弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役六年に処する。
     原審における未決勾留日数中二〇〇日を右刑に算入する。
     当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、大阪地方検察庁検察官検事村上流光作成の控訴趣意書記載の
とおりであり、これに対する答弁は、被告人及び弁護人松本健男各作成の答弁書、
被告人作成の同追補記載のとおりであるから、これらを引用する。
 控訴趣意中、事実誤認ないし法令の解釈適用の誤りについて
 論旨は要するに、原判決が本件公訴事実中のA1警部ほか一七名の警察官に対す
る公務執行妨害のうち、A1警部を含む一〇名の警察官について、「鉄パイプ爆弾
が投てきされたときには当直警察官のうちA1、A2、A3、A4、A5、A6及
びA7の七名はそれぞれ仮眠中であり、A8及びA9の二人はそれぞれ休憩待機
(同僚と雑談)中であり、A10は、電話勤務を離れ休憩室へ行く途中であつたこ
とから、いずれも本件発生当時刑法九五条一項にいう具体的、個別的に特定された
職務の執行に従事していなかつたことは明らかである」としてその成立を否定した
ことは、事実の誤認、ひいては法令の解釈適用を誤つたものであり、その誤りが判
決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。
 そして、その理由とするところは要するに、被告人らが本件鉄パイプ爆弾を投て
きした際における公務執行妨害の成立が否定されたA1警部ら一〇名の警察官の外
形的行動に関する原判決の事実認定にはおおむね誤りはないのであるが、同警察官
らはいずれも警察における交代制当直勤務の一環として行動していたものであるか
ら、これら警察官の職務行為については、その個々の所為を表面的に外観するだけ
でなく、交代制当直勤務の目的、機能を勘案して本質的な考察を加える必要があ
る。
 しかるに、原判決は警察における交代制当直勤務においては「起番」も「休憩」
も等しく当直勤務であり、「起番」中の者と「休憩」中の者とが全員一体となつて
当直勤務に従事しているという交代制当直勤務の本質を看過するとともに当直勤務
者の「仮眠」や「休憩」などの所為を通俗的な言葉の意味に解する捉え方をしたた
め、「休憩」はその間当該職員を当直勤務から解放するものと同視したのみなら
ず、刑法九五条一項にいう「職務ヲ執行スルニ当リ」の解釈につき、従来の判例の
見解とは異なり不当に狭く限定的に解した結果、A1警部ら一〇名の警察官らに対
する公務執行妨害罪の成立を否定するに至つたものであるというのである。
 そこで、記録を精査し当審における事実取調の結果をも併せ検討すると、原判決
挙示の各証拠及び当審における事実取調の結果によれば、次の事実が認められる。
すなわち、
 昭和四四年一一月一三日大阪市a区b公園付近におけるB首相訪米阻止闘争で大
阪府寝屋川警察署員に検挙されたC大学学生Dが翌朝死亡したことから、同署では
過激派学生らによる報復襲撃が予想されたため、これに備えて庁舎の警備及び緊急
事態発生の際における警察事務を処理すべく警戒体制を強化することとなり、同月
一六日(日曜)の当直勤務員九名(当直管理責任者一名、一般当直員五名、特別当
直員三名)のほかに大阪府外勤警察運営規程二条に基づき庁舎内外の警備を特別任
務とする庁舎警戒員として当務外勤勤務員(以下当務員と略称することがある)の
うちからパトカー勤務員三名を含む七名を指名追加したほかに警ら幹部二名も当務
員として在署させた。大阪府警察処務規程五六条一項による当直管理責任者はA1
警部であつた。これを補佐し、故障あるときその職務を代行する同条四項による一
般当直員から当てられる当直管理副責任者は指定されていたが、それが誰であつた
か、記録が廃棄され、かつ、関係人に記憶がないので不明である。
