弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1 被告は,株式会社Aに対し,金84万5000円及びこれに対する平成15年1
月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
2 被告は,株式会社Bに対し,金13万5000円及びこれに対する平成15年1
月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
3 被告は,有限会社Cに対し,金40万円及びこれに対する平成15年1月23
日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
4 被告は,D株式会社に対し,金24万円及びこれに対する平成15年1月23
日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
5 被告は,株式会社Eに対し,金64万円及びこれに対する平成15年1月23
日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
6 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
7 訴訟費用は,これを3分し,その2を原告らの各負担とし,その余は被告の負
担とする。各補助参加により生じた費用は,これをそれぞれ3分し,その2を原
告らの各負担とし,その余は株式会社A,株式会社B,有限会社C及びD株式
会社の各負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告は,株式会社A(以下「A」という。)に対し,金253万5000円及びこれに
対する平成15年1月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せ
よ。
(2) 被告は,株式会社B(以下「B」という。)に対し,金40万5000円及びこれに対
する平成15年1月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せ
よ。
(3) 被告は,有限会社C(以下「C」という。)に対し,金120万円及びこれに対する
平成15年1月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
(4) 被告は,D株式会社(以下「D」という。)に対し,金72万円及びこれに対する平
成15年1月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
(5) 被告は,株式会社E(以下「E」という。)に対し,金192万円及びこれに対する
平成15年1月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
(6) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 本案前の答弁
 ア 本件訴えをいずれも却下する。
 イ 訴訟費用は原告らの負担とする。
(2) 本案に対する答弁
 ア 原告らの請求をいずれも棄却する。
 イ 訴訟費用は原告らの負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は,宮城県柴田郡村田町(以下「村田町」という。)の住民である原告らが,村
田町が別紙一覧表工事番号1ないし5の各工事(以下,これらの工事を包括して
「本件各工事」といい,本件各工事のうちの個々の工事を特定する場合には,同表
の工事番号欄の番号を付して「本件工事1」などという。)に係る請負契約(以下「本
件各請負契約」という。)を同表の落札業者欄記載の各業者(以下「落札業者」とい
う。)とそれぞれ締結したことにつき,本件各請負契約の前提手続として平成14年
1月30日に行われた指名競争入札が落札業者と同表の入札参加業者欄に丸印
を付した各業者(以下「入札参加業者」という。)との間の談合により競争の制限さ
れた状態で行われたものであり,村田町はその談合により談合がなければ形成さ
れたであろう価格と落札価格との差額相当の損害をそれぞれ被ったから,民法70
9条に基づき,落札業者である被告補助参加人ら(以下「参加人ら」という)及びE
の5社(以下「Aら5社」という。)に対し損害賠償請求権をそれぞれ有しているの
に,村田町がその行使を違法に怠っていると主張して,地方自治法(以下「法」とい
う。)242条の2第1項4号に基づき,損害賠償を請求すべき義務を負う被告に対
し,Aら5社に対してそれぞれ前記第1の1(1)ないし(5)のとおりの各損害賠償金及
びこれらに対する各不法行為の日の後である平成15年1月23日(本訴状送達の
日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による各遅延損害金の請
求をすることを求めた事案である。
2 争いのない事実等(末尾に証拠等を掲げたもの以外は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
 ア 原告らは,いずれも村田町の住民である。
 イ 被告は,村田町長である。
 ウ Aら5社は,いずれも建設業を営む会社である。
(2) 本件各請負契約の締結
 ア 村田町は,本件各工事について,予定価格を別紙一覧表の各予定価格欄記
載のとおりそれぞれ定めた上,平成14年1月30日,別紙一覧表記載の落札
業者と入札参加者による指名競争入札をそれぞれ実施した。
   本件各工事に係る指名競争入札の各入札状況は,別紙一覧表の各欄記載
のとおりであるが,詳細は,次のとおりである。
(ア) 本件工事1(第1回入札・入札金額,甲1の1)
 a A                   1690万円(落札)
 b D                       1710万円
 c B                       1715万円
 d C                       1750万円
