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平成27年9月29日判決言渡同日判決原本領収裁判所書記官
平成268869号不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結日平成27年7月6日
判決
原告兵神装備株式会社
同訴訟代理人弁護士上谷佳宏
同西川精一
同松宮慎
被告武蔵エンジニアリング株式会社
同訴訟代理人弁護士川田篤
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙被告表示目録記載の表示を付した商品を製造し,販売し,輸出
し,又は販売の申出をしてはならない。
2被告は,別紙被告表示目録記載の表示を付した商品を廃棄せよ。
3被告は,被告が使用するカタログ,ホームページ等の営業用物件から別紙被
告表示目録記載の表示を抹消せよ。
4被告は,原告に対し,844万6200円及びこれに対する平成26年9月
25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
本件は,別紙原告表示目録記載の各標章(以下,同別紙に従い個別に「原告
表示1ないし4」ともいう。)が,その製造販売する回転容積式一軸偏心ねじ
ポンプ(以下「一軸偏心ねじポンプ」という。)及び同ポンプの構造を持つデ
ィスペンサーの商品等表示として著名ないし周知となっているとする原告が,
被告に対し,被告による別紙被告表示目録記載の各表示をその商品の商品等表
示として使用して製造販売等する行為が不正競争防止法2条1項1号又は2
号に該当する旨主張して,同法3条1項に基づき,別紙被告表示目録記載の表
示を付した商品の製造販売等の差止め,及び,同条2項に基づきその廃棄及び
表示の抹消を求めるとともに,同法4条に基づき損害賠償として844万62
00円及びこれに対する不法行為の日の後である平成26年9月25日から
支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案
である。
1判断の基礎となる事実(認定に用いた証拠は末尾に掲記する。)
(1)当事者
ア原告は,理化学機器の設計製作販売並びに修理及び据付等を目的とする
株式会社であり,一軸偏心ねじポンプ及び同ポンプの構造を持つディスペ
ンサーの製造,販売等を営んでいる。
イ被告は,食料品加工機械及び化粧品製造機械並びにその部品の設計,製
作,販売や,空油圧機器並びにその部品の製造販売等を目的とする株式会
社であり,一軸偏心ねじポンプの構造を持つディスペンサーの製造,販売
等を営んでいる。
(2)原告の登録商標等及びその使用
ア原告は,次の登録商標を有している。
(ア)原告登録商標1(甲1)
商標登録第2375197号
ヘイシンモーノ
①指定商品/役務
第6類「金属製荷役用パレット,荷役用ターンテーブル」他
第7類「金属加工機械器具,鉱山機械器具,土木機械器具,荷役機
械器具,漁業用機械器具,化学機械器具,繊維機械器具,食料加工用
又は飲料加工用の機械器具,製材用・木工用又は合板用の機械器具,
パルプ製造用・製紙用又は紙工用の機械器具,印刷用又は製本用の機
械器具」他
第9類「アーク溶接機,金属溶断機,電気溶接装置,オゾン発生器」

第11類「乾燥装置,換熱器,蒸煮装置,蒸発装置」他
②出願日平成1年6月30日
③登録日平成4年1月31日
(イ)原告登録商標2(甲2)
商標登録第4666188号
①指定商品/役務
第7類「ポンプ,真空ポンプ」
第37類「建築一式工事,しゅんせつ工事,土木一式工事,舗装工
事,石工事,ガラス工事,鋼構造物工事,左官工事,大工工事,タイ
ル・れんが又はブロックの工事,建具工事,鉄筋工事,塗装工事,
とび・土工又はコンクリートの工事,内装仕上工事,板金工事,防水
工事,屋根工事,管工事,機械器具設置工事,さく井工事,電気工事,
電気通信工事,熱絶縁工事,印刷用又は製本用の機械器具の修理又は
保守,食料加工用又は飲料加工用の機械器具の修理又は保守,ポンプ
の修理又は保守,塗装機械器具の修理又は保守,パルプ製造用・製紙
用又は紙工用の機械器具の修理または保守,包装用機械器具の修理又
は保守」
②出願日平成13年11月22日
③登録日平成15年4月25日
イ原告は,これら登録商標を原告が製造販売する一軸偏心ねじポンプ及び
同ポンプの構造を持つディスペンサー(以下「原告商品」という。)に使
用している。
(3)被告登録商標等及びその使用