 右警察官らの職務内容は、当直管理責任者は当直勤務員に対する指揮監督、必要
あるときの当務員の指揮等に、警ら幹部は当務員の直接的指揮監督のためのパトカ
ーリモコン操作や書類整理等に、一般当直員は公かい、通信勤務等に、特別当直員
は捜査、交通事故整理等に、パトカー勤務員はパトカー乗務中特に庁舎周辺の警戒
等に、その他の庁舎警戒員は庁舎内外の警戒に従事し、緊急事態発生の際には当直
管理責任者の指揮のもとに当直員、当務員全員緊急事態に対応する捜査等の警察活
動に従事するものである。
 当直勤務員の勤務時間は一六日午前九時一五分から翌一七日午前九時一五分ま
で、当務員の勤務時間は一六日午前九時一五分から翌一七日午前八時までであつた
が、当務員のうち庁舎警戒員に指名された七名は庁舎警戒員として一六日午後七時
から一七日午前八時までの勤務であり、当直管理責任者を除く当直勤務員八名の勤
務方法については、大阪府警察処務規程五七条二項に「起番及び休憩とする」と定
められ、さらに大阪府寝屋川警察署処務細則三一条三号に「休憩は指定された休憩
室ですること」と定められているところ、一般当直員五名については、当日の指定
された勤務時間割に従い三班に分かれて二時間ないし三時間勤務すれば三時間ない
し六時間休憩するという交代制勤務で、深夜休憩時間に当つている者はほとんど当
直室で寝具を敷いて仮眠するのが実情であり、特別勤務員三名については捜査、交
通事故処理という職務の性質上勤務時間割の定めはないが、実際には職務の繁簡に
応じて適宜休憩することが認められており、庁舎警戒員のうちパトカー乗務員を除
く四名の勤務方法については、当直管理責任者A1警部が指定した時間割に従つて
二時間ないし三時間勤務すれば、二時間ないし三時間休憩するという交代制勤務で
あり、また、当直管理責任者については、統括責任者である職務の性質上休憩の定
めはないが、当直管理副責任者もいる関係から実際には職務の繁簡に応じて適宜休
憩することが認められており、パトカー乗務員三名及び警ら幹部二名については、
大阪府外勤警察官勤務規程に基づき寝屋川警察署長の定めた勤務例(パトカー乗務
員については勤務と休憩を交互に組合わせたもの)に従つて勤務し、休憩は大阪府
外勤警察官勤務規程一八条によつて指定された勤務拠点で行うことになつていたも
のである。
 そして、原判決が公務執行妨害の成立を否定したA1警部ほか九名の警察官の一
七日午前零時一〇分過ぎごろ被告人らによつて本件鉄パイプ爆弾が投てきされた際
における勤務状態は次のとおりである。
 (一) 当直管理責任者警部A1は、一七日午前零時前ごろまで一階の公かい受
付付近で部下の指揮、監督の任に当つていたが、午前零時ごろから緊急事態発生の
ないかぎり朝まで就床しうるという前提のもとに(記録三六三丁参照)適宜仮眠す
るため同署三階当直室において寝具に入つて休憩し
 (二) 一般当直員巡査部長A9は、公かい勤務のほか交通事故係の責任者で、
一六日午後八時から一二時まで休憩時間、一七日午前零時から三時まで勤務時間で
あつたところ、一六日午後一一時ごろから二階交通事故係室において特別当直員で
ある巡査A11、同A12とともに管内で発生した物損交通事故の届出のあつた被
害者から事情聴取し、翌一七日午前零時五分ごろ被害者らが帰つた後は、右事故の
届出を受理簿に登載するかどうかにつき部下巡査らと討議した末、A11巡査に登
載を命じた直後であり、
 (三) 一般当直員巡査部長A6は、公かい勤務で、一六日午後八時から午後一
〇時までの公かい勤務を終えた後一七日午前三時まで休憩時間であつたので、午後
一一時一五分ごろから三階当直室において寝具に入つて仮眠し、
 (四) 一般当直員巡査A7は、通信、公かい勤務て、一六日午後八時から午後
一〇時まで通信、公かい勤務についた後、一七日午前三時まで休憩時間であつたの
で、一六日午後一一時五〇分ごろから、右当直室において寝具に入つて休憩し、
