョーと競争関係にある他の事業者が空気清浄機について行って
いる広告の表示と比較対照してみれば、本件広告の表示は社会通念上許される程度
内のものというべきであり、景品表示法4条1号の「著しく」の要件に該当しな
い、と主張する。
 競争他社がどのような表示を行っているかは、当該商品をめぐる市場状況の一端
として、当該表示を誤認して顧客が誘引されるかどうかを判断する際の一つの事情
になり得る場合があるにしても、本件においては、競争他社が原告の指摘するよう
な表示をしていたという市場状況にあったことを考慮に入れたとしてもなお、一般
消費者は本件広告の表示により本件空気清浄機の性能を誤認することがなければ、
通常は本件空気清浄機の取引に誘引されることはないであろうと考えられるのであ
り、本件広告の表示が「著しく優良であると一般消費者に誤認される」表示に当た
るとの本件審決の認定判断を不合理なものとすることはできない。
4 また、原告は、景品表示法4条1号所定の表示に該当するというためには、
「競争関係にある他の事業者」が行う表示よりも「著しく」誤認される表示でなけ
ればならない、と主張する。
 しかし、景品表示法4条1号の「著しく」は、一般消費者が当該事業者の表示か
ら受ける印象・期待感と、当該商品又は「競争関係にある他の事業者に係る」商品
の実際の状態との較差に関するものであり、各表示間の較差又は各表示から一般消
費者が受ける印象・期待感の較差に関するものではないから、原告の主張は採用す
ることができない。
第5 原告の主張第3の5について
 景品表示法6条の規定に基づく排除命令は、官報による告示があった日から30
日以内に、当該命令に係る行為について審判手続の開始請求がなければ確定し、独
禁法26条及び90条3号の規定の適用については確定した審決とみなされる(景
品表示法9条1項)。すなわち、排除命令が確定すると、排除命令を受けた者は、
排除命令の対象行為によって損害を受けた者から無過失損害賠償請求権を裁判上で
主張され得る地位に立つことになり、また、確定した排除命令に従わない場合は、
2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられることになる。景品表示法
は、排除命令に対しこのような法的効力を付与したため、排除命令を受けた者がそ
の法的効力を争うことができるよう、排除命令に係る行為について審判手続の開始
を請求することができるとし(8条1項)、審決によって当該行為に係る排除命令
はその効力を失うこととしているのである(9条2項)。
 しかしながら、公正取引委員会の行う警告は、上記のような法的効力を有するも
のではなく、法的拘束力を伴わない、いわゆる行政指導に当たるものである。すな
わち、警告は、審判手続の開始を請求して消滅させるべき法的効力を有するもので
はないから、審判の対象となるものではない。審判手続開始請求の対象となり、審
判の対象となるのは、あくまでも排除命令に係る行為である(景品表示法8条1項
及び2項)。
 したがって、被告が、本件警告ないし本件警告に係る行為について、景品表示法
8条2項の規定に基づく審判開始の決定をせず、本件排除命令に係る行為について
のみ審判開始の決定を行った上、本件審決を行ったのは、適法である。この点の違
法をいう原告の主張は失当でる。
第6 原告の主張第3の6について
1 原告は、本件排除命令及び本件警告の違法を理由に、本件審決の取消しを求め
ているが、本件警告は、上記のとおり、本件審判の審理の対象外であるから、本件
警告の違法をいう原告の主張は失当である。
2 次に、排除命令に不服がある者は、当該命令に係る行為について審判手続の開
始を請求することができ(景品表示法8条1項)、公正取引委員会も、当該行為に
ついて審判手続を開始し(同法8条2項)、当該行為について審決を行うのである
(同法9条2項)。すなわち、公正取引委員会の審判・審決は、排除命令自体の適
法・違法を判断してその取消し・変更を行うものではなく、排除命令という手続に
代わり審判手続という別な手続によって、排除命令の対象となった行為そのものに
ついて事実の存否と適法・違法を判断した上、必要な排除措置を命じるものである
(独禁法54条及び景品表示法7条)。したがって、排除命令自体の違法を理由に
審決の取消しを求めることはできないから、本件排除命令の違法をいう原告の主張
も失当である。
3(1) なお、原告は本件排除命令(乙第1号証)について行政手続法12条な
いし14条違反を主張するものであり、同条項等は独禁法8章2節の規定による審
決には適用されない(独禁法70条の2)が、本件審決も不利益処分として排除命
令と共通の性質を有しているので、本件審決が行政手続法12条ないし14条の趣
旨に反するところがないか、念のため触れることとする。
(2) まず、行政手続法12条は、処分基準の設定を努力義務として規定してい
る。景品表示法は、4条で規制対象の表示について規定しているが、その該当性に
ついて解釈の余地を残す不確定概念を用いている。また、6条及び7条で、排除措
置を命じるという規制権限を行使するかどうか、どのような内容の排除措置を命じ
るかについて、公正取引委員会に一定の裁量権を付与している。そして、景品表示
法自身は、5条所定の場合を除いて、公正取引委員会において規制権限行使の基準
をあらかじめ定立し、これを規制対象事業者等に周知させるべきことを求める規定
を置いていない。思うに、事業者が市場で提供する商品、事業者がその商品につい
て行う広告その他の表示の方法・内容、更にその表示が一般消費者に与える影響の
程度は、絶えず変化する企業活動や市場の情勢にかかわるものであって、広範多岐
多様にわたり、流動性も認められるところである。このような状況に即応して、公
正な競争を確保し、もって一般消費者の利益を保護するという目的を効果的に達成
するために、景品表示法は上記のような規定の仕方をしているのであって、公正取
引委員会が、規制の対象となる表示を更に具体化し、また、規制権限行使の基準を
更に具体化する定めをしていなかったとしても、やむを得ないものというべきであ
る。本件審決が行政手続法12条の趣旨に反するものということはできない。
(3) 次に、行政手続法13条は、行政庁が不利益処分をしようとする場合に
は、当該不利益処分の名あて人となるべき者について、意見陳述のための手続を執
らなければならないと規定している。独禁法は、準司法的手続として被審人の防御
権を保障したに審判手続を定めており、本件審決も、この審判手続によって行われ
たものであって、行政手続法13条の趣旨に反するところはない。
(4) 行政手続法14条は、行政庁が不利益処分をする場合には、その名あて人
に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならないと規定している。
そして、この理由としては、不利益処分の原因となる事実と根拠となる法令の条項
を明らかにするものでなければならないと解されるところ、本件審決の理由付記自
体に不備がないことも明らかである。本件審決が行政手続法14条の趣旨に反する
ところもない。
第7 結論
 以上のとおり、本件審決には原告主張の違法はないというべきであるから、原告
の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条及び
民事訴訟法61条の規定を適用し、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第3特別部
裁判長裁判官 泉徳治
裁判官 秋武憲一
裁判官 菅野博之
裁判官 大段亨
裁判官 伊藤正晴

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