ア被告は,次の登録商標を有している(甲72)。
(ア)商標登録第5615224号
「MOHNOMASTER」
(イ)指定商品/役務
第7類「半導体製造用・精密機械用液体精密定量吐出装置並びにその
部品及び付属品,化学機械器具,塗装機械器具,食品製造用に使用され
る液状・液体又は流体状の食品を注入・塗布・添加及び噴射するための
装置,その他の食品加工用又は飲料加工用の機械器具,樹脂等の液体定
量ポンプ,その他のポンプ」
第9類「実験・研究用自動分注・吸引装置,理化学機械器具として使
用されるたんぱく質・生物試料・特殊試薬・水溶液・溶媒・アルコール
溶液・溶剤・液晶・インク・オイル・磁性流体等の非接触飛滴吐出装置,
その他の理化学機械器具,電子応用機械器具及びその部品,測定機械器
具」
(ウ)出願日平成25年5月24日
(エ)登録日平成25年9月13日
イ被告は,上記登録商標である別紙被告表示目録記載2(以下「被告表示
2」という。)を被告が製造販売する一軸偏心ねじポンプの構造を持つデ
ィスペンサー(以下「被告商品」という。)に使用しているほか,被告表
示2の日本語による片仮名表記である別紙被告表示目録記載1(以下「被
告表示1」という。)を展示会やリーフレットに使用している(甲73,
80。)。
(4)一軸偏心ねじポンプの市場
ア一軸偏心ねじポンプは,フランス人のRenéMoineau(以下
「Moineau博士」と表記する。)が1935年頃発明した特殊原理
を用いたポンプであり,その回転容積式一軸偏心ねじポンプ(Progr
essingCavityPumps)との名称は構造に由来してい
る(甲177,乙10)。
イ一軸偏心ねじポンプは,Moineau博士の発明を用いて世界の数社
が製造販売してきているが,各社は,いずれも,そのポンプの名称に同博
士にちなんだ名称を用いており,イギリスのMonoPumpsLt
d.では「MONO」,アメリカのRobbins&Myers,Inc.
では「MOYNO」,ドイツのNETZSCHPumpen&Syst
emeGmbH(以下「ネッチュ社」という。)では「MOHNO」と
称している。
ウ原告は,昭和43年頃から,ネッチュ社から一軸偏心ねじポンプの技術
供与を受け,昭和48年には同社とライセンス契約を締結するなどして,
原告商品を製造販売し,その後原告登録商標1,2を取得して営業を展開
している(甲1,2,97,98)。
エ日本国内には,海外の上記メーカーと技術提携して一軸偏心ねじポンプ
を製造販売する会社と,自己開発の会社とが存在するが,一軸偏心ねじポ
ンプの国内市場における原告商品のシェアは,販売台数ベースで約90%
を占めている(甲20,21,25,45,47,58,177)。
第2争点
1原告表示が原告の商品等表示として著名ないし周知であるか(争点1)
2原告表示と被告表示が類似し,原告商品と混同が生じているか(争点2)
3原告の損害(争点3)
第3争点についての当事者の主張
1争点1(原告表示が原告の商品等表示として著名ないし周知であるか)につ
いて
(原告の主張)
(1)原告表示が著名ないし周知な商品等表示であること
原告は,昭和43年,ドイツのネッチュ社から,一軸偏心ねじポンプの技
術供与を受け,一軸偏心ねじポンプ及び同ポンプの構造を持つディスペンサ
ーを国内にて製造販売してきた。原告は,またネッチュ社が一軸偏心ねじポ
ンプに使用してきた「MOHNOPUMP」の商標につきライセンスを受
け,遅くとも昭和48年以降,「モーノ」(原告表示1),「MOHNOP
UMP」(原告表示4)及びその片仮名表記である「モーノポンプ」(原告
表示3)の標章を使用し,「ヘイシンモーノ」及び「ヘイシンモーノポンプ」
については自ら原告登録商標1,2のとおり商標登録を受けた。
原告は,原告商品の製造販売を開始して以来,一貫して,一軸偏心ねじポ
ンプ及び同ポンプの構造を持つディスペンサーのみを取り扱っているが,長
年にわたる企業努力の結果,原告商品は,様々な業種においてその品質・性
能が評価され,販売数量,売上も大きく伸び,現在では,一軸偏心ねじポン
プの分野における原告のシェアは販売台数ベースで90%を占めるまでに至
っている。また,昭和46年以降,40年余りの間,有名雑誌及び新聞等を
媒体とした広告を行い,原告表示が付された原告商品が,雑誌,新聞テレビ
等のメディアで紹介されてきた。
このように,原告は,この間,原告表示を,原告商品に使用し,広く宣伝
広告してきており,またその原告商品が雑誌,新聞テレビ等のメディアで広
