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平成28年4月22日判決言渡
平成27年(行ウ)第60号裁決取消請求事件
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1東京都固定資産評価審査委員会が原告に対し平成27年1月20日
付けでした,固定資産課税台帳に登録された東京都港区α×番1及び
同番3の土地に係る平成25年度の価格に対する平成25年7月31
日付け審査申出(25東固審委申第18号の8)を棄却する旨の裁決
のうち,同番1の土地につき価格1億3975万0580円及び同番
3の土地につき価格3億3127万7250円を超える部分をそれぞ
れ取り消す。
2東京都固定資産評価審査委員会が原告に対し平成27年1月20日
付けでした,固定資産課税台帳に登録された東京都港区α×番1及び
同番3の土地に係る平成26年度の価格に対する平成26年7月16
日付け審査申出(26東固審委申第9号の2)を却下する旨の裁決の
うち,同番1の土地につき価格1億3975万0580円及び同番3
の土地につき価格3億3127万7250円を超える部分をそれぞれ
取り消す。
第2事案の概要等
1本件は,別紙1物件目録記載1及び2の土地(以下「本件各土地」
という。)を所有(共有)する原告が,固定資産課税台帳に登録され
た本件各土地の平成25年度及び平成26年度の価格につき,本件各
土地を別々の画地として認定して評価すべきであると主張して,それ
ぞれ審査の申出をしたところ,東京都固定資産評価審査委員会(裁決
行政庁)が,平成27年1月20日付けで,前者の審査申出を棄却す
る旨の決定をし,後者の審査申出を却下する旨の決定をした(以下,
これらの決定を併せて「本件各裁決」という。)ため,本件各裁決に
つき,第1記載の裁判を求めた事案である。
2関係法令等の定め
(1)固定資産税の課税標準
ア基準年度に係る賦課期日に所在する土地(以下「基準年度の土
地」という。)に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準は,
当該土地の基準年度に係る賦課期日における価格(以下「基準年度
の価格」という。)で土地課税台帳又は土地補充課税台帳(以下「土
地課税台帳等」という。)に登録されたもの(以下「登録価格」と
いう。)とする(地方税法349条1項)。
なお,「基準年度」とは,昭和31年度及び昭和33年度並び
に同年度から起算して3年度又は3の倍数の年度を経過したごと
の年度をいい(同法341条6号),「価格」とは適正な時価をい
う(同条5号)。
イ基準年度の土地に対して課する第2年度の固定資産税の課税標
準は,当該土地に係る基準年度の固定資産税の課税標準の基礎とな
った価格で土地課税台帳等に登録されたものとする(同法349条
2項本文)。
ただし,基準年度の土地について第2年度の固定資産税の賦課期
日において「地目の変換,家屋の改築又は損壊その他これらに類す
る特別の事情」(同項1号)などの事由があるため,基準年度の固
定資産税の課税標準の基礎となった価格によることが不適当であ
るか又は当該市町村を通じて固定資産税の課税上著しく均衡を失
すると市町村長が認める場合においては,当該土地に対して課する
第2年度の固定資産税の課税標準は,当該土地に類似する土地の基
準年度の価格に比準する価格で土地課税台帳等に登録されたもの
とする(同項ただし書)。
なお,「第2年度」とは,基準年度の翌年度をいう(同法341
条7号)。
ウ基準年度の土地に対して課する第3年度の固定資産税の課税標
準は,当該土地に係る基準年度の固定資産税の課税標準の基礎とな
った価格(第2年度において,同法349条2項ただし書により,
第2年度の固定資産税の課税標準とされた価格がある場合におい
ては,当該価格とする。以下本項において同じ。)で土地課税台帳
等に登録されたものとする(同条3項本文)。
ただし,基準年度の土地について第3年度の固定資産税の賦課期
日において,同条2項1号などが掲げる事由があるため,基準年度
の固定資産税の課税標準の基礎となった価格によることが不適当
であるか又は当該市町村を通じて固定資産税の課税上著しく均衡
を失すると市町村長が認める場合においては,当該土地に対して課
する第3年度の固定資産税の課税標準は,当該土地に類似する土地
の基準年度の価格に比準する価格で土地課税台帳等に登録された
ものとする(同条3項ただし書)。
なお,「第3年度」とは,第2年度の翌年度(昭和33年度を除
く。)をいう(同法341条8号)。
(2)固定資産の評価と固定資産課税台帳への登録等
ア総務大臣は,固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及
び手続を定め,告示しなければならない(地方税法388条1項)。
これを受けて,固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158
号。以下「評価基準」という。)が告示されている。
イ評価基準の概要(ただし,本件の争点に関連する部分)は,次
のとおりである。
(ア)宅地の評価は,各筆の宅地について評点数を付設し,当該評点
数を評点一点当たりの価額に乗じて各筆の宅地の価額を求める
方法によるものとする(評価基準第1章第3節一)。各筆の宅地
の評点数は,市町村の宅地の状況に応じ,主として市街地的形態
を形成する地域における宅地については「市街地宅地評価法」に
よって付設するものとし(同第3節二),市街地宅地評価法にお
いて,各筆の宅地の評点数は,路線価を基礎とし,「画地計算法」
を適用して付設するものとする(同第3節二(一)4)。
(イ)各筆の宅地の評点数は,一画地の宅地ごとに画地計算法を適用
して求めるものとする。この場合において,一画地は,原則とし
