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平成21年12月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成19年(ワ)第31700号職務発明対価請求事件
口頭弁論終結日平成21年11月16日
判決
埼玉県川越市〈以下略〉
原告A
訴訟代理人弁護士西田研志
同太田真也
同多田浩章
同佐藤高宏
同横井伸
補佐人弁理士中村和男
同新池義明
大阪市中央区〈以下略〉
被告和光純薬工業株式会社
訴訟代理人弁護士竹田稔
同川田篤
同服部謙太朗
主文
1被告は,原告に対し,243万6624円及びこれに対する平成
19年12月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを100分し,その3を被告の負担とし,その
余は原告の負担とする。
4この判決の第1項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成19年12月8日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,被告の従業員であった原告が,「ビリルビンの測定方法」に関す
る後記発明が原告を発明者とする職務発明であり,その特許を受ける権利を
被告に譲渡した旨主張し,平成16年法律第79号による改正前の特許法3
5条3項(以下「特許法旧35条3項」という。)の規定に基づき,被告に
対し,上記譲渡に係る相当の対価の一部請求として1億円及び訴状送達の日
の翌日以降の遅延損害金の支払を求めた事案である。
2争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の
全趣旨により認められる事実である。)
(1)当事者等
ア被告は,試薬,化学工業薬品等の生産,売買及び輸出入等を目的とす
る株式会社である。
イ原告は,昭和46年3月に芝浦工業大学工業化学科を卒業した後,同
年4月に被告に雇用され,平成19年6月8日に退職するまでの間,被
告の従業員であった者である。原告は,昭和47年から平成15年4月
までの約31年間,被告の臨床検査薬の開発に従事し,昭和47年から
平成3年2月までの間は,埼玉県川越市所在の被告の研究施設(以下「
東京研究所」という。)で臨床化学分析用の自動分析装置のための試薬
開発を担当していた。
ウB(以下「B」という。)は,大阪府立大学農芸学部農芸学科を卒業
後,昭和62年3月に同大学大学院農学研究科博士前期課程を修了し
て,同年4月に同博士後期課程に進学し,昭和63年3月に同博士後期
課程1年次を修了後,同年4月に被告に雇用された後,平成19年4月
から,被告の臨床検査薬研究所主席研究員を務めている(乙3)。
Bは,昭和63年4月から平成3年2月までの間東京研究所で勤務し
たものであるが,その当時の直属の上司は,原告であった(甲49,乙
3,弁論の全趣旨)。
(2)被告による特許権の取得及びその発明の内容
ア日本特許
(ア)被告は,平成3年10月30日,発明の名称を「ビリルビン測定
方法」とする発明につき特許出願(優先日・平成2年10月30日。
以下「本件特許出願」という。)をし,平成9年6月27日,特許第
2666632号として特許権(以下「本件特許権」といい,この特
許を「本件日本特許」という。)の設定登録(請求項の数4)を受け
た。
なお,本件特許出願の出願公開日は,平成5年1月26日である。
(イ)本件特許出願に係る願書に添付された明細書(以下「本件明細
書」という。)の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以
下,請求項1ないし4に係る発明を「本件発明」という。)。
「【請求項1】生体体液試料に,バナジン酸イオン又は三価のマンガ
ンイオンを酸化剤として作用させ,該試料の光学的変化を測定する
ことを特徴とする総ビリルビン又は直接ビリルビンの測定方法。」
「【請求項2】ヒドラジン類,ヒドロキシルアミン類,オキシム類,
脂肪族多価アミン類,フェノール類,水溶性高分子及びHLB値が
15以上の非イオン型界面活性剤からなる群より選ばれた1種以上
の化合物を,間接ビリルビンの反応抑制剤として共存させることを
特徴とする,請求項1に記載の直接ビリルビンの測定方法。」
「【請求項3】間接ビリルビンの反応抑制剤としての,ヒドラジン
類,ヒドロキシルアミン類,オキシム類,脂肪族多価アミン類,フ
ェノール類,水溶性高分子及びHLB値が15以上の非イオン型界
面活性剤からなる群より選ばれた1種以上の化合物の存在下に,生
体体液試料に酸化剤を作用させ,該試料の光学的変化を測定をする
ことを特徴とする直接ビリルビンの測定方法。」
「【請求項4】間接ビリルビンの反応抑制剤としての,水溶性高分子
及びHLB値が15以上の非イオン型界面活性剤からなる群より選
ばれた1種以上の化合物の存在下に生体体液試料にビリルビンオキ
シダーゼを作用させ,該試料の光学的変化を測定をすることを特徴
とする直接ビリルビンの測定方法。」
イ外国特許
被告は,別紙外国特許目録記載のとおり,本件発明について米国特許
商標庁及び欧州特許庁に特許出願(以下,それぞれ「本件米国特許出
願」,「本件欧州特許出願」という。)をし,各特許権(以下,それぞ
れ「本件米国特許権」,「本件欧州特許権」といい,これらの特許を併
せて「本件外国特許」という。)を取得した(甲2,3)。
ウ本件明細書の記載事項
本件発明に関し,本件明細書の「発明の詳細な説明」には次のような
記載がある(甲1)
(ア)「【発明の利用分野】本発明は,例えば血漿,血清,尿等の生体体
液中に含まれるビリルビンの測定方法に関する。」(段落【0001
】)
(イ)「【発明の背景】ビリルビンは,老化赤血球の破壊により遊離する
ヘモグロビンに由来する化合物であり,生体血中には,直接にジアゾ
化合物と反応して呈色する直接ビリルビン(主にグルクロナイド抱合
型)とアルコール等の促進剤の存在によって初めてジアゾ化合物と反
応する間接ビリルビン(遊離型)がある。血中の総ビリルビン濃度及
び上記2つの型のビリルビン濃度を夫々分別測定することにより各種
肝疾患の診断,黄疸の鑑別を行うことができるため,ビリルビンの測
定は臨床検査に於ける重要な検査の1つとなっている。」(段落【0
002】),「ビリルビンの測定方法としては,ビリルビンがジアゾ
化合物と反応して生ずるアゾビリルビンの赤紫色の呈色を測定する,
所謂ジアゾ法が現在の主流であり,各種肝疾患の診断や黄疸の鑑別
は,主としてこの方法により測定された各種ビリルビン濃度を基準と
して行われている。しかしながら,この方法は,その測定試液が調製
後5日程度しか利用できないことや,試料中に共存するL-アスコルビ
ン酸やヘモグロビンにより測定値が影響を受けること等の問題点を有
している。」(段落【0003】),「また,その他のビリルビン測
定法としては,酸化剤としてビリルビンオキシダーゼ(BOD)を利用す
るBOD法,・・・フェリシアン化イオンや銅イオンを酸化剤として用い
る化学的酸化法(フェリシアン化カリを用いる総ビリルビン及び直接
ビリルビン測定方法,銅イオンとチオ尿素を用いる直接ビリルビン測
定法等)等が挙げられるが,何れの方法も何らかの問題点を有してお
り,そのままではジアゾ法より好ましい方法であるとは言い難い。即
ち,BOD法は,総ビリルビンの測定に用いる場合には特に問題はない
が,直接ビリルビンの測定を行う場合にはBODの至適pH範囲外のpHで
測定を行わなくてはならないため必然的に多量の酵素が必要となり測
定に要する費用が高くなるという問題点を有しており,・・・また,
化学的酸化法は,総ビリルビン及び直接ビリルビンの測定を同一pHで
行うことができないためpHの変化に伴うビリルビンの吸収曲線の変動
による影響を受けるので,総ビリルビン測定時に得られた標準液の吸
光度変化値を利用して直接ビリルビンの測定を行うと,測定値の信頼
性に問題が生じることや,酸化剤としてシアン化物を利用した場合に
は廃液処理が難しい等の問題点を有している。更に,BOD法や化学的酸
化法に於いては,直接ビリルビンの測定値がジアゾ法によるそれと相
関性が悪いので,測定値を,ジアゾ法により得られる測定値に基づい
て確立された各種肝疾患の診断や黄疸の鑑別に利用し難いと言う問題
も生じている。」(段落【0004】∼【0005】),「このよう
な現状から,自動分析装置への応用が可能であって,ジアゾ法との相
関が良く,しかも測定試液の安定性に優れたビリルビンの測定方法の
出現が望まれている。」(段落【0006】)
(ウ)「【発明の目的】本発明は,上記した如き状況に鑑みなされたもの
で,自動分析装置への応用が可能であって,ジアゾ法との相関が良
く,しかも測定試液の安定性に優れ,且つ試料中の共存物質による測
定値への影響が少ないビリルビンの測定方法を提供することをその目
的とする。」(段落【0007】)
(エ)「【発明の構成】本発明は,生体体液試料に,バナジン酸イオン又
は三価のマンガンイオンを酸化剤として作用させ,該試料の光学的変
化を測定することを特徴とする総ビリルビン又は直接ビリルビンの測
定方法の発明である。」(段落【0008】),「また,本発明は,
ヒドラジン類,ヒドロキシルアミン類,オキシム類,脂肪族多価アミ
ン類,フェノール類,水溶性高分子及びHLB値が15以上の非イオ
ン型界面活性剤からなる群より選ばれた1種以上の化合物を,間接ビ
リルビンの反応抑制剤として共存させることを特徴とする,上記直接
ビリルビンの測定方法の発明である。」(段落【0009】),「更
に,本発明は,間接ビリルビンの反応抑制剤としての,ヒドラジン
類,ヒドロキシルアミン類,オキシム類,脂肪族多価アミン類,フェ
ノール類,水溶性高分子及びHLB値が15以上の非イオン型界面活
性剤からなる群より選ばれた1種以上の化合物の存在下に,生体体液
試料に酸化剤を作用させ,該試料の光学的変化を測定をすることを特
徴とする直接ビリルビンの測定方法の発明である。」(段落【001
0】),「更に,本発明は,間接ビリルビンの反応抑制剤としての,
水溶性高分子及びHLB値が15以上の非イオン型界面活性剤からな
る群より選ばれた1種以上の化合物の存在下に生体体液試料にビリル
ビンオキシダーゼを作用させ,該試料の光学的変化を測定をすること
を特徴とする直接ビリルビンの測定方法の発明である。」(段落【0
011】)
(オ)「本発明を実施するには,例えば以下の如く行えばよい。即ち,総
ビリルビン濃度の測定を行う場合には,先ず,反応促進剤,及び要す
ればキレート剤等を含む緩衝液を第1試液とし,これと例えば血漿,
血清,尿等の生体体液等のビリルビンを含む試料とを混合し,この溶
液の特定波長(430∼460nm付近)の吸光度を測定する(吸光度1)。
次いで,該溶液に,バナジン酸イオン又は三価のマンガンイオン,要
すればキレート剤を含む第2試液を添加して25∼40℃で,3∼15分間
ビリルビンの酸化反応を行った後,再度特定波長の吸光度を測定す
る(吸光度2)。得られた吸光度1及び吸光度2の値に液量補正値等
を乗ずる等した後,酸化反応前後での該特定波長に於ける吸光度の変
化量を求める。この値と,予めビリルビン濃度既知の標準液を用いて
上記と同様の操作により得られた,ビリルビン濃度と該特定波長に於
ける吸光度の変化量との関係を示す検量線から,試料中の総ビリルビ
ン濃度を求めることができる。」(段落【0020】)
(カ)「また,直接ビリルビン濃度の測定を行うには,第1試液として前
記本発明に係る反応抑制剤及び要すればキレート剤等を含む緩衝液を
用い,第2試液としては,上記の総ビリルビン濃度を求める場合と同
じものを用い,以下,総ビリルビン濃度を求める場合と同様にして操
作を行えばよい。」(段落【0021】),「・・・表3及び表4の
結果から明らかな如く,ヒドラジン類,ヒドロキシルアミン類,オキ
シム類,脂肪族多価アミン類,フェノール類,水溶性高分子及びHL
B値が15以上の非イオン型界面活性剤を共存させることにより,間
接ビリルビンの酸化が抑制されることが判る。尚,上記した化合物が
間接ビリルビンの酸化を抑制する機構については明確ではないが,ヒ
ドラジン類,ヒドロキシルアミン類,オキシム類,脂肪族多価アミン
類及びフェノール類等の還元能力を有する化合物の場合には過剰の酸
化剤を吸収するので間接ビリルビンが徐々に酸化されていくのを防止
する等の機構が,また,水溶性高分子及びHLB値が15以上の非イ
オン型界面活性剤等の化合物の場合は間接ビリルビンと何らかの形で
結合して間接ビリルビンの酸化を防止するため結果的に酸化剤の直接
ビリルビンへの特異性を向上させる等の機構が考えられる。」(段落
【0027】)
(キ)「【発明の効果】以上述べたことから明らかな如く,本発明は,バ
ナジン酸イオン又は三価のマンガンイオンをビリルビンの酸化剤とし
て用いる点,並びに直接ビリルビンを測定する際にはヒドラジン類,
ヒドロキシルアミン類,オキシム類,脂肪族多価アミン類,フェノー
ル類,水溶性高分子及びHLB値が15以上の非イオン型界面活性剤
からなる群より選ばれた1種以上の化合物を間接ビリルビンの反応抑
制剤として使用する点に特徴を有する発明であって,従来法に於け
る,自動分析装置への適用性が悪い,ジアゾ法との相関性が悪い,測
定用試液の安定性が悪い等の問題点を全て解決した優れたビリルビン
の測定方法を提供するものであり,斯業に貢献するところ大なる発明
である。」(段落【0033】)
(3)特許公報に記載された発明者
本件日本特許及び本件外国特許(以下,これらを併せて「本件特許」と
いう。)の各特許公報の「発明者」欄には,いずれも原告及びBの2名が
発明者として記載されている(甲1ないし3)。
(4)被告の「従業員発明考案取扱規程」に基づく補償金の支払
ア被告は,従業員による職務発明に関し,「従業員発明考案取扱規
程」(以下「被告規程」という。)を定め,昭和56年9月1日から実
施していた(乙33,弁論の全趣旨)。
被告規程(乙33)には,次のような定めがあった。
「第4条(権利の帰属)
発明が職務発明に属する場合,その発明について国内および国外
の特許を受ける権利ならびに特許権はすべて会社が承継し,会社に
帰属するものとする。
②(略)」
「第8条(補償金)
会社は次の各号に掲げる補償金を発明者に支給する。
1.国内出願の場合
ア.会社が特許を受ける権利を承継した発明につき特許出願をし
たとき出願1件毎に各発明者に対し,‥‥‥1,000円
イ.会社が出願した発明につき,特許登録されたとき,または特
許権を承継したとき,特許1件につき,‥‥‥10,000円
2.外国出願の場合
会社が特許を受ける権利を承継した発明につき外国出願をしたと
き,複数国への出願もこれを1件とみなし各発明者に対し,
‥‥‥1,000円
(中略)
③発明が2人以上の共同によってなされたものであるときは,第1
項第1号イの補償金は原則として会社の認定する発明者各人に等分
して支給する。ただし,等分された金額が1人2,000円に満た
ないときは2,000円とする。」
イ被告は,本件発明について,原告に対し,被告規程8条に基づく補償
金として合計1万8000円(本件特許出願,本件米国特許出願及び本
件欧州特許出願の出願時に各1000円,本件特許権,本件米国特許権
及び本件欧州特許権の登録時に各5000円)を支払った。
(5)被告製品の製造販売等
被告は,平成5年当時から,我が国において,バナジン酸を酸化剤に用
いた化学酸化法による総ビリルビン測定試薬である「総ビリルビンE−H
Rワコー」及び「総ビリルビンE−HAテストワコー」,同直接ビリルビ
ン測定試薬である「直接ビリルビンE−HRワコー」及び「直接ビリルビ
ンE−HAテストワコー」(以下,これらを「本件試薬」と総称する。)
を製造し,販売又は輸出している。
3争点
本件の争点は,原告が本件発明の発明者といえるかどうか(争点1),仮
に本件発明が原告を発明者とする職務発明であり,原告が被告に本件発明に
ついての特許を受ける権利(本件外国特許に係る特許を受ける権利を含
む。)を承継させたとした場合,上記承継に係る相当の対価の額はいくら
か(争点2)である。
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(原告の発明者該当性)について
(1)原告の主張
本件発明は,以下のとおり,原告がその知見及び経験を利用・応用して
創作したものであるから,原告は本件発明の発明者である。一方,Bは,
原告の補助者であり,本件発明の共同発明者に当たらない。
ア本件発明の完成に至る経緯
(ア)昭和63年当時,臨床検査薬業界の流れは化学的測定法から酵素
法的測定法への変遷が一段落した後で,使用者による試薬の調製を必
要とする調製試薬から,その必要のない無調製試薬への切り替わりの
時期であった。ビリルビンについても無調製試薬が必要とされていた
が,成功したメーカーはなかった。
ビリルビンの無調製試薬を開発するに当たり,通常考えられる方法
は,①ジアゾ試薬を長時間使用可能となるように安定化させるジアゾ
法による測定方法の改良,②ビリルビンの酸化酵素であるビリルビン
オキシダーゼを安定化させる酵素法による測定方法の改良であった。
しかし,いずれの方法も,成功しても数か月の安定性を確保する程度
と予想されたため,ジアゾ法や酵素法の改良には限界があった。
このような状況の中で,原告は,新たなビリルビン測定方法を開発
するに当たり,酵素法以外の方法の開発に挑戦することにし,ビリル
ビンの金属酸化を試みることから検討を開始した。原告は,当時被告
に入社18年目であり,臨床検査薬の開発経験は16年あった。ま
た,原告の大学の卒業論文は酸化反応に関するものであり,原告は,
被告における数々の酸化還元反応に係る臨床検査薬の開発にも携わっ
て来た。
(イ)原告は,昭和63年9月ないし12月ころ,新たなビリルビン測
定方法の開発のため,特許文献等の文献類の整理を行った後,平成元
年12月ないし平成2年1月,Bに指示をして,日本商事株式会社(
以下「日本商事」という。)が製造販売していた酵素法によるビリル
ビン測定試薬の試薬構成調査を開始した。当時,Bは,被告に入社後
6か月を経過した段階であった。
また,原告は,Bに対し,カフェインにマンガンが混入し,ビリル
ビンを破壊したことがあること,その際,EDTA(エチレンジアミ
ン四酢酸)を添加して改良したことなどについて話をした。
(ウ)a原告は,平成2年2月初旬ころ,Bが原告の話を基に銅やマン
ガン等限られた金属を使用して実験を始めたので,Bに対し,「最
初は手を広げ,可能性のあるものを絞り込んでいかないと抜けがで
きる。」と言い,原子吸光分析用標準液を使用してスクリーニング
するよう指示をした。
また,原告は,そのころ,Bから日本商事のビリルビン測定試薬
の添付文書に記載されている酵素量が,総ビリルビン測定試薬に比
べ直接ビリルビン測定試薬は異常に低いこと,直接ビリルビン測定
試薬は青く着色していることの報告を口頭で受け,Bに対し,直接
ビリルビン測定試薬の酵素が含有されている試薬を沸騰水浴中で1
時間程度加熱して酵素を失活させた後,正常に反応するか実験する
よう指示をした。
b原告は,平成2年2月9日,出張先からBに電話した際に,Bか
ら,日本商事のビリルビン測定試薬を加熱しても正常に反応したこ
とを聞き,Bに対し,その試薬の中身は日水製薬株式会社(以下「
日水製薬」という。)が特許出願したチオ尿素と銅ではないかと話
した。
原告は,同日,出張から職場に戻り,Bからトリクロロ酢酸によ
りビリルビンから蛋白を除去して測定したと聞き,それはうまいや
り方だと褒めた。また,原告は,Bが原子吸光分析用標準液でのス
クリーニングを戸惑っていたので,Bに対し,原子吸光分析用標準
液を手渡して,早期に実験するよう促した。
(エ)a原告は,平成2年2月14日,Bから,原子吸光分析用標準液
を用いたスクリーニングの実験結果(甲36の実験データ)を受領
した。この実験結果から,バナジウム標準液に突出したビリルビン
の酸化作用がみられたが,マンガンにはそのような作用がみられな
かった。しかし,原子吸光分析用標準液は必ずしも高い価数の金属
で構成されているわけではなく,原告自身の経験や理論から不可解
な結果もみられ,また,原子吸光分析用標準液の原料を調査した結
果,バナジウム標準液はバナジン酸アンモニウム,マンガン標準液
