弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人梶原止、同伊藤次男の上告理由第一点および第三点について。
 原判決の認定したところによると、上告会社において昭和三〇年五月二九日頃被
上告人の砂利採取場に運搬して来た砂利採取機は、同所における試運転の結果、な
お相当の修理改装を加えなければ通常の操業には耐えられないものであることが判
明したので、上告会社D支店長は、上告会社において修理改装をなす義務あること
を認め、その完成を待つた上で改めてこれを被上告人に引き渡すことを約したとい
うのであつて、右認定は、原判決挙示の証拠によつてこれを肯認するに足り、論旨
第三点の指摘する本契約締結や残代金支払のための手形振出しの事実を考慮に入れ
ても、右認定について、所論のような経験則ないし採証法則に反した違法があるも
のと認めることはできない。右論旨は、原審の適法になした事実の認定に対する非
難たるに帰し、採用できない。
 そして、右の事実によるときは、たとえその頃右採取機が一時的に被上告人の保
管下におかれた事実ありとしても、売買契約の目的物たる完成品としての引渡しは
後日に留保され、いまだ右段階においては引渡しがなされたものといえないことは
明らかであるから、売買契約による引渡義務の履行を了したものと認めなかつた原
判決の判断に、論旨第一点のいうような審理不尽、理由不備の違法は存しない。右
論旨は、原判決が目的物の性能不完全なる一事をもつて引渡しの事実を否定したも
のと独断し、右性能不完全の原因たる事情についての審理不尽を主張するもので、
原判決を正解しないでこれを非難するものにほかならず、採用できない。
 同第二点について。
 原判決が、前叙のように、上告会社において提供しようとした砂利採取機は、試
運転の結果、なお相当の修理改装を加えなければ通常の操業には耐えられないもの
であることが判明したと認定したのは、売買契約の履行としての目的物の引渡しの
未了をいう前提としてであつて、所論のように、目的物が引き渡された後における
瑕疵担保責任の有無を判断するために、右採取機が売買の目的を達しうる状態にあ
つたか否かを判示したものではないことは、判文上明白であり、したがつて、所論
のような理由齟齬は存しない。そして、原判決は、前叙のように、右採取機が不完
全であつたため、上告会社においてこれに修理を加え、通常の操業に耐えうるもの
として完成した上で改めて引き渡す旨約した事実を認定して、その引渡しをいまだ
了していないとの判断をしているのであつて、客観的に瑕疵の存しない状態におい
て引渡しがなされない限り、特定物売買についても、引渡義務の履行を認めること
はできないという一般的前提に立つて、前記判断をしたものではない。売買当事者、
間において、債務の本旨に従つたものとして目的物の引渡しを了した後においても、
右物件に隠れたる瑕疵があつて、そのため契約の目的を達しえない場合には、買主
において、法定の要件のもとに、瑕疵担保責任を問うて契約を解除しうることは、
もとより当然であり、原判決の判示は、右解釈に何等牴触するところはなく、所論
のように、瑕疵担保責任の制度を無意味ならしめるものでもない。されば、原判決
に法令の解釈を誤つた違法はなく、所論もまた、原判決を正解せざるに出でたもの
であつて、採ることをえない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁利所第三小法廷
         裁判長裁判官    下   村    三   郎
            裁判官    五 鬼 上    堅   磐
            裁判官    柏   原    語   六
            裁判官    田   中    二   郎

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