 (五) 一般当直員巡査A10は通信勤務で、一六日午後一〇時から翌日午前零
時まで通信勤務に従事していたが、以後午前六時まで休憩時間であつたので、休憩
するため午前零時五分ごろいつたん三階当直室まで上つたが、さらに二階当直室に
行こうとしたところであり、
 (六) 特別当直員巡査A8は捜査係の専従であるが、一六日午後八時ごろから
捜査事案を処理するなどして翌日午前零時ごろから一階パトカー待機室に入り書類
整理中のA13巡査に盗犯検挙の指導をしながら待機し、
 (七) 当務員巡査A2及び
 (八)同巡査A3はともに庁舎警戒勤務で、一六日午後九時から二時までの公か
い勤務を終えた後、一七日午前二時まで休憩時間であつたので、A2巡査は午後一
一時二〇分ごろから、A3巡査は午後一一時三〇分ごろからいずれも三階当直室に
おいて寝具に入つて仮眠し、
 (九) 当直員巡査A5及び(一〇)同巡査A4はともにパトカー乗務勤務で、
一六日午後一一時までパトカー乗務に従事し、以後休憩時間に入つたので、A5巡
査は事務引継の後、午後一一時三〇分ごろから、A4巡査は書類整理の後、午後一
一時四〇分ごろから、いずれも一階当直室において寝具に入つて仮眠していたもの
である。
 右のとおり、被告人らが鉄パイプ爆弾を投てきした時、右(三)A6巡査部長
(四)A7(五)A10(七)A2(八)A3(九)A5(一〇)A4巡査は休憩
時間に当つており、(一)A1警部は適宜休憩時間に当てていたものであるが、
(二)A9巡査部長(六)A8巡査は勤務時間中であつたものである。
 ところで、刑法九五条一項にいう「職務ヲ執行スルニ当リ」とは、公務員の勤務
中の行為がすべて右職務執行に該当するものと解すべきでなく、具体的・個別的に
特定された職務の執行を開始してからこれを終了するまでの時間的範囲及びまさに
当該職務の執行を開始しようとしている場合のように当該職務の執行と時間的に接
着しこれを切り離しえない一体的関係にあるとみることができる範囲内の職務行為
をいうと解すべきであり(最高裁昭和四五年一二月二二日第三小法廷判決・別集二
四巻一三号一八一二頁参照)、ただ同項にいう職務には、ひろく公務員が取り扱う
各種各様の事務のすべてが含まれるものであるから、職務の性質によつては、その
内容、職務執行の過程を個別的に分断して部分的にそれぞれの開始、終了を論ずる
ことが不自然かつ不可能であつて、ある程度継続した一連の職務として把握するこ
とが相当と考えられるものがある(最高裁昭和五三年六月二九日第一小法廷判決・
判例時報八八九号一七頁参照)。
 これを本件についてみるに、被告人が共犯者Eとともに鉄パイプ爆弾を投てきし
た時には、前記のとおり、A1警部、A6巡査部長、A7、A10、A2、A3、
A5、A4巡査の八名の警察官はいずれも、休憩時間に当つていたか、または適宜
休憩時間に当てていたのであり、かつ、現実に当直室で仮眠等して休憩し、あるい
は勤務を終え休憩するため当直室に赴く途中であつたものであるから、具体的、個
別的に特定された職務の執行に従事していたということはできない。もつとも所論
が警察における交代制当直勤務の特殊性を強調し、「休憩」という語句を通俗的な
意味に解すべきでないというように、これら八名の警察官は、仮眠等して休憩中と
いえども、当直または当務の職務として緊急事態が発生すればその処理等に即応す
べき任務を課せられており現に本件鉄パイプ爆弾の爆発を知るや、最終の第五回目
の爆発までに仮眠中の警察官さえも庁舎玄関前路上などに飛び出すなどして犯人の
捜査等に従事していることは所論のとおりであつて、右警察官らの休憩がその間当
該警察官を全面的に当直勤務または当務から解放する性質のものでないが、本件の
ように、右警察官らが本来の執務場所から離れ、当直室において二時間ないし六時
間の長時間仮眠等して休憩を自由にしうる状況において、前記のように現実に、仮