 e 有限会社F(以下「F」という。)        1780万円
 f E                       1800万円
(イ) 本件工事2(第1回入札・入札金額,甲1の2)
 a B                    270万円(落札)
 b F                        275万円
 c E                        280万円
 d 有限会社G(以下「G」という。)         285万円
 e D                        290万円
(ウ) 本件工事3(甲1の3)
 a 第1回入札(入札金額)
 (a) C                       860万円
 (b) E                       870万円
 (c) H株式会社(以下「H」という。)        875万円
 (d) F                       885万円
 (e) D                       890万円
 (f) A                       895万円
 b 第2回入札(入札金額)
 (a) C                       830万円
 (b) E                       845万円
 (c) H                       850万円
 (d) D                       850万円
 (e) A                       855万円
 (f) F                       855万円
 c 第3回入札(入札金額)
 (a) C                   800万円(落札)
 (b) E                       815万円
 (c) H                       820万円
 (d) D                       820万円
 (e) A                       820万円
 (f) F                       825万円
(エ) 本件工事4(甲1の4)
 a 第1回入札(入札金額)
 (a) D                       565万円
 (b) E                       580万円
 (c) B                       585万円
 (d) F                       594万円
 (e) C                       606万円
 b 第2回入札(入札金額)
 (a) D                       550万円
 (b) F                       557万円
 (c) E                       560万円
 (d) B                       560万円
 (e) C                       562万円
 c 第3回入札(入札金額)
 (a) D                   480万円(落札)
 (b) B                       500万円
 (c) E                       540万円
 (d) F                       546万円
 (e) C                       548万円
(オ) 本件工事5(甲1の5)
 a E                   1280万円(落札)
 b A                       1360万円
 c C                       1370万円
 d B                       1380万円
 e F                       1380万円
 f D                       1400万円
イ 村田町は,そのころ,上記アの落札業者と落札額を契約金額として本件各請
負契約をそれぞれ締結し,工事代金をそれぞれ支出した(弁論の全趣旨)。
(3) 原告らは,同年11月1日,村田町監査委員に対し,町長派業者の談合により
競争が制限されることによって村田町が被った損害の補てん措置をとるよう勧告
することを求める旨の住民監査請求を行った(以下「本件監査請求」という。)
が,村田町監査委員は,同月20日,本件監査請求を却下した。
3 争点
(1) 本件監査請求の適法性
(2) 本件各工事における談合行為の有無
(3) 損害額
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)について
 ア 被告及び参加人らの主張
本件は住民訴訟であるから事前に適法な監査請求を経ていなければなら
ないところ,本件監査請求は,添えてある全ての事実証明によっても,財務会
計上の行為の違法性・不当性に関し個別的・具体的に摘示されていないとし
て却下されたのであるから,本件訴えは,適法な監査請求を経ておらず,訴
訟要件を欠き,不適法として却下されるべきである。
 イ 原告らの主張
本件監査請求は,業者の談合によって被った町の損害の回復を求める監
査請求であり,町の職員の財務会計上の行為の違法性・不当性とは,そもそ
も無関係であるから,職員の財務会計上の行為の違法性・不当性の個別的・
具体的摘示を要件とする監査委員の判断は,誤りである。
したがって,原告らは,適法な監査を経たことになる。
(2) 争点(2)について
ア 原告らの主張
(ア) 村田町の公共工事における指名競争入札では,どの業者が指名業者に
なったかは,入札日まで明らかにされていない。しかし,指名業者のうちFを
除いた落札業者及び入札参加業者は,入札日である平成14年1月30日
よりも前に何らかの方法により本件各工事について,その指名業者を知っ
た。そして,Fを除く落札業者及び入札参加業者は,入札日前に村田町内
において談合を行い,本件各工事を落札する本命業者を決定した。
(イ)a 本件工事1