は酸化力のない二価の硝酸マンガンであったので,原告は,原告の
大学時代の卒業論文「無水酢酸を溶媒としたo−キシレン,o−ト
リイル酸の酸化」の知見を基に,Bに対し,コバルト,マンガン,
セリウムについて価数を変えて追加実験するよう指示をした。
原告は,同月15日,Bから,コバルト,マンガン,セリウムに
ついて各3種類の金属とBが自主的に行った数種の金属についての
実験結果(乙1の5の実験データ)を受領した。この実験結果から,
三価のマンガンについてバナジン酸に次ぐ酸化力が認められたの
で,三価のマンガンとバナジン酸について既存の酸化剤(過マンガン
酸カリ,銅,鉄,フェリシアン化カリ,●(省略)●等)との比較を
Bに指示をした。
原告は,同月16日,Bから,既存の酸化剤を含めた確認実験の
結果(乙1の6の実験データ)を受領した。この実験結果から,バナ
ジン酸,三価のマンガンに既存の酸化剤に比べ,優位な酸化力が認
められた。
bこのように,バナジン酸と三価のマンガンの有効性は,本件発明
に関し本格的に検討を始めた最初の2回(2月14日,15日)の
実験結果で明らかになった。本件発明に関し,原告にとって事前に
知見がなかったのは,バナジン酸がビリルビンを酸化することのみ
であり,マンガンについては前記(イ)のカフェインにマンガンが混
入した件から事前に知見があり,他の点についても複数の実績や知
見があった。
そして,この段階で,原告は,以後の検討方針として,以下のよ
うな着想を持ち,この着想に従って,引き続きBに指示をして実験
を継続した。
①バナジン酸又は三価のマンガンについてpHの影響を確認し,
pHを仮設定する。
②キレート剤の必要性について確認し,必要であればバナジン酸
又は三価のマンガンについて適当なキレート剤2,3種の候補を
選択する(有力候補・EDTA,1-ヒドロキシエタン1,1-ジホスホ
ン酸)。
③①の結果から,反応pHが酸性側の場合は,バナジン酸又は三
価のマンガンを使用して総ビリルビン測定のための界面活性剤に
ついてカチオン型,両性型を中心に検討し(有力候補・臭化セチル
トリメチルアンモニウム,塩化セチルピリジニウム,アルキルベ
タイン型界面活性剤),反応pHが中性以上の場合は,アニオン
型,両性型の界面活性剤を中心に検討する(有力候補・ラウリル硫
酸ナトリウム,コール酸,アルキルベタイン型界面活性剤)。
④直接ビリルビン測定において間接ビリルビンの反応抑制剤とし
て高HLBのノニオン系(非イオン型)の界面活性剤の効果を確
認する(有力候補・TritonX-405,エマルゲン985)。
⑤④の界面活性剤のみで間接ビリルビンの反応抑制が不完全であ
る場合,過剰の酸化剤の吸収剤(還元剤)を検討する(有力候補・ヒ
ドラジン,ヒドロキシルアミン)。
(オ)a原告は,上記着想に基づいて,Bに指示をして実験等を行った
結果,平成2年9月ころまでに,本件発明を完成させた。
本件発明を完成させるに当たり,バナジン酸と三価のマンガンが
ビリルビンの酸化剤として有効であることを確認した後,直接ビリ
ルビンと間接ビリルビンとを分別測定するための課題が残されてい
たが,次のような経緯で,この課題を解決した。
通常,間接ビリルビンは直接測定できないため,直接ビリルビン
と間接ビリルビンの合計である総ビリルビンと直接ビリルビンをそ
れぞれ測定して,間接ビリルビン量は,総ビリルビン量から直接ビ
リルビン量を差引計算して求めていた。具体的には,総ビリルビン
測定及び直接ビリルビン測定のいずれにおいても,試料(検体)に
pH2.9である緩衝液(第1試薬)を加えて攪拌し5分後に吸光度
を測定した後,バナジン酸を溶解したpH7.0の緩衝液(第2試
薬)を加えて5分後に再び吸光度を測定して,その吸光度差からビ
リルビン濃度を求めていた。両者とも,第2試薬にバナジン酸を使
用することでは共通しているが,総ビリルビン測定では,第1試薬
に間接ビリルビンの反応促進剤として公知のカチオン型の界面活性
剤を添加していた。
ここで,新たに問題となったのは,第2試薬を添加して直接ビリ
ルビンを酸化した後,酸化剤であるバナジン酸が残留していると,
徐々に間接ビリルビンも酸化されるので,直接ビリルビンだけの正
確な測定ができないことである。
この問題について,原告は,第2試薬を分注し,酸化反応速度の
速い直接ビリルビンを先に酸化した後に,徐々に酸化する間接ビリ
ルビンの反応を抑制するため,過剰の酸化剤を速やかに吸収する還
元剤を第3試薬として添加すれば解決すると考えた。しかし,当時
の自動分析装置は,現在と同じく,2液型で3液の試薬は使用でき
ないものであったため,酸化剤を添加する前の第1試薬中に還元剤
を入れる必要があった。
そのため,この還元剤には,第2試薬であるバナジン酸の酸化力
との関係で,直接ビリルビンより反応が遅く,間接ビリルビンより
反応が速いという限られた条件を満足させ,かつ,長期間安定であ
るという条件が要求され,直接ビリルビン測定における第1試薬中
に入れる還元剤の種類,量,反応条件,安定化条件の検索・掌握が
ポイントになった。このように過剰の酸化剤をあらかじめ第1試薬
に添加した吸収剤(還元剤)で除去する技術は,原告が発明し,既
に実用化されていたクレアチニンの定量方法(甲12,13)を応
用したものであった。
そして,原告は,各種の実験を行った結果,還元剤としては,塩
酸ヒドロキシルアミンが好ましく,また,この塩酸ヒドロキシルア
ミンは酒石酸緩衝液に溶解したときが最も安定化すること,間接ビ
リルビンの保護材としてHLB値(親水親油バランス)の高い非イ
オン型の界面活性剤等を用いると,更に特異性が増強されることを
見いだし,本件発明を完成させた。
本件日本特許の請求項2記載の「ヒドラジン類,ヒドロキシルア
ミン類,オキシム類,脂肪族多価アミン類,フェノール類,水溶性
高分子及びHLB値が15以上の非イオン型界面活性剤」は,いず
れも原告が具体名を挙げてBに指示して実験させたものである。
例えば,原告は,平成2年3月15日ころ,Bに対し,「ヒドラ
ジンでもいれるか。」と話し,還元剤の添加を検討するよう指示を
し,同年4月10日,還元剤の追加として,ヒドラジンより若干還
元力の強い,ヒドロキシルアミンの検討をBに指示し,同年5月1
7日,ヒドロキシルアミンの有効性を確認した。
b臨床診断薬の開発はキレート剤,界面活性剤など他の分野では使
用する機会が少ない素材を扱うため,技術,知識の積み重ねが大事
である。臨床診断薬開発の経験がない者が独力で有効な新規素材を
見つけることは極めて稀であり,まして今まで知られていなかった
新規反応を見つけ出すこと及びそれを商品化することは極めて至難
である。
Bは,原告が本件発明の開発に着手した当時,被告に入社後6か
月の段階で,出身学部も農学部であり,学生時代には自動分析用臨
床生化学診断薬とは無縁の研究を行っており,Bにとってビリルビ
ン測定は初めての経験であり,原告の詳細な実験指示がなければ,
原告の着想の具体化はあり得ない状況であった。
イ本件発明後の事情
本件特許出願がされた平成2年当時,一般に職務発明における「発明
者」の定義が被告社内でも不明瞭で,関係者は皆発明者として記載する
のが慣例であった。そのため,本件発明の補助者にすぎないBも,原告
の指示に従って実験を行ったという限度で関係者であったことから,本
件特許の各特許公報に「発明者」として加えられることになったもので
ある。
ウ被告の主張に対し
被告は,後記のとおり,原告が指示をした原子吸光分析用標準液を用
いたスクリーニングの実験は,平成2年2月16日に行われた旨主張す
る。
しかし,被告から提出された実験データ(乙1の7の2)の日付は「
’90.2.17」とあるが,原告が当時コピーをとって保管していた
実験データ(甲36)の日付は「’90.2.14」となっており,同
じデータ集の日付が相互に異なるのか理由は不明であるが,いずれにせ
よ,両データとも日付の筆跡はBのものであり,少なくとも2月14日
の時点でバナジン酸に突出した酸化力が認められていたことは明らかで
ある。なお,2月17日は土曜日で,被告の休業日であり,休業日に実
験データをまとめることは不自然である。更に,他に証拠として提出さ
れた実験データに休業日の日付になっているものはない。
また,原子吸光分析用標準液を用いたスクリーニング実験では,フェ
リシアン化カリウムにつきスクリーニング試験をしているが,これが2
月16日に行われた実験であるとすれば,フェリシアン化カリウムにつ
いては既に2月15日及び16日の前半に実験を実施しているので,標
準液のスクリーニングに加える必要はなく不自然であるなど,被告の上
記主張は理由がない。
エ小括
以上のとおり,本件発明は,原告の単独発明であり,Bは,原告の補
助者であって,共同発明者ではない。
(2)被告の反論
特許法2条1項は,「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想の創
作のうち高度のもの」をいう旨規定していることから,「発明者」といえ
るためには,当該発明の技術的思想の創作行為に現実に加担したことが必
要である。
本件発明の技術的思想は,以下のとおり,被告の従業員のBが着想し,
具体化したものであって,本件発明の技術的思想の創作行為を現実に行っ
たのはBであり,一方,Bの上司であった原告は,本件発明に関し,一般
的な管理をした管理者にすぎないから,本件発明は,Bの単独発明であ
り,原告は本件発明の発明者ではない。
ア本件発明の技術的特徴
本件発明の主たる技術的特徴は,バナジン酸ナトリウム(又は三価の
マンガンイオン)を直接ビリルビンの測定時及び総ビリルビン(直接及
び間接ビリルビン)の測定時の酸化剤として用いる点(本件日本特許の
請求項1に係る発明)にある。
また,本件発明の従たる技術的特徴は,直接ビリルビンのみを酸化す
るためには,間接ビリルビンの反応を抑制しなければならないところ,
上記酸化剤を用いる際に間接ビリルビンの反応を抑制するのに適した反
応抑制剤を選択した点(本件日本特許の請求項3に係る発明)にある。
イ本件発明の完成に至る経緯
(ア)従来,ジアゾ法がビリルビンの測定方法として一般的に使用さ
れ,被告においても,ジアゾ法によるビリルビン測定試薬を製造販売
して来た。
ジアゾ法は,ビリルビンをジアゾベンゼンスルホン酸によりジアゾ
化」(アゾカップリング反応)し,アゾビリルビンを生じさせ,アゾ
色素による溶液の色の変化の程度を吸光度計で測定し,測定された吸
光度の差からビリルビンの量(濃度)を測定する方法である。
ジアゾ法による直接ビリルビンと間接ビリルビンとの分別定量は,
①まず,ジアゾベンゼンスルホン酸が直接ビリルビン(主にグルクロ
ナイド抱合型)とは直ちに反応するが,間接ビリルビン(遊離型)と
は容易に反応しないことを利用して,直接ビリルビンの量のみを測定
する,②次に,界面活性剤,カフェイン,メタノール,ダイフィリン
など反応促進剤を添加することにより,ジアゾベンゼンスルホン酸
は,直接ビリルビンとのみならず,間接ビリルビンとも反応すること
を利用して,総ビリルビンの量を測定する,③そして,測定された総
ビリルビンの量から直接ビリルビンの量を減じることにより,間接ビ
リルビンの量を算出するというものである。
このようにジアゾ法が一般的に使用されている中で,日本商事が,
昭和60年ころ,ビリルビンオキシダーゼ(BOD又はBOX)とい
う酵素を用いた酵素法によるビリルビン測定試薬(商品名「ネスコー
ト」)を開発し,その販売を開始した。日本商事の酵素法試薬は,ビ
リルビンオキシダーゼが,pH3.6の条件においては,直接ビリル
ビンと特異的に酵素反応をし,pH7.2付近の条件においては,直
接及び間接ビリルビンの双方と酵素反応をすることを利用して,直接
ビリルビンと間接ビリルビンとの分別定量するというものである。な
お,日本商事は,この酵素法試薬に関し,発明の名称を「酵素法によ
る直接ビリルビン測定用試薬および測定法」とする特許(特公昭61
−44000号公報(乙5)に記載の特許出願に係るもの)を取得し
ている。
(イ)a日本商事は,酵素法試薬の販売開始後,ビリルビン測定試薬市
場におけるシェアを伸ばし,平成2年ころには,そのシェアが売上
高ベースで50%近くまで達していた。
このような市場状況を踏まえて,原告と当時の被告の試薬事業部
開発部メンバーとの協議により,被告における平成2年度の研究開
発計画のテーマとして,酵素法によるビリルビン測定試薬の研究開
発を提案した。
原告は,上記提案に先立つ平成元年12月ころ,東京研究所で,
酵素に関連する試薬の研究を主として担当していたBに対し,酵素
法によるビリルビン測定試薬の研究開発をするよう指示をした。原
告の指示は,日本商事の直接ビリルビンの測定方法に関する特許
が,「pH3.5∼4.5の緩衝液にビリルビンオキシダーゼを配
合したこと」(乙5の請求項1)を特徴としていたことから,この
pHの範囲を少しはずしたpHで酵素反応をするものを開発するこ
とのみであった。
bBは,このような原告の指示を受けて,平成2年に入り本格的に
実験を開始した。しかし,「pH3.5∼4.5」の範囲を少しは
ずしたpHにおける条件では良好な実験結果が得られなかった。そ
こで,Bは,大幅にpHの値などが異なる条件下において,酵素反
応に適した試薬組成を見つけなければ,酵素法によるビリルビンの
測定試薬の新たな開発は困難ではないかと考え,同年2月初めこ
ろ,そのような大幅にpHの値などが異なる条件下での実験を進め
ることを原告に提案した。しかし,原告は,Bの提案を聞き入れよ
うとしなかった。
一方で,Bは,酵素法の実験を重ねるうちに,日本商事の酵素法
試薬は,ビリルビンオキシダーゼの至適pH(酵素反応が最適に進
行するpH)から大きくはずれた「pH3.6」で直接ビリルビン
と反応させているにもかかわらず,直接ビリルビンとの反応は,ほ
とんど瞬時に終了しており,このような実験結果は,酵素反応の常
識からは大きくはずれていること,日本商事の酵素法試薬は銅イオ
ンを含んだ溶液によくみられる青みがかった色をしていること,日
本商事の研究者がカナダの専門誌に投稿した酵素法に関する論文(
乙6)に少量の銅イオン(硫酸銅)が添加されている旨記載があっ
たことなどから,不自然に早い直接ビリルビンとの反応は,実際は
酵素によるのではなく,銅イオンによる化学的な酸化反応によるも
のではないかと推論した。
Bは,同月8日及び9日,原告が大阪出張で不在時に,自分の推
論が正しいかどうかを確認するため,日本商事の酵素法試薬につい
て,何の処理もしていない試薬による反応と酵素を失活させる処理
をした試薬による反応を対比する実験を行った。その結果,いずれ
の反応にも,ほとんど差違はみられなかった(乙1の4の実験デー
タ)。
このような実験結果から,Bは,日本商事の酵素法試薬は,実際
は酵素反応によりビリルビンを酸化させるものではなく,ビリルビ
ンオキシダーゼを含む溶液に含まれている銅イオンによりビリルビ
ンを酸化させる化学的酸化法であることを確信した。
しかし,Bは,原告からの指示はあくまで酵素法によるビリルビ
ン測定試薬の研究開発であり,しかも,その開発方針をめぐり意見
が対立していたので,原告に対し,Bが確信した内容を主張するた
めには,十分なデータを示す必要があると考え,原告に報告しなか
った。
Bは,日本商事の酵素法試薬に含まれている銅イオン以外の重金
属イオンの中には,ビリルビンを酸化させて,ビリルビン量の測定
をするのに,銅イオン以上に適したものがあるのではないかと考
え,同月15日から16日にかけて,重金属イオンの中からビリル
ビンの酸化剤として使えそうなものをいくつか選び出し,スクリー
ニング実験を行った。この実験の結果(乙1の5の実験データ及び
乙1の6の実験データ),Bは,重金属イオンの中でもバナジン酸
イオン,三価のマンガンイオンがビリルビンの酸化剤として銅イオ
ンよりも有効であることを発見し,これらの金属イオンを酸化剤と
して用いた総ビリルビンの測定が可能であることを確信するととも
に,これらの金属イオンは間接ビリルビンの酸化反応が弱いことか
ら,直接ビリルビンを測定する際に間接ビリルビンの反応抑制剤を
特定して組み合わせれば,直接ビリルビンと間接ビリルビンとの分
別定量する,新たなビリルビン測定試薬を実用化することができる
ことを確信した。この時点で,本件発明の技術的思想の主たる特徴
的部分(請求項1に係る部分)は完成した。
Bは,2月16日,このような実験結果及びBの新たなビリルビ
ン測定試薬についての構想を原告に報告した。
これに対し原告は,Bが同月15日及び16日の実験を行う際
に,自分で重金属イオンを調製していたのを見て,Bに対し,自分
で調製しなくても,原子吸光分析用標準液を使用すれば,簡単に金
属イオンのスクリーニングができる旨を述べたものの,酵素法の開
発を主として実験を進めるように指示した。
Bは,同日,原告の指示に従い,相当多数の種類の重金属イオン
について,原子吸光分析用標準液を用いたスクリーニング実験(同
日2回目の実験)を行い,翌17日に,その実験結果を自宅でまと
めた。しかし,Bが前日の15日及び当日の16日に先行して行っ
た実験で当たりを付けて試してみたバナジン酸イオンや三価のマン
ガンイオンを超えるものはなかった(乙1の7の2の実験デー
タ)。
cそして,Bは,平成2年3月20日から23日まで行った実験結
果から,間接ビリルビンの反応抑制剤について,塩酸ヒドラジンが
有用であることを確認したほか,オキシム類,フェノール類,水溶
性高分子などが使用可能であることを確認した。その後,Bは,脂
肪族多価アミン類なども間接ビリルビンの反応抑制剤として使用可
能であることを確認するなどの試行錯誤を経て,同年5月17日に
塩酸ヒドラジンと同等の効果を得られるものとして,塩酸ヒドロキ
シルアミンが有用であることを確認した。これにより,バナジン酸
イオンによるビリルビンの酸化という本件発明の技術的思想の主た
る特徴的部分と組み合わせるべき間接ビリルビンの反応抑制剤を特
定するという技術的思想の従たる特徴的部分(請求項3に係る部
分)も完成した。
一方,原告が間接ビリルビンの反応抑制剤について積極的な提案
をした事実はない。
ウ本件発明後の事情
(ア)本件特許の各特許公報の「発明者」欄には,いずれも原告及びB
の2名が発明者として記載されている。
しかし,上記「発明者」欄に原告の氏名が記載されたのは,①本件
日本特許に係る「特許出願依頼書」(甲32)及び本件発明の特許を
受ける権利の「譲渡証」(乙10)に原告の氏名が記載されていたこ
と,②当時の被告の特許課とのやり取りは,原告がもっぱら窓口とし
て対応していたこと,③当時の被告の特許課は,発明者を誰にするか
については,研究所の関係者の自主的な判断に任せ,また,当時の研
究所においては,単なる管理職についても発明者として申告すること
もみられたこと,④原告が事実上の管理職としてBによる本件発明
を「特許出願依頼書」(甲32)の形式にまとめるに際し,自己の氏
名を発明者として記載したことによるものである。
(イ)また,原告自身,本件発明はBの発明であるとの意識があったた
め,「特許出願依頼書」(甲32)及び「譲渡証」(乙10)のいず
れにおいても,Bを「発明者」欄の筆頭に記載している。その後も,
本件発明に関する最初の論文(乙11)は,Bが単独で公表してい
る。
エ原告の主張に対し
(ア)原告は,「’90.2.14」の日付の記載のある実験データ(
甲36)を書証として提出し,Bが原子吸光分析用標準液を用いた重
金属(重金属イオン)のスクリーニング実験を行ったのは,被告が主
張する同月16日ではなく,同月14日以前である旨主張する。
しかし,原子吸光分析用標準液を用いた重金属イオンのスクリーニ
ング実験が原告が主張するように平成2年2月14日以前にされたと
すると,実験の順序の合理的な説明が付かないなど,多くの不自然な
点がある。
すなわち,Bは,重金属イオンのスクリーニング実験は,初めて取
り組む実験であり,予測できない要素があることから,まず,2月1
5日に,銅イオンと同等の酸化力がありそうなものをいくつか試薬棚
から取り出して,「分光光度計」を使い,その金属化合物の溶液の入
った試験管をマニュアルで1本ずつ反応を見ながらデータを採取する
最初のスクリーニング実験を行った(乙1の5の実験データ)。その際
には,「三価のマンガンイオン」及び「メタバナジン酸イオン」も含