て,土地課税台帳等に登録された一筆の宅地によるものとする。
ただし,一筆の宅地又は隣接する二筆以上の宅地について,その
形状,利用状況等からみて,これを一体をなしていると認められ
る部分に区分し,又はこれらを合わせる必要がある場合において
は,その一体をなしている部分の宅地ごとに一画地とする(別表
第3の2)。
ウ市町村長は,評価基準によって固定資産の価格を決定しなけれ
ばならない(同法403条1項)。
エ市町村長は,当該市町村所在の固定資産の状況を毎年少なくと
も一回実地に調査し,①基準年度の土地については,基準年度に
おいて,当該土地の基準年度の価格により,当該土地の価格を評価
し,②基準年度の土地で同法349条2項ただし書の規定の適用
を受けることになる土地については,第2年度において,当該土地
に類似する土地の基準年度の価格に比準する価格により,当該土地
を評価した上,それぞれ,固定資産の価格等を決定し,固定資産課
税台帳に登録しなければならない(同法408条,409条1項,
4項,410条1項,411条1項)。また,第3年度において基
準年度の土地に対して課する固定資産税の課税標準について比準
価格による場合にあっては,土地課税台帳等に登録されている当該
比準価格をもって第3年度において土地課税台帳等に登録された
比準価格とみなす(同法411条3項)。
なお,「固定資産課税台帳」とは,土地課税台帳,土地補充課
税台帳,家屋課税台帳等を総称するものをいう(同法341条9号)。
(3)審査の申出
固定資産税の納税者は,その納付すべき当該年度の固定資産税に
係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格について
不服がある場合においては,所定の期間内に,文書をもって,固定
資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる(地方税法4
32条1項本文)。
ただし,当該固定資産のうち同法411条3項の規定によって土
地課税台帳等に登録されたものとみなされる土地の価格については,
当該土地について同法349条2項1号に掲げる事情があるため同
項ただし書,同条3項ただし書又は同条5項ただし書の規定の適用
を受けるべきものであることを申し立てる場合を除いては,審査の
申出をすることができない(同法432条1項ただし書)。
(4)上記の各規定は,地方税法734条1項により,東京都を市とみ
なして準用される。
3前提事実(当事者間に争いがない事実か,文中記載の証拠及び弁論
の全趣旨により容易に認定することができる事実)
(1)本件各土地の所有者(甲1~4,8,10)
ア平成24年1月1日,平成25年1月1日及び平成26年1月
1日において,別紙1物件目録記載1の土地(以下「本件土地1」
という。)は,原告とA株式会社(以下「A社」という。)が共有
していた(原告の共有持分は1000分の808)。
イ上記の各時点において,別紙1物件目録記載2の土地(以下「本
件土地2」という。)は,原告とA社のほか7名が共有していた(原
告の共有持分は1000分の539)。
(2)本件各土地の形状,利用状況等
ア本件各土地は,もともと1筆の土地(当時の所在・地番は港区
β×番)であったが,昭和41年7月9日,本件土地1(87.1
8㎡)と本件土地2(392.84㎡)に分筆された(乙17,1
8)。
イ本件土地1と本件土地2の形状及び位置関係は,別紙図面記載
のとおりである。本件土地1は,その南側で外苑東通り(幅員18
m。以下「南側正面道路」という。)に接しており,西側でも道路
(以下「西側側方道路」という。)に接している角地である。本件
土地2は,本件土地1の北側において本件土地2と接しており,西
側で西側側方道路に接している。(乙2~4)
ウ本件土地2上には,地下2階,地上6階建ての区分所有建物(所
在・港区α×番地3,構造・鉄筋コンクリート造陸屋根地下2階付
6階建。以下「本件ビル」という。)が存在する(甲5,12)。
本件ビルについては,昭和41年2月1日に新築された旨の登
記がされており(甲12~25),本件ビルの新築(用途変更)に
係る建築確認において,本件ビルの建築主は原告とされ,敷地面積
は494.629㎡とされている(乙19)。
エ本件ビルのうち,地下2階,地下1階及び地上2階から6階ま
での専有部分への主要な出入口は,本件ビルの西面に設けられてお
り,専ら本件土地2を利用して西側側方道路に出入りする構造とな
っている。他方,本件ビルのうち,A社が所有する1階の専有部分
(以下「本件1階専有部分」という。)は,上記出入口と通じてお
らず,また,本件1階専有部分から本件ビルの他の部分へ行くこと
もできないが,本件1階専有部分の西面又は南面に独自の出入口を
設けることができる構造となっている。(甲5,11,乙11,1
2,弁論の全趣旨)
オ本件土地1は,平成24年度の固定資産税の賦課期日(平成2
4年1月1日)において,駐車場業者が賃借し,駐車場として利用
していた(甲9,乙11,12)。しかし,本件土地1は,平成2
5年度の固定資産税の賦課期日(平成25年1月1日)において,
本件1階専有部分を賃借していたペット販売業者が賃借しており,
当該業者は,本件1階専有部分の南面に主要な出入口を設置すると
ともに,本件土地1上に,当該出入口と本件土地1との段差を解消
するための階段,スロープ及びデッキ(高床部分)を造成して,客
が南側正面道路及び西側側方道路の双方から階段等とデッキを経
由して本件1階専有部分に出入りできるようにして,本件土地1を
利用していた(甲5,6,乙11~13,弁論の全趣旨)。
(3)本件各土地の価格の登録及び審査の申出(甲1~4,弁論の全趣
旨)
ア平成24年度(基準年度)において,本件各土地は別々の画地
と認定され,その登録価格は,本件土地1が1億3975万058
0円であり,本件土地2が3億3127万7250円であった。