く紹介されてきたから,原告商品の需要者・取引者は,「モーノ」(原告表示
1)又は「モーノポンプ」(原告表示3)と聞けば,原告商品を直ちに想起する
ようになり,その結果,これらの表示は,日本全国に広く認知され,著名性
を有し,少なくとも周知性を獲得している。
(2)被告の主張に対する反論
ア被告は,「モーノ」は一軸偏心ねじポンプを発明したMoineau
博士の姓を表示するもので,「モーノ」又は「MOHNO」には自他識
別力がない旨主張するが,同博士の姓は,日本語でモーノと発音せず,
「MOHNO」はネッチュ社による造語である。したがって,「モーノ」
又は「MOHNO」には自他識別力がある。
イ被告は,「モーノポンプ」又は「MOHNOPUMP」は,普通名
称である旨主張する。
しかし,競合他社の製品カタログやパンフレットにおいては,「モー
ノポンプ」は,一軸偏心ねじポンプの普通名称として使用されていない
し,「モーノポンプ」以外に一軸偏心ねじポンプの商品名も数多く存在
している。被告主張のとおり,「モーノポンプ」が普通名称であるとい
うのであれば,原告の「ヘイシンモーノポンプ」と同様,他社について
も,会社名に「モーノポンプ」を付加した商品等表示を使用するはずで
あるが,いずれのメーカーもそのような商品等表示は使用していない。
(被告の主張)
(1)原告表示が著名ないし周知な商品等表示でないこと
ア原告による原告商品の広告,販売実績等は知らない。
イ不正競争防止法2条1項1号又は2号の前提として,ある人のある商品
の出所を表示するに足りるだけの自他識別力のある表示である必要がある
が,原告主張に係る原告表示は,いずれも人名又は普通名称にすぎず,商
品等表示としての自他識別力を有さないものである。
すなわち,原告表示のうち,「モーノ」は,一軸偏心ポンプの発明者で
あるフランス人のMoineau博士の姓であり,「MOHNO」は,そ
の欧文表記にすぎない。そして「モーノポンプ」は,同博士の発明に係る
一軸偏心ねじポンプの普通名称であり,「MOHNOPUMP」は,そ
の欧文表記にすぎないから,これら表示は,出所表示機能を有するような
表示ではなく,原告の商品等表示とはなり得ない。またしたがって,「モ
ーノ」又は「MOHNO」が,一軸偏心ねじポンプの発明者であるフラン
ス人のMoneiau博士の姓として,「モーノポンプ」又は「MOHN
OPUMP」が,同博士の発明に係る一軸偏心ねじポンプの普通名称と
して需要者間に広く認識されているとしても,これから,それらが原告の
商品等の出所を示す商品等表示として周知又は著名であるといえるわけで
はない。
ウまた,そもそも原告商品には,原告登録商標2が商品等表示として使用
されており,またこれに加えて使用される商品等表示は,欧文字としては
「」(「ヘイシンピーシーポンプ」との称呼が
生じ得る。)である。また,原告が販売するディスペンサーには
「」が商品等表示として用いられている。
このように,原告商品に使用されている商品等表示は,原告主張に係る
原告表示とは異なり,いずれも「ヘイシン」又は「HEISHIN」とい
う原告の社名の片仮名表記が結合されているものである。そして,これら
の商品等表示は,原告の社名に由来する表記との結合により初めて,当該
表示に全体として自他識別力が生じているものである。
2争点2(原告表示と被告表示が類似し,原告商品と混同が生じているか)に
ついて
(原告の主張)
(1)原告表示と被告表示が類似していること
以下のとおり,被告表示は,原告表示と,称呼,観念及び外観が類似す
る。
ア「MOHNO」はネッチュ社の商標であり,原告が我が国においてネ
ッチュ社の商標である旨表示して使用してきた表示であるから,「モー
ノ」又は「MOHNO」がポンプ又はディスペンサーに使用される場合
は,自他識別力を有するのであり,被告表示のうち「モーノ」又は「M
OHNO」が要部となる。
イ被告表示の要部は,「モーノ」又は「MOHNO」であるから,これ
から「モーノ」の称呼が生じ,一方,原告表示である「ヘイシンモーノ」,
「モーノポンプ」,「MOHNOPUMP」からも,自他識別力のあ
る「モーノ」の称呼が生じるから,原告表示と被告表示の称呼は同一で
ある。
ウ「MOHNO」及びその片仮名表記である「モーノ」は,ネッチュ社
が案出した造語であり,Moneiau博士の姓そのものではない。ま
た,「MOHNOPUMP」及びその片仮名表記である「モーノポン
プ」もネッチュ社による一軸偏心ねじポンプのブランド名であり,普通
名称ではない。