まれていた。Bは,2月16日に,前日の実験において良好な結果が
得られた「フェリシアン化カリウム」,「酢酸マンガン(3
価)」,「コバルト(3価)アセチルアセトン」,「メタバナジン酸
ナトリウム」について,自動分析装置を用いて,実験データを採取す
る補充実験を行うとともに,試されていないものについても,金属イ
オンの範囲を広げて実験をした(乙1の6の実験データ)。そして,
原告がわざわざ原子吸光分析用標準液を取り出して来て,Bの前に置
いたので,Bは,自動分析装置を用いて,原子吸光分析用標準液の実
験を上記補充実験の後に行った。この原子吸光分析用標準液の実験
は,試薬の調製をする必要がないために,それほど手数がかからず,
時間も比較的短い時間で終えることができた。それでも,上記補充実
験の後に実施したため,2月16日当日の午後8時ころまで実験に時
間がかかっている。そのため,Bは実験データを自宅に持ち帰り,翌
2月17日に実験データをまとめた(乙1の7の2の実験データ)。
原告の主張によれば,原告は,2月14日の段階で,どのような反
応をするかも分からないまま,Bに対し,いきなり相当多数の種類の
重金属イオンについて原子吸光分析用標準液を使用した実験をするよ
うに指示したというものであり,それ自体不自然であるのみならず,
2月15日及び16日には,原告の主張する2月14日の実験結果の
良好なものが多数実験されていない一方で(例えば,「●(省略)
●」,「●(省略)●」,「●(省略)●」,「●(省略)●」,「
●(省略)●」),良好でないものが多数実験されたこととなり(例
えば,「コバルト」,「セリウム」,「●(省略)●」,「●(省
略)●」及び「二価のマンガン」),実験の順序が不自然,不合理で
ある。このように2月15日の実験及び16日の実験よりも前に,原
告の主張する2月14日の原子吸光分析用標準液を使用した実験が行
われたとは考え難い。
また,原告の主張する2月14日の実験が同日以前に行われたとす
る証拠は,「’90.2.14」と記載のある実験データの写し(甲
36)のみである。しかし,被告が保管していた実験データ(乙1の
7の2)の原本には,明らかに「’90.2.17」と記載されてお
り,原告が提出した上記実験データの写しが,一体,いつ,どこで,
どのようにして作成されたのかは,全く謎である。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(イ)原告は,間接ビリルビンの反応抑制剤としての塩酸ヒドラジンも
塩酸ヒドロキシルアミンも,いずれも原告が着想し,原告の指示に基
づいて実験がされた旨主張する。
しかし,平成2年5月の月報用にBが作成した報告書(乙24の
2)には,塩酸ヒドラジン及び塩酸ヒドロキシルアミンの詳細な実験
データを挙げて,これらの添加で間接型の反応をかなり抑制できるこ
とを見いだしたこと,間接ビリルビンの反応抑制剤の候補として,ま
ず,「塩酸ヒドロキシルアミン」を挙げているのに対し,原告が作成
した同月の月報の表紙部分(乙24の1)には,塩酸ヒドロキシルア
ミンについて何ら言及されておらず,バナジン酸の予定処方について
も,「塩酸ヒドラジン」が挙げられているのみである。
また,平成2年6月の月報用にBが作成した報告書(乙25の2)
には,「2.試薬組成」として,既に「ヒドロキシアミンHCl」の
みを記載し,塩酸ヒドロキシルアミンの安定性が確認されれば,「液
状での供給も考えられる」とし,かつ,「特許申請に向けて必要デー
タをそろえる。」との記載があり,「ヒドロキシルアミン」は,既に
間接ビリルビンの反応抑制剤として最終的なものと位置付けている。
一方で,原告が作成した同月の月報の表紙部分(乙25の1)に
は,「ヒドロキシルアミン」については,●(省略)●との反応によ
り直接ビリルビンが高値となることに言及しているのみであり,バナ
ジン酸予定処方についても,後から手書きで「塩酸ヒドロキシルアミ
ン」と訂正しているにすぎない。
このように原告が塩酸ヒドロキシルアミンの実験を指示したとの原
告の主張と,塩酸ヒドロキシルアミンについて極めて無関心な当時の
月報(平成2年5月及び6月の月報の表紙)の記載とは全く符号しな
い。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
オ小括
以上のとおり,Bは,本件発明の技術的思想を着想し,具体化し,本
件発明の技術的思想の創作に現実的な加担をしたものである。
一方,原告の関与は,Bからバナジン酸イオン(又は三価マンガンイ
オン)がビリルビンの酸化剤として有用である旨の報告を受けた際に,
原子吸光分析用標準液を用いれば,重金属スクリーニング実験が容易で
ある旨の助言をしたにとどまり,これは,技術的思想の創作というより
は,単なる実験方法についての助言にすぎないし,また,原告は,間接
ビリルビンの反応抑制剤について積極的な提案をした事実はなく,本件
発明の技術的思想の創作に現実的な加担をした事実はない。
したがって,本件発明は,Bの単独発明であり,原告は,本件発明の
発明者ではない。
2争点2(相当の対価の額)について
(1)原告の主張
ア本件発明についての特許を受ける権利の譲渡
前記1(1)のとおり,原告は本件発明の発明者であるところ,本件発明
は,その性質上被告の業務範囲に属し,かつ,原告が発明をするに至っ
た行為が被告における原告の当時の職務に属するものであるから,特許
法35条1項所定の職務発明に該当する。
原告は,平成2年10月30日までに,被告規程に基づいて,被告に
対し,本件発明についての特許を受ける権利(外国の特許を受ける権利
を含む。)を譲渡した。
したがって,原告は,被告に対し,特許法旧35条3項に基づき,本
件発明についての特許を受ける権利の譲渡に係る相当の対価(以下「本
件発明に係る相当の対価」という。)を請求することができる。
イ相当の対価の算定方法
(ア)総論
a本件発明は,ビリルビンの測定方法という「方法の発明」である
ところ,「方法の発明」にあっては,その方法を使用する行為が発
明の実施に当たる。
ところで,被告が製造販売する本件試薬は,本件発明に係る方法
の使用にのみ用いる物ではあるが,本件試薬を用いて本件発明に係
る方法を使用するのは,被告ではなく,あくまで本件試薬を購入し
た第三者(検査機関)であることに照らすならば,被告による本件
試薬の製造販売は,本件発明の自己実施に当たらない。
一方で,被告は,本件試薬の購入者が本件発明に係る方法に使用
することを前提に本件試薬を販売しているのであるから,本件試薬
を販売するに当たり,その購入者に対し,本件発明の実施を黙示に
許諾しているものと考えられる。
したがって,本件試薬の販売価格には,実質的にみて本件発明の
実施許諾に基づく実施料が含まれており,この実施料収入分が,本
件特許権に基づく「独占の利益」に当たるというべきである。そし
て,上記実施料収入分(「独占の利益」)は,本件試薬の売上高
に「仮想ライセンス料率」を乗じて求めることができる。
そうすると,本件発明に係る相当の対価は,①(特許権存続期間
における本件試薬の総売上高)×②(仮想実施料率)×③(発明者
貢献度)×④(発明者間の寄与割合)の算式によって算定すべきで
ある。
b被告は,後記のとおり,本件発明に係る相当の対価の算定に当た
り,本件試薬の売上高に占める「超過売上高の割合」を考慮すべき
である旨主張する。
しかし,前記aのとおり,本件試薬を用いて本件発明に係る方法
を使用するのは,あくまで本件試薬を購入した第三者(検査機関)
であって,被告は本件発明を自己実施していないから,特許権者が
自己実施している場合の「超過売上高の割合」を本件発明に係る相
当の対価の算定に当たり考慮する必要はない。
また,仮に本件試薬の売上高に占める「超過売上高の割合」を考
慮するとしても,被告が主張するようなジアゾ法の市場占有率を超
えた分を超過売上高とするのは適当ではなく,本件試薬で用いるバ
ナジン酸法の市場占有率(甲34等)を基にして算定すべきであ
る。
(イ)本件試薬の総売上高
平成5年10月1日から平成23年9月30日(本件特許権の存続
期間満了日の1か月前)までの間の本件試薬の総売上高は,少なくと
も68億1840万円となる。
すなわち,本件試薬の売上高(国内販売額及び輸出額。以下同
じ。)は,平成5年10月1日から平成6年9月30日までの間は少
なくとも2億円,平成6年10月1日から平成19年9月30日まで
の間は少なくとも毎年4億円であったから,平成5年10月1日から
平成19年9月30日までの売上高は合計54億円を下らない。
また,平成19年10月1日から平成23年9月30日までの4年
間の売上高は,少なくとも毎年4億円と見込まれ,その合計額は16
億円となるが,中間利息を控除して平成19年9月30日の時点にお
ける売上高に換算すると,14億1840万円(計算式・4億円×
3.5460)となる。
そうすると,平成5年10月1日から平成23年9月30日までの
間の本件試薬の総売上高は,少なくとも68億1840万円(計算式
・54億円+14億1840万円)となる。
(ウ)仮想実施料率
a本件発明は,部分的な改良法とは異なる基本的な発明であって,
従来,臨床検査に使用されたことのないバナジン酸を酸化剤として
使用する画期的な発明であり,本件特許は,臨床検査薬の基本的特
許であり,その価値は非常に高いものと評価できる。
一方,本件試薬は,低コストで生産できる非常に安価なものであ
り,本件試薬自体に,それほどの価値を見いだせないから,本件試
薬の販売価格には,本件特許の価値(実施料)を多く含むものとい
える。
加えて,本件特許のような臨床検査薬の基本的特許についての仮
想実施料率を算出するに当たっては,本件特許と同格の臨床診断薬
に関する基本的特許についての実施料率を参考にして,仮想実施料
率を算出すべきであると考えられるところ,被告においては基本的
特許について他社に実施許諾をした例はないが,被告が他社から実
施許諾を得た例(甲48)が参考となること,本件試薬の購入者
は,本件試薬の販売価格よりもはるかに高額の検査料金を得て本件
発明を実施していることなどを総合考慮すると,本件試薬の販売価
格に含まれる実施料(仮装実施料)は,本件試薬の販売価格の20
%を下らないというべきである。
b被告は,後記のとおり,被告が過去にライセンス契約を締結した
特許権(10件)のライセンス実施料率の平均値2.85%をもっ
て本件特許権の仮装実施料率とすべきである旨主張する。
しかし,被告は試薬,化成品,臨床検査薬の3部門からなり,工
業用原料である化成品の場合は通常実施料率は2%程度であるが,
医薬品である臨床検査薬の場合は部分的改良法の場合でも5%程度
であり,各部門によって率に大きな隔たりがあること,本件特許
は,臨床検査薬の基本的特許であるのに,基本的特許であるかどう
か問わずに,被告が主張するような実施料率の平均値を用いること
に合理性はないことに照らすならば,被告の主張は理由がない。
(エ)発明者貢献度
a本件発明は,これまで臨床検査に使用されたことのないバナジン
酸を使用する画期的なものであって,発明者である原告の独創性が
なければ行うことができなかったから,原告の本件発明に対する貢
献は絶大なものである。本件発明に係るバナジン酸法の試薬組成の
中で,被告が従来から製造販売していたジアゾ法によるビリルビン
測定試薬に使用していた物質は,金属キレート剤として一般的で,
汎用されているEDTAのみであり,被告において長年にわたり蓄
積されてきたジアゾ法の技術は,本件発明では使用されていない。
また,原告は,本件発明に関する論文を学会誌(甲4)に投稿し
たこと,被告の営業部は,当該学会誌の別刷りを用いて本件試薬の
販売促進のための営業活動を行っていたことからすれば,原告は,
被告の販売活動についても大きな貢献を果たして来た。
b被告は,本件発明について研究施設,研究開発のための機器及び
実験用材料の提供をした。
しかし,原告が本件発明のために使用した研究施設は,東京研究
所の研究実験室のみであり,使用した検査機器は,旧式の自動分析
機(当時の時価約400万円),他の用途にも利用している分光光
度計(購入費約500万円)及びpHメーター(購入費約20万
円)及び天秤(購入費約30万円)のみである。
被告が提供した実験用材料は,大半が被告の製品であって安価な
ものであり,他社から購入した材料は少なく,本件発明に費やした
期間に使用した材料費は,合計100万円程度である。
また,被告は,本件発明の商品化に際し,開発部,製造部,営業
部,薬事部及び特許部が新製品の商品化の際に通常行う業務を行っ
たのみで,特別な貢献はしていない。すなわち,被告の営業部にお
いては,本件試薬について通常の新製品の発売と同様の活動をした
のみで,講演会や学会開催時のランチョンセミナー(昼食付セミナ
ー)等の宣伝活動は一切行っていないし,開発部,薬事部,特許部
も同様に特別な経費をかけていない。
さらに,被告は,本件試薬の製造に当たって特別に製造設備を新
設したり,改造したことはなく,従来の汎用設備(被告の三重工
場)で本件試薬の製造を行っている。
c以上によれば,本件発明についての発明者貢献度は,30%を下
ることはない。
(オ)発明者間の寄与割合
Bの本件発明への具体的な関与は,Bが被告に入社後6か月目位か
ら,原告の指示に従って実験を行い,データをまとめ,資料を作成し
たにすぎず,また,学会発表等も全て原告の指示に基づいて行ったと
いうにとどまる。
このようにBは,原告の補助者として位置づけられるものであっ
て,本件発明の共同発明者に該当せず,原告が本件発明の完成に寄与
した割合は100%である。
(カ)本件発明の価値比率
被告は,後記のとおり,本件試薬の総売上高における本件日本特許
の請求項3に係る発明(直接ビリルビンの測定方法)の価値比率が9
分の1である旨主張する。
しかし,健康診断や一次スクリーニング試験では総ビリルビンのみ
測定する場合が多く,総ビリルビン測定試薬の方が,直接ビリルビン
測定試薬より販売額が多くなるものの,二次検査以降では間接ビリル
ビンの値が必要となるため,直接ビリルビンが測定できないビリルビ
ン測定試薬は商品価値が著しく劣り,直接ビリルビン測定試薬がなけ
れば,総ビリルビン測定試薬の販売額も著しく低下するのであるか
ら,被告の上記価値比率の算出は市場の実態とかけ離れており,妥当
でない。
ウ相当の対価の額
前記イを前提に,本件発明に係る相当の対価の額を算定すると,4億
0910万4000円となる(計算式・68億1840万円(本件試薬
の総売上高)×0.2(仮装実施料率)×0.3(発明者貢献度)×
1(発明者間の寄与割合))。
そして,原告は,被告から本件発明についての補償金として合計1万
8000円の支払を受けているから,被告が原告に支払うべき上記相当
の対価の不足額は,4億0908万6000円となる
エ小括
よって,原告は,特許法旧35条3項に基づき,被告に対し,本件発
明に係る相当の対価の不足額4億0908万6000円の一部である1
億円及びこれに対する平成19年12月8日(訴状送達の日の翌日)か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め
る。
(2)被告の反論
ア相当の対価の算定方法に対し
(ア)総論
本件発明に係る相当の対価は,①(特許権存続期間における本件試
薬の総売上高)×②(超過売上高の割合)×③(仮想実施料率)×
⑤(発明者貢献度)×④(発明者間の寄与割合)の算式によって算定
すべきである。
原告は,②(超過売上高の割合)について,本件発明は方法の発明
であり,本件発明を実施するのは検査機関(病院)であって,被告が
自己実施する余地はないから,これを考慮すべきでない旨主張する。
しかし,職務発明においては,特許法35条1項に基づく通常実施権
が使用者に帰属し,使用者はこの通常実施権により発明を適法に実施
することができるものであり,この通常実施権により適法化される行
為には,方法の発明についていえば,①方法の発明自体を直接に実施
する行為のみならず,②方法の発明の実施にのみ用いられる物を生産
し,供給するという間接に発明を実施する行為(特許法101条4
号)が含まれるというべきである。
したがって,職務発明により使用者等が受けるべき「独占の利益」
が間接に発明を実施する行為において生じている場合には,いわば間
接実施行為において「通常実施権」に基づく実施分を観念することが
できるから,そのような通常実施権に相当する実施分を控除するため
に「超過売上高の割合」を考慮することは,法が当然に予定している
というべきであり,原告の上記主張は理由がない。
(イ)本件試薬の総売上高
原告主張の本件試薬の総売上高68億1840万円については,認
める。
(ウ)超過売上高の割合
被告は,昭和の終わりから平成の初めころにかけて,ジアゾ法によ
るビリルビン測定試薬について,年1億9000万円の売上げを計上
し,市場占有率約20%(乙8の2)を得ていた。ジアゾ法自体は自
由技術であるので,この市場占有率は,被告の営業力や暖簾によるも
のといえるから,被告が本件発明を実施するに当たり,すべての競業
他社に無償で本件発明の実施を認めたとしても,被告の営業力や暖簾
により通常実施権に基づく実施の範囲において確保することができた
割合とほぼ等しいとみなしてよい。
その後,被告は,平成14年ころには,バナジン酸法による総ビリ
ルビン測定試薬につき33.1%,同直接ビリルビン測定試薬につき
28.6%の市場占有率を得ていた(乙27)。総ビリルビン測定試
薬と直接ビリルビン測定試薬とでは,単価はそれほど変わらないが,
総ビリルビンのみを検査することも広く行われており,総ビリルビン
測定試薬の売上が直接ビリルビン測定試薬の売上げのほぼ2倍となっ
ている。
そこで,平成14年における総ビリルビン測定試薬市場における市
場占有率と直接ビリルビン測定試薬市場における市場占有率とを,売
上げが2対1の比率であることを考慮し,加重平均して算定すると,
全体で31.6%となる。
(計算式・総ビリルビン及び直接ビリルビン測定試薬市場における市
場占有率={(総ビリルビン測定試薬市場における市場占有率)×2
+(直接ビリルビン測定試薬市場における市場占有率)×1)}÷3=
{(33.1%×2)+(28.6%×1)}÷3=31.6%)
そうすると,被告の本件試薬の総売上高中,本件発明による超過売
上高の割合は,36.7%となる。
(計算式・超過売上高の割合=(平成14年の市場占有率−平成元年
ころの市場占有率)÷(平成14年の市場占有率)×100%=(3
1.6−20)÷(31.6)×100%=36.7%)
(エ)仮想実施料率
a本件特許権は,既にジアゾ法という自由技術が代替技術として存
在し,現在も競業他社において使用されていること,現実に本件特
許権について実施権の許諾を求めてきた競業他社もないことなどか
ら,本件発明の実施により従来よりも被告の市場占有率が高められ
たことを考慮してもなお,その仮想実施料率は,被告の近時の実施
権許諾契約(以下「ライセンス契約」という。)における実施料率
の平均値程度にすぎないといえる。
そこで,次の①から⑤までの条件を満たす被告のすべてのライセ
ンス契約の特許権1件当たりの実施料率の平均値を採って,本件特
許権の仮想実施料率を算出すると,特許権1件当たり2.85%(
乙28)となる。
①ライセンス契約の対象が,被告が単独で保有する日本国特許権
に係るものであること。
②ライセンス契約の締結が,平成5年1月26日(本件特許出願
の出願公開日)から平成21年6月1日までの間にされたもので
あること。
③ライセンス契約に係る発明が被告との関係における職務発明で
あり,その発明者がすべて被告の従業者又は役員であること。
④ライセンス契約における実施権許諾の対価が実施料率により定
められたものであること。
⑤ライセンス契約の相手方が日本法に基づき設立された会社であ
ること。
b原告は,本件特許権の仮想実施料率は本件試薬の販売価格の20
%を下らない旨主張する。
しかし,被告を含む試薬市場における競業会社間の実施料率の実
勢値や,本件発明について代替技術となるジアゾ法が存在し,本件
特許権について実施権の許諾を求めてきた競業他社もないことなど
を考慮すれば,20%という原告の主張には何ら根拠がない。
したがって,本件特許権の仮想実施料率は,上記のとおり,2.