イ東京都知事は,平成25年度(第2年度)において,本件各土
地を合わせて一画地と認定して評価することとし,本件土地1の価
格を1億9729万3480円,本件土地2の価格を8億8902
万0090円と決定し,地方税法349条2項ただし書の場合に当
たるとして,土地課税台帳に登録した。
ウ原告は,本件各土地の平成25年度の登録価格を不服として,
平成25年7月31日付けで,東京都固定資産評価審査委員会に対
して審査の申出(以下「本件審査申出1」という。)をした(甲1)。
また,原告は,本件各土地の平成26年度(第3年度)の登録価格
を不服として,平成26年7月16日付けで,東京都固定資産評価
審査委員会に対して審査の申出(以下「本件審査申出2」という。)
をした(甲2)。
東京都固定資産評価審査委員会は,平成27年1月20日,本
件審査申出1を棄却する旨の決定を,また,本件審査申出2を却下
する旨の決定をした(甲3,4)。
エ原告は,平成27年2月9日,本件訴訟を提起した。
4本件各土地の平成25年度の登録価格の算出根拠
被告が主張する上記各登録価格の算出根拠は,別紙2記載のとおり
である。
5争点及び争点に関する当事者の主張
本件における主要な争点は,平成25年度の固定資産税の賦課期日
において,①本件各土地が一画地と認められるか否か(争点1),
②本件各土地につき地方税法349条2項ただし書の場合に該当す
るか(争点2)であり,これらの争点に関する当事者の主張は以下の
とおりである。なお,原告は,上記4(被告が主張する本件各土地の
平成25年度の登録価格の算出根拠)のうち争点1に関わる部分以外
については,積極的には争わないとしている。
(1)争点1(本件各土地が一画地と認められるか否か)について
(被告の主張の要旨)
ア評価基準等について
(ア)評価基準は,一画地につき,原則として,土地課税台帳等に登
録された一筆の宅地によるものとし,ただし,隣接する二筆以上
の宅地について,その形状,利用状況等からみて,これらを合わ
せる必要がある場合においては,その一体をなしている部分の宅
地ごとに一画地とする(評価基準別表第3の2)とし,一筆を一
画地として評価する本来の方法による例外を定めている。
評価基準がこのような画地認定方法を採用しているのは,土地
の評価は,本来,その利用価値に着目して行うものであるから,
理論的には土地課税台帳等の筆にこだわらず,実際の利用状況に
従って画地を認定して評価すべきであるようにも考えられるが,
現実の利用状況による画地の認定を全ての土地について網羅的
に行うことは行政実務上極めて困難であること等から,原則とし
て土地課税台帳等に登録された一筆の土地をもって一画地とす
ることとされたのである。
しかし,実際の土地利用は必ずしも筆単位で行われるとは限ら
ないため,全て一筆を一画地として評価すると,土地によっては
その本来の価値が評価に反映されないことも生じ,結果的に土地
相互間の評価の不均衡をもたらす場合もあることから,隣接する
二筆以上の土地について,その形状,利用状況等からみて,一体
をなしていると判断される場合においては,二筆以上の土地を合
わせて評価(同一画地評価)することを例外的に認めているので
ある。
(イ)評価基準には,同一画地に係る具体的な取扱いや判断基準につ
いて,これ以上の特段の定めがないことから,その具体的な取扱
いや判断基準については,上記評価基準の趣旨を逸脱しない範囲
で,評価庁の裁量に委ねられているものと解すべきであり,その
「形状」とは,ある一定の範囲内の土地について平面的,立体的
に物理的な連続性が認められるか否か,「利用状況」とは,ある
一定の範囲内の土地について,同一目的に供するため一体的に利
用されているか否かにより,判断するのが合理的であるというべ
きである。
こうした考え方に基づき,東京都の特別区においては,東京都
主税局長が「東京都固定資産(土地)評価事務取扱要領」(乙1。
以下「取扱要領」という。)を定めており,同要領においては,
「隣接する二筆以上の宅地について,一体として利用されること
によりその土地の維持又は効用を果たしていると認められる場
合」(第6の2オ)には,二筆以上の土地を合わせて評価すると
している。
そして,隣接する二筆以上の土地について,一画地として評価
するか否かは,その形状や利用状況等からみて,外見上一見明白
に一体性が認められるか否かによって判断されるべきである。
イ本件各土地の評価について
(ア)本件土地1は,本件ビル1階テナント(ペットショップ)が賃
借し,同テナントは,本件土地1に沿接する南側正面道路に向か
って広めの階段を設置し,また,西側側方道路に向かってスロー
プを設置し,客を店舗に誘導するエントランスとして利用してい
るほか(乙13の写真①,⑤及び⑥),本件土地1の東側には,
シャッターが降りて鍵の掛かる小さめの物置を2棟設置し,その
中でペットフード,犬猫の排泄物用の脱臭ゼリーシーツ,砂等の
商品を陳列して販売するなど,店舗の一部として利用している
(乙13の写真④,⑦及び⑧)。また,本件土地1の南側にベン
チを2台設置しているほか,犬猫を乗せるための乳母車を4台置
くなど,来店者の休憩スペースとしても利用していることが認め
られる(乙13の写真①,③ないし⑤)。このように,本件土地
1と本件土地2は,本件ビルの敷地として外見上一見明白に一体
的に利用されているものと認められる。
また,本件ビル1階のテナントは,本件土地1を利用しなけれ
ばペットショップを営業することはできず,たとえ本件ビルの一
部分であったとしても,1階テナント部分も含めて本件ビル全体
を構成しているのであって,本件ビル全体が建物として機能する
には,本件土地1が本件ビルの敷地であることが必要となる。
さらに,原告は,本件土地1の利用が本件ビル1階のテナント
のみにとどまると主張するが,本件土地1上には,本件ビルの区
分所有者全員が利用するゴミ置き場や空調室外機,自転車置き場