本命業者と決まったAは,入札日前に談合の協議に参加しなかったF
に対し,電話にてAが本命業者に決まった旨を伝えた。AのIは,入札日
の前日,談合札(甲4の3)と工事費内訳書(甲4の2)をFの事務所に持
参した。
Aは,Fに対し,上記談合札により1回目は1780万円,2回目は168
0万円,3回目は1640万円と入札するように指示するとともに,その入
札金額に見合った工事費内訳書を交付し,それと同内容の工事費内訳
書を村田町に提出するよう指示した。
Fは,Aが持参した上記工事費内訳書を村田町に提出するとともに,A
の指示どおりに入札した。
b 本件工事2
本命業者に決まったBは,入札日前に,談合の協議に参加しなかった
Fに,電話にてBが本命業者に決まった旨を伝えた。Bの従業員は,入札
日の前日,談合札(甲44)と工事費内訳書(甲5の2・3)をFの事務所に
持参した。
Bは,上記談合札に「¥2,750,000」「2回目最低価格より100,0
00以下下げて下さい」と記載し,Fに対し,入札金額の指示をするととも
に,その入札金額に見合った工事費内訳書を交付し,それと同内容の工
事費内訳書を村田町に提出するよう指示した。
Fは,Bが持参した上記工事費内訳書を村田町に提出するとともに,B
の指示どおりに入札した。
c 本件工事3
本命業者と決まったCは,入札日前に,談合の協議に参加しなかった
Fに,電話にてCが本命業者に決まった旨を伝えた。Cの女性従業員は,
入札日の前日,談合札(甲6の4)と工事費内訳書(甲6の2・3)をFの事
務所に持参した。
Cは,Fに対し,上記談合札により,1回目は885万円,2回目は855
万円,3回目は825万円を入札するよう指示するとともに,その入札金
額に見合った工事費内訳書を交付し,それと同内容の工事費内訳書を
村田町に提出するよう指示した。
Fは,Cが持参した上記工事費内訳書を提出するとともに,Cの指示ど
おりに入札した。
d 本件工事4
本命業者と決まったDは,入札日前に,談合の協議に参加しなかった
Fに,電話にてDが本命業者に決まった旨を伝えた。Dの営業部長であっ
たJは,入札日の前日,談合札(甲8の6)と工事費内訳書(甲8の2ない
し5)をFの事務所に持参した。
Dは,Fに対し,上記談合札により,1回目は594万円,2回目は557
万円,3回目は546万円を入札するよう指示するとともに,その入札金
額に見合った工事費内訳書を交付し,それと同内容の工事費内訳書を
村田町に提出するよう指示した。
Fは,Dが持参した上記工事費内訳書を提出するとともに,Dの指示ど
おりに入札した。
e 本件工事5
本命業者と決まったEは,入札日前に,談合の協議に参加しなかった
Fに,電話にてEが本命業者に決まった旨を伝えた。Eの従業員は,入札
日の前日,談合札(甲7の1)と工事費内訳書(甲7の2・3)をFの事務所
に持参した。
Eは,Fに対し,上記談合札により,1回目は1320万円以上,2回目
以降は1回目の最低価格より30万円以内引きで入札するように指示す
るとともに,その入札金額に見合った工事費内訳書を交付し,それと同
内容の工事費内訳書を村田町に提出するよう指示した。
Fは,Eが持参した上記工事費内訳書を提出するとともに,Eの指示ど
おりに入札した。
イ 被告
  上記ア(ア)及び(イ)の原告らの主張は不知。
ウ 参加人らの主張
Fが落札業者から交付されたものとして原告らが提出する談合札と称する
メモ及び工事費内訳書は,Fの代表者であるKが偽造したものであり,上記ア
(ア)及び(イ)に沿う証人Kの供述及び陳述は,全て作り話である。
(3) 争点(3)について
ア 原告らの主張
(ア) 村田町は,落札業者及び入札参加者の談合により,実際の契約価格と
談合が行われなかった場合に形成されたであろう契約価格との差額相当
分の損害を受けた。
平成13年度及び平成14年度の入札において,L等の反町長派業者(平
成13年度ではL,M,N,平成14年度ではこれに加えてF,有限会社O(以
下「O」という。),H)が入札に参加すると落札率が70ないし80パーセント
台になるのに,反町長派業者が参加しないと概ね95パーセント以上になっ
ており,これは,反町長派業者が入札に参加すると公正な自由競争が行わ
れるが,参加しないと談合が行われることを如実に示すものであるところ,
これによれば,反町長派業者が入札に参加した場合と参加しなかった場合
の落札率の差が少なくとも15パーセント存するから,本件各工事に関する
損害額も,別紙一覧表の落札金額欄記載の各金額に0.15を乗じた金
額,具体的には以下のとおりとなる。
a 本件工事1                253万5000円
b 本件工事2                 40万5000円
c 本件工事3                    120万円
d 本件工事4                     72万円
e 本件工事5                    192万円
(イ) 本件各工事の請負代金の中に国からの補助金が含まれているとしても,
これは,村田町が被った損害には何らの影響も及ぼさない。
なぜなら,地方公共団体は,談合をした業者から損害賠償金の支払を受
けた場合,補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「補助
金適正化法」という。)15条,16条,18条2項により,その受領額に補助
率を乗じた金員を国庫に返還する義務を負い,これによれば,地方公共団
体が談合等の不法行為によって被る損害は,固有財源からの出捐分と国
に対する補助金返還義務分を合わせたものになるからである。
イ 被告及び参加人らの主張
(ア) 原告らの主張は争う。
(イ) 本件各工事は,補助金適正化法に基づく国の補助金を財源としており,
補助金を本件各工事以外の用途に流用することはできないから,補助金額
分については村田町に損害は生じない。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)について
  (1) 村田町監査委員は,住民監査請求につき,財務会計上の行為において,町長
始め職員等がいつ,どのような違法又は不当な行為を行ったのか,具体的な事