原告は,一軸偏心ねじポンプの販売当初から,ネッチュ社のブランド
として,「モーノ」及び「MOHNO」を使用し続け,その結果,これ
らの表示は,需要者の間で原告の一軸偏心ねじポンプ及び同ポンプの構
造を持つディスペンサーを示すものとして,周知著名となっている。し
たがって,「モーノ」又は「MOHNO」を含む被告表示は,原告表示
と観念が共通しているといえる。
エ被告表示の要部は,「モーノ」又は「MOHNO」であり,原告表示
の自他識別力を有する部分である「モーノ」又は「MOHNO」と同一
であり,外観上も類似している。
(2)原告商品と混同が生じていること
被告の製造販売する被告商品は一軸偏心ねじポンプを組み込んだ製品
であり,ポンプ部分については原告商品と同一の機能を有するものである。
同一の機能を有するものに,同一の「モーノ」という表示が付されている
ことから,原告商品と被告商品の市場は実際に競合しており,混同が生じ
るであろうことは明らかである。
(被告の主張)
(1)原告の主張は争う。
(2)被告表示は,「MOHNO」と「MASTER」とを合成した「MOHN
OMASTER」との造語を一連読みすることから生ずる称呼,観念及び
外観において,被告の商品等表示として自他識別力を有するものであり,そ
の片仮名表記においても同様である。
他方,原告各表示は,「ヘイシン」との自他識別力のある部分を欠いてお
り,その称呼,観念及び外観のいずれにおいても,原告の商品等表示として
の自他識別力を有さないから,被告表示と原告表示とは類似するものではな
く,また商品の混同も生じない。
また少なくとも,原告の主力製品は,一軸偏心ねじポンプであり,被告の
主力製品は,ディスペンサーであるから,需要者が重複する範囲は限られて
いる。
3争点3(損害)について
(原告の主張)
(1)被告は,平成25年6月以降,①展示会等において,被告表示を付したブ
ースを使用し,被告商品を展示するとともに,顧客に対して被告商品のリー
フレット及びカタログを配布し,②被告のホームページにて被告表示を付し
た被告商品の画像,動画及びカタログを掲載して,③顧客に対し,被告表示
を付したディスペンサーを少なくとも1台販売した。
(2)被告による上記の不正競争行為によって原告が受けた損害については,不
正競争防止法5条2項により,被告が受けた利益が,原告が受けた損害と推
定される。
(3)被告は,前記(1)のとおり,被告表示を付した被告商品を少なくとも1台販
売し,その利益率は少なくとも30%はあるから,被告が不正競争行為によ
って受けた利益は,以下のとおり算定され,原告が受けた損害は,88万0
200円を下らない。
293万4000円(単価)×0.3(利益率)
=88万0200円
(4)また,原告は,本件訴訟の準備のため,調査会社を通じてアンケートを実
施し,調査会社に対して493万3500円の調査費用を支払った。さらに,
原告は,弁護士費用として,原告代理人事務所に対し,263万2500円
を支払った。
(5)以上により,原告が,被告の不正競争行為により受けた損害は,844万
6200円を下らない。
(被告の主張)
争う。
第4当裁判所の判断
1後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
(1)原告自らによる原告商品名の使用態様
ア原告の商品総合カタログの記載
(ア)商品総合カタログの表紙の記載
①昭和48年頃から昭和55年頃まで使用されていた商品総合カタ
ログの表紙には,その上部の左上隅に小さく,ネッチュ社のドイツに
おける登録商標である結合商標が表記され,その右に,「
」と白抜きの文字で,やや大きいフォン
トで記載され,その下に小さなフォントで「UNDERLICEN
SEOFNETZSCHMOHNOPUMPENGMBH
W-GERMANY」というように技術供与をネッチュ社から受けた
旨が記載されていた。そして,中央やや右上の部分には,「ヘイシン
モーノポンンプ」が太字で記載され,表紙の右下には小さなフォント
で「ヘイシン」の下に「兵神装備株式会社」との記載がされていた(甲
88,89)。
②昭和55年頃から平成6年頃まで使用されていた商品総合カタログ
の表紙には,右上部にヘイシンの下に「モーノポンプ」と2段に太字
で記載され,右下には小さなフォントで「ヘイシン」の下に「兵神装
備株式会社」との記載がされていた(甲90,91)。
③平成7年頃から14年頃まで使用されていた商品総合カタログの表
紙には,上半分に「モーノポンンプへのご招待」と灰色地にゴシック