(乙16の写真②,③及び⑨)が設置されている上,本件ビルの
連結散水設備送水口(乙16の写真③ないし⑤)だけでなく,本
件ビル地下1階からの避難口(乙16の写真③,④,⑥ないし⑧)
もまた本件土地1側に設置されており,これらの点からも本件土
地1は,本件ビル1階のテナントのみに利用されているだけでな
く,本件ビルの敷地として,本件土地2とともに一体的に利用さ
れていることは明らかである。
加えて,そもそも本件各土地は,本件ビルが本件各土地上に昭
和41年2月1日に新築された後(甲12~25),同年7月9
日に本件土地1と本件土地2に分筆されたのであって(乙17,
18),それまでは一筆の土地であった。そうすると,本件ビル
の新築時においては,当然に本件土地1も含めて本件ビルの敷地
として建築確認を受けていたはずであり,本件各土地は,本件ビ
ルの敷地として一体利用の関係にあったということができる。こ
のことは,本件各土地の分筆後に発行された昭和41年8月6日
付け本件ビルに係る確認済証の内容を証する台帳記載事項証明
(乙19)においても,敷地面積が494.629㎡と記載され,
本件各土地の地積の合計(480.02㎡)とほぼ一致している
ことからも裏付けられる。
(イ)以上によると,本件土地1と本件土地2は,隣接する二筆以上
の宅地について,一体として利用されることによりその土地の維
持又は効用を果たしていると認めることができ,一画地として認
定し評価することは適当である。
ウ原告の主張に対する反論
(ア)原告は,本件各土地が一画地ではない理由として,本件ビル1
階の区分所有者が本件土地1の利用形態を変更したことによっ
て,その利用から全く便宜を受けていない本件土地2の土地共有
者の分も含めて,本件各土地全体の固定資産税評価額が上がるこ
とは不当であることを挙げている。
固定資産(土地)の評価は,原則として,土地課税台帳等に登
録された一筆の土地を単位として行うものであり,その土地に地
上権,借地権等が設定されていても,これらの権利が設定されて
いない土地として評価するものとされている(更地主義)。そう
だとすると,当該土地上の建物が単独所有であるか区分所有であ
るかによって,当該土地の評価に相違が生ずることはありえない。
また,地方税法352条の2(区分所有に係る家屋の敷地の用
に供されている土地等に対して課する固定資産税)の規定からも
明らかなように,固定資産の評価においては,単独所有であろう
と区分所有であろうと何ら相違はなく,あくまで税額を決定する
際に考慮されるにすぎないのである。
したがって,原告の上記主張は理由がないというべきである。
(イ)原告は,本件土地1と本件土地2が一体として利用されるもの
ではないことの理由として,①本件ビルは地下2階,地上6階
建てであり,その1階だけが本件土地1から本件ビル内に出入り
できるが,それ以外の地下1階及び地下2階,地上2階ないし6
階のテナントは,本件土地1に面していない本件ビルの側面の入
口からのみ出入りする構造となっていること,②本件ビル内に
内階段はなく,また,内階段を設置できる構造にもなっていない
のであるから,将来的にも1階以外のテナントが本件土地1から
本件ビルに入り,入居するフロアに移動することがあり得ないこ
とを挙げている。
評価基準等は,角地の場合,路線価の高い方を正面路線とし,
低い方を側方路線とすると定めているだけであって,その土地の
具体的な利用方法を考慮するものとは規定していないから,当該
土地上の建物の出入口がどの路面に面しているかは登録価格の
決定の違法事由とはなり得ないというべきである。
こうした結論が妥当性を有することは,①土地の評価におい
て,原告が主張する事情を全て考慮しなければならないとすると,
事務作業量が膨大になり,徴税コストの負担が極めて大きくなる
上,現に正面路線の側から出入りができるにもかかわらず,そう
しないことによって土地の価格が変わるのは,固定資産の「適正
な時価」の概念にも反すること,②中高層の建物が林立してい
る地域において,一軒だけ平屋の木造建物があった場合,当該建
物の評価が低いのは当然であるとして,土地の評価にそのことが
影響することはあり得ないこと,③低層階が飲食店や物販小売
店等の店舗,中高層階が住宅という,いわゆる下駄履き住宅にお
いて,正面から出るのは専ら店舗関係者及び利用者であって,居
住者は側方からだけ出入りすることは珍しいことではないが,こ
うした建物が単独所有であった場合,その利用状況によって土地
の評価に影響することはあり得ないことからも裏付けられる。
加えて,原告が主張する本件ビルの構造は,建物の内部の構造
に係る説明であって,外見上一見明白になっているものではない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(原告の主張の要旨)
ア評価基準によれば,「二筆以上の土地を合わせて評価する土地
(同一画地)」の判断においては,一筆を一区画として評価するこ
とが原則とされ,例外的に隣接する二筆以上の宅地が一体をなして
いると認められる部分を合わせる必要がある場合において,その一
体をなしている部分の宅地ごとに一区画とすることが許されるに
すぎない。
イ本件土地2は,本件ビルの敷地としてのみ利用されているとこ
ろ,本件土地1が本件土地2と一体利用されて土地の維持及び効用
を果たしているかどうかは,本件土地1が本件土地2と一体となり,
本件ビルの利用に供されているかどうかにより判断されるべきで
ある。
しかるに,①本件ビルは,地下2階,地上6階建てであると
ころ,本件土地1に面しているのは本件ビル1階のみであり,本件
ビル1階のみが本件土地1から同ビル内に出入りできるが,地下1
階及び地下2階,地上2階ないし6階のテナントは,本件土地1を
一切利用することなく,本件土地1に全く面していない本件ビル側
