弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
特許庁が昭和五二年六月七日同庁昭和四五年審判第七九〇〇号事件についてした審
決を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
 原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は「原告の請求を棄却
する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二 請求原因
一 特許庁における手続の経緯
 原告は、昭和四四年六月一三日、特許庁に対し、別紙その一のように「H●NS
EL」の文字を横書きした商標について、第三〇類「菓子、パン」を指定商品とし
て登録を出願したが、同四五年六月一〇日拒絶査定を受けた。そこで原告は、同年
八月一〇日審判の請求をした(同年審判第七九〇〇号事件)。これに対し特許庁
は、昭和五〇年三月一五日出願公告をしたが、訴外森永製菓株式会社よりの商標登
録異議申立に対し、同五二年六月六日登録異議決定をし、同年同月七日「本件審判
請求は成り立たない。」旨の審決をし、その謄本は、同年同月三〇日原告に送達さ
れた。
二 審決理由の要点
 本願商標は「H●NSEL」の文字を横書きして成り、第三〇類「菓子、パン」
を指定商品とするものである。ところで登録第二六二二五六号商標(以下「引用商
標」という。)は別紙その二のように、「ANGEL」、「エンゼル」の各文字を
上下二段に横書して成り旧第四三類「菓子及麺麭ノ類」を指定商品として昭和九年
四月二六日に登録出願、同一〇年二月一四日に登録され、その後同三〇年三月二三
日(第一回)、同五〇年八月一日(第二回)に商標権存続期間の更新登録がされて
いるものである。よつて両者を比較検討してみる。本願商標は、前記のとおりであ
つて、その第二文字はドイツ語特有のウムラウト(変音記号)がついた「●」であ
るから、これをドイツ語読みした「ヘンゼル」の称呼を出ずる。他方引用商標は構
成文字からして「エンゼル」の称呼を生ずる。したがつて両者は同数の音をもつて
構成され、しかも第二音以下をすべて同じくし、異なるところは語頭音が「ヘ」と
「エ」である点だけである。しかも「ヘ」(he)の音は、それが帯同する母音
「エ」(e)が強く響くから、第二音以下の「ンゼル」の音構成を同じくする両者
においては、この語頭音の差が全対の称呼に及ぼす影響は少なく、それぞれ一連に
称呼するときは全体の語感、語調が極めて近似するものであつて彼此聴き誤る恐れ
がある。してみると、本願商標は、引用商標と称呼において類似するものといえる
し、その指定商品も同一または類似するものであるから、商標法第四条第一項第一
一号に該当するものといわねばならない。
三 審決取消事由
 本願商標は引用商標と外観、観念はもとより称呼上も明かに区別されるのに、審
決はその対比を誤り、称呼上類似するものと即断し、商標法第四条第一項第一一号
に該当するとしたのは、判断を誤つており、違法であつて取消されねばならない。
(一) 二つの商標が外観、称呼、観念のいずれか一つの点で類似しているとき、
類似商標とされるのは、あくまでも原則であつて、称呼だけが似ていても、その商
標から出ずる観念が著しく相違するときは、両商標の類否に大きな影響を与えると
解すべきである。本願商標の「H●NSEL」は、世界中の老若男女はもとより我
が国でも情操教育的な文学作品として幼児期より広く親しまれているドイツ人グリ
ム兄弟の著作にかかる童話集「ヘンゼルとグレーテル」の物語の主人公の一人「ヘ
ンゼル」を指す固有名詞であるのに対し、引用商標はその態様からして天使とか天
使のような人、愛らしい人を指す英語「ANGEL」「エンゼル」として一般に普
及した普通名詞であつて、両者はその観念において全く隔絶している。
(二) 我が国の社会環境や平均的な教育程度並びに商品菓子、パンの需要者、取
引者を中心とした社会生活上において、ドイツ語の普及は十分とはいえず、ウムラ
ウトを無視して「H●NSEL」をハンセルというように英語読みをしたり、ロー
マ字風の読み方をすることは否定できないから、引用商標「エンゼル」とは「ハ」
と「エ」との語頭音が、さらに第三文字の「セ」と「ゼ」とが各相違して発音され
ることになり、両者に称呼類似の懸念は全く生じない。
仮に本件商標が正しく「ヘンゼル」と称呼される場合があるとしても、本願商標か
ら生ずる「ヘンゼル」と引用商標から生じる「エンゼル」とはいずれも四音より構
成され、第二音以下の三音を共通にしていることは審決のいうとおりであるが、前
記のとおり、それぞれ意味のない単なる創造語とは違い、一般に知られた既成語と
して独自の観念を有しているし、ドイツ語と英語とよつてくるところが明かに区別