実証明を添えて請求がされなければならない旨前置きした上で,本件監査請求
は,添えてある全ての事実証明によっても町長が財務会計上の行為において,
いつ,どのような違法又は不当な行為を行ったのかという財務会計上の行為の
違法性・不当性に関し個別的・具体的な摘示がなされていないから不適法であ
るとしてこれを却下した(甲12,13)。
  (2) しかし,原告らの本訴請求は,本件各工事について村田町と落札業者であるAら
5社との間で締結された本件各請負契約に関し,その前提手続として行われた
指名競争入札が談合により競争の制限された状態で行われたため,村田町は
その談合がなければ形成されたであろう価格と落札価格との差額相当の損害を
被ったのに,被告がAら5社に対して上記損害の賠償を求めないという不作為を
違法として,Aら5社に対し民法709条に基づく損害賠償請求をすることを求め
るもので,法242条の2第1項4号所定の請求のうち,「怠る事実に係る相手方
に損害賠償の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関に対して求
める請求」である。したがって,本訴の前提としての住民監査請求の対象は,法
242条1項所定の事項のうち,「違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若
しくは財産の管理を怠る事実」であるといわなければならない。そして,被告が村
田町に帰属する損害賠償請求権を行使しないという事実は,債権という財産の
管理を怠るという財務会計上の違法又は不当な事実にほかならない上,上記損
害賠償請求の発生原因として原告らの特定する本件各請負契約は,被告が村
田町の執行機関として行う財務会計上の行為そのものであって,原告らは,そ
の本件各請負契約に不可欠の前提手続として行われた指名競争入札が談合に
より違法に競争が制限された状態で行われた旨主張するとともに,その事実を
証明するため,談合札及び積算内訳書等の資料を提出している(甲12)のであ
るから,原告らがした本件監査請求は,住民監査請求に要求されている諸要件
を充足した適法なものというべきである。
  (3) したがって,本件監査請求を不適法として却下した村田町監査委員の判断は失
当といわなければならず,本件訴えは適法な監査請求を経ていないから訴訟要
件を欠くとする被告及び参加人らの主張は採用することができない。
2 争点(2)について
 (1) 当裁判所は,前記第2の2の事実に,本件各証拠(後掲のもの)及び弁論の全
趣旨を総合すると,本件各工事に係る指名競争入札において,入札の前に落札
業者及び入札参加業者による談合が行われ,この談合(以下「本件談合」とい
う。)により,本件各工事を落札すべき本命業者が決定された上で入札が実施さ
れた結果,上記本命業者がいずれも本件各工事を落札し,その本命業者と被告
との間で本件各請負契約が締結されたことが認められると判断する。その理由
は以下のとおりである。
ア 証人Kは,本件談合の存在を肯定する旨の供述及び陳述(甲14,16)をし
ている(以下,上記供述及び陳述を併せて「本件K供述1」という。)ところ,当
裁判所は,本件K供述1の信用性は高いと判断する。その理由は以下のとお
りである。
(ア) 本件K供述1の骨子は次のとおりである。
a 本件工事1については,事前にAから「うちに決まった」との電話があり,
入札日(平成14年1月30日)の前日,Aの社長の息子であるIが入札金
額を指示するメモ(甲4の3)と工事費内訳書(甲4の2)をFに持ってき
た。
b 本件工事2については,事前にBから「うちに決まった」との電話があり,
入札日(平成14年1月30日)の前日,Bの従業員であるPが入札金額を
指示するメモ(甲44)と工事費内訳書(甲5の2・3)をFに持ってきた。
c 本件工事3については,Cから「うちに決まった」との電話があり,入札日
(平成14年1月30日)の前日に,Cの女性の事務員が,入札金額を指
示するメモ(甲6の4)と工事費内訳書(甲6の2・3)をFに持ってきた。
d 本件工事4については,入札日(平成14年1月30日)の何日か前に,D
から「うちに決まった」との電話があり,入札日の前日,Dの営業部長のJ
が入札金額を指示するメモ(甲8の6)と工事費内訳書等(甲8の2ないし
5)をFに持ってきた。
e 本件工事5については,事前にEから「うちに決まった」との電話があり,
入札日(平成14年1月30日)の前日,Eの社長又は従業員が,入札金
額を指示するメモ(甲7の1)と工事費内訳書(甲7の2・3)をFに持ってき
た。
(イ) 本件各工事に係る指名競争入札について,入札の前に落札業者及び入
札参加業者によって行われた談合の結果,Fが入札すべき金額を指示する
内容が記載されたメモないし書面(本件工事1については甲4の3,本件工
事2については甲44,本件工事3については甲6の4,本件工事4につい
ては甲8の6,本件工事5については甲7の1。以下,上記書証を「本件談
合札」という。)が存在する。本件談合札は,いずれも原本が書証として提
出されており,そのうち,甲4の3は黄色の付箋に鉛筆による手書きで3個
の数字と「F」の文字が記載されたもの,甲44は使用済みの白い用紙を切
り取った裏側に鉛筆による手書きで1個の数字と「2回目最低価格より10
0.000以下下げて下さい。」という文字が記載されたもの,甲6の4は青色
の付箋に手書きによる黒色のペン字で3個の数字と「F様」の文字が記載さ
れたもの,甲8の6は黄色の付箋に鉛筆による手書きで3個の数字と「f様」
の文字が記載されたもの,甲7の1は「平成13年災害復旧工事実施設計
書」という表題のA4版の書面の上下欄外に「配布された仕様書に写して下
さい。1320万以上でお願い致ます。」「2回目以降最低価格より30万以内
引きでお願い致ます」という文字が印刷された透明のシール(いずれのシー
ルも数字部分が橙色でマークされている。)が貼り付けられたものである。
本件談合札のうち,手書きされた甲4の3,6の4,8の6及び44の筆跡は,
それぞれ異なると判断される。