眠等して休憩し、あるいは休憩をとるため当直室へ行く途中である場合には、所論
の警察における交代制当直勤務の特殊性を考慮に入れてみても、最早客観的に観察
して職務に従事しているとみるのは不自然であり既に職務を中断する意思をもつて
その間その職務の執行から離脱したものとみるのが相当である。
 所論は、当直勤務や休日勤務は労働基準法四一条三号にいう監視又は断続的労働
であるところから、同法施行規則二三条、三四条並びに地方公務員法五八条三項、
四項の規定に基づき大阪府人事委員会の許可を受けることにより当直員の労働時間
や休憩時間などに関する労働基準法の適用が除外されていると指摘するが、右規定
のうち右施行規則三四条は宿日直を本業とする者についてだけ適用される規定であ
るから、本件当直員についてはこれを除外すれば所論のとおりである。
 しかしながら、右人事委員会の許可条件として宿直者は数分担にわけ、それぞれ
宿直勤務時間中の指定時間(おおむね四時間あて)勤務すること、宿直室に就寝設
備を設けることと定められていること、本件当直員は右宿直員にあたるところ、右
許可条件に沿い本件当日も起番と休憩の時間の割り振りなど勤務の方法が前述のと
おり具体的に指定されていたこと、当日上司から休憩を禁じられていなかつたこと
(休憩が与えられなかつた事例として大阪高等裁判所昭和五一年七月一四日判決、
刑裁月報八巻六、七、八号三三二頁参照)などにかんがみると、右休憩は前述の緊
急事態発生時の責務の特殊性があるとはいえ、原則的には労働基準法における警察
官の休憩(労働基準法三四条のうち同法施行規則三一条、三三条一項一号により同
条二項、三項の適用を除外したもの)とその拘束面において甚だしい懸隔は存しな
いから、本件当直員の休憩自体を兵法にいう戦略、戦術として起番と一体となつた
公務執行妨害罪の対象となるべき公務遂行の態様とみる所論は到底採りえない。
 また当務外勤勤務員については労働基準法三四条一項、大阪府外勤警察官勤務規
程、前記地方公務員法等に基づき前記警察署長において前述のとおり本件当日の具
体的な勤務と休憩の時間の割り振りなど勤務の方法に関する勤務例を定めたもので
あつて、右休憩は前記労働基準法に基づくものであるから、休憩時間中緊急事態の
発生によつて現実に公務にあたつた場合は格別、休憩自体をもつて直ちに交代制勤
務による公務遂行の態様とみることはできない。
 結局、右警察官らは刑法九五条一項によつて保護されるべき職務を執行する状態
になかつたものと認めるのが相当である。したがつて右警察官八名については公務
執行妨害罪は成立しない。この部分に関する論旨は理由がない。
 しかし、(二)のA9巡査部長は、公かい勤務のほかに交通事故係の責任者とし
ての職務に従事していたところ、一六日午後八時から翌一七日午前零時まで休憩時
間、それが過ぎると午前三時まで起番であつたが、前認定のように午後一一時すぎ
ごろから翌一七日午前零時五分ごろまで二階の交通事故係の部屋で届出のあつた物
損交通事故の被害者から事情聴取した後、その事務処理を部下の巡査と検討のう
え、部下に指示した直後に、また(六)のA8巡査は、捜査事案を処理するなどし
てから、一階パトカー待機室で後輩の三嶋巡査に対し、盗犯検挙の指導をしながら
待機していた際に本件鉄パイプ爆弾が投てきされたのであるから、右はいずれも公
務執行中であつたと認められ、したがつて右二名については、公務執行妨害罪が成
立する。右A9巡査部長は物損事故の関係者から事情聴取を完了した後、雑談して
いたにすぎず、またA8巡査は公かい勤務後休憩のため一階パトカー待機室で雑談
していたにすぎないので、具体的・個別的に特定された職務の執行に従事していな
かつたから公務執行妨害罪が成立しないと判断した原判決には事実誤認ないし法令
の解釈適用の誤りがあるというほかない。この部分に関する論旨は理由がある。