され、またいずれも語頭音にアクセントがかかる言葉であるから、語頭音の「ヘ」
と「エ」とは明確に区別され、それぞれの全体的語音、語感の相違により、日常取
引においても混同を生じない相違があつて、称呼上まぎれるものではない。
 したがつて、本願商標は引用商標と出所混同を生じる恐れはなく、類似の商品と
いうことはできない。
第三 被告の答弁
 請求原因のうち一、二項は認めるが、三項は争う。審決に判断の誤りはなく、違
法のかどはない。
 本願商標を構成する文字がグリム童話集の中の「ヘンゼルとグレーテル」におけ
る主人公の一人「ヘンゼル」の人名に通じることは認める。しかしながら、「ヘン
ゼルとグレーテル」といつた場合のように、「グレーテル」と対になつてはじめて
グリム童話集中の一主人公を想起することこそあれ、単独で原告の主張するような
観念を生じて、外来語ではあるが日本語同様に親しまれて使用されている「エンゼ
ル」と明確に区別できるほどのことはない。したがつて本願商標から生ずる「ヘン
ゼル」と引用商標から生ずる「エンゼル」の各称呼は審決認定のとおり極めて近似
し、出所混同の恐れが大きい。しかもその指定商品も同一または類似するものであ
るから、商標法第四条第一項第一一号に該当するものといわねばならない。
第四 証拠(省略)
       理   由
一 請求原因一、二項の事実は争いがない。そこで取消事由の有無について検討す
る。
(一) 原告の主張(一)について
 本願商標が別紙その一のとおりであり、引用商標が別紙その二のとおりであるこ
とは当事者間に争いのないところである。
 ところで成立に争いのない甲第一一号証から第一四号証までの各一、二、同第一
五号証の一から四まで、同第一七・一八号証の各一・二ならびに弁論の全趣旨を総
合すると、本願商標の構成文字に附してあるウムラウトをドイツ語の変母音を示す
記号として理解し、本願商標の「H●NSEL」を「ヘンゼル」と正しく称呼しう
るほどの者であれば、「ヘンゼル」が単なる創造語でなくドイツ語圏での人名であ
ることはたやすく感得できるであろうが、「H●NSEL」が我が国において原告
の主張するように直ちにグリム童話集中の物語「ヘンゼルとグレーテル」の主人公
名であると一般の取引者・需要者に感得されるとまではいえないこと、引用商標よ
り生ずる称呼「エンゼル」が我が国において外来語であるが日本語同様に親しまれ
て使用されていることは被告も認めるところであつて、「エンゼル」は単なる創造
語でなく、天使もしくはそれを連想させるような愛称を示す普通名詞として一般の
取引者・需要者に理解されていることがそれぞれ認められる。そうすると本願商標
である「H●NSEL」は単独で原告の主張するような観念を生じて、引用商標と
明確に区別できるものではないといわなければならない。この点に関する原告の主
張は採用しがたい。
(二) 原告主張(二)について
 前掲証拠ならびに弁論の全趣旨によれば、商品菓子、パンの一般の取引者・需要
者を中心とした社会生活において、本願商標の「H●NSEL」を正しく称呼しう
るほどの者はむしろ少数であつて、ウムラウトを無視してハンセルと称呼されるの
が自然の読み方であると推測することができる。そして正しく称呼する場合がある
としても、前記認定のように「ヘンゼル」と「エンゼル」とは単なる無意味な創造
語でなく人名ああるいは普通名詞として理解されること、いずれも外来語であるこ
とが明かな語感をそなえていること、しかも本願商標が「ヘンゼル」の称呼を生じ
るのはウムラウトによつてドイツ語の変母音であることが意識されているからであ
ること、などの諸点にかんがみると、ことに「ヘンゼル」において語頭音にアクセ
ントがかかるものと認められ、したがつて、その語頭の「ヘ」が「エンゼル」の語
頭音である母音「エ(e)」をその音節結合にふくむとしても、それに結合した咽
頭の無声摩擦音である子音「h」によつて相当程度「エ」とは異なつた音感で発声
され、また聴取されるものといえる。してみると、称呼上、「ヘンゼル」と「エン
ゼル」とは全体の語感、語調においてかなりの程度異なつたものとして称呼され、
聴取されるといわねばならない。この点に関する原告の主張は正当である。
(三) そうすると、本願商標が引用商標と称呼上極めて近似するものとし、ひい
ては商標法第四条第一項第一一号に該当するものとした審決は判断を誤つており、
違法であつて取消を免れない。
二 よつて、原告の本訴請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担
について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判
決する。
(裁判官 杉本良吉 舟本信光 石井彦寿)
<12042-001>

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