 以上のように,本件談合札として提出された書証の体裁及び筆跡はそれ
ぞれ全く異なっており,同一人によって作成されたものとは考えにくい。
 また,本件談合札のうち,甲8の6(本件K供述1は,本件工事4を落札し
たDから受け取った談合札であるとする。)の筆跡は,Dの事務員Qが作成
した積算書(甲20の2,証人J)の筆跡に酷似している。
(ウ) 本件各工事におけるFの実際の入札金額は,本件談合札に記載された
金額と完全に一致しているか,その記載内容と矛盾しない(甲1の1ないし
5,4の3,6の4,7の1,8の6及び44)。
(エ) 本件談合札については,その記載内容に符合する工事費内訳書がいず
れも原本として提出されている(甲4の2,5の3,6の2・3,7の2・3,8の2
ないし5)。そのうち,甲8の2ないし5(本件K供述1は,本件工事4を落札し
たDから受け取った工事費内訳書であるとする。)を除くその余の工事費内
訳書(以下「本件工事費内訳書」という。)は,その記載内容はもちろん,書
式,体裁,印刷の字体,印刷や罫線の汚れ及び数字の筆跡が,Fが本件各
工事に係る指名競争入札に際して村田町に提出した工事費内訳書の写し
(甲17の7,18の6,19の7,21の7)と一致している。この事実は,本件
工事費内訳書(甲4の2,5の3,6の2・3,7の2・3)が,上記入札(平成1
4年1月30日)当時において既に存在しFがこれを所持していたこと(上記
入札後に作成された文書ではないこと)を裏付ける事実である。また,本件
工事費内訳書は,その書式,体裁及び筆跡が本件各工事(ただし,本件工
事4を除く。)ごとに異なっているところ,Fが本件各工事(ただし,本件工事
4を除く。)に係る指名競争入札に際して村田町に提出した上記工事費内
訳書の写しは,本件工事費内訳書の写しに表紙を付けずに社判だけを押
印した状態で村田町に提出されていることが認められる(甲4の2,5の3,
6の2・3,7の2・3,17の7,18の6,19の7,21の7)。このように,Fが,
同一日に行われた複数の入札において,書式,体裁及び筆跡がそれぞれ
全く異なり,表紙もなく社判だけが押捺された上記工事費内訳書の写しを
村田町に提出していたという事実は,本件各工事に係る指名競争入札にお
いて,Fは本件談合によって決定された本命業者から渡された本件工事費
内訳書の写しをそのまま村田町に提出したとする本件K供述1の信用性を
裏付けるものと言える。
 なお,原告らが,本件工事4を落札したDから渡された工事費内訳書であ
るとして提出した甲8の2ないし5(特に8の4)は,Fが本件工事4に係る指
名競争入札の際に村田町に提出した工事費内訳書の写し(甲20の6)と明
らかに筆跡が異なるから,甲8の2ないし5(特に8の4)が上記入札当時に
おいて既に存在しFが所持していた書面であるかどうか(したがって,上記
入札前にDから渡された書面であるかどうか)は疑問である。しかし,それ
によって,本件K供述1の信用性が減殺されるものではないというべきであ
る。なぜなら,Fが本件工事4に係る指名競争入札の際に村田町に提出し
た工事費内訳書の写し(甲20の6)の筆跡は,本件工事4に係る指名競争
入札の前にDから渡されたとされる(本件K供述1)本件談合札(甲8の6)
の筆跡と酷似しているばかりか,Dの事務員Qが作成した上記積算書(甲2
0の2)の筆跡及びDが本件各工事に係る指名競争入札の際に村田町に提
出した工事費内訳書の写し(甲17の3,18の2,19の3,20の2,21の
3)の筆跡に一致することが認められるからである。すなわち,Fが本件工
事4に係る指名競争入札の際に村田町に提出した工事費内訳書の写し
(甲20の6)は,Dによって作成されFに渡された工事費内訳書の原本を元
に作成されたことが推認される(その限度で,本件K供述1は信用できる。)
のである。
(オ) 本件工事1及び3ないし5の各工事については,落札業者からそれぞれ
連絡を受けた際にKの妻が記載したメモ(甲28,証人K)が存在し,その記
載内容は,落札業者から入札について指示を受けたという本件K供述1の
内容と符合する。
(カ) 本件各工事の落札率はいずれも92パーセントを超えており,宮城県発注の工事
にかかるD及びEの落札率と比較しても極めて高くなっている(甲38の1,42の
1・3,証人J,同R)。
(キ) 本件K供述1が,本件工事3を落札したCから受け取った工事費内訳書
であるとする甲6の2・3は,Cが本件各工事に関して村田町に提出した工
事費内訳書と同じ書式である(甲17の4,19の4,20の3,21の4)。
(ク) 本件工事3に係る入札は3回行われたが,その3回の入札ともCが最も低
い金額の入札を行っており(甲1の3),その結果は不自然である。また,本
件工事4に係る入札も3回行われ,その3回の入札ともDが最も低い金額
の入札を行っているが(甲1の4),その結果はやはり不自然といわざるを
得ない。これは,いずれも本件談合の存在を肯定する本件K供述1に符合
する事実というべきである。
(ケ) 本件談合札やこれと共に本命業者から渡された本件工事費内訳書は,
談合の事実の発覚を未然に防止するため,本来であれば入札終了後に速
やかに処分されるはずの書面である。それにもかかわらず,Fがこれまで本
件談合札や本件工事費内訳書を処分せず,本件訴訟において書証として
提出することに協力した理由について,証人Kは,談合破りをされた仕返し
の気持ちであったとして,大要次のとおり供述及び陳述(甲26)している。
 Fは,平成13年1月17日に行われた村田町の平成12年度丙地区公共
下水道工事(第3工区)の指名競争入札に参加した。上記入札には,Fのほ
か,B,H,株式会社S(以下「S」という。),C,Oの5社が参加した。Kは,
上記工事につき,現場説明会があった平成13年1月10日から入札日であ
る同月17日までの間に,同工事を受注したい旨B,H,S,C,Oに電話等
で伝えたところ,全ての業者の同意が得られたので,全ての業者に入札金
額を指示したメモをそれぞれ配布したが,同日実施された入札において,B
がその指示に従わずにFよりも低い価額で入札するいわゆる談合破りをし