面の入口からのみ出入りする構造となっている(甲5の写真③)。
②加えて,本件ビル内に内階段はなく,また,内階段を設置でき
る構造にもなっていないのであるから,現在はおろか,将来的にも
一階以外のテナントが本件土地1から本件ビルに入り,入居してい
るフロアに移動することはあり得ない。③本件土地1を賃借して
いるのは,本件ビル1階のテナントのみであり(甲6),他方,本
件ビルはフロアごとに10名による区分所有であり(甲7,12~
25),本件土地2も建物区分所有者による共有であるが(甲8),
本件ビル1階テナント以外のテナントは,本件土地1について何の
権利関係も有していない。
以上のとおり,本件土地1は,唯一,本件ビル1階の利用に供さ
れているだけであって,本件ビルの大部分を占める地下2階及び地
下1階,地上2階ないし6階にとっては一切利用されていない。本
件土地1は,本件ビル及びその敷地である本件土地2の利用にとっ
て何の意味もないことは明らかである。これは,被告が主張してい
るように,本件ビル1階の所有者が本件土地1を利用していたとし
ても同様である。ビルのごく一部の所有者が隣接土地を利用できた
としても,ビル敷地全体が隣接土地と一体として利用されている理
由にはならないのは当然のことである。
ウ被告は,「外見上一見明白に一体性が認められる場合」という
基準により一画地として評価するか否かを判断すべきであると主
張している。
しかしながら,この基準によったとしても,上記イのとおり,本
件土地1は,本件土地2上の本件ビル1階のテナントの用にしか供
されておらず,このことは本件ビル1階のテナント内に他のフロア
への内階段がないこと,他のフロアには本件土地1を全く使用する
ことなく,本件ビルの側面の階段からのみ出入りする構造となって
いることからすると,「外見上一見明白に一体性が認められる場合」
には該当しない。
なお,被告は,土地の評価において,こうした事情を全て考慮し
なければならないとすると事務作業量が膨大となり,徴税コストの
負担が極めて大きくなるなどと述べるが,上記のとおり,本件ビル
の構造上,本件土地2が本件土地1の利用に一部しか供されていな
いことは一見して明らかであるし,仮に第一次的に調査が困難であ
ったとしても,原告は,審査申出において事実関係を詳細に説明し
ているのであるから,当該時点では事実関係調査のコストなどを考
慮する必要はなく,また,下記のとおり実質的に不平等な課税を強
いている結果となっているのであるから,被告において対応すべき
であって,被告の上記主張は失当である。
また,被告は,当該土地上の建物が単独所有か区分所有である
かによって,当該土地の評価に差異が生じることはあり得ないと主
張するが,本件ビル1階の区分所有者が利用形態を変更したことに
よって,その利用から全く便益を受けていない土地共有者の分も含
めて,本件土地2の固定資産評価額が上がることは,他の土地共有
者にとって不意打ちというほかなく,結論において不当であること
はいうまでもなく,原告は実質的な不平等性を指摘しているのであ
る。
(2)争点2(本件各土地につき地方税法349条2項ただし書の場合
に該当するか否か)について
(被告の主張の要旨)
ア地方税法349条2項ただし書が,「地目の変換,家屋の改築
又は損壊その他これらに類する特別の事情」(同項1号)がある場
合に,従前の価格(評価)を維持せず,新たな評価を求めているの
は,固定資産の利用状況,物理的な状態等に大きな変化があった場
合に,従前の価格(評価)を維持したのでは,評価の均衡が図れな
くなることから,評価の均衡を図るためにほかならない。
そうだとすれば,上記の「その他これらに類する特別の事情」
とは,固定資産の利用状況,物理的な状態等に大きな変化があり,
従前の価格(評価)を維持したのでは評価の均衡を図れなくなるよ
うな事情をいうものと解釈すべきである。
イ本件においては,上記(1)で述べたとおり,本件各土地は,一体
として利用されることによりその土地の維持又は効用を果たして
いると認められ,南側正面道路及び西側側方道路に接する角地とし
て評価するのが適当というべきであるから,これらを別の画地とし
て評価していた従前の価格(評価)を維持したのでは著しく評価の
均衡を害するというべきである。
したがって,被告が,本件各土地の平成25年度の価格につき,
地方税法349条2項1号に該当する場合であるとして,同項ただ
し書に基づき,本件各土地を一画地として評価し直したことに何ら
誤りはない。
(原告の主張の要旨)
ア地方税法349条2項1号の「地目の変換(中略)その他これ
らに類する特別の事情」とは,その土地の全部又は一部について用
途変更による現状地目の変更又は浸水,土砂の流入,隆起,陥没,
地滑り,埋没等によって当該土地の区画,形質に著しい変化があっ
た場合をいうとされている。
イしかるに,上記(1)で述べたとおり,本件土地1は,本件ビル全
体及び本件土地2にとって全く関係がなく,本件土地1と本件土地
2は一体として利用,使用される関係にない。また,本件土地1の
賃料収入は,本件土地1を駐車場として利用していた従前と変わら
ず,月額10万円であり(甲5,9),本件土地1を本件ビル1階
のテナントに賃借することによって,本件ビル及び本件各土地の価
値が上昇しているという事実も一切なく,評価の均衡の点からも全
く問題はない。
したがって,地方税法349条2項1号の「特別の事情」に該当
するものではなく,ましてや当該土地の区画,形質に著しい変化が
あったなどということはない。
第3当裁判所の判断
1登録価格の決定が違法となる場合について
地方税法は,土地に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準
を,当該土地の基準年度に係る賦課期日における価格で土地課税台帳
等に登録されたもの(登録価格)とし(同法349条1項),上記の