85%程度と考えられる。
(オ)発明者貢献度
発明者貢献度は,会社の研究環境,社内の技術の蓄積,発明者の職
務内容,発明の課題の提示の有無など発明が完成されるに至るまでの
諸般の事情と,特許権の取得,発明後の製品化,販売努力などを総合
考慮して判断すべきである。
a会社の研究環境
①試薬の研究をするための研究環境としては,被告ほど条件が整
備された施設は少ない。すなわち,被告は試薬メーカーであり,
試薬の研究に必要な素材のほとんどが東京工場内にある東部配送
センターに備えられており,本件発明に使用された極めて多種類
の試薬は,このような研究環境があればこそ,容易に入手するこ
とができたものである。また,ビリルビンオキシダーゼのような
酵素は,被告が天野製薬株式会社(以下「天野製薬」という。)
から別途調達したが,これも被告において購入することができる
だけのルートが構築されていればこそ入手することができたもの
である。
さらに,本件発明をするに当たり,高価な分光光度計や自動分
析装置を含む多くの装置及び器具が使用されているが,そのよう
な研究設備は,研究者個人において整備することはおよそ困難な
ものである。
②本件試薬は,ジアゾ法とは異なるビリルビン測定試薬である
が,ジアゾ法のみならず,およそビリルビン測定試薬の研究をす
るために不可欠である人血清を,個人が研究目的で入手すること
は容易なことではない。被告の当時の臨薬開発部門及び臨薬営業
部門による大学病院の検査センターなどとの密接なつながりがあ
ればこそ,人血清の入手可能であったといえる。
このほか,ジアゾ法の当時からビリルビン測定試薬の研究のた
めの高価な装置及び器具なども備えられていればこそ,新たなビ
リルビン測定試薬の開発が可能となったというべきである。
b発明者の職務内容及び本件発明の課題の提示
Bは,大阪府立大学農学研究科後期課程まで進学し,酵素を中心
とした生化学について教育を受けた後,被告に昭和63年4月に入
社した。このような経歴を踏まえて,Bは,被告から,平成元年1
2月末から研究に着手された日本商事の酵素法に対抗することがで
きる新たな酵素法を用いたビリルビン測定試薬の開発の指示を受け
た。最終的に被告の新ビリルビン測定試薬として開発されたバナジ
ン酸法は,酵素法には該当しないものの,新たなビリルビン測定試
薬の開発という被告の当時の開発テーマの延長線上にされたもので
ある。
このように,Bの当時の職務において,新ビリルビン測定試薬の
開発はBの職務の主たる内容をなすものであり,被告から課された
課題に応えたものにすぎない。
なお,本件発明におけるB自らの発意に基づく要素は,ビリルビ
ンオキシダーゼとビリルビンとの反応の状態から日本商事の酵素法
の本質は銅イオンにあることを見抜き,重金属イオンによる酸化法
を着想し,バナジン酸が酸化剤として有効であることを見いだした
という本件日本特許の請求項1に係る発明の点に限られる。他方,
間接ビリルビン反応抑制剤の選択という請求項3に係る発明は,バ
ナジン酸を酸化剤として用いる点が判明すれば,技術的には当業者
において当然になし得る程度の努力の範囲のものであるにすぎな
い。
c特許権の取得に向けられた努力
本件特許出願に当たり,原告は出願依頼書(甲32)を作成し,
簡単な明細書を付したが,上記簡単な明細書と本件日本特許の特許
公報(甲1)とを対比すれば明らかなとおり,大幅な改訂がされて
おり,キレート剤の点や反応促進剤としての界面活性剤の点につい
ては本件日本特許の特許請求の範囲から除外するなど,被告の当時
の特許課の努力がうかがわれる。これらは,当時の特許課の担当者
であるCが,実験データや説明が不足している点を原告に問い合わ
せながら,補充し,修正したものである。
d発明後の製品化,販売努力など
①本件発明が完成したのは,平成2年であるが,実際に製品化さ
れ,本件試薬の販売が開始されたのは,平成5年のことである。
その間,Bが発明者として必要な協力をしている。例えば,研究
所から製造部への技術移管の中心となるのは,「製剤標準書」(
乙31の1,2)であるが,その案文もBが作成したものであ
る。しかし,製品化の中心はあくまで製造部の役割である。
また,原告が研究所と製造部との間の調整などの業務に従事し
ていた可能性はあるが,そのような業務に従事することは管理職
として当然のことである。そのような業務への従事は,発明者と
しての努力というよりは,会社の組織の一員としての努力として
評価すべきであり,会社貢献度の一要素というべきである。
②本件試薬には,発明の名称を「ヘモグロビンの分解防止方法」
とする特許第1787661号(乙32の特許公報(特公平3−
56425号))を利用することにより,ヘモグロビンの溶血が
防止され,より正確な値を測定することができることが可能とさ
れている。本件試薬の商品化には,このような被告の本件発明以
外の技術による貢献も無視することができない。
③本件試薬は,販売開始後,ユーザーにおいて広く受け入れられ
た。それは,まず,被告の試薬業界における地位及び評価による
ところが大きい。すなわち,バナジン酸法というなじみの薄い化
学物質を使用しながらも,ユーザーにおいて広く受け入れられた
のは,被告の試薬メーカーとしての知名度と,生化学分野の自動
分析装置用の試薬市場において大きなシェアを有することによる
ものといえる。そのような知名度及びシェアを支えていたのは,
被告の当時の臨薬開発部門であり,臨薬営業部門である。
そればかりではなく,被告は,本件試薬を売り込むために,多
数の大学病院の検査部などで本件試薬を使用してもらい,その結
果を学会などにおいて広く公表してもらう活動をしている。その
活動の中心も,被告の当時の臨薬開発部門や臨薬営業部門であ
る。このような活動を通じて初めて,本件のビリルビン測定試薬
の有用性(例えば,酵素法試薬よりも取扱いが容易であるなど)
や測定の精度などがユーザーに認知され,売上げを拡大すること
ができたものである。
e以上のとおり,本件発明により得られた利益についての発明者の
貢献による割合は,たとえBの貢献を考慮したとしても,被告によ
る研究環境の整備の点,本件発明は会社から課された課題を解決す
るものにすぎない点,被告の当時の特許部が本件特許権の取得に向
けて努力した点,被告の試薬市場における地位及び評価などの点を
考慮すれば,3%から5%にとどまるものというべきである。
(カ)発明者間の寄与割合
a本件試薬のうち,総ビリルビン測定試薬は本件日本特許の請求項
1に係る発明のみに係り,直接ビリルビン測定試薬は請求項1及び
3に係る発明に係る。
ところで,総ビリルビン測定試薬の単価も,直接ビリルビンの単
価もほぼ同じであるにもかかわらず,総ビリルビン測定試薬の売上
げは,直接ビリルビン測定試薬のほぼ2倍であること,請求項1の
酸化剤の発明があって初めて,適当な間接ビリルビン反応抑制剤を
選択するという請求項3に係る発明があることを考えると,請求項
1に係る発明と請求項3に係る発明との双方が使用されている直接
ビリルビン測定試薬における請求項1に係る発明の価値と請求項3
に係る発明の価値との比率は,2対1程度であるといえる。
これらの事情を考慮すると,本件試薬の総売上高における本件日
本特許の請求項3に係る発明(直接ビリルビンの測定方法)の価値
比率は9分の1と算定される。
b本件日本特許のうち,請求項1に係る発明は,Bのみの着想に基
づいてされた平成2年2月15日及び16日の実験において既に完
成したものであり,この点についての原告の寄与は一切ない。
本件日本特許のうち,請求項3の間接ビリルビン反応抑制剤の選
択は,Bが自己の思考に基づいて,試行を繰り返すことにより塩酸
ヒドロキシルアミンに到達したものであり,原告の実質的な寄与は
ないと思料するものであるが,仮に原告においてBに何らかの同反
応抑制剤の選択に向けられた示唆がされていたとしても,具体的な
着想までを示したものといえるかどうかも証拠上明らかでないこと
から,原告の寄与の割合は多くとも20%にとどまるというべきで
ある。
c以上を前提とすると,本件発明全体における原告の寄与割合
は,「0%から2.22%」にすぎないというべきである。
(計算式・本件発明全体における原告の寄与割合=(請求項3の本
件発明全体(請求項1+3)における寄与割合)×(請求項3の間
接ビリルビン反応抑制剤の選択における原告の寄与割合)=(1/
9=11.1%)×(0%から20%)=0%から2.22%)
イ相当の対価の額に対し
前記アを前提に,原告の本件発明に係る相当の対価の額を算定する
と,「0円から7万9162円」となる(計算式・68億1840万
円(本件試薬の総売上高)×36.7%(超過売上高の割合)×2.8
5%(仮想実施料率)×「3%から5%」(発明者貢献度)×「0%か
ら2.22%」(発明者間の寄与割合))
第4当裁判所の判断
1前提事実
(1)前記争いのない事実等と証拠(甲1ないし24,26,28,30ない
し33,35ないし38,43,44,49,51,52,乙1ないし2
6(以上,枝番のあるものは枝番を含む。),証人B,原告本人)及び弁
論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
ア本件発明に至る経緯
(ア)背景事情等
a被告は,昭和60年以前から,ジアゾ法によるビリルビン測定試
薬を製造販売していた。その当時,ジアゾ法がビリルビン測定方法
として一般的であり,病院,登録衛生検査所等の各施設において,
ジアゾ法試薬を用いた各種ビリルビン(直接ビリルビン・間接ビリ
ルビン)の測定が行われ,その測定値が各種肝疾患の診断や黄疸の
鑑別に用いられていた。
ジアゾ法は,血清,尿等の生体体液中に含まれるビリルビンをジ
アゾ化合物と反応させて生ずるアゾビリルビンのアゾ色素による溶
液の色の変化(赤紫色の呈色)の程度を吸光度計で測定し,測定さ
れた吸光度の差からビリルビン濃度を測定する方法である。直接ビ
リルビンと間接ビリルビンの分別定量は,直接ビリルビンはジアゾ
化合物と直ちに反応するが,間接ビリルビンはジアゾ化合物と容易
に反応せず,アルコール等の反応促進剤の存在によって反応するこ
とを利用し,まず,直接ビリルビンのみを測定し,次に,反応促進
剤を添加して総ビリルビンを測定し,測定された総ビリルビン濃度
から直接ビリルビン濃度を減じることにより,間接ビリルビン濃度
を算出するというものである。
このジアゾ法には,測定試液の安定性が悪く,調整後5日程度し
か利用できないこと,試料中の共存物質により測定値が影響を受け
ること等の課題があった。
bこのようにジアゾ法が一般的に使用されている中で,日本商事
が,昭和60年ころ,酵素法によるビリルビン測定試薬(商品名「
ネスコート」)を開発し,その販売を開始した。
日本商事の酵素法試薬は,ビリルビンオキシダーゼという酵素を
用いてビリルビンを酸化させ,酸化の前後の溶液の色の変化(ビリ
ルビンの黄色の減少)の程度を吸光度計で測定し,測定された吸光
度の差からビリルビン濃度を測定する方法である。日本商事は,こ
の酵素法試薬に関し,発明の名称を「酵素法による直接ビリルビン
測定用試薬および測定法」とする発明の特許出願(出願日・昭和5
7年12月29日)をし,昭和61年9月30日に出願公告(特公
昭61−44000号)がされ,その後,特許権の設定登録がされ
た。同出願公告に係る特許公報(乙5)によれば,「本発明による
直接ビリルビンの測定」は,「pH値を3.5∼4.5に調節する
ことにより・・・間接ビリルビンは反応せず,抱合型の直接ビリル
ビンのみがほぼ完全に酸化されるため,比色定量により直接ビリル
ビンを高精度にて直接測定し得る」(2頁右欄38行∼42行参
照)というものであり,特許請求の範囲の請求項1には「pH3.
5∼4.5の緩衝液にビリルビンオキシダーゼを配合したことを特
徴とする直接ビリルビン測定用試薬」と記載されていた。
日本商事は,酵素法試薬の販売を開始した後,ビリルビン測定試
薬市場で,シェアを大きく伸ばし,他方で,被告のジアゾ法試薬の
売上げが減少した。
c被告においては,昭和60年ころから昭和61年ころにかけて,
臨床試薬の開発改良テーマの一つとして酵素法によるビリルビン測
定試薬の開発を挙げていたところ(乙15の1,2),平成元年こ
ろ,天野製薬が製造販売するビリルビンオキシダーゼを同社から入
手できる目処が立ったことから,平成2年1月ころには,同年度の
開発テーマとして酵素法試薬の自社開発が提案され,その開発を行
う方向で検討を始めた。同開発テーマに係る内部検討書面(乙8の
2)には,「テーマ名(品目名)」欄に「ビリルビン測定試薬(酵
素法)」,「3.開発目標」欄に「[ターゲット]日本商事酵素
法」,「[性能](1)総ビリルビン,直接ビリルビン両方共測定可
能な方法(2Step),(2)試液調整後の安定性,呈色安定性の良いも
の。・・・(3)自動分析装置に適用可能な組立て」,「5.研究開発
上考慮すべき点」欄に「・他社特許(日本商事等)に抵触しない方
法の開発」などの記載があった。
d原告は,昭和47年から臨床化学分析用の自動分析装置のための
試薬開発に従事していたところ,平成2年1月当時は,大阪研究所
主任研究員(係長待遇)として東京研究所に勤務し(甲49),ビ
リルビン測定試薬の改良を担当する生化学グループⅡに所属してい
たことから,酵素法によるビリルビン測定試薬の自社開発の検討に
携わっていた。
生化学グループⅡには,原告の部下として,Bを含む3名の研究
員が配属されていた。Bは,昭和63年3月に大阪府立大学大学院
農学研究科博士後期課程1年次を修了した後,同年4月に被告に雇
用され,平成2年1月当時は,被告に入社後2年目であった。B
は,学生時代,酵素に関する研究をし,昭和61年及び平成元年
に,酵素に関する共同論文(乙4の1,2)を発表していた。
(イ)平成2年1月の実験等
a原告は,平成2年1月ころ,酵素法によるビリルビン測定試薬の
開発の検討のため,Bに対し,天野製薬のビリルビンオキシダーゼ
及び日本商事の酵素法試薬の組成,特性等を調査するよう指示をし
た。
Bは,同月31日ころ,Bが同月中に行った実験の結果等をまと
めた月報用報告書(乙18の2)を作成し,原告に提出した。原告
は,これに原告が作成した月報表紙(乙18の1)を付けて,「平
成2年1月」の月報とした。
また,原告は,同年2月3日,被告の「平成2年度研究開発計
画」の策定のため,「(1)パッケージ名」欄に「ビリルビン測定試
薬」,「(2)部門名」欄に「生化学Ⅱ」,「(6)目的・目標」欄に「
天野製酵素を使用。抱合型ビリルビン測定法を日商,日水の特許に
抵触しない処方で確立。BODの溶解後の安定性を10℃1ヶ月以
上とする」,「(7)当社研究水準の業務内容の記述pH3.0,
5.0,8.0で抱合型ビリルビン測定法を検討」と記載した内部
検討書面(乙16の2)を作成した。その後,被告は,同年3月2
7日,酵素法によるビリルビン測定試薬の開発を研究開発テーマの
一つとする「平成2年度研究開発計画」(乙16の1)を承認し
た。
b「平成2年1月」の月報には,次のような記載がある。
①原告作成の月報表紙(乙18の1)
「テーマ」欄に「ビリルビン測定試薬(酵素法)」,「進行状
況」欄に「ビリルビンオキシダーゼを使用したビリルビンの酵素
的測定方法がかなり普及してきている。同法は,試料にビリルビ
ンオキシダーゼを作用させ,作用前後のビリルビンの460nm
に於ける吸収の差を測定して試料中のビリルビン濃度を求めるも
のであるが,同法は総ビリルビンの測定では問題無いがジアゾ法
で直接ビリルビンとして測定するδ型ビリルビンが間接ビリルビ
ンとして測定されるため従来の臨床的意義(閉塞性黄疸)をその
まま適用できない欠点も指摘されている。本法については酵素の
開発元である天野製薬の外にも種々の測定法に関する特許が公開
されており,これらの特許に抵触しない測定条件の有無について
基礎的検討を開始した。pH,界面活性剤(SDS)緩衝剤種に
ついて検討した結果,これらの条件の違いで抱合形(直接)ビリ
ルビン,遊離形(間接)ビリルビンの反応性が大幅に変化するこ
とが判った。抱合形ビリルビンの測定法で最も注意を要する特許
は日本商事が出願したpH3.5∼4.5で測定するものでこの
特許に抵触しない範囲での処方確立の可否がポイントとなる。今
回採取したデーターの中でホウ酸緩衝液及びLiイオンの遊離形
ビリルビンに対する活性抑制効果などは新事実であり,今後これ
ら基礎的データーを集積しこの知見を基に新規分別定量法の可能
性について検討する。」
②B作成の平成2年1月31日付け月報用報告書(乙18の2)
「1.緒言現在当社自動分析用のビリルビン測定用試薬は全て
ジアゾ化による呈色反応を利用したいわゆるアルカリアゾビリル
ビン法が用いられている。この方法によればとり合えず直接型,
間接型の分別定量が可能ではあるが特異性や感度の点で必ずしも
満足できるものではない。これに代わる定量法として酵素ビリル
ビンオキシダーゼ(Box)を用いる酵素法が考案されておりこ
の方法では特異性が優れ,ユーザーに与える印象がアゾビリルビ
ン法より良いものがあるが直接型,間接型の分別定量に技術を要
する。各社多くの関連特許が提出されており既に酵素法による本
試薬の商品化に成功した日本商事㈱からのシェア奪回も目指し,
検討を開始した。酵素は天野試薬より・・・由来のものを入手し
まずはその特性や試薬への適用性などの基礎的検討を行っ
た。」,「5.まとめ本試薬作りに最も困難を極めることは,
酵素が二種類(直接型,間接型)の物質に対し一方(直接型)の
みを完全酸化せしめ他方(間接型)には全く働かないような条件
を作り出すことである。両者の至適pHが各々異ることからpH
の異る二種類の試薬を用いることは容易に想定されるがこの件に
ついては既に日本商事㈱が特許を有しており,又ビリルビン自身
の吸収曲線がpHが上がると高波長側にシフトして吸光係数(
ε)が変わることからもできれば直接用・総用とも同じpH好ま
しくは同じ緩衝液で試薬作りを行いたい。しかし今回の結果だけ
からは,いづれのpHが最も良いかは言及し難く同じpHでも用
いる緩衝剤によって反応性が大きく変わるため今後の課題とな
る。いづれにせよ本検討の最大の目的は天野製薬㈱以外の特許を
回避しながら直接型(抱合型)と間接型(遊離型)のビリルビン
を分別定量することにある。そのため多くの制約を受けることに
なるがほう酸をはじめ各種添加物や界面活性剤の選択によって可
能性は充分あるものと考える。」
(ウ)平成2年2月の実験等
a原告とBは,平成2年2月2日,ビリルビンオキシダーゼを直接
ビリルビンに反応させる至適pHについて意見が対立し,同月5
日,7日にも議論をした。原告は,日本商事の特許に抵触する「p
H3.5∼4.5」を少し外したpH3.7,pH5.0の緩衝液
で実験すべきである旨主張したのに対し,Bは,アルカリ側のpH
8.5,9.5,10.5等の緩衝液で実験すべきである旨主張し
た。
bBは,平成2年2月8日,pH5.0の酢酸緩衝液又は乳酸緩衝
液に界面活性剤や銅,三価のマンガンなどの金属を添加し,ビリル
ビンの酵素法反応を日本商事の酵素法試薬と対比して調べる酵素法
の実験(乙1の3)を行ったところ,三価のマンガンを添加したも
のについて間接ビリルビン,直接ビリルビンともに強い反応がみら
れた。
Bは,同月9日,日本商事の酵素法試薬において,実際に酵素が
酸化反応に関与している否かを確認するため,その酵素法試薬を9
5℃で1時間煮沸して酵素タンパクを変性させ,さらに,トリクロ
ロ酢酸(TCA)処理をして酵素タンパクを沈殿除去して酵素を失
活させた上,直接ビリルビンと反応させる実験(乙1の4)を行っ
たところ,酵素を失活させないときと同様にほぼ瞬時に反応が終了
した。
なお,原告は,同月8日から9日にかけて,大阪に出張し,上記
各実験時には不在であったが,9日午後5時ころ,出張から東京研
究所に戻り,Bと会った。
cBは,平成2年2月15日,前記bの酵素の失活実験の結果等か
ら,重金属(重金属イオン)にビリルビンの酸化作用があるかもし
れないと考え,研究室の試薬棚から●(省略)●,フェリシアン化
カリウム,塩化コバルト,コバルトアセチルアセトン,●(省略)
●,●(省略)●,●(省略)●,●(省略)●,硫酸バナジル,
メタバナジン酸ナトリウム,●(省略)●,●(省略)●,●(省
略)●,●(省略)●,●(省略)●,酢酸マンガン(二価のマン
ガン),酢酸マンガン(三価のマンガン),マンガンアセチルアセ
トン,硫酸銅,●(省略)●(以上,20種類)を対象として,分
光光度計を用いてマニュアル(手作業)でクリーニング実験(乙1
の5)を行ったところ,メタバナジン酸ナトリウム,酢酸マンガ
ン(三価のマンガン),フェリシアン化カリウムが直接ビリルビン
によく反応した。
dBは,平成2年2月16日,前日の実験で良い反応結果が得られ
たメタバナジン酸ナトリウム,酢酸マンガン(三価のマンガン),
フェリシアン化カリウムのほか,試薬棚から前日に実験をしなかっ
た過マンガン酸カリウム,●(省略)●,●(省略)●,●(省
略)●,コバルトアセチルアセトン,酢酸銅,●(省略)●,●(
省略)●,●(省略)●,●(省略)●を追加して選び,自動分析
装置を用いてスクリーニング実験(乙1の6)を行ったところ,メ
タバナジン酸ナトリウムと酢酸マンガン(三価のマンガン)が直接
ビリルビンによく反応した。
Bは,同日,上記追加実験の後に,38種類の重金属について原
子吸光分析用標準液(ただし,フェリシアン化カリウムは標準液で
はなく,調整液)を用いた自動分析装置によるスクリーニング実
験(乙1の7の2)を行ったところ,バナジウムが直接ビリルビン
に際だった酸化力が認められた。
この原子吸光分析用標準液を用いて実験を行うことは,原告の指
示によるものであった。
eBは,平成2年2月19日にpH3.5及びpH5.0でBuffe
r(緩衝液)種の検討実験(乙1の8)を,同月20日にpH10.
