弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決及び第一審判決を破棄する。
     本件公訴事実中公益事業令違反の点につき被告人を免訴する。
     被告人を懲役五月に処する。
     押収の三菱モーターカバーの一部(昭和二七年証第一八号)はこれを被
害者に還付する。
     当審及び第一審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 職権で調査すると、昭和二七年法律八一号ポツダム宣言受諾に伴い発する命令に
関する件の廃止に関する法律によつて、昭和二〇年勅令五四二号に基く命令、即ち
所謂ポツダム命令は、別に法律で、その廃止又は存続に関する措置がなされない場
合においては、同法施行の日たる昭和二七年四月二八日から起算して一八〇日間に
限り法律としての効力を有するものとせられたが、右一八〇日の最終日は同年一〇
月二四日に当るところ、同日迄に公益事業令に関する立法上の措置は何らなされる
ことなく経過したのであつて、従つて公益事業令は右一〇月二四日限り失効したも
のと解すべきである(昭和二七年(あ)一六七六号、同二九年一一月一〇日大法廷
判決参照)。よつて本件公訴事実中公益事業令違反の点については、犯罪後の法令
により刑が廃止されたときに当ると解すべきであるから、刑訴四一一条により原判
決及び第一審判決を破棄し、同四一三条但書、四一四条、三三七条二号により、右
事実につき被告人に対し免訴の言渡をなし、第一審判決が証拠により確定したその
余の詐欺の事実(第一審判決判示第一、第二の事実)につき更に判決すべきものと
する。よつて右事実に法律を適用すると、右は夫々刑法二四六条一項に該当すると
ころ、同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条、一〇条により犯情の重い
判示第二の罪につき定めた刑に法定の加重をした刑期の範囲内において、被告人を
懲役五月に処し、なお、主文第四項掲記の物件については、刑訴三四七条によりこ
れを被害者に還付すべきものとし、第一審及び当審における訴訟費用については、
同法一八一条一項により被告人をして負担せしむべきものとし、主文のとおり判決
する。
 この判決は裁判官斎藤悠輔の反対意見を除く他の裁判官の一致した意見によるも
のである。
 裁判官斎藤悠輔の反対意見は、次のとおりである。
 元来わが現行の刑事法においては、犯罪行為の可罰性とこれに科すべき刑罰は、
犯罪行為時法によるべきであつて、判決時法によるべきではなく(刑法改正ノ綱領
四〇、改正刑法仮案六条参照)、ただ、判決時に犯罪後の法律に因り刑の変更があ
つたときは刑法六条の規定により例外として軽き刑罰を科し、また、判決時に犯罪
後の法令により刑が廃止されたときは刑訴法の規定により免訴の言渡をなすに過ぎ
ない。そして、刑訴三三七条二号に「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき。」
(旧刑訴三六三条二号に「犯罪後ノ法令ニ因リ刑ノ廃止アリタルトキ」)とは、読
んで字のごとく、既に発生成立した刑罰が犯罪後発布された法令により廃止(放棄)
されたときを指すものであつて、刑罰を規定した法令そのものが犯罪後一時失効し
又は犯罪後単に将来に向つて廃止されたに過ぎないような場合をいうものではない。
しかるに、本件第一審判決の判示第三の犯罪行為時である昭和二六年九月二六日頃
において同犯罪行為が公益事業令九二条に違反し同条所定の罰金刑に該当すること
は明白であるから、行為時法たる同令により処罰を免れないこというまでもない。
そして、同令が、多数説の説くがごとく、昭和二七年一〇月二四日限り失効したと
しても、それは、周知のごとく、政争の結果同令を維持しようとした「電気及びガ
スに関する臨時措置に関する法律案」が同日まで議会において法律として成立する
に至らなかつた関係上一時失効ということになつたというだけのもので、その後六
〇余日を経た同年一二月二七日右法律案は同年法律三四一号として公布され、旧公
益事業令は、罰則をも含め法律として維持されたのであるから、前記失効は、何等
犯罪後の法令により刑が廃止されたときに当らないばかりでなく、むしろ、反対に
犯罪後の右法律三四一号により既成の刑罰を廃止しない国家意思であること明白で
ある。
 検察官 神山欣治出席
  昭和二九年一二月一六日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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