たため,Bが上記工事を落札した。Kは,Bのこの談合破りによって,Fがい
わゆるAグループであるAやBらから甘く見られていることを認識して腹が
立ち,仕返しとして談合の内部告発をしようと考え,本件談合札や本件工事
費内訳書を処分せずに保管しておいた。
 以上の談合破りの件に関する証人Kの供述及び陳述(以下「本件K供述
2」という。)は,その供述内容に沿う入札経過が存在すること(甲25,30
の1・2)や同年4月23日,Bが談合破りの謝罪金の趣旨でF宛に219万7
125円を振込送金した事実が窺われること(甲24)に照らし,信用に値す
ると言える。これに対し,参加人A及び同Bは,Bが上記談合に参加したこ
とはなく,談合破りをしたこともない,BからFに対する上記振込送金は,上
記工事をFへ下請発注した工事代金の支払であると主張するが,Bが相指
名業者であったFに落札額と同額で上記工事を一括下請に出したとする証
人Tの供述及び陳述(丙A12)の内容は不自然であること,Fが上記工事を
中途で放棄したため,後の工事を引き継いだBが,Fの施工した部分とBが
施工した部分とを出来高で評価し,発注額の15パーセント相当をFに送金
したとする(証人Tの供述及び陳述(丙A12))が,その出来高評価の具体
的内容を裏付けるに足りる証拠が提出されていないこと等に照らすと,本
件K供述2の内容と矛盾する証拠(丙A1,2の1・2,3ないし8,12,証人
T)はこれを採用することはできないというべきであり,他に本件K供述2の
信用性を覆すに足りる証拠はない。
 したがって,本件K供述1の信用性は,本件談合札や本件工事費内訳書
が保管されていた動機の面からも,これを肯定することができるというべき
である。
イ 参加人らは,本件談合札及び本件工事費内訳書はKが偽造したものであ
り,本件K供述1は全て作り話であると主張するが,以下のとおり,その主張
はいずれも採用できるものではない。
(ア) 参加人らは,原告らから当初提出された談合札(丙B5)と同じものとして
提出された談合札(甲8の6)は,丙B5とその筆跡等が異なり,原告らが提
出する本件談合札の作成過程に疑問があると主張する。
 これに対する原告らの説明は次のとおりである。丙B5は,原告らが甲8
の6の写しを作成する際に,「f様」部分を消去し,さらにその写しを上からな
ぞって作成したものである。原告らは,平成14年8月ないし9月ころ,Fが
所持していた甲8の6をコピーして村田町議会議員や原告らの間で配布し
た。その際,Fの名前を消去して配布したが,甲8の6は鉛筆で書かれてお
り,コピーすると記載されている数字が薄くなってしまったため,コピーした
談合札の数字がはっきりと読みとれるように上からなぞった。原告ら代理人
は,本件訴訟を受任するに当たり,原告らから丙B5を受け取ったが,訴え
提起段階では,出訴期間の制約もあり,詳しい打合せができず,その後,
打合せをする中で丙B5の原本に当たる甲8の6の存在を確認したため,こ
れを改めて書証として提出した。
 本件談合札の書証提出の経緯に関する原告らの上記説明は,鉛筆で書
かれた文字を何度もコピーすると次第に薄くなることはしばしば経験するこ
とであること,丙B5には,原告らの説明するとおり,薄い文字を上からなぞ
った痕跡が認められることに照らすと,首肯できないものではないというべ
きである。そして,上記ア(イ)のとおり,本件談合札のうち,甲8の6は,本件
工事4を落札したDから受け取った談合札の原本として提出されたものであ
り,その筆跡がDの事務員Qが作成した積算書(甲20の2)の筆跡に酷似
していることも考え合わせると,丙B5と甲8の6の筆跡等が異なっていて
も,この事実は,甲8の6が偽造されたものであるとする参加人らの上記主
張を裏付けるには足りないというべきである。
(イ) 参加人らは,本件各工事の入札時には,指名業者一覧表の開示及び現
場説明会といった制度は廃止され,入札日にならないと指名業者が分から
ないようになっていたため,談合を実行しにくい状況であったと主張する。
 確かに,村田町は,平成13年8月ころの入札から,指名通知の方式を,
それまで指名業者が役場に出向き指名通知を受領し,全ての指名業者が
記載された指名業者一覧表に受領印を押すという方式であったのを,指名
通知を郵送する方式にするとともに,指名業者を一堂に会した上で工事内
容を説明する現場説明会を廃止し,相指名業者を公表することなく入札を
実施するように改めたことが認められる(甲15)。
 しかし,指名業者一覧表の開示及び現場説明会といった制度が廃止され
たことにより,従前よりも入札時まで誰が相指名業者なのかを把握しにくい
環境となったとは言えるとしても,建設工事等特定の種類の工事1件当たり
に指名される業者の数は限られている上,同種の工事に指名される業者
が重複することもしばしばある(前記第2の2のとおり,本件各工事において
も,各工事1件当たりの指名業者数は5ないし6業者であり,同じ業者が複
数の工事に指名されている。)ことが窺われる(乙3の1・2,証人K)から,
指名業者間で電話等で連絡を取り合うことにより,相指名業者を把握した
上で談合することが困難であったとは言い難い。したがって,参加人らの上
記主張は採用できない。
(ウ) 参加人らは,証人KがA及びBに対し私怨を抱いていることから,参加人
らを陥れるために虚偽の供述・陳述をしていると主張する。
 上記ア(ケ)のとおり,同証人がBによる談合破りに対して憤慨していたこと
は確かであるが,その事実は,本件談合を内部告発した動機としても理解
できるものであって,必ずしも本件K供述1の信用性を覆すに足りる事実で
あるとは言えない。
(エ) 参加人らは,本件工事1につき,原告らが提出する工事費内訳書(甲4の
2)は,A作成の工事費内訳書(甲17の2)と書式が異なるし,Fが村田町の
提出した工事費内訳書(甲17の7)と比べて外枠の実線が細いなどの相違
点があること,本件工事2につき,原告らが提出した工事費内訳書(甲5の
3)は,B作成の工事費内訳書(甲18の5)と書式が異なるし,Fが村田町に
提出した工事費内訳書(甲18の6)と文字の明瞭さが異なること,本件工事