 さらに、職権をもつて検討するに、本件公務執行妨害罪の訴因は、「寝屋川警察
署員に検挙されたC大学生Dが死亡したことに対する復しゆう抗議のため、Eと共
謀のうえ、鉄パイプ爆弾一五本(三本くくり五束)を、寝屋川警察署庁舎正面玄関
前及び南側通用門内などに投げつけて爆発させ、おりから在署当直勤務中の警部A
1ほか一七名の警察官の職務の執行を妨害したものである」というのであるとこ
ろ、原判決はこれに沿う認定をしながら、投てきの結果である爆発による公務執行
の阻害は公務執行妨害罪の定型性を帯びえないとしているので、その当否を検討す
る。
 <要旨>案ずるに、投てき等による衝撃により爆発する機能を有する鉄パイプ爆弾
を投てきし、これを爆発させることを手段方法として公務の執行を妨害する
行為は、その爆発に伴う威力を利用する形態の有形力の行使であるから、これが爆
発した場合においては、鉄パイプ爆弾の投てきという犯人の身体的動作の完了をも
つて刑法九五条一項の暴行が直ちに終了するとみるのは相当でなく、投てきした右
爆弾が爆発した段階をも含めた全過程をもつて公務執行妨害罪における一個の暴行
にあたると解するのが相当である。
 本件にあつては原判示のとおり、被告人において鉄パイプ爆弾二束を、Eにおい
て三束をそれぞれ投てきして爆発させたのであるから、これら一連の投てき及び爆
発を一個の暴行とみるべきである。
 次に、後述認定の証拠によると、A1警部、A6巡査部長、A10、A7、A
2、A3、A5、A4巡査の八名の警察官は被告人らが鉄パイプ爆弾を投てきした
際には、前認定のとおり公務執行中ではなかつたけれども爆弾の爆発音や警報ブザ
ー等で寝屋川警察署が爆弾で襲撃されたと知つて飛び起き、これに対応する緊急任
務につくため右投てき当時公務の執行中の警察官らとともに、犯人の捜査、逮捕、
証拠収集、庁舎内外の検索、被害者の有無確認、その救助等の捜査活動等をするた
め急速行動を開始し、遅くとも最後の第五回目の爆発時までには、右警察官全員が
同署玄関前路上などに飛ひ出すなどして既に捜査活動等に着手しこれに従事してい
ることが認められ、右事実によれば、右八名の警察官らは捜査活動等をするため行
動を開始した時から公務の執行に従事したものであることは明らかである。
 ところで、被告人らが投てきした爆弾の第一回目の爆発から第五回目の爆発まで
の所要時間は一七日午前零時一三分ごろから一七分ごろまでの約四分間であるとこ
ろ、第一回目の爆発から第四回目の爆発までの時間は短かかつたが、第四回目の爆
発から第五回目の爆発までに二、三分の時間が経つており、しかも、大阪府警察科
学捜査研究所技術吏員F、同G共同作成の昭和四五年七月二七日付鑑定書(謄本)
によれば、本件鉄パイプ爆弾と同一構造のものを製造し、三本束にして爆発実験を
三回実施したところ、衝撃により秒単位の短時間内で爆発(うち二回とも鉄パイプ
各一本が完爆しなかつた)したことが認められるけれども、前記のように、鉄パイ
プ爆弾を五回投てきしたうち一回分の爆発時期が他のものより二、三分遅延したと
しても、その程度では、被告人らの主観において意外であつたということもなく、
かつ、客観的にも既発のものとあわせ、これら一連の投てき及び爆発を全体的に観
察して同一機会における一個の暴行とみるのが自然的観察に合致するというべく、
右八名の警察官らが捜査等をするため飛び起きて行動を開始した後においてもこれ
に対する暴行が最終の爆発まで継続していると認めるのが相当である。したがつて
被告人らは鉄パイプ爆弾投てきの際公務を執行していた警察官らに対してのみなら
ず、右投てきによる爆発に伴い前記のように緊急措置としての捜査活動等をするた
め行動を開始した前記警察官八名に対しても暴行を加えて公務の執行を妨害したも
のであるのに、これらにつき公務執行妨害罪の成立を否定した原判決は、同条の解
釈を誤り、ひいて事実の誤認をした違法がある。
 以上に指摘した原判決中の公務執行妨害の所為に関する誤りは一所為数法中の一