0で界面活性剤の検討実験(乙1の9)を,同月21日にpH4.
0で界面活性剤の検討実験(乙1の10)検討を行った。
さらに,Bは,同月23日,銅イオン,バナジン酸イオン,三価
のマンガンイオンについて,●(省略)●とTritonX-405(HLB
値17.9)の2種類の非イオン型界面活性剤を添加して,それぞ
れの効果を比較するとともに,チオ尿素も添加して実験(乙1の1
1)を行った。その結果,TritonX-405(HLB値が15以上の非
イオン型界面活性剤)の間接ビリルビンの反応抑制効果が高いこ
と,チオ尿素は銅と一緒に用いた場合は直接ビリルビンの酸化を促
進するが,バナジン酸イオンと三価のマンガンイオンの場合は直接
ビリルビンの反応を抑制することが確認された。
Bは,同月28日ころ,Bが同月中に行った実験の結果等をまと
めた月報用報告書(乙19の2)を作成し,原告に提出した。原告
は,これに原告が作成した月報表紙(乙19の1)を付けて,「平
成2年2月」の月報とした。
f「平成2年2月」の月報には,次のような記載がある。
①原告作成の月報表紙(乙19の1)
「テーマ」欄に「ビリルビン測定試薬(酵素法,化学的酸化
法)」,「進行状況」欄に「ビリルビンオキシダーゼ(BOD)
を使用したビリルビンの酵素的測定方法がかなり普及してきてい
る。同法は・・・総ビリルビンの測定では問題無いものの,ジア
ゾ法で直接ビリルビンとして測定するδ型ビリルビンが間接ビリ
ルビンとして測定されるため従来の臨床的意義(閉塞性黄疸)を
そのまま適用できない欠点も指摘されている。本件の検討方針と
してBODを使用するビリルビンの新規測定方法の開発を主とす
るが,BODと同様の酸化力を持つと予想される遷移金属類や酸
化剤の使用も無調整試薬の組み立てには有利であり並行して検討
を進める。今回は化学的酸化法について基礎的データーを収集し
た。その結果,従来知られていたCu,Co,過ヨウ素酸,フェ
リシアン化カリに加え3価のMn,及びVoにもビリルビンに対3
する強い酸化作用が認められた。3価のMnとして市販している
ものは酢酸マンガンとアセチルアセトンのキレートであるが共に
溶解度が低い。酒石酸,クエン酸,EDTA等キレートを生成す
るものを添加すると溶解度が増加するがクエン酸では安定性が悪
く,この点からはEDTAの添加がよい。Mn0.4mMの添加
でpH3∼10の範囲での各ビリルビンの非酸化反応はpH10
では試薬盲検値の変動が大きく定量性に欠けるが8.5以下では
ほぼ瞬間的に完了し,特にpH6のリン酸緩衝液での測定値は総
ビリルビンの測定値に近似している。またMnでの酸化法はp
H,界面活性剤の影響がBODの挙動に酷似しており,条件を検
討すれば分別定量できる可能性はある。当面BOD法と金属酸化
法を並行して基礎的検討を進める。」
②B作成の平成2年2月28日付け月報用報告書(乙19の2)
「1.緒言ビリルビン測定試薬として現在最も一般的で普及し
ているのはジアゾ法であり当社自動分析装置用試薬も主力はアル
カリアゾビリルビン法を用いている。このジアゾ法に代わる測定
法の開発には各社とも積極的に取り組んでおりさまざまな特許が
公開されている。特許の内容は大別すると①ビリルビンオキシダ
ーゼを用いる酵素法②遷移金属や酸化剤を用いる化学的酸化法の
2つに別けられる。現在ジアゾ法以外の測定方法により直接・総
ビリルビンの分別定量試薬の商品化に成功しているのは日本商事
のみであり当項目で42%のシェアを獲得している。この試薬は
酵素法とされているが当方の検討によれば少なくとも直接型は銅
を用いた金属酸化法である可能性が強い(本報告書結果4−3参
照)。そこで天野製薬よりビリルビンオキシダーゼを入手し酵素
法による試薬開発に取り組むと共に同時に化学的酸化法による検
討も開始した。直接・総とも化学的酸化法で分別定量できれば液
状(無調整試薬)での供給の可能性もあることから積極的に取り
組みたい。今回は,その化学的酸化法での基礎データを報告す
る。」,「4−1重金属化合物スクリーニングR:0.1M1
こはく酸BufferpH4.0R:2mM金属水溶液マニュア2
ル法・・・効果のあったものはフェリシアン化カリウム,メタバ
ナジン酸ナトリウム,酢酸マンガン(Ⅲ)と全て通常より高い価
数をもつ金属化合物であった。このことの再確認と金属化合物以
外でも酸化力のあると思われるものについても次に装置を用いて
調べた。」,「4−2金属,酸化剤スクリーニングR:0.1
1M乳酸BufferpH4.0R:2mM水溶液・・・最も酸化2
力の強いものとしてはマンガンが挙げられる。メタバナジン酸ナ
トリウム,フェリシアン化カリウムも効果があるがst.(間接型)
に対しては酸化力が弱い。このことは直接ビリルビン測定用とし
て有効である可能性を示唆する。(但し,フェリシアン化カリウ
ムに関しては他社特許公開済)重金属以外では過硫酸アンモニ
ウム,過ヨウ素酸に若干の効果を認めるが実用性には劣
る。」,「4−3チオ尿素,界面活性剤の効果・・・界面活
性剤,チオ尿素存在下でCuを反応させたものは直接ビリルビ2+
ンに対して極めて特異的かつ速かに反応し,日商ネスコートの直
接型と近似した値となった。この場合銅のマスキング剤として働
くチオ尿素の存在・非存在が大きく左右することからMn,Vに
も同様の各々に特異なマスキング剤様のものを共存させることが
必要と思われた。・・・界面活性剤の傾向としてTritonX-405,
●(省略)●特にX-405の方は間接型ビリルビンの反応を抑制する
効果があり,血清の濁りを消失させる効果もあることから有効な
界面活性剤の1つと考えられる。又,この結果から日商直接型測
定用は銅による金属法であることが強く示唆された。」,「4−
4MnBuffer種による溶解性,安定性・・・」,「4−53+
Mn法Buffer種検討・・・」,「5.まとめ今回の基礎3+
検討の結果から従来知られていた金属類の他にMn,Vがビ3+5+
リルビンに対し強い酸化力をもつことを認めた。MnはpH3+
8.5以下でほぼ瞬時にビリルビンを酸化せしめ総ビリルビンの
測定に有効であると思われる。溶液内で3価の状態を保つために
はEDTAの添加が有効であることもわかった。しかし,その安
定性は未だ満足できるものではなく今後さらに検討が必要であ
る。又直接型の分別定量にはMnよりもVの方がよいように3+5+
思われTritonX-405をはじめ界面活性剤の選択がカギと考える。
今後酵素法も並行してさらに検討を続ける。」
(エ)平成2年3月ないし6月の実験等
aBは,平成2年3月13日に界面活性剤の検討実験(乙1の1
2)を行った。
Bは,同月15日,バナジン酸及び三価のマンガン等の各添加物
のスクリーニング実験(甲38の5,乙1の13)を開始した。
同月20日に行ったpH3.0及びpH4.0におけるスクリー
ニング実験(乙1の14,15)の結果,バナジン酸については塩
酸ヒドラジン(ヒドラジン類)を添加することにより,三価のマン
ガンについてはサリチルアルドキシム(オキシム類)を添加するこ
とにより,間接ビリルビンの酸化反応を抑制できることが判明し
た。
同月21日から23日に行ったスクリーニング実験(乙1の16
ないし22)の結果,バナジン酸については,サリチルアルドキシ
ム(オキシム類),ポリビニルアルコール500(水溶性高分
子),p−アセトアミドフェノール(フェノール類)を添加するこ
とにより間接ビリルビンの酸化反応を抑制できることが判明した。
同年4月3日に行ったスクリーニング実験実験(乙21の23な
いし27)の結果,ヘキサメチレンテトラミン,トリエチレンテト
ラミン,テトラエチレンペンタミン(脂肪族多価アミン類)を添加
することにより間接ビリルビンの酸化反応を抑制できることが判明
した。
bBは,平成2年5月17日,塩酸ヒドロキシルアミンを添加する
実験(乙1の29)を行ったところ,ヒドラジンよりも少し強い間
接ビリルビンの酸化反応抑制効果が認められた。
cBは,平成2年5月31日ころ,Bが同月中に行った実験の結果
等をまとめた月報用報告書(乙24の2)を作成し,原告に提出し
た。原告は,これに原告が作成した月報表紙(乙24の1)を付け
て,「平成2年5月」の月報とした。
「平成2年5月」の月報には,次のような記載がある。
①原告作成の月報表紙(乙24の1)
「テーマ」欄に「ビリルビン測定試薬(酵素法,化学的酸化
法)」,「進行状況」欄に「ビリルビンオキシダーゼ(BOD)
等を使用するビリルビンの酸化的吸収減少による測定法を検討し
ている。界面活性剤を使い分けることで総ビリルビン,直接ビリ
ルビンの分別定量が可能と思われるバナジン酸イオンによる定量
法を優先している。血清共存物質のうちアスコルビン酸,溶血が
負誤差となったがアスコルビン酸の負誤差は●(省略)●でほぼ
回避できた。又溶血の影響は防止剤として11種類の●(省略)
●を検討の結果,この内3種類に添加効果が認められ,特に●(
省略)●はヘモグロビン高濃度で,●(省略)●はヘモグロビン
低濃度での影響防止効果がある事から,特性に応じて2種類以上
を混合して用いることを検討する。発色促進剤として使用するキ
レート剤は直接ビリルビン測定用にはジヒドロキシエタンジホス
ホン酸が反応速度,呈色安定性(間接ビリルビンの反応防止)の
面から優れているが,総ビリルビンには間接型の反応抑制剤が存
在しないで促進剤が共存するため,ジヒドロキシエタンジホスホ
ン酸は使用できず,試薬盲検値,発色度からEDTA,NTA,
DTPA,TTHAが相応しい。測定検査成績,経日安定性を比
較して使用キレート剤を選択する。」
②B作成の平成2年5月31日付け月報用報告書(乙24の2)
「1緒言ジアゾ法に変わるビリルビンの定量法として酵素(
ビリルビンオキシダーゼ)や金属イオン等を用いた酸化的吸収減
少を測定する定量法を検討している。このうちバナジン酸は酸性
側でビリルビンに対する酸化力に優れしかも界面活性剤,キレー
ト剤,還元剤の選択使用により直接ビリルビンと総ビリルビンの
分別定量が可能であることから新規な測定法として積極的に取り
組んでいる。今までのところ直接ビリルビン測定用には界面活性
剤としてTritonX-405が最もよくヒドラジ,ヒドロキシアミン等の
アミン系還元剤の添加で間接型の反応をかなり抑制できることを
見い出している。一方総ビリルビン用には塩化セチルピリジニウ
ムなど陽イオン性の界面活性剤の使用が有効であった。今回反応
に影響するキレート剤の検討と溶血の影響回避についての検討を
行った。」,「5まとめこれまでの検討結果より現在のとこ
ろ最も有望と思われるVo法試薬組成を下に記す・・・この組3

成であれば直接・総とも同じpH(同じ緩衝液系)で測定でき,
本誌薬のメリットの1つとなる。共存物質のうちアスコルビン酸
は●(省略)●によりほぼ回避できるが溶血の影響回避はなお不
充分であり検討を続ける。キレート剤の選択として直接用にはフ
ェリオクス−115が最も相応しく反応促進,間接型抑制効果が大き
い。一方総ビリルビン用ではフェリオクス−115は反応促進効果は
認めるものの試薬盲検値が異様に高くなることからEDTA,D
TPAなど他のキレート剤の併用が必要となる。この点は界面活
性剤の違いによると思われ原因の確認は行う。これらの経日安定
性を追跡し組成を決める。」
dBは,平成2年6月29日ころ,Bが同月中に行った実験の結果
等をまとめた月報用報告書(乙25の2)を作成し,原告に提出し
た。原告は,これに原告が作成した月報表紙(乙25の1)を付け
て,「平成2年6月」の月報とした。
「平成2年6月」の月報には,次のような記載がある。
①原告作成の月報表紙(乙25の1)
「テーマ」欄に「ビリルビン測定試薬(酵素法,化学的酸化
法)」,「進行状況」欄に「ビリルビンオキシダーゼ(BOD)
等を使用するビリルビンの酸化的吸収減少による測定法を検討し
ている。界面活性剤を使い分けることで総ビリルビン,直接ビリ
ルビンの分別定量が可能と思われるバナジン酸イオンによる定量
法を優先している。現時点での問題点は溶血が負誤差となる事,
直接ビリルビンの測定で乳ビ血清の混濁が消去できないことの2
点である。溶血の負誤差は影響防止剤としてヘモグロビン高濃度
では●(省略)●が有効で,低濃度では●(省略)●,●(省
略)●に効果が認められることから,特性に応じて2種類以上を
混合して用いることを検討したが総ビリルビンでは問題ないもの
の直接ビリルビンでは共存する間接ビリルビンの発色抑制剤ヒド
ロキシルアミンやヒドラジンと●(省略)●が反応して直接ビリ
ルビン測定値が高値となる。従って直接ビリルビンについては効
果が不完全ながら●(省略)●,または●(省略)●を単独また
は併用するか,間接ビリルビンの反応抑制剤に●(省略)●を除
く方向で対処する。また●(省略)●の添加で乳ビ血清の混濁解
消は可能であるが,間接ビリルビンの発色を助長したり,乳ビ血
清の測定値が負値となるため当面対策は見送る。今後各試薬の安
定化を計ると共に特許処理を行うため必要データーを収集す
る。」
②B作成の平成2年6月29日付け月報用報告書(乙25の2)
「1緒言ジアゾ法に変わるビリルビンの定量法として酵素(
ビリルビンオキシダーゼ)や金属イオン等を用いた酸化的吸収
減少を測定する定量法を検討している。このうちバナジン酸(
Vo)を用いる測定は酸性側でのビリルビン酸化力が優れて3

おり,界面活性剤,キレート剤,還元剤の選択使用により直接
ビリルビンと総ビリルビンの分別定量が同一pHで行えること
から新規な測定法として積極的に取り組んでいる。人血清,血
漿中のビリルビンに対する反応性,及びアスコルビン酸の影響
回避に関しては酵素法の市場を独占している日本商事ネスコー
トより上回っていることを確認してある。残る反応上の課題は
溶血の影響回避及び直接型測定用での乳び検体の混濁解消であ
る。今回はこの2点を中心に検討を行ったので報告す
る。」,「5まとめ現在までの検討でバナジン酸によるビ
リルビンの定量は直接・総ともほぼ確立できた。今後の検討の
課題は試薬の安定化であり,その際最もポイントとなるのは間
接型抑制剤であるヒドロキシアミンの安定性である。長期安定
化が可能であれば液状での供給も考えられる。特許申請に向け
て必要データをそろえる。」
イ本件特許出願の経緯等
(ア)原告は,平成2年7月ころ,発明者欄に原告及びBを記載した,
本件発明に関する特許出願依頼書及び明細書の原案(甲32)を作成
し,被告の特許課に提出した。
(イ)原告とBは,平成2年8月ころ,本件発明に関し,特許を受ける
権利を被告に譲渡したことに相違はない旨の同月1日付け譲渡証(乙
10)を被告に提出した。
(ウ)被告は,平成2年10月30日,本件特許出願の優先権主張の基
礎となる特許出願をした後,平成3年10月30日,本件特許出願を
し,平成9年6月27日,本件特許権の設定登録を受けた。その特許
公報の「発明者」欄には,原告及びBの2名が発明者として記載され
ている。
(エ)被告は,平成3年10月30日,本件発明について,本件欧州特
許出願をし,平成8年6月19日,本件欧州特許権を取得した。
被告は,平成6年9月23日,本件発明について,本件米国特許出
願をし,平成7年9月12日,本件米国特許権を取得した。
原告は,被告が本件欧州特許出願及び本件米国特許出願について受
けた各拒絶通知に対する回答案(甲33の1,2)を作成した。
本件外国特許の特許公報の「発明者」欄には,いずれも原告及びB
の2名が発明者として記載されている。
ウ学会発表等
(ア)原告は,平成4年5月7日ころ,東京大学医学部附属病院におい
て,本件発明に係るビリルビン測定法についての講演(甲51)を行
った。
(イ)Bは,平成4年6月14日,「臨床化学のつどい」の第31回総
会において,本件発明に関し,「バナジン酸による新規ビリルビン測
定法」と題する報告(乙11)を行った。
(ウ)原告とBは,平成5年,「臨床化学会誌」(1993年22巻2
号)に「バナジン酸を用いるビリルビンの新規測定法」と題する共同
論文(甲4)を発表した。
エ本件試薬の組成等
(ア)被告は,平成5年当時から,我が国において,バナジン酸を酸化
剤に用いた化学酸化法による総ビリルビン測定試薬及び直接ビリルビ
ン測定試薬である本件試薬を製造し,販売又は輸出している。
(イ)本件試薬のうち,総ビリルビン測定試薬(「総ビリルビンE−H
Rワコー」,「総ビリルビンE−HAワコー」)は,2液型の測定試
薬であり,第1試薬は,界面活性剤を含むpH2.9のくえん酸緩衝
液で,第2試薬は,ビリルビンの酸化剤であるメタバナジン酸ナトリ
ウム(バナジン酸イオン)を含むpH7.0のりん酸緩衝液であるバ
ナジン酸溶液で組成されている。
本件試薬のうち,直接ビリルビン測定試薬(「直接ビリルビンE−
HRワコー」,「直接ビリルビンE−HAワコー」)も,2液型の測
定試薬であり,第1試薬は,間接ビリルビン反応抑制剤である塩酸ヒ
ドロキシルアミンが添加されたpH2.9の酒石酸緩衝液で,第2試
薬は,ビリルビンの酸化剤であるメタバナジン酸ナトリウム(バナジ
ン酸イオン)を含むpH7.0のりん酸緩衝液であるバナジン酸溶液
で組成されている。第1試薬中の塩酸ヒドロキシルアミンが,過剰な
バナジン酸イオンの還元剤として作用し,間接ビリルビンがバナジン
酸イオンと徐々に反応することを抑制する効果がある。
本件試薬は,いずれも,第1試薬と第2試薬を混合後の最終pHが
3.0となり,また,いずれも調整を要することなくそのまま使用す
ることができ,開封後は,2∼10℃保存で1か月以内に使用するも
のとされている。
(2)これに対し原告本人の供述及び陳述書(甲37)中には,Bが原子吸光
分析用標準液を用いた重金属(重金属イオン)のスクリーニング実験を行っ
たのは,前記(1)ア(ウ)dで認定した平成2年2月16日ではなく,同月1
4日である旨の部分があるが,後記2(3)ア(イ)cのとおり,措信すること
ができない。
他に前記(1)の認定を覆すに足りる証拠はない。
2争点1(原告の発明者該当性)について
(1)「発明者」は,発明の技術的思想の創作行為に現実に加担した者をい
い,「発明者」といえるためには,当該発明の技術的思想の特徴的部分を
着想し,それを具体化することに関与したことを要するものと解される。
そこで,以下においては,本件発明の技術的思想の特徴的部分(以下,
単に「本件発明の特徴的部分」という。)について認定し,原告がその特
徴的部分の着想,具体化に関与したかどうかについて検討することとす
る。
(2)本件発明の特徴的部分
前記第2の2(2)ウによれば,本件明細書には,本件発明は,総ビリルビ
ン及び直接ビリルビンの測定方法の発明であって,従来,ビリルビンの測
定方法として主流であったジアゾ法においては測定試液の安定性が悪く,
調整後5日程度しか利用できないこと,試料中の共存物質により測定値が
影響を受けること等の課題が,ジアゾ法以外のビリルビンオキシダーゼを
酸化剤として利用するBOD法(酵素法)やフェリシアン化イオンや銅イオン
を酸化剤として用いる化学的酸化法においては直接ビリルビンの測定値が
ジアゾ法と相関性が悪く,ジアゾ法により得られる測定値に基づいて確立
された各種肝疾患の診断や黄疸の鑑別に利用し難いなどの課題があったこ
とから,これらの課題を解決する手段として,「バナジン酸イオン又は三
価のマンガンイオンをビリルビンの酸化剤として用いる点,並びに直接ビ
リルビンを測定する際にはヒドラジン類,ヒドロキシルアミン類,オキシ
ム類,脂肪族多価アミン類,フェノール類,水溶性高分子及びHLB値が
15以上の非イオン型界面活性剤からなる群より選ばれた1種以上の化合
物を間接ビリルビンの反応抑制剤として使用する点に特徴を有する発明で