5につき,原告らが提出する工事費内訳書(甲7の2・3)は,E作成の工事
費内訳書(甲17の5,18の4,19の5,20の4,21の5)と書式が異なる
し,Fが村田町の提出した工事費内訳書(甲21の7)と比べて罫線の太さが
違うなどの相違点があることから,甲4の2,甲5の3及び甲7の2・3はFが
自ら作成したものであると主張する。
 しかし,A,B及びEが,談合の結果本件工事1,2及び5の本命業者と決
まったとすれば,談合の事実が発覚するのを防止するため,自らが村田町
に提出する予定の工事費内訳書と異なる書式の工事費内訳書をFに交付
しようとするのがむしろ自然であるといえるから,甲4の2と甲17の2の書
式,甲5の3と甲18の5の書式及び甲7の2・3と甲21の5等の書式が異な
ることは何ら不自然ではない。また,上記ア(エ)のとおり,甲4の2と甲17の
7,甲5の3と甲18の6及び甲7の2・3と甲21の7がそれぞれ同一の文書
と認められることは,甲4の2,甲5の3及び甲7の2・3の各原本を確認す
れば明らかである。したがって,参加人らの上記主張は採用できない。
(オ) 参加人らは,Gは本件工事1の指名業者となっていないにもかかわらず,
Kの妻のメモ(甲28)にはGから同工事について連絡があった旨の客観的
真実に反する記載がなされているから,上記メモの記載は信用できないと
主張する。
 しかし,参加人らの指摘する上記記載部分は「TEL下さい g,東山線 つ
づきなので」と記載されているだけであり,指名業者でないGが本件工事1
の本命業者としてFに連絡してきたとしか読めないものではない。証人K
は,確かに上記記載部分が上記の趣旨の記載であることを前提に供述し
ているが,妻からの伝言を誤解している可能性がないとは言えない(Gが仮
に本件工事1の現場の隣接部分を工事していたのであれば,Fが本件工事
1を落札した場合には下請に入りたいから電話連絡をして欲しいという趣旨
の連絡をしてきた可能性もあり得る。)。
 したがって,上記記載部分の存在は,本件K供述1の信用性を覆すに足
りる事実ではないというべきであり,参加人らの上記主張は採用できない。
(カ) 参加人らは,Cが本件工事1及び3ないし5に係る指名競争入札の際に
村田町に提出した工事費内訳書の写し(甲17の4,19の4,20の3,21
の4)は,一般に出回っている土木工事積算システムを使用して作成したも
のであるから,その書式や文字の書体が本件工事3にかかる本件工事費
内訳書(甲6の2・3)と同一であるとしても,甲6の2・3をCが作成したもの
とは言えないと主張する。
 しかし,上記ア(エ)のとおり,甲6の2・3は,本件工事3に係る指名競争入
札(平成14年1月30日)当時において既に存在しFがこれを所持していた
と認められるところ,それが一般に出回っている土木工事積算システムを
使用して作成されたものであるとしても,上記入札前に,Fが,偶然にある
いは本件工事3をCが落札することを予想して,Cと同じシステムを使って
甲6の2・3を作成した(そして,その写しを村田町に提出した。)と見るのは
不自然に過ぎる。上記ア(エ)のとおり,Fは,同日に行われた本件各工事に
係る複数の入札において,書式,体裁及び筆跡がそれぞれ全く異なり,表
紙もなく社判だけが押捺された工事費内訳書の写しを村田町に提出してい
るところ,C作成の上記工事費内訳書の写し(甲17の4,19の4,20の3,
21の4)と書式が一致する工事費内訳書の写しを村田町に提出したケース
は,まさにCが落札した本件工事3のケースのみである(甲19の7)。この
事実に照らすと,本件工事3に係る指名競争入札において,Fは本件談合
によって決定された本命業者であるCから渡された本件工事費内訳書(甲
6の2・3)の写し(甲19の7)をそのまま村田町に提出したと推認するのが
最も自然である。
 したがって,参加人らの上記主張は採用できない。
(キ) 参加人らは,本件K供述1の内容は変遷しているとしてその信用性に疑
問を指摘するが,参加人らの指摘する証人Kの供述の変遷や不明確性
は,本件談合の存在を肯定するという供述の基本的内容の信用性(その信
用性は,これまで詳述した数々の状況事実によって裏付けられている。)に
影響を与えるものとまでは言えないから,参加人らの上記主張は採用でき
ない。
ウ 以上のとおりであるから,本件K供述1の内容と矛盾し,本件談合の事実を
否定する証人Tの供述及び陳述(丙A12),証人Uの供述及び陳述(丙A1
0),証人Jの供述及び陳述(丙B4),証人Rの供述及び陳述(丙B3)並びに
証人Vの供述及び陳述(丙C1)は,いずれもその部分について採用すること
ができず,他に本件K供述1の信用性を覆すに足りる証拠はない。
エ 本件K供述1によれば,上記ア(ア)のaないしeの事実が認められるところ,こ
れらの事実に,上記アの(イ)ないし(ケ)の事実及び前記第2の2の事実を総合
すると,本件各工事に係る指名競争入札において,入札の前に落札業者及
び入札参加業者による受注調整のための話し合いが行われ,その話し合い
の中で,当該工事を落札すべき本命業者と本命業者に落札させる手段として
の各入札参加業者の入札予定価格の決定が行われ,その話し合いを受けて
入札が実施された結果,上記本命業者がいずれも本件各工事を落札し,その
本命業者と被告との間で本件各請負契約が締結されたことが高度の蓋然性
をもって推認できるというべきである。
(2) 以上のとおり,本件各工事に係る指名競争入札に先立ち,落札業者及び入札
参加業者の間で受注調整を目的とした上記内容の話し合いが行われたと認め
るのが合理的であるところ,上記の話し合いはいわゆる談合行為(本件談合)に
ほかならず,本件談合は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
(以下「独禁法」という。)3条の不当な取引制限に該当すると同時に,民事上も
明らかに自由競争のルールを逸脱した違法な行為というべきであるから,本件
談合に参加した上で被告と本件各請負契約を締結した落札業者であるAら5社
は,民法709条に基づき,被告に対し,被告が本件談合によって被った後記損
