弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人は無罪。
         理    由
 本件控訴の趣意については、弁護人鬼倉典正、同岡和男が差し出した控訴趣意書
の記載を引用する。
 所論はまず、原判決には罪となるべき事実を認定した証拠の標目が全く示されて
いないから、判決に理由を付さない違法が存するというのであるが、原判決は右証
拠の標目の示し方等について通常の体裁にしたがつていないため誤解を招くおそれ
がないとは言えないにしても、原判文を通読すれば、原判決は少くとも司法巡査A
の犯罪事実現認報告書、証人A、同Bおよび同Cの各証言ならびに現場検証の結果
を原判示事実認定の証拠として示した趣意をうかがうことができるから、右論旨は
理由がない(以上の判断により控訴趣意第一点の二に対する判断はその必要がない
ことになるからこれをしない)。
 しかし、本件において被告人が原判示のとおり小型貨物自動車を運転して西武線
踏切を通過するに際し一時<要旨第一>停車をしなかつたことは被告人の認めて争わ
ないところであるけれども、記録によれば、被告人は、本件踏切前で一
時停車をして安全かどうかを確認するため速度を減じて遮断機の手前にさしかかつ
たとき、すでに遮断機の開閉装置に手をかけて当該軌道を走る電車の通過に対し待
機の姿勢にあつた踏切警手があごを動かして「通れ」という趣旨の合図をしたの
で、安全であることを確認し一時停車をしなかつたものであると捜査、公判を通し
弁解をしており、右弁解を含む被告人の供述は原判決挙示の前記各証拠に照らし信
ずるに足るものと考えられるので(右踏切警手の合図の点は事件発生当時本件を検
挙したA巡査により記録された犯罪事実現認報告書の記載の存在により動かすこと
のできない事実で、事件から半年余を経過した原審公判において、右A巡査は、当
然とは言え、なお明瞭に右事実を認めているのに反し、当時の踏切警手であつたC
はこの点に関し「記憶がない」と証言してはいるが、それだからといつて、右事実
の真実性に動揺を来たすものではない。現場検証の結果も被告人と踏切警手との間
における合図のやりとりの不可能でないことを物語つていると認められる。証人B
の証言はこの点に関係はない。)以上の各証拠を総合し前記弁解の事実を十分に認
めることができるうえ、このような場合は道路交通取締法第一五条但書にいわゆる
「その他の事由<要旨第二>により」安全であることを確認した場合にあたると解す
るのが相当である。(前記法条但書にいわゆる「信号</要旨第二>人」の中に踏切
警手を含むとは解しがたいから、本件が「信号人の指示により」安全であることを
確認した場合にあたるとは言えない。けだし、道路交通取締法はいうまでもなく道
路における交通の安全を図ることを目的としており、たとえば同法に規定する「信
号機」の意義については、同法第一条第四号第四条等により、それが道路ゆ交通ゆ
関ずる装置であることを明らかにし、公安委員会又はその委任を受けた者に限りこ
れを設置し又は管理することができるものとしていること、また「当該警察官」に
ついても、同法第五条道路交通取締法施行令第三条等において、道路を通行する歩
行者車馬又は軌道車に対しその指示を行うことを規定していることなどにかんが
み、以上の「信号機」、「当該警察官」なる各文言と同列に規定されている「信号
人」の文言もまた当然道路の交通に関し取締のため指示を行うことをその職能とす
る者に限ると解するのが相当であると考えられるのに対し、鉄道又は軌道の踏切警
手はもつぱら当該鉄道又は軌道の上を走る列車、電車等の通過の安全を看守するこ
とをその職能とする者であるに過ぎないからである。しかしながら、たとい道路交
通取締法にいわゆる「信号人」の指示でないとしても、本件のように、当該踏切を
通過する電車の安全を看守することを職能とする踏切警手が、すでに遮断機の開閉
装置に手をかけ電車の通過に対し待機の姿勢にあつてその警戒に注意を集中してい
る際当該踏切を通過しようとする道路上の車馬の操縦者に対し「通れ」という趣旨
の積極的合図を与えた場合、右車馬の操縦車がこれを信頼しただちに同所を通過す
ることに何ら危険がないと考え一時停車をしなかつたときは、これを前記法第一五
条但書にいわゆる「その他の事由により」安全であることを確認した場合にあたる
と解しても、何ら法の趣意―鉄道又は軌道の踏切を通過する車馬又は軌道車と列
車、電車等との衝突等の危険を防止するため当該車馬又は軌道車に対し原則として
一時停車して安全を確認すべき義務を課した―にもとるものではないということが
できるであろう。けだし、前述の場合における踏切警手の合図は、客観的な安全確
認の資料として、信頼し得べきものである点において、右法条但書に明示した「信
号機の表示、当該警察官又は信号人の指示」に比し性質上少しも劣るところはな
く、これに準ずるものとして考えられるからである。なお、本件において、被告人
の供述によれば、被告人が前述のように踏切警手の合図を受けたとき、その操縦す
る車が踏切の二メートルぐらい前にしるされてあるいわゆる停止線の位置をあるい
はすでに若干越えていたかも知れないことが認められるのであるが、このことは前
記法第一五条違反の問題には直接かかりあいはない。ただその停止線が設けられた
法規上の根拠に基き当該法規の違反としての問題を生ずるのみに過ぎない―道路交
通取締法第五条、同法施行令第六条参照。)したがつて本件は原判決挙示の各証拠
によればいわゆる法定の除外事由が認められる場合であるにかかわらず、原判決が
その判示のように右事由がないものとし前記法第一五条違反の事実を認定したこと
は、判決に影響を及ぼすこと明らかな事実誤認を犯したばかりでなく、結局判決の
事実理由と証拠理由との間にくいちがいがある違法さえも存するといわなければな
らない。よつて論旨は理由があるから、刑事訴訟法第三九七条により原判決を破棄
し、同法第四〇〇条但書の場合にあたるので当番において自判することとし、本件
は犯罪の訂明がないものとして(木作は結局犯罪事実がなかつたことが認められる
意味において「犯罪の証明がない」ことになる。本件においていわゆる法定の除外
事由がないことは刑事訴訟法第三三五条第一項の罪となるべき事実に属し、右事由
のあることは同条第二項にいう法律上犯罪の成立を防げる理由にあたらないと解す
るから、本件はいわゆる「罪とならない」場合ではない。)同法第三三六条にした
がい被告人に無罪の言渡をする。
 (裁判長判事 足立進 判事 山岸薫一 判事 下関忠義)

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