あって」(段落【0033】),自動分析装置への応用が可能であり,ジ
アゾ法との相関が良く,測定試液の安定性に優れ,試料中の共存物質によ
る測定値への影響が少ないビリルビンの測定方法を提供することを目的と
するものであることが記載されていることが認められる。
上記記載によれば,本件発明の特徴的部分は,「総ビリルビン又は直接
ビリルビンを測定する際に,バナジン酸イオン又は三価のマンガンイオン
をビリルビンの酸化剤として用いる点」(以下「本件発明の特徴的部分
①」という。),「直接ビリルビンを測定する際にヒドラジン類,ヒドロ
キシルアミン類,オキシム類,脂肪族多価アミン類,フェノール類,水溶
性高分子及びHLB値が15以上の非イオン型界面活性剤からなる群より
選ばれた1種以上の化合物を間接ビリルビンの反応抑制剤として使用する
点」(以下「本件発明の特徴的部分②」という。)にあることが認められ
る。
(3)本件発明の特徴的部分の着想・具体化への関与の有無
ア本件発明の特徴的部分①について
(ア)原告は,①昭和63年当時,使用者による試薬の調製の必要のな
い,ビリルビンの無調製試薬が必要とされていたが,成功したメーカ
ーはなく,また,従来のビリルビン測定方法であるジアゾ法や酵素法
の改良にも限界があったことから,新たなビリルビン測定方法を開発
するに当たり,酵素法以外の方法の開発に挑戦することにし,ビリル
ビンの金属酸化を試みることから検討を開始した,②平成2年2月初
旬ころ,Bが原告の話を基に銅やマンガン等限られた金属を使用して
実験を始めたので,Bに対し,原子吸光分析用標準液を使用して重金
属のスクリーニングをするよう指示をし,また,そのころ,Bから日
本商事のビリルビン測定試薬の添付文書に記載されている酵素量が,
総ビリルビン測定試薬に比べ直接ビリルビン測定試薬は異常に低いこ
と,直接ビリルビン測定試薬は青く着色していることの報告を口頭で
受け,Bに対し,直接ビリルビン測定試薬の酵素が含有されている試
薬を沸騰水浴中で1時間程度加熱して酵素を失活させた後,正常に反
応するか実験するよう指示をした,③同月9日,出張先からBに電話
した際に,Bから,日本商事のビリルビン測定試薬を加熱しても正常
に反応したことを聞き,Bに対し,その試薬の中身は日水製薬が特許
出願したチオ尿素と銅ではないかと話し,また,同日,出張から職場
に戻った際に,Bが原子吸光分析用標準液でのスクリーニングを戸惑
っていたので,Bに対し,原子吸光分析用標準液を手渡して,早期に
実験するよう促した,④同月14日,Bから,原子吸光分析用標準液
を用いたスクリーニングの実験結果(甲36)を受領したところ,そ
の実験結果では,バナジウム標準液に突出したビリルビンの酸化作用
がみられたが,マンガンにはそのような作用がみられなかったことか
ら,原子吸光分析用標準液の原料を調査した結果,バナジウム標準液
はバナジン酸アンモニウム,マンガン標準液は酸化力のない二価の硝
酸マンガンであったので,原告の大学時代の卒業論文「無水酢酸を溶
媒としたo−キシレン,o−トリイル酸の酸化」の知見を基に,Bに
対し,コバルト,マンガン,セリウムについて価数を変えて追加実験
するよう指示をした,⑤同月15日,Bから,コバルト,マンガン,
セリウムについて各3種類の金属とBが自主的に行った数種の金属に
ついての実験結果を受領し,その実験結果では,三価のマンガンにつ
いてバナジン酸に次ぐ酸化力が認められたので,Bに対し,三価のマ
ンガンとバナジン酸について既存の酸化剤(過マンガン酸カリ,銅,
鉄,フェリシアン化カリ,過ヨウ素酸等)と比較するよう指示をした,
⑥同月16日,Bから,既存の酸化剤を含めた確認実験の結果を受領
し,その実験結果から,バナジン酸,三価のマンガンに既存の酸化剤
に比べ,優位な酸化力が認められた,⑦このようにバナジン酸と三価
のマンガンの有効性は,本件発明に関し本格的に検討を始めた最初の
2回(④,⑤)の実験結果で明らかになったが,本件発明に関し,原
告にとって事前に知見がなかったのは,バナジン酸がビリルビンを酸
化することのみであり,マンガンについてはカフェインにマンガンが
混入した件から事前に知見があった,上記①ないし⑦によれば,本件
発明の特徴的部分①を着想し,これを具体化したのは,原告であっ
て,Bは原告の指示を受けて実験を行った補助者にすぎない旨主張す
る。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(イ)a原告は,無調製試薬による新たなビリルビン測定方法を開発す
るに当たり,酵素法以外の酸化的測定方法を模索し,ビリルビンの
金属酸化を試みることから検討を開始した旨(前記(ア)①)主張
し,これに沿う原告の陳述書(甲35)の記載部分がある。
しかし,前記1(1)の前提事実のとおり,ビリルビン測定方法とし
てジアゾ法が一般的に使用されている中で,被告においてもジアゾ
法試薬を販売していたが,日本商事が昭和60年ころ酵素法試薬の
販売を開始した後,ビリルビン測定試薬市場で,シェアを大きく伸
ばし,他方で,被告のジアゾ法試薬の売上げが減少したことから,
被告は,平成2年1月ころ,同年度の開発テーマとして酵素法試薬
の自社開発を行う方向で検討を始め,同年3月27日に「平成2年
度研究開発計画」の開発テーマとして承認したこと(前記1(1)ア(
ア)aないしc,(イ)a),原告は,酵素法試薬の自社開発の検討に
携わり,上記開発計画の策定に関与したこと(同ア(ア)d,(イ)
a),原告作成の同年1月の月報の表紙には,「テーマ」欄に「ビ
リルビン測定試薬(酵素法)」,「進行状況」欄に酵素法試薬につ
いての種々の測定法に関する特許に抵触しない測定条件の有無につ
いて基礎的検討を開始したことなどが記載されていること(同(イ)
b①)に照らすならば,原告は,平成2年1月当時,被告の社内方
針に従って,酵素法試薬の開発を検討していたことは明らかであっ
て,原告が新たなビリルビン測定方法の開発に当たり酵素法以外の
方法の開発に挑戦することにし,ビリルビンの金属酸化を試みるこ
とから検討を開始したとの原告の陳述書の上記記載部分は措信する
ことができない。
他に原告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。
b原告は,平成2年2月初旬ころ,Bに対し,原子吸光分析用標準
液を使用して重金属のスクリーニングをするよう指示をし,そのこ
ろ,Bから日本商事のビリルビン測定試薬の添付文書に記載されて
いる酵素量が,総ビリルビン測定試薬に比べ直接ビリルビン測定試
薬は異常に低いこと,直接ビリルビン測定試薬は青く着色している
ことの報告を口頭で受け,Bに対し,直接ビリルビン測定試薬の酵
素が含有されている試薬を沸騰水浴中で1時間程度加熱して酵素を
失活させた後,正常に反応するか実験するよう指示をし,同月9
日,出張先からBに電話した際に、Bから,日本商事のビリルビン
測定試薬を加熱しても正常に反応したことを聞き,Bに対し,その
試薬の中身は日水製薬が特許出願したチオ尿素と銅ではないかと話
した旨(前記(ア)②,③)主張し,これに沿う原告の陳述書(甲3
7)の記載部分がある。
しかし,証人Bの供述及び陳述書(乙3)中には,Bが2月9日
に行った日本商事の酵素法試薬の失活実験は,ビリルビンオキシダ
ーゼの至適pHは7.2であるのに,日本商事の酵素法試薬はこの
至適pHから大きくはずれたpH3.5∼4.5で直接ビリルビン
にのみ特異的に反応させるというものであり,酵素反応らしくない
と常々思っていたことから,原告が大阪出張で不在中の同日に,原
告の指示を受けることなく,日本商事の酵素法試薬が酵素による反
応かどうかを確認するために行った旨の部分があり,その供述内容
は,具体的で,特段不自然な点はみられない。
一方,原告の陳述書(甲37)の上記記載部分は,原告は,Bか
ら,「日本商事製の試薬組成の構成がおかしい」との報告を受けた
時に,「中身は日水製薬の特許ではないか」との疑いを持ち,Bに
対し,日本商事の酵素法試薬について加熱試験を指示した,原告
は,加熱しても正常に反応すると出張先から電話で聞いた時,「中
身は日水製薬の特許であろうと即座に話した」というものであり,
その記載内容自体,原告がBから報告を受けた時期及び状況や加熱
試験を指示した時期及び状況について具体的に述べるものではな
く,原告が出張先からBに電話をした際のBとのやりとりについて
も具体性を欠くことに照らすならば,原告がBに対し日本商事の酵
素法試薬の失活実験を指示したとの原告の陳述書の上記記載部分は
措信することができない。
他に原告がBに対し上記失活実験を指示したことを認めるに足り
る証拠はない。
c原告は,平成2年2月9日,Bが原子吸光分析用標準液でのスク
リーニングを戸惑っていたので,Bに対し,原子吸光分析用標準液
を手渡して,早期に実験するよう促した,同月14日,Bから,原
子吸光分析用標準液を用いたスクリーニングの実験結果(甲36)
を受領したところ,その実験結果では,バナジウム標準液に突出し
たビリルビンの酸化作用がみられたが,マンガンにはそのような作
用がみられなかったことから,原子吸光分析用標準液の原料を調査
した結果,バナジウム標準液はバナジン酸アンモニウム,マンガン
標準液は酸化力のない二価の硝酸マンガンであったので,原告の大
学時代の卒業論文「無水酢酸を溶媒としたo−キシレン,o−トリ
イル酸の酸化」の知見を基に,Bに対し,コバルト,マンガン,セ
リウムについて価数を変えて追加実験するよう指示をした,同月1
5日,Bから,コバルト,マンガン,セリウムについて各3種類の
金属とBが自主的に行った数種の金属についての実験結果を受領
し,その実験結果では,三価のマンガンについてバナジン酸に次ぐ
酸化力が認められたので,Bに対し,三価のマンガンとバナジン酸
について既存の酸化剤と比較するよう指示をした,同月16日,B
から,既存の酸化剤を含めた確認実験の結果を受領し,その実験結
果から,バナジン酸,三価のマンガンに既存の酸化剤に比べ,優位
な酸化力が認められた旨(前記(ア)③ないし⑥)主張する。
この点について原告本人の供述中には,原子吸光分析用標準液を
用いたスクリーニング実験は,「’90.2.14」との日付が記
載された実験データ(甲36)のとおり,2月14日に行われ,そ
の結果,バナジン酸に「ジタウロ」(直接ビリルビン溶液)に対す
る際だった酸化力がみられたが,マンガンには酸化力がみられなか
った,原告は,三価のマンガンがビリルビンに対して強い酸化力が
あるとの知見を持っていたが,上記スクリーニング実験ではマンガ
ンに酸化力がみられなかったので,価数が低いものには精度が出て
いないものと考え,また,原告の卒業論文でマンガンとともにコバ
ルト,セリウムを触媒として用いたことを思い出し,スクリーニン
グに抜けがあると心残りになると思い,Bに対し,マンガン,コバ
ルト,セリウムについて価数を変えて追加実験をするよう指示を
し,同月15日にその追加実験が行われ,更に同月16日にも追加
実験が行われた旨の部分がある。
一方,証人Bの供述中には,Bは,原告から原子吸光分析用標準
液を用いたスクリーニング実験をするよう指示を受けたが,そのス
クリーニング実験を実際に行ったのは,2月15日に分光光度計を
用いて試薬棚からピックアップした重金属についてビリルビンの酸
化作用のスクリーニング実験をマニュアル法で行った後,同月16
日にその追加実験を自動分析装置を用いて行った後の同日午後5時
以降であり,これらの実験に先立って原子吸光分析用標準液を用い
たスクリーニング実験を行った事実はなく,原子吸光分析用標準液
を用いたスクリーニング実験の実験データについては,翌17日に
自宅でまとめた旨の部分があり,この供述部分に沿う「’90.
2.17」との日付が記載された実験データ(乙1の7の2)が提
出されている。
そこで検討するに,2月15日のスクリーニング実験は,20種
類の重金属(重金属イオン)について分光光度計を用いてマニュア
ルで行われたスクリーニング実験(前記1(1)ア(ウ)c,乙1の
5),同月16日のスクリーニング実験は,前日の実験で良い反応
結果が得られたメタバナジン酸ナトリウム,酢酸マンガン(三価の
マンガン),フェリシアン化カリウムに加え,前日に実験をしなか
った過マンガン酸カリウム,●(省略)●,●(省略)●,●(省
略)●,コバルトアセチルアセトン,酢酸銅,●(省略)●,●(
省略)●,●(省略)●,●(省略)●について自動分析装置を用
いて行われたスクリーニング実験(同d,乙1の6),原子吸光分
析用標準液(ただし,フェリシアン化カリウムは標準液ではなく,
調整液)を用いたスクリーニング実験は,38種類の重金属(遷移
金属)について自動分析装置を用いて行われた実験(甲36,乙7
の1の2)であるところ,原告本人の上記供述を前提とすれば,2
月14日の段階で,ビリルビンに対してどのような酸化力を有する
か見通しのないまま,Bに対し,38種類もの重金属について原子
吸光分析用標準液(ただし,フェリシアン化カリウムは標準液では
なく,調整液)を使用したスクリーニング実験をするよう指示し,
翌日の2月15日の段階で,20種類の重金属について追加実験を
行ったこととなるが,2月15日の追加実験の際には,原子吸光分
析用標準液を用いたスクリーニング実験において実験結果が良好で
あった「●(省略)●」,「●(省略)●」,「●(省略)
●」,「●(省略)●」について実験されていない一方で,実験結
果が良好でなかった「コバルト」,「セリウム」,「●(省略)
●」,「●(省略)●」及び「二価のマンガン」について実験がさ
れ(甲36,乙1の5),更に2日後の2月16日の追加実験の際
にも,原子吸光分析用標準液を用いたスクリーニング実験において
実験結果が良好でなかった「●(省略)●」,「●(省略)●」に
ついてわざわざ実験がされていることとなり(甲36,乙1の
6),実験の順序として不自然である。
また,原告本人の上記供述を前提とすれば,原子吸光分析用標準
液を用いた自動分析装置による実験(2月14日の実験)が行われ
た後に,分光光度計を用いてマニュアル(手動)で行われた追加実
験(2月15日の実験)を指示し,再度,自動分析装置による追加
実験(2月16日の実験)を指示したこととなり,実験の手法の点
からみても不自然である。一方,証人Bの上記供述は,2月15日
に分光光度計を用いてスクリーニング実験を行った後,翌日の16
日に,前日の実験で良い反応結果が得られたメタバナジン酸ナトリ
ウム,酢酸マンガン(三価のマンガン),フェリシアン化カリウム
に,前日に実験をしなかった重金属を加えて,自動分析装置による
スクリーニング実験を行ったというものであり,実験の順序,手法
の点からみても自然である。
さらに,原子吸光分析用標準液を用いたスクリーニング実験が2
月14日に行われたことを客観的にうかがわせる証拠は,「’9
0.2.14」との日付が記載された実験データ(甲36)のみで
あり,これが「写し」で提出されているのに対し,一方で,被告提
出の「’90.2.17」との日付が記載された実験データ(乙1
の7の2)は「原本」で提出されていること,原子吸光分析用標準
液を用いたスクリーニング実験が2月15日の実験(乙1の5)及
び同月16日の実験(乙1の6)よりも前に行われたとすると,上
記のとおり実験の順序が不自然,不合理であることに照らすと,甲
36の実験データの上記日付部分をにわかに措信することはできな
い。
なお,原告のいう大学時代の卒業論文「無水酢酸を溶媒としたo
−キシレン,o−トリイル酸の酸化」(甲30)は,石油中の炭化
水素であるo−トリイル酸及びo−キシレンを,無水酢酸を溶媒と
して液相酸化する実験において,様々な溶媒を組み合わせて使用
し,その活性を比較したところ,コバルト,セリウム,臭素からな
る三元触媒について,従前活性が強いとされていた銅,マンガン,
臭素からなる三元触媒よりも活性が強いという結果が得られたとい
う内容のものであり,分野の異なる石油の炭化水素の酸化実験にお
いて三元触媒として用いたものの一部を,ビリルビンの酸化剤に用
いることを着想したというのは,いかにも唐突であり,不自然であ
るといわざるを得ない。
したがって,Bが原子吸光分析用標準液を用いた重金属スクリー
ニング実験を行ったのは,2月14日である旨の原告本人の上記供
述及びこれに沿う陳述書(甲37)の記載部分は措信することがで
きない。
他にこれを認めるに足りる証拠はない。
d原告は,本件発明に関し,原告にとって事前に知見がなかったの
は,バナジン酸がビリルビンを酸化することのみであり,マンガン
についてはカフェインにマンガンが混入した件から事前に知見があ
った旨(前記(ア)⑦)主張する。
これに沿うように原告本人の供述及び陳述書(甲35)中には,
原告は,ジアゾ法のビリルビン測定試薬に使用しているカフェイン
溶液にマンガンが混入して検量線が原点を下回る問題が発生した際
に,試薬にEDTAを添加して改善した経験があったことから,マ
ンガンがビリルビンを破壊することを知っていた,平成2年2月8
日の実験では,マンガンが,銅と比較して,非常に酸化力が強いと
いう結果が出た,この時点で既に三価のマンガンがビリルビンに対
して強い酸化力があることがほぼ分かっていた旨の部分がある。
しかし,Bが2月8日に行った実験は,日本商事の特許に抵触す
る「pH3.5∼4.5」の範囲からはずれるpH5.0の酢酸緩
衝液又は乳酸緩衝液に界面活性剤や銅,三価のマンガンなどの金属
を添加し,ビリルビンの酵素法反応を日本商事の酵素法試薬と対比
して調べる酵素法の実験(乙1の3)であって(前記1(1)ア(ウ)
b),マンガンを酸化剤として用いてビリルビンに反応させること
を目的としたものとはいえないこと,かえって,B作成の実験ノー
トの「2・1・30」欄には,「●(省略)●」との記載部分があ
ることからすれば,三価のマンガンは間接ビリルビンを直接酸化す
るための直接化剤として添加されたものとうかがわれること,ジア
ゾ法のビリルビン測定試薬にしているカフェイン溶液にマンガンが
混入してビリルビンが破壊されたが,EDTAを添加することによ
って改善したという出来事から直ちにマンガンそのものがビリルビ
ンの酸化剤として作用したとまで断定できないことに照らすなら
ば,平成2年2月8日の実験が行われた時点で,原告が既に三価の
マンガンがビリルビンに対して強い酸化力があることを分かってい
たとの原告本人の上記供述及び陳述書の記載部分は措信することが
できない。
他に原告がマンガンがビリルビンに対する酸化力を有することの
知見を事前に有していたことを認めるに足りる証拠はない。
e以上のとおり,原告主張の前記(ア)①ないし⑦の事実のうち,原
告が本件発明の特徴的部分①を着想し,これを具体化することに関
与したことの根拠として挙げる部分は,いずれも認めることができ
ない。
(ウ)aかえって,証人Bの供述及び陳述書(乙3)中には,前記(イ)
bのとおり,Bが2月9日に行った日本商事の酵素法試薬の失活実
験は,ビリルビンオキシダーゼの至適pHは7.2であるのに,日
本商事の酵素法試薬はこの至適pHから大きくはずれたpH3.5
∼4.5で直接ビリルビンにのみ特異的に反応させるというもので
あり,酵素反応らしくないと常々思っていたことから,原告が大阪
出張で不在中の同日に,原告の指示を受けることなく,日本商事の
酵素法試薬が酵素による反応かどうかを確認するために行った旨の
部分がある。
加えて,Bの陳述書(乙3)中には,Bは,日本商事の酵素法試
薬は銅イオンを含んだ溶液によくみられる青みがかった色をしてい
ること,日本商事の研究者がカナダの専門誌に投稿した酵素法に関
する論文(乙6)に少量の銅イオン(硫酸銅)が添加されている旨
