弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       本件上告を棄却する。                    
       上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人高城俊郎,同鈴木洋子,同小池敏彦,同林彰久,同池袋恒明,同池田
友子,同西郷新の上告受理申立て理由第1について
 1 上告人の被上告人に対する請求は,株式会社D総合情報センター(以下「訴
外会社」という。)からその顧客に対する現在及び将来の報酬債権を譲り受け,そ
の譲渡につき債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(以下「債権
譲渡特例法」という。)2条1項に規定する登記(以下「債権譲渡登記」という。)
を経た上告人が,その後に訴外会社から同債権を譲り受けた被上告人との間で,同
債権の弁済として供託された供託金の還付請求権を有することの確認を求めるもの
である。原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 上告人は,平成11年2月10日,訴外会社との間で,上告人の訴外会社
に対するリース契約に基づく債権を担保するために,訴外会社が株式会社Eら6社
との間の法人会員契約又は業務委託契約に基づいて同社らに対して取得する報酬債
権(以下「本件報酬債権」という。)で,既に発生し,又は将来発生するもののう
ち,上告人の訴外会社に対する債権の残高に充つるまでの部分を譲り受ける旨の債
権譲渡担保契約(以下「本件債権譲渡担保契約」という。)を締結した。これは,
本件報酬債権中,既発生のもののほか,将来上告人がEら6社に対して債権譲渡特
例法2条2項の規定による通知をするまでに発生するものを譲渡担保の対象とする
ものと解される。
 (2) 上告人と訴外会社は,本件債権譲渡担保契約において,上告人は訴外会社
が支払を停止し,又は手形若しくは小切手の不渡りを発生させたときにEら6社に
対して上記通知をすることができること,上告人は同通知を発送するまでは訴外会
社に本件報酬債権の取立てを委託し,訴外会社はEら6社から取り立てた金銭を,
担保が解除されるか,又は上告人から引渡しの請求を受けるまで保管することを合
意した。
 (3) 本件債権譲渡担保契約に係る債権譲渡について,平成11年3月4日14
時46分に債権譲渡登記(以下「本件債権譲渡登記」という。)がされたところ,
本件債権譲渡登記には,譲渡に係る債権の発生年月日(債権譲渡登記規則(平成1
0年法務省令第39号)6条1項4号)として,各債務者ごとに,発生年月日の始
期(債権譲渡登記令第7条第3項の規定に基づく法務大臣が指定する磁気ディスク
への記録方式に関する告示(平成10年法務省告示第295号)3(5)債権個別
事項ファイルの項番24)は記録されているが,その終期(同項番25)は記録さ
れていない。
 (4) 被上告人は,平成11年5月26日ころ,訴外会社から,被上告人が訴外
会社に対して有する貸金債権などの弁済に充てるため,本件報酬債権のうち平成1
0年4月1日から平成12年3月31日までの間に発生するものを譲り受け,平成
11年5月28日13時57分にその旨の債権譲渡登記がされた。
 (5) 訴外会社が平成11年8月4日に手形不渡りを出したため,上告人は,同
日,Eら6社に対して債権譲渡特例法2条2項の規定による通知を発送し,同通知
は,そのころEら6社に到達した。被上告人は,平成11年7月26日,Eら6社
に対して,同項の規定による通知をした。
 (6) Eら6社は,本件報酬債権について,債権者を確知することができないと
して,供託(以下「本件供託」という。)をした。
 (7) 本件報酬債権のうち,本件債権譲渡登記に記録された譲渡に係る債権の発
生年月日の始期当日に発生したものと本件供託に係るものとが同一であるとの証拠
はない。
 2 【要旨】債権譲渡登記に譲渡に係る債権の発生年月日の始期は記録されてい
るがその終期が記録されていない場合には,その債権譲渡登記に係る債権譲渡が数
日にわたって発生した債権を目的とするものであったとしても,他にその債権譲渡
登記中に始期当日以外の日に発生した債権も譲渡の目的である旨の記録がない限り
,債権の譲受人は,その債権譲渡登記をもって,始期当日以外の日に発生した債権
の譲受けを債務者以外の第三者に対抗することができないものと解するのが相当で
ある。けだし,上記のような債権譲渡登記によっては,第三者は始期当日以外の日
に発生した債権が譲渡されたことを認識することができず,その公示があるものと
みることはできないからである。前記告示3(5)の項番24(債権発生年月日の
始期)の条件欄には「必須」,項番25(同終期)の同欄には「任意」と記載され
ているところ,これらに付記された「(注4)」及び「(注5)」の記載を併せ考
えれば,債権の発生日が一つの日であるときは項番24の始期の記録のみで足りる
が,債権の発生日が数日に及ぶときは始期の外に項番25の終期を記録するなどし
てその旨を明らかにすることを要するものと解すべきであり,後者の場合にも始期
の記録のみで足りるという趣旨に解するのは相当でない。
 これを本件についてみると,前記事実関係によれば,本件債権譲渡登記には,譲
渡に係る債権の発生年月日として,その始期は記録されているが終期は記録されて
いないというのであり,他に本件債権譲渡登記中に本件報酬債権のうち始期当日以
外の日に発生したものが譲渡の目的であることをうかがわせる記録はないから,上
告人は,本件債権譲渡登記をもって,本件報酬債権のうち始期当日以外の日に発生
したものの譲受けを被上告人に対抗することができないものというべきである。そ
して,前記事実関係によれば,本件報酬債権のうち始期当日に発生したものと本件
供託に係るものとが同一であるとの証拠はないというのであるから,上告人は,本
件報酬債権のうち本件供託に係るものの譲受けをもって被上告人に対抗することが
できないことになる。
 3 以上と同旨の見解に立って上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断
は,是認することができ,その過程に所論の違法はない。論旨は,独自の見解に基
づいて原判決を論難するものにすぎず,採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 井嶋一友 裁判官 町田 顯 裁判官 深澤
武久 裁判官 横尾和子)

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