部に関するものであるが、判決に影響を及ぼすことが明らかである。原判決は破棄
を免れない。
 よつて、量刑不当の主張に対する判断をまつまでもなく刑事訴訟法三九七条一
項、三八二条、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従いさらに判
決する。
 (罪となるべき事実)
 被告人は、昭和四一年四月H大学I部J科に入学した着であるが、同大学におい
ても同四三年暮から同四四年にかけて学園紛争が起り、被告人も昭和四四年春ころ
からH大学K系の学生と行動を共にするようになり、同年一〇月初旬ごろからは親
元を離れH大学Kの救援対策連絡場所である大阪市内cのL食堂などに寝泊りする
ようになつた。
 同年一一月一三日大阪市a区のb公園においていわゆるB首相訪米阻止の集会及
びデモが行われ、その際の学生デモ隊と機動隊との衝突でC大学の学生Dが死亡す
るという事件が発生したが、被告人は右Dは検挙した寝屋川警察署の警察官により
虐殺されたものであると確信し、警察に対しこの事件の報復をしなければならない
とひそかに考えていたところ、たまたま同月一五日夜、大阪府豊中市d町e丁目f
番g号所在のhハウスi階j号室にEを訪ね、右事件について同人と話し合ううち
その報復抗議のため、かねて同人がM大学N学舎O部P研究室において製造し右ア
パートに隠匿所持していた爆弾を使用して寝屋川警察署を襲撃しようということに
話がきまり、ここに同人との間に寝屋川警察署襲撃の共謀が成立した。翌一六日昼
前ごろ、被告人は同人を同乗させニツサンサニーライトバンを運転して途中購入し
た寝屋川市の地図をたよりに寝屋川警察署付近に赴き、同署周辺の状況などを踏査
したうえ、同日夕刻いつたん同人方に戻り、襲撃の際の自動車を止める位置、爆弾
を投げる場所、逃走経路などについて同人と綿密に打合せをした後、同人と協力し
て、前記のように、かねて同人が同人方押入れに隠匿保管していた長さ約三〇セン
チメートル、直径約一・九センチメートルの、ビニールでコーテイングされた鋼管
内に塩素酸カリとピクリン酸とを混合した火薬及び濃硫酸入りの試験管を装填し、
投てき等による衝撃で試験管が破裂すれば爆発するいわゆる鉄パイプ爆弾(以下、
「鉄パイプ爆弾」と略称する。)一五本を完成させ、三本を一束にして五束とし、
さらに襲撃する趣旨を明らかにするため同人とともに罫紙の裏にマジツクインキで
「君のした事は君自身の首をしめる事、彼を殺したのは帝国主義者という支配者、
目覚よ、そして君も支配されている一個の人民でしかないことを知れ!」「虐殺抗
議赤軍」「血の復讐赤軍」などと書いたビラ七枚を作成した。同日午後一〇時三〇
分ごろ、前記鉄パイプ爆弾を段ボール箱に入れ、爆弾の間に脱脂綿などをつめて衝
撃で爆発しないようにしたうえ、これをEが持ち、被告人の運転する前記自動車で
出発し、翌一七日午前零時過ぎごろ被告人らは寝屋川警察署裏側にあたる寝屋川市
k町l番m号のQ方前付近の路上に自動車を止めて降車したうえ、被告人は二束、
Eは三束の前記鉄パイプ爆弾を持ち、右Q方と同町n番o号のR方の間の排水溝を
通つて同町p番q号のS住宅の敷地内に進入し、同町二六番二六号所在の寝屋川警
察署に南接する同住宅広場北東角に至り、同所に前記ビラ七枚をまいた後、治安を
妨げ人の身体、財産を害せんとする目的をもつて、同日午前零時一〇分過ぎごろ、
寝屋川警察署長警視A14が管理し、現に人の住居に使用し、かつ、寝屋川警察署
警部A1ほか一七名の警察官が現在していた右寝屋川警察署庁舎正面玄関前及び南
側通行門内などに向けて右鉄パイプ爆弾五束一五本のうち被告人において二束(六
本)、Eにおいて三束(九本)をそれぞれ投げ付け、もつて爆発物を使用し、これ
を順次爆発させて現に人の住居に使用し、かつ、人の現在する同署庁舎一階玄関及
び三階のガラス壁及びガラス窓合計五枚を破壊して建造物の一部を損壊するととも