の記載があったことなどから,日本商事の酵素法試薬と直接ビリル
ビンとの反応がほとんど瞬時に終了しているのは,実際は酵素によ
るのではなく,銅イオンによる化学的な酸化反応によるものではな
いかと推論し,2月9日,上記失活実験を行った結果,何の処理も
していない試薬による反応と酵素を失活させる処理をした試薬によ
る反応とでほとんど差違はみられなかったことから,日本商事の酵
素法試薬は,実際は酵素反応によりビリルビンを酸化させるもので
はなく,ビリルビンオキシダーゼを含む溶液に含まれている銅イオ
ンによりビリルビンを酸化させる化学的酸化法であることを確信し
た,Bは,日本商事の酵素法試薬に含まれている銅イオン以外の重
金属イオンの中には,ビリルビンを酸化させて,ビリルビン量の測
定をするのに,銅イオン以上に適したものがあるのではないかと考
え,同月15日から16日にかけて,重金属イオンの中からビリル
ビンの酸化剤として使えそうなものをいくつか選び出し,スクリー
ニング実験を行った結果,バナジン酸イオン,三価のマンガンイオ
ンがビリルビンの酸化剤として銅イオンよりも有効であることを発
見し,これらの金属イオンを酸化剤として用いた総ビリルビンの測
定が可能であることを確信するとともに,これらの金属イオンは間
接ビリルビンの酸化反応が弱いことから,直接ビリルビンを測定す
る際に間接ビリルビンの反応抑制剤を特定して組み合わせれば,直
接ビリルビンと間接ビリルビンとを分別定量するための新たなビリ
ルビン測定試薬を実用化することができることを確信した旨の記載
部分がある。
証人Bの上記供述及び陳述書の記載部分は,2月8日から16日
にかけての実験の順序(前記1(1)ア(ウ)bないしd)に合致し,B
作成の同月28日付け月報用報告書中の日本商事の試薬は「酵素法
とされているが当方の検討によれば少なくとも直接型は銅を用いた
金属酸化法である可能性が強い」などの記載内容(前記1(1)ア(ウ)
f②)とも符合するものであって,その大筋において信用できると
いうべきである。もっとも,Bが,上司である原告に自己の推論を
報告したり,相談することなく,独自の判断で,日本商事の酵素法
試薬について失活実験を行い,更には同月15日から16日にかけ
て重金属(重金属イオン)のスクリーニング実験を行ったという経
緯には,通常の上司と部下との関係からみるといささか違和感がな
いでもないが,原告とBが,Bが失活実験を行う前の同月2日から
7日までの間,酵素法の実験で条件設定するpH値をめぐり意見が
対立し,議論を続けていたこと(前記1(1)ア(ウ)a)にかんがみる
ならば,Bが独自の判断で,上記各実験を試みたとしても格別不自
然であるとまではいえない。
そして,証人Bの上記供述及び陳述書の記載部分によれば,B
が,日本商事の酵素法試薬について失活実験の実験結果を契機とし
て,銅イオン以外の重金属イオンの中にビリルビンの酸化剤として
適したものがあるのではないかと着想し,重金属のスクリーニング
実験を行った結果,バナジン酸イオン,三価のマンガンイオンがビ
リルビンの酸化剤として銅イオンよりも有効であることを発見した
のであるから,Bが,本件発明の特徴的部分①を着想し,これを具
体化したものと認められる。
bなお,原告は,Bに対し,原子吸光分析用標準液を用いたスクリ
ーニング実験をするよう指示をし,Bは,その指示に従って,実際
にスクリーニング実験を行っているが,その実験を行った時期は,
前記aのとおり,Bが先行して行った重金属のスクリーニング実験
によりバナジン酸イオン,三価のマンガンイオンがビリルビンの酸
化剤として有効であることが判明した後のことであるから,原告が
原子吸光分析用標準液を用いたスクリーニング実験をするよう指示
をしたからといって本件発明の特徴的部分①の着想及びその具体化
に関与したものと認めることはできない。
イ本件発明の特徴的部分②について
(ア)原告は,ビリルビンの酸化剤としてバナジン酸と三価のマンガン
の有効性がスクリーニング実験で明らかになった後,以後の検討方針
として,①バナジン酸又は三価のマンガンについてpHの影響を確認
し,pHを仮設定する,②キレート剤の必要性について確認し,必要
であればバナジン酸又は三価のマンガンについて適当なキレート剤
2,3種の候補を選択する,③①の結果から,反応pHが酸性側の場
合は,バナジン酸又は三価のマンガンを使用して総ビリルビン測定の
ための界面活性剤についてカチオン型,両性型を中心に検討し,反応
pHが中性以上の場合は,アニオン型,両性型の界面活性剤を中心に
検討する,④直接ビリルビン測定において間接ビリルビンの反応抑制
剤として高HLBのノニオン系(非イオン型)の界面活性剤の効果を
確認する,⑤④の界面活性剤のみで間接ビリルビンの反応抑制が不完
全である場合,過剰の酸化剤の吸収剤(還元剤)を検討するというよう
な着想を持ち,この着想に従って,Bに指示をして各種の実験を行っ
た結果,還元剤としては,塩酸ヒドロキシルアミンが好ましいこと,
塩酸ヒドロキシルアミンは酒石酸緩衝液に溶解したときが最も安定化
すること,間接ビリルビンの保護剤としてHLB値(親水親油バラン
ス)の高い非イオン型の界面活性剤等を用いると,更に特異性が増強
されることなどを見いだし,また,本件日本特許の請求項2記載の「
ヒドラジン類,ヒドロキシルアミン類,オキシム類,脂肪族多価アミ
ン類,フェノール類,水溶性高分子及びHLB値が15以上の非イオ
ン型界面活性剤」は,いずれも原告が具体名を挙げて指示して実験さ
せたものであるから,本件発明の特徴的部分②を着想し,これを具体
化したのは,原告であって,Bは原告の指示を受けて実験を行った補
助者にすぎない旨主張する。
(イ)aそこで検討するに,①Bは,平成2年2月23日に,銅,バナ
ジン酸,三価のマンガンについて界面活性剤の添加実験を行い,そ
の結果,Triton-X405(HLB値が15以上の非イオン型界面活性
剤)に間接ビリルビンの酸化抑制作用があることが判明したこと(
前記1(1)ア(ウ)e),②Bは,同年3月15日,バナジン酸及び三
価のマンガン等の各添加物のスクリーニング実験を開始し,同月2
0日に行ったスクリーニング実験の結果,バナジン酸については塩
酸ヒドラジン(ヒドラジン類)の添加により,三価のマンガンにつ
いてはサリチルアルドキシム(オキシム類)の添加により,同月2
1日から23日に行ったスクリーニング実験の結果,バナジン酸に
ついてはサリチルアルドキシム(オキシム類),ポリビニルアルコ
ール500(水溶性高分子),p−アセトアミドフェノール(フェ
ノール類)の添加により,同年4月3日に行ったスクリーニング実
験の結果,ヘキサメチレンテトラミン,トリエチレンテトラミン,
テトラエチレンペンタミン(脂肪族多価アミン類)の添加により,
それぞれ間接ビリルビンの酸化反応を抑制できることが判明したこ
と(同(エ)a),③Bは,同年5月17日,塩酸ヒドロキシルアミ
ンを添加する実験を行った結果,ヒドラジンよりも少し強い間接ビ
リルビンの酸化反応抑制効果が認められたこと(同(エ)b),④B
作成の同月31日付け月報用報告書には,「バナジン酸は酸性側で
ビリルビンに対する酸化力に優れしかも界面活性剤,キレート剤,
還元剤の選択使用により直接ビリルビンと総ビリルビンの分別定量
が可能であることから新規な測定法として積極的に取り組んでい
る。今までのところ直接ビリルビン測定用には界面活性剤としてTri
tonX-405が最もよくヒドラジ,ヒドロキシアミン等のアミン系還元
剤の添加で間接型の反応をかなり抑制できることを見い出してい
る。」,「これまでの検討結果より現在のところ最も有望と思われ
るVo法試薬組成を下に記す・・・」との記載があり(同(エ)c3

②),同報告書(乙24の2)には,第1試薬及び第2試薬の具体
的な組成が記載されていることを総合すれば,本件発明の特徴的部
分②(「直接ビリルビンを測定する際にヒドラジン類,ヒドロキシ
ルアミン類,オキシム類,脂肪族多価アミン類,フェノール類,水
溶性高分子及びHLB値が15以上の非イオン型界面活性剤からな
る群より選ばれた1種以上の化合物を間接ビリルビンの反応抑制剤
として使用する点」)は,平成2年5月17日ころの時点におい
て,着想・具体化されていたものと認められる。
そして,上記①ないし③に係る各実験を実際に行い,その実験デ
ータを作成したのは,Bであるが,平成2年5月当時,Bは,被告
に入社後約2年1か月を経過した時点で,それまでに臨床検査用試
薬の開発経験がなかったのに対し,原告は,昭和47年から臨床検
査用試薬の開発に従事し,その当時まで約17年間にわたる臨床検
査用試薬の開発経験があり,その間に酸化還元反応,界面活性剤等
に関する多くの職務発明を行い,被告の特許権の取得に関与するな
ど,ビリルビン測定試薬を含む臨床検査用試薬について豊富な知識
・経験を有していたこと(前記1(1)ア(ア)d,甲9ないし24,2
6,35,43,44,弁論の全趣旨)によれば,Bは,原告の指
示ないし示唆を受けながら上記各実験を行い,その実験結果等の分
析評価についても原告が主導的な役割を担っていたものと推認する
ことができる。
bこれに対し証人Bの供述及び陳述書(乙3,23)中には,B
は,バナジン酸又は三価のマンガンをビリルビンの酸化剤として使
用するときに間接ビリルビンの反応抑制剤として添加する添加物の
スクリーニング実験を行った際に,原告から,具体的な添加物を挙
げて実験を行うよう指示を受けたことはなく,自己の判断で添加物
を選択して実験を行った,Bが塩酸ヒドラジンが間接ビリルビンの
酸化反応を抑制できることを原告に報告したところ,原告から塩酸
ヒドラジンはロケットなどに使う引火性のある物質なので印象がよ
くないと言われたので,塩酸ヒドラジンと同等の抑制効果が得られ
る添加物を探すうちに,還元剤として一般に使われている塩酸ヒド
ロキシルアミンについて実験していなかったことに気付き,平成2
年5月17日に実験してみたところ,塩酸ヒドラジンと同等の数値
が得られた旨の部分がある。
しかし,仮にBが述べるように実験された個々の添加物の選択が
Bの判断で行われたとしても,本件証拠上,Bが,どの添加物であ
れば,間接ビリルビンを保護し,あるいは間接ビリルビンの酸化反
応を抑制する効果があるかについて,具体的な着想を持って実験を
行っていたものとは認められないし,新たなビリルビン測定試薬の
開発責任者である原告が,Bから報告を受けた実験データについて
分析評価を行わずに,すべてBに試薬の研究開発を委ねていたもの
とは考え難い。
もっとも,被告が主張するように,原告作成の平成2年5月の月
報の表紙(乙24の1)には,還元剤である塩酸ヒドロキシルアミ
ンについて何ら言及されておらず,バナジン酸の予定処方について
も,「塩酸ヒドラジン」が挙げられているにとどまるものである
が,原告作成の月報の表紙部分はその月に行った実験,研究成果等
の進行状況の概要を記載するもので,原告が行った指示等を具体的
に記載することまで予定されているものではなく,また,B作成の
月報用報告書についても原告の指導の下に作成された可能性を否定
できるものではないから,原告が間接ビリルビンの反応抑制剤とし
て「ヒドロキシルアミン類」を選択することに関与していなかった
と断定することはできない。
したがって,証人Bの上記供述及び陳述書の記載部分によって上
記推認を妨げるものではない。
(ウ)以上によれば,原告は,本件発明の特徴的部分②の着想・具体化
に関与したことが認められる。
(4)小括
以上のとおり,本件発明の特徴的部分①についてはBが着想し,具体化
したものであって,原告がこれに関与したものとはいえないが,本件発明
の特徴的部分②については原告がその着想・具体化に際し,主導的な役割
を担っていたものと認められるから,原告及びBは,いずれも,本件発明
の技術的思想の創作行為に現実に加担した者であって,本件発明の共同発
明者であると認められる。
上記認定に反する原告及び被告の主張は,いずれも採用することができ
ない。
3争点2(相当の対価の額)について
(1)算定方法
ア平成16年法律第79号による改正前の特許法35条4項(以下「特
許法旧35条4項」という。)は,同条3項の相当の対価の額は,「発
明により使用者等が受けるべき利益の額」及び「その発明がされるにつ
いて使用者等が貢献した程度」を考慮して定めなければならない旨規定
する。
ところで,特許法旧35条4項の「発明により使用者等が受けるべき
利益」は,使用者等が「受けた利益」そのものではなく,「受けるべき
利益」であるから,使用者等が職務発明についての特許を受ける権利を
承継した時に客観的に見込まれる利益をいうものと解されるところ,使
用者等は,特許を受ける権利を承継せずに,従業者等が特許を受けた場
合であっても,その特許権について特許法35条1項に基づく無償の通
常実施権を有することに照らすと,「発明により使用者等が受けるべき
利益」には,このような法定通常実施権を行使し得ることにより受けら
れる利益は含まず,使用者等が従業者等から特許を受ける権利を承継
し,当該発明の実施を排他的に独占し得る地位を取得することによって
受けることが客観的に見込まれる利益(独占の利益)をいうものと解さ
れる。そして,「発明により使用者等が受けるべき利益」を考慮するに
当たっては,発明の実施又は実施許諾による使用者等の利益の有無やそ
の額など,特許を受ける権利の承継後の事情についても,その承継の時
点において客観的に見込まれる利益の額を認定する資料とすることがで
きると解するのが相当である。
前記1(1)の前提事実と弁論の全趣旨によれば,被告が製造販売する本
件試薬は,本件発明の方法の使用にのみ用いる物(専用品)であるこ
と,このように被告は,本件発明の方法の使用にのみ用いられる物の製
造販売を自ら行い,その製造販売について国内及び国外を問わず第三者
に許諾したことはないことが認められる。
ところで,特許が方法の発明についてされている場合において,業と
して,その方法の使用にのみ用いる物の生産,譲渡若しくは輸入又は譲
渡等の申出をする行為は,特許権の侵害とみなす行為(特許法101条
4号)に該当し,特許権者は,当該物の製造販売を行う者に対して差止
請求をすることができること(特許法100条1項)にかんがみれば,
特許権者は,特許発明の方法の使用にのみ用いる物の製造販売を事実上
排他的に独占する地位を有しているものと解される。そして,特許権者
から当該物の製造販売について許諾を受けた者が当該物の製造販売を行
うことができるのと同様に,特許法35条1項に基づく通常実施権を有
する者も,自ら当該物の製造販売を行うことができるものと解するのが
相当である。
そうすると,本件発明の使用にのみ用いる本件試薬の売上げを基にし
て,「発明により使用者等が受けるべき利益」を算定するに当たって
は,被告が本件発明の使用にのみ用いる物の製造販売を事実上排他的に
独占し,第三者による製造販売を排除したことにより得られたものと認
められる本件試薬の売上高,すなわち,特許法35条1項に基づく通常
実施権を有することにより販売し得たと認められる売上高を上回る売上
高(超過売上高)に係る分について,第三者に本件発明の使用にのみ用
いる物の製造販売を許諾した場合に得られる実施料を算定するのが相当
であると解される。
具体的には,本件試薬の売上高のうち,その排他的,独占的な販売に
基づく超過売上高に係る分はいくらであるか,その超過売上高に係る分
を第三者に許諾した場合に得られる想定実施料(超過売上高に係る分に
想定実施料率を乗じた額)はいくらであるかを認定し,本件試薬の販売
による独占の利益を算定するのが相当である。
イこれに対し原告は,本件試薬を用いて本件発明に係る方法を使用する
のは,あくまで本件試薬を購入した第三者(検査機関)であって,被告
は本件発明を自己実施していないから,特許権者が自己実施している場
合の「超過売上高の割合」を本件発明に係る相当の対価の算定に当たり
考慮する必要はない旨主張する。
しかし,前記アのとおり,職務発明が方法の発明である場合におい
て,特許を受ける権利が使用者等に承継されずに,従業員が特許権を受
けたときは,使用者等は,無償の法定通常実施権を取得し,これに基づ
いて方法の発明に係る方法を使用することができるのみならず,当該発
明に係る使用にのみ用いる物を自ら製造販売することができのであるか
ら,当該特許権の排他権が及ぶのは,使用者等が法定通常実施権を有す
ることにより販売することができた売上げを超える超過売上高に係る分
に限られるべきであり,原告の上記主張は採用することができない。
(2)「発明により使用者等が受けるべき利益の額」
ア平成5年10月1日から平成23年9月30日(本件特許権の存続期
間満了日の1か月前)までの間の被告による本件試薬の売上高が68億
1840万円(前記第3の2(1)イ(イ))であることは,当事者間に争い
がない。
そこで,本件試薬の上記売上高のうち,超過売上高に係る分につい
て,以下において検討する。
(ア)本件発明の位置づけ
前記2(2)のとおり,本件発明は,ビリルビンの測定方法として主流
であったジアゾ法や酵素法等の課題を解決するための手段として,バナ
ジン酸イオン又は三価のマンガンイオンをビリルビンの酸化剤として用
いる点(本件発明の特徴的部分①),直接ビリルビンを測定する際には
ヒドラジン類,ヒドロキシルアミン類,オキシム類,脂肪族多価アミン
類,フェノール類,水溶性高分子及びHLB値が15以上の非イオン型
界面活性剤からなる群より選ばれた1種以上の化合物を間接ビリルビン
の反応抑制剤として使用する点(本件発明の特徴的部分②)に特徴を有
する総ビリルビン及び直接ビリルビンの測定方法の発明であって,自動
分析装置への応用が可能であり,ジアゾ法との相関が良く,測定試液の
安定性に優れ,試料中の共存物質による測定値への影響が少ないビリル
ビンの測定方法を提供することを目的とするものである。
(イ)被告の市場占有率
前記1(1)ア(ア)aの認定事実と証拠(甲45,乙8の2,16の
2,27,)及び弁論の全趣旨を総合すれば,被告は,従来から,ビ
リルビン測定方法として一般的であったジアゾ法による測定試薬を製
造販売していたが,日本商事が昭和60年ころ酵素法によるビリルビ
ン測定試薬の販売を開始した後,被告のジアゾ法試薬の売上げが減少
し,昭和63年ないし平成元年ころには,売上げが年約1億9000
万円,市場占有率が約20%であったこと,原告は,本件発明に係る
バナジン酸法による本件試薬の販売を開始した後,市場占有率を回復
し,平成14年における市場占有率は,総ビリルビン測定試薬につい
て33.1%,直接ビリルビン測定試薬について28.6%であった
ことが認められる。
(ウ)ビリルビン測定方法の方法別施設割合
a社団法人日本臨床衛生検査技師会発行の平成14年度ないし17
年度の各日臨技臨床検査精度管理調査報告書(甲46,47,5
3,54)及び平成18年度の日臨技臨床検査精度管理調査総括統
計表(甲55)によれば,①総ビリルビンの測定については,平成
14年度は酵素法採用施設が約45.3%,バナジン酸法採用施設
が約43.3%,ジアゾ法採用施設が約9.3%,平成15年度は
酵素法採用施設が約44.4%,バナジン酸法採用施設が約45
%,ジアゾ法採用施設が約7.7%,平成16年度は酵素法採用施
設が約44.3%,バナジン酸法採用施設が約46.6%,ジアゾ
法採用施設が約6.7%,平成17年度は酵素法採用施設が約4
4.0%,バナジン酸法採用施設が約45.9%,ジアゾ法採用施
設が約7.4%,平成18年度は酵素法採用施設が約43.8%,
バナジン酸法採用施設が約46.7%,ジアゾ法採用施設が約7.