大文字の白抜きで記載され,中央部にヘイシンモーノポンプと太字で
記載がされ,中央下部には,小さなフォントで「ヘイシン」の下に「兵
神装備株式会社」との記載がされていた(甲92,174)。
④原告登録商標2を出願した後である平成14年頃から使用されてい
た商品総合カタログの表紙には,平成13年に商標登録申請がされた
原告登録商標2が記載され,商標登録後は,これに登録商標マークが
付されて登録済の商標であることが明示されている。なお,表紙の下
には小さなフォントで「兵神装備株式会社」あるいは「HEISHI
N」との記載がされていた(甲93,94)。
(イ)上記カタログ本文における原告商品名の記載
原告登録商標2を出願した後で,その登録前に発行された商品総合カ
タログ(甲93)には,その巻頭部分の欄外注意書部分に「原告は,主
力商品である<ヘイシンモーノポンプ>の商標登録を<ヘイシンモーノ
>で取得しておりますが,カタログ本文中,読みづらい部分につきまし
ては省略してモーノポンプと表記させていただいております」との記載
がされている(ただし,同カタログで「モーノポンプ」との表記が用い
られている箇所が特に読みづらいというわけではない(特に5頁)。)。
それ以前の商品カタログでは,何の注意書きもなく「モーノポンプ」が
多用されていた。また上記③の商品総合カタログ及び上記④のうち平成
21年まで用いられた商品総合カタログのカタログ本文には,その巻頭
に「モーノポンプは,フランスのモーノ博士によってその原理が発明さ
れた一軸偏心ネジポンプです」との記載があり,そのうち上記③のそれ
には,「日本では,兵神装備株式会社がただ1社のモーノポンプ専業メ
ーカーとして,他社の追随をゆるさない技術蓄積を誇っています。」と
の記載があった(甲92,93)。
イそれ以外のカタログの記載
昭和62年,平成9年各発行の機種別の商品カタログには,一軸偏心ね
じポンプを用いた各種商品について,「ヘイシンモーノロボディスペンサ
ー」,「ヘイシンモーノFAフィリングシステム」,「ヘイシンモーノ定
量充填システム」,「ヘイシンモーノ比例調合システム」など記載され,
これらでは「ヘイシン」が小さいフォントで枠囲みされ,商品名に共通し
て「モーノ」の記載が用いられていた(甲99,100)。
ウ広告等
原告は,昭和46年頃から相当数の雑誌及び新聞等の媒体を通じて広告
宣伝を行ってきており,昭和48年頃までは,商品名について「ヘイシン」
をつけない「モーノポンンプ」との記載のある広告を出していたが,その
後,前に「ヘイシン」を付加したものが多くなった(甲3ないし6,甲9
ないし13,61,69)。
また,雑誌,新聞,テレビ番組,書籍及びウェブ等で原告自身,あるい
は原告商品が取り上げられ,原告商品の表示として,「ヘイシンモーノポ
ンプ」,「モーノポンプ」等の表示が記載されていたが,その記載の中に
は,「『モーノポンプ』のトップメーカー」,「『モーノポンプ』の専業
企業」など,「モーノポンプ」が一軸偏心ねじポンプという種類のポンプ
を指すかのような記載も見られた(甲20ないし60)。
(2)一般学術書等におけるモーノポンプの使用例
ア一般学術書
日本油空圧協会編『油空圧便覧』(オーム社,昭和50年)や,社団法
人日本油空圧学会編『新版油空圧便覧』(オーム社,平成元年)のいずれ
においても,一軸ねじポンプの代表的なものとして「モーノ式ポンプ」が
掲げられている(乙6の1,2)。
ポンプ工学関係の専門誌である「流体工学」の第12巻第9号(昭和5
1年9月1日発行)掲載の論文には,容積形ねじポンプのうちトコロイド
ねじポンプの種類の一つとして,「モーノ形」が掲げられ,その図面の説
明に「モーノポンプ」との記載がある(乙13)。
イ特許公報等
平成26年4月8日時点において特許公報又は実用新案公報のテキスト
検索を試みると,「モーノポンプ」の記載を含むものが2177件,「モ
ーノ式ポンプ」の記載を含むものが6件,「モアノポンプ」の記載を含む
ものが1件,「モイノポンプ」の記載を含むものが40件,「一軸偏心ね
じポンプ」又は「一軸偏心ネジポンプ」の記載を含むものが457件,「プ
ログレッシブキャビティポンプ」の記載を含むものが57件,それぞれ認
められた(乙6の3,4,6の7及び8,6の11ないし14,6の82
及び88)。
(3)「モーノ」,「MOHNO」についての原告の説明
原告は,昭和55年以前の原告商品のカタログにおいては,「モーノポン
プはフランスの数学者RenéMoineauが発明した。この種ポンプ
に使用されるMOHNO