価格とは「適正な時価」をいうと定めている(同法341条5号)と
ころ,上記の適正な時価とは,正常な条件の下に成立する当該土地の
取引価格,すなわち,客観的な交換価値をいうと解される。したがっ
て,土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格が同期日におけ
る当該土地の客観的な交換価値を上回れば,その登録価格の決定は違
法となる(最高裁平成10年(行ヒ)第41号同15年6月26日第
一小法廷判決・民集57巻6号723頁参照)。
また,固定資産税の課税において全国一律の統一的な評価基準に従
って公平な評価を受ける利益は,適正な時価との多寡の問題とは別に
それ自体が地方税法上保護されるべきものということができ,土地の
基準年度に係る賦課期日における登録価格が評価基準によって決定さ
れる価格を上回る場合には,同期日における当該土地の客観的な交換
価値としての適正な時価を上回るか否かにかかわらず,その登録価格
の決定は違法となるものというべきである(最高裁平成24年(行ヒ)
第79号同25年7月12日第二小法廷判決・民集67巻6号125
5頁参照)。
以上の理は,基準年度の土地に対して課する第2年度の固定資産税
の課税標準となる登録価格(地方税法349条2項ただし書によるも
の)についても妥当するものと解される。
2争点1(本件各土地が一画地と認められるか否か)について
(1)画地の認定について
評価基準は,画地計算法を適用する場合において,一画地は,原
則として,土地課税台帳等に登録された一筆の宅地によるものとし,
ただし,一筆の宅地又は二筆以上の宅地について,その形状,利用
状況等からみて,これを一体をなしていると認められる部分に区分
し,又はこれらを合わせる必要がある場合においては,その一体を
なしている部分の宅地ごとに一画地とする旨定めている(評価基準
別表第3の2,上記第2の2(2)イ)。
これは,土地の価格が一筆ごとに土地課税台帳に登録されること,
同一所有者に属する筆の分合はその利用状況に関係なく所有者の自
由意思でできること,評価すべき固定資産の全てについて現実の利
用状況により画地の認定をすることは事務的,技術的に困難である
ことなどに鑑み,原則として,土地課税台帳等に登録された一筆の
宅地をもって一画地とすることとし,合わせて,その形状や現実の
利用状況等によっては,上記の原則により画地認定したのでは客観
的な交換価値を合理的に算定することができず,各筆の宅地の評価
額に大きな不均衡を生ずる場合も考えられることから,その例外を
設け,その形状,利用状況等からみて,これを一体をなしていると
認められる部分をもって一画地とすることとしたものと解される。
以上のような評価基準の趣旨に照らすと,評価基準別表第3の2
ただし書の「一筆の宅地又は隣接する二筆以上の宅地について,そ
の形状,利用状況等からみて,これを一体をなしていると認められ
る部分に区分し,又はこれらを合わせる必要がある場合」に該当す
るのは,その土地の形状,利用状況等に照らして,一筆一画地の原
則を適用したのでは,各筆の客観的な交換価値を合理的に算定する
ことができず,その評価額に大きな不均衡を生じるため,その不均
衡を解消する必要がある場合をいうものと解するのが相当である。
そして,土地の客観的な交換価値とは,正常な条件の下において成
立する取引価格を意味することからすれば,上記のような場合に該
当するか否かは,一筆の宅地の一部又は隣接する二筆以上の宅地が
その具体的な形状,利用状況等に照らして通常一体として取引の対
象となるとみることが適切かどうかという観点から,社会通念に照
らして判断すべきである。
以下,上記のような観点から,本件各土地が一画地と認められる
か否かについて検討する。
(2)認定事実
上記第2の3の前提事実,当事者間に争いのない事実,文中記載
の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア本件各土地の形状等
(ア)本件各土地は,もともと1筆の土地(当時の所在・地番は港区
β×番)であったが,昭和41年7月9日,本件土地1(87.
18㎡)と本件土地2(392.84㎡)に分筆された(乙17,
18)。
(イ)本件土地1及び本件土地2の形状及び位置関係は,別紙図面の
とおりである。本件土地1は,幅員18mの南側正面道路と西側
側方道路に接している角地である。本件土地2は,その南側が本
件土地1と接しており,西側が西側側方道路に接している。(甲
5,乙2~4)
イ本件各土地及び本件ビルの利用状況
(ア)本件ビルは,本件土地1と本件土地2が分筆される以前の土地
上に,昭和41年2月に新築されたものであり,本件土地1と本
件土地2の分筆後は,本件土地2上に存在している(甲12~2
5,乙19,弁論の全趣旨)。
(イ)本件土地1の共有者である原告及びA社は,株式会社Bとの間
で,平成23年11月頃,本件土地1を同社に賃貸する旨の契約
を締結した(甲9)。平成24年1月1日時点において,本件土
地1は貸し駐車場として利用されていた。
(ウ)その後,本件1階専有部分の所有者であるA社は,ペット販売
業者である株式会社C(以下「C」という。)との間で,平成2
4年9月1日付けで,本件1階専有部分をCに賃貸する旨の契約
を締結した。
また,原告及びA社は,Cとの間で,同年8月11日付けで,
本件土地1をCに賃貸する旨の契約を締結した。原告及びA社は,
上記の賃貸借契約において,Cが本件土地1をデッキとして利用
することを承諾し,また,その契約期間は,本件1階専有部分に
係る上記賃貸借契約の期間と同一にすることなどを合意した。
(甲6)
(エ)平成25年1月1日時点において,Cは,本件1階専有部分に
おいてペットショップを経営していた。Cは,本件1階専有部分
の南面に主要な出入口を設置するとともに,本件土地1(東側の
一部を除く部分)に,当該出入口と本件土地1との段差を解消す