1%であったこと,②直接ビリルビンの測定については,平成14
年度は酵素法採用施設が約47.0%,バナジン酸法採用施設が約
43.5%,ジアゾ法採用施設が約7.7%,平成15年度は酵素
法採用施設が約46.4%,バナジン酸法採用施設が約46.0
%,平成16年度は酵素法採用施設が約46.2%,バナジン酸法
採用施設が約47.3%,平成18年度はバナジン酸法採用施設が
約47.3%,平成18年度はバナジン酸法採用施設が約47.8
%であったことが認められる。
b日本医師会発行の平成17年度臨床検査管理調査結果報告書(甲
45)及び同年度臨床検査管理調査報告会抄録(乙37)によれ
ば,総ビリルビンの測定について,平成14年度は酵素法採用施設
が40.2%,化学酸化法採用施設が約45.8%,ジアゾ法採用
施設が約13.5%,平成15年度は酵素法採用施設が39.7
%,化学酸化法採用施設が47.0%,ジアゾ法採用施設が8.9
%,平成16年度は酵素法採用施設が39.4%,化学酸化法採用
施設が約48.1%,ジアゾ法採用施設が7.5%,平成17年度
は酵素法採用施設が39.3%,化学酸化法採用施設が約48.2
%,ジアゾ法採用施設が7.6%であったことが認められる。
(エ)まとめ
前記(ア)ないし(ウ)の事実によれば,①ビリルビン測定試薬におけ
る被告の市場占有率は,被告がバナジン酸法による本件試薬の販売を
開始したことにより,被告がジアゾ法試薬のみを販売していた昭和6
3年ないし平成元年ころ当時よりも高くなったこと,②ビリルビン測
定試薬として従来から使用されてきたジアゾ法や酵素法が,バナジン
酸法の代替技術として存在し,各測定方法を使用する施設割合では,
酵素法を使用する施設とバナジン酸法を使用する施設とが概ね同程度
の割合を占め,平成14年度から平成18年度の5年度にわたりその
施設割合に大きな変動がみられないことからすれば,ビリルビン測定
試薬の市場においては,バナジン酸法によるビリルビン測定試薬と酵
素法によるビリルビン測定試薬の使用者の棲み分けが概ね固定化しつ
つあることが認められる。
以上の①,②の認定事実及び本件に現れた諸般の事情を考慮する
と,被告の本件試薬の売上高のうち,被告が本件発明の使用にのみ用
いる物の製造販売を事実上排他的に独占し,第三者による製造販売を
排除したことにより得られたものと認められる超過売上高に係る分が
占める割合は,40%と認めるのが相当である。
そうすると,本件試薬の売上高のうち,超過売上高に係る分は,2
7億2736万円と認められる。
(計算式・68億1840万円(売上高)×0.4(超過売上高の割
合)=27億2736万円)
イ次に,想定実施料率(仮想実施料率)について検討する。
(ア)原告は,本件の想定実施料は,本件試薬の販売価格の20%を下
らない旨主張する。
しかし,本件全証拠によっても,被告が本件発明の使用にのみ用い
る物の製造販売を第三者に許諾した場合の実施料率が20%を下らな
いことを認めるに足りる証拠はない。
この点に関し原告は,被告が他社から実施許諾を得た例(甲48)
が参考となる旨主張するが,甲48に記載の事案は,被告が他社が保
有する複数の特許権を対象として実施許諾を得た事案であって,本件
とは事案が異なり,原告の上記主張を裏付けることはできないという
べきである(なお,被告は,甲48は,原告が原告作成の被告あての
平成19年5月15日付け秘密保持誓約書(乙35)に基づく秘密保
持義務に違反して入手したものであって,違法収集証拠であるから,
証拠から排除すべきである旨主張するが,本件全証拠によっても,甲
48が民事訴訟における証拠能力を排除しなければならないほど著し
く反社会的方法によって取得されたものとは認められず,被告の主張
は採用することができない。)。
(イ)一方,被告は,本件特許権の想定実施料率(仮想実施料率)は,
被告の近時のライセンス契約における実施料率の平均値である2.8
5%程度である旨主張する。
被告提出の乙28には,被告が締結したライセンス契約のうち,①
ライセンス契約の対象が,被告が単独で保有する日本国特許権に係る
ものであること,②ライセンス契約の締結が,平成5年1月26日(
本件特許出願の出願公開日)から平成21年6月1日までの間にされ
たものであること,③ライセンス契約に係る発明が被告との関係にお
ける職務発明であり,その発明者がすべて被告の従業者又は役員であ
ること,④ライセンス契約における実施権許諾の対価が実施料率によ
り定められたものであること,⑤ライセンス契約の相手方が日本法に
基づき設立された会社であることの条件を満たすライセンス契約の対
象となった10件の特許権について,特許権1件当たりの実施料率の
平均値が2.85%と算出されたことが記載されている。
しかし,これらのライセンス契約の対象となる特許権の内容や実施
権の範囲等の事情が明らかではなく,乙28に示された実施料率の平
均値をもって直ちに本件における仮想実施料率として採用することは
できない。
もっとも,被告の上記主張によれば,被告は,被告が本件発明の使
用にのみ用いる物の製造販売を第三者に許諾した場合の実施料率につ
いて,これが2.85%程度であるとの限度において認めているもの
と解される。
この点に加えて,本件発明が,自動分析装置への応用が可能であ
り,ジアゾ法との相関が良く,測定試液の安定性に優れ,且つ試料中
の共存物質による測定値への影響が少ないビリルビンの測定方法ニー
ズに応える技術であること(前記ア(ア)),一方で,本件発明には,
ジアゾ法や酵素法といった代替技術が存在し(前記ア(イ)ないし(エ
)),本件発明がパイオニア発明であるとまではいえないこと等の諸事
情を総合すると,本件における仮想実施料率は3%と認めるのが相当
である。
ウ小括
以上によれば,本件発明により被告が受けるべき利益の額は,818
2万0800円と認められる。
(計算式・27億2736万円(超過売上高に係る分)×0.03(仮
想実施料率)=8182万0800円)
(3)「発明がされるについて使用者等が貢献した程度」
ア次に,本件発明について,相当の対価の額を算定する際の考慮要素で
ある特許法旧35条4項所定の「発明がされるについて使用者等が貢献
した程度」について判断する。
この「使用者等が貢献した程度」には,使用者等がその発明がされる
について貢献した程度のほか,使用者等がその発明により利益を受ける
について貢献した程度等も含まれると解するのが相当である。
イ前記1(1)の前提事実と証拠(甲1,12,13,35,乙27,29
ないし31,39ないし42)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事
実が認められる。
(ア)被告における研究環境等
被告は,本件発明に関し,臨床試薬の研究開発に必要な素材,分光
光度計,自動分析装置等の装置及び器具,検体となる人血清,酵素法
によるビリルビン測定試薬の研究に必要なビリルビンオキシダーゼ等
を調達,提供した。
(イ)本件発明の権利化
本件発明に係る本件特許出願,本件米国特許出願及び本件欧州特許
出願は,被告の特許課が行った。原告は,本件発明に関する特許出願
依頼書及び明細書の原案(甲32)を作成し,被告の特許課に提出
し,また,被告が本件欧州特許出願及び本件米国特許出願について受
けた各拒絶通知に対する回答案(甲33の1,2)を作成した。
(ウ)本件発明の製品化
a本件試薬を製品化したのは,被告の製造部である。
b本件試薬は,メタバナジン酸ナトリウムをビリルビンの酸化剤と
して,その還元剤に塩酸ヒドロキシルアミンを間接ビリルビンの反
応抑制剤として使用しているところ,本件試薬が用いられる自動分
析装置は2液型で3液の試薬は使用できないため,あらかじめ第1
試薬に還元剤を入れた後,酸化剤溶液である第2試薬を添加して還
元剤と酸化剤を共存させ,還元剤により過剰の酸化剤を吸収して間
接ビリルビンが徐々に酸化されていくのを防止する(本件明細書【
0027】参照)という技術が用いられている。
この技術は,原告が関与したクレアチニンの定量方法の発明(甲
12,13)等によって得た知見を応用して着想し,これを具体化
したものである。
(エ)営業体制
被告は,生化学分野の自動分析装置用の試薬市場において大きなシ
ェアを有し,平成12年から平成15年までの間,100億円の売上
げを維持していた(乙27)。
また,被告の臨薬開発部門や臨薬営業部門は,本件試薬を売り込む
ために,大学病院の検査部などで本件試薬を使用してもらい,その結
果を学会などにおいて広く公表してもらう活動を行い,本件試薬の有
用性や測定の精度などがユーザーに認知された。
一方,原告及びBは,講演(乙11)や論文(甲4)において,本
件発明の測定原理のほか,直接ビリルビンの測定に際しては,過剰の
バナジン酸が残留すると間接ビリルビンが徐々に酸化されるので,還
元剤であるヒドロキシルアミンをあらかじめ第1試薬に添加しておき
過剰のバナジン酸を吸収して直接ビリルビンへの特異性を向上させて
いることや,直接ビリルビン測定用の緩衝液には酒石酸緩衝液を用い
るとヒドロキシルアミンが比較的安定し,冷蔵すれば1年は使用でき
ること,本件発明を用いる被告のビリルビン測定試薬が界面活性剤,
緩衝剤等の効果を合わせた高性能のものであることを発表し,対外的
に宣伝した。
(オ)原告及びBの職務内容等
原告は,昭和47年から臨床化学分析用の自動分析装置のための被
告の試薬開発に従事し,平成2年1月当時は,大阪研究所主任研究
員(係長待遇)として東京研究所に勤務し,ビリルビン測定試薬の改
良を担当する生化学グループⅡに所属していた。一方,Bは,昭和6
3年3月に大阪府立大学大学院農学研究科博士後期課程1年次を修了
した後,同年4月に被告に雇用され,平成2年1月当時は,被告に入
社後2年目で,生化学グループⅡに所属する被告の部下であった。
被告は,ジアゾ法試薬に代わるものとして,酵素法によるビリルビ
ン測定試薬の開発を平成2年度の研究開発のテーマとし,その開発を
社内方針として決定した。その開発に当たっては,日本商事等の他社
特許に抵触せず,開発される試薬の性能が「(1)総ビリルビン,直接
ビリルビン両方共測定可能な方法(2Step),(2)試液調整後の安定
性,呈色安定性の良いもの。・・・(3)自動分析装置に適用可能な組立
て」であること(前記1(1)ア(ア)c)が前提とされていた。
そして,本件発明は,上記のようなビリルビン測定試薬の開発とい
う原告及びBの職務の遂行そのものの過程の中で行われたものであっ
て,本件発明において解決すべき課題の一部である自動分析装置への
応用が可能であること,測定試液の安定性に優れていること等につい
ては,上記開発に係る開発テーマと軌を一にするものであった。
ウ以上のとおり,被告の研究に関する設備,本件発明の権利化の過程に
おける被告の対応及び原告の関与,本件試薬の製品化や販売における被
告の対応,原告及びBによる本件試薬の製品化や営業活動への寄与,原
告及びBの職務内容,本件発明は,被告が社内方針としていた酵素法に
よるビリルビン測定試薬の開発の過程の中で行われたものであり,本件
発明において解決すべき課題の一部は上記開発に係る開発テーマとして
所与のものであったこと等の本件発明に至る経緯等の諸事情を総合的に
勘案すると,本件発明に関し被告が貢献した程度は,90%を下回るこ
とはないものと認められる。
(4)発明者間の寄与割合
ア本件発明への寄与
(ア)本件発明の特徴的部分①は,総ビリルビン又は直接ビリルビンを
測定する際に,バナジン酸イオン又は三価のマンガンイオンをビリル
ビンの酸化剤として用いる点にあるところ(前記2(2)),従来ビリル
ビンの酸化剤として知られていなかったバナジン酸イオン及び三価の
マンガンイオンを有効なビリルビン酸化剤として新たに見出した点に
おいて,技術的意義を有するものである。
そして,本件発明の特徴的部分①については,Bが,日本商事の酵
素法試薬についての失括実験を契機として,銅イオンに代わる重金属
イオンによりビリルビンを酸化させることを着想し,この着想に基づ
いて重金属イオンの酸化力を試す実験を行った結果,バナジン酸イオ
ン及び三価のマンガンイオンがビリルビンの酸化剤として銅イオンよ
りも有効であることを発見したものであり(前記2(3)ア(ウ)a),B
が,酵素法試薬の開発という被告の既定方針(前記1(1)ア(ア))にも
かかわらず,重金属イオンによるビリルビンの酸化を着想したことが
大きく寄与している。
他方,前記2(4)のとおり,原告は,本件発明の特徴的部分①の着想
及び具体化について関与したものとは認められない。
(イ)本件発明の特徴的部分②は,直接ビリルビンを測定する際にヒド
ラジン類,ヒドロキシルアミン類,オキシム類,脂肪族多価アミン
類,フェノール類,水溶性高分子及びHLB値が15以上の非イオン
型界面活性剤からなる群より選ばれた1種以上の化合物を間接ビリル
ビンの反応抑制剤として使用する点にあり(前記2(2)),酸化剤を用
いて直接ビリルビンを測定する際に,間接ビリルビンの酸化剤への反
応を抑制する化合物を特定した点に技術的意義がある。
これらの化合物を特定するための実験は,Bによって行われたもの
であるが,原告は,ビリルビン測定試薬を含む臨床検査用試薬につい
て豊富な知識・経験に基づき,Bに対し,上記実験に関し指示ないし
示唆をし,実験結果等の分析評価についても原告が主導的な役割を担
っていたものであり(前記2(3)イ(イ)),本件発明の特徴的部分②の
着想及びその具体化に関与している。
もっとも,本件発明の特徴的部分②は,直接ビリルビンと総ビリル
ビンの分別測定を行うという,ジアゾ法以来公知の課題について,直
接ビリルビンのみを酸化剤によって酸化させ,間接ビリルビンについ
ては酸化させないために反応抑制剤を用いるとの着想を具体化したも
のであり,ビリルビンの酸化剤としてバナジン酸イオン又は三価のマ
ンガンイオンを用いることが特定されれば(本件発明の特徴的部分
①),当然に検討しなければならない事柄であることからすれば,本
件発明の特徴的部分②の着想及びその具体化は,本件発明の特徴的部
分①の着想及びその具体化と比べ,その技術的思想の創作性の程度は
高くないものと認められる。
イ本件試薬の製品化への寄与
前記(3)イ(ウ)bのとおり,本件試薬を製品化するに当たっては,本件
試薬が用いられる自動分析装置は2液型で,酸化剤の添加後に還元剤を
添加することができないため,あらかじめ第1試薬に還元剤である塩酸
ヒドロキシルアミンを入れ,これと酸化剤であるメタバナジン酸ナトリ
ウムを共存させるという技術が用いられているが,この技術は,原告が
着想し,具体化したものである。
また,本件試薬に添加された界面活性剤等の選択についても,本件発
明の特徴的部分②と同様に,原告が主導的な役割を担っていたものとう
かがわれる。
ウまとめ
以上の諸点を総合考慮すると,本件発明の共同発明者である原告及び
B間の寄与割合は,原告が30%,Bが70%と認めるのが相当であ
る。
(5)小括
ア以上によれば,原告及びBの共同発明である本件発明の特許を受ける
権利全部(本件外国特許に係る特許を受ける権利を含む。)が被告に承
継されたことに対する相当の対価の額は,本件発明により被告が受ける
べき利益の額8182万0800円から被告の貢献度90%に相当する
金額を差し引いた818万2080円となるところ,このうち,原告が
本件発明の特許を受ける権利(共有持分)を被告に承継させたことによ
って支払を受けるべき相当の対価の額は,上記818万2080円の3
0%に当たる245万4624円と認めるのが相当である。
(計算式・8182万0800円(被告が受けるべき利益の額)×(1
−0.9(被告の貢献度))×0.3(原告の寄与割合)=245万4
624円)
イそして,原告は,被告から本件発明についての補償金として合計1万
8000円の支払を受けているから,被告が原告に支払うべき上記相当
の対価の不足額は,243万6624円となる。
したがって,被告は,原告に対し,上記相当の対価の不足額243万
6624円及びこれに対する平成19年12月8日(訴状送達の日の翌
日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払
義務がある。
4結論
以上によれば,原告の請求は,被告に対し,243万6624円及びこれ
に対する平成19年12月8日から支払済みまで年5分の割合による金員の
支払を求める限度で理由があるからこれを認容することとし,その余の請求
は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官大西勝滋
裁判官関根澄子
(別紙)外国特許目録
1本件米国特許権
特許番号5,449,623
発明の名称ビリルビン測定方法
登録日1995年(平成7年)9月12日
出願日1994年(平成6年)9月23日
特許請求の範囲(訳文)
「【請求項1】体液に,ビリルビンの酸化を促進するための反応促進
剤を含有する第1の試薬液を加えるステップと,前記第1の試薬液
が加えられた前記体液の光学的変化を測定するステップと,ビリル
ビンの化学酸化剤としてのバナジン酸イオンを含有する第2の試薬
液を,前記第1の試薬液が加えられた前記体液に加えるステップ
と,前記第1及び第2の試薬液が加えられた前記体液の光学的変化
を測定するステップと,前記光学的変化から前記体液中の総ビリル
ビンの量を計算するステップとを含む,ビリルビンを含有する体液
中の総ビリルビンの量を測定する方法。」
「【請求項2】キレート剤が,前記第1の試薬液,前記第2の試薬液
又は前記第1及び第2の試薬液の両方の中に含有される,請求項1
に記載の方法。」
「【請求項3】前記反応促進剤が,アニオン性界面活性剤,カチオン
性界面活性剤又は両性界面活性剤である,請求項1に記載の方
法。」
「【請求項4】体液に,化学酸化剤としてのバナジン酸イオン,並び
に間接ビリルビンの酸化を阻害するための,ヒドラジン誘導体,ヒ
ドロキシルアミン誘導体,オキシム,脂肪族多価アミン,フェノー
ル,水溶性高重合体,及び15以上のHLB値を有する非イオン性
界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種類の反応阻害
剤を含む試薬液を加えるステップと,前記試薬液が加えられた前記
体液の光学的変化を測定するステップと,前記光学的変化から前記
体液中の直接ビリルビンの量を計算するステップとを含む,ビリル
ビンを含有する体液中の直接ビリルビンの量を測定する方法。」
「【請求項5】前記試薬液がキレート剤をさらに含む,請求項4に記
載の方法。」
「【請求項6】体液に,間接ビリルビンの酸化を阻害するための反応
阻害剤を含有する第1の試薬液を加えるステップと,前記第1の試
薬液が加えられた前記体液の光学的変化を測定するステップと,ビ
リルビンの化学酸化剤としてのバナジン酸イオンを含有する第2の
試薬液を,前記第1の試薬液が加えられた前記体液に加えるステッ
プと,前記第1及び第2の試薬液が加えられた前記体液の光学的変
化を測定するステップと,前記光学的変化から前記体液中の直接ビ
リルビンの量を計算するステップとを含む,ビリルビンを含有する
体液中の直接ビリルビンの量を測定する方法。」
「【請求項7】前記反応阻害剤が,ヒドラジン誘導体,ヒドロキシル
アミン誘導体,オキシム,脂肪族多価アミン,フェノール,水溶性
高重合体,及び15以上のHLB値を有する非イオン性界面活性剤
からなる群から選択される少なくとも1種類の化合物である,請求
項6に記載の方法。」
「【請求項8】キレート剤が,前記第1の試薬液,前記第2の試薬液
又は前記第1及び第2の試薬液の両方の中に含有される,請求項7
に記載の方法。」
【請求項9】ないし【請求項21】(省略)
2本件欧州特許権
特許番号EP0484133B1
発明の名称ビリルビン測定方法
登録日1996年(平成8年)6月19日
出願日1991年(平成3年)10月30日
指定締約国ドイツ,スペイン,フランス,イギリス,イタリア等
特許請求の範囲(訳文)
「【請求項1】酸化剤としてのバナジン酸イオン又はマンガン(ⅠⅠ
Ⅰ)イオンを含む試薬液を,生体液の試料に加えるステップと,前
記試料体液の光学的変化を測定するステップと含む,総ビリルビン
又は直接ビリルビンの測定方法。」
「【請求項2】反応阻害剤として,ヒドラジン誘導体,ヒドロキシル
アミン誘導体,オキシム,脂肪族多価アミン,フェノール,水溶性
高分子ポリマー,及び15以上のHLB値を有する非イオン性界面
活性剤からなる群から選択される少なくとも1種類の化合物をさら
に使用して,直接ビリルビンを測定する,請求項1に記載の方
法。」
「【請求項3】総ビリルビン又は直接ビリルビンをキレート剤の存在
下で測定する,請求項1に記載の方法。」
「【請求項4】直接ビリルビンをキレート剤の存在下で測定する,請
求項2に記載の方法。」
「【請求項5】バナジン酸イオン又はマンガン(ⅠⅠⅠ)イオン,反
応促進剤,及びキレート剤を含む,総ビリルビンを測定するための
組成物。」

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