モーノ
という名称はRenéMoineauの姓名に由
来している。」との説明を記載していた(甲88,89)。
その後,昭和56年頃から,原告は,原告商品名と発明者とのつながり
をわかりやすくするためとして,原告の商品カタログやホームページにお
いて,発明者を「モーノ」博士と表記するようになり,「モーノポンンプ
は約50年前,フランスの数学者R.モーノ博士によって発明され,姓名
にちなんで「モーノポンプ」と名付けられました。(登録商標)」,「モ
ーノポンプは,フランスのモーノ博士によってその原理が発明された,回
転容積型の一軸偏心ねじポンプです。」などの説明を記載するようになっ
た(甲90ないし94)。
(4)他の一軸偏心ねじポンプの製造者等における同種商品の名称
ア国内における原告以外の他の一軸偏心ねじポンプの製造者は,その一軸
偏心ねじポンプの商品名として,「モノポンプ」,「モイノポンプ」,「モ
ンローポンプ」,「ハイビスカスポンプ」等の「モーノポンプ」と異なる
名称を用いており,一軸偏心ねじポンプを「モーノポンプ」と称して製造
販売しているのは原告だけである(甲177ないし182)。
イ他方,原告製造に係る一軸偏心ねじポンプを組み込んだ各種製品を製造
販売している事業者においては,その商品名に「モーノポンプ」を含む例
が多いが,その用法は「モーノポンプ」が原告製造の一軸偏心ねじポンプ
を指すものとして用いられているのか,それとも一軸偏心ねじポンプその
ものを指すものとして用いられているのか判然としないものが多い(甲1
10ないし113,171,乙6の91ないし104)。
(5)一軸偏心ねじポンプの市場状況及び需要者の認識
ア原告商品の販売台数は平成23年以降毎年5000台前後で,その売上
高は毎年90億円前後であり,販売台数ベースで原告が国内の90%のシ
ェアを占めている。
イ平成26年6月頃に株式会社日経リサーチが業務用機器の認知度に関す
る調査として実施した製造業勤務者(自営業者を含む。)を対象にしたア
ンケート結果によれば,回答者の27%の者がMOHNOPUMP/モ
ーノポンプを認知しており,そのうち59.2%の者が,それが原告の商
品であると認識していたことが認められ,これは他の一軸偏心ねじポンプ
におけるそれより格段に多い割合である。他方,被告商品名である「モー
ノマスター」を認知していたのは,回答者の10%にすぎず,そのうち被
告の商品であると正しく認識していたのは15.3%(アンケート対象1
370人のうち21人)であるが,20.4%の者(アンケート対象13
70人のうち28人)が原告商品と認識していた(甲84)。
2争点1(原告表示が原告の商品等表示として著名ないし周知であるか)につ
いて
(1)原告は,原告商標1,2の商標権を有するものであるが,これと異なり,
別紙原告表示が原告の商品等表示として著名ないし周知である旨主張する。
(2)そこで,まず「モーノ」(原告表示1)及び「MOHNO」(原告表示2)
について検討すると,上記1(1)アないしウ認定のとおり,原告は,その商品
カタログあるいは広告等において,「ヘイシンモーノ」,「ヘイシンモーノ
ポンプ」,「モーノポンプ」(原告表示3)あるいは「MOHNOPUM
P」(原告表示4)の表記を用いるほか,そのほか「モーノ」ないし「MO
HNO」を含む商品名を多く用いているが,それにしても,そもそも「モー
ノ」ないし「MOHNO」を単体で商品等表示として使用している事実は認
められない。その上,上記認定第2の1(4)エによれば,一軸偏心ねじポン
プの市場で90%のシェアを有する原告は,昭和56年以降,総合カタログ
の記載を始め,原告商品を広告宣伝するに際し,Moineau博士を「モ
ーノ博士」と記載した上,「モーノポンプ」は「モーノ博士」がその原理を
発明したポンプである旨の説明を積極的に行ってきたというのであるから,
一軸偏心ねじポンプの需要者の多くは,「モーノ」の表示を見たとしても,
これを原告の商品等表示と認識することはなく,一軸偏心ねじポンプの発明
者である「モーノ」博士を想起するようになっていたものと認められる。
そして,このことは,後記検討するとおり,「モーノポンプ」は原告の周
知の商品等表示と認められるけれども,その一方で,「モーノポンプ」が一
軸偏心ねじポンプそのものを指すものとして使用されたり,あるいはモーノ
式ポンプとの表現さえ使用されてきたりしている事実,すなわち,「モーノ
ポンプ」あるいは「モーノ式ポンプ」が「モーノ」博士発明に係る原理を用