るため,堅固な素材により,階段,スロープ及びデッキを造成し
て,客が南側正面道路及び西側側方道路の双方から階段等とデッ
キを経由して本件1階専有部分に出入りできるようにした。また,
デッキ上に商品を陳列して店舗の一部として利用したり,ベンチ
を置いて来店者の休憩スペースとして利用していた。他方,本件
土地1の東側の一部は,本件ビルの区分所有者等のゴミ置き場や
自転車置き場として利用されていた。(甲5,11,乙16,弁
論の全趣旨)
(オ)本件ビルのうち,地下2階,地下1階及び地上2階から6階ま
での専有部分への主要な出入口は,本件ビルの西面に設けられて
おり,専ら本件土地2を利用して西側側方道路に出入りする構造
となっている。他方,本件1階専有部分は,上記出入口と通じて
おらず,また,本件1階専有部分から本件ビルの他の部分へ行く
こともできないが,本件1階専有部分の西面又は南面に独自の出
入口を設けることができる構造となっている。(甲5,11,乙
11,12,弁論の全趣旨)
(3)検討
上記認定事実を総合すれば,以下のようにいうことができる。
ア本件各土地の形状について
本件各土地は,もともと1筆の土地であり,南側正面道路(外
苑東通り)に接するものであったところ,昭和41年に本件土地1
と本件土地2に分筆され,本件土地1のみが南側正面道路に接する
こととなったが,本件土地2の面積が約392㎡であるのに対し,
本件土地1の面積は約87㎡となり,本件土地1の形状は,東西に
細長く,南側正面道路側の間口が広く,奥行きの狭いものとなった。
そして,本件土地1付近の土地で南側正面道路に接する標準宅地の
最有効使用は,「事務所ビル敷地」とされているところ(乙4),
本件土地1を単独でそのように使用することはその面積や形状に
照らして困難な状況にある。
他方,本件土地2上に存在する本件ビルは,上記の分筆の直前
に新築されたものであり,新築時の建築確認において,本件ビルの
敷地には,本件土地2のみならずそれに接する本件土地1が含まれ
るものとされていたことがうかがわれることからすると,その当時,
本件土地1及び本件土地2の双方をもって,最有効使用が実現され
ていたものと評価できる。
イ本件各土地の利用状況等について
(ア)本件土地1は,平成24年1月1日時点では,駐車場経営会社
に賃貸され,貸し駐車場として利用されていたが,その後,本件
1階専有部分がペット販売業者であるCに賃貸されたことに伴
い,本件土地1の大部分をCが使用することとなり,平成25年
1月1日時点では,Cが,本件1階専有部分の南面に専用出入口
を設け,本件土地1(東側の一部を除く大部分)に,堅固な素材
により,階段,スロープ及びデッキを造成し,当該デッキを店舗
のエントランス,店舗の一部あるいは来店者の休憩スペースなど
として利用していた。
そして,本件土地1につき,Cは,本件土地1の共有者である
原告及びA社との間で賃貸借契約を締結しており,同契約におい
て,その賃貸期間は,本件1階専有部分の賃貸借契約の期間と同
一の期間とされていることにも照らすと,本件1階専有部分の利
用者が本件土地1の大部分を利用するという上記の利用状況は,
一時的なものではなく,相当期間継続するものであると評価する
ことができる。
(イ)本件土地2には,本件ビルが存在し,本件ビルの主要な出入口
は本件土地2上にあって,本件1階専有部分の利用者以外の利用
者はそれを利用し,本件土地1を経由しないで敷地外との出入り
をするが,本件ビルの南面には,同ビルの連結散水設備送水口及
び同ビル地下1階からの避難口が設置されており(乙16),そ
の利用は,本件土地1を経由して行われることが想定されている。
また,本件1階専有部分についての出入口は,本件土地1を経由
するように設けることもでるきる構造であり,平成25年1月1
日時点では,現に本件土地1に面するように出入口が設けられて
いた(なお,本件ビルの新築当時においても,本件1階専有部分
の南側正面道路の側に出入口があったことがうかがわれる(甲1,
2)。)。
(ウ)本件土地1の共有者は,原告とA社であり,これらの者は,本
件土地2の共有者でもあること,また,原告は,本件土地1及び
本件土地2の双方において,共有持分の過半を有していることに
照らすと,原告とA社が本件土地1を処分する場合,同時に本件
土地2の共有持分についても処分することが想定される。
ウ以上のような本件各土地の形状,利用状況等に照らせば,平成
25年1月1日時点において,本件各土地は,社会通念上,本件ビ
ルの敷地となる土地として,通常一体として取引の対象となるとみ
ることが適切であるから,これらを一画地と認定することが相当で
あるというべきである。
エこれに対して,原告は,①本件ビルの地下1階及び地下2階,
地上2階ないし6階のテナントは,本件土地1を一切利用しておら
ず,本件土地1と本件土地2が一体となり,本件ビルの利用に供さ
れているものではない,②本件ビル1階の区分所有者が利用形態
を変更したことにより,その利用から全く便益を受けていない土地
共有者の分も含めて,本件土地2の固定資産評価額が上がることに
なれば,他の土地共有者との関係で実質的に不平等な課税が生じる
などと主張する。
しかしながら,隣接する二筆以上の宅地について,その形状,
利用状況等からみて一体をなしていると認められるか否は,社会通
念上,当該宅地が通常一体として取引の対象となるとみることが適
切かどうかという観点から決すべきであることは上記(1)で判示し
たとおりであって,単に当該宅地上にある建物への出入りという観
点から決すべきものではなく,また,当該建物の個々の利用者にの
み着目して決すべきものともいえないから,原告の上記①の主張は,
採用することができない。
また,上記(3)アのとおり,本件各土地は,もともと,本件ビル
の敷地として利用されることをもって最有効使用が実現されてい