害を賠償すべき責任があるというべきである。
3 争点(3)について
(1) 本件談合は,指名競争入札前に受注予定者を決め,その者が落札できるよう
に互いに入札予定価格を調整し,受注予定者に希望どおりの価格で落札させる
というものであって,指名業者間で公正な競争をすることを回避することにより,
落札価格の低落を防ぎ,受注した業者の利益を図ることを目的とするものである
から,上記のとおり,本件各工事に係る指名競争入札に先立ち,本件談合が行
われたことが認められる以上,本件各工事の発注者である村田町は,本件談合
が行われなかった場合に形成されたであろう公正な競争を前提とする価格より
も高額な金額で本件各請負契約を締結した蓋然性が高いというべきである。し
たがって,本件談合によって村田町が被った損害とは,本件談合がなければ指
名業者間の公正な競争を経て入札され形成されたであろう契約金額(又は想定
落札価格)と現実の契約金額(又は落札価格)との差額相当額であると推認する
のが合理的である。
 しかし,個々の業務の入札において公正な競争を経て形成される落札価格
は,入札に係る業務の規模,種類や特殊性のほか,入札指名業者の数や各業
者の事業規模,入札当時の社会経済情勢,入札が行われた地域の特性など,
さまざまな要因が複雑に影響し合って形成されるものであるから,これらの要因
を具体的に検証することなく,当該年度の他の業務の入札における落札価格や
他の地方公共団体における指名競争入札を例にとって調査した場合の想定落
札価格と対比するのみでは,必ずしも上記損害額を合理的に推計したとは言え
ないというべきである。
 もっとも,上記のとおり,本件談合により村田町に上記差額相当額の損害が生
じた蓋然性が高いと認められるところ,指名競争入札における落札価格を形成
する要因は多種多様であることに鑑みると,入札談合を不法行為とする損害
は,その性質上その額を立証することが極めて困難であるというべきであるか
ら,民事訴訟法248条を適用して村田町が被った損害額を認定するのが相当で
ある。
(2) 原告らは,反町長派業者の参加の有無により落札率の差が少なくとも15パー
セントは存するから,落札価格の15パーセントが村田町の被った損害額である
と主張する。
 しかしながら,原告らが反町長派業者と主張する業者が参加している入札にお
いても落札率が95パーセントを超えるケースが少なからず見られること(甲23
の61・80,乙3の2),原告らが反町長派業者と主張する業者が参加していない
入札において,恒常的に談合が行われていたと認めるに足りる的確な証拠はな
いこと,原告らが主張する町長派と反町長派という業者の区分自体,必ずしも合
理的な根拠に基づくものではないことが窺われること(証人K,同W)に照らす
と,村田町が被った損害額を推計する根拠として,原告らの上記主張を採用す
ることは合理性に欠けるといわざるを得ない。
(3) そこで,当裁判所は,本件談合行為の態様,本件各工事の予定価格及び契約
金額,入札における落札率等本件に現れた一切の諸事情を総合考慮し,本件
談合により村田町の被った損害の相当額を,本件各請負契約の契約価格の5
パーセントに相当する金額と認定することが相当であると判断する。具体的には
以下のとおりとなる。
ア 本件工事1                  金84万5000円
イ 本件工事2                  金13万5000円
ウ 本件工事3                      金40万円
エ 本件工事4                      金24万円
オ 本件工事5                      金64万円
(4) 被告及び参加人らは,本件各工事が補助金適正化法に基づく国の補助金を
財源としており,補助金を本件各工事以外の用途に流用することはできないか
ら,補助金額分については村田町に損害は生じないと主張する。
 しかしながら,本件工事2については,弁論の全趣旨によれば,国の補助金が
財源とされていないことが認められることから,被告及び参加人らの上記主張
は,失当である。
 また,本件工事1及び3ないし5については,被告及び参加人らの主張すると
おり国の補助金が財源とされている部分があるけれども,村田町は,損害賠償
金を回収した場合,補助金適正化法15条,16条,18条2項により,国に対し,
回収した損害賠償金に応じて補助金相当部分を返還しなければならないと解さ
れるから,補助金交付部分についても村田町の損害賠償請求権は発生すると
解するのが相当である。
 したがって,被告及び参加人らの上記主張は採用できない。
4 結論
 以上のとおりであるから,原告らの本訴請求は,被告に対し,Aに対して金84万
5000円,Bに対して金13万5000円,Cに対して金40万円,Dに対して金24万
円及びEに対して金64万円並びにこれらの各金員に対する不法行為の日の後で
ある平成15年1月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損
害金の支払をそれぞれ請求するよう求める限度で理由があるからいずれもこれを
認容し,その余の請求は理由がないからいずれもこれを棄却すべきである。
5 よって,主文のとおり判決する。
   仙台地方裁判所第1民事部
   裁判長裁判官     潮   見   直   之
   裁判官     岡   田   伸   太
   裁判官     佐   藤   久   貴
ABCD
平成13年度
甲線改良工事
A17,500,00016,900,00096.6○○○
平成13年度
乙線改良工事
B2,700,0002,700,000100.0○
13国災第    号
河川災害復旧工事
C8,250,0008,000,00096.9○○
13国災第    号
道路災害復旧工事
D4,850,0004,800,00099.0○○
13国災第    号
道路災害復旧工事
E13,900,00012,800,00092.1○○○○

工事
番号
工事名落札業者予定価格落札金額落札率

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