いたポンプとの理解での用法が一定程度認められる事実からも裏付けられて
いるといえる(以上の事実にかかわらず,「モーノポンプが原告の周知商品
等表示と認められるべきことは後記する。」。
そうすると,「モーノ」という表記は,Moineau博士の姓の日本語
表記としては不正確であり,またその欧文表記にすぎない「MOHNO」は
異なる綴りからなる語であるけれども,これらの表示は,国内における一軸
偏心ねじポンプの需要者の間では,発明者であるMoineau博士と結び
つき,一軸偏心ねじポンプの発明者自身,あるいは,その発明した一軸偏心
ねじポンプの原理を示すものとして認識されているものと認めるのが相当で
ある。
したがって,「モーノ」あるいは「MOHNO」が,一軸偏心ねじポンプ
の需要者の間において,特定の者の製造に係る一軸偏心ねじポンプの出所を
表示する自他識別力を有するものとは認められないから,「モーノ」ないし
「MOHNO」が原告の商品等表示であるとの主張は採用できない。
なお,原告は,「モーノ」ないし「MOHNO」は,ネッチュ社の造語で
ある商標を使用している旨,したがって自他識別力があるように主張するが,
仮に原告が上記表示を使用し始めた契機がそうであるとしても,商品等表示
として機能しているか否かは需要者の認識を中心に判断すべきであるから,
この点の原告主張は失当である。
(3)ア次に「モーノポンプ」(原告表示3)について検討するに,上記認定の
事実によれば,原告は,原告商品について,「ヘイシン」あるいは「ヘイ
シン」とともに「モーノポンンプ」の表示(原告表示3)を使用するほか,
原告の取扱商品が原告表示3の商品であるとして長期間販売,広告を続け
てきたこと,一軸偏心ねじポンプ市場において原告商品が占める割合は9
0%を占め,他方,原告以外の一軸偏心ねじポンプを製造販売している会
社が,「モーノポンプ」を含む商品名を用いず,それ以外の商品名を使用
していたことからすれば,一軸偏心ねじポンプの需要者間においては,「モ
ーノポンプ」は代表的な一軸偏心ポンプの商品名として,すなわち,その
製造販売者の原告の商品の出所表示として,周知になっているものと認め
られる。
イこの点被告は,「モーノポンプ」は一軸偏心ねじポンプを指す普通名称
として使用されているものであり,原告の商品等表示としての機能を有さ
ない旨主張する。
確かに上記1(4)認定のとおり,「モーノポンプ」を一軸偏心ねじポンプ
というポンプの種類を指すものとして用いられている事例が少なからず
認められる。その上,原告自身でさえも,かつては「モーノポンプの専業
メーカー」,「モーノポンプのシェア90%以上」など,「モーノポンプ」
を一軸偏心ねじポンプを指す普通名称であるかのように用いていた例さ
えも認められる(甲23,25,40,58,66)。
しかし,一軸偏心ねじポンプを製造販売している他の会社はいずれも「モ
ーノポンプ」を含んだ商品名を使用しておらず,したがって,日本の市場
において「モーノポンプ」といえば原告の商品しか存在しないから,同種
商品市場において「モーノポンプ」が普通名称化しているといえるわけで
はない。需要者による「モーノポンプ」をあたかも一軸偏心ねじポンプそ
のものであるかのようにする誤用例は,商品名の要部足り得る「モーノ」
が,上記(2)のとおり,一軸偏心ねじポンプの発明者に結びついて認識さ
れている状況があることに加え,原告が一軸偏心ねじポンプ市場をほぼ独
占しているが故に,一軸偏心ねじポンプといえば原告商品であり,すなわ
ち「モーノポンプ」であるとの市場状況が存することの影響であるとも考
えられる(市場をほぼ独占しているがために,登録商標が普通名称のよう
に誤解されている例が多いことは,一般によく知られた事柄と思われる。)。
そして,少なくとも原告は,被告が,一軸偏心ねじポンプの市場に参入
する前である原告登録商標2の登録申請を出願した当時から,自らの商品
カタログ等において,需要者による誤用が広まって「モーノポンプ」が普
通名称化しないよう配慮し始めたことがうかがえるところである。
そうすると,「モーノポンプ」が今でも一軸偏心ねじポンプそのものを
指す誤用例が多く認められるとしても,「モーノポンプ」が普通名称化ま
でしているとは認められないから,商品等表示としての機能が失われてい
るとまでいうことができないというべきである。
(4)最後に「MOHNOPUMP」(原告表示4)について検討するに,こ
れは「モーノポンプ」の欧文表示として理解され得るものであるが,この表