に、右暴行によりA1ほか一七名の警察官の別紙一覧表(一)(二)記載の各職務
の執行を妨害し、さらにA9ほか六名の者に対し、破裂した鉄片を突刺させるなど
し別紙一覧表(三)記載のとおりの各傷害を負わせたものである。
 (証拠の標目)(省略)
 (法令の適用)
 被告人の判示所為中爆発物を使用した点は刑法六〇条、爆発物取締罰則一条に、
右爆発物を破裂させて現住建造物の一部を損壊した点は刑法六〇条、一一七条一項
前段、一〇八条に、一八名の警察官の公務の執行を妨害した点はいずれも同法六〇
条、九五条一項に、七名の者に傷害を負わせた点はいずれも同法六〇条、二〇四
条、罰金等臨時措置法三条一項一号(刑法六条、一〇条により昭和四七年法律第六
一号による改正前のもの)に該当するが、右は一個の行為で数個の罪名に触れる場
合であるから、爆発物取締罰則一二条、刑法五四条一項前段、一〇条により以上を
一罪として最も重い爆発物取締罰則違反の罪の刑に従い、所定刑中有期懲役刑を選
択し、なお犯情を考慮し、刑法六六条、七一条、六八条三号により酌量減軽した刑
期の範囲内で後記諸事情を考慮して被告人を懲役六年に処することとし、同法二一
条により原審における未決勾留日数中二〇〇日を右刑に算入し、当審における訴訟
費用は刑事訴訟法一八一条一項本文により全部被告人に負担させることとする。
 (量刑事由)
 本件は、B首相訪米阻止闘争で寝屋川警察署員に検挙されたC大学学生Dが死亡
した事件に対する復しゆう抗議のため、かなり強力な鉄パイプ爆弾一五本を多数の
警察官が勤務する警察署庁舎正門等に投てき爆発させて六名の警察官及び取材中の
記者一名に対し傷害を負わせ、同署庁舎のガラス壁及ひガラス窓を破壊し、かつ、
周辺住民に強い恐怖感を与えた凶悪な犯行であり、しかも、約六年半の逃亡生活
中、雑誌等に自己の犯行を正当化する文章を投稿し、警察に対する挑戦的言動をく
り返していたことなどに徴すると被告人の責任は重大で、一般予防の見地からもそ
の罪責は厳しく追及されるべきものである。
 しかしながら、被告人は右E方を訪れて話し込むうち、同人と意気投合し、Eが
在籍するM大学N学舎の封鎖占拠中にO部の研究室から持ち出した爆弾材料を用い
本件鉄パイプ爆弾一五本を製造して寝屋川警察署襲撃の計画を提案するや、これに
同調し、追随的行動に出たものであつて、本件の主謀者はEであること、被告人は
いわゆる過激派集団に属していなかつたものであり、たまたまE方を訪れたことか
ら本件に発展して行つたものであること、被告人は約六年半の逃亡生活において自
業自得であるとはいえ、肉親らと一切連絡を断ち、捜査当局の追及から逃がれるた
め仮名を用い、職業や住居を転々とかえ、日々を送つていたものであり、やがて逃
亡生活を嫌悪するにいたり、いさぎよく法律上の処罰を受けたうえ実家に戻つて一
般市民の生活を送りたいとの念願から相模原警察署に出頭し、逮捕勾留後も自己の
犯行につき一切を自白していること、早く服役して社会復帰し、心配をかけた両親
に孝養を尽したいと表明していること、保釈後土木作業に従事して得た金員を貯
え、原判決後自発的に負傷した六名の警察官に対し慰藉料等の半額に利息を加算し
て合計二九万四七一円を支払い、また、寝屋川警察署庁舎の損壊ガラスの改修費の
半額一万五、六〇〇円を支払つて、異例ともいえる警察関係の被害者との間にそれ
ぞれ示談が円満に成立していることなど反省悔悟の情が十分認められること、前科
前歴がないことなどの事情を考慮すると、酌量減軽をしたうえ、被告人を懲役六年
に処するのが相当である。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 矢島好信 裁判官 山本久巳 裁判官 久米喜三郎)
別紙一覧表(一)
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