たと評価することができ,その形状及び利用状況等に照らし,潜在
的には一体性が相当程度認められる状況にあったところ,平成25
年1月1日時点では,本件土地1が本件1階専有部分と一体的に利
用されることとなり,それにより,外観上も一体性が明白となった
と評価することができることからすると,本件各土地を一体として
評価することをもって,本件土地1の共有者以外の本件土地2の共
有者との関係において,不平等な課税が生じるに至ったと評価する
ことは当を得ない。したがって,原告の上記②の主張も,採用する
ことができない。
オ以上のとおりであるから,本件土地1と本件土地2を別個に画
地として認定し,評価したのでは,客観的な交換価値を合理的に算
定することはできず,各土地の評価額に大きな不均衡が生じ得るも
のと考えられるから,本件土地1と本件土地2を一画地と認定し,
評価することは,評価基準に適合するものであるということができ
る。
3争点2(本件各土地につき地方税法349条2項ただし書の場合に
該当するか否か)について
(1)地方税法349条2項ただし書の意義について
上記第2の2(1)のとおり,基準年度の土地の課税標準につき,据
置制度が採用されている(地方税法349条1項ないし3項)のは,
固定資産税は固定資産の有する価値に着目して課税するものである
から,毎年度評価替えをして,これを課税標準とするのが本来妥当
なものと考えられるが,課税事務の簡素化とともに税負担の安定を
図るという要請から,3年間の据置期間であれば,課税標準の価格
を据え置くこととしても合理性を有すると考えられることによるも
のと解される。
そして,地方税法349条2項ただし書及び3項ただし書が「地
目の変換,家屋の改築又は損壊その他これらに類する特別の事情」
(同条2項1号)がある場合において,上記の据置期間中であって
も新たに評価をすることを求めているのは,同号所定の事情があり,
固定資産の利用状況や物理的な状態等に大きな変化があった場合に
は,前年度の価格を据え置いたのでは評価の均衡を図ることができ
なくなることによるものと解される。したがって,土地についてい
えば,同号の「地目の変換(中略)その他これらに類する特別の事
情」とは,用途変更による現況地目の変更又は浸水や土砂の流入等
により,当該土地の区画,形質に著しい変化があり,基準年度の課
税標準を維持したのでは評価の均衡を図ることができない事情を指
すものと解するのが相当である。
(2)検討
前提事実(3)及び上記2(2)の認定事実によれば,①本件土地1
と本件土地2は,平成24年1月1日時点において,それぞれ別個
の画地と評価されていたものであるが,上記2のとおり,平成25
年1月1日時点においては,一画地と認定すべきものと認められ,
その結果,本件土地2は,一画地として,南側正面道路と接するも
のとして評価されることとなり,平成24年1月1日時点と比較し
て本件土地2の価値に大幅な増加を来たすものと考えられること,
②本件土地1は,平成24年1月1日時点においては,貸し駐車
場として利用されていたところ,平成25年1月1日時点において
は,本件ビルの本件1階専有部分の南面に設けられた出入口との高
低差をなくし,同専有部分に入居したペット販売業者の店舗の一部
やエントランス等として利用するため,階段,スロープ及びデッキ
が造成され,相当期間存続する構築物が設けられて,その形質に著
しい変化があったものと認められることからすると,基準年度(平
成24年度)の課税標準を維持したのでは評価の均衡を図ることが
できない事情があるものと認められる。
したがって,本件各土地の平成25年度(第2年度)の価格に関
しては,地方税法349条2項1号所定の「地目の変換(中略)そ
の他これらに類する特別の事情」があるものと認められ,同項ただ
し書により評価をし,価格を算定すべきこととなる。
上記と異なる原告の主張は,採用することはできない。
4本件各裁決の適法性
(1)本件審査申出1に対する裁決について
本件各土地については,平成25年度(第2年度)において,上
記2のとおり,一画地と認定すべきであり,また,上記3のとおり,
地方税法349条2項ただし書により評価を行い,価格を算定すべ
きこととなる。
被告主張に係る本件各土地の平成25年度の登録価格(上記第2
の4)は,上記の画地認定を前提とするものであり,他の算出根拠
にも瑕疵があるとは認められない。
したがって,平成25年度の本件各土地の登録価格は,評価基準
によって決定される価格を上回るものではない。また,上記の登録
価格が当該土地の客観的な交換価値を上回ることを認めるに足りる
的確な証拠はない。そうすると,本件審査申出1を棄却した裁決は
適法である。
(2)本件審査申出2に対する裁決について
本件審査申出2は,本件各土地の平成26年度(第3年度)の登
録価格についての不服の申出であるところ,この価格は,地方税法
411条3項の規定によって土地課税台帳等に登録されたものとみ
なされる土地の価格(平成25年度(第2年度)の価格が据え置か
れたもの)であり,また,上記申出は,本件各土地について同法3
49条2項1号に掲げる事情があるため同条3項ただし書の規定の
適用を受けるべきものであることを申し立てるものでもないから
(甲2),審査の申出をすることはできないものである(同法43
2条1項ただし書)。したがって,本件審査申出2を却下した裁決
は適法である。
5結論
以上によれば,原告の本件各請求は,いずれも理由がないから,こ
れらを棄却することとし,訴訟費用の負担については行政事件訴訟法
7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官谷口豊
裁判官馬場潤
裁判官大西正悟は差し支えのため署名押印することができない。
裁判長裁判官谷口豊

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