示については,昭和48年頃から昭和55年頃までのカタログに「HEIS
HINMOHNOPUMP」との記載が認められるものの,それ以降に
原告において商品の表示として使用されていた事実を認めるに足る証拠はな
い。原告は「Mohno-pump」のドメイン名の使用を指摘するが,ド
メイン名はアルファベットしか使用できないから,これだけでは,需要者に
とって「MOHNOPUMP」が原告商品の表示として使用されているも
のと認識されるとは考えられない。
したがって,「MOHNOPUMP」は,周知商品等表示である「モー
ノポンプ」の欧文表記にすぎないけれども,これが原告の商品等表示として
周知性を獲得したとは認められないので,そのことを前提とする原告の主張
は採用できない。
(5)以上によれば,原告表示のうち,少なくとも「モーノポンプ」は,原告の
商品等表示として,需要者に広く認識され著名であるとはいえずとも,少な
くとも周知のものであると認められるが,それ以外の原告表示が,周知ない
し著名商品等表示であるとは認められないというべきである。
3争点2(原告表示と被告表示が類似し,原告商品と混同が生じているか)に
ついて
(1)「モーノポンプ」と被告表示1「モーノマスター」は,その称呼において
異なっている。
しかし,「モーノポンプ」のうち,ポンプは機械としてのポンプと認識さ
れるから,原告表示は,「モーノ」に普通名詞であるポンプという語を結合
した商標と認識されるし,他方,被告表示1「モーノマスター」についても,
「マスター」は,たとえば被告商品にも多くに見られるように(乙1),あ
る商品名の末尾に付加して,同商品の優秀性を強調するためによく用いられ
る用語であるから,連続して記載されていたとしても独立した1語とは認識
されず,「モーノポンプ」同様に,「モーノ」に上記意味での「マスター」
という語を結合した商標であると認識される。
そして,「モーノ」は,通常の日本人にとっては,普通名詞とは認識され
ないものといえるから,原告と被告の両表示に共通する「モーノ」部分が,
両表示のいずれにとってもその要部足り得るものとして注目されることにな
るはずである。
(2)しかし,上記2(2)のとおり,一軸偏心ねじポンプの需要者間では,「モー
ノ」は,一軸偏心ねじポンプの発明者と結びつき,一軸偏心ねじポンプの発
明者自身,あるいは,その発明した一軸偏心ねじポンプの原理を示すものと
認識されるものであって,それ自体としては,出所表示機能を果たす自他識
別力を有さないものである。
そうすると,上記需要者の認識を前提とする限り,「モーノポンプ」及び
「モーノマスター」とも,「モーノ」部分は要部となり得ないということに
なり,結局,両表示とも一体の語として観念を比較すべきであることになる
から,両表示の観念は異なるものといわなければならない。
したがって,原告表示「モーノポンプ」と「モーノマスター」は類似して
いるものとは認められないというべきである。
そして,被告表示2「MOHNOMASTER」についても,上記表示
は通常の日本人を前提として被告表示1と同様「モーノマスター」との称呼,
観念を生じさせるものであるから,これが「モーノマスター」と類似してい
るといえないことは,上記説示したところと同様である。
なお,上記1(5)イのアンケート結果によれば,「モーノマスター」を認知
していた回答者のうち,その出所を原告と誤解して認識していた者が,正し
く被告と認識していた者より僅かに多いことが認められるが,それにしても,
その人数はアンケート対象1370人のうち21人と28人との差にすぎ
ず,これだけからは「モーノマスター」が「モーノポンプ」と類似し,需要
者間に混同をもたらしていると結論づけることはできない。
4結論
以上のとおり,原告主張に係る営業表示のうち,「モーノポンプ」だけが周
知の商品等表示と認められるものの,その表示であっても,被告の商品等表示
とは類似しないから,原告の被告に対する請求は,その余の点を判断するまで
もなくいずれも理由がないことになる。
よって,原告の被告に対する請求をいずれも棄却することとし,訴訟費用の
負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官森崎英二
裁判官田原美奈子
裁判官大川潤子
原告表示目録
1モーノ
2MOHNO
3モーノポンプ
4MOHNOPUMP
被告表示目録
1モーノマスター
2MOHNOMASTER

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